梨子「どこまでも沈んで」曜「どこまでも溶けて」
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———
梨子(こうして、私と曜ちゃんの二人だけの共同生活が始まりました)
梨子(最初はすっごく楽しかった。何もかもが新鮮で、大変なこともあったけど、私と曜ちゃんは二人の力でどんな困難も乗り越えていける気がしてたし、そうやって悪戦苦闘をしながら……)
曜「……ねえ、梨子ちゃん?」
梨子「んー?なあに、曜ちゃん?」ナデナデ
曜「えっと、その……」
梨子「んー?」
曜「……そんなに私のことモフモフしてて、気持ちいい?」 梨子「んー?どうして?」ナデナデ
曜「いやだって、それは……」
梨子「うん」
曜「さっきからずっと、私のこと抱きしめて離さないから……」
梨子「……嫌?」
曜「あ、いや、別に嫌ってわけじゃ……」
梨子「じゃあいいじゃない。曜ちゃんって抱きしめるとすっごく気持ちがいいのよ」
梨子「ねえ、曜ちゃんも私のことぎゅーってしてみてよ!そしたら私の気持ちわかるかもよ?」
曜「ええっ!?い、いいの……?」
梨子「うん、私、曜ちゃんに抱きしめてもらいたい。ぎゅーってしてもらいたいから」 曜「じゃ、じゃあ……」
ギュッ
曜「……//」
梨子「……ふふっ♪」
ギュギュッ!!
曜「わあっ!!?梨子ちゃん!?く、苦しい……」
梨子「……曜ちゃん、大好き」
梨子「大好きよ、曜ちゃんのこと」
曜「あ、うん……」
梨子「……曜ちゃんは?」
曜「え……?」
梨子「私のこと、ちゃんと好き……?」 曜「梨子ちゃん……」
梨子「……」ギュッ
曜「……」
チュッ
曜「うん、大好きだよ、梨子ちゃんのこと」
梨子「曜ちゃん……」
曜「だ、だからさ、そろそろ離して……」
梨子「……いーや」
チュッ
曜「んなっ!?//」 梨子「もっと言ってくれるまで離さない。私が満足するまで好きって言ってくれないと離さないから♪」
曜「えええっ!?ちょっと、梨子ちゃん!!?……きゃっ!!梨子ちゃん!!そこ、弱いからっ!!やだっ!!」
梨子「ほーら、好きって言ってくれるまでやめないんだからねっ、それっ♪」
曜「きゃっ!わかった!!言う!!言うからぁ!!好き!!好きだよちゃんと!梨子ちゃんのこと!!」
梨子「ふふっ、曜ちゃんったら、可愛い♪」
曜「梨子ちゃん……//」
梨子(……そう、最初の一年間は、すごく楽しかった) ———
〜浅草寺〜
曜「すごい、ここが浅草……」
曜「ニュースで見たことはあったけど、ほんとにこんな場所が東京にもあったんだね……」
梨子「え?どうして?」
曜「いや、だって東京ってビルみたいなのばっかだと思ってたから……」
梨子「もう、そんなことないわよ。静岡だって内浦みたいなところもあれば沼津みたいなとこだってあるでしょ?」
曜「確かに……でも……」
ザワザワ
曜「……やっぱり人は多いんだね。さすがは東京」 梨子「そうね、たくさんの人が暮らしてるものね」
曜「うわぁ〜……」ポカーン
梨子「……うふふっ」
曜「ふえっ!?梨子ちゃん!!?どうして笑ったの!!?」
梨子「だって曜ちゃん、まるで御上りさんみたいで」
曜「そりゃまあ、私は元静岡県民だし、静岡育ちだし……」
梨子「ふふっ、そうね、じゃあ東京に関しては私の方が先輩ってことね」
ギュッ!
梨子「なんか嬉しい。ほら、曜ちゃんのこと私がリードしてあげられるのって、なんとなく新鮮だから!」
曜「り、梨子ちゃん、その手は……//」
梨子「これ?迷子にならないためよ。この人込みじゃもう二度と会えなくなっちゃうかもよ?」
曜「い、いや、そんなことしなくても携帯あるから……」
梨子「ほーら、行こっ♪せっかく二人で来れたんだもん!思いっきり楽しまなくちゃ!」
テテテッ!
曜「ああっ!?梨子ちゃん!?手つないだまま走られると……!!」 梨子「あっ!見て見て曜ちゃん!ほら!頭の良くなる煙だって!!」キャッキャッ
曜「ほ、ほんとだ、浴びるだけで頭良くなれるって……」
梨子「ね〜、すごいよね〜」
曜「……っていうかさっきからテンション高くない?梨子ちゃん」
梨子「えー?そうかなぁ……?」
曜「いや絶対そうだって。そんなに楽しみだったの?ここ来るのが」
梨子「……ううん、違うわよ」
ダキッ!
梨子「曜ちゃんと二人でいるから楽しいのよ、私♪」 曜「り、梨子ちゃん……苦しい……」
梨子「だってくっつきたかったんだもん♪」
曜「で、でも、周り、みんな見てるっていうか、恥ずかしいっていうか……//」
梨子「いいじゃない別に、悪いことしてるわけじゃないでしょ?」
曜「そ、そうだけど、でも……」
梨子「むぅ……」
プイッ!
梨子「曜ちゃん、私と一緒のとこ誰かに見られたくないの?」
曜「ふえっ!?」
梨子「私と一緒のとこ見られちゃうのは……嫌?」 曜「べ、べつに、嫌じゃないっ!けど……//」
梨子「けど……?」
曜「う、うううっ……//」
梨子「……」ジーッ
曜(り、梨子ちゃん……そんな顔で見つめないでよ……)
曜「……//」
梨子「……なーんてね♪冗談よ」
曜「もうっ!からかわないでよっ!!こっちは結構本気で悩んでたんだからね!!」
梨子「えー?だって真剣な曜ちゃんのお顔、すっごく可愛いんだもーん」
曜「ま、またそうやって適当に……」プクーッ
梨子(……でも、それでもいつの日か、曜ちゃんに胸を張って自慢してもらえる素敵な彼女に)
梨子(私だっていつか成れたりは……するのかな?) 梨子「……ふふっ♪」
曜「ふえっ!?今度は何!!?いったいどこからからかわれ……」
梨子「しないわよ、ほら、日が暮れちゃうから早く行きましょ?」
ギュッ!
曜「あ、うん……」
曜(……結局右腕は放してくれないんだね、私、結構恥ずかしいのに)
………
… 梨子「ふぅ……」
曜「ほぁ〜……」
梨子「やっぱり疲れちゃうわね、人込みに当てられると……」
曜「うん、でも出店とかいっぱいあって人も多くて……」
曜「なんか私、子供の頃の夏祭りを思い出しちゃったかな……ほら、沼津の、中央公園のやつ」
梨子「……」
梨子(沼津……)
曜「あ、そっか。梨子ちゃんこっち育ちだから知らないのか、ごめん……」
梨子「……」
ズキリ
曜「ほぁ……」
梨子(……こうやって曜ちゃんの何気ない一言が、私をいつも傷つけるのです) 梨子(そんな風に考えちゃダメ、曜ちゃんはそんな意味で言ってるわけじゃないってことくらい、私はずっとわかってたけど、でも……)
梨子(……やっぱり私はズルくて、可愛げのない女の子でした)
曜「……」
梨子「……」
曜「ふわぁ〜……」
曜「ん〜、風が気持ちいいね〜!!」
梨子「……」
曜「東京にもこんな川があるなんてね〜、沼津の頃を思い出すよ〜」
曜「ね〜、梨子ちゃん?」
梨子「……うん」
曜「ほわぁ〜……」
梨子「……」
曜「……今度はみんなで来たいかな、私は」
梨子「えっ……?」 曜「いつかみんなで。私たち今は東京でみんなとは離ればなれになっちゃってるけど、でも……」
曜「……またいつかみんなで会えるといいね。ね、梨子ちゃん?」
梨子「……うん」
梨子(寂しそうに水面を見つめる曜ちゃんに対して、私は力のない笑顔を返しました) ———
大学二年生 4月
梨子「え?果南ちゃんが?」
曜「うん、私の誕生日お祝いしに来てくれるんだって、東京に」
梨子「へぇ〜、良かったわね曜ちゃん、久しぶりに果南ちゃんに会えるなんて」
梨子(このセリフも嘘だった。本当はすっごく不安だった)
梨子(沼津を飛び出して以来曜ちゃんには出来る限りみんなのことは触れないようにしてきたの。だって曜ちゃんの心はあの時から完全に修復したわけじゃなかったと思うし、もしまた曜ちゃんの心が誰かになびいちゃったのなら、その時に壊れちゃうのは、きっと私の心の方で……)
梨子(特に果南ちゃんは千歌ちゃんと曜ちゃんと合わせて三人の幼馴染だったし、なおさら千歌ちゃんのことを、トラウマを想起させちゃうんじゃないかと思った)
曜「うん!すっごく楽しみ!!それでね、だから明日の夜ご飯は……」
梨子「……ねえ曜ちゃん、私も行っていいかな?果南ちゃんに会いに」 曜「え?でも……」
曜「……居酒屋だって言ってたから、きっと梨子ちゃんは楽しめないかもだよ?」
梨子「ううん、いいの。私は飲まないから、それなら大丈夫でしょ?」
曜「え?まあ、法律的には、大丈夫だと思うけど、多分……」
ギュッ!!
梨子「お願い曜ちゃん!私だって曜ちゃんのお誕生日一緒にお祝いしたいって思ってるから!この気持ちをみんなと共有したいの!」ウルウル
梨子(本当は曜ちゃんを守ってあげるためだったけど、本心は曜ちゃんを奪うためでした)
曜「ま、まあ……じゃあ果南ちゃんに相談してみるね」
梨子「うん!ありがと!曜ちゃん!!」 果南「ぷはぁ〜!!」
ドン!!!
果南「うまい!お姉さん!!お代わりお願いします!!」
梨子「もう、飲みすぎじゃない?果南ちゃん……?」
果南「これくらいなんのその!だよ!!私はお酒なんかに負けないからね!!」
梨子「で、でも、そんなに激しく飲んでたら、お会計とか……」
果南「ふっふっふっ……それも問題ないのであります!」
曜「あっ!それ私のセリフ!こら!!パクるな!!」ドンドン!!
梨子(曜ちゃんも大分酔っちゃってるなぁ……)
曜「それに果南ちゃんニートじゃん!!お金持ってないじゃん!!」ペチペチ!
果南「こらっ!!ニートとか言うな!!収入がないだけなんだから!!」
梨子「それって立派なニートじゃない……」 果南「ち、ちがっ!!!今日だって!!東京にえいぎょーしに来たんだよ!!ダイビングの!!」
曜「それで、お金のない果南ちゃんはどうやってお会計を済ませるつもりなのかなぁ?」
果南「曜?そんな煽りで私に勝とうだなんて千年早いね!!収入はなくても私の島にはお金はたくさんあるのデース!!」
曜「あっ!またそうやってまた親のスネかじってる!!果南ちゃんってばホント子供
果南「親のスネじゃないでーす!!親友のスネでーす!!」
梨子「それ、余計にたち悪いじゃない……」 果南「ま、曜の方がまだまだお子様だもんね〜、私の方がお酒沢山飲める自信あるし!」
梨子「ちょっと果南ちゃん!?あんまり煽ると……」
曜「あっ!言ったな!!このっ!!私だって!!これこらいでへこたれるほど甘くはないんだよっ!!」グビッ!
梨子「よ、曜ちゃんも!!まだお誕生日迎えたばっかなんだから……」
果南「おっ、いい飲みっぷりだね〜、さすが私の妹分だよ!!よーし!曜!!」
カラン!
果南「杯を乾すと書いて!乾杯と読む!なんちゃって!かんぱーい!!」
曜「かんぱーい!!」
梨子「ちょっと、二人とも〜!!」
………
… 曜「……」
梨子「曜ちゃん、大丈夫……?」
曜「……」コクコク
梨子「……ホントに?」
曜「……」コクコク
梨子「んもう、あんまり無理しないでよね。曜ちゃんが倒れちゃったら、私……」
果南「ふふっ、こういうのは経験ってやつだよ。曜ももっと色んな世界を体験して、大人になりなよ」
梨子「……果南ちゃんはあんなに飲んでも大丈夫なのね」
果南「まあね、鍛え方が違うんだよ」ドヤッ!
梨子「……」
梨子(なんでだろ、あんまりカッコよくない……)
梨子(まあちょっとだけ、果南ちゃんらしい、なんて気もしなくもないけど……) 果南「それに私は曜とは違って介抱してくれる人はいないからね、ちゃんとその辺は弁えとかないと……」
曜「……」コテッ
梨子「わあっ!?曜ちゃん!?」
果南「梨子ちゃん、ほいっ!」
ヒュッ!
梨子「わっ!……え?」
果南「お水。まだ開けてないやつ」
果南「曜が飲めそうだったら飲ませてあげて、きっとその方が楽になると思うから」
梨子「果南ちゃん……あ、ありがと……」
果南「まあね、一応これでも先輩だし」 果南「でも曜は幸せ者だなぁ〜、だって梨子ちゃんみたいな可愛い女の子に介抱してもらえるんだもん」
梨子「も、もう果南ちゃん、からかわないでよ……//」
果南「ん〜?私は結構本気だよ、それに……」
ズイッ!
梨子「!!?」
果南「ん〜……」ジロジロ
梨子「か、果南ちゃん……?」
果南「……うん!やっぱり梨子ちゃん、少し大人になった気がする」
梨子「お、大人に?でも、身長はあれから伸びてないし……」
果南「違う違う、雰囲気?とかの話だよ」 果南「なんかこう、目の光が鋭くなったっていうか、遠くを見てるっていうか……色々あったんだなぁ〜っていうのがすごく伝わってくる」
梨子「う、うーん……」
果南「……ふふっ、そういうこと」
梨子「果南ちゃん……」
梨子(約二年ぶりの先輩との再会は、ミステリアスな雰囲気にはぐらかされ……)
果南「……うん!梨子ちゃんなら任せられるのかも!きっと!」
梨子「任せるって、何を……?」
果南「んー?……手間のかかる、後輩かな……」
梨子「……?」 果南「梨子ちゃんにはわかんないかもだけどね、不器用な後輩を持っちゃうと先輩的に色々と心配なんだよー?それが昔からの妹分だと、なおさらにね」
ピーン!!
曜「んにゃっ!?」グテン!!
梨子「よ、曜ちゃん!!?大丈夫!!?」
果南「ふふっ、梨子ちゃん、曜のことよろしくね?ちょっぴり……ううん、かなりめんどくさいと思うけど、悪い奴じゃないのは確かだから」
果南「というわけで、じゃーねー!!」フリフリ
スタスタ
梨子「あっ!?果南ちゃん!?まだ……」
曜「んあっ!!?」ガタッ!!
梨子「あっ!?ごめん曜ちゃん!!」
曜「……」コクン
梨子「……?」
梨子(結局、果南ちゃんは何が言いたかったんだろ……?) ガチャッ!
曜「……」コテン
梨子「ほーら、曜ちゃん、お家着いたよ?」
曜「う、ん……」コクリ
梨子「もうちょっとだけ、歩ける……?」
曜「……」コクコク
梨子「うん、じゃあリビングまで頑張ろっか?」
曜「……」コクコク テクテク
梨子「……ついた〜!!」
パチッ!
梨子「待ってて曜ちゃん、今お水汲んできちゃうから
ギュッ!!
梨子「……?」
曜「……」
梨子「曜ちゃん……?」
曜「……」
梨子「どうしたの……?」
曜「……一人にしないで」 梨子「う、うん。私はずっと曜ちゃんのそばにいるよ……?」
梨子(ずっとずっと、今も昔もこれからも)
曜「……」
ギュッ!
梨子「わっ!?も、もう、曜ちゃんったら……」
曜「……」
ギュッ!!
梨子「曜ちゃん、大丈夫だよ」ポンポン
梨子(そうやって私は曜ちゃんを包み込んであげるの。もう二度と私のもとから、離れられなくなるくらいに)
梨子「曜ちゃん……」ポンポン
曜「……うそ」
梨子「……え?」 曜「……」
ガバッ!!
曜「……うそ、ついてるでしょ」
梨子「……?」
曜「だってわたし、わたし……!!」
曜「あのときすっごくかなしかった!さびしかった!!」
梨子「曜ちゃん……」
ズキリ
曜「だってずっと一緒だったんだよ!!ずっとずっと、私は、追いかけてきたから……」
梨子「……」
ズキリ
梨子(この時既に私の中には確信がありました。曜ちゃんの瞳の中には誰の姿が写っていたのか)
梨子(曜ちゃんが誰を追いかけていて、本当は誰のことが一番なのか)
梨子(そして私は所詮、代替品に過ぎなかったことに) 曜「小さいころからずっと一緒で、これからもおなじ道がずっと続いて行くんだろうなって思ってて……」
梨子(だめ、やめてよ曜ちゃん。その先は聞きたくない)
曜「このままだったら私の手も届くんじゃないかって、もしかしたら私でも輝けるんじゃないかって、そう思ってたのに……」
梨子(いや、やめてよ!!私はずっと!!そのことから!!目を背けようとしてきたのに!!)
梨子(見たくなかったのに!!本当のことは知りたくなくて!!上辺だけの関係性でもいいって!!そう思って私は曜ちゃんに告白したのに!!)
梨子(なのに、なのに……!!) 曜「なのに、どうして私の手は振りほどかれるの……?どうして私は追いつけないの……?」
梨子「……」プルプル
梨子(やだ!!聞きたくない!!曜ちゃんのホントの気持ちなんて!!知りたくないのに!!)
曜「ねえ、教えてよ、ホントのことを……」
梨子「曜ちゃん、お願い……」
梨子(こんなに近くで抱き合っているのに、誰よりも曜ちゃんのそばでぎゅってしているのに)
曜「ぐすっ……」
梨子(……二人だけのハグは、とてもチグハグなカタチをしているように見えました) ………
…
チュン…チュン…
曜「ん……う……?」
曜「あ、あれ、ここ……」
ズキリ
曜「うっ、頭、いたぁ……」
キョロキョロ
曜(そっか、私、昨日帰ってきてそのままソファで寝ちゃって……)
曜「……あ、梨子ちゃん、おはよ」
梨子「……うん」 曜「あ、その……ご、ごめん梨子ちゃん!!昨日はその、色々迷惑、かけたみたいで……」
曜「……」チラッ
梨子「……ううん、いいの」
曜「そ、そう……」
梨子「……曜ちゃん、朝ごはん、食べられる?」
曜「え?あ、うん、多分……」
梨子「そう、じゃあ早く食べちゃいましょ」 曜「……」モグモグ
梨子「……」モグモグ
曜「……」
梨子「……」
曜(な、なんか気まず……)
梨子「……」
曜(えっと、多分だけど私が酔ってるときになんかやっちゃって、それできっと梨子ちゃんも怒ってる……んだよね?ちっとも記憶にないけど……)
梨子「……」
曜「……」
梨子「……」
曜「……あ、あのさ梨子ちゃ
ガタン!! 梨子「ごちそうさまでした。私今日ちょっと用事あるから、もう行くね?」
曜「い、いってらっしゃい……」
梨子「……」スタスタ
曜「……」 教授「ご存知の方も多いとは思いますが、光や地震波、そしてもちろん音もすべて波の性質を持つ物理現象です」
梨子「……」
教授「全ての波動現象はこの『波動方程式』で記述することができ、時間と空間の二階の偏微分方程式を解けば……」
梨子「……はぁ」
梨子(……私は曜ちゃんが好き。曜ちゃんのことが好き)
梨子(でも曜ちゃんの中にはずっと前から千歌ちゃんがいて、そんな曜ちゃんは私に千歌ちゃんの影を追っていて……)
梨子「……」
梨子(私は曜ちゃんに好きって言って欲しい。好きになってもらいたい) 梨子(そのためには私が千歌ちゃんみたいになるしかなくて、そしたらきっと曜ちゃんだって私のことを心から好きになってくれて)
梨子(でもそれで曜ちゃんが私を好きになったかって言われると、やっぱり曜ちゃんの好きな人はいつまでも千歌ちゃんのままで……)
梨子(でもそうしないと曜ちゃんは振り向いてくれなくて、だって曜ちゃんは私のことなんて一度も見てくれなかったから)
梨子(私は千歌ちゃんにはなれなくて、千歌ちゃんになることになんの意味もなくなって……)
梨子(……ずっと思考が、グルグルしてる) 梨子「やっと授業終わったぁ……」
梨子(ずっと今の曜ちゃんと、それからあの頃の千歌ちゃんが頭の中をぐるぐる巡っていたから、何にも話は頭に入っていない)
梨子(それに、いくら考えたってこの問題には答えが出る気配がなくて……)
梨子「今日も課題やらなきゃ、よね、じゃないと終わんないし……」
スタスタ
梨子「どうしよ、いつものカフェとか……」
ドンッ!
??「んにゃっ!!?」
梨子「わっ!?ご、ごめんなさい!!」
梨子「すみません!!お怪我はありませんか?」
善子「え、ええ、大丈夫よ……」
善子「……ってあれ、リリーじゃない」
梨子「よ、善子ちゃん!!?」 梨子「善子ちゃん!?どうしてここに!?っていうかなんで東京にいるの!?」
善子「こっちの大学に進学したからよ」
梨子「ええっ!?聞いてない!!」
善子「言ってないからね。ってかリリー連絡先消したでしょ」
梨子「あぅ、そ、それは……」
梨子(だってそれは、もし千歌ちゃんと繋がっていたら、きっとあの娘は私に手を伸ばしてくるだろうって思って……)
梨子(私にはその優しさがいたたまれなくて、痛すぎるほどに眩しかったから……)
梨子「ま、まあ、色々あって……」
善子「ふーん……」
梨子「……聞かないの?」
善子「詮索して欲しくないって顔に書いてあるわよ?」
梨子「そ、そう、ありがと……」 善子「それで、曜との関係はまだ続いてるの?」
梨子「ええっ!?どうして曜ちゃんの名前が!!?」
善子「風の噂よ。私はずら丸から聞いたんだけど」
梨子「そ、そうなんだ……」
善子「それにその様子だとまだ続いてるっぽいわね。良かった、地雷踏まなくて」
梨子「うん、まあ、一応まだ関係は続いてる、んだけど……」
善子「けど?」
梨子「……」
梨子「……善子ちゃん、この後時間空いてる?」
梨子「もしよかったら、二人でお茶してかない?」 カランカラン♪
店員「いらっしゃいませ。お好きなお席へどうぞ」
善子「すごい……リリーってば、こういうとこ慣れてるのね……」
梨子「そうね、いつもレポートとかやる時にはお邪魔させてもらってるし……」
善子「レポート……カフェで……な、なんだか、大学生っぽい!!」キラキラ
梨子「そうね、善子ちゃんはまだ課題とか出されてないの?」
善子「私?私はまだ、チュートリアル的なのしか……」
梨子「じゃあもうちょっとしたら課題とかもたくさん出されるようになるのかな?」
善子「じゃあヨハ……こほん、私ももうすぐカフェで物憂げな表情しながらセンチメンタルな気分になって……まさに大学生!大人の仲間入りね!!」
梨子「ふふっ、善子ちゃんはあんまり変わらないわね」
善子「は、はぁ?どこがよ!私はすっごく変わったんだから!!あの頃とは!!」
梨子「うんうん、そういうところとか♪」
善子「もうっ!リリー!怒るわよ!!」プクーッ 善子「……で、そっちはどうだったのよ」
梨子「え?そっちって?」
善子「あんたと曜のことよ。結局一年前から……私たちの目の前からいなくなったあの時から、ずっと二人でやってるんじゃないの?」
梨子「まあ、そうだけど……」
梨子「……どこまで知ってるの?」
善子「どこまでって、私はずら丸になんとなく聞いただけだから……」
梨子「……そうなのね」
梨子(じゃあきっと私たち二人が今ここで暮らしてるってことは、千歌ちゃんにはきっとまだバレてなくて……) 善子「それで、どうだったのよ」
梨子「えっ?どうだったって言われても……」
善子「近況よ、近況。何かしらあるんじゃないの?」
梨子「何かしら、ねぇ……」
梨子(いいのかな、話、というか相談、してみても……)
梨子「……誰にも言わない?」
善子「誰にもって誰によ?」
梨子「それは、花丸ちゃんとか……」
梨子(……千歌ちゃんとか)
善子「まあ、別に私も卒業してからそこまで頻繁に連絡を取り合ってるわけじゃないし、結局ずら丸とルビィはあっちに残ったみたいだし……」
梨子「……」 ………
…
梨子「でねでね!もう!曜ちゃんったらね!!」
梨子「ナチュラルに学校の女の子と仲良くなって!たまにそのままお泊りして帰って来ちゃうこともあるのよ!!もうっ!!」
梨子「ねえ酷くない?だって!その度に私、お家に一人ぼっちになるんだよ!」
善子「へ、へぇ〜、それは寂しい、わね……」
梨子「それにね!その度に私は心配なんだよ!曜ちゃんのこと!悪い女の子にたぶらかされてるんじゃないかって、もしかしたら一線を越えちゃってるんじゃないかって……」
善子「ま、まあ、リリーはリリーで色々苦労してるのね……」
善子(リリーもリリーで相変わらずなのよね、夢中になるとついつい話し込んじゃうとことか……)
善子(まあヨハネが振った話題だし、自業自得なところもあると思うんだけど……) 梨子「あとね!この前だって……」
善子「ちょっ!?リリー!あんたいつまで喋り続けるつもりなのよ!もう時間……」
梨子「……あら、もうこんな時間なのね。ごめんね善子ちゃん、気が付かなくて」
善子「ううん、私は別に構わないんだけど……」
梨子「じゃあ今日はこの辺にしとこっか。ありがと善子ちゃん、誰かに話すことが出来て大分気持ちが楽になったから」
善子「そ、なら良かったわ」
梨子「そうだ善子ちゃん!連絡先交換しとこっ!!」 善子「……確かに、リリーに連絡がつかないっていうのも意外と不便なものなのよね、去年一年で痛感したわ」
梨子「はい!善子ちゃん!スマホ出して!ふりふり♪」
善子「……はい」フリフリ
梨子「うん!ありがとっ!じゃあ善子ちゃん!またね!」
善子「ええ、また
梨子「あっ!そうだ善子ちゃん!!」
テテテッ!
善子「何よ、まだ話足りないことあるわけ?」
梨子「そうじゃなくて……」
コショコショ
梨子「私の連絡先もってることはみんなには内緒にしといてね」 善子「はぁ?どうしてそんな
梨子「うふっ、秘密♪じゃーねー!!」
テテテッ
梨子「〜♪」
梨子(こういうとき、女の子っていうのは本当に便利だと思う。だってミステリアスな感じを装えば、簡単に『それ』っぽくなるし、可愛さだって演出できるし……)
梨子(もう手段は選びたくなかった。だって欲しいものは全て手に入れてしまいたかったから、私はいつだってズルくて、ワガママだったから……)
梨子(……そのためには大切な後輩ですら利用するという確かな覚悟が、私の中にはありました) ガチャッ
梨子「ただいま……」
曜「おかえり!梨子ちゃん!!」
梨子「曜ちゃん……珍しいわね、曜ちゃんが私より早く帰ってるなんて」
曜「えー、そうかなぁ〜?まあ今日は私も早く授業終わったし!それに今日は梨子ちゃんが珍しく寄り道してきてるみたいだし!」
梨子「そうね、そうよね……」
曜「誰と?大学の友達?」
梨子「……まあ、そんなところよ」
梨子(嘘の技術は私を虚構で塗り固め、気づけば息をするように曜ちゃんを裏切って……)
梨子(……やっぱり私は罪深い女の子だと、自分でもそう思ってます) 曜「……梨子ちゃん?」
梨子「え?どうしたの曜ちゃん?」
曜「いや、妙にボーっとしてるように見えたから……大丈夫?体調とか、悪くない?」
梨子「曜ちゃん……ううん、大丈夫よ、私は」
梨子(やっぱり私には、太陽のようには笑うことは出来ませんでした) 梨子「それより曜ちゃんこそ、どうして今日はこんなに早く帰って来ちゃたの?いつもなら、もっと……」
曜「そ、それは……」
梨子「……うん」
曜「えっと……」
梨子「……」
曜「い、いや、だって、今朝の梨子ちゃんちょっぴり怒り気味だったから……」
曜「昨日私が梨子ちゃんに迷惑かけちゃったこと、ひょっとしたらすっごく怒ってるんじゃないかなって、私はよく覚えてないんだけど……」たはは
梨子「……」
曜「……」チラッ 梨子「……」
曜「梨子ちゃん……?」
梨子「……ふふっ、別に怒ってないわよ」
曜「そ、そう?なら良かった……」
梨子「さ、曜ちゃん、ご飯食べちゃいましょ?私もうお腹ぺこぺこなんだから」
曜「了解であります!食べよ食べよ!」
梨子「……それと曜ちゃん?」
ギュッ!
曜「わわっ!?梨子ちゃん!?急に何……//」
梨子「……」
曜「梨子ちゃん……?」
梨子「……ふふっ、大好きだからね♪曜ちゃんのこと」
曜「あ、うん、ありがと……//」
梨子(……やっぱり私は、曜ちゃんに嘘をつくことしか出来ませんでした) ———
善子「へ〜、果南と会ってたのね、あなたたち」
梨子「うん、たまたま果南ちゃんがこっちに来る用事あったみたいでね、それでたまたま曜ちゃんの誕生日が近かったから、お祝いしようってことになって……」
善子「へぇ〜、なんか意外ね」
梨子「……?」
善子「あーほら、果南ってあんまり私たちと連絡とってくれなかったのよ。ずら丸が前に会おうとした時も忙しいーだとかごめん携帯見てなかったーとかでのらりくらり躱されたみたいで……」
梨子「ふーん……」
善子「逆に去年一年私たちに一番構ってきたのは、千歌……かしらね?結構相談にのってもらったわよ、進路とか」
梨子「千歌ちゃん……」 善子「まあ当の本人もやりたいことみつからないーとか課題多すぎて死にそうーとか騒いでたけど……」
梨子「ねえ、千歌ちゃんはどんな感じだった?」
善子「へ?どんな感じって?」
梨子「ほら、私って千歌ちゃんと最後にあったのもう一年以上前になるから、だ、だから元気なのかなーって……」
善子「そうね、まあ相変わらずって感じだけど……」
善子「……ねえ、単純な疑問なんだけど、千歌と何かあったの?」 梨子「え?何かって?」
善子「いや、あんたたちってずっとすごく仲良かったじゃない。なのにどうして連絡も取り合わないような関係性になっちゃったのかなって……」
梨子「どうして……?」
善子「……」
梨子「……」
善子「……もしかして、曜のこととか?」
梨子「えっ!?曜ちゃん!?なんで!?」
善子「いや、だって曜が千歌に告白して振られたってこと、私たちの学年でも一時期その話題で持ち切りになるほど有名だったし……」
梨子(……そう。曜ちゃんは浦女の時から学校の人気者だったし、ひそかに想いを寄せていたって娘も少なくないと思う) 梨子(私だってそれは痛いほどわかってたから、だから、他の人に曜ちゃんが盗られる前に、あんな卑怯な行動に……)
梨子(あの時の私の行動だけは、全部自分勝手な自分の甘さだったし、それで曜ちゃんの綺麗な心とか、周りの大切な関係とかを壊しちゃったことは……後悔してもしきれない)
梨子(だから、せめて今の私ができることは……)
梨子(もう手遅れかもしれないけど、それがせめてもの償いだって、信じてるから……)
善子「ちょっとリリー?私の話聞いてる?」
梨子「え?あ、ごめんね、ちょっと考え事してて……何の話だっけ?」
善子「千歌のことよ。まさかケンカとかしたわけ?」
梨子「いや、ケンカなんてものじゃない、気がする、んだけど……」
善子「けど?」
梨子「……」
梨子「……ねえ善子ちゃん、ちょっとだけお話、してもいいかな?」 ………
…
善子「……へぇ〜、そんなことがあったのね」
梨子「うん……」
梨子「曜ちゃんは私のことを好きって言ってくれてるんだけど、でもきっと曜ちゃんの心の中には今も千歌ちゃんがいて……」
梨子「も、もちろんね!私って曜ちゃんのこと大好きだし!曜ちゃんのこと、信じてはいるんだけど、でも……」
善子「……」
梨子「……あのね、曜ちゃんの心の全部を私のものにできるわけじゃないってことくらい、私だってわけってるんだけど、それでもやっぱり曜ちゃんの中にもっと私の気持ちがあればいいのに、なんて考えちゃうのは……」
梨子「……私、ワガママなのかな?ギルティなのかな?」
善子「……」
梨子「もう、私がどうしたいのかもわかんなくなっちゃたよ、あはは……」
善子(リリー……) 梨子「……」
善子「……」
梨子「……な、なんか、ごめんね!私の暗い愚痴聞かせちゃって!!善子ちゃんは関係ないのに」
善子「……いいのよそれくらい、私とリリーの関係じゃない」
梨子「そ、そう……」
梨子(私と善子ちゃんの関係性、か……)
梨子(それはいったいどんな関係なんだろ?私と善子ちゃんってどういう関係なんだろ?)
梨子(友達なんて淡泊な関係じゃないし、仲間だなんて照れ臭いものでもない。きっとそれは私と善子ちゃんだけの特別な関係で、言葉にしたら壊れてしまうくらいに繊細で……)
梨子(……曜ちゃんがいて、善子ちゃんがいて、果南ちゃんがいて……千歌ちゃんだっている。そんな中に私もいて、私がみんなと関わって)
梨子(じゃあ私は何者なんだろう?みんなにとって私って何だろう?私は、私がなりたい自分は……) 善子「……関係性、ね」
梨子「……?」
善子「はぁ、ほんと不便よね、田舎暮らしって」
梨子「……え?」
善子「コンビニもなければバスもない。仕事もないし、未来もない。まあ果南とかはないなりに苦労しながらやりくりしてるみたいだけど」
善子「私はそんな田舎が嫌で、囚われ続けるのが嫌だったからとりあえず大きな世界に飛び込んでみたんだけど……リリーは違うの?」
梨子「わ、私!?」
善子「ええ、そんな付き合いに縛られた生活が嫌だったから曜と二人であそこを飛び出したんじゃないの?」
梨子「い、嫌だったっていうか、私はただ逃げ出したくて……」
梨子(自分の過去から、自分の犯した罪の大きさから……) 善子「……そう。だったら二人で頑張ってみるしかないんじゃない?」
善子「信じてるんでしょ、曜のこと」
梨子「……」
善子「リリーならきっと大丈夫よ。もっと自信を持ちなさいよね、このヨハネが……」
梨子「……もしかして善子ちゃん、応援してくれてるの?」
善子「へっ!?ま、まあ、私なりに……」
梨子「……ふふっ、なんだかとっても善子ちゃんらしいわね♪」
善子「んにゃっ!!?な、なによそれ!!せっかくカッコいいこと言おうと思ってたのにっ!!」
梨子「うんうん、善子ちゃんもしばらく見ない間にすっかり大人になったのね」ナデナデ
善子「う、うううっ〜!!!あ、あったりまえじゃない!!あの頃の私はもういないのよ!!ヨハネは華麗に大学デビューを果たして……」
梨子「うん、えらいえらい♪」ポンポン 善子「ちょっと!頭撫でるなぁ!!こら!!」パシッ!
梨子「ふふっ、やっぱり善子ちゃんは善子ちゃんなのよね、今でも」
善子「は、はぁ?なによそれ……と、とにかくっ!!曜にまっすぐ話してみなさいよね!!自分の気持ち!!」
善子「きっとそのほうがグッと解決に繋がるはずよ!!少なくともヨハネに愚痴ってるよりは遥かにね!!そうすれば曜だってきっと……」
梨子「うん、頑張ってみる!」
梨子「ありがと善子ちゃん、なんだか勇気をもらえた気がするわ」 梨子「……よし!」
梨子(材料も買ってきたし!今日はとびっきり美味しいごはん作って……!!)
梨子「うん!大丈夫!ちゃんと覚悟もここにあるもん!」
梨子(付き合い始めて一年半、きっといつかは聞かなきゃいけないってことはわかってたけど、ずっと私が目を背けてきて……)
梨子「……今日こそ!今日こそちゃんと聞かなくちゃ!曜ちゃんのホントの気持ちを!想いを!!」
梨子(そして私もちゃんと言わなくちゃ、自分の気持ちを曜ちゃんに)
梨子(もう嘘なんかで隠さないで……)
〜♪
梨子「……あ、曜ちゃんからLine来たみたい」
梨子「そうね、夜ご飯美味しいもの作って待ってるってこと、曜ちゃんにも伝えておかなくちゃ……!」 ———
曜:ごめん梨子ちゃん、今日帰り遅くなるから!
———
梨子「……」
梨子(……この連絡は『私の分のご飯はいらない』って時の連絡だ。私が食事当番の日はこうやってたまに、曜ちゃんは外で夜を済ませてくるから)
梨子(だから、今日は曜ちゃんと一緒にご飯を食べれなくて……)
梨子「……」
梨子「……じゃあこの勇気はどこに向ければいいんだろ」 梨子「いただきまーす……」
モグモグ
梨子「……うん、ちゃんと美味しい」
梨子「さっすが私ね!あの時の味をほぼ完璧に再現できるなんて!」
梨子「頭では覚えてなくても、ちゃんと体が覚えてるものなのね……」
梨子(高校生の時に一回だけ曜ちゃんに作ってあげたハンバーグのお弁当。千歌ちゃんにフられちゃった直後のことだったんだけど、曜ちゃんはすっごく喜んでくれて……)
梨子「……」
梨子(曜ちゃんはいつも悲しそうに笑ってたんだけど、私の前では明るさを見せてくれた。そのことが私はすっごく嬉しくて)
梨子(ああ、私なんかでも曜ちゃんを安心させてあげられるんだな、曜ちゃんを包み込んであげられてるんだな、なんて思ってたんだけど……) 梨子「……」
梨子(……今思ってみれば、やっぱりあれも曜ちゃんの演技、作り笑いだったのかな・なんて疑わずにはいられないのです)
梨子(最初に曜ちゃんに触れたときにつかんだ確信。曜ちゃんと私は心が通じ合うことはないのかもしれないって、そう覚悟して付き合うって決めたんだけど、やっぱり……)
梨子「……」
梨子(一人ぼっちは、とてもとても寂しいよ、曜ちゃん……)
梨子「……ごちそうさまでした」 ガチャッ
曜「た、ただいま……」
梨子「あ、曜ちゃん。おかえり」
曜「へっ!?梨子ちゃんなんで起きてるの!!?だってもうこんな時間……」
梨子「課題やってたのよ、少し。それより曜ちゃん、あのね?私曜ちゃんにどうしても聞いてほしいことが
曜「ごめん梨子ちゃん、明日でもいい?」
梨子「えっ!?」 曜「ごめん、私今日は疲れてるし、明日も朝早いから……ごめんね」
梨子「あ、うん……じゃ、じゃあ!お風呂!久々に一緒に
曜「いい、私シャワーで十分だから」
梨子「そ、そう……」
曜「……」スタスタ
梨子「……!!」
クルッ!
梨子「曜ちゃん!!」
梨子「えっと、えっとね……!!」
梨子(もっと、私のこと……) 曜「……ごめん梨子ちゃん、明日ちゃんと聞いてあげるから」
梨子「あっ……」
バタン!
梨子「……」
スタスタ
梨子「……もうっ!!」
バタン!!
梨子「……」
梨子「……」
梨子「うっ……ぐすっ……」
梨子「……」ポロッ
梨子(……ばか!!)
梨子(曜ちゃんのバカ!!何よ!!せっかく!!私!勇気出そうとしたのに!!) 梨子「うっ、えぐっ………」ポロポロ
梨子(ばかばかばかばか!!私ずっと曜ちゃんのこと寝ないで待っててあげたんだよ!!)
梨子(どうして!!どうしてそんな簡単なこともわかってくれないの!!どうして気付いてくれないの!!)
梨子「ぐすっ……」
梨子「……」ギュッ
梨子(私が一番寂しいのに!!曜ちゃんのせいで!!心がこんなに苦しいのに!!)
梨子「ぐすっ……ぐすっ……」
梨子「よう、ちゃん……」
梨子「……」
梨子(もう、限界だよ、曜ちゃんと一緒にいるの……) ———
梨子(次の日の夕方、ついに事件は起きました)
曜「い、いただきます……」
梨子「……」モグモグ
曜「……」
梨子「……」
曜「……そ、そうだ梨子ちゃん!」
曜「昨日言ってた、私に話したいことって……」
梨子「……」
曜「そ、そう、梨子ちゃんが話したくないなら、無理には、聞かな……」
梨子「……」 曜「……ね、ねえ先週から梨子ちゃんちょっとおかしくない?」
曜「ほ、ほら、果南ちゃんとあった日くらいから……」
梨子「……」
曜「わ、私でよければ話聞くよ!なんでも!!」
曜(ってか、この様子だと私に原因があるような気もしなくもないし……)
曜「きょ、今日はちゃんと!!そのために早く帰ってきたし……」
梨子「……」
曜「……」
梨子「……」
曜「……梨子ちゃん?」
曜「もう、言ってくれなきゃわかんないよ、エスパーじゃないんだし
梨子「千歌ちゃんの気持ちはわかるのに?」 曜「えっ!?千歌ちゃん?どうして?千歌ちゃんは関係なくない?」
梨子「……」イラッ
バン!!
曜「わあっ!?」
梨子「……」
梨子「……ねえ曜ちゃん、千歌ちゃんと私どっちが好き?」 曜「え?なにその質問」
梨子「答えて」
曜「……」
梨子「……曜ちゃん!!」
曜「い、いや、えっと……」
梨子「……」
曜「……もちろん好きだったよ、千歌ちゃんのこと、ずっと」
曜「でも今は梨子ちゃんが好き。梨子ちゃんに隣にいてほしくて
梨子「……嘘つき」
曜「んなっ!?」 梨子「だって!だったらなんで!あの時千歌ちゃんにそばにいてって言ったの!?どうして私じゃなくて千歌ちゃんを選んだの!!?」
曜「えっ、あの時って……」
梨子「曜ちゃんが酔っ払っちゃった日のこと!曜ちゃんは!無意識かもしれないけど!私じゃなくて千歌ちゃんの名前を呼んだんだよ!!?」
梨子「だいたい曜ちゃんはいっつもそう!私のこと全然見てくれてない!!いつも私の後ろに千歌ちゃんを描いて!」
曜「……」
梨子「もっとちゃんと私のこと見てよ!私のこともちゃんと好きになってよ!千歌ちゃんじゃなくて私を選んでよ!!」
梨子「もう、千歌ちゃんのことなんて、全部忘れて……」
曜「好きだって言ってんじゃん!!」
ドンッ!!!
梨子「!!?」 曜「好きだよ!私!!梨子ちゃんのこと!!ずっとそう言ってる!ずっと気持ちは伝えてきた!!梨子ちゃんに好きって言い続けてきた!!」
曜「ハグだっていっぱいしたし!!キスだってしてる!!梨子ちゃんのこといっぱい好きって言ってるのに!!私!!ずっと好きって伝えてきたのに!!」
曜「なのに!!どうして!!!どうして信じてくれないの!?どうして嘘だって決めつけちゃうの!!?」
曜「そうやって梨子ちゃんがいつも!私の弱さを決めつけて!私だって毎日頑張っているのに!!私なりに梨子ちゃんと向き合おうと、ちゃんと努力してるのに……!!!」
梨子「曜ちゃん……!!!」
曜「はぁっ、はぁっ………」
梨子「……」
曜「……ねえ、ちゃんと向き合おうとしてこなかったのはさ、梨子ちゃんの方なんじゃないの?」 梨子「……」
曜「……」
梨子「そ、それは
曜「だって梨子ちゃんだって私に嘘ついてるじゃん」
梨子「えっ……?」
曜「この前梨子ちゃんが大学のお友達と会ってたって言ってた日」
曜「あれさ、ほんとは相手、私の知ってる人だったんだよね」
梨子「……」 曜「善子ちゃんでしょ、会ってた人」
梨子「……」
曜「偶然見かけちゃったんだ、カフェで二人でお茶してるとこ」
曜「なんかすっごく楽しそうだった。だって梨子ちゃんのあんなキラキラした笑顔、しばらく私は見てなかったから」
梨子「そんなこと……」
曜「あるよ。だって梨子ちゃん、私といるといつも悲しそうな顔してるんだよ?」
曜「残念そうで憐れんでるような、そんな顔をいつもしてたんだもん、梨子ちゃん」
曜「だから私ね、すっごく羨ましかった。いいなぁ、私も梨子ちゃんと、そういう関係になりたかったなぁ、って」 梨子「ち、違うの!!善子ちゃんとはただの友達で、う、浮気とかじゃ
曜「うん、わかってる。だって善子ちゃんだし。私が言いたいのはそういうことじゃなくてね……」
梨子「……」
曜「……」
曜「……なんか梨子ちゃんに裏切られた気がした」
曜「勝手に幻想を抱いていたのは私の方だけど、ちょっとだけ幻滅しちゃったんだ、私」
曜「ほら、梨子ちゃんなら、梨子ちゃんとならちゃんと二人でやっていける思ってたからさ私」
曜「でも違ったんだよね、私たちって、お互いに向き合い続けたふりをしながら、きっとどこか遠くを見つけ続けてたんだよね、きっと……」
梨子(そう言って曜ちゃんは、やっぱりあの寂しそうな笑顔を私に見せました) 曜「……」
梨子「……」
曜「……ねえ、梨子ちゃん?」
曜「私ね、気づいちゃったんだ」
曜「もしかしたら私の中にもまだ千歌ちゃんの影が残ってて、きっと今も追い続けてるのかもしれないんだけど……同じようにね、梨子ちゃんの好きな人も私じゃないと思うんだ」
梨子「……?」
曜「梨子ちゃんが好きな私は、きっと今の私じゃない。本当の私はもっとダメで醜い人間だから」
梨子「そんなこと……」
曜「もう期待なんてしないでよ、私なんかに。私が梨子ちゃんにしてあげられることなんて、ほんとは何もないんだからさ」
曜「私をそうやって縛らないでよ、梨子ちゃんの気持ちで。梨子ちゃんの理想で」
梨子「曜ちゃん……」
曜「……もう限界なんだ、梨子ちゃんと一緒にいるの」 梨子「え……?」
梨子「曜ちゃん……?」
曜「……」
梨子「い、今のって、どういう……」
曜「言葉通りの意味だよ、それ以上でもそれ以下でもないから」
曜「私も梨子ちゃんのことを見てなくて、梨子ちゃんも私のことを見てくれてないのなら、もう二人でいる意味はないんじゃないかって……」
梨子「……」
曜「……」
梨子「……」ポロッ
梨子「曜ちゃん……」
曜「……梨子ちゃん?」
梨子「あ、う……」 むしろ梨子ちゃんアンチでは
ピアノと向き合う自分を誰よりも大切にしてくれた大好きな千歌ちゃんに対してどんな理由があろうと避ける嘘つく姿を消す桜内梨子の行動として有り得ないだろうよ
大体この類のSSは梨子ちゃんがオカシくされる 梨子「……ぐすっ」
曜「あ、いや……」
梨子「……」ポロポロ
曜「ご、ごめっ、さすがにさっきのは言い過ぎたっていうか、その……」
梨子「……」
曜「あ、いや、えっと、えっとね
梨子「ばか!!!」
曜「!!!?」
梨子「ばかばかばかばか!!曜ちゃんのばか!!ほんとバカ!!」
梨子「私の気持ち勝手に曜ちゃんに決めつけられたくない!!曜ちゃんのことちゃんと見てないとか!!そんな風に言われたくない!!」 梨子「私がどれほど曜ちゃんのことを想ってるのかも知らないくせに!!私が曜ちゃんのこと好きじゃないとか!!勝手に決めつけてほしくない!!」
梨子「私のことなんにもわかってないくせに!私と向き合おうとしてこなかったくせに!わかったような口きかないでよ!偉そうなこと言わないでよ!!」
曜「梨子ちゃん……」
梨子「ばかばかばかばか!もっとちゃんとわかってよ!!私の彼女なんでしょ!!私の気持ちくらいわかってよ!!理解してよ!!」
曜「……」
梨子「大っ嫌い!!曜ちゃんなんて大っ嫌い!!もう顔も見たくない!!もう知らない!!曜ちゃんなんて知らない!!私を平気で傷つけちゃう曜ちゃんなんて!!もう二度と関わりたくない!!」
ダッ!
曜「あっ!?梨子ちゃん!?待って!!」
梨子「……!!」タタタッ
ガチャッ!
曜「梨子ちゃん!!」
バタン!
曜「あ……」
曜「梨子ちゃん……」 梨子「はぁっ、はぁっ………」
タタタタタッ
梨子「………もうっ!!」
梨子「ばか!!曜ちゃんのばかぁ!!!」
梨子「はぁ、はぁっ………」
梨子(……渾身の力で叫んだ私の言葉は、誰にも届かずにただ都会の喧騒の中に消えていくだけでした)
梨子「はぁっ……はぁ……」
梨子「ぐすっ……ううっ……」
梨子「どうして、どうしてわかってくれないの……?」
梨子「だって私、こんなにも……」
梨子「こんなにも曜ちゃんのこと好きなのに、曜ちゃんこと、考えてあげてるのに……」
梨子「なのに、どうして……」
梨子(……違うわよ、それは)
梨子「!!?」 梨子(本当は自分が一番よくわかってるんでしょ?誰よりも悪い女の子は自分だったってこと。貴女が逃げて目を背けて、対峙しなかった成れの果てがこの惨状だってことくらい)
梨子「そんな……そんなこと!
梨子(だって曜ちゃんは正直な気持ちを打ち明けてくれてたじゃない。千歌ちゃんへの気持ちを整理して、割り切れない想いに言葉を見つけて、そうやって少しずつ私と歩いていきたい、前に進んでいきたいって言ってくれてたじゃない、ずっと)
梨子(なのに貴女は信じなかった。傷は癒えないって決めつけた。殻にこもって、守って、引きはがして……そうやって自分以外を全部壊してしまおうと思った。違う?)
梨子「違う!違うわよ!!私がやりたかったのは!!そういうことじゃないのよ!!」
梨子「ただ!!本当は構ってほしかった、もっと私を見ていてほしかった!!私のことをわかってほしかったのよ!!」
梨子「高校生の時からずっとそうだった!曜ちゃんの一番はずっと千歌ちゃんのもので、私は千歌ちゃんみたいに明るく振舞えないってことくらい!わかってた!わかってたけど!でもっ!!」
梨子「それでもやっぱり追いかけてほしかった!!内気で弱くて逃げ出しちゃうような臆病な私を、どこまでも追いかけて来てほしかった!曜ちゃんの持ち前のその明るさで、太陽の下に引っ張り出してほしかったのっ!!」 梨子(……そう、包み込んでほしいのは私の方だった。弱くて目を背けているのは私の方だった。だって本当は何も見ようとしては来なかったから)
梨子(でも……ううん、だからこそ曜ちゃんに受け入れて欲しかった。ただそばでぎゅって抱きしめてくれて、怖かったね、頑張ったねって甘やかしてほしかった)
梨子(ただそれだけ、それだけでよかったのに、それ以外は何も望んでいないのに)
梨子「なのに、なのにどうして……」
梨子「はぁっ……ぐすっ……」
トボトボ
梨子「ぐすっ……ぐすっ………」
梨子「……」
梨子「……!!」
タタタッ
梨子(逃げ出したくて、どこか遠くへ行ってしまいたくて、いっそのこと消えてなくなってしまいたくて。私はただただ駆け出していました) 梨子「はぁっ……はぁ……」
タタタッ!!
梨子(都会の雑音は私の耳には届かない。私にとって他人なんてどうでもよかったのと同じように、きっと私ことなんて、他の人は見てくれてなくて)
梨子「はぁ、はぁ……」
梨子(こんなにたくさんの人が暮らす中で、私はたった一人の好きな人に巡り合って、でもその人でさえも私には全く興味なんてなくて)
梨子「……!!」
梨子(じゃあ、じゃあ私なんて、本当の私なんて……)
梨子「……」
ガシッ!!
梨子「!!?」
鞠莉「梨子!?梨子よね!?」
梨子「鞠莉、ちゃん……」
鞠莉「チャオ〜!梨子!久しぶりね!元気……」
梨子「……」
鞠莉「……そうには見えないわね。どうしたの?」 梨子「鞠莉ちゃん……」
鞠莉「……?」
梨子「うっ……ひぐっ………」
梨子「鞠莉、ちゃん……ぐすっ………」
鞠莉「梨子……」
梨子「……うっ、うわーん!!」
梨子「鞠莉ちゃん!!鞠莉ちゃん!!私!!私!!!」
鞠莉「梨子……」
………
… 梨子「……」
鞠莉「……落ち着いた?」
梨子「……」
コクリ
鞠莉「そう……ならよかったわ」
梨子「……」
鞠莉「〜♪」
梨子「……」
梨子「鞠莉ちゃん……」
鞠莉「ん?なあに、梨子?」
梨子「……」
梨子「……ここ、どこ?」 鞠莉「え?ああ、ウチの系列のホテルよ。ほら、梨子ったらすごい顔してたし、誰かに見られたくなかったでしょ?あんなとこ」
梨子「え、あ、うん……」
鞠莉「だからゆっくりくつろいで大丈夫よ?Help yourself!」
梨子「あ、ありがと……」
鞠莉「〜♪」
梨子「……」 鞠莉「はい紅茶。大丈夫?飲める?」
梨子「じゃ、じゃあ、いただく……」
鞠莉「ええ、どうぞ♪」
梨子「……」チビッ
鞠莉「〜♪」
梨子「……聞かないの?」
鞠莉「え?何を?」
梨子「……気にならないの?私がなんで泣いていたのか、どうしてあんなに取り乱していたのか」
鞠莉「そうね……」
梨子「……」
鞠莉「……話したいの?」
梨子「えっ……?」 鞠莉「もちろんマリーだってすっごく気になってるけど、でも嫌がる女の子に無理やり話をさせたりはしないわよ。さすがにそこは弁えているつもりだし」
梨子「そ、そう……」
鞠莉「ええ、だから……」
梨子「……?」
ギュッ!
鞠莉「待っててあげるわ、梨子のこと」
鞠莉「梨子の中で整理がついて、誰かに声を聴いてほしいって思えるようになるまで、マリーがこうやって抱きしめていてあげるわ」
鞠莉「ほら、これならもう怖くはないでしょ?」 梨子「……」
鞠莉「……」ポンポン
梨子「鞠莉、ちゃん……」
鞠莉「……」
梨子「うっ……えぐっ……」
梨子「……!!」フルフル!!
梨子「鞠莉、ちゃん……!!」
鞠莉「ん〜、なーに?」
梨子「鞠莉ちゃん、あのね……」
梨子「……聞いてほしいの、私のお話を」
鞠莉「ええ、聞かせて。梨子の話を」
鞠莉「あなただけのストーリーを、あなただけの言葉で」 ………
…
鞠莉「そう……」
梨子「……」
コクリ
鞠莉「……」
梨子「……」
鞠莉「……」
ギュッ!!
梨子「……?」
鞠莉「……よく頑張ったわね、梨子」
梨子「鞠莉ちゃん……」 鞠莉「……辛いわよね、自分の気持ちが伝わらないのは」
梨子「……」
鞠莉「悲しいわよね、一方通行っていうのは……」
梨子「……」
コクリ
鞠莉「全部が全部自分の思い通りにいかないってことをわかっていても、でも、それでもね」
鞠莉「どうしようもなくそばにいて欲しいときって、どうしてもあるのよね、寂しくなっちゃうのよね、そういうときって」
梨子「うん……うん……!!」
鞠莉「……もしかしたら愛する人が自分の元を離れて行っちゃうんじゃないかって、どうしても不安になっちゃうのよね、そういう想像をし始めると、梨子?」
梨子「うん、うん……!!だって、だって私……」
鞠莉「よしよし、つらかったわよね、梨子……」 鞠莉「梨子は偉いと思うわ。ずっと一人で戦って、こんなんになるまで頑張って」
梨子「鞠莉ちゃん……鞠莉ちゃん……!!」
梨子「私ね!!ほんとは!!ほんとは、ただ……」
鞠莉「うん、うん。梨子、わかってるわよ。マリーはちゃんとわかってるから、だからね?」
梨子「鞠莉ちゃん!!鞠莉ちゃん!!」
梨子「うえーん!!鞠莉ちゃん!!鞠莉ちゃん!!」
鞠莉「よしよし、つらかったわね、よく頑張ったわね」ポンポン
梨子「うん!うん!だって曜ちゃんが!!曜ちゃんが私に!!ひどいこと言うからぁ!!」 梨子「曜ちゃんがひどいこと言ったからぁ!!うえーん!!鞠莉ちゃん!!鞠莉ちゃん!!」
鞠莉「そうね、梨子は頑張ってるものね、よしよし……」ポンポン
梨子「うえーん!!私!!私……!!!」
梨子(鞠莉ちゃんは私が一番欲しかった言葉を、ただ純粋に投げかけてくれたのが)
梨子(どれほど救われたか、ただの同情が、共感してくれるということがどれだけ暖かかったのか)
梨子(私の心の中の凍てつく塊が、すーっと溶けていくように私には感じられました……) ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています