曜「私に元気をくれる人」
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3月も中旬になって、冬は終わりに差し掛かっていたけど、太陽が沈み始めるこの時間帯は、やっぱり少し肌寒い。
鞠莉ちゃんと二人で歩く、夕暮れの街並み。私たちは賑やかに行われたAqoursのホワイトデーパーティから帰るところだった。
先月のバレンタインと同じく、メンバーでお菓子や飲み物を持ち寄ってのスイーツパーティ。
私と鞠莉ちゃんは、一緒にティラミスを作って持って行ったんだ。
ティラミス作りはお互い初挑戦だったけど、二人で頑張った甲斐あって、思った以上に美味しくできた。実際、みんなにも大好評だった。 鞠莉「みんなに喜んでもらえて良かったわ。海の家のときにも思ったけど、料理を美味しく食べてもらうって、嬉しいのね」
明るい表情でそう話す鞠莉ちゃんは本当に嬉しそうで、この笑顔を見れただけでも、一緒にお菓子作りができて良かったって、心から思える。
ティラミスを一緒に作ることになったきっかけは、鞠莉ちゃんからのお誘いだった。
鞠莉『ホワイトデーにはティラミスを作ろうかなって思ってるんだけど、よければ一緒に作らない?曜に作り方を教えてもらいながら、一緒に作れたらなって』
私もティラミスを候補にと考えていたから少し驚いたけど、鞠莉ちゃんと一緒のことをする良い機会だと思い、喜んで引き受けた。 生クリームや卵を泡立てたり、冷蔵庫に入れて冷え固まるのを待ち遠しく思ったり、甘い匂いに反して全然甘くないココアパウダーにびっくりしたり。ふふっ、すごく楽しかったな。
鞠莉「バレンタインもだけど、スイーツで笑顔になれる日があるって素敵よね」
曜「そうだね、美味しくて楽しいって大事だよ!」
鞠莉「幸せいっぱいの、思い出深い一日になったわ。ところで、曜はティラミスってどういう意味か知ってる?」 曜「えっ、ティラミスの意味?」
思わずおうむ返しで答えてしまう。なんだろう。言われてみれば、考えたこともなかったよ。
曜「イタリアのスイーツだから、きっとイタリア語だよね」
鞠莉「そうね。さあ、答えは?」
曜「うーん…わからない、見当もつかないや」 「お手上げー」ってリアクションすると、鞠莉ちゃんはくすっと軽く笑った。
鞠莉「それじゃあ、正解を発表するわ」
お願いします、鞠莉ちゃん先生。
鞠莉「ティラミスはTira、mi、suの3つに分けられるの。それぞれ、Tiraは『引っぱる』、miは『私を』、suは『上に』を意味していて、つなげて訳すと「私を上に引っぱって」とか、転じて「私を元気付けて」というような意味になるの」 曜「私を、元気付けて…」
口の中で小さく復唱する。今教えてもらった言葉の意味が、頭の中で響き始めていた。同時に、胸の奥からなにか確信めいた気持ちが湧き上がってくる。
鞠莉「音の響きも可愛いけれど、そう考えるとなかなか素敵な名前でしょ?」
夕暮れの鞠莉ちゃんの笑顔が、記憶の中の光景と重なる。
私を上にひっぱって。私を元気付けて。
そっか、そうだったんだ。 鞠莉「あら、急に立ち止まってどうかしたの?」
いつの間にか私は足を止めていた。私は小さく息を吸い込み、鞠莉ちゃんの方に向き直る。
曜「あのね。誘ってくれたとき、私もちょうどティラミスを作る予定だった、って話したでしょ」
鞠莉「ええ、そう聞いたわ」
曜「本当はね、鞠莉ちゃんへのプレゼントのつもりだったんだ」 鞠莉「まあ…そうだったの?」
曜「うん。コーヒーを使ったイタリアのスイーツだから、鞠莉ちゃんに気に入って貰えるかもって思ってて」
鞠莉「そっか。私のために、色々と考えてくれていたのね」
曜「ティラミスの意味までは、今の今まで知らなかったんだけどね。でも、本当に、ぴったりだったのかもって」 鞠莉ちゃんとの最初の思い出が頭をよぎる。夕暮れのびゅうおで、鞠莉ちゃんが私を元気付けてくれた日のことを。
鞠莉『ぶっちゃけトーク!する場ですよ、ここは』
一人で思い悩んでいた私に気付いて、優しく背中を押してくれたあの日のことを。今でも大事に覚えてるよ。
鞠莉ちゃんがいてくれたから、私はAqoursで笑い合うことができた。鞠莉ちゃんはいつだって、その明るい笑顔でみんなを、私を支えてくれていたんだ。
だから、私は。
曜「鞠莉ちゃん」 内緒にしていたけど、ずっと慎重に考えていたことがある。それを実行に移すのは、今しかない。
曜「実はね、鞠莉ちゃんに渡したいものがあるんだ。これ、なんだけど…」
私はおずおずと、リボンがついた小さな紙袋を取り出した。 鞠莉「それって…」
曜「お礼って言うか、私の気持ちって言うか。ホワイトデーだけじゃなくて、鞠莉ちゃんが私にしてくれた、色んなことに対しての…えっと、ええっと…」
ああ、もう、肝心なときにうまく言葉が出てこない。心に決めたのに。このときのために、何度もイメージしてきたはずなのに。 鞠莉「曜…」
曜「鞠莉ちゃんには、本当に、本当に感謝してるんだ。だから…受け取ってほしい」
一番伝えたかった気持ちを、やっと言葉で表した後、両手でそっと紙袋を差し出した。
鞠莉ちゃんの顔を見るのが恥ずかしくて、紙袋を持つ自分の手ばかりを見てしまう。
少しの間、沈黙が流れた。
曜「…っ」 鞠莉「気持ちは嬉しいわ。でも、それはちょっとアンバランスなんじゃない?」
曜「…!」
返ってきた言葉に私は凍りついた。もしかして迷惑だったのかな…堪らず視線を上げると。
曜「えっ…」 いつ取り出したのだろう。鞠莉ちゃんが青いラッピングの小さな箱を手に持っているのが見えた。
鞠莉「曜にばかり抜け駆けはさせません、ってことよ」
抜け駆けって、どういうこと…?目が合うと、鞠莉ちゃんは「考えることって同じね」って軽く笑った。 鞠莉「私もね、曜にはとっても感謝してるの。曜と一緒にいられたことに。いつも笑顔と元気をくれたことに」
思ってもみない言葉だった。
曜「そんなことないよ、私、鞠莉ちゃんになにもしてない…」
鞠莉「ラブライブ決勝戦でのこと、忘れたとは言わせませんよ?」
曜「あ…」
私はラブライブ決勝戦での出来事を頭に思い浮かべた。Aqoursが優勝を勝ち取ったとき、私と鞠莉ちゃんは少しだけ二人で話をした。 優勝が決まって、感慨にひたっていた鞠莉ちゃんのほっぺたを、私がうりゃっとつまんで。
曜『ぶっちゃけトーク、する場だよ!えへへっ!』
鞠莉「あのとき、曜が私の手を引いてくれた。一番大事なことを思い出させてくれたから、私は心からの笑顔であの場に立つことができたって、思ってるの」
あの短い時間でのやりとりを、鞠莉ちゃんがそんな風に思ってくれていたなんて。
鞠莉「これはそのお礼。だから、受け取って?」 曜「鞠莉ちゃん…うん!」
私たちは少し照れ笑いをしながら、ピンクの紙袋を手渡し、青い小箱を受け取った。
鞠莉「やっぱり私たちって、似たもの同士なのかもね」
そうなのかな。そうだったら嬉しいな。
鞠莉「ありがとう。曜」
曜「こちらこそ、ありがとう、鞠莉ちゃん!」 鞠莉「ふふっ。さ、行きましょう」
鞠莉ちゃんが私の手を取って、そっと繋いでくれた。
曜「うんっ!」
その手をそっと包み込むように、私の方から指を絡めた。
鞠莉「あら」
曜「えへへっ」 ちょっと恥ずかしいけど、今日は、今日なら。
鞠莉ちゃんは軽く微笑んで、手を握り返してくれた。
鞠莉「あったかいね」
曜「うん、とっても」
二人で並んで歩く帰り道、ときおりお互いの視線が交わる。
繋いだ手が温かくて、胸の奥からぽかぽかする。 はにかむ鞠莉ちゃんの頬が、ほんのりと赤くなっていた。
それはきっと、夕焼けだけのせいじゃないと思うし、多分、鞠莉ちゃんからは私も同じように見えているんだろうな。
3月ももうなかば。冬は終わりに近づいている。
新しい季節の訪れはさよならの前触れでもあり、私たちが一緒にいられる時間は残り僅か。
でもね。ううん、だからこそ、いつかまたこうやって、鞠莉ちゃんのそばで微笑んでいれたらなって思うんだ。
終わり 全弾撃ち尽くしました。ホワイトデーようまりでした。昨年のようまり仲良しマッチがモチーフでした。
↓は先日書いたバレンタインようまりです。内容的につながりはありませんが、よろしければ併せてお願いします。
鞠莉「ハンバーグチョコレートって美味しいのかな」
https://fate.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1613308134/
↓は前に書いたものです。よろしければ併せてお願いします。 冬の乾燥対策ようまりです。
鞠莉「リップケアのお裾分け」
https://fate.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1614474819/
ありがとうございました。 ('A`)
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