ダイヤ「ここは……?」
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目を覚ますと見覚えのない部屋にいた
今まさに横になっているベッドが一台、学習机が一台、机の上にノートパソコンが一台
壁のない手洗い場と洋式便座があって窓はなく、固く閉ざされた鉄の扉が正面にある
着ているのは浦の星女学院の制服で、鞄はなく携帯もない
つまり、自分の持ち物と言えるものは着ているもののみで、それ以外のすべてが他人の所有物
ダイヤ「……なぜ」
いつ、ここに来たのかがまったくわからない
昨夜……と言うのが正しいのかは分からないが、自室で寝たことだけは覚えている
いつものように寝間着に着替え、明日の用意を確認し
起きる予定の時刻に目覚ましをセットし、眠りに落ちた
ダイヤ「にもかかわらず、これですか」
誰かに連れ去られた?
誰に? どうやって?
黒澤邸、黒澤ダイヤの自室……そこから誰が?
ダイヤ「鞠莉さん……でしょうか」
実行はともかく、部屋を用意できるのは小原鞠莉くらいだろう ダイヤ「鞠莉さん! 鞠莉さん!」
声を荒げても、返答はない
からかっているのか、今は見ていないのか
ダイヤ「……まったく」
どこかに監視カメラがあるはずだが、壁にも天井にもそれらしいものは見当たらない
扉を叩いてみたが、叩いているという音が一切ない
コンコンという接触の音のみ
つまり、人の手でたたく程度では揺れるような代物ではないということだ
ダイヤ「……」
仕方がなく唯一の道具と言えるパソコンの前に座る
電源は入っているようで、マウスを動かす程度でモニターが映った
ダイヤ「……は?」
見えるのはどこかの掲示板
書かれているのは、監禁したらどうこう……という不快な言葉 ダイヤ「何を、望む……?」
子作り、嫁と言った不快極まりない物から、
プリンを食べさせる、拘束して目の前でプリンを食べるという生易しいものまで
そこには書かれている
ダイヤ「なんなんですか……一体」
とりあえず、助けを求める書き込みをしてから
他の操作が出来ないかを確認したが、
件の掲示板を見ること、書き込むこと
それ以外は一切の操作を受け付けないらしい
ダイヤ「電源は落とせる……」
左側のマークを押して、手順を進める
シャットダウン、スリープ、再起動
その選択肢はあるが、それ以外にはない
ダイヤ「……なるほど」
考えていた通り、眠った記憶は昨夜だとパソコンの時間が証明する
弄られていた場合、それは何の証明にもならないかもしれないが、
一先ず、それを信じるほかない
五月二日、それが今日の日付のようだ ダイヤ「……くっ」
掲示板を更新しても、真っ当に考えてくれるつもりはないらしい
結婚する……などという書き込みがあるのみ
ダイヤ「どうしろと」
考えても、解るはずがない
監禁される覚えはないし、悪戯にしては度が過ぎている
ダイヤ「鞠莉さん! いい加減にしてください!」
怒鳴るが、やはり返答はない
カメラの奥で笑っているのだろうか、それとも…… ダイヤ「な……」
書き込めば更新されるようで、
小原鞠莉に対しての書き込みをおこなうと、いくつかの書き込みが増えた
空腹になるまで放置、ルビィへの酷いことの動画
目の前で妹の凌辱、お手洗いの我慢、ごろごろしている姿を見せる
ダイヤ「……な……」
妹への酷いこと、それを望む書き込みに動揺する
もし、犯人がそれをしたら……
ほかの誰かの書き込みが、今に反映されるとしたら……
ダイヤ「なっ、なにか……!」
何か落ちているものを探せ
唯一、信じてくれていそうな書き込みを頼ってパソコンの前を離れる
机の下には何もない
ぱっと見て、落下物はないが。
ダイヤ「ベッドの下は……?」
妹のルビィを思い出す
時々、片付けをしたと言いながらベッドの下や押し入れに隠しただけと言うこともある
押入れがない部屋だ、あるとすればベッドの下だろうと、手を伸ばす
ダイヤ「痛っ……」
ベッドの下に、包丁が落ちていた ダイヤ「なぜ包丁がこんな場所に」
少し指先が切れてしまったが、大事には至らなそうだ
包丁はそこまで高いものではなさそうだが、D.KUROSAWAと彫刻が掘られている
ダイヤ「D.KUROSAWA……黒澤ダイヤ」
それ以外にはないだろう
だが、それ以上の情報は得られそうにない
なぜダイヤの名で包丁が作られているのか
理由は分からないが、嫌がらせにしては手が込んでいる
名入りの包丁など、無駄も良い所だ
ダイヤ「……そ、そうですわ。次を!」
掲示板を更新するといくつかの提案があった
机の引き出し、部屋の間取り、マッドレスの中、トイレの中……
ダイヤ「ありがとうございます……」
とりあえず返答し、机の引き出しを開けてみる
左の引き出しにシャーペンが一本あり、右側の引き出しには何も入っていない ダイヤ「マットレス……」
ベッドに使われているマットレスを触る
低反発……だろうか、押し込めば程よく返してくれる
ダイヤ「この中……?」
マットレスをベッドから引き擦り下ろして床に落とす
一緒に堕ちた枕と布団をベッドの上に放って、調べる
ダイヤ「……」
マットレスにはカバーがついているが、チャックはない
引っ張っても伸びるくらいでびくともしない
ダイヤ「そういうこと、ですか」
ベッドの下に落ちていた包丁を手に取る
刃元の部分を突き立てて引き裂く
スポンジ部部分が露出し、工具のドライバーが床へと転がり落ちた
ダイヤ「ドライバー……?」
先ほど見た限りでは、ドアをどうこうできそうにはない
ドライバーは手に入ったが、使い道は不明だ ダイヤ「トイレは……避けたいですが」
便座に手を突っ込むことも考えながら、
18の人にマイナスドライバーがあったことを書き込み、一息つく
シャーペンを分解してみろというのに従って、キャップを外す
内側には消すための小さな円形の消しゴムが一つ
逆さにして振ってみると、数本の芯が飛び出した
ダイヤ「……おかしなところは」
シャーペンの芯はもちろん、消しゴムにもおかしなところはない
ペン自体は回らず、解体は出来そうにない
これも、安物のようだが。
ダイヤ「包丁のようなこともありましたし……」
何か、別の場所で使うのだろうか ダイヤ「それにしても……」
急に助けてくれる人が増えた
信じてくれているのか、とりあえず遊びに付き合ってやろうというのか
ダイヤ「まさか、ね」
実は犯人が書き込んで誘導しているのかと考える
唯一の連絡手段だ、疑ってしまったらもはや頼りはなくなり孤独になる
ダイヤ「……仕方がありません」
洋式便座は、白い陶器製
汚れはなく、まさかとは思うがこの為に新しく用意されたように見える
水はしっかりと溜まっている
ダイヤ「くぅ……っ」
まだ綺麗、まだ綺麗
そう言い聞かせながら手を突っ込んでみると、何かに触れた
ふゆふゆと、変な感触
だが、ギリギリ手が届かない
ダイヤ「シャーペンかドライバー」
シャーペンが書けなくなることを考えると
ドライバーだろうと握りしめて、もう一度手を突っ込む
ダイヤ「……鞠莉さん……貴女だったらっ」
絶対に許さないと、便器の中に隠された何かを引っ張り出す 入っていたのはビニール袋
わざと詰まらせていたのか、引き抜いたとたんにごぽごぽと便器が唸る
ダイヤ「……?」
ビニール袋の中には紙が一枚
書かれているのは『安価3』と言う言葉
ダイヤ「安価?」
何が安価なのだろうか
包丁か、シャーペンか、ドライバーか
ダイヤ「良く分かりませんが、19さんに返すべきですね」
もしかしたら何か情報が得られるかもしれない
とりあえず、とパソコンの前に座って書き込んだ ダイヤ「返事は……」
流石にすぐには来ない
更新しても何も無いことを確認してから、すでに書き込まれていただろう枕を調べることにした
枕にもカバーはあるが、こっちにはチャックがある
開けてみると、中身の本体が出てくるだけで変わったところはない
押し込んでみる、引っ張ってみる
残念ながら、変ったところはない
ダイヤ「っ……」
マットレスと違い、さすがに破くほどの秘密がなさそうに思える
とりあえず戻して、ベッドに座る
ダイヤ「誰か……」
掲示板の書き込み……もし、ルビィが巻き込まれたら
そう思うと、体が震える
助けがこない
調べても調べても、出てくるのは断片的なアイテム
ダイヤ「……」
掲示板を更新してみると、いくつかの書き込みがあったが、情報はない
ダイヤ「あれ?」
ただ一つ、他が【名無し〜】なのに【♦4U〜】の書き込みがあった ダイヤ「判定、白」
それ以外に書かれていることはなく、意味が解らない
部屋にも変化はなく、何かされるでも与えられるわけでもないようだ
ダイヤ「つまり、白ならセーフ?」
判定が白ということは許された
つまり、判定が黒だったら……
ダイヤ「……よく、解らないけれど」
ダイヤの書き込みから、判定の書き込みまでの間
そこで何かが判断、判定されて
その結果が白だったのだろう
ダイヤ「でも、これからどうしたら……」
とりあえず、掲示板を更新する
ダイヤ「ひぃっ!?」
これが黒澤ダイヤちゃん?prprしたいわwwwという気色の悪い書き込み
そこに付加されているhttpから始まる蒼い文字を押すと、ダイヤの写真が画面に表示された
ダイヤ「なっ……なん……」
スクールアイドルをやっているのだから、写真くらいは出回るだろう
その覚悟もある
しかしながら、そこに合わせて書かれていた言葉に、悪寒が走った ダイヤ「嫌……こんな……」
身体を抱きしめる
震えている体は、心なしか冷たい
監禁したのはこれが目的だったらどうしよう
眠っている間にこれをされていたら?
寝間着から制服への着替え、いったい誰がしたのか
ダイヤ「うっ……うぅ」
触られた覚えがないのに、触られたような感覚を覚え身震いする
パソコンの裏と側面に何かないのか
その言葉に触れて……パソコンを持ち上げようとしたが……
ダイヤ「こ、れは……」
ノートパソコンは机に固定されており、まったく動かせそうにない
側面にはパソコンに元々備わっているコード類を差し込むであろう穴が数個
ボタンらしきものを押すと、モーターの音が聞こえ
側面が開いた
ダイヤ「CDなどを入れるもの、よね?」
CDまたはDVDを入れるためのものだろう
しかし、何も入っていない ダイヤ「なぜ……どうしてっ」
とにかく書き込む
鞠莉が犯人とは限らないが、一番可能性が高いからと名指しする
しかし、反応はない
マウスの解体という指示があったが、マウスについて出来そうなのは何もない
有線タイプのマウスは、パソコンにUSBケーブルでつながっている
ダイヤ「……誰か!」
扉を叩く
反動の痛みが手首まで登っていく
じんじんとした痛み、これ以上強く叩けば痺れてしまいそうな硬さ
それなのに、一切の反応がない
ダイヤ「……」
覗き穴のようなものはなく、
内側からは開くことが出来そうにない差し出口が下部についている
ダイヤ「誰……なの……」
くぅ〜……と、お腹が鳴る
冷蔵庫がなく、箱もなく
つまり、食べ物がこの部屋にはないのだ パソコンを更新する
ダイヤ「服……?」
着ているのは浦の星女学院の制服だ
寝ているときに出来ただろう皺があるが、新品のような硬さは感じられない
絶対とは言えないが、おそらくはダイヤ本人のものだろう
ダイヤ「脱いで、みるしか……」
周りを見回して、タイを外して観察する。
緑色系統の色合いのそれは、特に変わったところはない
上着についても、脱いでは見たが変化はない
ダイヤ「……」
白い肌着、白いブラジャー
どれをとってもどこにもおかしなところはなかった
浦の星女学院の制服着替えさせたのはただの気まぐれだろうか
ダイヤ「……あ」
ポケットには、ヘアゴムが一つだけはいっていた
見覚えがある……ルビィの髪を留めていたものだ
ただ、それだけだ 書き込むと更新される
更新されれば書き込みがいくつか増えてきてくれる
ダイヤ「洗面台……?」
トイレのすぐ近くに併設されている洗面台
近づくと、鏡に自分の姿が映る
いつもと変わらない顔、髪型だ
ダイヤ「………」
便器に手を突っ込んだ時にも使ったが、
蛇口からは普通に水が出てくる
鏡の両サイドを開けるなんてことは出来ず、何かがあるということはないらしい
台の横にはコップが一つあるだけで、歯ブラシも歯磨き粉もない
当然のように、石鹸もなければタオルさえないのだ
ダイヤ「……っ」
コップに水を注いで、まずはうがいをする
そのあとに、のどを潤す。
一杯、二杯、三杯
食べ物を与えられない分、水だけでおぎなう
ダイヤ「……どうしたら」
パソコンの前に戻って、祈る気持ちで更新する ダイヤ「……?」
自分の少し前の書き込みに、さっきとは違う変化があった
>>61という小さな文字
カーソルを合わせてみると、文章が表示された
ダイヤ「不等号……レス番指定……?」
言葉は分かる、けれど意味が解らない
しかし、自分の書き込みに関連付けされるのかと判断する
洗面台を調べろと、頑張れと
応援してくれる53の人に、その指定をして書きこんで
教えてくれた61の人に感謝を書き込む
ダイヤ「……けほっ」
水だけのお腹が、変に揺れる
空腹をごまかしただけで、実際に満たされたわけではないのだ
それでも数日は生きられる
ダイヤ「……包丁、パソコン、シャーペン、安価3の紙きれ……ドライバー」
最悪、包丁を使ってしまおうか。そんな、駄目な考えが脳裏を過った 書き込むと、鏡を叩いてみようという書き込みが増える
その可能性はあまりなさそうに思えたが、それでも。と、洗面台の前に立つ
ダイヤ「……」
息を吐く、息を飲む
胸の前にあげた手を、鏡の方へと伸ばしてみる
こつん……と、小さな音
ダイヤ「もう少し、強く」
手の甲、骨の部分でノックする
コンコンっという音がした
ダイヤ「……もう少し」
鏡に耳をつけながら、叩く
渇いた音……けれど、少しだけ反響する音だ
ダイヤ「鏡……」
割って何もなかったら?
でも、割らなくてもなにもない
ならばどうするか、考えるもないことだ
ダイヤ「素手では、駄目」
ドライバーを手に取り、差し向ける
深呼吸をして――叩き込んだ 鏡が音を立てて砕け散る
ぽっかりと空いた穴の中には、トンカチが入っていた
ダイヤ「トンカチ……?」
鏡を割る前に見つけていれば、鏡を割るためだと思えたかもしれない
だが、鏡を割って手に入れたトンカチに意味はあるのだろうか
扉はトンカチでどうにかできるものではない
パソコンを壊す?
外部とのせっかくの連絡手段を断てというのだろうか
ダイヤ「……用途が、わからない」
包丁で自分を指す、トンカチで自分の頭を殴る
自殺をする選択肢を増やしてやった。とでも嘲笑っているのだろうか
ダイヤ「……」
考えてみれば、監禁の犯人はダイヤを解放する気がないかもしれない
わざわざ道具をちりばめているのは、希望を持たせた後に絶望させる下準備かもしれない
ダイヤ「そこまで恨まれるようなこと……したのですか?」
ダイヤ自身に、覚えはない ナイフとドライバーと鏡の破片って脱出ゲーム的には最強の装備だな 返事を書き込んでみると、机の引き出しに仕掛けはないのかという書き込みが追加されていた
左側にはシャーペンがあったが、右側には何もなかった
念のため、左右両方の引き出しを引っ張り出して
並べてみると、厚みに差違はないように見える
ダイヤ「……うまく二重にされているとか?」
左側を押してみると、びくともしない
右側を押してみても……残念ながらびくともしない
ダイヤ「何も、ない?」
引き出しは二つで一つで、左側のシャーペンだけがアイテムなのかもしれない
当たりとはずれ。そうやって弄ばれているのだろうか
ダイヤ「………」
綺麗な引き出しの底を指でなぞる
つるつるとした引き出しの底……なにもない
ダイヤ「でも……」
トンカチで叩けばそこが抜けそうだ ダイヤ「……あっ」
引き出しの底に仕掛けは見かけられないこと
トンカチで叩けばそこを抜くことが出来そうなこと
それを書き込むと、掲示板が更新された
金槌――トンカチやドライバーを使って
パソコンを机から引きはがしたり、包丁の柄を外してみては?という書き込みが追加される
パソコンを引きはがすことに関しては、壊れる可能性があるから控えるべきでは?という意見も見られる
ダイヤ「そうですね……控えたほうが良いと思います」
情報は一つでも多く欲しい
だから、パソコンを引きはがすことも考えるべきではあるが、
それをして得られる情報と、パソコンをそのまま使えるようにしておくこと
どちらが有益であるかを天秤にかけて、そのままにしておくことを決める
ダイヤ「……顔も見えない、名も知らない。匿名ではあるけれど……」
しかし、貴重な情報源だ
なにより、自分が一人ではないという気持ちにさせてくれる唯一の救い
ダイヤ「救い……ですわね」
他に情報は得られないかと更新すると、また新しい書き込みが増えた
ダイヤ「なん……で」
◇4U〜から始まる名前の書き込み
空腹を感じていること感知しているという
そして、食事を与えるべきかどうかを他者に委ねるという
ダイヤ「餌……っ」
食事ではなく、餌
まるで、飼われているペットのような扱いだった ダイヤ「いったいどういう……」
餌から感じられる気色悪さに身震いする
そうして、「安価はそうですねぇ……」という言葉を睨む
安価とはつまり、値が安いということではないのだろう
先ほどの書き込みを思い出す
安価3と、ダイヤが書き込むと数件の書き込みの後に判定は白となった
そして、今回の謎の人物の書き込みにも安価ということがあり、下3つの中と言うのが見られる
ダイヤ「そして、例の不等号……」
不等号=安価。と考えるべきだろうか
どうして関連付けが安価と呼ばれるのかは分からないが、インターネットではそういうものだと考えておいた方が良い
ダイヤ「……そういうこと」
判定が白だったのは、ダイヤの書き込みから3つの書き込みが
ダイヤに対しての指示でも何でもない書き込みで通過されてしまったからだ
犯人は、そこでダイヤに対する嫌がらせを支持させ、それを実行しようとしていたのかもしれない
それを思えば意味の無い書き込みをしてくれた人に感謝するべきだ ダイヤ「とにかく……っ」
謎の人物……おそらくは犯人に関連付け
安価を差し込んで書き込む
何が目的なのか、自分に原因があるのなら教えて欲しいと
犯人の目的が分かれば、何かできることが変わるかもしれない
そんな希望を持って……
ダイヤ「……あ」
書き込みが、増える
犯人の書き込みに続いて、いくつかの書き込みだ
ダイヤに食事を与えようとみんなが考えてくれているようで、無しと言うのはない
ダイヤ「この書き込みは……」
書き込みが文字化けしている
その結果、犯人の指定の中で一人が二回書き込んでいるが、これはセーフなのだろうか
ダイヤ「ひっ!?」
カタンッっとどこからか音が鳴る
部屋を見渡すと、扉のすぐそばにおにぎりが二つほど転がっているのが見えた
ダイヤ「おにぎり……この、書き込みの通り……」 ダイヤ「お皿も、無いのね……」
無造作に彫り込まれたようなおにぎり二つ
市販のものではないのか、ラップにくるまれたおにぎりはまだ温かい
ダイヤ「っ……」
手に取っただけで、お腹が鳴る
手に感じる温もり、鼻を通って肺に溜まるご飯の優しい匂い
けれど、これは市販されていたものではないのだ
ダイヤ「……もし、毒が入っていたら」
致死性のものではないにせよ
意識の混濁や、身体的な障害をもたらすようなもの
睡眠導入剤や、錯乱させるような毒が仕込まれていないとは限らない
ダイヤ「あぁ……」
お腹を擦る
悲しそうな鳴き声だ
けれど、食べてなにかがあると思うと食欲に負けられない
ダイヤ「食べたい……食べたい……」
けれど、食べてはいけない 今の状況を書き込む
ねじを探してみよう。という提案に返事をして、パソコンの前を離れる
ダイヤ「……」
取り外したままの引き出しは、滑車で滑らせるための部品がついている
そこにねじがついているが、これを外したところでぶひんが外れるだけだ。意味はないだろう
ダイヤ「……っ」
重厚な扉には、手持ちのマイナスドライバー一本でどうこうできるような部品が使われていない
手洗い場、便器
それに関しても、ドライバーではどうにもならないのは明白だった
ダイヤ「……ベッドは」
ベッドは、所謂六角形の頭を持つねじで固定されているようで
当然だが、ドライバーではどうにもならない
ダイヤ「せめて、プラスネジなら……」
手に入れたのはマイナスドライバーだ
本来の用途で言えばマイナスのネジに使われるべきだが、マイナスとプラスのつくり上、プラスのねじも回すことが可能だ
ダイヤ「のこりは机ですが……」
パソコンが固定されている学習机は、壁際に張り付けられているように動かない
側面、正面、上面そのどこを見てもネジは見られない 向こうのスレにも書いたけど面白いわ。
続き期待してます。 ダイヤ「一応、パソコンにはネジがあるのですが」
残念ながら、手持ちのドライバーとはサイズが違いすぎる
もちろん、パソコンに使われているのは
あまりにも小さすぎるのだ
ダイヤ「包丁を解体するのも視野に……包丁?」
パソコンの横に置いてある包丁を手に取る
追加の情報が無いかと更新してみると、おにぎりに毒はないのでは……? という書き込みが追加される
ダイヤ「なるほど……」
殺すつもりなら、こんなことせずに殺されているのでは? と言う書き込みに向けて安価をつける
頃好きなら初めから殺しているのではという点には概ね同意できる
しかし、果たしてそうだろうか
ダイヤ「いつでも殺せるから、遊んでいるという可能性も考えられる」
そう、例えば下剤だ
犯人は空腹を訴えていると知ることが出来たということから
ダイヤのことを監視していることは間違いないと言えるだろう
だから、下剤でダイヤを追い込み、みっともない姿をさらさせようと目論んでいるかもしれない
疑うとキリがない
だけど、疑わなければ生き残れない
ダイヤ「……相談、しましょう」 ダイヤ「……お願い」
もしかしたらの不安を書き込む
キーボードを叩く手が震えて、涙が零れてしまいそうになる
ダイヤ「助けて……助けてください……」
自分では、これを食べる気にはならない
食べたくて、食べたくて仕方がないのに
毒があるかもしれないと考えてしまう頭のせいで、食べられない
ダイヤ「……」
だが、みんなが大丈夫と言ってくれたら
そうしたら食べられる。そんな気がしたのだ
掲示板を更新してみると、崩してみたらどうか、香りはどうかと言う書き込みが増える
ダイヤ「……確認、ですね」
下剤の種類は101の人が言うように不明だ
錠剤か液剤か
薬と言っても複数種類あるため、錠剤だけではないと考えておくべきだ
ダイヤ「包丁で半分に……いえ、それでは薬を砕く可能性がある」
包丁は使わずに、おにぎりの一つを手で崩した ダイヤ「……梅」
おにぎりの真ん中部分は真っ赤に潰れた果肉に浸食されている
ツンとした匂い……酸っぱさを感じるそれは、梅干しだろう
種は取り除かれ、一度すり潰された梅干しだ
ダイヤ「……」
海苔の仄かな磯の匂い、ご飯と混じった塩の匂い
そして、最も強い梅干しの匂い
ダイヤ「違和感は、無いけれど」
もう一つのおにぎりを崩す
それも同じく梅干しのおにぎりで、違和感は感じられない
情報を書き込んで、一息つく頃
すでにお昼はとうに過ぎた時間が目に入った
ダイヤ「……みんな、探しているのでしょうか」
黒澤ルビィ、小原鞠莉、松浦果南、高海千歌、渡辺曜、桜内梨子、国木田花丸、津島善子
スクールアイドルの仲間を想い、妹たち家族を思い出す
ダイヤ「っ」
ぐぅ〜……とお腹が唸った
割ったせいで強くなったおにぎりの匂い
はしたないが、零れてしまいそうな唾液を飲み込む
ダイヤ「このまま食べなくても餓死してしまう……」 幸い、水はあるからすぐに餓死することはないが
食べなければ力が無くなっていくし、頭も回らなくなっていくことだろう
ダイヤ「……くっ」
しかも、おにぎりを捨てることが出来ない
ゴミ箱が存在しないのが非常に厭らしいのだ
目の前で腐っていくおにぎりを見ながら、水を飲んで誤魔化さなければならない
いっそ、トイレに流してしまうのが英断と言えるかもしれない
ダイヤ「……保留?」
掲示板を更新してみると、空腹の限界まで放置してみるのはどうかと言うのが追加される
銀での毒性判定と言うのも追加されたが、包丁は銀でできているものではない
ダイヤ「放っておく……」
お腹を撫でる
目を閉じて考えて、生唾を飲み込む
ダイヤ「そうしましょう」
崩したままののおにぎりを放置して、夜に食べる
硬いだろうし、不味くなっているかもしれない
非常にみすぼらしいが、死ぬよりはましだろう
ダイヤ「……ありがとう」
監禁されている証拠なんてないのに信じて付き合ってくれる掲示板の人たち
感謝を述べて、その指示に頷く ダイヤ「……」
犯人の目的は不明だ
書き込みに対して返してみたが、返答はなかった
ダイヤに恨みがあるのかどうかさえない
ただ、解っていることもある
この部屋は犯人の監視下にあり、常にみられているということ
それは掲示板も同様で、犯人はダイヤとその他の人々の返しを見ている
だが、犯人はダイヤの書き込みにもその他の人たちの書き込みにも返す気はなさそうに感じる
周りに対し、ダイヤに対しての行為を安価というものを用いて決める程度だ
ダイヤ「……最低」
監視されているのが明確になってくると、
便器が部屋の中で野ざらしと言う点が酷く不快になる
もちろん、そうでなくとも不快だが、見てやろうという嫌な考えが見えてきて……吐き気がする
絶対にしたくない
でも、水を飲まなければ脱水症状に見舞われる
食事をしなければ空腹に襲われ、思考力を奪われる
それを避けて飲食すると……必然的に排泄が必要になってしまう
ダイヤ「お風呂も、替えの衣服もないのよね……」
一日過ごしたら帰してくれる
それだったらどれだけ救われるだろうか
汚れていく体を綺麗にするための道具もない部屋は、不気味でしかない トンカチを手に取る
左側の引き出しの底を軽く叩いてみると、軽い音が返ってくる
ダイヤ「……ッ!」
今度はもう一度力強く振るう
ガンッっという衝撃が抑える左手にまで伝わり、引き出しがすっぽ抜けていく
ダイヤ「……もう一回」
逆さに置いてできれば楽だが、形状を見る限りでは内側から叩かなければならない
その手間に迷わず、もう一度引き出しを手に取ってトンカチを振るう
強い衝撃、木製の砕ける歪な音が響いて、床へと薄い板が落ちる
ダイヤ「はぁ……はぁっ」
底の抜けた引き出しを放って、その場にへたり込む
左側の引き出しは、はずれだ
抜けた底はただの部品でしかなく、何の仕掛けもヒントも施されていない
ダイヤ「今度は、右……」
同じようにトンカチで二回、三回
弱った力で何度もたたいて、底を外すことに成功した 右側の底は、床に落ちると二枚に増える
いや、凄く薄い二枚合わせの底が落ちた衝撃で割れたのだ
ダイヤ「……?」
しかし、二枚の板で構成されていただけで
何か細工があるようには見えない
ダイヤ「ただの、嫌がらせでしょうか」
何かがあると思わせるためだけの仕掛け
実際には何もなく、無意味な希望を持たせるためだけのもの
ダイヤ「く……っ」
犯人に馬鹿にされているのではと思うと苛立ちが募る
思わず振り上げたトンカチを叩きつけそうになって、息を吐く
ダイヤ「冷静に……落ち着いて」
味方はいるのだから
助けようとしてくれているのだから
今は得られた情報を伝えて、一緒に考えて貰おう
ダイヤ「……お願いします」 ダイヤ「……ありがとうございます」
書き込むと更新され、新しい書き込みが追加される
それだけで思わず泣きそうになってしまうが、抑えて首を振る
包丁の柄に関して、ドライバーとトンカチを使って慎重に行えば
持ち手を割らずにとれるのでは? という話だ
ダイヤ「一理あります」
プラスドライバーではなく、マイナスドライバーである理由は持ち手を外すためではないか。という話
確かに、普通ならプラスドライバーだ
マイナスドライバーなのは、プラスマイナス兼用かと思われたが
包丁の持ち手に限らず、差し込んで使えるという利点がマイナスドライバーにはある
提案に答えてくれた人達に返答する
ダイヤ「……ふふっ」
手を切らないように気を付けてね。と、
優しい言葉をかけてくれる書き込みに思わずほころぶ
匿名で、顔も名前も知らない相手
何の返礼もできないが、せめて感謝だけは述べようと書き込む
ダイヤ「ええ、気を付けます……ええ、気を付けますわ……」
刃を素手で握ることも厭わないつもりだった
けれど、かみしめる様に呟いて、枕のカバーを手に巻く
慎重に包丁を押さえて、口金の部分にマイナスドライバーの先をつける
ダイヤ「慎重に……ふぅ……」 ダイヤ「……はぁ」
コンコンっと軽く叩く
口金からずれては戻し、叩いて……戻す
一回一回、慎重に叩く
力が弱すぎるのか、なかなか先に進んでくれない
焦りはない、ただ、空腹を感じる
ダイヤ「……両手で、やるしかない」
カバーを巻いた手で包丁とドライバーを押さえている
だが、そのせいでズレやすくなっていると考えるべきだろう
包丁にカバーを巻いて、足で包丁を押さえて左手でドライバーを刺して――右手で打つ
支えるのが手ではなく足になる分不安定にはなるが、仕方がない
ダイヤ「……」
叩く、叩く、叩く
ダイヤ「痛っ」
間違って指を叩いたり、足にドライバーが刺さったり
痛い思いをしながら、泣きそうになりながら……何度も叩く
ダイヤ「っ……まだ」
叩いて、叩いて、叩いて
ピキッ……と、包丁の口金にひびが入った
ダイヤ「……無理」
壊さないなんて無理だ
割らないなんて、難しい
慎重にやっているけれど、こんなことをした経験がないし
道具は適性のものではない
ダイヤ「……仕方がない」
ひびに向けて、ドライバーを突き立て……叩いた 口金の部分が割れ、刃先がブレる
持ち手まで割れることはなかったが、差し込んだ状態でしっかりと固定するための口金が壊れたのだ
もう、正常に扱うことは出来ないだろう
ダイヤ「……っ」
カバーを巻いた状態の刀身を掴み、左右に揺らしながらゆっくりと引っ張る
カタカタと揺れながら少しずつ動いて、不意に――刀身と持ち手が分離した
ダイヤ「あっ」
取りこぼした持ち手が床に落ち、口金が外れる
隠れていた中子の部分には特にか変わったところは見られない
では、持ち手はどうか
外れた口金の内側は汚れているが、作り上の影響で仕掛けではなさそうだ
ダイヤ「……収穫、なし?」
刀身を戻してみるが、口金が壊れた影響だろう
逆さにするとすっぽ抜ける危ない道具へとなり果ててしまった ダイヤ「……ふぅ」
結果を書き込んで、またいくつかの書き込みが増えるのを横目に一息つく
犯人からの書き込みはなく、ダイヤの情報から推測してくれている書き込みだ
ダイヤ「あぁ……私が中途半端だったから……」
引き出しの二枚重ねになっていたほうにディスクが隠されていなかったか。
開け方は正しかったのか
そういった書き込みが散見されることに、呻く
ダイヤ「………」
底板は床に落ちたはずみで割れており
底にはディスクらしきものは影も形も見られない
開け方に関しても、トンカチで叩いてもシャーペンでこじ開けても
どちらも結果は変わらなかったように思える
いや、シャーペンで開けていれば状況は違っていただろうか
ダイヤ「……大した違いがるようには思えませんが」
二枚重ねになっていた底板は、
上に重なっていたほうに対し、下になっていた部分の接着剤が剥がれて付着した状態になってしまっている
仕掛けと言うよりも、作りの問題に思えるが、先ほどのように困惑させないようにと、詳細を書き込んでいく ダイヤ「そんなっ……一緒に考えて下さっているだけで救われていますっ!」
情報は得られなかったことに関して、ごめんねと書き込まれていることに、目頭が熱くなる
実際にここにいるのは自分で、本当なら助けなんて得られない状況なのに
考えて貰って、提案をもらっている
ダイヤ「考えて頂けているだけで、私は……」
声が聞こえるわけではないけれど
他者とのやり取りが行えているというのが、救いだった
一人ではない、孤独ではない
それが、ダイヤの心が折れることを抑止してくれている
ダイヤ「頑張ります……頑張りますね……」
目元を拭い、一旦状況を整理しようという書き込みに頷く
調べたもの、調べていないもの
それを分けたうえで、部屋の状況を調べる
ダイヤ「……そう、ですね」
あたりを見渡す
六畳一間、洗面台、鏡、トイレ、ベッド、マットレス、枕、学習机、引き出し、
パソコン、扉、おにぎり、シャーペン、トンカチ、包丁
ダイヤ「……今は」
とにかく、書き込んだ ダイヤ「……天井?」
見上げてみる
見えるのは規則正しく設置された横長の蛍光灯
監視カメラの類は見えない
ダイヤ「不思議なところは、ありませんが……」
電気については、壁際に設置されているボタンで点けるも消すもできると考えるべきだろう
蛍光灯の数に対し、ボタンは一個
恐らく、一つですべてに影響が出るはずだ
下手に消すのは控えたい
ダイヤ「……っ」
尿意を感じて、身を捩る
最初に数杯飲んで、空腹をごまかすためにも水を飲んで
たっぷりと取った水分は排出されることを望んでいるのだ
だが、壁のない場所でそんなことをするなど、人としての尊厳が認められない
ダイヤ「……いや……いやっ」
スカートの上から両手で押し込む
パソコンの前に座り込んだまま、ダイヤは息をひそめた
気付けば、目が覚めてから早くも半日が経過しようとしている ダイヤ「っ……はぁ……」
何とか抑え込んで息を吐く
天井には何もないことを書き込む
掲示板が更新されると、天井などの材質を教えて欲しいという書き込みが増える
白玉チャレンジ。と言うのも増えたが、良く分からないので無視だ
ダイヤ「……」
床は一般的にフローリングと呼ばれているものだ
壁は壁紙が張られているので分からないが、
叩いてみた限りではコンクリートのような音がする
天井にも紙が貼られているので絶対とは言えないが、
壁を参考にするならば、天井もコンクリートと考えるべきだろう
ダイヤ「ひぅっ……」
少し動いたせいで、またぶり返す
ダイヤ「く……うぅ……」
便器を一瞥する
漏らしてしまうリスク、その結果自分が着る衣服が無くなる可能性
醜態を犯人に見られることを加味しても
いずれ、自分がそうせざるを得ない状況に陥ることを考えれば
まだスカートと下着が残っている方が良いのではないかと計算する
ダイヤ「……どうして……っ」
下着を下ろして、冷たい便座に座る
遮る音もなく、部屋に恥ずかしい水の音が跳ねまわる
じわじわと広がっていくアンモニア臭
ダイヤ「うっ……うぅ……」
涙を堪えることは出来なかった ダイヤ「……先に探しておいて良かった」
水を流し、手を洗って一息つく
詰まっていたので流れることはなかったかもしれないが
自分が使った後、流す前に手を突っ込むというのは本能が拒絶してしまう
ダイヤ「……」
調べた床や壁などの材質を書き込む
6畳が本当に6畳なら……と言う書き込みが追加される
ダイヤ「すみません……畳ではないので、憶測なんです」
6畳ほど……と書いておくべきだっただろうかと後悔する
学習机の端に置かれているおにぎりは作り立ての輝きと温もりを失ってしまっている
そろそろ食べても平気かもしれない
ダイヤ「まだ、1日目……」
犯人はどれだけ監禁しておくつもりなのだろうか
1日?2日?3日?
それとも……死ぬまでだろうか
ダイヤ「……っ」
首を振って、掲示板を更新する ダイヤ「あっ……」
犯人からの書き込みが追加されていた
安価下3つ、欲望の限り……そして、解放はダメ
解放が選択された場合、悪いことが起こるという怖い言葉
ダイヤ「……っ」
だが、掲示板の参加者は差し入れというのを書き込んでくれている
prprしたい……と言うのも見られたが、意味が解らない。と言うことにしておく
言葉通りなら悍ましいが……そんなことはないと、信じる
ダイヤ「コンマ……っ!」
コンマは秒数よりもさらに前のもの
書き込みを見てみると、コンマが一番低いのは差し入れだ
ダイヤ「プリ――じゃないっ!」
そこに喜ぶのではなく、扉に目を向ける
まだおにぎりもプリンもない
つまり、差し入れが来るのはこの後と言うことになる
ダイヤ「……捕まえる」 ダイヤ「……」
耳を澄ませても足音がしない
ゆっくりと扉に近づいて、差し出口を見る
おにぎりは恐らくここから入れられただろうし
今度もここから差し入れが入れられるはず
少し待っていれば、犯人が来るはずだ
ダイヤ「……」
おにぎりの差し入れは、書き込みを見ている間に来てしまったが、
今度は逃すまいと息を顰める
だが……犯人には見られているかもしれない
ダイヤ「……ふぅ」
数分間待っていると、カチッと音が鳴る
厚い扉の下部、差し出口のところからだ
ダイヤ「……っ」
手にもったトンカチを振り上げて、息を殺す
外からしか開くことのできない差し出口がだんだんと開いて、外の影が見える
そして――差し入れが入ってくる ダイヤ「!」
今度はお盆に乗せられており、
おにぎりはやはり手作りだが、プリンは市販のものだ
そのお盆は伸ばし棒のようなもので押し込まれ、
犯人の手は部屋の中に一ミリたりともはいってくる気配はない
ダイヤ「くっ……待ってください!」
大声で叫ぶ
振り上げていたトンカチで扉を叩いて、自分がここにいることを誇示する
ダイヤ「お願いしますっ! お願いですから……解放してください」
懇願する
涙が零れそうなほど力強く願う
しかし、犯人かあの答えは何もなかった
差し入れが押し込まれただけで、その出入り口は閉じていく
ダイヤ「どうしてッ!」
すかさずトンカチを差し出口に突っ込む
閉まりかけていた扉がガチンっと音を立てる
ダイヤ「どうして……こんなことをするんですか……」 ダイヤ「答えて頂けるまでは、これを抜きません」
せめて犯人の肉声だけでも聞くことが出来たら
その思いで声をかける
しかし、犯人は何も言わない
無理矢理差し出口をしめることはなく、まるで、そこに誰もいないかのように静まり返る
ダイヤ「目的は何なのですか……どうしたら、出していただけるんですか……」
返答はない
ダイヤ「なぜあんな掲示板を使うんですか!」
返答はない
ダイヤ「どうし――」
不意に、トンカチの先端が引っ張られる
返答がないことへの失望に揺れていた心は対応できなくて、トンカチが持っていかれてしまう
ダイヤ「待って! 待ってください……っ」
犯人からは何も返答はなく……差し出口は閉じられてしまった
得られたものはなく、ただトンカチだけが失われた ダイヤ「プリンとおにぎり……」
トンカチと引き換えに残った差し入れ
手製のおにぎりは除いて、市販のプリンを手に取る
蓋の部分はビニール状で、押してみると中身が出てくるようなことはなく密封されていることがわかる
カップの部分を一通り撫でる
穴があけられたようなざらつき感は感じられない
ダイヤ「これは大丈夫そうです……」
トンカチが取り上げられてしまったことを書き込むと、
またいくつかの書き込みが増えた
その前に、その手前の自分の書き込みから増えている書き込みに目を向ける
ダイヤ「……すみません」
床を叩いてみては? と言う提案があるが、それはもうできない
電気に関しては、スイッチが壁にあるが、消せば全部消えてしまう
しかし、四の五の言っている場合ではないかもしれない
そして……ビニールに入っていた紙だ
なにか書くのに使うのかもしれないという話だ
だが、すでに安価3と書かれている
けれど言われてみれば、犯人の指定はすべて直接書き込まれている
にもかかわらず、これについては紙に書かれていた
ダイヤの無知を狙ってのものかもしれないが パソコンの明かりをそのままに、壁に備え付けられている電気のスイッチに触れる
押せば一瞬で真っ暗になるか
それとも、オレンジ色の薄暗い部屋になるか
ダイヤ「……まずは」
カチッっと音が鳴って、電気が消える
部屋は真っ暗になるようで、パソコンの明かりだけが視界を確保してくれる
もう一度スイッチを押すと……電気がつく
ダイヤ「変化は、無し」
電機は消えたが、それだけだ
何か変化があるわけではなく、ただ寝るときに暗い方が良いなら消せばいい。と言う程度だろうか
ダイヤ「外……どうなっているのでしょう」
パソコンの時間は、すでに夜といえるような時間に入っている。
書き込みをする前に、掲示板を更新してみると、また書き込みが増えていた
ダイヤ「おにぎりとプリン……あぁ、すみません。まだ口にしていません」
プリンは食べられそうだが、おにぎりは怖かったのだ
放置していたほうは、もう大丈夫だろうか
すでにカピカピになっているおにぎりの一部をちぎって、口に運ぶ ダイヤ「ぅ……」
冷たくて、固いご飯
噛みしめるとじんわりと広がる塩の味
グミを噛んでいるかのような歯ごたえは、ときおりガリッっと音を立てる
ダイヤ「……っ」
それでも、もう一つ、もう一つ
おにぎりをちぎって口に運ぶ
どれだけ不味くても、お腹に入ってくる感覚が……体に染みる
ダイヤ「けほっ」
1個の半分ほど口にしたところで、手を止める
あまりにもひもじいのだ
とてもではないが、惨めすぎる
ダメになってしまう前に……と、プリンの蓋を剥がそうとして手を止めた
プリンはあるが、スプーンがないのだ
ダイヤ「啜れ……と?」
あるいは、指を突っ込めと
そういうことなのかもしれない
ダイヤ「あぁ……みっともない……」 ダイヤ「……こんなこと、するなんて」
プリンのカップを手に持ち、舌で舐めとる
なんてみっともないのか、なんて惨めなのか
黒澤家の長女としての品性の欠片もない、無様さ
けれど、差し入れとして与えられた、唯一安心して食べられそうな市販品だ
それを放置することは出来ない
ダイヤ「ん……っ」
唇をつけて、啜る
舌を差し込んで、かすめ取る
染み渡る甘さ、溶け込む匂い
我慢できなくて、はしたないと思いつつカップを舐める
ダイヤ「……屈辱……」
腹は満たされるものの、尊厳が傷つけられた
公開されてはいないだろうが、監視下でのお手洗い
そして、スプーンを使わせて貰えないプリン
心は、ボロボロだ
ダイヤ「とにかく、返事を書かなきゃ……」
見捨てられたくない、離れられたくない、一人にして欲しくない
その一心で、書き込んでくれている人みんなに向けて、返答を書き込んだ ダイヤ「……ふぅ」
慣れないことを考えていること
ストレスがたまる一方であること
精神的な疲れは身体的にも影響があるようで、
ダイヤは湧いてきた眠気をあくびと共に飲み込んだ
ダイヤ「紙……ですね」
安価3と書かれていた紙
触ってみると、安価3と書かれていた部分に感触はあるが
それ以外の部分には特別変わった感じはない
市販されている、ダイヤが良く買っているノートとも変わらない触り心地だ
安価3と言うのは、ただの悪戯だったのだろうか
ダイヤ「透かし……」
天井に向かって掲げてみる
安価3と言う文字は見えるが、それだけだ
ダイヤ「炙り出し……」
シャーペンを手に取って、芯を出す。
シャーペンでこすると書いてあったが、芯を出してやるものだろう
ダイヤ「……よし」
意を決して、全体的に黒塗りにしていく
限りなく薄く、優しい力で……どちらかと言えばグレーに染まるように ダイヤ「……これは」
横に2本、縦に2本……井の形
俗にいう、マルバツゲームと呼ばれるものが浮き上がってきた
ダイヤ「3目並べね……」
真ん中に×が書かれていて
それ以外のところは空欄になっている
ダイヤが〇を書けと言うことなのだろうか?
いや、これではゲームにはならない
ダイヤが丸を書いたとして、誰が次の×を書くというのか
もしかしたら、犯人が別の紙に書いていた時に
下にこの部分があったのかもしれないが……
ダイヤ「とにかく、これは新しい情報ね……」
役に立つか分からないけれどそれでも情報は情報だ
ダイヤはさっそく、書き込むことにした とりあえず情報を書き込んで……目元を押さえる
安心はできないけれど、もう夜だ
空腹と疲労、精神的なダメージによって、睡魔が襲う
ダイヤ「ダメ……まだ……」
今の書き込みに対しての返事がまだ見られていない
それに、書き込んだことによって更新されて
また別の書き込みが増えていた
返事をしないといけない
返事をしないと、無視したとか、本当は遊んでいるだけで飽きたと思われてしまうかもしれない
見捨てられたら困る……一人にされたくない
ダイヤ「おにぎり……?」
読む限りでは、包丁を直せるのでは? と言う話だ
ご飯粒をのり代わりにして、ヘアゴムと合わせて
ダイヤ「……ん」
机の上に置いてあった分離した包丁
ご飯粒を押して……その上から差し込んでみる
そして、口金代わりにヘアゴムを巻く 差したばかりと言うこともあって、まだ不安定な状態だ
机の上に置いて、取り合えずは放置する
ダイヤ「はぅ……ふぅ……」
殺しきれなかったあくびを漏らして、閉じそうな瞼を開こうと首を振る
朝起きてからほぼ1日、休まずに考え、行動し、屈辱を味わい、苦汁をなめた
ダイヤ「えっと……」
とりあえず、指示通りにやってみました。
そう、書き込もうとキーボードに触れる
眠気の襲う瞳にパソコンの光は刺激が強く、目を閉じたくなってしまう
ダイヤ「っ……」
かくんっと……落ちる
夜更かしにも慣れていないダイヤの身体には
あまりにも、現状は辛過ぎたのだ
ダイヤ「お返事……わた……」
何とか目を開けて、指を動かして
そして意識が――消えていく なんかダイヤとらっかせいのコンディションがシンクロしてるな ダイヤ「……ぁ……」
ベッドの上で目を覚ますと、自室ではない天井の明かりが目に入る
監禁されている六畳ほどの部屋の常に照らし続ける蛍光灯だ
どんな夢を見ていたのかは分からない
けれど、ダイヤは昨日のことが夢ではなく現実だったこと
自分は今も監禁されているということに気付かされて……思わず涙が溢れる
ダイヤ「っ……」
まだたった1日目だとか、希望はあるだとか
そんな生易しいことではなく、ただ、自分が絶望的な状況であること
心を折りに来る環境が何一つ変わりがないことに、精神的に耐えられなかったのだ
ひとしきり、声を押し殺し枕を抱いて涙をこぼして心の平穏を取り戻そうとした頃に
ようやく、ダイヤは自分の状態が明らかにおかしいことに気付いた
ダイヤ「……え?」
飛び起きて、学習机の方へと目を向ける
開いたままのノートパソコンはこうこうと光を放っている
それは何もおかしくはない……だが、そう、機能、ダイヤはパソコンの前で意識を奪われたはずなのだ
入力中にふっと途切れたことだけは記憶にある。
だから――ありえないのだ
ダイヤ「なぜ……なぜ、ベッドに……」
パソコンの前で倒れているべき身体が、ベッドに横たわっている
それはつまり、誰かがダイヤをベッドに運んだのだ
ダイヤ「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
誰が? 犯人が……だ 叫び、体を抱いて布団にくるまる
誘拐犯にはすでにここに連れ出されたという前例がある、だから平気……とはならないのだ
ダイヤ「あぁ……いや……いや……っ」
ここが犯人の手中であることは理解している
彼あるいは彼女が容易に入ってくることが出来ることも当然ながら理解はしている
けれど、それが自分の意識が失われている最中に行われ、
あろうことか、そのことに気付くことも出来ずに体に触れられたという事実が……受け入れがたかった
ダイヤ「うぅ……ぁ……あぁ……っ」
疲れ果てていた
精神的にも、身体的にも
だから、途中で寝落ちしてしまったのかもしれないが
その浅はかさに、絶望する
ダイヤ「無理……無理……」
眠れば、犯人が入ってくる
重厚な扉を開き、笑いながら、あるいは怒りを滲ませながら
そうして、ダイヤの体に触れるのだ
ダイヤ「うぅ……うぷっ……」
自分の体に触れる、自分の肌以外の感触が唐突に気持ち悪く感じて、ベッドから飛び出す
ダイヤ「うぇ……ぁ゛……ぉ゛ぇ゛……」
倒れるように伏した便器の中、水面が跳ねて顔にかかる
ぼたぼたと口元から溢れて滴る胃液
焼けるようなのどの痛み、口の中に広がる強い酸味に涙が滲む ダイヤ「あっぅ……っ」
便座に手をつき、ふらふらと危うい足取りで立ち上がる
すぐそばの洗面台に向かい、目いっぱいに水を流して顔を洗い口を漱ぐ
ダイヤ「げほっ……けほっ……」
吐くように水を出して、もう一度口に含んで……吐き出す
ダイヤ「んぐっ……んく……ん……おぇっ」
飲んで、吐いて、飲んで、飲んで……水で癒していく
ただの水道水ではあるけれど、胃液よりは気持ちが楽になる
ダイヤ「はぁ……はー……はぁ……」
ただでさえ空腹に悩まされる中、嘔吐によって胃液が減って……不快さが増した腹部を撫でる
ダイヤ「……みな、さんにご挨拶……しないと……」
ふらつきながらパソコンの前に戻って、更新前の掲示板へと目を向ける
昨夜の書き込みは中途半端で、意味不明な文章になってしまっていた
ダイヤ「……すみません……勝手に眠ってしまって……」 書き込んだ後の更新を確認する
三目並べに関しては、部屋の間取りに関してのものではないか。と言う書き込みがある
正方形のように見える部屋を三目並べに切り替え、その位置……つまり中央にバッテンマーク
そこに何かがあるのではないかという考え
ダイヤ「……どう、でしょうか」
一見、床は一面フローリングとなっており、
特に不自然な断裂などがあるようには思えない
そして続いた書き込みは、眠るべきと言う優しい言葉だ
監禁されていることを信じてくれているうえで、休んだ方が良いという言葉
ダイヤ「あり……がとうございます……っ」
信じてくれている。身を案じてくれている
ただそれだけのことで、胸が熱くなる
ダイヤ「この……っ」
そのあとに犯人が、ダイヤが眠ったことを確認したと思われる書き込みがあった
眠った後のダイヤに何がしたいかと言う厭らしい書き込み
それに対するみんなの書き込みは、タオルや安心して口にできる飲食品の差し入れやベッドに寝かせてあげて欲しい。というものだ
ダイヤ「……え?」
ベッドで寝かせてあげて。ではなく、ベッドに戻してあげて。と言うのが引っかかる
戻してあげてということは、ダイヤがパソコンの前で寝落ちしたことを解っている可能性があるからだ
それが分かるのは普通に考えれば犯人だが
……もしもだ
もし、この部屋の監視映像が外部に配信されているとしたら、どうだろうか
ダイヤ「まさか……」
見渡す。カメラは見えない
だが、確実にどこからか撮っている
ダイヤ「みなさんに、見せられている……?」 ダイヤ「嘘……嘘……うそ……っ!」
パソコンの前を離れて、カメラを探す
どこから見られているのか、どこから撮影されているのか
生理現象に敗北してしまった瞬間は見られてしまっただろうか……きっと、見られた
寝落ちし、犯人に触れられ……そのことに絶望して嘔吐した瞬間は?
きっと、見られてしまった
ダイヤ「ごめんなさい……ごめんなさい……っ!」
変な場所で寝落ちしてしまったことを気遣ってくれた書き込み
それの結果が、今朝の嘔吐
自分のあられもない姿を見せてしまったことよりも
善意に対し、仇で返すような姿を見せてしまったことが申し訳なかった
ダイヤ「申し訳ございません……私は……なんてこと……っ」
慌てて、掲示板を更新する
やはり、戻そうとしてくれた書き込みをしたと思われる人は、ダイヤの今朝の姿を見たような書き込みをしている
ダイヤ「違う……違う……私が……っ」
弱いせいで……
弱いせいで、吐いてしまったのだ
ダイヤ「あなたは何も悪くありません……どうか、どうかご自分を責めないでください……」 ダイヤ「……あぁ」
見られているなら監禁されていることは明白だ
犯人はそれをしてもこの場所が割られる可能性はないという自信があるのだろう
そのことが、また深い絶望へと足を引き摺りこむ
ダイヤ「……状況は特に変わりがありません」
腐る一方のおにぎり、食べ終えたプリンのゴミ
応急処置をした包丁、シャーペン、壊した引き出し、砕けた鏡
何一つ変わりがない
ダイヤ「もしかしたら、犯人は私を解放する気はないのかもしれません」
画面越しに常に見張られ続け、必要とあれば食事を与えられる
いや、食事ではなく餌だと……ダイヤは思わず笑ってしまう
つまりは飼育だ
これは監禁ではなく、飼育
黒澤ダイヤというペットの育成
ダイヤ「皆さんが、私の飼い主……なのかもしれません」
そうではないと思いたい
救いがあると思いたい
ダイヤ「うぅ……」
拭う。何度も、何度も目元を拭う
これも見られてしまう。泣いていたらもう駄目だと思わせてしまう……だから、首を振る
ダイヤ「頑張れる……大丈夫……大丈夫……」
足に爪を突き立てながら、何とか持ち直すまでに数分の時間を要した ダイヤ「……かゆい」
お風呂に入れずシャワーも浴びることが出来ず
下着さえも変えられないまま一日が経過した
頭がかゆく感じる、下腹部もむず痒い
服の下に隠れている柔肌も……不快感がある
ダイヤ「汚らしい……」
紙に触れそうな手を押さえて頭を振り、乱れた髪もそのまま、俯く
産まれてこの方、不衛生なままで過ごした経験のないダイヤにとって
それはとてつもなく不快で、汚らわしく……死にたくなるような辛さだった
ダイヤ「……っ」
運動したわけではないおかげで
汗臭さはまだ感じられないが、それも最初の内だけ
だんだんと異臭がするようになってくることだろう
ダイヤ「こんな姿を、見られる……」
スクールアイドルとして活動しているダイヤを貶めたいのだろうか
引退させ、Aqoursを崩壊させることが目的なのだろうか
ダイヤ「ダメ……弱いところは、もう……だめ……」
もう、涙腺は緩くなっていた ダイヤ「トリップ……?」
自分の体の不快さを忘れようと、考えに没頭することに決める
書き込みをさかのぼってみると、犯人らしき人書き込み時の名前を解析してくれた人がいるようだ。
ダイヤ「直接入力だと思ってたけれど……」
どうやら、犯人の名前は直接入力ではなくトリップと呼ばれるものらしく
名前欄に【#誘拐犯】という入力によって形成されているもののようだ
つまり、犯人だろう。と言う仮定に変わりはなく
それ自体が大した情報を持っているようには思えないというのが、視聴者……と言うべきだろうか
匿名の集まりによる見解らしい
ダイヤ「同意ね」
入力文字列によって自動生成されるものであるなら、
意味を持たせるためにはそれなりに複雑な内容となるはずだ
しかし、この犯人はすぐに解析できそうな【#誘拐犯】というのを使うだけだった
しかも、これを見ているはずなのに犯人からのリアクションはない
ダイヤ「……あとは」
三目並べの件だ
部屋の間取りに照らし合わせて中央の部分
床の部分を手で叩いてみる
ダイヤ「……普通?」 別の場所を叩いてみるが、音に違いはないように感じる
トンカチがあればもう少し強く叩けるのだが、奪われてしまった
ダイヤ「……」
ベッドに戻すついでにトンカチも返してくれないだろうかと思うが、さすがにそんな優しさはないようだ
ただし、例の安価が行われた際に参加者がトンカチなどの道具を記載してくれれば、与えられるだろう
犯人の書き込みから察するに、犯人はダイヤをもう少し弄ぶ内容が書かれることを期待していると思われる
ダイヤ「そういえば……」
犯人の最新の書き込みは ダイヤ「……もしかして」
最新の書き込みは昨夜で、そこに書かれているのは安価だ
しかし、文頭には市販なら〜と言うのが書かれている
プリンのゴミを一瞥する
一見、何にもなかったように思えたし、軽く触って問題は感じられなかったが
ここに細工をされた結果、寝落ちしたのではないか。と言う不安が湧く
手製の不信感と、市販の安心感
おにぎりをあえてあからさまに怪しくすることで口にしないよう誘導し
スプーンもなく食べてしまうほどに、視野を狭くさせられていたのだろうか
ダイヤ「あぁ……かゆい……かゆい……っ」
ポリポリと頭を掻く
集中すればするほど、不快感が鮮明になっていくし、
我慢すればするほど、それは倍増して襲い掛かってくる
ダイヤ「ほかに何か……」
気が逸る
寝るのが怖い
与えられた食べ物を口にするのも怖い
身体がかゆい、空腹でお腹が痛みを訴えてくる
ダイヤ「……水、飲まなきゃ」
もうトイレがどうこう言っている余裕なんて、ない 掲示板を更新すると、また犯人の書き込みが増えていた
寝落ちしたことに対する躾をしようというらしい
ダイヤ「どうして……」
おやすみなさい。そう言うことが出来なかったからだろうか
まだ寝るつもりはなかった、ただ、心身ともに限界だっただけ
そこにまで追い詰めてきたのは犯人なのに……だ
ダイヤ「どうして……こんな目に……」
仕方がないはずだ
何の前触れもなく目が覚めたら監禁されていて、
女として、人として
そんな当たり前の尊厳さえ踏み躙られるような状況に置かれて……
頑張って、頑張って、それでも気絶してしまっただけだ
ダイヤ「うぅ……ぁあ……」
不特定多数に見られているなんてことが頭から消え去ったように、涙をこぼす
ダイヤ「あぁ……ぁぁぁぁぁっ!」
ガチャン……と、ひと際大きな音が扉から聞こえてきた
身体が震える
恐る恐る顔を上げると、まさしく犯人のような覆面を付けた人物の姿が見えた ダイヤ「こないで……来ないでぇっ!」
慌てて立ち上がろうとして尻もちをつく
足が動かない、体が震えて、自由がまるで効かない
トンットンッ……トンッ……と、わざとらしい足音が近づいてくる
まるで遊んでいるような音
覆面に埋まった表情は、見えないのに笑っているように感じる
ダイヤ「いやっ……いやっ……いやぁっ!」
震える足で床を蹴る
滑るように体を動かして、けれど……うまくは逃げられなくて
学習机に足がぶつかって痛みが走る
ダイヤ「ごめんなさい……ごめんなさいっ!」
一心不乱に手足をばたつかせて
それでも侵入者の足音は容赦なく近づいてくる
ダイヤ「もうしないっ……しませんっ……命令には服従します……っ!」
逃げられないことを悟り、頭を庇う
相手が許してくれる一縷の望みに賭けて……懇願する
しかし――足が掴まれ……引き摺られていく
ダイヤ「許して……いや……っぅぇぇ……」
頭を庇う手が引き上げられ、無防備に晒された額にバチンッっと衝撃が加わる
犯人はそれだけでダイヤを解放したが、ダイヤはその場に倒れこんで……謝罪を口にする
ダイヤ「ごめんなさい……ごめんな゛げほっ……ぁ゛っ……ぅぅ……ごめんなさい……」
脱出のチャンスだったかもしれない
包丁で抵抗できたかもしれない
けれど、ダイヤにその余裕など全くなかったのだ 寝ているときだけでなく、犯人は部屋に入ってくる
しかも、理不尽な事でのお仕置きと称して……だ
ダイヤ「何もしてない……してない……」
床を這いずって……布団をベッドから引っ張り落とす
一緒に落ちてきた枕を抱きしめて、顔を埋める
されたのは弱いデコピン一回
けれど、その理不尽さ、まるで抵抗をものともしないという堂々とした侵入
じわりじわりと、そしてわざと響かせられた足音
たった一日で疲弊していたダイヤには、到底耐えられることではなかった
ダイヤ「うぅぅ……うえぇぇ……ぐすっ……あぁぁぁ……」
泣いて、泣いて……吐きそうな思いをしてどれくらい時間が経ったのだろうか
髪がぐしゃぐしゃで、制服もぐしゃぐしゃで
ほんのりとショーツへの違和感が滲む中、ダイヤは虚ろな瞳でパソコンへと向かう
ダイヤ「……もう嫌……」
書き込む
短く、たった二言
何も書かないと、またお仕置きをされてしまいそうだから
耐えられない弱い自分であることへの謝罪
結局、助力を無駄にしてしまうことへの謝罪
もしかしたら、見せてはいけない残酷な映像を見せてしまうかもしれないことへの謝罪
そして……救おうとしてくれたことへの感謝
ダイヤ「不甲斐ない私を……どうかお許しください。どうか、皆様がご自身を責めないように……」
包丁を握る
胸に差しても心臓を貫ける保障がない
だから……喉元に切っ先を突き立てた ダイヤ「うぅぅ……」
手が震える
首の皮一枚が刃先によって裂かれ……だんだんと熱を帯びていく
冷たいはずなのに熱く
傷口から何かが流れていく感覚が伝わってくる
目を瞑る
一思いに串刺しにしてしまおうと
けれど……怖くて……それが仇となったのかもしれない
半壊させてしまっていた包丁は力を入れると歪んで、滑る
ダイヤ「……あぁ」
包丁が手から落ちる
カランッ……と、悲しい音がした
ダイヤ「あぁ……あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」
両手で顔を覆う
声を出して、泣く……叫ぶ
死ぬ勇気もない、死ぬ力もない
だから……ただただ、声を上げるしかできなかった カタンッっと音がした
ダイヤ「申し訳ありませんっ!」
瞬時に後退りして……謝罪を口にした頭を床へとぶつける
ごんっと鈍い痛みが走ったが、それよりも許されたかった
些細なことで……罰を受けるいわれもないことでお仕置きをされるのが怖かったのだ
しかし、犯人が入ってくることはなかった
恐る恐る顔を上げると、扉の近くに何かが落ちている
箱のような、何か
ダイヤ「ぁ……」
立ち上がる気力もなくて、四つん這いのまま扉の方へと向かう
落ちていたのは、箱だ
市販されている、一般的なお弁当……幕の内弁当だった
ダイヤ「……冷たい」
おにぎりを放置したのも見られていたからだろうか
温める意味もないと思われたのかもしれない
冷凍まではいかないけれど、冷蔵されていたような冷たさが手に伝わる
当然というべきか、お箸など与えては貰えていないようだ ダイヤ「………」
泣きはらした顔を、水で洗う
鏡がないのがこれほど良かったと思うことはない
きっと、とても酷い顔をしているはずだ
タオルもなく、仕方がなく袖で拭う
はしたないと叱責されるだろうが、もうどうでもいいと言わんばかりだ
包丁を拾い、幕の内弁当と一緒にパソコンの隣に置く
更新を選択して……書き込みを確認する
ダイヤ「うぁ……」
締まりのない涙腺からあふれる滴を拭う
諦める書き込みに対して向けられる温かい言葉が染みる
ダイヤ「ごめんなさい……ごめんなさい……」
生きて、やめろ、歌えなくなったら……
そんな言葉を、指でなぞりながら、謝る
ダイヤ「頑張って……頑張って……みます……」
一人じゃない。それだけが、唯一の救いだった さらに読み進めていくと、また犯人の書き込みがあった
ダイヤの泣く声が煩いという苦情
昨日、あまりにも食べなかったから一食にすると言う宣言
だれも無しにして躾用と言う様子はなく
まだ、自分がペットとして扱われていないことに安堵する
ダイヤ「……こんな、汚れた私を……」
清潔さを奪われて早くも一日半
女として、人としての尊厳も奪われて至ったみすぼらしい姿
それでも、まだ人間なのだ
ダイヤ「……市販」
食べて大丈夫なのだろうか?
これを食べなければ、食事をもう無くされてしまいそうな気がするが
市販が安全とは限らない。というような犯人の書き込みが怖い
ダイヤ「蓋は……」
開けられた形式がない、ように思える
傷がついているようにも見えないし、買ってそのままなのかもしれない
とりあえず、書き込むことにした 温める手段もなく、食べるための箸もなく
けれど、せっかく頂いた大切な食事
これ以上減らされたくはないという、背水の陣で、手を合わせる
ダイヤ「……いただきます」
外国の文化の一つとして、手で食べる国もある。と言う覚えがある
その慣習についての講習と考えれば……
ダイヤ「っ」
よくある付け合わせのお漬物をひとつまみ
冷たさと、微かな汁気が指に染みる
ダイヤ「ん……」
口に運ぶ
漬けられた酸味と、ほんのりとした甘さ
冷たいけれど、漬物はそれが良いのだ
噛みしめると、キュシュッ……と潰れてうまみが口いっぱいに広がっていく
ダイヤ「ん……んっ……」
小さな漬物
たった一口、たったひと噛みで終えられてしまうものを何度も噛みしめて味わう
ダイヤ「ん……っ……ぐすっ……」
――涙が零れる
たった一日……されど一日
生きていることを実感する、大切な感覚だった ダイヤ「……美味しい……」
きんぴらごぼうを指で摘まむ
どうしようもなく指ごと咥えこんで舌の上に乗せる
甘さとしょっぱさの程よいきんぴらごぼうは
冷めている分、少しだけ味が濃く感じられる
出来立てでもないのに、にんじんもごぼうも噛むとしゃっきりとした歯ごたえが響く
噛めば噛むほど、広がっていく味わい
呑み込むのが文体内と感じてしまいそうになりながら、ごくりと、下す
ダイヤ「ほぅ……」
残念ながら、べっちょりとしてしまっている白いご飯
上にはゴマがまぶしてあり、真ん中には赤い紅一点の梅干し
梅干しを避けて、はじっこの方を指で潰しながら抓む
ダイヤ「……ん」
口に含むと、振りかけられたゴマがカリッっと潰れる
ぐちゅりと潰れていく白米から溢れ出てくる水分は、水道水では絶対に得られないようなうま味が込められている ダイヤ「ぁむ……」
幕の内弁当の定番だろうか
皮のついた鮭の切り身はあらかじめ骨が取り除かれているものだ
指で切り崩すことは出来ず、つまみ上げてそのまま齧る
はしたない、品性に欠ける
今のダイヤからは、それが抜け落ちてしまっていた
きんぴらごぼうのように甘くしょっぱい
けれど、それよりもずっと塩気の染み込んだ鮭
甘口……いや、中辛だろうか
口の中でほろっと身が解れていくたびに、じわじわとご飯のうま味が上書きされる
ダイヤ「んく……ん……」
咀嚼して、飲み下す
美味しかった
身体と心が満たされていく
気付けば、お弁当は空き箱になっていた
手がべたつく、口周りがしょっぱい
スカートの上にはいくつか取りこぼしたご飯粒や、鮭の解れ身がぽろぽろと落ちている
ダイヤ「ん……」
食べ零しも指でつまんで、しっかりと頂く
味の染みた指を咥えて、口周りを舐めて……残すまいと――
ダイヤ「……あっ」
そこまでしてしまってから、自分の品の無さに目を見開いた ダイヤ「……ご馳走様でした」
空箱に手を合わせる
腐りかけのおにぎりをその中に詰めて、ふたを閉じる
捨て方として問題だが、ゴミ箱もない以上においが極力抑えられるほうに持っていくしかない
ダイヤ「はぁ……」
洗面台で手を洗いながら、ダイヤは思わずため息をついた
仕方がないとはいえ、手で食べることに途中から違和感がなかった
あろうことか、はしたなく指を舐めてしまうまでに、落ちぶれてしまっていたのだ
もちろん、空腹のせいであることは分かっている
だが、それでもそうしてしまったという事実がダイヤの尊厳を傷つけることになった
掲示板を更新すると、また書き込みが増えていた
知り合いに連絡してみたらどうか
このパソコンに出来ることはほかにないのか
ダイヤ「……このパソコンは」
最初に調べてみたが、インターネット上でできるのはこの掲示板を覗くことだけだ
他のサイトに接続しようとしても、回線が切断されたりはせず、強制的に掲示板に戻ってしまう
フォルダに関しても、怪しそうなものはないように思える
と言うのも、起動と掲示板を利用する最低限のフォルダしかないのだ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています