ダイヤ「仮面舞踏会」
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ここのところ練習が忙しくなかなか手を付けられずにいた書類が溜まってきたので、今日はある程度片付けてか
ら参加する予定だ。
書類の半分ほどを処理し終え、一息ついていると
鞠莉「ダイヤ、いるかしら」ガチャ
ダイヤ「…鞠莉?突然どうしたの、練習は?」
鞠莉「ねぇダイヤ。今週末ね、」
ダイヤ「今週末がどうしたのです?今忙しいので大した用でなければ後にしてもらえると助かるのだけれど…」
鞠莉「……。そう、そっか…。うん、わかった。邪魔してごめんね、出直すわ。じゃあ、また。」ニコッ
ダイヤ「ごめんなさい。」 一体なんの用事だったのだろう。出直すと言ったということは大した用ではなかったのだろう。
でも去り際の鞠莉の表情がどうも気になった。
あのどこか淋しそうな笑顔。私はそれをよく知っている。
鞠莉は何か言いたいこと、思っていることを押し殺して誤魔化そうとしているときによくああやって笑う。
何を隠しているのか気になったが、またあとで聞けばいいだろうと作業に戻った。
どうせ大した用でもないのだろうとこのときの私は思っていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
仕事を終えると下校時刻を知らせる鐘の音が響いた。
結局練習には参加できなかった。
校門を出るとちょうど鞠莉の後ろ姿を見かけたので先ほどの話を聞いてみることにした。 ダイヤ「鞠莉。」
鞠莉「あらダイヤ、お疲れ様。仕事は片付いた?」
ダイヤ「ええ、おかげさまで。ごめんなさい、忙しくて話を聞けず…。何の用だったのかしら。」
鞠莉「あぁ、もういいのその話は。忘れて。」ニコッ
あぁ、まただ。またその笑顔。
ダイヤ「いえ、そういう訳には…!!」
鞠莉「本当にいいの。気を使わせてごめんね?」ニコッ
ダイヤ「…嘘。本当は…大事な用だったのよね?」
何も答えない。そのまましばらく無言のまま歩き続けた。
鞠莉「今週末ね、私誕生日なの。」
ダイヤ「…えっ?」ピタッ
私の家が近くなってきた頃、鞠莉はこちらに視線を向けることなくそう言った。
私は思わず足を止めてしまった。
鞠莉「お祝いしてくれるかなって。でも自分で言い出すのはなんか違うと思って、もういいかなって。」
ダイヤ「…鞠莉」
鞠莉「その日ね、船でパーティーなの。いろんな企業の社長やその子供たちが集まって。黒澤家にも声がかかってるはずだから、ダイヤももし嫌じゃなければ来て。」
ダイヤ「…ごめんなさい、そんな大事なことだったのに後にしてくれと…。本当に……。」
鞠莉「ううん、いいの。気にしないで。仕事中なのにいきなり押しかけちゃった私が悪いの。」
ダイヤ「いえ、そんなことは…!!」
鞠莉「じゃあ、またね。」ニコッ
ダイヤ「…ッ!!」
何故そんな大切なことを忘れていたのだろうか。
私が…。私のせいで鞠莉に、大切な人にあんな顔をさせてしまった。
そんな自分の不甲斐なさが情けなくて、申し訳なくて、どうしようもなく腹が立って。
結局その日は眠れなかった。 翌朝、朝食をとりながら父に言われた。
「どうした、酷い顔じゃないか。」
ダイヤ「ええ、眠れなくて。」
「そうか。寝不足は体にも頭にもよくないぞ。ところで今週末なんだが、小原のお嬢様の誕生パーティーに招待されている。ダイヤも来なさい。次期当主として。なによりお友達だろう。」
ダイヤ「はい、もちろんです。昨日本人から直接聞かされましたわ。」
ルビィ「鞠莉ちゃんのお誕生会するんだ!!どこでやるの?」
ダイヤ「船上で行うらしいわ。」
ルビィ「えーっ!!お船の上でパーティーするの!?すごい!!ルビィも行きたい!!!!」
ダイヤ「きっとあなたが想像しているようなパーティーとは違うわ。上流階級の方々が集まって媚びを売って、あわよくば我が子と政略結婚させて、企業を乗っ取ろうとする。そういう汚いところなのよ。本心で彼女の誕生日を祝おうとしている人なんて誰も
「ダイヤ、言葉を選びなさい。」
ダイヤ「…申し訳ありません。でもルビィ、実際鞠莉さんも挨拶回り等で忙しくてゆっくり話す時間もないでしょうから学校に行ったときにでもまた別でお祝いしてあげて。そちらの方が彼女もきっと喜ぶわ。」
ルビィ「うん、わかった!」
その後、登校しながら何故鞠莉はわざわざ私のところにそんな話をしに来たのか考えていた。
パーティーの招待の件があるからかとも思ったが、自分の家のことやそういった社交場が好きではない鞠莉がわざわざ自分から話しに来ることはないだろう。ましてや小原家から正式に招待を出しているのだからその線はないものと考えていいだろう。 その答えは結局パーティー当日になっても見つからなかった。
船着き場へ着くと、大きな客船が停泊していた。きっとこの船でパーティーが執り行われるのだろう
鞠莉の気持ちに気が付けなかった私は一体どんな顔をして参加すればいいのかわからないまま、船へと続くスロープを重い足取りで進んだ。
出港後、開始時刻まで時間があったのでデッキから景色を眺めていると電話が鳴った。
画面を見てみるとそれは果南からのものだった。
ダイヤ「…はい。」
果南「やっほ〜ダイヤ。今どこにいるの?羨ましいなぁ、船の上でのパーティー。私も行きたかったよ〜。」
ダイヤ「少し前に港を出たところですわ。あいにくだけれど、きっとあなたが来ても楽しいようなところではないわ。」
果南「あら、どうしたのさダイヤ。ちょっとご機嫌ななめかなん?」
ダイヤ「……この間私が練習に参加できなかったとき、鞠莉が生徒会室に来たの。」
果南「そこでなんかあったわけだ」
ダイヤ「…今日のことを、誕生日のことを話しに来たのだけれど…。用件を聞く前に言ってしまったの。」
果南「なんて?」
ダイヤ「今忙しいから大した用じゃなければ後にしてくれと…。そうしたら何か隠したいときにするあの淋しそうな笑顔で、わかった、と。邪魔をしてごめんと、そう言って出て行ってしまった。
帰り際に鞠莉を見つけて話の続きをしようとしたのだけれど、またあの笑顔で何でもない、忘れろと。
無理やり聞き出すまで私は鞠莉の誕生日のことを完全に忘れていたの…。私が不甲斐ないばっかりに彼女にあんな顔をさせてしまった…。」
果南「…ダイヤ。」
ダイヤ「そもそも何故鞠莉はわざわざ私にそんなことを言いに来たのか、なぜ言いかけたことをそんなに隠すのか…。何故あんな顔をしたのか…。それがわからないの。そんな私は一体どんな顔をしてこのパーティーに参加すればいいかわからず海を見ていたの」
果南「…そっか。なるほど。それはね、ダイヤ。それは鞠莉からのメッセージなんじゃないかな。きっとダイヤなら気づいてくれると。でもダイヤが誕生日を忘れていたからあきらめちゃったんだと思う。」
ダイヤ「メッセージ…。鞠莉は私に何を気付いてほしかったというの?何故私に…?」
果南「私がいうのは簡単だけど、それはダイヤが自分で気付かなきゃ。私が教えると意味がなくなっちゃう。」
ダイヤ「…でも、気付けと言われても…。」
果南「ダイヤにも心当たりあるはずだよ。ダイヤにしかわからない、鞠莉と似た境遇のダイヤにしかわからないことが。」
ダイヤ「境遇が似ている…私にしか…」
果南「ちょっとおしゃべりが過ぎたね。ま、私たちの分まで甘え下手で淋しがり屋のわがままお嬢様のお祝いしてあげてよ。それじゃあねっ!」
ここまで言われても尚わからない自分自身に腹が立ってしょうがない。
なぜこうも鈍いのか。果南や、それこそ鞠莉のように他人の気持ちにもっと敏感であったらどれほど…。
「ダイヤ、そろそろ時間だ。来なさい。」
ダイヤ「…はい、わかりました、お父様。」 そうこうしているうちにいつの間にか開始時刻。
ラウンジへ到着すると、派手さを残しつつも落ち着いた紫色のドレスに身を包んだ鞠莉が登壇し、挨拶をしているところだった。
その口ぶりや態度は普段のものとはかけ離れていて、まさしく良家の令嬢と呼ぶに相応しいものであった。
そのあまりの美しさに魅入られてしまい、挨拶の内容はほとんど入ってこなかった。
私が我に返った頃、既に挨拶は終わりパーティーが始まっていた。
父に連れられ他の参加者に挨拶をしていると、
鞠莉「黒澤のおじさま、本日はいらしていただきありがとうございます。」
「小原の御嬢さん、お誕生日おめでとうございます。わざわざお越しいただかなくてもこちらから………」
私たちのところにも挨拶にやってきた鞠莉。父と互いの近況報告などをしているところを横目に見ていると、
鞠莉「ダイヤ、ありがとね、来てくれて。嬉しいわ。じゃあ行かなきゃいけないところがまだあるから、また。」ニコツ
ダイヤ「え、えぇ…。」
まるで私とは口を利きたくないと言わんばかりに鞠莉は足早にその場を去って行ってしまった。
おめでとう。ただその一言を告げることすらできぬまま。またあの顔をさせてしまった。その事実が私に重くのしかかる。
パーティーは徐々に盛り上がりを見せる中、鞠莉の姿がどこにも見当たらなかった。まだ言えていないおめでとうを伝えに行くために、先ほどのあの表情の理由を確かめるために鞠莉を探しに向かった。 人気のないデッキへ向かうと鞠莉は一人でそこにいた。近づくと微かに漂う煙くさい独特のにおい。
鞠莉「あらダイヤ。こんなところでどうしたの?パーティーはお気に召さなかったかしら。」
ダイヤ「……何してるんですの?未成年ですわよ。」
鞠莉「…こうでもしないとやってられないのよ。今日の主役に免じて見逃してくれないかしら」
ダイヤ「はぁ…。一本くださる?」
鞠莉「いいけど…珍しいわね、ダイヤがそんなこと言うなんて」
ダイヤ「…こうでもしないとやっていられないもので。」
鞠莉「ふふっ、なにそれ。私の真似?」
ダイヤ「いえ、私の本心だわ。」 鞠莉「はい、火。」
ダイヤ「ありがとうございます。…ゴホッゲホッ‼」
鞠莉「ぷっ、あははははっ!!笑える。涙出そう」
盛大にむせてしまった。なにもそこまで笑わなくてもいいだろうに。
ダイヤ「…よくまぁこんなもの吸えるわね」
鞠莉「んー、まぁ慣れよ、慣れ。」
ダイヤ「…慣れたいとも思わないけれど。」
鞠莉「ダイヤにはまだちょ〜っと早かったみたいね。ふふっ」 ダイヤ「ところで鞠莉…」
『おやおやこれはこれは、小原のお嬢様と黒澤のお嬢様お揃いで。こんなところでどうされたんですか?』
鞠莉「どうも。少し疲れてしまったので外の空気を吸いに。」
『そうですか。小原のお嬢様でもお疲れになるのですね!』ガッハッハッハッ!
鞠莉「…えぇ。私も人の子ですので。」
ずいぶんと棘のある言い方だ。こういう人間が好きではないのだろう。私も幼い頃から父に連れられてきたので気持ちがわかる。鞠莉はこういう空気から逃げたかったのだろう。
『そういえば小原のお嬢様は婚約相手はいらっしゃるのですか?もしいらっしゃらないようでしたら私の愚息などはいかがでしょうか。そろそろいい歳になるんですがね、お恥ずかしながら未だに独り身でして。もし小原のお嬢様とうちの愚息が結婚されるようなことがあれば企業の規模はさらに大きくなって安泰でしょうな!』ガッハッハッ 無性に腹が立った。私たちのことを自分の権力のための道具としか思っていないような、下心丸出しの口ぶり。
何か嫌味の一つでも言ってやろうかと思ったが、そんなことをしては黒澤家はもちろん招待していただいた小原家にまで泥を塗ることになってしまう。堪えなければ。
鞠莉「え、えぇ…。そうですわね。考えさせていただきます…」ニコッ
……ッ‼
『黒澤のお嬢様ももしよろしければ是非ご検討いただけませんか』
ガシッ
鞠莉「…え?」
ダイヤ「生憎ですが、私共既に相手が決まっております故。失礼します。」ギロッ
グイッ 鞠莉「ちょ、ちょっとダイヤ…!!待って、どこ行くの!?」
…やってしまった。自分のことなら我慢できたはずなのに、鞠莉の、彼女のあの顔を見てしまったら…。一瞬で頭に血が上り、いつの間にか彼女の腕を引きあんなことを口走ってしまっていた。
ダイヤ「…ここなら誰も来ないでしょう。…すみません、いきなりあんなことを…」
誰もいない客室に鞠莉を連れて逃げ込んだ。
鞠莉「いいのよ。あんな連中ばっかりで嫌気がしていたの。スッキリさせてもらったわ!」
ダイヤ「…でも」 鞠莉「今日は私の誕生パーティーだっていうのに本心で私を祝いに来た人なんて誰もいやしない。みんなパパやうちに媚びを売りにすり寄ってきて、あわよくば自分の息子と私を結婚させて甘い蜜を啜ろうという連中ばかり。私のことなんてまるで道具のようにしか見ていない。奴らにとって私は “小原グループ社長の娘”。“小原鞠莉”という一人の人間として見てくれる人なんて誰もいない。」
ダイヤ「鞠莉…。」
鞠莉「昔からずっとそうだったわ。パパもママも忙しくてロクに祝ってもくれない、パーティーを開けばあの有様。気付けばいつのまにか誕生日が嫌いになってたわ。」ニコッ
……!!そうか、そういうことだったのか。確かに心当たりはあった、いや、あったどころの話ではない。
まさしく私が感じていたことそのものではないか。この前ルビィに話した通り。
何故こんな簡単なことに気が付かなかったのか。果南の言う通り同じ境遇で育った私にしかわからないこの気持ち。一人の人間としてではなく、どこまで行っても黒澤の娘として扱われる淋しさ。自分が何のために生まれてきたのか、なんのためにどう生きるのか。自分の存在意義そのものを否定されているような怒り。 きっとあれは鞠莉からのSOSのようなものだったのだろう。私ならそれを理解して、一人の人間としての小原鞠莉の誕生を祝ってくれるだろうと。こともあろうに私はそれを突っぱねてしまったのだ。この甘え下手で淋しがり屋のお嬢様の精一杯のSOSを…。
胸が痛い。
ギュッ
鞠莉「…え?」
気が付けば私は鞠莉を抱きしめていた。 ダイヤ「…鞠莉、お誕生日おめでとう。ごめんなさい、気が付いてあげられなくて。貴女が感じていること、私も痛いほど知っていたはずなのに…。淋しかったのよね。辛くて、悲しくて、腹が立ってしょうがなかったのでしょう。誰も自分を一人の人間として見てくれない。まるで道具のように。自分の存在意義を否定されているようで…。」
鞠莉「ちょ、ちょっと何よ急に!…やめてよ、泣きそうになるじゃない…。」
私とは正反対の鞠莉の美しく柔らかい金色の髪をそっと撫でながら続ける。 ダイヤ「大丈夫、大丈夫よ。淋しくないわ、私はちゃんと貴女を見ている。小原鞠莉というたった一人の貴女のことを。
鞠莉、生まれてきてくれてありがとう。私と出会ってくれてありがとう。貴女は私の光、憧れなの。見た目も性格も、名前までまるで正反対。でも似たような境遇に生まれ、深いところでは実はとても似ている。甘え下手でそのくせとっても淋しがり。口を開けばついいがみ合ってしまうけれど、気が付いたら私の中でとても大きな存在になっていたの。貴女がいない日常なんて想像もしたくないくらい。貴女がいてくれたから今の私があるの。貴女と一緒ならどこまででも行ける、どんなに小さな幸せでも貴女とならこの上なく大きく感じられる。
ねぇ鞠莉、私と共に歩いては頂けませんか…?」 お嬢様が口を開いた。色々な液体で顔中をぐちゃぐちゃにしながら、言葉も碌に聞き取れないほど泣きじゃくりながら。
鞠莉「うぅ…ぐすっ…で、でも、ひっぐ…でも私、めんどくさいし、きっとダイヤに迷惑かけちゃうよ…?素直じゃないし…嫌な思い…させちゃったり、ぐすっ…うざいって思っ、わせちゃう…かも、しれないよ…?いいの…?こんな…私、なんかで…」
ダイヤ「こんななんて言わないで。私は貴女がいいの。いえ、貴女じゃなきゃ嫌なの。」
鞠莉「だ、ダイヤぁ…」
相も変わらず泣きじゃくりながらお嬢様は痛いくらいにしがみついてくる。 ダイヤ「泣かないで。私は貴女の太陽のように眩しい笑顔が好きなの。気持ちを押し殺した淋しそうな作り笑顔ではなく、一点の曇りもない心からの。貴女のそんな笑顔が好き。…だから、泣かないで。貴女に泪は似合わないわ。顔を上げて?私のお姫様…」
チュッ
鞠莉「……!?!?!?」
初めてのキスは煙草の味がした。
完 読んでくれた方、ありがとうございました!!
鞠莉ちゃんお誕生日おめでとう!!!
ダイまりの一見正反対なのに実は似ているお嬢様コンビすきです ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています