海未「それは初恋でした」※うみりじSS
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それは初恋でした。
「あら、いらっしゃい」
子供の頃、親友のことりの家に初めて招かれた時、出会った女性。
ことりと同じ髪型で、細長い手足。
朝焼けに羽ばたく親鳥のように自由気ままに生きるその姿に、私は息を吸うのも忘れて見蕩れてしまいました。
「うみちゃん?」
「うみちゃん、固まってるね」
ことりと穂乃果の声すらも届かないほどに私の意識は、彼女に奪われていた。
だけど、私の初めての恋は、それを私が自覚するよりも早く、潰えた。
「おや、ことり。おかえり。その二人は、お友達かい?」
彼女の隣は既に、埋まっていた。 「ぁ、う、その、あ、っ」
当時の幼い私は、初めて胸に抱いた恋の愛しさと、それが破れた時の切なさに耐えきれず、気がついた時には家を飛び出し、公園まで走ってきていた。
息を整えることも忘れ、私はベンチに項垂れるように座ったのを覚えている。
「ぁ、う、」
初めての恋と、同時に味わった失恋に、私は訳が分からずに泣いていた。
そんな時だった。
「だ、大丈夫?」
急に走り出した私を心配してか、ことりと穂乃果の二人が追いかけてきてくれていた。
「って、うみちゃん!? なんで泣いてるの?」
「どこかいたいところあるの?」
あわあわと慌てる幼なじみ二人。
そんな二人を安心させるために私は涙を拭い、笑ってみせた。
「だ、だいじょうぶです。わたしは」 うみりじってなんだよって考えてる間にどんどん進んでくの草 私は二人を安心させた後、胸に抱いた痛みを飲み込み、そのまま二人に謝ってその日は帰路についた。
ただ、もうあのひとには会いたくない。
目が合っただけで何もかもを吸い尽くされるようなあの感覚はもう二度と……。
そうして私は自分の恋には、気が付かないフリをしたまま数年を過ごした。 高校の入学式。
私は音ノ木坂学院に入学した。
入学を決めた理由は、私にしては珍しくあまり深くは考えなかった。
ただ、高校も穂乃果とことりと一緒がよかったのと、後はお母様もここに通っていた。その二つが決め手だった。
だけど今思えば私はもう少し考えるべきだったと思う。
どうしてあの頭のいいことりが、わざわざ音ノ木坂を選んだのか。その理由をーー
「皆さん、ご入学おめでとうございます」
その姿を見た瞬間、私は倒れそうになってしまいました。
壇上に立ち、凛々しくも学業の何たるかを語るその姿は、見間違うはずがない。
(そんな……嘘、) 息を飲む私の喉の音を聞いたのか、穂乃果が悪戯っぽく笑い、
「ここの学校ね、ことりちゃんのお母さんが理事長なんだよ。ねえ、ことりちゃん」
「うん。ここお母さんの学校なの」
知らなかった。
いや、知る機会は山ほどあったのだけど、私はこの進学に関しては差程、考えることをしなかった。
パンフレットを読み込んだ記憶もほとんどなかったし、ただこの二人とまだ一緒にいたい。
ただ、それだけでここを受験した。
私は再び沸々と湧き上がる恋慕の熱を体全体で感じながら、心底後悔した。
(もう少ししっかりと考えるべきでしたね) ああ、どうすれば。
彼女の。理事長の姿が頭から離れない。
離れてくれない。
気が付けば理事長は既に壇上を降りているのに、私の目にはまだ理事長の姿が過ぎる。
「はっ、はっ」
私は自分の内に煮え立つ恋慕の熱を、冷ますように息を吐く。
そうでもしないと体中が蕩けて、立つことすらできなくなりそうだからだ。
「海未ちゃん、大丈夫?」
私の異変を察したのかことりが背中を摩ってくれる。
「あ、ありがとうございます、ことり」 「海未ちゃん、お母さんと何かあったの?」
ことりは鋭い。
私の異変の理由を、的確に言い当てる。
「何か、とは?」
「だって、お母さんの姿を見た瞬間、こんなふうになるなんて……」
「いえ、そういうわけじゃないですよ。安心してください。ただ、今日は元々体調が悪かったんです」
「さっきまで元気だったけど」
「それは我慢してただけです」
「……そっか。ならいいけど」
……ふう。
何とかごまかせたみたいですね。 正直、この時にもまだ私は自分の身に起きてる異変が何なのかは分かってはいなかった。
私は穂乃果みたいに少女漫画を嗜むことも、ことりのように人の心を鋭く察することのできる力はない。
だからこそ、私にはこれが何なのか。全く分からなかった。
ただ苦しい。
理事長の姿を見てると苦しくなる。
だけど不思議とこの苦しさが癖になり、私は自然と理事長を目で追うようになっていった。 そして、さらに月日は進み、
その間に私たちには色々なことがあった。
穂乃果が廃校阻止のためにスクールアイドル部を立ち上げ、仲間を集め、必死に練習し、ラブライブ優勝にまで至った。
昔から凄い凄いと思ってきたが、本当に穂乃果は凄い。
そう改めて実感をしました。
「全て終わりましたね」
「うん、終わったね……」
私とことりは静かに二人寄り添いながら、水を追う子犬のようにはしゃぎまわる穂乃果を眺めながらもしみじみと思い直す。
ここに至るまでに色々あった。
「ねえ、海未ちゃん」
ぼそりとことりが言う。
「今から言うこと、もし無理だったら聞き流してくれていいからね」
不思議、肩に触れることりの体が、だんだんと熱を帯びてくるのを感じた。
「あのね、海未ちゃん。私、私ね」
どきどきと聞こえてくるほどに激しく脈打つことりの心臓。
この様子には、見覚えがある。
「ことり?」
私もかつて経験したあの苦しい感覚と同じもの。
「あのね、海未ちゃん」 最初は聞き違いかと思った。
でも、それが聞き間違いではないことは、ことりの頬の赤さで直ぐにわかった。
「ことり、わ、私も好きですよ?」
私はそれがいかにことりに対して失礼なことだとは理解しつつも、その場を逃れる為に当たり障りのない言葉で返す。
と、ことりは可愛らしく頬を膨らます。
「海未ちゃん、ことりの好きがそうじゃないことは分かるよね?」
「……ええ。その手の好意を向けられるのは、慣れてしまったので」
「あの時、何股もかけてたもんね」
「あれは誤解なんですが……。まあ、そうですね。結果としてはそうなってしまいましたか」
「それで? 海未ちゃん。どうなの? ことりとお付き合い……してくれませんか」
「……」
答えられない。 私は好きを向けられることには慣れてはいるものの、それを理解することは未だ出来てはいない。
海未「……その。今、答えを出さなくてはいけませんか?」
ことり「うーん、出来れば直ぐに答えは欲しいけど……、でもそうだよね。急には困るよね」
海未「ええ、そうですね」
ことり「うーん。そうだ。じゃあ海未ちゃん。一つ提案があります」 ことり「お試しにことりと付き合って」
海未「そんな……、試しに付き合うなんてそんな軟派なこと……。それにことりに対して失礼すぎます」
ことり「もう海未ちゃんは難しく考えすぎだよ」
ことり「穂乃果ちゃんの読んでる漫画も結構こういう風なお付き合いが多かったりするんだから」
海未「そういう、ものですか?」
ことり「そういうものです」 私はことりのことは好きです。
ただ、それは間違いなく友愛でしょう。
本当ならこんな提案は受け入れずに直ぐに断ってあげる方がことりのためになることは、何となく分かってはいる。
だけど、私は気になった。
ことりがあんな風に熱くなるほどに滾る恋というものが何なのか。
それを知りたい。
そう思い、私はことりとのお試し交際を開始した。 ことりと付き合ってみて最初に思ったのは、ことりはやはりずるいということだった。
ことり「ねえねえ、穂乃果ちゃん! やっと海未ちゃんと恋人になれたよ!」
海未「!? こ、ことり」
穂乃果「えっ、ホント!? 良かったね、ことりちゃん!ずっと想ってたもんね!良かった」
海未「え」
ことりは私たちの関係を深い部分は話さずに、穂乃果に打ち明けた。
意図してか、意図せずかは分からないけれど、周りに私たちの関係を示すことで、
私がことりの求愛を断ることがしにくくなる。
海未(ことりは本当にズルいですね)
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