真姫「1人っ子の私の、2人のお姉ちゃん」
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凛「あー、今日の練習はきつかったにゃー」
花陽「来月にはライブがあるから、がんばらないとね!」
真姫「小さな大会だから、今回はユニット別で出場することになったけど……」
真姫「花陽にも凛にも負けないわよ? 勝つのはBiBiなんだから!」
花陽「Printempsだって負けません! 歌もダンスもがんばってるんだから!」
凛「リリホワもがんばってるよ。がんばってるのはいいんだけど……」
花陽「凛ちゃん?」
凛「でも、さすがに今日の練習はヤバかったにゃ」ハァー 真姫「確かにlily whiteは、何かに取り憑かれたんじゃないかと思うくらいずっと走ってたわね」
花陽「そうなの?」
真姫「ええ、BiBiは音楽室で練習してたんだけど……」
真姫「いつ窓からグラウンドを見ても、凛たちがグルグル周回してたわ」
凛「今日は最初から最後までずーっと走ってたよ。休憩時間もなかったもん」
花陽「えっ? 今日の練習って、2時間半はあったよね?」
凛「海未ちゃんが『私に3周差つけられた人には罰を与えます!』って言うから、手も抜けなくて……」
真姫「何十周したのよ……」
凛「100周はしたにゃ」 真姫「いや、さすがにそれは嘘でしょ?」
花陽「真姫ちゃん、待って! 凛ちゃんは嘘なんてつかないよ」
花陽「うちの学校のグラウンドって、1周400mだよね? 100周だと40kmだから……」
真姫「マラソンの世界記録は2時間ちょっと……。って、世界記録と比べても意味ないでしょ!」
凛「女子マラソンの日本記録は、2時間20分くらいだよ」
花陽「ほら、やっぱり!」ネッ!
真姫「何がやっぱりよ。女子の日本記録だって、比べても意味ないのは同じでしょ! ……そうよね?」
凛「数えてないけど、凛は100周くらいしたの! ずっと必死で走ってたんだから!」
凛「海未ちゃんに2回目に抜かされたときにね、『次はありませんよ?』って言われたの」
凛「あのとき、色んな意味でくらくらしたんだよ? 本気で倒れるかと思ったもん!」 花陽「凛ちゃん、熱中症とかは大丈夫だった? 今日もすっごく暑かったし」
真姫「そうよ! この暑さの中で、休憩もせずに何時間も走るなんて絶対にダメよ!」
真姫「こまめに水分と塩分を補給しないと、本当に倒れるわよ。熱中症は命に関わるんだから!」
凛「なんかボトルに入ったスポーツドリンクがたくさんあったにゃ。海未ちゃんが用意したらしくって」
凛「真姫ちゃんも見たことない? マラソンとかする人が、走りながら飲んだり体にかけたりするやつ」
凛「海未ちゃんから、10周するごとに必ず飲むようにって言われて……」
花陽「さすが海未ちゃんだね……」
真姫「逆になんでそんな本格的なのよ……。lily whiteは陸上部にでもなるつもり?」 凛「これも全部ビビのせいだよ!」ニャー!
真姫「なんでよ!? 私たちは、ずっと音楽室で歌の練習をしてただけよ?」
凛「今日のことじゃないよ! この前、μ'sでマラソン大会したでしょ?」
花陽「ああ、みんなで10kmを走って、ユニットで勝負したやつだね」
花陽「花陽も一生懸命がんばったんだけど、Printempsがドベになっちゃったんだあ」
凛「あれでビビに負けちゃったから、次はリリホワが勝つんだって海未ちゃんが張り切ってるの!」
真姫「いや、それはBiBiのせいじゃないでしょ? 勝ったのが悪いとか言われても困るわ」
凛「真姫ちゃんはドベだったくせに……」
真姫「うるさいわね! 確かに9位だったけど、惜しかったんだから!」
真姫「最後、あと少しで花陽を抜けたのに……」
花陽「うん、最後は花陽も必死だったよ」 真姫「というか、そもそもルールがおかしかったのよ」
真姫「各ユニットの成績は、そのユニットで一番に速かった人の順位のみで決まるって……」
真姫「これだとBiBiの成績に、私とにこちゃんが何も関係しなくなるじゃない!」
花陽「あのルールって、絵里ちゃんが言い出したんだよね?」
真姫「まあ、どうして絵里がそういうルールを提案したかは分かるわ」
真姫「自分で言うのも悔しいけど、BiBiが勝とうと思ったらそれしかなかっただろうし」
凛「凛、絵里ちゃんはかしこいって知ってたはずなのに……」
凛「なんで、あのとき怪しいって思えなかったんだろ?」
凛「おかげで、明日もリリホワはマラソンだよ」ズーン 真姫「ねえ、ちょっと思ったんだけど……」
真姫「lily whiteが勝ちたいなら、海未が絵里に勝てばいいだけなんじゃない?」
真姫「凛まで練習する必要はあるの? まあ、次も同じルールでやるとは限らないけど」
花陽「そもそも、マラソン大会ってまたやるの?」
凛「希ちゃんも同じこと言ってたにゃ」
凛「でも海未ちゃんが、またやるって。それで、次はリリホワで1位から3位まで取るんだって……」
花陽「この前は凛ちゃんが3位で、希ちゃんが4位だったっけ?」
凛「そうにゃ。だから凛と希ちゃんも、絵里ちゃんに勝つために特訓しなきゃいけないの!」 真姫「それはご愁傷様ね。まあ、がんばりなさい」
凛「うぅー、真姫ちゃんは関係ないからって……」
凛「もうっ! 海未ちゃんったら普段は真面目なのに、ときどき暴走するんだから!」
凛「こういうとこ、ちぃ姉ちゃんに似てるにゃ」
真姫「ちぃ姉ちゃん?」
花陽「凛ちゃんには、お姉さんが2人いるの。下のお姉さんは大学生なんだけど……」
花陽「その下のお姉さんのことを、凛ちゃんはちぃ姉ちゃんって呼んでるんだ」
凛「お姉ちゃんとちぃ姉ちゃんだよ! 大と小だから!」
真姫「お姉ちゃんの『お』は、大きいって意味じゃないわよ。……いや、でも語源はそうだったかしら?」ンー?
真姫「まあ、でも確かに凛は妹っぽいわね。妹っていうか、末っ子っぽいわ」
凛「えへへ、そうかにゃ?」テレテレ
真姫「別に褒めてないわよ?」 花陽「でも、確かにお姉ちゃんたちは、希ちゃんと海未ちゃんに似てるとこがあるかもね」
凛「そうかも! ……かよ兄は、穂乃果ちゃんとことりちゃんに似てる?」
花陽「えっ、お兄ちゃん? ……うーん、お兄ちゃんはあの2人とは似てないかなあ」
凛「そっかあ、かよちんはプランタンなのにね」
花陽「ははは、それはあんまり関係ないんじゃないかな?」
真姫「花陽はお兄さんがいるのね。知らなかったわ」
花陽「ごめんね、言ってなかったよね。私には、大学生のお兄ちゃんがいるの」
花陽「とっても優しいところは一緒だけど、ことりちゃんと穂乃果ちゃんには似てないかな」
真姫「まあ、それはそうでしょ。あの2人に似てるお兄さんとかいたら、すごく見てみたいわ」 真姫「でも、かよ兄って凛が呼んでたけど、お兄さんの名前も『かよ』って読める漢字なの?」
花陽「あぁ、そういうわけじゃなくて……」
凛「かよちんのお兄ちゃんなんだから、かよ兄に決まってるじゃん」
花陽「凛ちゃん、私のお兄ちゃんだからっていう理由で、昔からそう呼んでるの」
真姫「ふふ、何でも花陽を基準に考える凛らしいわね」
真姫「でも、花陽も妹なのね。まあ、確かに言われてみれば花陽も妹っぽいわ」
真姫「お兄ちゃんって言ってるのが、よく似合ってると思う。とっても可愛らしいわね」
花陽「えへへ、そうかなあ」テレテレ
真姫「うん、今のはちゃんと褒めたわよ」
凛「えー! 真姫ちゃん、凛も褒めてよー」
真姫「はいはい、可愛い可愛い」 真姫「でも、花陽も凛も妹なのね」
真姫「まあ、子供っぽいって言うとあれだけど、2人とも甘え上手なところがあるし……」
真姫「言われてみれば、妹ってのは納得だわ」
花陽「そう?」
真姫「ええ、そうよ。特に凛なんかは、お姉さんたちに甘えてわがまま言ってそうね」フフッ
凛「えー、そんなことないにゃー! そう言う真姫ちゃんだって、いっつも甘えてるじゃん」
真姫「はあ、何を言ってるのよ? 私は1人っ子よ? 甘える兄も姉もいないわ」
凛「そうじゃなくて、ビビでにこちゃんと絵里ちゃんに甘えてるでしょって言ってるの!」
真姫「はあ!? そんなわけないじゃない! なんで私があの2人に甘えるのよ!」
花陽「でも、BiBiは3年生が2人と1年生の真姫ちゃんだし、可愛がってもらってそうだなあ」
真姫「もうっ、花陽まで! 意味わかんない!」イミワカンナイ! 真姫「花陽と凛は、あの2人のことをよく知らないからそんなことが言えるのよ!」
真姫「絵里は生徒会長のときはキリッとしてたけど、最近は口をぽかーんと開けてる方が多いのよ?」
真姫「すっかりポンコツになっちゃって……。まったく、切れたナイフのエリーチカはどこに行ったんだか」
真姫「まあ最上級生らしく頼りになることも多いし、ダンスとかマラソンとか本当にすごいとは思うけど……」ボソボソ
真姫「それに、にこちゃんは見た目からしてお子ちゃまだし、くだらないことですぐに突っかかってくるのよ?」
真姫「この前なんか赤点を取ったとか言って騒いでて……。まったく、この天才の真姫ちゃんとは大違いね」
真姫「まあ私が生意気なこと言っても結局は許してくれるし、年上なんだなって思わされることもあるけど……」ボソボソ
真姫「とにかく、私は別に甘えてなんか……。って、なによその顔!」
凛「まきちゃん」
花陽「まきちゃん」
真姫「なによそれ!」
凛「真姫ちゃん可愛いにゃ〜! 真姫ちゃん、真姫ちゃん、真姫ちゃ〜ん!」ギュー
花陽「ふふっ、ごめんね。でも、からかってるわけじゃないんだよ?」
花陽「なんだかんだ言って、真姫ちゃんは2人のことが大好きなんだなって思ったら、すごく可愛くって」 真姫「べ、別に大好きじゃないわよ! 百歩譲って好きだとしても、甘えたりはしないわ!」
真姫「むしろ精神年齢では大人な私が、あの2人のことを可愛がってあげてるくらいね!」
凛「凛、知ってるよ。これ、ツンデレってやつだよね」
花陽「やっぱり真姫ちゃんは可愛いなあ」
凛「そうだ! 真姫ちゃんが可愛いこと言ってたって、あの2人に教えてあげようっと」ライン!
真姫「ちょっと、凛! 待ちなさい!」ダッ
凛「待たないよーだ! 疲れてるけど、真姫ちゃんには捕まらないにゃー」タタタッ
真姫「こらっ、待ちなさい! 本気で怒るわよ! もうっ、逃げないで!」ダダダッ
花陽「待ってー、2人とも置いてかないでー」トタタタ 翌日
真姫「えっ? 今日は2人とも練習に出られないの!?」ヴェエ!
絵里「ええ、ごめんなさい。亜里沙が体調を崩したらしくって……」
絵里「私と亜里沙は2人暮らしでしょう? 私が帰ってあげないと、あの子が1人っきりになっちゃうから」
真姫「……それは、仕方ないわね。病気のときに1人だと心細いし、絵里も心配でしょうから」
真姫「それで、にこちゃんは?」
にこ「ママの仕事が、急に忙しくなっちゃったみたいなのよ」
にこ「帰るのが遅くなるらしいから、私がいないとチビたちがご飯を食べられないし……」
真姫「……ふーん、確かにそれも仕方ないわね」 真姫「で? 私は1人で練習してればいいわけ?」
絵里「海未に話を通しておいたから、今日のところはlily whiteと一緒に練習しておいてちょうだい」
真姫「ヴェエ! lily whiteは今日もマラソンするって聞いたんだけど!?」
にこ「ああ、そういえば希がぼやいてたわね」
絵里「そうなの?」
にこ「あんたに負けたせいで、海未がやたらと張り切ってるらしいのよ」
絵里「へえ、可愛いじゃない。リベンジしたいなら、いつでも受けてあげるわよ?」
にこ「きっと海未の方から言ってくるわよ。そのためにリリホワは猛特訓してるみたいだし」 真姫「だから、lily whiteと一緒なのはやめて欲しいっていうか……」
にこ「ちょうどいいじゃない。真姫ちゃんはドベだったんだし、海未に鍛えてもらったら?」
真姫「イヤよ! この暑い中、延々と走るなんて拷問じゃない!」
真姫「そもそも、にこちゃんは私に偉そうなこと言えるような順位じゃないでしょ!」
真姫「真ん中より下だったんだし、私と同じようなもんよ! 何も変わらないわ!」
にこ「さすがにドベと同じにしないでくれる!?」ガーン
真姫「あの凛が音を上げるような練習に、私がついていけるとは思えないわ」
真姫「自慢じゃないけど、私って体力ないのよ? 最悪、死ぬまであるわ。それでもいいの!?」
にこ「本当に自慢じゃないわね。というか、こんなに必死な真姫ちゃん初めて見たわ」 絵里「んー、だったら穂乃果にも話はしてあるから、後半はPrintempsと一緒でどう?」
真姫「後半はPrintempsと一緒ってことは、マラソンは半分だけ? それなら! いや、でも……」ブツブツ
にこ「真姫ちゃん、スクールアイドルをやるなら体力は必要よ? がんばってみなさい」
絵里「そうね。海未の特訓にも、半分くらいならついていかないと。がんばってみて」
真姫「……分かった。がんばってみる」
絵里「ええ、真姫ならできるわ。……それじゃあ悪いけど、私はもう行くから」
にこ「ああ、私も帰らないと。家で自主練はしとくけど、今度そろったら3人で合わせましょう」
真姫「うん、楽しみにしとくわ」 lily white
海未「なるほど、こちらに真姫が参加するのは前半だけですか」ウンウン
海未「真姫、歓迎しますよ。敵に手の内を晒すのは本意ではありませんが、園田流の鍛錬の真髄をお見せしましょう」
希「手の内って、ただずっと走っとるだけやん。園田流もクソもないやろ」ボソッ
凛「真姫ちゃんが敵って、海未ちゃんの頭にはマラソン大会が詰まってるのかにゃ?」コソッ
海未「そちらの2人は元気そうですね。今日は私に負けたら罰を受けるということでいいですか?」ニコッ
希「それは本当に勘弁してください!」ゲザァ
凛「せめて3周のハンデをください!」ゲザァ
海未「はい、分かりました。昨日と同じですね。……今日は、私も本気で走りましょうか」
希「は? 今日は? え?」
凛「もう終わりにゃ。お終いにゃ」 海未「真姫も3周の差までは許すということでいいですね?」
海未「では、始めますよ。位置についてください。それと、あそこにあるドリンクを必ず定期的に飲んでくださいね」
真姫「ちょ、ちょっと待って! 私も同じ条件だって聞こえたような気がしたけど、聞き間違いよね?」
海未「真姫は半分の時間で抜けるのですから、実質的には倍のハンデでしょう?」
真姫「なるほど!」イミワカル!
真姫「って、それでも無理よ。私が走る遅さを甘く見ないで! 私の遅さは海未の想像を超えるわ!」
希「気持ちは分かるけど、そんなかっこよく言う台詞ではないやろ……」
凛「真姫ちゃん、必死だね。……凛たちは、『必ず死ぬ』で『必死』だけど」フフフ 海未「うーん、そうですね。……でしたら、私の半分だけ走ればいいというのでどうですか?」
海未「あまり真姫に厳しくすると、絵里とにこから何を言われるか分かりませんしね」
真姫「半分? 半分でいいの?」
海未「ええ、真姫がこちらの練習を抜けるまでに、私が何周するかは分かりませんが……」
海未「その時点で、真姫が私の半分以上の周回をこなしていれば問題ないということです」
真姫(この条件なら大丈夫よね? 半分の距離でいいってのは、相当のハンデのはずよ?)
真姫(確か、100mの世界記録が9.5秒くらいだったはず……。それだけあれば、私だって50mは走れるわ)
真姫(いくら海未でも世界記録よりはずっと遅いし、短距離と長距離の違いはあるけど、これなら……)
真姫「ええ、分かったわ。それでお願い」キリッ Printemps
真姫「」チーン
穂乃果「真姫ちゃん、大丈夫?」
真姫「これが大丈夫に見えるなら、目か頭の病院に行った方がいいわよ?」ハァハァ
真姫「頭の方ならいい脳外科を知ってるから、紹介状を書いてあげる。私のパパにさばいてもらいなさい」ハァハァ
ことり「あはは、ダメそうだね」
真姫「海未、ちょっと速すぎでしょ。普通に私の倍のペースで走り続けるとか、そんなのおかしいじゃない!」
真姫「というか、絵里はあれに勝ったの? 信じられない。真姫ちゃん、もう何も信じられない……」
真姫「あぁ、パパ! 魔王が来る。黒髪で貧乳の魔王が追いかけてくるの! 真姫ちゃん、恐いの!」シューベルト!
花陽「真姫ちゃんが、小さな子みたいになってる……」
ことり「やーん、可愛い!」チュンチュン
穂乃果「ことりちゃんは、可愛ければ何でもいいの?」 ことり「それにしても、海未ちゃんは張り切ってるねえ」
花陽「また近いうちに、マラソン大会あるのかなあ」
穂乃果「えー! 穂乃果、もうイヤなんだけど! すっごいきついし、どうせプランタンは勝てないしさ!」
ことり「ごめんね、穂乃果ちゃん。ことりが遅いせいで、穂乃果ちゃんだけに負担かけちゃって……」
花陽「花陽も、ごめんなさい。花陽がのろまなせいで、穂乃果ちゃんにがんばらせてるみたいで……」
穂乃果「いやいや、そんなことないよ! 私も別に速くないしさ」
花陽「でも、花陽はブービーだったから役に立ててないし……」
ことり「私も同じだよ。かよちゃんとひとつしか順位が変わらないし……」
真姫「私もごめんなさい。遅くてごめんなさい。ドベでごめんなさい」
花陽「真姫ちゃん……」ナデナデ ことり「私たちも特訓とかする?」
穂乃果「んー、でもなー。この真姫ちゃんみたいになるのは、ちょっとイヤかも」
花陽「真姫ちゃん、大丈夫だよ。もう走らなくていいからね」ナデナデ
真姫「え? もう走らなくてもいいの? 誰も追いかけてこない?」
花陽「うん、大丈夫だよ」ナデナデ
穂乃果「真姫ちゃんもいるし、今からは歌の練習にしよっか!」
ことり「うん、そうしよっ!」
花陽「ほら、真姫ちゃん。一緒に歌おう?」ネ?
真姫「うん! 真姫ちゃん、歌うの好き。歌うのなら得意だもん!」ペカー 1週間後
穂乃果「ふー、今日の練習も疲れたけど、なんか充実した疲れって感じだね」
ことり「歌もダンスも形になってきたし、これから仕上げていかないとね」
凛「リリホワもいい感じだよ! 今週からは、マラソンじゃなくてライブの練習してるし」
海未「さすがにライブを疎かにするわけにはいきませんからね。ここからはライブに全力を尽くします」
海未「それに、ライブが終わったらマラソン大会をする件については、絵里から了承を得ましたから」
花陽「またマラソン大会かあ」ハァ
希「エリちも乗り気やから、もうしゃあないやろ」ハァ 穂乃果「真姫ちゃんは大丈夫?」
真姫「大丈夫って何が? 別に私は何の問題もないけど?」
穂乃果「いや、でもさ。真姫ちゃん、最近ずっと1人だし……」
海未「今度のライブがユニット別でなければ、それほど問題にならなかったのですが……」
真姫「心配なんて必要ないわ。私くらいになれば、練習なんて1人でもできるんだから!」
真姫「心配するなら、ずっと練習に来てないあの2人を心配してあげたら?」ツンッ
ことり「真姫ちゃん、怒ってるの?」コソコソ
凛「最近、教室でもあんまり機嫌よくないにゃ」コソコソ
希「エリちとにこっちからほっとかれてるせいで、拗ねてもうとるんやろ」コソコソ
花陽「お姉ちゃんたちに構ってもらえないときの凛ちゃんも、あんな感じです!」コソコソ
凛「えー、かよ兄が忙しいときのかよちんでしょ!」コソコソ
真姫「そこ、聞こえてるわよ!」 真姫「この私が構ってもらえなくて拗ねてるなんて、そんなわけないでしょ!」
真姫「私はね、ライブが近いのに練習に参加しない2人の意識の低さを憂いてるのよ」フンッ
希「でも、2人ともちゃんとした理由があるやろ?」
真姫「それくらい分かってるわよ!」
穂乃果「でも、絵里ちゃんはそろそろ練習に出れるみたいだよ? だから――」
真姫「は?」ハ?
穂乃果「えっと、真姫ちゃん?」
真姫「は? ねえ、どういうこと?」ハ?
穂乃果「いや、だからね。絵里ちゃんが戻ってくるから、BiBiも大丈夫かなあって……」
真姫「なんで、そんなこと穂乃果が知ってるの? 絵里から聞いたの? 私には何の連絡もないのに?」ハ? ことり「穂乃果ちゃんは、雪穂ちゃんから聞いたんだよ! そうだよね?」
穂乃果「う、うん」
真姫「雪穂ちゃんから?」
穂乃果「ずっと休んでた亜里沙ちゃんから、もう治ったから学校に行けるって連絡が雪穂にあったらしくってさ」
穂乃果「だったら、絵里ちゃんも練習できるようになるんじゃないかなあって思ったんだけど……」
真姫「ふーん、そういうこと。妹つながりってわけね」
希「せやから、穂乃果ちゃんにやきもち焼かんでもいいんよ?」
真姫「はぁ!? 誰がやきもちなんか焼いてるっていうのよ!」
真姫「私はただ、そういう連絡はまずメンバーである私にすべきだっていう当然のことを言いたいだけで――」
凛「今日も真姫ちゃんのツンデレはキレキレにゃ!」ニャー
ことり「やーん、やっぱり真姫ちゃんって可愛い♪」チュンチュン
真姫「もうっ、からかわないでっ!」 翌日
真姫「やっと今日から、2人とも練習に復帰するのね」
絵里「ええ、ごめんなさい。亜里沙の風邪が、思いのほか長引いちゃって……」
絵里「でも、もう大丈夫よ。だから、私も今日からは練習に参加できるわ」
真姫「そう、治ってよかったわね。できれば事前に、いつ戻ってくるかくらい連絡して欲しかったけど」
真姫「で? にこちゃんは?」
にこ「ママの仕事、やっと修羅場が終わったみたいでね。今日からは早く帰ってこれるらしいのよ」
にこ「いや、ついさっきママから連絡があってね? もっと早く真姫ちゃんに伝えられたらよかったんだけど……」
真姫「そう、まあいいわ」
真姫「2人がBiBiのことを忘れちゃったわけじゃないみたいで、私も安心ね」ツンッ 絵里「ごめんなさいね。ずっと真姫のことを、ほったらかしにしてしまって」
にこ「私も悪かったわ。いくら忙しかったとはいえ、真姫ちゃんに連絡する時間くらいあったのに」
絵里「ほんとにね。真姫には、さみしい思いをさせちゃったわ」
真姫「別に私は、そういうことが言いたいんじゃないわよ!」
真姫「もうライブまで時間がないってのに、3人そろった練習がろくにできてない現状を憂慮してるの!」
絵里「そうね。そうやって真姫は、いつも私たちのことを考えてくれるわね」ナデナデ
にこ「真姫ちゃんには心配かけちゃったわね。でも、もう大丈夫だから」ナデナデ
真姫「なでないでっ!」 真姫「……別に問題ないわよ。本当のこと言うと、2人ともそんなに後ろめたく思う必要なんてないの」
真姫「さっきは当てつけみたいなこと言っちゃったけど、ちゃんと分かってるから」
真姫「妹が、家族が大変だったんだから、そっちを優先するのは当然のことよ」
真姫「私は高校生で、もう大人なの。2人に構ってもらえないからって、拗ねるような年じゃない」
真姫「それに、どうせ私は妹ってわけじゃないし……」ボソボソ
絵里「真姫!」ギュッ!
真姫「ちょ、ちょっと! なによ、いきなり!」
にこ「真姫ちゃん、なんでBiBiのメンバーがこの3人になったか知ってる?」
真姫「え? 私は、このメンバーでミニユニットを組むことになったって聞いただけなんだけど……」
真姫「上級生で話し合ったんじゃないの?」 絵里「ええ、私と穂乃果と海未がそれぞれ曲を思いついたから、ミニユニットを作ることにして……」
絵里「そのとき、1年生は全員バラバラのユニットにしようって話になったの」
にこ「絵里が作る曲のイメージに近いってことで、私がまずメンバーに決まったのよ」
にこ「それで次に、1年の誰を3人目のメンバーにするかってのを絵里と話し合ったんだけど……」
にこ「まあ、実際は何も話し合ってなんかないのよね」
真姫「え? どういうこと?」
絵里「私が『真姫よね?』って聞いて、にこが『そうね』って答えて、それで終わり」
にこ「そうだったわね。その一言だって、こいつ何をわざわざ聞いてるのかしらって思ったくらいよ」
真姫「なんでよ!? もっとちゃんと話し合いなさいよ! 重要なことでしょ!?」
絵里「そのときの私は、真姫しかないと思ったのよ」
絵里「そしてそれは、今まで一度だって変わってはいないわ」
にこ「花陽は同じアイドルオタクで一緒にいて楽しいし、凛とバカやってるのも悪くないんだけど……」
にこ「なんでかしらね? このユニットのメンバーは、真姫ちゃん以外にありえないと思ったの」 絵里「ねえ、真姫。亜里沙よりもあなたの方が大切だとは言わないわ」
絵里「でも、私は真姫を選んだの。同じユニットの、かけがえのないメンバーとしてね」
にこ「そりゃあ妹たちのことは大事よ。他と比べられるようなものじゃないわ」
にこ「でもね、あの子たちはパパとママが私にくれたもので、私が自分で選び取ったものじゃないの」
にこ「だからね、真姫ちゃん。どうせ自分は妹じゃないなんて、そんな悲しいこと言わないで」
絵里「そうよ、真姫。陳腐な言い方になってしまうけれど、あなたのことを妹と同じくらい大切に思っているわ」
絵里「私たち3人、生まれた日は違えども、死ぬときは一緒よ」
にこ「あ、なんか聞いたことあるわ、それ。三国志だっけ?」
真姫「桃園の誓いね。……でも、なんとなくBiBiは魏っぽい気がするのよね」
絵里「そう?」 真姫「ええ、主人公っぽい穂乃果がいるPrintempsが蜀かしら。……だけど、関羽は海未よね?」
真姫「なら、いっそのこと2年組を蜀にして……。って、急に何の話をしてるのよ!?」
にこ「いや、一番に熱心に話してたのは真姫ちゃんだと思うわよ?」ネ?
絵里「ほんとにね。三国志とか好きなの?」
真姫「べ、別に普通よ! 真姫ちゃんの知的なところが、つい顔を見せちゃったってだけよ!」
絵里「ふふ、やっぱり真姫は可愛いわね。好きなことに夢中になってる顔とか最高よ」
にこ「三国志はあんまり興味なかったけど、真姫ちゃんが好きなら勉強してみようかしら」
真姫「さ、さっきからなによ! 私をどうしたいの!?」ヴェエ!
真姫「私が拗ねてるからって、機嫌でも取りたいわけ? そうだとしたら、お生憎様ね!」
真姫「そんな褒め殺しみたいなことしても、この真姫ちゃんは騙されたりなんかしないんだから!」 絵里「そんなんじゃないわ。ただ私は、自分の気持ちを素直に言葉にしてるだけよ」
絵里「真姫のことが大切だって気持ちをね」
真姫「ヴェエエ!」
にこ「せっかく褒めてるんだから、素直に受け取りなさい。まあ、そんなとこも可愛いけどね」
にこ「ていうか、分かってたけどやっぱり拗ねてたんじゃない」
真姫「ヴェエッ!」
絵里「亜里沙と違って素直じゃないのもいいわね。わざわざ言うまでもないけど、やっぱり――」
にこ「チビたちと違って年が近いのも悪くないわね。前からずっと思ってたけど、やっぱり――」
絵里にこ「「真姫は私の妹ね」」
絵里「え?」
にこ「ん?」 絵里「にこ、あなたにはもう2人も妹さんがいるでしょう? ここはバランスを考えても、私に譲るべきよ」
にこ「絵里、あんたはずっと1人の妹の姉でしょ? 妹も2人いると違うのよ? ベテランの私に譲りなさい」
絵里「ベテランって言うなら、私は亜里沙が生まれてから今までの15年も姉としてのキャリアがあるのよ?」
絵里「あらあら、にこの妹さんたちはいくつだったかしら? これはもう、どうすべきか明白よね?」
にこ「分かってないわねえ。妹が2人と1人じゃ、姉としての経験に致命的な差があんのよ。質が違うの」
にこ「それに15年ってのが自慢みたいだけど、あの子たちは双子なんだから2倍にできるのよ」
にこ「虎太郎の分も入れたら、私は30年くらいあるんじゃない? これはもう決まったわね」
絵里「は?」
にこ「あ?」 絵里「優秀な真姫の姉には、それ相応の能力が求められると思わない? それこそ、私みたいな」
絵里「にこ、あなたの成績はどれくらいだったかしら? 生徒会に所属していたことはある?」
絵里「本格的に踊りを学んだ経験は? 歌唱力は? スタイルだってよくないとねえ?」
絵里「ああ、そうだ。なんだったら、今度のマラソン大会で勝負してあげてもいいわよ?」
にこ「そうやってスペックばっか自慢するところが浅いのよ。大事なのは妹のために何ができるかでしょ?」
にこ「あんたも苦手ってわけじゃないみたいだけど、家事の腕なら私の方が確実に上よ」
にこ「それに、チョコレートの玩具を食べて喜んでるようなポンコツが姉じゃあねえ」
絵里「妹に勉強のこと聞かれても、何も教えられないんじゃ困るわよ? 2人で並ぶと、逆に妹みたいに見えるのもね」
絵里「赤点なんて取っちゃうような、ちんちくりんな姉ってのはどうなのかしらねえ」
にこ「暗いとこでビビり散らして、チカチカ鳴いてるどっかのポンコツよりはマシじゃないかしら?」
絵里「あん?」
にこ「おん?」 真姫「もうっ、2人ともやめなさいよ!」ニコニコ
真姫「この真姫ちゃんを妹にしたいのは分かるけど、私のために争わないで!」ペカー
絵里「え、ええ」
真姫「私の姉になれるなんてすっごく光栄なことだから、2人が夢中になっちゃうのも分かるわ」ニコニコ
真姫「だけど、喧嘩なんてしちゃダメでしょ? 仲良くしなきゃ!」ペカー
絵里(こんな満面の笑みの真姫は初めて見たわ。すごく可愛いけど、何が起こってるの?)
にこ(写真とか撮りたいわね。動画でもいいけど。これを残せないのは、世界の損失よ?)
真姫「まあ、こんなに可愛い真姫ちゃんを取り合いたくなっちゃうのは仕方ないことよ?」ニコニコ
真姫「でも、今は練習の時間なんだから真面目にやらないと」ニコニコ 絵里(なるほど。私たちに取り合われたのが、よほど嬉しかったのね)
絵里(なんとか台詞にはそれが出ないようにしてるみたいだけど……)
にこ(逆に口から出ること以外には、まるで気を使えてないじゃない)
にこ(表情といい仕草といい、大好きが溢れてるわ!)
真姫「ちょっと! にこちゃん、聞いてるの?」ニコニコ
にこ「ああ、うん」
真姫「もう、仕方ないんだから。仲直りできたんなら、さっそく練習しましょう?」ニコニコ
真姫「ほら、屋上に行くわよ! さあ、真姫ちゃんについてきなさい!」ペカー
絵里「……真姫、走って行っちゃったわね」
にこ「今、あの子スキップしてなかった?」 絵里「なんか、あれね」
にこ「ええ、そうね」
絵里「真姫を大切に思ってるって言葉に嘘はないし、あんなに喜んでくれて私も嬉しいんだけど……」
絵里「あそこまで喜ばれると、なんていうか逆に心配になるわね」
にこ「真姫ちゃんちょろいな、ちゃちぃちゅちぇちょ」
にこ「あの子、絶対に合コンとか行かせちゃダメよ。あっという間にお持ち帰りされるわよ」
絵里「ほんとにね」
絵里「それと、さっきはごめんなさいね。調子に乗って、色々とひどいこと言っちゃったわ」ペコッ
にこ「いや、私も悪かったわ。あんたがポンコツって言われるの嫌がってるの知ってたのに」ペコッ ドア「ガチャ!」
真姫「もうっ、何してるのよ! 早く練習するわよ!」ペカー
絵里「走って戻ってきたわね」
にこ「すっごくいい笑顔でね」
真姫「時間は待ってくれないわ。さっそく3人で合わせてみましょう?」ニコニコ
真姫「2人とも、もちろん自主練はしてたわよね?」ニコニコ
絵里「ええ、もちろんよ。でも、3人で合わせるのも久しぶりね。ちょっとワクワクするわ」
にこ「もちろん私もやってたわよ。まあ、やっと3人そろったんだしね。合わせましょうか」
真姫「うんっ! とっても楽しみね!」ペカー ライブ当日 終了直後
絵里「今日のライブは最高だったわ! みんなのおかげね」ハラショー!
にこ「内容も結果も完璧! 何の文句もないわ」ニッコニッコニー!
真姫「それに、すっごく楽しかった! まだ興奮が冷めないわね」デッショー!
にこ「この調子なら、ラブライブ優勝も間違いなしね! μ'sじゃなくて、BiBiで出たっていいくらいよ」
真姫「ふふ、そんなこと言うと、みんなに怒られるわよ?」
絵里「ほんとにね」フフッ
絵里「それで、これからどうする?」
真姫「これから?」 絵里「ええ、家族が来てる子もいるから、みんなで一緒に帰らなくてもいいでしょう?」
絵里「とりあえず集まって何か締めの言葉でも言ったら、そのまま現地解散かなって」
にこ「そうね。うちはママがチビたちを連れて応援に来てくれてるから、そうしてもらえると助かるわ」
絵里「じゃあ、そうしましょうか」
にこ「絵里、あんたはどうするの?」
絵里「亜里沙が、雪穂ちゃんと一緒に来てるはずなのよ。穂乃果のご両親に連れてきてもらったらしくてね」
絵里「ご迷惑でなかったら、帰りは私も送ってもらおうかしら?」
にこ「それでいいんじゃない? で、真姫ちゃんは?」
真姫「私は誰も来てないから、電車でも使って帰るわ」フンッ
にこ「花陽か凛あたりと一緒じゃダメなの?」
真姫「さっきチラッと見たけど、2人とも家族といたわ。噂のお兄さんとお姉さんたちに、慰められてたみたいで……」
真姫「部外者の私が邪魔しちゃ悪いし、やっぱり1人で帰ることにするわ」 絵里「真姫……」
真姫「なによ、私だって1人でも電車くらい乗れるわ! いざとなれば、タクシーを使ったっていいし!」
にこ「いや、誰もそこは心配してないわよ?」
真姫「もうっ! 2人とも私の心配してる暇があったら、さっさと妹さんのとこに――」
真姫ママ「あっ! 真姫ちゃん、みいつけた!」ギュッ!
真姫「な、何!? えっ、ママ!?」
真姫ママ「そうでーす! ママですよー」
真姫「な、なんで!? 今日はパパと仕事なんじゃ――」
絵里「よかった。真姫のご家族もちゃんと来てたのね」
にこ「なあんだ。心配して損しちゃったわ」
真姫「いや、これは何かの間違いで――」 絵里「初めまして、お母さま。絢瀬絵里です。娘さんには、いつもお世話になっております」ウフフ
にこ「矢澤にこです。真姫さんは1年生なのにしっかりしてて、つい私たちも頼っちゃうんですよ」オホホ
真姫ママ「いえいえ、こちらこそ。うちの真姫ちゃんが、とっても可愛がってもらってるみたいで」アハハ
真姫「やめて! お願いだから、やめて!」カァアア
絵里「真姫、どうしたの? 顔が真っ赤よ?」
にこ「まあ、分かるわ。親と友達が話してると、なんか恥ずかしいわよね」
絵里「ふふ、じゃあこれくらいにしようかしら。15分くらいしたら集まって、それから解散でいいわよね?」
にこ「ええ、分かったわ。真姫ちゃんも、それまでママに甘えときなさい」
真姫「はあ!? 私は別に――」
絵里「お母さま、それでは失礼します。慌ただしくて申し訳ありませんが、妹を待たせていますので」
にこ「それでは、私もおいとまさせていただきます。お母さま、またお話させてくださいね」
真姫ママ「ええ、よかったら今度にでも我が家に来てちょうだい? 真姫ちゃんもきっと喜ぶわ」
真姫「聞いて!」 真姫「2人とも、言うだけ言って行っちゃうんだから……」
真姫「っていうか、ママ! 今日はパパと一緒に行かないといけないとこがあったんじゃないの!?」
真姫ママ「ええ、そうなのよ。せっかくの日曜日なのに、お仕事なんてイヤよねえ」
真姫「だったら、なんでここにいるのよ!?」
真姫ママ「ついさっきまで、ちゃんと働いてたのよ? ほら、あそこでね」ホラ
真姫「え? ……あそこって、あの隣にある病院のこと?」
真姫ママ「そうよ、ライブ会場が近くてよかったわあ」
真姫「近いっていうか完全に隣じゃない。偶然? いや、まさか――」
真姫パパ「ただの偶然だ。それ以外にないだろう」
真姫「パパ!?」 真姫パパ「仕事が早く片付いたから帰るつもりだったんだが、真姫のライブがあると彼女が言い出してな」
真姫パパ「幸い今日すべき仕事はもうないし、どうしても行きたいと彼女が強く言うから来たんだよ」
真姫パパ「ふう、まったく。明日からも忙しいから、家でゆっくりと休みたかったのだが……」
真姫ママ「その割には、あなたも真姫ちゃんを見て盛り上がってなかったかしら?」
真姫パパ「あれは場の空気にあてられて……。いや、というか、私はTPOを考えた行動をしただけだ!」
真姫「えっ、ライブも見てたの? ついさっきまで働いてたとか言ってなかった!?」
真姫ママ「ちゃんと見てたわよ。ペンライト振ってアピールしたのに、気づいてくれなくてママ悲しかったわ」ピエン
真姫パパ「用事なら3時間前には終わっていたぞ?」
真姫「それじゃあ最初からいたってことじゃない!」 真姫「まさか、パパとママがたまたま近くに来てるなんて……」
真姫ママ「あら、真姫ちゃん。それは本当にたまたまかしら?」
真姫「え?」
真姫ママ「今日の仕事って、パパが決めたのよ?」
真姫ママ「真姫ちゃんがライブをする日に、真姫ちゃんがライブをする会場のすぐ隣の病院に行くってね」
真姫パパ「……何が言いたいんだい?」
真姫ママ「いーえ、すごい偶然だなあって思っただけ」
真姫パパ「……まあ、そういう偶然もあるだろう」 真姫ママ「そう言えば、あちらの先生が喜んでたわね。こんなに早く来てもらえるとは思わなかったって」
真姫ママ「元々の予定では、来月に行くはずだったんでしょ?」
真姫パパ「早いに越したことはないだろう? ちょうど今日は他に予定もなかったしな」
真姫ママ「用事が済んで病院を出たとき、隣で何かあってるみたいだってあなたの方から言ってきたわよね?」
真姫ママ「普段はそんなこと気にする人じゃないのに、そわそわして可愛かったわあ」
真姫パパ「人がたくさん集まっているようだったから、少し気になったんだよ。別に他意はないさ」
真姫ママ「でも、それを聞いた私が、そうねえって答えて車に向かおうとしたら……」
真姫ママ「確か隣で真姫がライブをしてるんじゃないかって、そう言ったのもあなたからだったわよ?」
真姫パパ「そ、それは……。そう、君が何度も言っていたから、たまたま覚えていたというだけだ」
真姫パパ「それで、あれだ。せっかく偶然にも近くに来ているのに、見に行かなかったら君が残念がると思ったんだよ」 真姫ママ「へー、ふーん、そうなんだあ」
真姫パパ「ああ、そうだとも。きっとそうに違いないさ」
真姫パパ「それとも何かい? 君はこう言いたいのかな?」
真姫パパ「私が意図的に真姫のライブの日時と場所に合わせて、今日する仕事をあれに決めたと」
真姫パパ「本当は真姫のライブに行きたくて仕方ないくせに、自分からは言い出せない小さな男だと」
真姫パパ「それで大切な仕事を口実にして、やむなくライブに来たふうを装った卑怯者だと」
真姫パパ「そのくせBiBiのステージでは、夢中で赤いペンライトを振り回してんじゃねえぞと」
真姫ママ「いや、そこまでは言ってないわよ?」
真姫パパ「まったく、この私がそんなことをするわけがないだろう。それらはすべて君の勘違いだ」 真姫パパ「そもそも、前提からして間違っているんだよ」
真姫パパ「確かに私は、真姫のアイドル活動を認めた。きちんと成績を維持しているようだったからな」
真姫パパ「だがな、別に私は、真姫のライブに興味なんかないんだ!」
真姫「なっ!? べ、別に私だって、パパにライブに来て欲しくなんかなかったわよ!」
真姫パパ「そうか。今日は彼女の付き添いで来たに過ぎんが、来ない方がよかったかな?」
真姫「そうよ!」
真姫「……なによ、ママだけじゃなくてパパも来てくれたって喜んだ私がバカみたいじゃない」ボソボソ
真姫パパ「……喜んだ?」
真姫「え? あっ、それは言葉の綾っていうか……」 真姫「べ、別にいいでしょ! というか、親が来たことを喜んで何が悪いのよ!」
真姫パパ「……いや、何も悪くないさ。悪いのは私だな。まったく、昔からの悪い癖だ」
真姫パパ「すまない、真姫のライブに興味がないというのは虚言だよ」
真姫パパ「素直に言うのが恥ずかしいだなんて、この年になって我ながら情けないな」
真姫パパ「なあ、真姫。私は今日、真姫のライブが見たくてここに来たんだ。来てよかったと思っているよ」
真姫「ヴェエエッ!? な、なんで急に自分だけ素直になってるの!? ずるいわよ!」
真姫「……わ、私もパパが来てくれて嬉しかった。……ありがと」
真姫ママ「尊い」ツー
真姫「マ、ママ!? どうしたの?」
真姫パパ「な、なんで泣いてるんだ?」 真姫ママ「この瞬間、ここはこの世で最も尊い場所よ。ああ、ツンデレの神に感謝します」
真姫「ツンデレの神? うちって、そんなおかしな宗教やってたの?」コソコソ
真姫パパ「いや、そんな神は初耳だが」コソコソ
真姫ママ「ツンデレと愛し合ってツンデレを産む。そして、ツンデレと一緒にツンデレを育てる」
真姫ママ「そうして、2人のツンデレが創り上げたツンとデレが織り成す奇跡を、誰よりも近くで見守ることができる」
真姫ママ「ああ、私はこのために生まれてきたのね」ツー
真姫「ねえ、パパ。ママはどうしちゃったの?」
真姫パパ「……まあ、安心しろ。彼女は私が出会った頃から、たまにこんなふうになることがあるんだよ」
真姫「今の説明に安心できる要素あった?」 真姫ママ「それにしても、あなたたち2人はよく似てるわね」フフフ
真姫パパ「そうかい? むしろ真姫は君によく似ていると思うが」
真姫「そうよ。ことりと理事長ほどじゃないけど、私もママの方に似てると思うわ」
真姫ママ「外見じゃなくて、内面の話よ。ツンデレって遺伝するのね」
真姫パパ「性格の形成には、遺伝的要因と環境的要因のそれぞれが影響を与える。遺伝のせいだとするのは早計だ」
真姫パパ「そもそもとして、私は君が言うツンデレとやらがよく分からないんだが……」
真姫「パパの言う通りよ。ママも医者なら、もっと科学的な発言をしなきゃね」
真姫「というか、私はツンデレなんかじゃないわよ!」
真姫ママ「やっぱり似てるわ。なんて尊いのかしら」ツー
真姫「また泣いた!?」ガーン そうか親から受け継いだツンデレでそれは母親の計画だったのか 真姫パパ「なあ、真姫。そろそろ集まる時間じゃないのか? 彼女のことは私に任せて、真姫は行っておいで」
真姫「え? ……ああ、そうね。そろそろ行かないと。ちょっとしたら戻ってくるから、それまで待って――」
亜里沙「真姫さん、ちょっといいですか?」
真姫「はい? 亜里沙ちゃん?」
こころ「私たちもいますよ!」
ここあ「そうだ! いるぞー」
真姫「にこちゃんのところの2人まで……。な、なんで?」
真姫パパ「お迎えかい?」
真姫「この3人が? それはなんか変な気がするけど……」ウーン?
真姫「まあ、いいわ。行ってくるわね」
真姫パパ「ああ、待っているよ」
真姫ママ「この後、美味しいものを食べに行きましょう?」
真姫「ええ、すぐに戻るわ」 真姫「それで? 亜里沙ちゃんたちは、迎えに来てくれたの?」
亜里沙「いいえ、そういうわけじゃなくて……」
こころ「私たちから、真姫さんに言っておきたいことがあるんです」
真姫「私に? でも、ちょっと今から集合しないといけないんだけど……」
ここあ「大丈夫だよ。すぐに済むから」
真姫「そうなの? まあ、ならいいわ。じゃあ、話してくれるかしら?」
亜里沙「はい。……お姉ちゃんは、私のお姉ちゃんなんです!」
こころ「そうです! お姉様は、私たちだけのお姉様です!」
ここあ「そうだ! にこにーは、私とこころと虎太郎のお姉ちゃんなんだからな!」
真姫「え、ええ、そうね。いや、えっと、そんなことは分かってるけど?」 こころ「いいえ、真姫さんは分かっていません!」
こころ「最近のお姉様は、事あるごとに真姫さんの話ばかり。あまつさえ、真姫さんを妹にしたいなどと……」
こころ「これは、本物の妹である私たちへの最大級の侮辱です! 断じて看過できることではありません!」
こころ「ああ、お姉様! 私たちだけでは足りないとおっしゃるの?」
亜里沙「私のお姉ちゃんもそうなんです! 『真姫が姉になったらどう思う?』とか聞かれても困ります!」
亜里沙「看病してくれてるときも、1人で練習してる真姫さんが心配だって何回も言ってて……」
亜里沙「せっかく2人っきりなのに、他の妹の話するなんてひどい!」
亜里沙「風邪が長引いたのも真姫さんのせいです! 一緒にいて欲しくて、まだきついって嘘ついちゃったし」
ここあ「お姉ちゃん、前はよく遊んでくれたのに、最近は忙しいみたいであんまり構ってくれないんだ」
ここあ「いや、それは別にいいんだよ? アイドルやってるにこにーは、すっごく楽しそうだし……」
ここあ「でもさあ、外に偽物の妹を作るってなったら話は違ってくるじゃん!」
ここあ「ただのバックダンサーだと思ってたのに、いつの間にこんなことになってるの!?」 真姫「なるほどね。何が言いたいかは理解したわ」
真姫(どうせ私は妹ってわけじゃないとか言って、この子たちに嫉妬して拗ねたこともあったけど……)
真姫(あっちはあっちで色々とあるのね。隣の芝は青いってところかしら?)
真姫(まあ、いくら相手が年下だからって、大人しく引き下がるような真姫ちゃんじゃないわよ?)
真姫「でも、それは私のせいじゃないわ。あの2人が、私の魅力にやられちゃったってだけでしょ?」ネエ?
真姫「魅力的なのが悪いとか言われても困るわね」フフーン
真姫「それに、確かに私は偽物の妹よ。でもね、偽物が本物に敵わないなんて道理はないの」
真姫「むしろ偽物の方が価値があるわ。そこに本物になろうという意志があるだけ、偽物の方が本物より本物なのよ」
真姫「あなたたちが本物だというのなら、私がすべてを凌駕して、その存在を叩き堕としてあげましょう」
真姫「ああ、それとも、『真姫ちゃんったら、本物より可愛くってごめんね』とでも謝るべきかしら?」ニヤニヤ
こころ「亜里沙さん! こいつ、生意気にも開き直りやがりましたよ!」
真姫「こいつ!? 生意気にも!?」ガーン
ここあ「亜里沙さん! このメスガキに、しっかり分からせてやろう!」
真姫「メスガキ!? 分からせる!?」ガーン 真姫「さ、最近の小学生は恐いわね。私に何する気なのよ?」
亜里沙「真姫さんには、私たちでお仕置きします! お尻ペンペンです!」
亜里沙「いっぱい叩いて、私のお姉ちゃんを取ろうだなんて二度と思わないようにしてあげます!」
真姫「お尻ペンペン? あなた、来年には高校生になるんじゃなかった?」
亜里沙「はい! 音ノ木坂に行くつもりです。よろしくお願いします、真姫先輩!」ペコッ
真姫「ま、真姫先輩!? ま、まあ、この真姫ちゃんが先輩として色々と教えてあげてもいいわよ?」テレテレ
真姫「……って、今はそういう話の流れじゃなかったでしょう!」
真姫「中学3年にもなって、お尻ペンペンはないでしょって言ってるの!」 亜里沙「でも、今でもときどきお尻ペンペンされますよ?」
真姫「亜里沙ちゃんが? 絵里にされるの?」
亜里沙「はい、そうです。この前も、お姉ちゃんのチョコレートを食べちゃって……」
亜里沙「わざとじゃないんですよ? でも、3日連続だったから……」
真姫「3日連続!? えぇ、本当にわざとじゃないの?」
亜里沙「もちろんです! チョコレートがすごく美味しそうだったから、つい食べちゃったんです」
亜里沙「『これ、お姉ちゃんのだ!』って気づいて謝ったら許してくれたけど、3回目はダメでした」ショボーン
亜里沙「だから、真姫さんのお尻も、いっぱいペンペンしますね!」
真姫「その『だから』がどういう意味なのかは疑問だけど、今は聞かないでおくわね」 真姫「ところで『いっぱい』って話だけど、私は何回くらい叩かれちゃうのかしら?」
亜里沙「3回です! チョコレートのとき、お姉ちゃんが私を叩いたのも3回だったから」
亜里沙「あっ! でも、こころちゃんとここあちゃんもいるから、みんな合わせて9回になります」
亜里沙「へへっ、μ'sの人数と同じですね♪」ペカー
真姫「そこで無邪気に笑えるその感性は、ちょっと共感しづらいわね……」
真姫「まあ、叩く気になってるとこ悪いけど、私は逃げさせてもらうわ」
真姫「叩かれるなんてごめんだし、年下のあなたたちに私がお尻ペンペンされてる絵面はかなりあれだろうから」ダッ
こころ「あいつ、逃げましたよ! 待ちなさい!」ダダダッ
ここあ「愉快にでかいケツ振って、誘ってんのかあ!」タタタッ
亜里沙「待ってー、2人とも置いてかないでー」トタタタ
真姫「追いつけると思ってるの? 私はμ'sで9番目に速いのよ!」
真姫「誰よりも先に私の2人のお姉ちゃんのところに行くのは、この真姫ちゃんなんだから!」 まきちゃん可愛い
持ち帰りされないためにもしっかりとしたお姉ちゃんがついていて欲しい TPOを考えた行動 → 夢中で赤いペンライトを振り回す
真姫パパも可愛すぎか
さすが俺の義父になる男なだけはあるな ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています