梨子「汗まみれの大女優」
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放課後 廊下
梨子「練習の後片付けしてたらすっかり遅くなっちゃった」
梨子「私が当番だったから仕方ないんだけど……たまにはいいか」
梨子「ん?声が聞こえる、私以外にまだ残っている人がいたんだ」
梨子「あれ、この声は……」
梨子(階段の前にいるのは、しずくちゃん?)
しずく「姫、あなたはとても素敵な女性だ」
しずく「私が今まで出会ったどの人よりも輝いて見える」
梨子(真剣な表情だ、なにしてるんだろう?)
しずく「姫、どうか私と……」
しずく「私、と……」
しずく「……」
しずく「はぁ……またダメですね」
しずく「ーん?梨子先輩?」
梨子「あはは……どうも」 梨子「ごめんなさい、盗み見るつもりじゃなかったの、偶然しずくちゃんの声が聞こえて」
梨子「なにしてるのかなって、気になってつい……」
しずく「いえ、別にいいですよ。私、演劇部に入っているんです」
しずく「今度のお芝居で王子様役を任されたのでここで個人練習していたんですよ」
梨子「あぁ、それで練習が終わったらすぐに出て言ったのね」
しずく「ごめんなさい、私も手伝えばよかったんですが」
梨子「ううん、元々私がやる予定だったから気にしないで。遅くまでお疲れ様」
梨子「まだ、練習を続けるの?」
しずく「はい、あと少しだけ」
梨子「そう。ーねぇ、よかったら見学させてもらえないかな?」
梨子「私がいると緊張しちゃう?」
しずく「そうですね……梨子先輩を観客だと思えばまた違うかも」
しずく「それに、ほどよい緊張は必要な事です。ぜひ見ていってください」
梨子「ありがとう、見せてもらうね」 梨子「……」ジーッ
しずく「姫、あなたはとても素敵な女性だ」
しずく「私が今まで出会ったどの人よりも輝いて見える」
しずく「姫、どうか私と……」
しずく「私と……私と……」
しずく「……やっぱり言えないなぁ」
梨子「さっきも同じセリフで止まってたね。どんな話なの?」
しずく「ある国の王子様が敵国の姫に一目惚れをして王様の反対を押しきって姫をパーティに誘い告白する」
しずく「よくあるラブストーリーですよ」
梨子「へぇ、面白そうだね」
梨子「最後のセリフはなんて続くの?」
しずく「ー『姫、どうか私と踊ってはくれないか?』ダンスに誘うシーンです」
梨子「セリフを言うだけでもうまくいかないものなんだね」
しずく「そうですね、シチュエーションを意識しながら言わないといけないので難しいです」
しずく「今日はここまでにします。梨子先輩、お付き合いいただき、ありがとうございました」
梨子「こちらこそ、お邪魔しました。練習頑張ってね」 梨子の家
梨子(しずくちゃん、スクールアイドルをやりながら演劇部の練習もやってるなんて大変だなぁ)
梨子(あんな真剣な表情で一生懸命打ち込んでる)
梨子(なんだか羨ましいな)
梨子「……」チラッ
梨子(あのキャンバス……)
梨子(前はよく絵を描いていたけど、もうあんまり描かなくなっちゃったな)
梨子(でも、しずくちゃんを見ていたらなんだか情熱が移ってきたかも)
梨子「……」スッ
梨子「私も久し振りに、描いてみようかな……」
梨子「ええっと、道具どこにしまってたっけ……」ガサゴソ 次の日
梨子「あ、しずくちゃん。今日もお芝居の練習?」
しずく「梨子先輩、お疲れ様です」ペコッ
しずく「はい、今日は舞台での動きを確認してました」
梨子「よかったら、また見ていってもいいかな?」
しずく「動きだけなので見ていても退屈かもしれませんが……」
しずく「どこかおかしい所があったら教えてください」
梨子「私にそこまでわかるかな……」
しずく「ここで姫の手を取り、跪く……」スッ
しずく「そして姫の顔を見つめて、その手にキスを……」
梨子「……」ジーッ
しずく「……」カァァ
しずく「普段一人で練習しているので誰かに見られてると恥ずかしいですね」
梨子「あ、ごめんね。やっぱり私いない方がいいかな」
しずく「あ、違うんです。梨子先輩に見られて恥ずかしがってるようでは本番ではとても演技なんか出来ません」
しずく「私が未熟なだけです」
梨子「そんな事はないと思うよ」
梨子「私、お芝居はよくわからないけどしずくちゃんからは演劇に対するすごい情熱を感じる」
梨子「きっと、うまく出来るようになるよ」
しずく「そう言ってもらえると……」
しずく「やる気が出てきました、ありがとうございます」
しずく「私、もっともっと練習頑張ります」
梨子「私も応援するよ、一緒に頑張ろう」
しずく「はい、よろしくお願いします‼」 梨子(しずくちゃんのおかげで、私もまた絵を描きたい気持ちになれた)
梨子「絵の具の匂い、懐かしいな」
梨子「さて、と……」ジーッ
梨子「絵のテーマは……そうだ」
梨子「ふふっ、いいイメージが浮かんだわ」
梨子「……」ペタ…ペタ…
梨子「しずくちゃん、お疲れ様」
しずく「どうも、梨子先輩」
梨子「これ、差し入れだよ」スッ
しずく「わぁ、わざわざすいません。ありがたく頂きますね」
しずく「このタオル、ふかふかですね。丁度手持ちのタオルを切らしたところでした」
梨子「しずくちゃんいつも汗かきながらやっているものね、持ってきてよかったよ」
梨子「どう、調子は?」
しずく「動きやセリフは覚えてきたのですが一人の練習には限界があると感じてきました」
しずく「お芝居は一人では出来ませんからね、少し手詰まりな状況です……」
梨子「そう……なにか私に出来る事はないかな?」
しずく「そうですね……それなら」
しずく「梨子先輩、姫役をやってください」
梨子「えっ?私がお姫様!?」 梨子「……」(台本読み中)
梨子「……」カァァ
梨子「……私、こんな恥ずかしいセリフを言うの?」
しずく「恥ずかしいなら言わなくてもいいですよ」
しずく「一緒に立ってもらうだけでも私は助かります」
梨子「それじゃせっかく一緒にやる意味がなくなるよ」
梨子「待ってね、なんとか覚えてみるから……」ペラ…ペラ…
しずく「あはは……なんだか申し訳ないですね」
梨子「……よし、とりあえずこれからやるシーンは頭に叩き込んだわ」
梨子「しずくちゃん、お待たせ」
しずく「もう覚えたんですか?早いですね」
梨子「トチったら許してね」
しずく「私の方こそどこか間違えるかもしれませんが」
しずく「よろしくお願いします、ーそれでは、始めます」 しずく「姫、今夜はパーティに出てくれてありがとう」
梨子「父上は反対しましたがあなたを好きな気持ちは抑えられず、反対を押しきってやって来てしまいました」
梨子「父上は大変お怒りです、もしかしたら私の国とあなたの国の戦争になってしまうかも……」
しずく「そうはさせない、きっと和解する手段はあるはずだ」
しずく「ーとにかく、今夜はパーティを楽しもう。今夜だけは全て忘れて私に委ねてくれ」
梨子「そうですね、せめて…今夜だけは……」
しずく「……梨子先輩、すごいじゃないですか」
しずく「セリフ覚えも完璧、しかも全く噛まずにスラスラと……演劇経験者だったんですか?」
梨子「ち、違うよ。演劇なんて小学生の学芸会以来やってないからそんな経験者だなんて……」
しずく「でも、才能ありますよ。この調子でこの後もお願いします」
梨子「この後って、あのシーンだよね……」ドキドキ しずく「姫、あなたはとても素敵な女性だ」
しずく「私が今まで出会ったどの人よりも輝いて見える」
しずく「姫、どうか私と踊ってはくれないか?」
梨子「私でよろしければ、喜んで」
しずく「いい調子です、次はダンスをします」
梨子「ダンスもやるの?不安だなぁ」
しずく「私がリードしますから梨子先輩は付いてきてください」
梨子「うぅ……わかったよ」
しずく「姫と踊れる日を何度夢に見た事だろうか」スッ
梨子(はわっ、しずくちゃんが私の手を。顔も近い……)ドキドキ
梨子「こ、今夜の為に必死に練習してきたんですよ」サッ、サッ
しずく「それは嬉しいな、ではもう少しお付き合いを」サッ、サッ
梨子(私は動揺しちゃったけどしずくちゃんは役になりきってる。すごいなぁ……) しずく「ーふぅ、ここで休憩にしますか」
梨子「はぁ〜疲れた……お芝居って大変だね」
しずく「慣れない内は私もクタクタになってました。セリフを言いながら動くんですからね」
梨子「あぁ、私もこんなに汗かいちゃった」
梨子「これはタオルがいくらあっても足りないね」
しずく「私は汗かきなので余計にですよ」
しずく「では、最後にもう1シーンだけお願いしますね」
しずく「このお話の重要な場面なので梨子先輩がいる内にやってしまいます」
梨子「そ、それってもしかして……」 梨子「今夜のパーティ、楽しかったです。夢のようなひと時でした」
梨子「そろそろ帰らないと」
しずく「姫、待ってくれ」スッ
梨子「まぁ、なんです急に跪いて」
しずく「戦争を回避するよう力は尽くすが」
しずく「私達の国がたとえ争う事になったとしても……」
しずく「私は変わらずにあなたを愛し続ける」
梨子「王子……」
しずく「ここに、その誓いを立てたいと思う」
しずく「姫、手を出してくれ」
梨子「こう、ですか……」
しずく「……」カァァ
梨子(しずくちゃん、照れてる。やだ、やめてよ……私まで恥ずかしく……)カァァ
しずく「……失礼」
チュッ
しずく「これからなにがあっても私があなたを守り抜く。だから姫もどうか私に付いてきてくれ」キリッ
梨子「は、はいぃ〜」 しずく「ちょ、大丈夫ですか梨子先輩」
梨子「しずくちゃん、あそこで照れるのはずるいよ……」
しずく「ご、ごめんなさい……なんだか梨子先輩がすごくきれいに見えて……」
しずく「でも、うちの部員の娘より上手でしたよ」
梨子「さ、流石にそれは誉めすぎじゃないかな」アセアセ
しずく「ぜひ演劇部に入って欲しいですね」
梨子「私、スクールアイドルで精一杯だよ」
しずく「ふふっ、それは残念ですね」
しずく「長い時間お付き合い頂きありがとうございました」
梨子「あ、もうこんな時間?外も真っ暗になってる」
しずく「私達ももう帰りましょう。帰り道、お気を付けて」
梨子「うん、しずくちゃんも気を付けて」 梨子「はぁ〜今日はとうとうお芝居の練習にまで付き合うようになっちゃった」
梨子「しずくちゃん、お芝居の事になると夢中になるみたいだな」
梨子(……私の手を取ったあの時、照れていたしずくちゃん)
梨子(ちょっと、かわいかったな)
梨子(わ、私も恥ずかしかったけど……)カァァ
梨子(でも、そのおかげでいい絵が描けそう)
梨子「しずくちゃんのお芝居、いつ発表されるのかな……」
梨子「それまでに、この絵を完成させないと」
梨子「……」ペタ…ペタ… 次の日
しずく「梨子先輩、今度の金曜日にお芝居が発表される事に決まりました」
梨子「へぇ、あと3日後だね」
梨子(3日後なら間に合うかな……)
梨子「昨日は私、役に立てたかな?」
しずく「ええ、一人でやるよりも感情が込められてお芝居の世界に入り込めました」
しずく「部員の娘達にも私の演技よくなったねって褒められたんですよ」
梨子「よかったね、私も嬉しいよ」
しずく「金曜日、忙しくなければぜひ見に来てください」
梨子「もちろん、絶対に見に行くよ。楽しみだな」
しずく「梨子先輩が来てくれるなら俄然やる気が出ます」
しずく「私、精一杯演じてみせますね‼」 金曜日
梨子「よかった、開演前に間に合った」
梨子「よく見えるように1番前に座っちゃおうかな」
梨子(なんとか絵も完成したし、これで安心してお芝居が見れるな)
梨子「ー始まった」
梨子(あ、このシーンは……)
しずく「私達の国がたとえ争う事になったとしても……」
しずく「私は変わらずにあなたを愛し続ける」
姫役「王子……」
しずく「ここに、その誓いを立てたいと思う」
しずく「姫、手を出してくれ」
梨子(……ごくり)
姫役「こう、ですか」
しずく「失礼」
チュッ
梨子(あぁ〜あの場にいるのは演劇部の娘だけと傍目から見ても恥ずかしい〜)カァァ
しずく「これからなにがあっても私があなたを守り抜く。だから姫もどうか私に付いてきてくれ」
姫役「はい……王子」
姫役「どこまでもお供いたします。たとえどんな未来が待っていようとも私は王子のそばにいます」
梨子(あの後のセリフはこんな感じだったんだ……)
梨子「……」
梨子(しずくちゃん、舞台に立つと見違えるなぁ。すごくキラキラ輝いてる)
梨子(本当に、演劇が好きなんだね) 梨子「しずくちゃん、お疲れ様」
しずく「梨子先輩、1番前に座っていましたね。嬉しかったです」
梨子「お芝居、すごくよかったよ。王子様がお姫様と協力して戦争を回避したからホッとしたし」
梨子「最後には二人共結ばれてハッピーエンドになったからよかったね」
しずく「自分で言うのもなんですが最高の演技が出来たと思います」
しずく「これも、梨子先輩のおかげです」
梨子「私なんてそんな……しずくちゃんの努力の賜物だよ」
梨子「そうだ、しずくちゃんに渡したい物があるの」
しずく「渡したい物?」
梨子「私ね、絵を描くんだけど最近描かなくなったの」
梨子「でも、しずくちゃんがお芝居の練習している姿を見たら急にイメージが浮かんでね」
梨子「これ、お芝居が成功したお祝い」スッ
しずく「開けてもいいですか?」ガサッ
しずく「……これは、私?」
梨子「うん、お芝居の練習をしているしずくちゃんを描いてみたの」
梨子「どう……かな?」
しずく「嬉しい……ありがとうございます」
しずく「私の一生の宝物にします‼」 数日後
梨子(おっ、今日もやってる)
梨子「しずくちゃん、今日も頑張ってるね」
しずく「あ、梨子先輩」
しずく「しばらく新しいお芝居はやりませんが自主トレーニングは欠かしません」
しずく「いつでも最高の演技が出来るようにしておかないと」
梨子「相変わらずだねしずくちゃんは」
梨子「私もね、あれから色々な絵を描くようになったの」
梨子「しずくちゃんには感謝してる。情熱を与えてくれてありがとう」
しずく「私が梨子先輩の刺激になれたのならそれはよかったです」
梨子「ふふっ、また汗かいてるね」フキフキ
しずく「きゃっ、びっくりさせないでくださいよ」
梨子「そんなつもりじゃなかったんだけど」
梨子「練習はこのくらいにしてケーキでも食べに行かない?」
梨子「最近出来た喫茶店においしいケーキがあるんだよ」
しずく「へぇ、それは気になりますね。じゃあ帰る支度をしてきます」タッタッタッ…
梨子「……」
梨子(しずくちゃん、あの絵のタイトル通りになれるといいな)
梨子(あの絵のタイトル、それは)
梨子(『汗まみれの大女優』) 終わりです。支援してくれた方、最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。時間かかってすいません。 ずっと脳内で汁まみれに変換されてたからまじめに読めなかった…
脳が壊れてる… なるほど桜コンビか
恥ずかしがる可愛いところも真剣に取り組むところもいいよね ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています