歩夢「Trick」
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【高咲家】
侑(10月31日、いつもどおりの朝のベランダ)
侑「歩夢、おはよう」
侑(私はいつもどおりの挨拶。普段と変わらないのに)
歩夢「トリックオアトリック!」
侑(幼馴染は壊れていた) 侑「え、えっと……」
歩夢「侑ちゃん! トリックオアトリック!」
侑(謎の布を被って(おばけの仮装?)いる姿は可愛いんだけど)
侑「いや、あのさ」
侑(トリックオアトリートでは? なんでいたずらしか選択肢がないの?)
歩夢「ほらほら、選んで。トリックかトリック」
侑「選択肢なくない?」
歩夢「うん、ない!」
侑(いや、そんな爽やかな笑顔で宣言されても困る) 歩夢「ほら、侑ちゃん。素直にいたずらされてよ」
侑(いたずら)
侑(普段の歩夢なら別に、たいしたことはないんだろうけど)
侑(今日は、嫌な予感がする)
侑「ごめん、歩夢。今日は私ひとりで学校へ行くね」
歩夢「え、侑ちゃん?」
侑「いたずらもなしね!」
歩夢「え、ちょっと待って」
侑(こういう時は、素早く逃げるに限る)
侑(部屋の中に引っ込めば歩夢は追いかけてこられない)
侑(さっさと準備して、先に学校へ行ってしまおう) 【虹ヶ咲学園】
侑「ふう」
侑(なんとか歩夢と接触せずに学校までたどり着くことができた)
侑(だけどまだ油断はできない、このままなんとか逃げ切って……)
かすみ「あ、侑せんぱーい」
侑「かすみちゃん!」
侑(よかった、歩夢ちゃん以外の人と先に会えた) かすみ「おはようございます〜、今日は一人ですか?」
侑「うん、色々あってさ」
かすみ「ふーん、歩夢先輩は――」
侑(ん? なにか言ったかな)
かすみ「ねえねえ、見てくださいよ、かすみんの仮装」
侑(妙に露出度の高い、黒っぽい衣装)
侑(クルクル回ると、羽織っているマントが舞う)
侑「可愛いけどさ。うちの学校、仮装OKなんだ」
かすみ「緩いですよね〜」
侑(周囲も普通に思い思いの仮装をしているっぽいし、謎の力が働いたのかな) 侑(それにしても、かすみちゃんの衣装)
侑「ところでかすみちゃん、それは何の仮装?」
かすみ「ふふふ、サキュバスですよ」
侑「サキュバス」
侑(相手を誘惑する)
侑(あれ、何だろう、謎の寒気、嫌な予感がする。
かすみ「侑先輩」
侑「う、うん」
かすみ「トリックオアトリックです!」
侑(やっぱり!)
侑(かすみん、お前もか!) かすみ「ほら、いたずらかいたずら、選んでくださいよ!」
侑「かすみちゃん、選択肢がないよ」
かすみ「大丈夫です。前者か後者、どちらを選ぶかによって、若干内容が変わります」
侑(いや、大丈夫じゃない。何か手つきが怪しいし)
かすみ「ふっふっふっ、観念してください」
侑(でもマズイ、私の脚力じゃかすみちゃんから逃げきるのは難しい)
侑(誰か、助けを……)
??「……」スタスタスタ
侑(あ、あれは! せつ菜――いや)
侑「菜々ちゃん!」 菜々「あら、おはようございます」
侑(よし、生徒会長モードだ。これならいける!)
かすみ「げ、せつ菜先輩」
菜々「かすみさん? あ、なんですかその破廉恥な仮装は!」
かすみ「ま、マズイ、逃げなきゃ!」
菜々「待ちなさい!」
侑(よしよし、追いかけっこが始まった、今のうちに逃げよう)
侑(せつ菜ちゃんはまともっぽかったけど、歩夢ちゃんだけじゃない。今日のみんなは危険だ)
侑(極力接触しないようにしないと……) 【昼休み:中庭】
侑「ふう」
侑(ここまでなんとか接触を減らしながら来ることができた)
侑(この調子で、最後まで逃げ切れればいいんだけど)
愛「おっ、ゆうゆ」
侑「げっ」
侑(マズイ、渋谷系ギャルだ)
侑(現代のハロウィンといえば渋谷の輩、この子はその一味である可能性が高い) 愛「なーにその反応」
侑「い、いや、急に話しかけられたから驚いただけだよ」
愛「ふーん」
侑(愛ちゃん、仮装はしてないみたい)
愛「あれ、ゆうゆ。ハロウィンなのに普通に制服じゃん」
侑「愛ちゃんこそ」
愛「あー、私は放課後に仮装する予定があるから」
侑(ほら! やっぱりギャルは危険! 渋谷に行くようなギャルは危険!) 愛「そうそう、今日の放課後さ、一緒に来ない?」
侑「い、一緒に?」
愛「うん、人数もうちょい集めたくてさ」
侑「い、行かないよ!」
侑(あんなパリピ共の仲間になってたまるか!)
愛「そういわずにさー」
侑(マズイ、愛ちゃんは結構押しが強い)
侑(このままだと押し切られて渋谷に行ったら、テレビで暴徒の一人として報道されてしまう……) 侑(こうなれば、最終手段)
侑「あ、愛ちゃん!」
愛「ん?」
侑「あっちに可愛らしいコスプレをした璃奈ちゃんが!」
侑(明後日の方向を指さす私)
愛「え、どこどこ?」
侑「あっちの校舎の方に入っていったよ」
愛「マジで! サンキュー行ってくる!」
侑(よし、愛ちゃんの弱点は璃奈ちゃん)
侑(どう考えても怪しい行動だったけど、彼女の名前を出せば釣れる!) 侑(私は今のうちに逃走を)
璃奈「あ」
侑「り、璃奈ちゃん」
侑(なんと、本物と遭遇)
璃奈「愛さん、凄い勢いで校舎の方に走っていったけど、どうしたの?」
侑「い、いやー、どうしたんだろうね」
侑(空想の璃奈ちゃんを追いかけていったとは言えない)
侑「ところで璃奈ちゃん、その仮装は」
侑(とりあえず、話題逸らし) 璃奈「猫、はんぺんとお揃い」
侑(黒猫だ、可愛い……)
はんぺん「にゃー」
侑(しかも腕の中には白い子猫、はんぺんちゃん)
侑(このセット、破壊力、ヤバい)
璃奈「あなたは、仮装しないの?」
侑「え、ああ、うん。まあ」
璃奈「そっか……じゃあ」
侑(あれ、マズい、この流れは) 璃奈「えっとね、トリックオア、トリート」
侑(いや、これまともだ!)
璃奈「お菓子をくれなきゃ、いたずら、するの?」
侑(しかも慣れてない! あんまり意味が分かってない?)
侑「ちなみに、璃奈ちゃんが考えるいたずらってどんなこと?」
璃奈「……くすぐり?」
侑(キョトンと首をかしげて。あー、可愛い。癒される……)
侑「お菓子ならあるよ、ほら、チョコレート」
璃奈「ありがとう」
侑(手に持っていた籠の中にチョコを入れる璃奈ちゃん) 璃奈「これ持っているとね、お菓子、みんなくれる」
侑「そっかぁ」
侑(そりゃあげちゃうよねぇ)
璃奈「それで放課後ね、愛さんのおうちでハロウィンパーティーするの、楽しみ」
侑「え?」
璃奈「まだ愛さんと私だけしか人が集まってないんだけど、あなたも来る?」
侑(ハロウィンパーティー……)
侑(もしかして、さっきの愛ちゃんの誘い) 侑(しまった、悪いことしたな……)
侑(よく考えたら愛ちゃんは軽めのギャルだし、普通にいい子だもん)
侑(わざわざ渋谷で暴れたりなんてしないよね)
侑(今度謝らないと)
璃奈「それで、どう?」
侑「うーん、私は、ちょっと先約があって」
侑(そんなの実際はないけど。今日はこの方がいいや)
璃奈「そう?」
侑(この子と愛ちゃんの時間、邪魔しちゃ悪い気もするし) 愛『あ、りなりー発見!』
侑(愛ちゃんの声が聴こえる)
侑「じゃあ、璃奈ちゃん。私は行くね」
璃奈「うん」
侑「これ、愛ちゃんに渡しておいてくれる?」
璃奈「分かった」
侑(璃奈ちゃんにあげたのと同じチョコレート)
侑(一応、変に疑ったのと、無駄に走らせちゃったお詫びのつもり) 巨根と貧乳が出るかと思ったけどそっちは全部大文字だったな 侑(さて、どうしようかな)
侑(愛ちゃんは誤解だったとしても、歩夢とかすみちゃんの危機は去っていない)
侑(とりあえず、人が来なさそうな場所に隠れる?)
侑(ちょうどこの辺の、中庭の隅とか――)
??「あら」
侑(しまった、また危なそうな人に)
侑(逃げる、のは得策じゃないか)
侑「果林さん」
侑(彼女は魔女の仮装)
侑(なんてイメージ通りのものを……) 果林「ふふっ、偶然ね」
侑(こんなひと気のない場所で会うなんて、本当に偶然?)
侑「あれ?」
しずく「はぁはぁ」
侑「しずくちゃん」
侑(これはまた、珍しい取り合わせ。仲良く魔女の仮装をしてるし)
しずく「ゆ、ゆうさん……」
侑(というかしずくちゃん、なぜか顔を真っ赤にして息を切らして)
侑(なんか、エロイ) 侑「しずくちゃん、様子が変だけどなにがあったの?」
しずく「じ、実は、今度演劇部で魔女の役を、演じることになったので、果林さんに、魔女になりきるコツを教わろうとして」
侑「う、うん」
しずく「それで、実技でいろいろ、教えてもらって」
侑「実技?」
侑(実技とは、いったい)
しずく「その、なんと、いうか」
しずく「凄かったです……」バタン
侑「え、ええ……」
侑(なんか倒れ込んでるし) 侑「えっと、大丈夫?」
果林「ふふ、大丈夫よ。疲れて眠っているだけ」
侑(いやいやいや)
果林「ねえ、侑?」
侑「は、はい」
侑(や、ヤバい、私まで捕食される?)
果林「一人なの?」
侑「へっ? はあ、まあ」
果林「つまらないわねぇ、せっかく歩夢とかすみちゃんにアドバイスしたのに」
侑(ちょっと待って。今なんて言ったこの部外者のお姉さん) 侑「あの、アドバイスって……」
果林「それはもちろん、侑にいたずらする為の方法、とか」
侑(やっぱり! 二人を狂わせた犯人あんたかい!)
侑「果林さん、酷いですよ」
果林「あら、何か問題でも」
侑「おかげで朝から大変だったんですよ。歩夢、私に意地でもいたずらを仕掛けようとしてきて」
果林「あらあら、ごめんなさいね」
侑(クスクスと笑って……、困った人だ本当に……) 侑「いったい何を吹き込んだんですか、二人に」
果林「本当にたいした話じゃないのよ」
果林「歩夢は思い込みが激しい所があるから、変に暴走しちゃったんじゃないかしら」
侑(うーん、確かにそれはありえるのかも)
果林「かすみちゃんは耳年増だから、変な解釈しちゃったみたいだけど」
侑(それはあなたがさらに余計なことを吹き込んだんでしょう)
侑(あの衣装、かすみちゃん一人で思いつくわけないし……) 果林「まあかすみちゃんはともかく、歩夢はきっと大丈夫よ」
侑「えー」
侑(今の果林さんに言われても、いまいち信用できない)
果林「まあまあ、帰ったら一度話してみてあげなさい。きっとあなたに逃げられて凹んでるから」
侑「はぁ」
侑(けど確かに、時間が空いて歩夢も多少落ち着いただろうし)
侑(このまま逃げてばかりで、明日以降気まずくなったりしても嫌だもんね) 【高咲家】
侑「ただいまー」
侑(とりあえず、結局何事もなく帰ることができたな)
侑母「おかえり」
侑「あ、お母さん」
侑母「歩夢ちゃん来てるわよ」
侑「へっ」
侑(歩夢? 向こうから?)
侑母「部屋で待っていてもらってるから」
侑「うん、分かった」
侑(いつもみたいにベランダ越しに話そうと思ったけど、ちょうどいいや) ※
歩夢「侑ちゃん……」
侑(ちょっと落ち込んだ、歩夢の姿)
侑(今度は仮装もしていない)
侑(この様子だったら、大丈夫そうかな)
歩夢「あの、今朝はごめんね。なんだか、怖がらせちゃったみたいで」
侑(ほら、あっさり謝ってくれるし)
侑「いや、私も過剰反応だったよ、ごめん」 歩夢「許してくれるの?」
侑「うん、もちろん」
侑(その後のかすみに比べたら、可愛いものだったし)
侑「それによく考えたらさ、別にいたずらぐらいされてもいいかなって」
侑(多少変なことでも、歩夢と私の仲なわけだから)
歩夢「侑ちゃん……」
侑「なんならさ、今からやってみない、いたずら?」
歩夢「え、でも」
侑「いいからいいから」
侑(その方がすっきりするだろうし)
歩夢「う、うん、じゃあ」 侑「ちなみに、歩夢のいたずらはどんな内容だったの?」
歩夢「え、えっと」
侑(顔を真っ赤にして手足をパタパタさせ始める歩夢)
歩夢「『わしわし』、しようかなと」
侑(わしわし!)
侑(あの伝説のスクールアイドル、東條希さんの得意技だった)
侑(ぶっちゃけ、胸を揉みしだくだけという、あれ!)
侑「わ、わしわしかぁ」
侑(しまった、内容を聞いてから許可すればよかった)
侑(果林さん、普通にやばいこと吹き込んでるじゃん) 侑(だけど今更断るわけにもいかないし、覚悟を決めて――)
歩夢「わ、わしわし」ナデナデ
侑(あ、あれ)
侑(なんだこれ、頭を撫でられてる、だけ?)
歩夢「果林さんが知り合いの占い師のお姉さんから教えてもらったんだって」
歩夢「このいたずらをすると、相手と仲良くなれるって」
侑「え、はあ」
侑(歩夢の柔らかい手が、頭の上を動き回っている)
侑(なんて微笑ましいオチ。よかった、歩夢が毒牙にかかっていなくて)
侑(そうだよね、果林さんは何だかんだ一線は超えない人だから) 歩夢「……それでね、その後」
侑(おや、なにやら手つきが)
歩夢「お腹をくすぐり続けるのが、わしわしなんだって……」
侑「へっ、ちょっと待って」
歩夢「ふふっ」
侑「私はお腹のくすぐりによわ――」
歩夢「えいっ」コチョコチョ
侑「あ、あ」
歩夢「わしわし〜」コチョコチョ
侑「あはははははははは」
歩夢「わしわしわし〜」コチョコチョコチョ
侑「あははははは、歩夢、やめてやめて」
歩夢「やめないよ〜」
侑「あ、あははははははははははは」
侑(こうして私は、しばらくわしわし? をされ続けた)
侑(その後、私も反撃したり、もうてんやわんや)
侑(でも、無邪気な歩夢ちゃんとじゃれ合ったのは楽しかったから結果オーライ、かな) おまけ
彼方「エマちゃん、エマちゃん」
エマ「彼方ちゃん。どうしたの?」
彼方「トリックオアトリック〜」
エマ「えー、いたずらしか選択肢がないよぉ」
彼方「ふっふっふっ、それじゃあエマちゃんのお膝を借りるいたずらをしちゃうぞ〜」
エマ「もう、それじゃあいつもと変わらないよ」
彼方「そうかなぁ」
エマ「もう、彼方ちゃんったら〜」
彼方「えへへ、じゃあおやすみ〜」
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