【SS】かすみ「一緒に帰るの久しぶりだね」しずく「うん…」
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しずく「同好会の方はイベントの出席依頼とかは来てるの?」
かすみ「再来月にエマ先輩と彼方先輩とりな子でライブやるよ〜!」
スクールアイドルフェスティバルが終わってからと言うものの、私たちはいろいろなイベントに招待されている。
かすみ「それまでにかすみんの可愛さがランクアップすればいいんだけどなぁ〜」
しずく「かすみさんは今のままでも十分可愛いと思うよ?」
かすみ「そーやってからうのはなしだよしず子!」
私は本気で思ってるんだけどな…。
かすみ「そういうしず子だって可愛いよ?『演劇部のお月様』だしね!」
しずく「やめてよかすみさん…お月様だなんて…いきなり言われると恥ずかしいな…」
合同演劇祭が終わってから私のことを「お月様」なんて呼ぶ人が増え始めた。
かすみ「えへへ〜、さっきのお返しだよ!」
そう言って彼女は弾けるように笑う。
こういった時間が私が今一番欲しいものなのかもしれない。 かすみ「そう言えばさ、来月に花火大会あるんだけどさ…」
かすみ「演劇部とか同好会の活動がなかったら一緒に観に行かない?」
しずく「学園の近くで毎年開かれてる花火大会?」
かすみ「うん。久々に一緒にいっぱい遊びたいなーって思って」
かすみ「…いい?」
確かにここ最近は演劇部と同好会の活動でかすみさんと一緒に過ごす時間が極端に減っている。
下校の時さえ一緒に帰ることができない。
私に一番欲しいものをかすみさんから提案してくれる。すごく嬉しい。
しずく「もちろんだよかすみさん。私もかすみさんと行きたいな」
かすみ「ほんとに?!演劇部の練習とかはないの?」
しずく「もしあっても休みを入れるから大丈夫だよ」 かすみ「かすみんのためにそこまで無理しなくてもいいんだよ?」
かすみさんは少しだけ心配そうな顔をする。
自分のことよりも私を大切にしてくれる。…そういうところなんだからね、かすみさん。
しずく「本当に大丈夫だってば。私もかすみさんと行きたいって言ったでしょ?」
かすみ「…わかった!じゃあかすみんに似合う浴衣着てくから楽しみにしててね!」
そういう笑顔を待ってたよ。
しずく「私は浴衣持ってないか…」
ピロンッ
突然電話が鳴る。部長からだ。 部長「もしもししずく?今少しだけ話せる?」
しずく「はい、大丈夫です。どうかされたんですか?」
部長「急に演劇の出席依頼が入っちゃって」
部長「来月のことなんだけどさ…えーっと、花火大会の日かな?発表会をやることになったんだけど」
しずく「…………え?」
部長「しずくに主役を頼みたいんだけど…できる?」
しずく「えぇと…」
先にかすみさんとの約束をしたのだからそちらを優先したい。
だけど発表会となると話は変わってくる。
しずく「…明後日までに決めておきます」
部長「予定が入ってたりしてるの?」
しずく「えぇ、一応…」
部長「そっか…最終的な判断はしずくに任せるよ!」
ツーツー かすみ「しず子…大丈夫?顔真っ青だよ?」
かすみ「もしかして…演劇部の予定入っちゃったの?」
しずく「……うん」
かすみ「じゃあ今年はやめとこっか」
かすみ「来年もあるしその時また行こ?」
そう言って乾いたような笑みを見せる。
しずく「それだけはだめ!」
かすみ「うわぁ!いきなりおっきい声出さないでよしず子!」
しずく「あ、ごめんなさい」
しずく「ええと、だめっていうか…」
しずく「…私はかすみさんも演劇もどっちも同じくらい大事って思ってるから」
しずく「少しだけ1人で考えてもいい?」
かすみ「ほんとに発表会を優先していいんだからね?」
そんな不安そうな顔でそんなこと言われると胸が苦しい。
かすみ「じゃあまた今度!」
しずく「あ、かすみさん…」
かすみさんの背中が遠のいていく。
しずく「本当にどうしよう…」 翌日 放課後
結局昨日のうちに決めることはできなかった。
今日は演劇と同好会、どちらも休みだけれど…
今日は1人で頭を冷やしてみようかな。明日には部長に連絡もしないと。
レンボーブリッジ橋上
………
夕日に照らされ、オレンジ色に染まるレインボーブリッジを渡る。
湾からやってくる風が私の頬を撫でる。すごく気持ちいい。
だけど…一人ぼっちで歩くのはやっぱり寂しい。
本当にどうしよう。私にとってはどっちも大切なもの…。
今まで演劇が私の心を満たす唯一のものだったのに、同好会…特にかすみさんの存在が演劇と同じくらい大きなものになっていた。
ほんとあの人ってずるい。
「あれ?しずくちゃん?おーい!」
聴き慣れた声がする。優しい声だ。 しずく「エマさんと果林さん?なんでここにいるんですか?」
エマ「私と果林ちゃんは散歩してるんだ〜」
果林「今日は同好会もなかったしたまにはのんびりね?」
果林「しずくこそなんでここにいるのよ?」
しずく「…私は…色々あって落ち着きたくてここにきました」
果林「確かにここって風がよく通って気持ちいいわね。悩み事があったら忘れられそうだわ」
エマ「夏なのに涼しいね!ちょっとクセになりそうだよ〜」
少しの静寂の後、エマさんが口を開く。
エマ「…ねぇ、しずくちゃん、何か悩みがあったら言ってね?」
エマさんは本当に優しい。エマさんの前では本音を言いたくなってしまう。
しずく「え…でも…」
これは私個人の問題だ。できれば自分で道を開きたいと思う。
果林「心の中にモヤモヤしてるものがあるでしょ?自分の中に気持ちを押し込めるのは一番良くないわ。どんな形であれ、相談っていうのは意外と大事なモノなのよ?」 しずく「果林さんは本当にすごいですね。初めから全部わかってる感じというか…」
果林「いろんな人と関わってると顔の表情だけで結構わかってくるモノなのよ」
確かにこの2人なら相談してもいいのかもしれない。
しずく「…じゃあ…お言葉に甘えて質問します」
しずく「どちらも同じくらい大事なものが2つあります。…でもその1つしか取ることができません」
しずく「エマさん、果林さん、2人ならどうしますか?」
エマ「うーん、難しいね……」
エマ「私なら心がポカポカする方かな?」
しずく「心が?」
エマ「うん!故郷で動物たちと一緒に遊ぶのも心がポカポカしたけど、スクールアイドルを知った時は心の底からポカポカが湧いんだよね!」
エマ「侑ちゃんが言うなら『トキメキ』って感じかな〜?」
演劇の発表会とかすみさんとの花火大会…どちらの方が心がポカポカしたりトキメキが生まれるのだろう。
そう考えると花火大会の方なのかも知れないけれど…演劇の方もトキメキがないわけではない。 果林「私は…正直どちらを選んでも変わらないと思うわ」
果林「大事なのは…その選択肢を選んで後悔しないことなんじゃないかしら」
しずく「後悔しない…」
果林「そう、後悔はしちゃダメよ?1つしか選べないのなら尚更よ」
果林「それともう一つ」
果林「3年になったからこそ実感できるけれど、『青い春』は長いようで意外と短いということを覚えていた方がいいわよ?」
しずく「…っ!///」
果林さんは悪戯っぽく笑う。
果林「ふふっ…。やっぱりそういう感じなのね?顔に気持ちが出ているわよ?」
しずく「うぅ…それもあるんですけど…」 エマ「果林ちゃん、『青い春』ってどういう意味?」
果林「言葉にするのは難しいわね…。あえて言うならこの『一瞬、一秒』かしらね…。まぁ、他にも意味はあるんだけどね?」
そう言うと果林さんは私に向かってウインクをする。
エマ「『一瞬、一秒』…なるほど!確かにそう言う意味なら青い春は長いようで短いね!私もこの学園に留学してから結構経つけど本当にあっという間だよ〜」
果林「ともかく、あとは自分の心次第よ?頑張ってね。エマ、行きましょ?」
エマ「うん!じゃあまた今度ね、しずくちゃん!」
しずく「お二人とも本当にありがとうございますっ!」 再び橋には私だけの世界になる。
しずく「………」
トキメキ、ポカポカする方…青い春…。
もう心の中は決まった。
早速かすみさんに連絡しないと。
…もしかしたら、今から会えるかな。
しずく「もしもしかすみさん?」
かすみ「どうしたの?」
しずく「今から会える?」
かすみ「…うん。どこにいるの?」
かすみ「かすみんはおっきいロボットのところにいるけど…」
しずく「わかった!すぐ行くね!」 かすみ「うん…かすみんはいいけど、いいけどさぁ…」
かすみさんは俯いて顔を隠してるけど…
しずく「かすみさん、笑顔隠せてないよ?」
かすみ「うぅ〜!!だってすっごく嬉しかったんだもん!」
かすみ「しず子がずっと大事にしてた演劇よりもかすみんを選んでくれるなんてあり得ないと思ってたしぃ!」
かすみ「…なんか恥ずかしいから帰る!」
しずく「かすみさん?!」
…行ってしまった。
しずく「『演劇よりもかすみんを選んでくれる』…。ふふっ…」
自然と笑みが溢れてしまう。
もしかしたら演劇よりも…なんてね。 ピロンッ
スマホの通知がなる。かすみさんからだ。
かすみとのメッセージ
かすみ(花火大会の日どこに集合する〜?)
さっきまですごい恥ずかしそうな顔してたのに…きっと笑顔で文章打っているんだろうな。
私も自然と笑みが溢れる。
かすみ(ちょっと〜しず子〜?既読無視はひどくない??)
しずく(ごめんごめん、というか花火大会まで2週間くらいあるよね?いくらなんでも決めるのは早くない?)
かすみ(決まったからにはそういうのは早く決めたいなーって思って!)
かすみ(家に帰ってきたら電話しながら決めよ?)
かすみ(帰ってきたらすぐ連絡してね!今日はお話ししたいこといっぱいあるよ!)
…本当にこの人は私の心を掴むのが上手い。 しずくの家
夕食や家族との団欒を済ませ、私の部屋に向かう。
かすみさんと電話でお話しするの、何日ぶりだろう…。
いろんなお話ができるといいな。
ピロンッとスマホの着信音が鳴る。
…久しぶりの電話だからか、すごく緊張する…。
お風呂に入ったばかりなのかもしれないけれど、体がすごく熱い。
かすみ「もしもーし!しず子〜?聞こえる〜?」
しずく「ちゃんと聞こえてるよ、かすみさん」
かすみ「こうやって電話でやりとりするの久しぶりだよね!2週間ぶりとか?」
しずく「そうだね、家に帰っても疲れてすぐ寝ちゃうから…」
かすみ「それすっごくわかる〜!他の学校のスクールアイドルの動画いっぱい見たいのにそれどころじゃないよぉ〜…」 かすみ「ねーねー、それよりもさ〜今日の小テストまた居残りでさぁ〜」
しずく「ちゃんと復習しなきゃダメだよ?あと授業もちゃんと聞くこと!」
かすみ「だって最近忙し過ぎて授業中くらいしかゆっくりできる時間がないんだもん〜」
しずく「授業中がゆっくりできる時間なんて初めて聞いたよ…」
かすみ「しず子が先生やってよ〜!しずく先生だったら授業もちゃんと聴きます!」
しずく「かすみさんってば…」
幸せが詰まった時間。気づけば1時間ほど会話をしていた。
声だけじゃなくて顔も見ながら会話したいな。
そんな私の願い叶えるかのようにかすみさんはある提案をする。
かすみ「…あのさ」
しずく「どうしたの?」
かすみ「せっかくだからビデオ通話しない?」
しずく「…っ!」
しずく「…うん、いいよ」 少しの静寂の後、かすみさんの笑顔が画面いっぱいに映し出される。
かすみ「えへへ〜こんばんは、しず子!」
天使のような笑顔。本当に可愛い。
しずく「こんばんは、かすみさん」
かすみ「なんかしず子の顔真っ赤だけど大丈夫?」
しずく「…さっきお風呂入ったばかりだからそう見えるだけだよ」
かすみ「わかる!最近暑いから余計だよね〜」
かすみ「ってあれ?その髪留め…」
しずく「あっ!」
そういえばかすみさんにあげたやつと同じ髪留めをつけてるの忘れてた…。
学校につけていくのは恥ずかしいから家でしか付けてなかったんだ。
かすみ「私とお揃いのやつ!いつ買ったの?!」
しずく「スクールアイドルフェスティバルが終わった後に…一人で……」
恥ずかし過ぎて言葉が尻すぼみになってしまう。 かすみ「えー!かすみんも連れて行ってよ〜!」
かすみ「すっごい似合ってる!!可愛いから学校にもつけてってよ!」
しずく「でもすごく恥ずかしいよ…」
かすみ「かすみんとお揃いなんだから似合わないわけないよ!」
しずく「そう言うわけじゃなくてね…?」
かすみ「ともかく、明日は絶対つけていってね!」
かすみ「一緒に写真撮ろうね!」
しずく「…うん!」
かすみさんの笑顔が見られるなら…恥ずかしくてもつけていこうかな。 かすみと同じ髪留めを付けてるしずく、めちゃくちゃ見てみたい 翌日
今日はちゃんと髪留めつけてきたけど…やっぱり恥ずかしいな。
かすみさんと一緒に登校してたら色々な感情で頭が爆発してたかも…。
教室に入って早々、いろんな人に話しかけられる。
「しずくちゃんの髪留めめっちゃ可愛いじゃん!」
「さすがお月様…可愛い髪留めで綺麗がレベルアップしてる…」
しずく「お月様って…そんな…」
「ってか、その髪留めどっかで見たことあるんだよねーどこだったっけ…」
「あ!スクールアイドルの中須かすみちゃんと同じ髪留めじゃん!」
「お揃いのなんだ!あーすっごく尊い!」
やっぱりバレちゃうよね… 「あ、もしかしてそう言う関係!?」
「朝からいいもの見せてくるね〜」
しずく「そう言う関係じゃないからっ!」
「でも顔真っ赤じゃん!」
「私たちは陰で応援してるから気にしないで!」
しずく「だからそう言う関係じゃ…!」
やっぱりすごく恥ずかしいけれど…
…心の底から嬉しい、って思う。 お昼 食堂
しずく「かすみさん!」
かすみ「あ!しず子!すっごい似合ってる!」
しずく「…ありがとう」
かすみ「今すぐ撮りたいのに〜!休み時間くらいスマホ使わせてよ〜!」
しずく「今日の同好会の活動時間は短いって聞いたよ?演劇部も今日は短いから放課後撮ろうね?」
かすみ「放課後なんて待ちきれないよ〜!」
なんて会話をしているうちにふと遠くから声が聞こえる。
「あの二人の髪留め見てよ!」ヒソヒソ
「死ぬほど可愛い…私本当に死ぬかも」ヒソヒソ
「青春してるなぁ〜」ヒソヒソ
かすみさんもこの声に気づいたらしく、少しだけ頬を染める。
かすみ「…ちょっと外行かない?」
しずく「そうだね…」 屋上
かすみ「結構話題になるんだねああ言うのって…」
しずく「お互い学園内では有名になってきているらしいし…仕方ないのかもね」
かすみ「もっと伸び伸びと一緒にいたいのに〜!」
しずく「気持ちはわかるけどね…」
かすみ「……」
しずく「…………」
湾からの生ぬるい風が私たちを撫でる。
かすみ「ねぇ、しず子」
しずく「ん?どうしたの?」
かすみ「…しず子はあんなこと言われて、嬉しい?」
しずく「それは…」
言い淀んでしまう。まぁ、嬉しいけれど…
キーンコーンカーンコーン
お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
かすみ「あ、なっちゃった…じゃあ放課後ね!」
しずく「あ、かすみさん…」
…嬉しいけど、好きな人に向かって嬉しいなんて言えるわけないよ…。 放課後 演劇部室
かすみさんに会う前に部長に欠席の連絡をしないと。
しずく「部長、来月の演劇会はお休みをいただきます」
部長「連絡ありがと!でも部活にはちゃんときてね?しずくには演劇の指導をお願いしたいからね」
しずく「わかりました。主演は誰にする予定なんですか?」
部長「久しぶりに私がやってみようと思うよ!最近は後輩たちに追い上げられてディフェンディングチャンピョンになっている気がするからね〜」
しずく「部長が主役を張るなら私は必要ないと思いますよ?」
部長「私も至らないところがいっぱいあるからね!客観的な視点は大事!」
やっぱりすごい人だ、この人は。
部長「あ、客観的な視点といえば…」
部長は思い出したようにニヤリと笑う。
部長「ああいうのはもっとゆっくりやらないと相手が変に気を遣っちゃうからね?」
しずく「ですからあれは……!!」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています