黒澤ダイヤと三年間
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私が浦の星女学院に通おうと決めたのは幼少期から隣人である幼馴染がきっかけだった。
どの高校にするべきか、それなりに近いし静真でいっか。などと軽視していた私をよそに、
浦の星女学院、略称では<浦女>の情報を見ていた幼馴染は、唐突に言ったのである。
「私、浦女にするね」
確かに近所の高校ではあるので、別に中学生の浅はかな怠惰さにおける進路希望としては間違いじゃない。
しかし彼女は「記念になりそうだからさ」と明確な理由があるように言う
そしてそれはもう大層嬉しそうに「ここは廃校になるね。間違いなく」と断言して「ここに行く」と言ったのだ
卒業後か、在学中か
とにかく廃校になって世界から消えてしまった高校の生徒という肩書に魅力を感じるお年頃なのだそう。
正直、私にその気持ちは理解できなかったけれど、
幼馴染とは幼稚園から今日にいたるまでクラスも同じという運命の根強さもあって
この子がそこにするならという軽い気持ちで考えていた。
私は実に、浅はかだったのだ。
とはいえ私立。
入学金もその他もろもろも公立とはまるで変ってくるので、
理由はしっかりと<お母さん達と同じ高校に通ってみたいの>なんて情に訴えた。
そうした経緯もあって、
それなりに勉強をして受験をした私と幼馴染は難なく浦の星女学院への入学が決まって。
彼女――黒澤ダイヤと出会ったのは、その記念すべき入学式の日だった。 その日、愛しき隣人である幼馴染は盛大な寝坊をやらかしたのだ。
起こしに行ったのに二度寝されたのだから、惨い話だと思う。
いや、そういう人だと分かっていたのに信じたのが悪いのかもしれないけど。
私が自分と幼馴染の両親の熱烈な<先に行ってしまえ>に応え一人での登校となって
受験の時にも感じた坂道の厳しさに、
あれこれもしかして高校選び失敗したのではと今更に辟易しつつ辿り着いた校門で、彼女と出会った
煌びやかな日差しを受ける煌々と美しい長髪を風に靡かせ、
まだ新品ともいえる制服に身を包んだ黒澤ダイヤと。
「――あの」
私の視線に気づいたのか、彼女は振り返った
髪を押さえる手のしなやかさに目が滑って、彼女の視線と交わる。
光を反射する艶のある黒の長髪
端正な顔立ちの中、緑柱石のような瞳が揺らめいていて
制服の上からでも感じられるすらりとした姿勢の良さに圧倒される
だから<これは私とは違う世界の人だ>と、感覚がねじ曲がって
「ご、ごきげんよう!」
とっさに出てきた上ずった第一声。
お嬢様とはつまりこれである。
それを熱弁してくれた幼馴染に感謝――なんてするわけがなかった 「またまた同じクラスかぁ」
悪運が強い幼馴染は結局遅刻をせずに登校してきて
早くも机にふて寝する高校生活が決まったはずの私に声をかけてきた
「いやーごめんねー」
幼馴染の聞き慣れた声が弾む
語尾が僅かに膨らんで感じるのは寝不足の兆候
おおかた、遠足みたいな気分で眠れなかったんだろうと、察する
いつもなら軽口の一つでも叩くところだけど、今の私の心は引きこもり。
ふて寝をして聞こえない振りをすると幼馴染は「ところでさー」と笑い混じりの切り口を開いた
「黒澤さんにごきげんようって言ったんだって?」
「なんでそれを――あー、いや、うん。言わなくてもわかる」
ご田舎特有の――かは知らないけれど。
ご近所付き合いの繋がりの多さはなんて忌まわしいことか。
その場を知らないはずの幼馴染の知るところになっていたようで
笑いに笑って「ないわー」と声をあげた彼女の脛を、とりあえず蹴りあげた ごめんごめんと平謝りする幼馴染に向けて顔をあげる
そこまで強くは蹴ってないとは思うけど、
一応心配すると「大丈夫」と笑う
「でも良かったじゃん、ごきげんようって返してくれたんでしょ?」
幼馴染は終始聞き及んでいるのか、そう言った。
何が良いものかと手で払う
あろうことかあれは初対面の出来事で
同じクラスでなければまだ名前も知らなかっただろう相手への大惨事
けれど、彼女は困惑しつつも柔らかく微笑んで「ごきげんよう」と返してくれた
確かにあの笑みを向けられたという点では良かったかもしれないけど。
「まぁこれからだって! せっかく同じクラスなんだしさ。仲良くしちゃいなよ」
「仲良くって言われてもね」
「庶民がちょっと良い人と知り合いになれるチャンスなんて、学生時代くらいでしょ」
真剣な幼馴染の助言だって周りは思うけれど
にんまりとした口許が<これから面白くなるな>と楽しんでいることを示すと分かる私としては
複雑も複雑に、出席番号順的にそれなりに離れた彼女の背中を眺めていた |c||^.- ^|| 私はまた殺されてしまうのでしょうか? 入学式はあっという間に終わり、教室に戻ってきた私達を待っていたのは自己紹介だった
さすが地元の私立校というべきか
結構な割合で知り合いがいるけれど、初対面もそれなりにいる
彼女もその一人
黒澤という大きな一族は知っていたけれど
そこにダイヤという名前の同い年の女の子がいるなんて知らなかった
私の幼馴染は祖父が漁師ということもあって知っていたらしいけれど。
聞いてないよとちょっぴりムッとしてみると、
幼馴染は相変わらず笑いながら「知ってるだけだったからね」と言っていた
名前と同年代
その程度しか聞いていなかったらしい。
そこまで聞いてるなら会いたいと思わなかったのかなと思ったのを察したのだろう
幼馴染は私から目をそらして意味ありげに言ったのだ
「まー私にとっては、こっち側の方が居心地が良かったのさ」
幼馴染の言う<こっち側>はきっと平々凡々な空気感だ
分かりやすく言えば貴族のような<あっち側>の空気は嫌だったのだろう
幼馴染はそういう、自由さが損なわれそうなことがあんまり好きじゃないから。 幼馴染の生態はさておいて、自己紹介は緩やかに微かな賑わいと共に進む。
ア行が終わりカ行を消費する中で、彼女の番になる。
「黒澤ダイヤです。三年間宜しくお願いします」
彼女は礼儀正しくそう言って一礼する
佇まいはやはり名家のご息女らしく、
それまでのクラスメイトとの差が際立って感じられるほどに美しく思えた
趣味として映画鑑賞や読書に触れているのは
ちょっとだけ庶民派な感じがして嬉しかったのだけれど――とはいえやはりお嬢様
その後に続いた琴<など>も嗜んでいるという言葉には頭が痛くなってしまう
もちろん<ごきげんよう>だの<〜ですわ>なんて
お嬢様ぶった物言いは欠片も見られない
やっぱり私と彼女は違う世界に生きているんだなと再認識させられていると
少し離れた席にいる幼馴染が私を見て右手を見せる
グッと握ったこぶし、反り立つ親指
「いやいや、いけないって」
手をパタパタと振って拒否
幼馴染は眉を潜めたが知ったことではない
お嬢様と庶民
そんな正反対な二人の付き合いなんて、小説だけだ。 回ってきた幼馴染の自己紹介はまるで愉快な一時のような賑わいを見せて過ぎていく
後続をやりにくくさせる幼馴染の明るすぎる性格は幼稚園の頃からちっとも変わらない
入学式が楽しみすぎて寝れず、寝落ちして遅刻しかけるほどにはまだ子供なんだと内心で貶す。
でも、そんな幼馴染も嫌いじゃない。
自己紹介はそうして流れて私の前の女の子が自己紹介する
「松浦果南です」
そう名乗ったクラスメイトは淡島に住んでいるらしい
松浦さんの祖父が経営するダイビングショップのお手伝いをしたりしているらしく、意外に顔は広いようだった
もっとも、運動だけは断固拒否の私は初対面だけど。
そんなこんなで私の番が回ってきた
どう挨拶しようかと逡巡しているうちにどこからともなく「ごきげんよう」と飛んでくる
言わずもがな幼馴染だ
「ええ、ごきげんよう!」
怒気のこもった私の第一声、教室には笑い声が木霊する
あとで覚えておけよ。と憎悪燻る私の心中などお構いなしに、
図らずも緊張感の解れる空気の中彼女を見ると
今朝と同じ柔らかい笑顔を見せてくれた
私の大失態は有象無象として記憶の彼方に消えてはいなかったらしい
「えーっと」
とりあえず、あとで余計なことを言った幼馴染の脛を蹴ろう。
そう決意した私は半ばやけくそに自己紹介をして自分の番をかなぐり捨てた そんなこんなで一回りは年上に感じる先生の挨拶も終わり、
今日はひとまずさようならとなる
知り合いの多いクラスは瞬く間に活気に満ち溢れていき
私はそんな騒がしさをかき分けて、幼馴染に歩み寄る
「このっ」
近づく勢いのままに脛を狙った足は惜しくも空を蹴った。当たればそれなりに痛かったろうに。
残念ながら、私が幼馴染である彼女のことを良く分かっているように、彼女もまた、私のことを熟知している
来ると思ったよと笑う彼女の自慢げな視線は私の後ろに向かう
私の背中に目なんて付いていないのに、誰が来たか分かってしまうのは、
幼馴染の口元が、ニヤリと笑っているからだ。
振り返り、見えた彼女の姿にほらやっぱりと幼馴染を一瞥して
「黒澤さん――で、いい?」
控えめに声をかける。
黒澤さんは「ごきげんようはもういいの?」と悪戯っぽく笑って見せると、
私の問いには頷いて答えてくれた
黒澤と呼ぶのはあり得ないし、下の名前で呼ぶのだってまだまだ無い話だと思う 黒澤さんは私と幼馴染を見ると「仲が良いのね」と言った
物腰柔らかな黒澤さんとは対照的に無意味で無駄で壮大に輝ける幼馴染はにやにやとしている
「私は黒っちって呼んでいい?」
黒澤さんは戸惑いながら助けを求めるように私を見る
黒澤ダイヤだから、黒っち。なるほど
馬鹿じゃないのか――いや、そういえばこの人はバカだった。
「気にしなくていいよ、バカなの」
「バカとは何さ。そりゃ成績は良い方じゃないけど――」
「良い方じゃない。じゃなくて、悪い方だって認めなよ」
幼馴染の成績は後ろから数えたほうが早い
本人曰く「私の脳みそはメッシュ地なんだ。さわやかでしょ」とのことらしい
もはや救いようのない頭をしている
「面白いわね――あなた達」
「達? 待って黒澤さん、私も?」
「ええ――だって、ごきげんようだなんて挨拶をしてくるんですもの」
くすくすと楽しそうに笑う黒澤さんは、ごく普通の女の子のように無邪気に見えた
綺麗な時もあれば可愛らしくもある。名家のご息女とはなんと特別なのか。
ただ、それはそれこれはこれだ
私の<ごきげんよう>はそこの幼馴染のせいだと弁明する
それでも黒澤さんは楽しそうに笑うばかり。
私と黒澤さんの始まりは――そんな、どうしようもないものだった。 入学式から早くも一週間経過したころ、
お昼休みにお弁当を囲う私達の一人である幼馴染は唸った。
「正直さ、来月もうテストがあるって意味わからないんだけど」
「仕方がないでしょ。夏休みまでは今月含めて三か月しかないんだから」
「それなら中間テストなんていらないと思うんですよ。私」
悪態をつく幼馴染をよそに、机に広げたお弁当箱のおかずを突く。
言いたいことは分かる。一理ある
でも学生としては、その流れに従わざるを得ないのだから、仕方がない
「確かにその気持ちは分かる」
同調するのは私のひとつ前の出席番号の松浦さんだ。
私が幼馴染のせいで繋がった黒澤さんとは別に、純粋に席が近いからと仲良くなった
しかし。と言うべきか
幼馴染とも黒澤さんとも知り合いだというのだから、内浦における私の交友関係の狭さが露呈したのは悲しむべきか。
「あなた達――学生の本分を忘れていない?」
「よく遊ぶことでしょ、知ってるって。大丈夫」
「――はぁ」
私のよくよく関わる三人の中で最も真面目と言える黒澤さんにも、
私の幼馴染の奔放さはどうしようもないようだ。
何とかしてね。とでも言いたげな黒澤さんの目に私は笑うだけに留める。
何とかするだけ、無駄だから。
そんな私達の心境など露知らず、幼馴染は「ところでさ」と口を開いた。 「みんな部活入らないの?」
入学初日、中学時代と同様に陸上部の顧問に入部届を叩きつけて怒られた彼女と違い、
私達は一週間経っても入部なんてしていなかった。
「私は、ダイビングショップの手伝いしたいし」
「お稽古もあるし――生徒会に誘われているから」
祖父が経営しているお店のお手伝いをするためと言う松浦さんと
知り合いの三年生から生徒会に誘われている黒澤さん。
その一方で大した理由も、これと言った繋がりもない私。
「私、運動部とか無理」
「文化系のクラブも一応あるんじゃなかった?」
「やだよ」
「まぁ――部活なんて無理に入るものでもないからねぇ」
文科系を勧めてきた松浦さんの隣で、幼馴染はそう独り言ちる 部活の話を振ってきたのはそっちだろうに。と思っていると
彼女は黒澤さんに話題を振った
「生徒会の何やってるんだっけ」
「書記よ」
「最終的に生徒会長にされそうだよね、ダイヤ」
生徒会役員は、会長副会長で二人、書記と会計で四人の合計六人構成だ
一、二、三の各学年から二人ずつ選出される決まりとなっていて、
生徒会長は基本的に三年生が務めるが、それ以外に関しては入り乱れている。
ちゃんとしているんだかしていないんだか。
微妙な感じの生徒会役員の一人である黒澤さんは、不意に私を見て「ねぇ」と声をかけてきた
「良かったら――会計、やってくれない?」
「か、会計?」
「そんな役職は役不足だとでも言いたげだねぇ?」
「言いたくないし思ってないしむしろ荷が勝ちすぎてるって思うけど」 「そうかな。結構な真面目ちゃんなんだから、合うよ」
「またそういうこと言う」
私を知ってくれている幼馴染
けれど、こういうところだけはどうしてもそぐわない。
生徒会と私が合うなんて幻覚も良い所だ
とはいえ――一応は考える。
黒澤さんは誘われて生徒会に入った。
つまり、三年生が抜けた穴を埋める――二人必要だと推測できる。
一人は黒澤さんがいるけれど、あともう一人が一週間経っても未定なのか。
誰かが転校したなら黒澤さんか幼馴染から伝わるから、やはり決まらないのだろう。
それはだって、生徒会なんて好き好んでやる方が珍しいと思う。
「ほかに募集は?」
「他の役員も声をかけてはいるのだけど――あんまり」
「そっか」 確か、今年の入学者数は四十弱だったと聞いた覚えがある。
一応、クラスは二つあるけれど役員五人がそれぞれ一週間募集をしてなお見つかっていないならば、
その白羽の矢が私に来るのも致し方ないのかもしれない。
「なら――わかった。やってもいいよ」
他に誰もいないのなら、仕方がない。
私が入っても数合わせにしかならないとは思うけれど、
入らなければ生徒会役員としての黒澤さんが困るのかもしれないし、暇だし。
「ありがとう――凄く、助かるわ」
「期待はしないでね、お願いだから」
「ええ――まだ一年生だから、わたくしもそんなに仕事らしい仕事はしていないから、大丈夫よ」
嬉しそうな黒澤さんを横目に、私は来年以降のことも考える
この感じからして、来年以降も私は生徒会に籍を置くことになるだろうし、
生徒会長なんて誰もやらなくて、黒澤さんになりそうな気がする。と。
ともすれば、私は副会長にまで昇進するかもしれない。
人手不足ゆえに。
というか、生徒会役員の選出や今までの伝統を守っていけるのだろうか。
最終的に生徒会長だけとかになったりしないよね? と、不穏なものが頭をよぎった。 生徒会役員<会計>となった私は、
月を跨ぎ中間テストも近づく日ごろ――別に多忙でも何でもなかった。
まず、幼馴染ですら察したように年々減少傾向にある浦女の部活はそんなに多くない。
輝ける優秀な成績の部活だって別にない。
その他、本年度の行事予算などは毎年、前年度を参照して組まれることになっているため、
新規にどうこうというようなこともなく――。
「別にこっちに来なくてもいいのよ?」
「生徒会長――おはようございます」
「おはよう、黒澤さん」
礼儀正しく挨拶から入る黒澤さんの一方で、
生徒会室の机に伏せり気味な私は「そうですけど」と返す。
広くはない生徒会室にくるのは、私と会長と黒澤さんくらいである。
と言うのも、二週間くらい前の会長の暴露が原因だった。 「これ、会計と書記二人ずつ要るのかな」
仕事らしい仕事などなく
あまりの暇さに誘発された二年生のボヤキに、現生徒会長は「そうですね」とにこやかに笑ったのだ。
温厚で、浦女の生徒からも人気があるらしい生徒会長は
女子としてはそれなりに身長が高く、160センチは越えている。
にもかかわらず、見下ろされるような立ち位置になっても威圧感の欠片もなく、
生徒会長と言う厳粛さが感じられる――かもしれない肩書を持つべきなのかとちょっと悩ましく感じる先輩は
のほほんとした表情のまま「元々はね」と切り出した。
「各学年から公平に選出することや、二学年の修学旅行などでの不在を補うための構成なんですよ」
ただ、年々の流れに伴って生徒会のすべきことも減り続けているため、
各学年から公平にという部分くらいしか残っていないのだそうで。
正直に言ってしまえばですね。と、生徒会長が続ける。
神妙な面持ちではあるものの、生徒会長の性格的に空気が引き締まるなんてことはなくて。
「役員自体、こんなに要らない程度の仕事しか無いんですよ」
そんな生徒会長の暴露には「ですよねー」と、笑いが役員達の口々に零れたのが二週間前
それからは必要ならば連絡を取って集まる。という程度にまで落ち着いた。
その結果が、普段は生徒会長がのんびりと読書をしているだけの生徒会室である。 私がいるのは、一応は会計役員としての職務のため
前年度の会計の仕事を見ておく必要もあるだろうから――という建前で、勉強するためだ。
図書室よりも人の出入りが少ない生徒会室は
テスト勉強をするにはそれなりに良い環境だと言える。
黒澤さんも最初は生徒会室の使い方として問題があるのではと渋い顔をしていたが
生徒会役員はいわば生徒代表、良い成績を取ることも役目の一つですよ。と会長が唆して、今に至る。
「でも――やっぱり、真面目ね」
「そうかな」
「だって――言われたからじゃなくて、いつも自分から勉強しているでしょう?」
「一応、ここも私立だから」
幼馴染と同じ高校に通うため、親の情に訴えかけての入学をしたは良いけれど
通っている以上は学生の本業に集中するべきだと思わなくもないし、
自分から通いたいと言った以上は、それなりの成績を維持することは当然ではないだろうか。
それを幼馴染に言うと「はー、そういう考えもあるよねー」だったが。
黒澤さんは「そうね」と同意してくれたし、付き合ってくれてもいる
「でも、私は別に真面目じゃない。ただ、かくあるべしだなんて短絡的に進んでいるだけなんだ」
「そう――かしら」
「勉強をするのはまさにそれだよ。こうだからこう。それ以上でも以下でもない」
私には、これといった目標なんてなかった。 「けれど、それでも成績は良かったんでしょう?」
「それなりにはね」
「学年で上位の一桁の成績をいつも維持していたって、聞いたけれど」
「それはそういう結果だっただけだよ」
中学時代の私は、今みたいにいい成績を取っておくべきだ。なんて思考さえなく
まぁ勉強しておけばいいよね。程度の浅はかさしかなかった。
部活には所属していなかったし、幼馴染に勧められた遊びをすることはあっても、熱中は出来なかった。
だから、空いた時間を子供として学生としてかくあるべしと過ごしてきた結果だ。
「褒められることなのかな」
「先生は――褒めてくれたでしょう?」
「うん、そうだったね」
よくやった。凄いじゃないか。
それなりに褒めてくれていたのを、覚えている。
クラスメイトだって凄いねー頭いいねーと言ってくれていたのも覚えている
でも、それは<頑張っている人のこと>であって<惰性的な私>に与えられるものではないように思う。
「黒澤さんは――」
「うん?」
彼女の視線に、私は口ごもってしまった。
黒澤さんはそれをどう思うのか。
それはなんだか聞くべきではないように思えて「成績悪かったの?」なんて誤魔化して。
「それなり――だったわ」
彼女はそう言って、微笑んだ 「そういえばあの子――陸上、凄かったのね」
「頭の中身が空っぽな分身軽らしいよ」
それは私の考えた悪口ではなく、彼女の自称だ
早く走るために勉強をしないのだと。
勉強した分の知識で体が重くなるのは困る。と
堂々と彼女は語っていたし、
それで実際に中学時代はかなりの成績だったのだから救いようもない
「勿体ないわね」
黒澤さんがそう言ったのは、
陸上の推薦として静真から声もかかっていたことを聞いたからだろう。
幼馴染はそんなものは知ったことかと蹴っ飛ばしての浦女入学だった。
部活動にも力を入れている静真なら、彼女はもっと良くなる。
そう思われるのも仕方ないことだろうとは思うけれど「良いんですよ。あれで」私はそう言って、手を止めた 静真の推薦が来た時、あの子は喜ばなかった
私と違って、彼女は頑張っている側だ
だから、普通は喜ぶと思われるそれを悦ばなかったのが不思議で、聞いた
成績を認められてうれしくないの? と。
それに対して幼馴染は「別に」と、推薦に関してとても無関心に吐き捨てると、
いつもと変わらない明るい声で言ったのだ
「私はやりたいようにやりたいだけ。期待とか、そういうの――嫌いなんだよね」
褒められるのは嬉しい。
けれど、<貴女ならもっとできる>、<これなら○○も狙える>そう言ったものが嫌いだという。
だから、それがのしかかることになるであろう推薦を蹴った。
その話がきたその日その時に「嫌です。お断りします」と。
「あの子は自由じゃなきゃ、生きていけないんだと思う」
「確かに――言われてみれば、ふふっ」
黒澤さんは何を思い出してか、笑いを零す。
泳ぎ続けなければ死んでしまう魚がいるように、
自由でなければ死んでしまう人もいる。私はそう思っているし、理解もある。 「そうなると――プロの選手にもならないのかしら」
「ならないと思う。プロって結局成績重視だろうし」
幼馴染なら、もしかしたら望まれている分の成績は簡単に駆け抜けてくれるかもしれない。
だけど、そもそも望まれてしまうということに不服を感じるだろうから、
プロにはならないだろうという信頼めいたものがあった。
「そういう黒澤さんは?」
「わたくしは――どうかしら。最終的には、ここで骨を埋めることになるとは思うけれど」
「それは、もう行きついてるね」
黒澤さんは過程をすっ飛ばして死に場所を答える
中抜けているのは、彼女が黒澤という名家の長女であるせいかもしれない。
何らかの夢を追いかけて、自分はこうなりたい。
そんな夢語りのない私達は、指先一つほどの共通点はあるのかもしれないと思った。
「なら、大学は東京とか選んでみたら?」
「大学って――それを考えるのはまだ早いわ」
「将来がほとんど決まっているなら、まだ自由なうちに出ていけばいいよ」
高校一年生、入学してはや一ヶ月。
大学の話をする私達の横で、生徒会長である三年生の先輩は「止めてくれないと追い出しますよ」と、怒っていた。
――残念ながら、怖くはなかった。 そんなこんなでやってきた中間テストも、早くも最終日となった日の放課後。
勉強? してないけど? と自慢げに本当のことを語っていた幼馴染は、
他の級友のようにテストの出来栄えを聞くと「なるようになったと思うよ」と笑う。
予習も復習も決してしない幼馴染ではあるけれど、
授業だけは受けているので、流石に追試にはならないだろうと信じる。
成績は良くない。数えるならば下の方からの方が早い。
そんな彼女でも、一応は苦手な英語を除けば追試になったことがない。
「そんなことよりさー遊びに行こうよー遊び〜」
「あら――いいわね」
「黒澤さんが乗り気だ」
「私だって――少しは開放的な気分にもなることだってあるのよ?」
「つまり、黒っちは裸族だったんだね」
幼馴染の遠慮ない発言に黒澤さんは真っ赤になる
当然そんなことないのは分かってるけれど、
もしもそうだったとしても、彼女ならばそれも映えるのだろうか。なんて思う。
「違うわ――違う、やめて――想像しないでっ」
「あはははっ」
黒澤さんの悲痛な願いに笑いながら、空想の中の裸族な彼女を消し去る。
きっと似合う。でも、それを言ったら怒られるだろうから――言わないでおく。
生徒会長と違って、黒澤さんが起こったときの顔はきっと怖いから。
もちろん――それも、胸の内に留めておいた。 またおまえかダイヤ殺しの前日談のつもりか?誰も望んでねーぞ
しかもがっつり地の文でオリキャラとかラ板でやるようなやつじゃねーよ 担当医「今日もずっとぶつぶつ喋ってるなあの子」
看護師「高校生の女の子を殺そうとしたらしいですよ…」
担当医「日常生活は難しいかもしれないな」 「中間テストお疲れ〜っ!」
「お疲れ様」
一際テンションの高い幼馴染の一声に続いて、四人での乾杯をする。
本当に疲れるようなことしたのか怪しい彼女が言うのは、少し違和感を覚える。
だって、テスト期間と言うこともあって数日間の部活動の休止なのに
ならば私は軽く走ってくるとランニングの日々を送っていた彼女には我慢すらなかっただろうから。
「ねぇねぇまっつん」
「ん〜?」
「夏休みさ、まっつんのとこでみんなでダイビングやろうって計画してるんだけどさ、予定空いてる?」
「みんなって誰よ」
彼女はいつも突拍子がなくて、勝手に巻き込んでしまう。
黒澤さんも知らず、松浦さんも当然のごとく知らないその計画は、
やっぱりと言うべきか、私達が含まれているようだ。
夏休み、みんなで遊ぼうというのは学生としてありふれたことだと思う。
だから、それ自体は課題に差しさわりのない範囲であれば構わないのだけれど。
「私は嫌だからね。ダイビングとか無理。運動無理、死ぬ」
「死なないよ。大丈夫――。私もちゃんと手伝うから――」
「そういう問題じゃなくて」
松浦さんの優しさに首を振る
泳げないとか潜れないとか水が怖いとかそういう問題以前の話で。
「私は荷物番として雇ってくれればいいから。ほんと、本当に――」
別に運動音痴だから嫌いなわけじゃない。
絶望的に体力がないのと、それを改善する気がないだけだ。 「あなたって――ほんとう、運動に関してだけは――奥手ね」
「奥手っていうか、運痴なんだよねぇ」
「運痴言うなっ!」
違うから! と、声を上げるけれど、
幼馴染も黒澤さんも松浦さんも、まるで信じていないとばかりに笑う
それはまぁ確かに、
投げたボールが地面に叩きつけられるとか彼方に消えるとか
ハンデで先に出たはずのランニングで周回遅れにされてるとか
色々あるけれど。
「ちょっとだけでもいいからさ、やってみない?」
「ほんとうに、これだけは無理。私はね。この後に控えてる体育祭で精神的に参ってるんだよ。解ってよ」
もう一度拒否すると、松浦さんは残念そうにしながらも
それなら仕方ないねと引き下がってくれる
幼馴染は表情から察するに引き下がる気がないのが見え見えだけど、見てないことにしておく。
「テスト勉強よりも辛い――って、嘆いてたわね」
くすくすと優雅に笑った黒澤さんは、
笑いはするけれど「無理強いは良くない」って、私に味方してくれた。 「そういえばさー、浦女廃校の噂とかって、出回ってきてないかな」
お菓子を食べたり、ジュースを飲んだり
ありふれたことをしながらたわいもない話をしていると
幼馴染はやっぱり、唐突にそんな話を切り出した。
「えっ、なにその怖い話」
不安そうな松浦さんに酷く満足げに頷いた幼馴染は、
実はさ。と、浦女入学の切っ掛けにもなった話をする。
そもそも公式で出されている情報である入学者数の情報
入学して発覚した、使っていない教室の数。
疑う余地のない情報を使っての妄言は存外に信憑性を生み出すことが出来るのだろうか。
松浦さんは「なるほど」と考えてしまう
黒澤さんも一応は真剣に考えているようで「そんな話――」とつぶやいた
「少なくとも、生徒会にそんな話は来てないよ」
「生徒会長に聞いてみた?」
「聞いてないけど――まぁ、多分望んでるような答えは得られないと思うよ」 生徒会長である先輩は、私達一年生が知らない浦の星女学院の約三年間を知っている。
ただ、それはあくまで過去の話であって未来の話ではない。
先んじて廃校の話が出ていれば、狭さに定評のある我が愛しくもない地元のことだ
すでに私達の知るところになっていたはず。
そこから逆算するに、現生徒会長はこの話題に関して無知だと考えられる。
なるほど、そんな噂もあるんですね。知りませんでした。
こんな感じのことを言いながら「でも面白そうですね」となるに違いない
「廃校になる――なんて、噂は聞いた覚えがないわ。ただ、あなたの――その、お話はないとも言い切れない」
「妄想を真に受けるのはやめておいた方が良いよ?」
「妄想は酷くない? せめて推測とか想像とかさ〜」
幼馴染の沈殿していく声は無視する。
黒澤さんはないと言いきれないと言ったけれど、私も同意だ。
というより、廃校が迫ってきているんだろうな――と、予感はしていた。
黒澤さんは書記としての役割の為に議事録を
私は会計としての役割の為に過去の行事に関する資料を。
それぞれ読みふけっていたりもする。
その中で、だんだんと規模が縮小されていっているものや、
数年前に廃止になってしまった行事のことも見かけたし、そのことでちょっぴり話もした。
もちろん、廃校の件は触れなかったけれど。 ここでやるような内容じゃない!
けど保守しちゃう!ついでに上げちゃう!
sageてると読んで貰えないよ!? 「それがもし――現実だとして、あなたは何かするの?」
黒澤さんはとても真剣な表情だった。
廃校が起こり得る将来の出来事であるとして、
私の幼馴染がそれを阻止するような活動を行うつもりなのか
それとも、何もなく受け入れるつもりなのか
黒澤さんはそれを気にしているようだった。
しかし、問いかけた相手が悪い。
幼馴染の引き締められる経験がない表情筋は緩んだままで
何にも考えてなさそうで。
「別にー? 私はただ廃校した高校の生徒ってちょっとした特別感があるなぁって思ってるだけだから」
幼馴染は廃校阻止なんてするつもりはちっともないと笑う
いち生徒がそんなことをして、どうにかなる。なんていうのは創作物のようなものだと。
そもそも、そういった行動を起こすのは浦の星女学院に愛着がある人であって、
自分のような<廃校をしそうだから>なんて不純な理由で選んだやつが行動を起こすわけないじゃないか。と。
笑いを零し、能天気に。
幼馴染はそんな砕けた雰囲気のままに、黒澤さんへと目を流した。
「もしかしてさ――黒っちは、行動できる側の人?」 黒澤さんは少し悩ましい表情を見せると、
幼馴染に向けていた目を細めて――ゆっくりと閉じる。
「浦の星女学院は一応、伝統のある学院です。つまり――それだけの理由があるということ」
だからと言うわけではないけれど「何もしないと思う」と、黒澤さんは言った。
学院側だって、廃校しないために何らかの措置を取ってきているはず。
そのうえで廃校になるというのなら、それはやむを得ない事情があると思うべきだ。
大人がそれに対する何かをしてきて、
それでもどうにもならなかったことを、子供がどうにかできるのか。
同年代だからこそ、その心情に訴えかけられるかもしれない。という点においては、
先人の知恵にも勝る武器を持っていると言えるけれど。
「そっか――そうだよねぇ。まっつんも?」
「私? 私もダイヤと同じかな。廃校になるのは残念だけど、だからどうにかしよう。とは、ならないんじゃないかな」
その状況にない私達は、もしそうだったとしたらと言う空想を語る。
けれど、誰一人としてそれを止めるつもりはなさそうだった。 そろそろ解散しようかとなった夕暮れ時
今日は主催と言うこともあって幼馴染の家での開催となったのだが、
毎回自分の家と言うのもなんだかつまらないかなと考えたのかもしれない。
帰り支度を済ませた二人に向けて、口を開いた。
「今度は黒っちの家とか、まっつんの家とかが行きたいかも」
「私は全然いいよ」
「わたくしは、どうでしょう――」
快諾する松浦さんの隣で、黒澤さんは困ったように言う
彼女の家は、黒澤家――黒澤邸と言った方が良いかもしれない。
大きな家である彼女のところは、部屋数で言えば余るほどだと思う。
しかし部屋があるから特に関係のない友人を招くことが出来るってわけでもないのかもしれない。
「来客がない日――だったら、大丈夫だと思うけれど」
黒澤さんは少し考える素振りを見せてから、そう言った。
事前に予約をしておいて欲しい――みたいなところだろう。
幼馴染もそれを思ったのか「なんだか高級店みたいだね」と、嬉しそうにして
「じゃぁ今度――遊びに行かせてほしいかも」
やっぱり無遠慮に、彼女は申し出るのだった。 黒澤さんと松浦さんが帰宅して、残った私達で後片付け――なんてこともなく。
幼馴染の部屋に戻ってきた私達は、まだ残っているお菓子を摘まむ。
「黒っち、妹がいるんだよねぇ」
「そうなんだ、初耳」
「あんたってさーほんと――」
幼馴染は言葉を切って、間を開ける
中身のなくなったお菓子の袋を指でつつくのは、手持ち無沙汰だからか。
私が何なのかと先を促すと、彼女は私を一瞥して、ヘラヘラと笑った
「せっかく黒っちと一緒に生徒会に入ったんだから、もうちょっとくらい興味持ったら?」
誤魔化した――と、私はすぐに察した。
私が察したことを幼馴染も同じように察したはず。
けれど、彼女はそれが言いたかったとばかりに「お菓子無くなっちゃったね」と呟く。
黒澤さんに興味がない、彼女にはそう見えているのかな。
ううん――きっと、私は松浦さんのことも興味がないと思われていると思う。
黒澤さんには妹がいる。
そんなこと、少し仲良くなれば聞き出せるはずなのに、私は知らなかったから。
「黒っちもまっつんも、あんたのお眼鏡には適わなかった?」
「査定が出来るほどの人間じゃないよ、私」
黒澤さんも松浦さんも良い人だ
不適切なのは、むしろ私の方にこそ言えること。
ただ、私は彼女たちとの付き合いを必要だなんて思っていないだけ。
所謂うわべだけのお付き合い――それで十分だって。 「松浦さんはともかく、黒澤さんとは――そっちのせいで付き合う羽目になったの、忘れてないでしょ?」
「クラスメイトなんだから私がどうしなくたって、それなりだったと思うけどなー」
「でも、生徒会には入らなかった」
黒澤さんが私を誘ったのは、私が彼女と親しかったからだ。
それなりの親しみを持っていたから、彼女は私が生徒会に適切だろうと考えた。
もし始業式の日の登校で私が幼馴染と一緒だったなら。
たったそれだけで、<ごきげんよう>なんて言葉は消え、自己紹介での失態はなかった
それなら――きっと。
「だろうねー、あんたってテンプレートみたいなやつだもんね」
「テンプレートねぇ――なるほど」
言い得て妙だけれど、間違っていない。
ヘラヘラとしている彼女は、やっぱり私を良く分かっている。
生徒会に所属するなんて、普通には遠い。
私は、黒澤さんの<友人>として、頼まれた際にどうするかの判断を下した。
その結果が今の歪んだ状態
だとすれば――やっぱり、私は黒澤さんと関わるべきじゃなかった。と、思う 「なんにしても、もう黒っちとは友達なんだから。せめて三年間くらいは保ちなよー」
「はぁ――」
ひらひらと手を振って見せた幼馴染は、口元で緩やかな曲線を描いている
私が彼女達と付き合う学院生活を送ることになって、一番楽しんでいるのは間違いなく幼馴染だ
やってくれた、ほんと。
そうは思うが、今更黒澤さんに「私達絶交しよう」なんて言えるわけもない。
思わずため息をついてだんまりな私に彼女の視線が刺さる
「黒っちが嫌いなら、それとなく伝えておくけど?」
「嫌いではないよ。黒澤さんは良い人――私とは、違うからね」
「あんたもあんたで悪い人ではないでしょうに」
幼馴染は笑い交じりにそんなことを言うとお菓子の袋を折りたたんで、きゅっと結ぶ。
それを机の上に放って、ニヤリとした。
「悪い人って言うのはさー、困ってるのを見て笑う人のことを言うんだよ」
幼馴染はその言葉の余韻を残すように黙り込む。
いつもの何もかもを冗談と考えているような雰囲気ではなく、黄昏を感じる空気感
そんな彼女は不意に元に戻ると「夕飯一緒に食べる?」と、明るく言う。
――急すぎるから無理。と、断った。 時は流れて六月に入ると、
もう夏服でも少し辛く感じるくらいのじとっと張り付くような不快感に満ち始める。
なぜだかノースリーブの一年生の制服も
この時期となると、これはこれで良かったのではと錯覚するほどだ。
「体育祭、会計権限で予算0に出来ませんか?」
「それは不可能な話ですね。体育祭はやりますよ。必ず」
私の愚痴は生徒会長に一蹴されてしまう。
まぁ、当然の話だからどうと言うことでもないけれど。
「しかし、私が入学したての頃と比べれば――だいぶ簡単なものになっているんですよ」
生徒会長は手元の文庫本に視線を下げたまま、柔らかい声で言う。
懐古的な雰囲気を感じさせる先輩は、ふっと息を吐く。
ため息一つとっても、どこか大人めいたものを感じさせるのは、三年生だからだろうか。
「地域的な問題があるのだろうとは思いますが――寂しいものです」
「会長。この学校はいつまでもここにあるのでしょうか」
思いをはせる会長の一言に続けるように、黒澤さんは口を開いた。
直接的に<廃校>を出さなかった。
それでも――分かりやすい問だっただろう。 「さて、どうでしょうか」
「何か、お話を聞いている――と、いうことはありませんか?」
「私はただの生徒会長ですからね。無くす予定なのだが、どうだろうか。なんて相談をされたりはしないんですよ」
小さく笑いながら答えた会長は、栞を文庫本に挟む。
ぼかした言い方をしているが、つまりは廃校の話。
黒澤さんがより突っ込もうとしたからか、会長の目は私達へと向けられる。
「ただ、ただですよ。静真高校の生徒会長曰く、PTAがざわついている。というお話は伺っています」
「静真高校の生徒会長が――ですか。それは向こうだけの問題ではなく?」
「統廃合という言葉が出たらしいですよ」
会長はそう言うと、あっと小さく声を上げて驚いた素振りを見せて
ちょっぴり頬を赤らめ、恥ずかし気に微笑む
「これは他言無用でお願いしますね。――ふふっ、向こうの会長に怒られちゃいますので」
怒られるというのに、会長はなぜだか楽しそうだった。
統廃合――もし、それが本当に出てきた関係ある話であるのだとしたら、
浦女と静真の統廃合で静真が残り、浦女が消えるのかもしれない。 地の文ががっつり過ぎる…基本的にsageてるのもNGだしぶっちゃけラブライブ板には超絶不向きだぞ
あとモブ会長が地味にしっかりキャラ付けされてるっぽいのがなんかな…
メインキャラ出番少なすぎ >>46
不向きな内容だからsageてるんじゃない
あんまり読んでないけど ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています