X



ことり『もう一回だけ』
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
0001名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:22:12.08ID:yaIWPuq7
「いやー、私たち…十年以上も一緒にいたんだねぇ」

「凄いことです。この間軽く計算してみたのですが、私たちは恐らく親兄弟よりも長い時間を共にしたことになるんですよ」

「うん……」




これは私たちが卒業を迎えた日の午後、夕日が沈み始める頃のお話。
0002名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:23:55.59ID:yaIWPuq7
卒業式を無事に終えたあと私と穂乃果ちゃんそして海未ちゃんは、アイドル研究部との別れを一しきり悲しみました。彼女たちは、一緒に汗と涙を流し青春の全てを分かち合った仲間ですから、当然その別れもまた涙なしでは済みません。

せっかくのお別れ会、楽しむことができたのは序盤だけでした。

来年は期待しなさいと言わんばかりの下級生に頼もしさを覚えて、これなら安心して出ていくことが出来る…そんな話を繰り広げにこやかに会が進行しているように見えましたが、次第にそのめっきが剥がれていく訳です。
0003名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:24:09.64ID:yaIWPuq7
そこにとどめを刺したのは他でもない私たち。思えばそのときもうすでに涙腺はボロボロだったのだろうけれど、会の後半、私たち三人が一言ずつ最後のメッセージを送った辺りで、みな一斉に涙を抑えきれなくなりました。

私はありきたりな挨拶だったのですが、海未ちゃんと穂乃果ちゃんの語りかける言葉は、それはそれはその場にいる人の心を揺らすものでした。

なぜかって、話している本人が大泣きして、「好き」とか「ありがとう」なんて言葉を、涙声鼻水まじりで必死に絞り出そうとするんだもん。
0005名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:24:27.06ID:yaIWPuq7
お分かりかとは思いますが、とてもたまったものではありません。特に海未ちゃんに至っては、厳格という言葉を地で行くような彼女が、まさか途中で泣き崩れることになるとは誰も想像しませんでしたから…これには歳関係なくみんなして大泣きするほかありませんでした。

そこからはひどい有様です。制服のボタンは強奪され、下級生にはベチャベチャの顔で抱きつかれ、そしてそんな私の顔も涙でベチャベチャになっていて…泣くのは今日だけにしなくてはいけないから、ここで一生分の涙を流し切ろう。そんな想いがあったんじゃないかな。

こころを軽くするためにはいろんな汗をかくことだとは、海未ちゃんもよく言ったものだと思います。そんなこんなで湿っぽく、でもそれでいて最後はすっきりと、部活のみんなとのお別れを済ますことができました。
0007名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:24:40.10ID:yaIWPuq7
校門の前でみんなに手を振られて見送られても私たちは、なんだかすんなりと家に帰るような気分にはなれませんでした。まだしなくてはいけないことが残っていると分かっていたからです。

それは、私たち三人の関係になんらかの形で一段落をつけることでした。
0010名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:24:59.96ID:yaIWPuq7
そうは言っても、そう簡単にあの長い年月をまとめることなどできませんし、方法も分かるはずありませんから、ひとまず私たちは古い思い出が残る場所を可能な限り、回ってみることにしました。

穂乃果ちゃんが下校中、毎日のようにお菓子を買っていったコンビニ。

とっくになくなっていたけれど、家から必死に段ボールを運んで作り上げた秘密基地の跡。

小さかった頃は果てしなく広大に思えて、夢中で駆け回った小学校のグラウンド。

今でも鮮明に記憶に残っているくらい大きな、オレンジ色の夕日を一緒に見た公園の大木。

外に出るのも嫌になるような暑い夏の日によくお世話になった、駄菓子屋のおばあちゃんのおうち。

なんの変哲もない街のあちらこちらに、たくさんの思い出が詰まっています。というのも、おそらく小さい頃の私たちは誰の家だろうと関係なく、この街全てを自分の庭のように思っていたようなのです。ここは本当に暖かく、懐が深い場所ですから…

穂乃果ちゃんなんか、きっと今でもそう思っているんじゃないかな。
0012名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:25:29.51ID:yaIWPuq7
ところで私たちはずいぶん久しぶりとなる「探検」をしたわけです。そこで最初に驚いたことは、駄菓子屋のおばあちゃんが飼っていた怖いワンちゃんが既に亡くなっていたことでした。穂乃果ちゃんがあの頃しょっちゅう格闘していた記憶があります。

あの見るからに凶暴そうで、私たちより余程長生きしそうに見えたあの子が数年前、呆気なく病気で亡くなってしまった。それを聞かされた瞬間に私たちはなんというか、決して見てはいけないものに触れてしまったかのように、途端に声を失ってしまったのです。

すぐに表面上は明るさを取り戻し、歩みを再開した私たちですが、他にも街の様々なものや人が目を疑うほど昔と変わっていることに気づき始めました。あるいは古くなったり、あるいは別のお店になったり…酷いものだと、跡形も無くなっていたりします。
0013名無しで叶える物語(SB-iPhone)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:25:40.95ID:YkWHATl1
うっ射精しそうですよ、ことり
0014名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:25:44.18ID:yaIWPuq7
そしてそんな私たちも、この先一ヶ月と待たずにこの街を出ていくことになる…その事実が、この長い長い道草の中でようやく現実味を帯びてきたのかな。

学校を出た頃にはあんなに浮き足立っていた穂乃果ちゃんの口数が、目に見えて減っていくのです。何か考えているのか、それとも考えないようにしているのか…長年の付き合いにも関わらず、一切読み取ることはできませんでした。

これだけでも変なのにさらに海未ちゃんはというと、それを補うかのようにやたらと口を開くのです。ただ、こっちの方は理由が分かります。彼女が多弁になる時というのは大体、何かしら心がモヤモヤしている時なのだと、経験的に私は知っていました。
0015名無しで叶える物語(SB-iPhone)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:26:00.70ID:YkWHATl1
孕みなさい!園田の子を!
0016名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:26:31.50ID:yaIWPuq7
そんな私はというと…実はあまり覚えていません。ずっと笑っていたような気もしますし、何かに思いを馳せていた気もします。ひょっとしたら悲しみに暮れていたのかもしれません。

ただ一つ確実に言えることは、ずっと頭がフワフワしていて、私が私でないような…そんな感覚です。

気付かないままに失われてしまった、かつて確かにそこにあったものを再発見するたび私たちは盛り上がりました。しかしその裏では、今までで一度も味わったことのないような鈍くて切ないものがじわじわ、それでいてたしかに、三人の間に広がっている。

そう私には感じられました。これは、二人もそうだったと思います。
0017名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:26:44.65ID:yaIWPuq7
学校を発ってから何時間歩き続けたでしょうか。小さい頃から走り回ることが何よりも好きだった私たちにも、流石に疲れが見え始めました。

そしてそれ以上に、かつては無限にも思えた私たちの旅の終点がすぐそばまで迫っているという、暗い予感をぬぐい切れなくなったのでしょう。その頃にはもうすっかり私たちの足取りは重く、声は見る影もなくしおれています。

それは、明らかに今まで一度も経験したことのないような、生ぬるく異様な空気でした。
0018名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:26:57.16ID:yaIWPuq7
三月の心地良い春風にも愛想を尽かされているかのようなそんなじめっとした雰囲気の中、誰が最初に言い出したかは覚えていません。ふとした会話の拍子にとある場所が話題に上がるやいなや、私たちはそこへ向かうことを決めました。

物心付くかつかないかの時期からずっと続けてきた冒険の幕切れを、その場所で迎えよう。今まで誰も言い出しはしませんでしたが、私たちの中でずっと昔からそう取り決められていたかのようです。
0019名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:27:09.42ID:yaIWPuq7
そこは、子供がなんとか走り回ることが出来るくらいのスペースに赤茶けた古いブランコ、それに小さなベンチを一つだけ備えた、公園と呼ぶにはやや寂しいものでした。幼心にもそれを公園だとは認めたくなかったのでしょう、それで当時の私たちは「空き地」と呼んでいました。

最後の最後、どうして私たちがその場所を選んだのかというと…それは言うまでもなく、その「空き地」こそが、三人が初めて出会った思い出の場所だからなのです。

どんな終わり方を迎えるにしろ、これほどまでにぴったりな場所は他にはありませんでした。
0020名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:27:25.62ID:yaIWPuq7
着いた頃には、もう夕日が沈み始めるような時間になっていました。穂乃果ちゃんは到着するとすぐに、高校生が三人座るにはかなり厳しい、小さなベンチに私と海未ちゃんを座らせると、自分は近くのブランコに腰を下ろしました。

位置で言うと穂乃果ちゃんと私たち二人がちょうど向き合うように座った状態です。彼女はそのまましばらく私たちのことをじっと眺め、そしてはぁと一息つくと、悲観とも楽観とも取れない表情を浮かべながらこう切り出しました。


「いやー、私たち…十年以上も一緒にいたんだねぇ」


私たち三人はいつも対等な関係でしたが、本当に大切なことを言い出すのは決まって穂乃果ちゃんの役目でした。
0022名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:27:46.10ID:yaIWPuq7
「凄いことです。この間軽く計算してみたのですが、私たちは恐らく親兄弟よりも長い時間を共にしたことになります」


ロマンティックというかなんというか、なんだか素敵な考えをさらっと海未ちゃんが教えてくれたのですが、実は彼女は、結構そういうところがあるのです。もしかすると、三人の関係を実は一番大切に思ってくれていたのかもしれません。

海未ちゃんがよく使う話の種に、今日は私たちが初めて出会った日ですよ、とか、あの頃のことを思い出しますね、というのがあります。少し嬉しそうな調子でそんな話を持ちかける姿は、まるで恋人さんみたいだなといつも思っていました。

機械音痴に加えて、あまり流行にも興味を示さないアナログな彼女は、ひょっとしたらその分、私たちのことを考えてくれていたのかもしれません。そうじゃなきゃ、一緒にいた時間なんて計算しないもんね、普通。

…でも今日だけは勘弁してほしかったかも。
0023名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2020/05/11(月) 17:28:00.15ID:yaIWPuq7
何気なく放ったその愛のこもった一言によって、私の胸がギュッとしめつけられます。分かってはいましたが、彼女にはこういうところもあります。罪作りとでも言えばいいのでしょうか。


「うん…」

私は同意とも相槌とも分からない、なんとも情けない返答しか出来ませんでした。
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

ニューススポーツなんでも実況