あなぽむかすせつゆうで書いてて辛くなりそうなの書く
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代行
イチャイチャ書くのに疲れたのでバランスとります
あなぽむかす、ゆうぽむせつ、あなかす、ゆうせつから組み合わせの選択
>>4
お題や展開の選択、書いてて心えぐられそうなのでお願いします
>>8 何年も一緒に生活してたら手話主体になってそうだしね ご飯を食べた後、ついに切り出された
やっぱり言いづらいことがあったので間違いなかったみたい
あなた『ごめん、前に言ってたせつ菜ちゃんとの仕事、駄目になっちゃった』
先輩から打ち明けられる
なんだ、そんなこと
私はむしろ安心した
かすみ『そうですか、残念です』
かすみ『でも、次また頑張れば大丈夫ですよ!』
先輩を安心させられるように精一杯の笑顔で伝える
でも、先輩の表情は晴れなかった
むしろ、これからもっと言いづらいことがあるかのように、曇る
いつもより鈍重な動作で先輩は伝えた
あなた『それで、実は、もう音楽の仕事をやめようと思う』
かすみ「…………えっ?」
かすみ『どうしてですか?』
案件が駄目になったのはわかる
でも、どうしてそれが音楽自体をやめることになるのか
かすみ『もしかして、せつ菜先輩の事務所に何か言われたんですか?』
先輩は首を振る
かすみ『じゃあ、どうして──』 あなた『私の仕事、安定もしないし、最近どんどん仕事もなくなってきたでしょ』
あなた『そろそろ別の方向に舵を切らないといけないかなって』』
あなた『もっと、ちゃんと安定したところ、障害者採用の枠で正社員にしてくれるところ探そうと思う』
あなた『私、他に何にもスキルはないけど、正社員を狙うなら20代と30代じゃ、最初に求められる経験も全然違うっていうし──』
先輩から告げられるのは現実的な話
確かに、先輩のいうことはわかる
だけど、私は今の生活が崩れるのが嫌だった
それに何より、先輩が音楽を作らなくなるってことが
かすみ『生活のことなら大丈夫ですよ。今までだってやってこれてたじゃないですか』
あなた『でも、生活できてるだけだよね』
あなた『お店をやるときにお父さんやお母さんたちに借りたお金も全然返せてないし』
確かに、そうだ
というか、今自分で言っておいて、それで大丈夫だとは全く思えていなかった
パン屋さんの方も最近客足が減って売り上げは落ちてる
今回の先輩のお仕事、大きな案件だったから正直かなり当てにしていた
それが無かったのもかなり苦しい
そもそも、お金を管理してるのは先輩だ、私以上に現状は理解できているんだろう
かすみ「でも…………」 あなた『かすみちゃんは、私に今の仕事続けてほしいの?』
かすみ『はい』
あなた『それは、どうして?』
どうして?
どういう意味の質問だろう
そんなの、当たり前すぎて、一瞬なにを聞かれたのかわからなかった
かすみ『先輩の作った曲が好きだからです』
先輩は驚いた顔をする
口が開いたまま、数秒
え、おかしなこと言った?
あなた『本気で言ってる?』
かすみ『もちろんです!』
何を疑われているんだろう
そんなのずっと伝えてきたことなのに
あなた『そんなの、昔作った曲の時のことでしょ。耳が聞こえてた時の』
かすみ『違いますよ、かすみんは先輩の作った曲が好きなんです。今も昔も変わりません』
間髪入れず答える あなた『辞めてよ。そんなこと言うの』
先輩は力なく、そう私に伝える
かすみ『先輩、曲作るの、辛いんですか?』
もし、そうなら、あの時の約束通り、私が──
あなた『そういうわけじゃ、ないけど』
あなた『でも、もう無理なんだよ。続けても先がないから』
かすみ『そんなこと、ないですよ』
かすみ『先輩の曲は素敵ですよ!かすみんが保証しますもん!』
先輩が音楽を好きでいられるように、私が頑張らなくちゃ──
かすみ『お金のことなら、かすみんがもっと頑張りますから』
でも、私が頑張るって伝えると先輩は一層悲しそうな顔をした
あなた『だから、辞めて。』
あなた『頑張らなくていいよ』
あなた『かすみちゃんにこれ以上負担かけたくない』
あなた『それに、自分の曲が良くないっていうのは、自分が一番わかってるんだよ』
私を頑張らせたくないから、辞める?
なら、私はなんて言えばいいんだろう
あなた『それとも、やっぱり』
あなた「曲作りをしてない私は嫌い?」
先輩はずるい
泣きそうな顔でそんなこと言われたら、できることはもう一つしかない
私はただ、首を横に振るしかなかった 寝室
今日は先輩と背中合わせで眠る
昨日、あんなに幸せな気持ちで眠りについたのが嘘のようだ
幸せな眠り、どころか今日は眠れないかもしれない
ベッドに入ってから過ぎたのが、10分なのか1時間なのかもわからない
目を開けて時間を確認すると余計に眠れなくなりそうだから
ただ、目を閉じて時間が過ぎるのを待つ
あなた「かすみちゃん、起きてる?」
後ろから声が聞こえた
振り向く勇気はない
あなた「今日は、ごめんね」
あなた「でも、私、これからも二人でいるために必要なことだと思ってる」
あなた「さっきちゃんと言えたらよかったんだけど…………」
あなた「学生の間は本当に楽しいまま音楽を続けられたし」
あなた「今も嫌いにならないでいられるのはかすみちゃんのおかげ」
あなた「だから、ありがとね」
…………一方的に言いたいことだけ、言って先輩はずるい 翌日、先輩は髪を真っ黒に染め直してきた
履歴書を買って証明写真も撮ってきたみたい
久しぶりに袖を通したスーツはなんだか服に着られてるみたいだった
色々なものが変わってしまったみたいであまり見ていたくなかった 先輩は嫌がっていたけど
私から頼んで、せつ菜先輩に送った曲を聞かせてもらった
夜、ベッドで聴いているとなんだか涙が出てきた
昨日と打って変わって、先輩に私の泣き声が聞こえてなくてよかったと思った あれから順調に(?)
あっさりと先輩は就職先が見つかった
介護センターの事務のようなものらしい
データ入力や、スタッフの管理が主な仕事らしい
家ではずっとPCで仕事していたし、昔HPの作り方なんかも勉強していたから先輩のPCスキルは高い方だと思う
コミュニケーションスキルも高いからスタッフさんとのやり取りも向いてるだろう
でも、介護も結構手伝わされてるとか
この人元気はあるけど体力はないからなあ
少し心配だ 趣味で曲作りを続けたりはしてくれるのかなと思ってたけど
新しい環境に慣れるので精いっぱいみたいでそんな時間は取れないようだった
そもそも、今の先輩を見るにもうやらないのかもしれない
むしろ、一番の問題は私と生活リズムが合わないこと
最初のうちは朝ごはんと夜ごはんだけでも必ず一緒に食べていたけど
だんだんと一日一回、一緒の時間が取れればいい方になってきた
ねえ、先輩、一緒にいるために必要なことじゃなかったんですか?
今日は一人で、先輩が作った曲を聞きながら眠った かすみのパン屋さん 店内
かすみ「歩夢先輩、いらっしゃいませ」
歩夢「おはよう、かすみちゃん」
かすみ「はい♪」
歩夢「今日はどれにしようかなぁ」
かすみ「期間限定のシーザーサラダコッペパンがおすすめですよ」
歩夢「じゃあ、それと、ミートボールコッペパンにしようかな」
かすみ「はい、かしこまりましたー」
歩夢「じゃあ、私からはこれ」
かすみ「なんてお花ですか?」
歩夢「ミヤコワスレっていうんだよ」
かすみ「コワレヤスキみたいな名前ですね」
歩夢「そうかなぁ……あ、確かに一字違いだね」
歩夢「お花はこのままだと一週間くらいだけど、庭植えすればもうちょっと持って、毎年咲いてくれるようになるよ」
かすみ「うーん、ベランダにまだ植えられるかな」
歩夢「もうそろそろいっぱいかな」
かすみ「そうですね、ちょっとそろそろ飾るところないかもです」
歩夢「そっかぁ、ごめんね、考えなしに持ってきちゃって」
かすみ「いえいえ、たくさんのお花を綺麗に飾れて大助かりしてますよ」
かすみ「お花は、確かにしばらくは持ってきていただかなくて大丈夫ですけど」
かすみ「だからといって来なくならないでくださいね、歩夢先輩」 歩夢「歩夢先輩…………」
かすみ「どうかしました?」
歩夢「かすみちゃん、私たち、そろそろ付き合いも長いよね」
かすみ「10年くらいですかね」
歩夢「だよね、先輩っていうの、そろそろつけなくてもいいんじゃないかな」
かすみ「歩夢ちゃん、みたいな感じですか?」
歩夢「そうそう! そんな感じ」
歩夢「それか、あゆ子でもいいよ!」
かすみ「もう、さすがにもうそんな呼び方しませんって」
かすみ「…………でも、このまま歩夢先輩でいいですか?」
歩夢「え、うん、無理に変えてとは言わないけど……どうして?」
かすみ「みんなの呼び方を変えたら、先輩のも変えないと不自然じゃないですか」
かすみ「先輩のことは、名前じゃなく先輩って呼びたいんです」
かすみ「私が先輩を呼んで、記憶の中で声色とかが思い出せる呼び方はこれだけだから」
歩夢「そっか……」
歩夢「あの子のこと、本当に大切に想ってくれてるんだね」
でも、想ってるだけじゃ何にもならないこともあるんですよね
歩夢「かすみちゃん、どうかした?」
かすみ「あ……なんでもないですよ」 閉店後
かすみ「先輩、今日は夕方からだっけ」
家に帰っても先輩がいない。
最近ではいつものことだけど、やっぱり前の方がよかった
今からでもお仕事変えられないんだろうか
なんて、考えてしまう
先輩に対して不誠実だとわかってはいるんだけど、つい
頑張ってる先輩を心から応援してあげられないなんて、私、先輩のパートナー失格なのかな
かすみ「チラシ結構溜まっちゃってる」
先輩がずっと家にいたときはそういうこともなかったんだけど
要るものと要らないもので仕分けしていると、ふと目に留まるものがあった
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パートーナーと上手くいかない貴女に
かすみ「…………」 もう日付け変わりますね
予定通り土曜日に終わらせるのは無理でした
明日の午前中に終わらせるのを目標にします かすみちゃんは最近、休日出かけるようになった
何でも、『先生』という人から話を聞いたり
一緒に参加している人たちと悩みを打ち明けあったり
ボランティアに行ったりしているらしい
かすみちゃんにとって楽しい場所やストレス発散ができる場所ならそれはいいと思うんだけど
宗教なの?って聞いたら凄く怒られた
でも詳しく話を聞いても、調べてみてもそういう団体としか思えなかった
当人たちには認めたくない線引きがあるらしい
まあ、私も『耳が聞こえない人』『障害者』でくくられたりするのは気分よくないからわからないでもないけど
何はともあれ、世界が広がっていくのは好ましいはずだ
ほとんど家とお店、数人の友人たちとだけで完結していた以前と比べて
私は勤務先の人との関わりができたし、かすみちゃんも別の楽しみを見つけている 休みの日に、ふと部屋の片づけをしようと思って、迷った
私の部屋の大部分は、作曲用の器材で占領されている
ここ数か月、起動すらしていない器材たち
これは、もう片付けてしまった方がいいんじゃないだろうか?
これらが片付けば一部屋空いて別の使い方ができる
もう作曲は仕事ではないし
耳が聞こえなくなってからは趣味でもない
作曲を楽しいと思うことができたのは、喜んでくれる人たちがいるからだった
同好会のみんなや、私の曲を好きだと言ってくれた人たち、そしてかすみちゃん
かすみちゃんは私が作った曲ならどんなものでも喜んでくれた
でも、私はイマイチだと思った曲ですらあまりに褒めたたえてくれるものだから
私の頭の中の音と、かすみちゃんに聞こえている音は違うんじゃないかと疑問を持つようになった きっとかすみちゃんは私が作ったものであれば、なんでもよくて曲の中身なんか関係ないんだ
それは、自分を無条件に肯定してくれる人がいるという意味では喜ばしいけど
でも、曲を作る側としては…………
今ではかすみちゃんに曲を聞かせるのに少し抵抗がある
音楽に対してはそれくらいの断絶をかすみちゃんに対して感じている
この器材を見るたびに、少し後ろめたい気持ちになる自分もいる
なら、手放してしまった方がいいんじゃないだろうか
きっとかすみちゃんは悲しむだろう
でも、かすみちゃんに相談してからじゃ絶対に出来ない
このもやもやを、かすみちゃんに対して抱え続けるのは嫌だった かすみ『先輩、音楽用の器材どこにやったんですか!?』
私の部屋を覗いてきたのか、部屋が丸々広くなってることに気づいたかすみちゃんが慌てて私の前に駆け寄ってくる
あなた『最近使ってなかったから、休日に実家に置いてきちゃった』
務めてなんでもないことのように言う
かすみ『もう、作曲は完全にやらないんですか?』
かすみちゃんは責めるような表情ではなくただ悲しそう
なのに責められているように感じるのは私の後ろめたさが原因だろう
あなた『それは、わかんないな。今は使わないから運んだだけだし』
嘘だ
たぶん、今後はやらない
でも、そう伝えればひとまず納得してくれるろうと思って、そう伝える
かすみ「…………」
かすみ『そうですか』
あとは、かすみちゃんが忘れたころに徐々に処分していくことになるだろう かすみちゃんとの中は少し冷え込んだ
別に仲が悪くなったわけじゃないけど、ただ一緒にいるだけで感じられた多幸感はなくなってしまった気がする
顔を合わせるとなんて声をかけようか気を使ってしまう
当初、危惧していた通りになってしまった
最初はやりがいを感じていた仕事も、今では何のために働いているのかわからなくなってきた
どうして安定した仕事を求めたんだっけ
………そうだ、音楽の仕事辞めたかったんだ
別に嫌いになったわけじゃない
かすみちゃんにも歩夢ちゃんにもそう言ってきた
だけど、そんなわけないじゃないか
自分で聞くこともできなくて
最近の曲の流行だってわからない
難聴の作曲家の知り合いなんていないし。誰にも相談できない
そんな暗闇の中、正しい方向に進んでるのかもわからずにたった一人で続けていくのなんて無理だったんだ でも、かすみちゃんが私にしてくれたことを無駄にはしたくない
音楽とかすみちゃんと私と、ごちゃごちゃに混ざり合った感情を解きほぐして
かすみちゃんを好きなまま、音楽からは離れたかった
だからお金のこととか未来のこととか
それらしい理屈を並べて、音楽を遠ざけたんだ 寝室
かすみ『先輩は天国があったら、行ってみたいと思いますか?』
寝る前に、かすみちゃんから質問をされた
どういう質問だろう
かすみ『今日、誰かが言ってたんですよ』
かすみ『それで何人かで天国について話をすることになって』
そんな話題が出ることに、団体への不信感を覚えて、少し心配になる
あなた『その天国ってどういうところ』
かすみ『それは、神様がいて、好きなものが好きなだけあって』
かすみ『病気とか怪我もなくて、ずっと幸せに暮らせるんです』
あなた『かすみちゃんは行きたいんだね』
かすみ『ずっと幸せでいられるんですよ。当然じゃないですか』 ……幸せになりたいから行きたいんだ
さっきまで感じてた団体への不信感が
かすみちゃんをそんな気持ちにさせる自分への失望に変わっていく
以前のかすみちゃんは、毎日のように『幸せ』と伝えてくれた
その頃だったら、行きたいとは思わなかったんじゃないかと思う
かすみ『先輩も、またちゃんと音が聞こえるようになりますよ』
かすみ『そしたらまた一緒に歌ったり踊ったりできます』
それは、すっごく魅力的だけど
あなた『私は、いいかな』
かすみ「えっ」
あなた『ごめんね』
だって、かすみちゃんに嘘をついて
かすみちゃんをこんなに傷つけてる私は、きっと天国には行けないから 翌日
今日はパン屋さんの営業日だ
私は家で一人
かすみちゃんとの昨日の会話を思い出す
正直、ショックだった
かすみちゃんにあんな思いをさせてたなんて
──『そしたらまた一緒に歌ったり踊ったりできます』
別に今だってできないわけじゃない
やろうと思えば、拙くてもすることはできる
私がずっと遠ざけているから、もう敵わない夢として諦めてしまったんだろう
私が、諦めさせてしまった
かすみちゃんにあんな思いをさせてまで、今の仕事を続ける必要はあるのか?
そこまで音楽が嫌いなのか? いやそうじゃない
別に仕事を辞めなくても、音楽を仕事にしなくても
歌ったり踊ったり、曲を作ることさえできる
例えば、かすみちゃんの誕生日か付き合った記念日の特別な日に、新しい曲を作ってプレゼントするとか
それくらいなら無理なくできる気がする
仕事じゃないんなら、評価や周りの流行、需要なんか気にする必要もない
ただかすみちゃんが喜んでくれるものを作ればいい
その場面を想像してみる
誕生日に、私が作った下手くそな曲を再生してかすみちゃんに送る
最近はあまり見れなかったかすみちゃんの笑顔が、自然と思い浮かんだ
かすみちゃんなら、きっと、絶対に喜んでくれる
凄く良いアイデアに思えた
今度の休日に、また実家から器材は持ってこよう
お父さんには何度も車を出させて申し訳ないけど、これできっとかすみちゃんは安心してくれる
きっと── ふと固定回線の留守番電話のランプがついているのに気づいた
ほぼ、私がFAXでやりとりするとき専用となっているうちの固定回線は、電話番号を知っている人が少ない
誰からだろう
着信履歴を見ても登録されていない電話番号だった
ひとまず、電話番号をスマホで検索してみる
迷惑電話やセールスの類なら、全く情報が出てこないことがほとんどだ
逆に大事な連絡ならどこからかかってきているのか、たいていの場合はわかる
──うちの地区の警察から?
警察官の方々は私たちのために働いてくれているんだから、こんな気分になるのはよくないとわかっているんだけど
胸がざわざわして、凄く嫌な予感がした
FAXで要件を聞かないといけない
専用のダイヤルを調べようとしたら、上部に新しい通知
かすみちゃんのご両親からだった これは夢だ
夢に違いない
だって、周りの景色がぐにゃぐにゃと蠢いて、遠近感がないように感じる
聞こえないはずの耳で、何かよくわからない耳障りな音がしてる
こんな不確かでおかしななものは夢に違いない
私は夢の中で、バスの運転手に手帳と乗車券を見せて半額を支払った
ほら、バスを降りてコンクリートの地面に足がついても、身体がふわふわと浮いているような現実感のなさがある
だけど私は走った
こんなにも、一心不乱に走ったことは生涯一度もなかったってくらい、全力で
────病院に向かって たどり着いた病院は見覚えがある
10年前、私が入院していたところだ
でも今日は入院患者の部屋や中庭、屋上に行くわけじゃない
受付の人に、文字入力をしたスマートフォンを見せて、用件を伝える
待たされることなくすぐに担当のスタッフが現れて案内された 途中から、私を案内する人は看護師から警察官に変わった
案内されるまま付いていく
付いていった先では見覚えのある男女がいた
かすみちゃんのお父さんとお母さんだ
かすみちゃんのお母さんが泣いている
かすみちゃんのお父さんはそんな奥さんを抱きしめているけど、自身も泣いているようだった なんで
突如として現実感が押し寄せてくる
警察官の人は手元のメモ帳に文字を書いて私に見せた
『事故の影響で、頭部に損傷があります
それでも、確認されますか?』
あなた「はい」 中で機械が動いている様子はない
もう治療は済んだあとのようだ
中央のおそらく女性と思われる人物には、顔の前の白い布がかけられている
肩口から見えるその人の着ている服は、今朝かすみちゃんが着ていた服と同じだった
警察官は私に何か注意を促してから、その白い布を取った
…………頭部の損傷というのは、思っていたよりも酷くなかった
顔がわからなければいいと思っていたけど
既に縫合されていて、大きな傷の縫い目があること以外は私の知っているかすみちゃんだった
別人である理由を探そうと、その人を注視するけど、否定できる要素が見つけられない
見ていると、その人が大きくなったり小さくなったり、離れたり近づいたりし始めた
平衡感覚がなくなって倒れこんだ
吐きそうになって、口を両掌で抑える
でも、かすみちゃんの顔を可愛い見て吐くなんて、そんなことできない
なんて変なことを真剣に思って、吐き気を必死にこらえた 何分かしたあとに、警察官に手を貸してなんとか立ち上がることができた
事故の状況を簡単に筆記してくれた
かすみちゃんが青になった信号を渡っていると、信号を無視した暴走トラックが突っ込んできたらしい
なに、それ
信号無視?
そんなことで、かすみちゃんが?
ぐちゃぐちゃになった私の感情が、トラックの運転手に対して向かう
けど、その後、警察官が続けた 『事故の時、中須かすみさんは音楽を聴いていて、トラックの接近に気づけなかったようです』
あなた「…………え?」
そのあとの説明は、文字を追ってもまったく頭に入ってこなかった
なんとなく話が終わったのを感じ取って返事をする
あなた「わかりました」
私はフラフラとした足取りで、部屋から出ようとする
出て何かしようと思ったわけじゃない
とりあえず、部屋の外の廊下の椅子に向かって進む
出入口の横の台に、かすみちゃんの持ち物がまとめられているのが目についた
バックは血の跡で黒くなっていて、スマホは画面が割れているが、その他は以外にも綺麗な状態だった
私は誰の許可も得ずにかすみちゃんのスマホを手に取る 起動した
かすみちゃんのロックナンバーは知っている
ロックを解除するとミュージックアプリが開いているところだった
1曲リピート再生になっている
曲の仮タイトル、再生時間、どちらを見ても、私が ”せつ菜ちゃんの事務所に送って不採用になった曲”のものだった
かすみちゃんは私が作った曲を聞いていて、トラックに気づかなかったんだ あなた「───うぅ、ぐぅ、がぁ、うぁ、おぉ…………うぅ」
声にもならない音が溢れる
涙がとめどなく流れてくる
私は膝から崩れ落ちた
かすみちゃんのスマートフォンを胸にぎゅっと抱く
身体を支えられなくなって額が地面についた
ただ、かすみちゃんのスマートフォンを力の限り抱きしめる以外できなくて、床にうずくまったまま嗚咽する
自分が今どんな感情なのかなにもわからない
ただ、胸の苦しさだけが確かだった もうすぐ終わりますが、ちょっとの間取り掛かれなくなるので数時間空きます かすみちゃんがいなくなっても、世の中は腹立たしいくらいいつも通りに回っていく
私もその世の中の歯車の一つで、今まで通りに介護センターの事務職で働いている
一度やめて、パン屋さんの方に専念したけれど、結局は私では続けることができずにすぐ廃業した
そんな私の事情を汲んで、また以前と同じ待遇で務めさせてもらっている
かすみちゃんが居なくなって、小さなパン屋さんがつぶれた以外、世の中は何も変わらない
ただ、私の中で小さな変化が起きた
また、曲を作っている
かすみちゃんが亡くなって以来、私の頭はおかしくなってしまったみたいで
頭の中でずっと音が鳴り響いている
空いた時間は全部、それを曲にする作業をしている
曲作りの最中、ふと気づいた
これはかすみちゃんからの宿題なんだと
かすみちゃんは、私の曲を好きでいてくれた
お世辞でもなんでもなく、最後までずっと繰り返し聞いてくれていたほどに
だから、私は次にかすみちゃんに会うまでに彼女を喜ばせられるように少しでも多くの曲を作らなければいけない
頭の中の音を、全部曲に出来たら、きっと私はかすみちゃんのいる天国に行く資格ができるのだ
だから、その日を夢見て、私は今日も曲を作り続ける 終わりです。読んでくれた方々ありがとうございました 当初はあなぽむかすのお題に沿って
あなたに歩夢が付きそう形で一緒に自殺するENDにするつもりでしたけどしっくり来ませんでした 乙乙
極限まで救いようがないと思いきや多少はマシと感じたけどやっぱつれぇわ
次は書いてて幸せになりそうなのオナシャス こういう系統で歩夢が悲惨な目にあうのは多いけどかすみとは珍しい 完結乙
辛いけどあなたちゃんに生きる目的ができただけマシなのだろうか…
でもやっぱ死ネタはつれェわ…
次は幸せになれるネタで書いてくれよな! ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています