侑「再会」菜々「そして・・・」
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侑「ふわああああっ」
侑「もう朝か・・・」
侑「はぁっ、会社行く準備しようかなっと・・・」 毎日暮らしていく為している仕事だが、何年も同じ事をしていると張り合いも無くなってくる。
とりあえず起きて会社に行き、定時になったら帰ってくるだけの生活。
私はこの数年これの繰り返しだ・・・。 ―――
侑「お疲れ様でした〜!」
朝の9時半に始業し定時は17時。体が覚えた事務仕事を繰り返し、時間になれば帰宅する生活。
これが今の私。 侑「唐揚げ弁当1つ下さい!」
おばちゃん「あいよー!いつもありがとね!」
近所の行きつけの弁当店。
自炊するのが面倒な時はここで1番安価な唐揚げ弁当を買って食べる。
健康には良くないと思ってはいるけれど、どうしてもやめられない・・・。 侑「はぁ、何か面白いことないかなぁ・・・」
私は虹ヶ咲学園の音楽科を卒業している。
当初は普通科に入学したが、私がマネージャーをしていたスクールアイドル同好会の仲間達の活動に刺激を受け、ピアノをやりたいと思い立ち、音楽科に転科したのだ。
普通に考えれば無謀な挑戦。でも私はそれをやり遂げて胸を張って卒業したのだ。 できればまた音楽をやりたい・・・。
そう思ってはいるものの、何も出来ない自分がいる。 ―――
休みの日、1人暮らししているアパートにいるのも退屈になり、あてもなく出かけてみる。
おや?あんなところにストリートピアノなんかあっただろうか?
たまに利用する隣町の駅にそれはあった。
無意識に体がストリートピアノの方を向く。 "ご自由にご利用ください" そう書かれている・・・。
昔よく使っていた言葉。ときめき。
ときめきがよみがえる・・・。
気付いたら吸い込まれるようにピアノに座り、指が勝手に弾き慣れた曲を奏で始める・・・。 そう、この曲はスクールアイドル同好会の仲間であった優木せつ菜の持ち歌。
そして、私がスクールアイドルに憧れて同好会のドアを叩いたきっかけの曲でもある。
ふぅ、忘れていないものだな・・・。
曲を弾き終え、立ち上がろうとしたその時、 「もしかして、侑さんですか?」
後方から声を掛けられる。
侑「んん?」
後ろを向くとそこには優木せつ菜、いや、かつて優木せつ菜を名乗っていた中川菜々がそこにいた。 菜々「お久しぶりですね!」
侑「菜々ちゃん!?何年振りかな!」
菜々「卒業後に一度同窓会をした時以来なので5年振りでしょうか」 侑「そんなに経ったっけ?」
菜々「経ちますよ!」
侑「ちょっとお茶でもしない?時間大丈夫?」
菜々「ええ、構いませんよ!」 以前と変わらないが、どこか大人びた雰囲気を纏った菜々ちゃんは笑顔で誘いに応じてくれた。
―― ―――
侑「今何しているの?」
菜々「大学卒業後に就職した商社に勤めています」
菜々「侑さんは?」
侑「私も同じ、大学出てから就職した会社で事務職してるよ」 菜々「同じようなものですね」
侑「うん、そうだね」
菜々「侑さんは相変わらずお元気そうで」
侑「まあね、それだけが取り柄みたいなものだし」 菜々「音楽も続けていられるようで嬉しいです」
侑「いや、たまたまピアノがあったから弾いただけでさ、もう何年もまともに取り組んでないかも・・・」
菜々「その割には昔と変わらずお上手に感じましたが」 侑「弾き慣れた曲だからね」
菜々「ふふっ、そう言って頂けると歌っていた私も嬉しいです」
菜々「私は高校卒業と同時に優木せつ菜は辞めましたから・・・」
菜々「当時の曲を弾いて頂けるだけでも私が存在していた価値があったようで感激します」 侑「そう言われると弾いてみた私も嬉しくなっちゃうな」
菜々「なんか昔を思い出しますね」
―― ―――
お互いの近況と懐かしい話に花が咲き、気が付いたら数時間も経過してしまった・・・。
菜々「ではそろそろ私は用事があるので失礼しますね」
菜々「侑さんにお会い出来て嬉しかったです・・・」
侑「こちらこそありがとう」
笑顔と共に返事を返す。 侑「あ、そうだ、携帯番号やLINEアカウントは変わってないよね?」
菜々「はい、以前のままですよ?」
侑「それなら良かった、近いうち連絡するからまた会わない?」
菜々「はい、よろんで」
菜々ちゃんは笑顔で返事を返してくれた。 侑「じゃあまた今度ね」
菜々「はい!」
満面の笑みを浮かべた彼女と別れを告げる。
ほんの数時間ではあったが、昔の輝いていた頃に戻れたような気がして、ときめきが蘇ったような気持ちになれた。 ―――
あれから数日が経ったある日曜日。
私のスマホが突然鳴る。着信は菜々ちゃんからだ。
侑「もしもし、菜々ちゃん?」 菜々「実は、用事でたまたま近くまで来たのですが、侑さんの家のお近くかと思い電話してみました」
先日ばったり再会した時に、現在住んでいる場所の情報も交換していたので、たまたま近くまで来た菜々ちゃんはわざわざ訪ねて来てくれたようだ。
侑「そうなの?今どこにいる?」 菜々「えーと、国道の十字路・・・。銀行とコンビニがあるところと言えば通じるでしょうか?」
侑「あーなるほど!多分大丈夫。今迎えにいくよ」
菜々「ありがとうございます」
私の家の近くを走る国道沿いで、銀行とコンビニがあるところと言えば一ヶ所しかない。
待たせてはいけないと思い、少し早歩きで菜々ちゃんが待つであろう場所へ向かう。 侑「あ、菜々ちゃん!」
予想していた通り場所で待っていた菜々に少し遠くから大きな声で呼びかける。
私の声に気付いた菜々ちゃんは私の方を向き笑顔で手を振ってくれている。
菜々「侑さん!わざわざありがとうございます!」
侑「いやいや、こちらこそ来てくれて嬉しいよ」 菜々「突然伺ったのでご迷惑でありませんでしたか?」
侑「いや!全く問題ないよ」
菜々「それなら良かったです」
侑「じゃあ私の家に行こうか」
侑「綺麗じゃないけど勘弁してね」 菜々「侑さん、ご実家での自室もお綺麗にされてたじゃないですか」
侑「いやいや、あれは親もいたからであってね・・・あはは・・・」
高校在学中、菜々ちゃんは何度も私の部屋に遊びに来ている。その時の状況から今の私の部屋も綺麗なのだろうと思ってくれたようだが、正直実態は女としては情け無い有り様だ。 先日のように話に花を咲かせながら歩いて私の部屋を目指す・・・。
侑「ここが私のアパートだよ」
菜々「ここが侑さんの現在のお住まいですか!」
侑「大したアパートじゃないけど入ってよ」
そういいながら、2階にある私の部屋目掛けて階段を登る。 侑「どうぞ〜、汚いけど我慢してね」
ドアノブを捻りドアを開け、菜々ちゃんを招き入れる。
菜々「お邪魔しますね」
苦笑いの私に相変わらず笑顔の菜々ちゃんが返事を返す。
侑「どう?恥ずかしい有り様でしょ・・・」
菜々「いえいえ!私の部屋も似たようなものですから!」 本当の事なのか気を使って言ったのか分からないが、ありきたりな返事を返す菜々ちゃん。
こういう言葉の選び方は高校の頃から変わらないようで安心する。
侑「何か飲む?」
菜々「はい、ありがとうございます」
侑「コーヒーしかないけど」
菜々「ありがたく頂戴します」 一杯分ずつ個別包装された袋を開け、顆粒をカップに流し込みお湯を注ぐ。カラカラっとマドラーでコーヒーをかき混ぜて菜々ちゃんの前のテーブルへコーヒーを置く。
侑「粗茶ですが!」
菜々「いえいえ!」
コーヒーを介した下らないやりとりだが、あの日々と変わらない何気ない会話が自然と出たことが少し嬉しい。
おそらく菜々ちゃんもそう感じているのではないだろうか。 ―――
小1時間会話に夢中になっただろうか。菜々ちゃんが私の部屋の角でシートを被ったままになっている電子ピアノに気付く。
菜々「先日はピアノはあまり触ってないような事をおっしゃっていましたが、ちゃんとまだ残っているのですね」
侑「恥ずかしながら、しばらく電源も入れてないけどね」
菜々「あるなら弾かれたらいいのに・・・」
菜々ちゃんはふと立ち上がり、電子ピアノの方へ向かう。 侑「ほこり被ってるかもよ」
菜々「ピアノに取り組む侑さんは本当に素敵でしたよ?」
そういいながら、少しほこりを被ったピアノのシートを外す。
侑「今となってはね・・・」 菜々ちゃんのいう素敵とはかけ離れた今の自分が恥ずかしくなる。
正直、私は優木せつ菜に憧れていた。スクールアイドルを大好きになったきっかけの存在だからというのも勿論ではあるが、それ以上に1人の女性として憧れの気持ちを抱くようになっていたのだ。
その気持ちは打ち明けることも出来ず卒業し、再会した先日はもちろん、そして今この瞬間も胸に秘めたままである。
侑「素敵だなんて言われると、今の状況を当時のせつ菜ちゃんに見られたら幻滅されそうだね・・・」 菜々「そんな事は絶対にありませんよ・・・」
侑「今だからこそ言えるんじゃない?」
菜々「いえ、私は自然体でいつも居られる侑さんをお慕いしていましたから・・・」
侑「えっ?」
想定もしていなかった言葉を聞き、私は言葉を失う・・・。
侑「それはどういう意味・・・?」 数十秒の沈黙の後、言葉の意味を知りたくなった私はこういう返答をする。
菜々「そのままの意味ですよ」
侑「当時の私はまだ菜々ちゃんに慕われるに値する人間だったかもしれない・・・。でも今の私は・・・」
前向いて話せない私は下を向きながらこう答えるしかなかった。 菜々「いえ、先日お会いした時も、今この時も侑さんは私の知っている侑さんですよ」
何を根拠に言っているのかは正直分からない・・・。でも、そんな事を言われたら、当時思っていた気持ちを打ち明けない訳にいかない・・・。
侑「実はね、私・・・。せつ菜ちゃん、いや、菜々ちゃんに憧れていたんだよ?」
菜々「え?」 菜々ちゃんも困惑の中に少し期待を含ませた表情をしながこう答える。
菜々「以前話されていた、スクールアイドルを好きになるきっかけだったということですよね」
侑「うん、確かにそうだけど、同好会の活動などで共に過ごして行くうちに、当初の憧れとも違う意味の憧れに変わって行ったんだ」
侑「多分、菜々ちゃんがいう、慕うという言葉と同じ意味だと思う・・・」 菜々「そ、それって・・・」
菜々ちゃんはすこし小刻みに肩を振るわせながら、うっすらと目に涙を浮かべている。
侑「私、菜々ちゃんの事が好きだったんだ・・・」
菜々ちゃんの目に浮かべた涙の粒が大きくなりこぼれていく・・・。
菜々「嬉しい・・・です」 菜々ちゃんは少し声を振るわせながらそう返答する。
侑「でも、菜々ちゃんは今の私も当時の私も変わらないと言ってくれたけど私には自信が無いんだ・・・」
侑「本当ならばはち切れそうなくらい嬉しいはずなのに・・・」
菜々「そういう弱音をしっかり吐き出せるところも侑さんの強さです」 そうだった・・・。高校の時もこのようにいつもお互い本音で話しあっていたっけ・・・。
菜々「私も今の自分に自信がありません・・・」
菜々「お互いまた、励まし合いたいですね・・・」
侑「そうだね、これからは・・・」
吸い込まれるように自然と唇を交わす。突然訪れた再会は退屈でマンネリとした日常を打ち壊してくれた。
これから私達2人は新たなときめきを求めていくのだろう・・・。
――終―― 珍しく長編書くじゃねぇか…と思ったらやっぱりここからってとこで終わるじゃねぇか… >>45
前は庭で書いてた人だから長いのも定期的に書いてたでしょ。一度荒れたから変えてるんじゃないの ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています