善子「夏の記憶と」
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善子(私の夏休みは、いつもひとりぼっち)
善子(家に引きこもってゲームや生配信)
善子(それがちょうどいい過ごし方)
善子(津島善子は、そういう人間) 善子(それは仲のいい相手できた今年も変わらない)
善子(夏休みに入り)
善子(二人で早速お出かけ中の友達)
善子(送られてきた、たどたどしい自撮り写真)
善子(彼女たちからのラインに、笑いながら返信)
善子(私も誘われたけど断った)
善子(長期休みの早々ぐらい、自由を満喫したかった)
善子(ルビィは少し残念そうに、花丸は理解を示しながら)
善子(それを受け入れてくれて) 善子(……今度は、一緒に行こうかな)
善子(あんまり断るのも、悪いし)
善子(けどやっぱり面倒?)
善子(一人の時間は大切だし)
善子(まあそれも私らしさ――)
ブブブ
善子(あれ、通知)
善子(誰からだろ) 【渡辺曜】
善子(……曜、さん?)
善子(珍しい、連絡をくれるなんて)
善子(部活のこと?)
『今日用事ある?』
善子「用事……」
『特にないわよ』
『それならさ、私と遊びに行かない?』 ※
善子「はぁ」
善子(待ち合わせ場所で、ため息)
善子(返事の仕方)
善子(完全に間違ったかも)
善子(確かに用事はないけど)
善子(今日は家に引きこもるつもりだったのに)
善子(出かけるつもりなんて、微塵もなかったのに) 善子(これなら、花丸たちと遊びに行けばよかった)
善子(でも先輩だし、逆らえないし)
善子(返事をした私が悪いから)
善子(だけど)
善子(せっかく一人の時間)
善子(ああ)
善子(憂鬱) 善子(そもそも)
善子(どうしてあの人は私を誘ったのよ)
善子(そんな接点があるわけじゃない)
善子(家の関係で一緒に帰るけど)
善子(そこでよく話すけど)
善子(……私的には、案外仲良しな方?)
善子(だけど、あの人からすれば)
善子(ただの後輩の一人、だろうし) 曜「おまたせー!」
善子(ああ、来た)
善子「……遅かったわね」
曜「ごめんごめん!」
曜「急だったから、善子ちゃんはもうちょい時間かかるかな〜と」
善子「……これでも、時間はそれなりに守る方よ」
曜「みたいだね」
曜「いい子いい子」ナデナデ 善子「なっ、なに?」
曜「いや、後輩を褒めてあげたくて」
善子「そ、そう」
善子(ビックリした)
善子(いつも距離の近い人)
善子(だけど今日は、特別に)
善子(近い気が、する) 善子「今日は、どこへ行く予定なのよ」
善子(誘ったからには、目的があるはず)
曜「えっ、ノープランだよ」
善子「はい?」
曜「なーんにも考えてない」
善子「いやいや」
善子(自分から誘っておいて、なによそれ) 曜「その場のノリで遊ぶの好きなんだけど」
曜「善子ちゃんは、嫌い?」
善子「……というか、やったことないから分かんない」
善子(これでも予定はきっちり決めちゃうタイプだし……)
曜「別に今から考えてもいいけどさ」
曜「流れに身を任せて遊ぶのも楽しいものだよ」
善子「そうなの?」
曜「うん、私の経験上は」 善子(曜さんなりのやり方?)
善子(というかリア充の思考回路?)
善子(それなら、ありなのかな)
善子(うーん……)
曜「まあ難しいことは考えないで、とにかく行こうよ!」
善子「わっ」
善子(手、思い切り引かれる) 曜「善子ちゃんが好きなことはなんだっけ」
善子「え、えっと」
曜「おしゃれさんだから服でも見る?」
善子「い、いや、それは」
曜「任せて! 曜ちゃん先輩が見繕ってあげるから!」
善子「ちょ」
善子(肯定も否定もしてないのに) 曜「よーし、じゃあ駅まで行くぞー」
善子「ま、待って」
曜「全速前進よーしこー!」
善子「待ちなさいよ!」
善子(ああもう)
善子(勢いが凄い)
善子(これ、ついていけるのかな……) ※
曜「あー、色々買えたね」
善子「ええ」
善子(どちらかといえば)
善子(というより、殆ど)
善子(買い物をしていたのは私だけど)
善子(連れていかれた店は、私の好みの系統ばかり)
善子(曜さんは、笑顔で)
善子(私の買い物に付き合ってくれただけ、みたいな) 善子「曜さん、私と同じような趣味あったの?」
曜「いや、そうでも」
善子「その割に、お店のチョイス」
曜「あー、前から気になってたんだよね」
曜「衣装の参考にもなるかなぁとか考えてたり」
善子「あー」
曜「うん、なかなか興味深かったよ」 善子(だから私と一緒に来たかったのかしら?)
善子(衣装係、色々と考えてるのね)
曜「そういえば前、この辺りでお洒落なカフェ見つけてさ」
善子「へぇ」
曜「ちょうどいいから、今日行こうよ!」
善子「いいわね」
善子(反対する理由もない)
善子(だって) 曜「ほら、あそこに見えるお店!」
善子「ふむ、なかなか良さそうなお店ね」
曜「でしょー」
善子(このお店もそう)
善子(やっぱり、ノリで動くなんて言いながら)
善子(私の好みに合わせて動いてくれてる)
善子(照れ隠しとか、見栄とか)
善子(そんな理由もあるかもだけど) 曜「お、善子ちゃんの好きそうなチョコレートケーキもあるみたいだよ」
善子(一番は)
善子(素直じゃない私に、気を使わせないため)
善子(私を純粋に楽しませてくれる為)
善子(全部偶然で、私の都合のいい解釈かもしれないけど)
善子(聞いても、とぼけられるだけだろうけど)
善子(この人なら、きっと) ※
善子(気づけば、すっかり日は暮れていて)
曜「よーし、満足した!」
善子「そう」
曜「あれ、お疲れ?」
善子「まあ」
善子(そうよ)
善子(あんたに振り回されたから)
善子(疲れちゃったのよ) 善子(結局、最後まで連れ回されて)
善子(もう時間も遅いし、ママに怒られちゃうかもだし)
善子(疲れたし、歩き過ぎて足痛いし)
善子(いろいろ最悪)
善子(だけど)
善子(やっぱり)
善子(……楽しかった、のかな) 曜「ごめんごめん、ちょっとはしゃぎすぎた――
善子「……ねえ」
曜「ん?」
善子「どうして、私を誘ったの?」
曜「どうしてって?」
善子「誘う理由、ないでしょ」
曜「そう?」
善子「私には、思いつかない」 曜「いやまあ、今日は水泳の練習の予定が潰れてさ」
曜「せっかくだし、誰かと遊びたくて」
善子「それで、暇そうな私に声をかけたと」
曜「うん、そう」
善子「やっぱり、そんな理由なんだ」
善子(分かってたけど)
善子(この人もホント、わざわざ言わなきゃいいのに) 曜「いい機会だと思ったんだよ」
曜「前から善子ちゃんを誘うチャンスを窺っててね」
曜「いつも一緒に帰ってもさ、まっすぐ家に帰っちゃうじゃん」
曜「だから夏休みは、ちょうどいいかなって」
善子「つまり、なによ」
曜「簡潔に言えば」
曜「善子ちゃんと遊びたかっただけ、みたいな」
善子「……」 曜「うーん、理由になってないかな」
曜「私、こういうノリも多いからさ」
曜「迷惑だったら、ごめん――
善子「……また、誘ってよ」
曜「ん?」
善子「楽しかったのよ! 私も!」 善子(迷惑なわけもなく)
善子(心の中さえも素直じゃなかったけど)
善子(私は本当に)
善子(楽しんでいた)
善子(だってこの時間は)
善子(今まで人とかかわってきた中で)
善子(生きてきた中でも)
善子(とても、素敵な部類に入る)
善子(そんな時間で) 曜「……気を使うのは、らしくないよ?」
善子「違うわよ!」
善子「素直な私の言葉!」
善子「私の気持ちよ!」
曜「えっ」
善子「なによその反応」
曜「マジ?」
善子「マジ!」 曜「素直な善子ちゃん」
曜「これはあれだ、レアだね」
善子「べ、別に、そんなこと」
曜「いや、だけどさ」
曜「素直じゃないのが堕天使」
曜「いつもの堕天使ヨハネちゃんの、違う姿」
曜「つまりこれは――そうだ!」 善子「な、なに」
曜「ごめん、もう一軒付き合って!」
善子「えっ、だけど時間が」
善子(これ以上は流石にマズいような)
曜「すぐ終わるから!」
善子「ど、どうしたのよ」
曜「この瞬間を保存しなきゃ、勿体ないなって!」 善子(手を引かれる)
善子(またなすがまま)
善子(だって、抵抗する気なんて)
善子(起きるはずもなくて)
善子(心の中は笑っている)
善子(一緒に居たかった)
善子(この時間が、続いてほしかった)
善子(だから) ※
善子「た、ただいま……」
善子(だけど幸せな時間の後、すぐに待っている現実)
善子(すっかり遅くなって)
善子(結局怖くて連絡もできずに)
善子(ご飯とか、門限とか)
善子(うぅ、どうしよう) 善子母「善子! 帰ったの!」
善子「う、うん」
善子(玄関の鍵を開けると、飛び出してくるお母さん)
善子母「もう心配したじゃない」
善子「えっと、うん」
善子母「連絡ぐらいしなさいよ」
善子母「事故にでも遭ったのかと思ったわ」 善子(やっぱり、マズかったよね)
善子(基本、いい子ちゃんだったし)
善子(連絡もなく門限を破ったことも、たぶんない)
善子(だからこそ今日みたいなことをすると)
善子(余計に心配をかけちゃう)
善子母「今日はなにをしていたの?」
善子母「怒らないから、正直に話してみなさい」 善子「えっとね」
善子母「うん」
善子(説明)
善子(先輩と、じゃ変かな)
善子(やっぱり)
善子「友達と」
善子「友達と、遊んでて」 善子母「……そう」
善子「お母さん?」
善子(急に表情が緩んだ)
善子母「お風呂沸いてるから、入ってきなさい」
善子母「ご飯はまだでしょ。出たら食べましょう」
善子「う、うん」 善子(お説教を覚悟してたけど、助かった?)
善子(うーん、だけど怒らせたら怖いし)
善子(早く入らないと)
善子(色々買った物)
善子(整理は、あとでいいかな)
善子(服とか、そんなのばかりだし――)
善子「……そうだ」 善子(鞄に、大切にしまっていた紙を取り出して)
善子(ぺたりと、机の目立つ部分に貼ってみる)
善子(勝手に装飾された)
善子(エンジェルの文字と、私の写真)
善子(連れていかれたゲームセンター)
善子(そこで撮ったプリクラ)
善子(切り取った)
善子(今日の大切な時間の証) ママン…
今まで一人でいることが多い娘が突然夜遅くに帰ってきたらそりゃ心配するわな
それよか続き待ってますよーそろー 2
善子(沼津駅近くのバス停)
善子(一緒に遊んだ友達たちをお見送り)
花丸「じゃあね、善子ちゃん」
ルビィ「バイバイ〜」
善子「ええ」 善子(ああ)
善子(バスに乗り込んで)
善子(去っていく2人の姿を眺めるのは、少し寂しいけど)
善子(今日も楽しかったな)
善子(夏休みも後半)
善子(始まる前は、ずっとダラダラするつもりだったのに)
善子(想定外に忙しい日々を過ごしている) 善子(その原因は部活と)
善子(空いている日は、毎日遊んでいるから)
善子(花丸とルビィ)
善子(Aqoursのみんな)
善子(一人ではない)
善子(いつも、誰かと)
善子(一番はやっぱり、あの人だけど) 善子(別に一人が嫌になったわけじゃない)
善子(知らなかったから)
善子(人と共にある時間の楽しさを)
善子(それを、曜が教えてくれた)
善子(私に、教えてくれた)
善子(だから夢中になってる)
善子(初めておもちゃを手に入れた、子どものように)
善子(夢中に) 善子(毎日が本当に楽しい)
善子(楽しすぎて、他の事は目に入らないぐらい)
善子(埃をかぶり始めた配信機器や堕天使の衣装)
善子(捨ててしまうわけじゃないけど)
善子(しばらくはきっと、そのままね)
善子(少なくとも、この夏の間は) 善子(明日は、どうしようかな)
善子(曜を誘って、遊びに行くのもあり?)
善子(だけどあの人、私より遊びまわってるから)
善子(暇しているといいんだけど)
善子(連絡してから、考えればいいかな)
善子「ただいまー」
善子母「あら、おかえり」 善子母「今日は早かったのね」
善子「うん、ルビィ達と遊んでいたから」
善子母「あら、曜ちゃんじゃなかったのね」
善子(曜と遊ぶ時は、お互いに沼津だからそこまで時間を気にしなくてもいいけど)
善子(内浦住みの相手、特にルビィの家は厳しいから)
善子(どうしても解散する時間が早くなる)
善子母「明日の予定は?」
善子「特に決まってないけど」 善子母「それなら、ちょうどいいわね」
善子「ふぇ?」
善子(どういうこと?)
善子母「善子」
善子「は、はい」
善子母「私はね、あなたが連日遊びに行く事には反対する気はないの」
善子母「だけどね、一つだけ気になることがあって」
善子「気になること?」 善子母「宿題、進めてる?」
善子「あっ」
善子(連日、遊び惚けている時点で)
善子(当然、やってない)
善子母「その反応は、やっぱり」
善子「……やってないです」
善子(うぅ)
善子(遊び過ぎた) 善子母「やれやれ」
善子母「部活もあって、全然勉強している様子が見えなかったから」
善子母「そんな事だと思ったわ」
善子「ご、ごめんなさい」
善子(私より先に危機に気づくなんて)
善子(流石現役の教師……) 善子母「謝ることはないわ」
善子母「今から、ちゃんと終わらせられるなら」
善子「それは」
善子(宿題の量)
善子(結構、多かったような)
善子(最初の引きこもり期間で積まれた分もあるし……) 善子母「なかなか大変そうね」
善子「うん……」
善子母「仕方ないわね」
善子(も、もしかして)
善子(お母さんがスパルタ指導とか言い出す?)
善子(現役教師の、身内に対する容赦のない指導)
善子(過去に経験した時は――ああ)
善子(それだけは嫌だ) 善子母「なにを震えているの?」
善子「だ、だって」
善子母「私に教わりたくない?」
善子「ぎくっ」
善子母「大丈夫よ、私もそんなに暇じゃないから」
善子「へっ」
善子母「今回はね、外部から助っ人を頼んだの」
善子母「明日から手伝いに来てくれるそうよ」 ※
善子(助っ人)
善子(なんていうから、どんな人が来るのかと緊張していたけど)
曜「へーい、善子ちゃん」
善子「……」
善子(この人なのね。緊張して損した) 善子母「わざわざ来てくれてありがとう」
曜「いえいえ」
善子母「というわけで、あなたの宿題を手伝ってくれる渡辺先生よ」
曜「よーろしく〜」
善子(……なにこの茶番)
善子母「曜ちゃん、私は出かけるからあとはよろしくね」
曜「了解であります!」
善子母「善子も遊んだりしないで、ちゃんと勉強を教えてもらうのよ」
善子「分かっているわよ!」 善子(……はあ)
善子(とりあえず、お母さんは行ったわね)
曜「いやー、ここが善子ちゃんの家か〜」
曜「初上陸だなー」
善子(助っ人のはずの曜も、家中を物色し始めるし)
善子「ねえ」
曜「ん?」
善子「どうして、助っ人なんて」 曜「……責任、取れって」
善子「責任?」
曜「この夏、善子ちゃんを連れ回して遊んだり」
曜「遊びを教えて勉学を怠らせた、責任」
善子「……ああ」
善子(それで断れなかったと)
善子(それはまた申し訳ないような) 善子「ちなみに、あんたの宿題は」
曜「終わったよ、とっくに」
善子「そ、そう」
善子(この人、私以上に遊びまわっていたはずなのに)
善子(体力の違い?)
善子(遊びや部活の後、きちんと勉強していたとか)
善子(それだけじゃない気もするけど) 曜「大丈夫だよ」
曜「私はやさしく教えてあげるから」
曜「全然辛くないように、ちゃんと」
善子「ちょ、その言い方は逆に怖いんだけど」
曜「気のせいだよ」
曜「別に体育会系の扱きとかしないからさ」
善子「いやいや、その言い方がもう予告!」 >>72の前
曜「とにかくやろうか」
曜「今日から数日で終わらせるよう、頼まれたし」
善子「す、数日で?」
曜「うん」
曜「ほら、予選もあるしさ」
曜「そんな日程、余裕ないじゃん」
善子「だ、だけど」 曜「そんなことないよ」
善子「い、嫌よ」
善子「信じられないわ」
曜「……いいから、やるよ」
善子「は、はい」
善子(駄目だ、迫力に負ける)
善子(なんでこんなときだけ、無駄に先輩らしいの)
善子(こうなったら覚悟、決めるしかない……) ※
曜「……よし、今日はこの辺までにしようか」
善子「……うん」
善子(……疲れた)
善子(すっかり、外は暗くなっている)
善子(朝から晩まで、机の前に座って)
善子(テキストに齧りついて)
善子(こんなにまとめて勉強したのは、初めてかも……) 曜「いやー、ところどころ抜けてはいるけどさ」
曜「善子ちゃん、地頭がいいのかな」
曜「理解が早くて助かるよ」
善子「そう?」
曜「うん!」
善子(結局、最初に脅してきた割に)
善子(普通に)
善子(むしろやさしく教えてくれた、曜) 善子(説明も分かりやすいし)
善子(限界の一歩手前でちゃんと休憩も入れてくれる)
善子(なにをやらせても)
善子(できる人よね、本当に)
曜「どうしたの? 私を見つめて」
善子「いや、別に」
曜「あれかな、見惚れちゃった?」
善子「そんなわけないでしょ」
曜「えー、いけずー」 善子(そう言って)
善子(ぴょっと跳ねるように立ち上がる)
曜「そういや、来た時から思ってたんだけどさ」
善子「なに?」
曜「この部屋、結構見晴らしがいいよね」
善子「ああ」
善子(川沿いで、視界を遮る建物もない)
善子(お母さんもここに住むことを決めた理由の一つに、景観をあげていたし) 曜「いいなー、私の家じゃかろうじて川が見える程度なのに」
善子「ちょっと、勝手に窓開けないでよ」
善子(冷気が逃げちゃう)
曜「いいじゃん少しぐらい」
善子「もう……」
善子(夏なのに、普段から外ではしゃぎまわってるような人だから) 曜「あはは、この時間でもまだ暑い〜」
善子「そりゃねぇ」
曜「ずっと冷房の中にいたから、身体が馬鹿になってるよ」
曜「明日は海――は行けないんだよね」
善子「ごめん、私のせいで」
曜「いやー、元をたどれば完全に自分が原因だからさ」
曜「謝ることじゃないって」 曜「さっさと宿題を片付けて」
曜「また遊ぼうよ、一緒に」
曜「もうちょいでさ、花火大会とかもあるし」
善子「嫌よ、人混みは」
曜「えー」
善子「苦手なのよ、ああいう場所」
曜「……そっかぁ」 善子(うーん)
善子(あんまり表情に出さないようにしてくれてるのに)
善子(寂しそうだな)
善子(お祭りとか、好きそうだし)
善子(花火も――あっ)
善子(そうだ) 善子「ねえ」
曜「ん〜」
善子「外に行くのは嫌だけど」
善子「ここで花火を一緒に見るだけならいいわよ」
曜「へっ、見えるの」
善子「うん、このベランダから綺麗に」
曜「おお、凄いじゃん!」 曜「それなら賛成!」
曜「高い所から花火鑑賞とか、一度やってみたかったし!」
善子「なら決まりね」
曜「うん!」
善子(大袈裟なまでの喜びよう)
善子(子どもっぽいな、曜は)
善子(というより、純粋かな) 曜「よーし、そうと決まれば明日からも勉強頑張らないと」
曜「しっかり終わらせて、花火に集中!」
曜「今日は早く帰って休もう!」
善子「そうね――って」
善子(なんか突然、ベランダから身を乗り出そうと)
曜「時間が勿体ない、ここから私の家まで飛び込んで――」
善子「いやいや無茶よ! 冷静になって!」
曜「全速前進――」
善子「しちゃ駄目だから!」 (*> ᴗ •*)ゞじもあいは…不滅でありますなあ!! ※
善子(数日の集中期間の末)
善子(私は無事に宿題を終わらせて)
善子(夏休みも順調に過ぎていき)
善子(週末の花火大会も迫ってきた) 善子「ふわぁ」
善子(もうすぐお昼ごはんかなぁ)
善子(今日は久しぶりのおやすみ)
善子(大会も終わって、みんな疲れているだろうからと練習は無し)
善子(遊ぼうにも、宿題に追われている人(千歌やルビィ)やお疲れモードの人も多くて)
善子(だから私も素直に休むことにした)
善子(よく考えれば、一日中ダラダラできる日もしばらくないわけだし)
善子(たまにはいいかな、なんて) 善子「おかーさーん、ご飯は〜?」
善子母「もう少しかかるわよ」
善子「えー」
善子母「二人分作る要領を忘れちゃったのよ」
善子母「久しぶりでしょ」
善子母「善子がお昼間から家にいるなんて」
善子「そう?」 善子母「もう、遊びまわっていたから」
善子「ちゃんと宿題もやったもん」
善子母「そうね」
善子母「偉かったわ」
善子母「曜ちゃんには迷惑をかけちゃったけど」
善子「ちゃんとお礼は言ったわよ」
善子母「……本当にいい先輩を持ったわね」
善子「うん」 善子母「さて、できたわよ」
善子母「ご飯にしましょうか、お皿出してくれる」
善子「はーい」
善子(そうだ)
善子(今のうちに、曜のこと)
善子(花火大会の日のこと)
善子(話しておいた方がいいかな) 善子「ねえ、お母さん」
善子母「なに?」
善子「今度の花火の日。曜が遊びに来るかもしれないんだけど」
善子母「あら、そうなの」
善子「うん、この前一緒に花火を見ようって話して」
善子母「もちろん構わないわよ」
善子「本当に!?」
善子母「曜ちゃんなら大歓迎」 善子(よかった)
善子(これでもし、駄目なんて言われたら合わせる顔がないもんね)
善子母「ふふ、善子の友達が遊びに来るなんて」
善子「なによ」
善子母「ただ、楽しみだなって」
善子母「曜ちゃんも、最後に良い思い出になってくれるといいんだけど」
善子「最後?」 善子母「そろそろ終わるでしょ、夏休み」
善子「あっ」
善子(そうだ)
善子(もうすぐ、終わる)
善子(夏が)
善子(輝いていた季節が)
善子(この時間が全部)
善子(終わってしまう) 短めですが時間も遅いのでここで
続きはおそらく夜、時間があれば朝に ※
善子(そして)
善子(やってきてしまった)
善子(花火大会の日)
曜「ヨ―ソロー!」
善子「……うん」
善子(笑顔でうちへやってきた曜)
善子(出迎えるのは、対照的な私) 曜「あれ、元気ない?」
善子「そんなこと、ないけど」
曜「あー、もうすぐおやすみ終わっちゃうからおセンチな気分ってやつ?」
善子「まあ、そうね」
善子(間違ってはいない)
曜「分かるよー、私もちょっと憂鬱」
曜「だけどさ、学校は学校で楽しいからさ、元気出しな」
善子「ええ、そうね」 善子母「曜ちゃん、いらっしゃい」
曜「あっ、お邪魔しまーす」
善子母「相変わらず元気ねー」
曜「えへへ、それが取り柄ですから」
善子母「うちの子にもその明るさを分けてあげて」
善子母「最近ずっとこんな感じなのよ」
曜「了解であります! 任せてください!」 善子(落ち込んだ様子もなく)
善子(いつものように明るく、元気で)
善子(曜は)
善子(曜は、寂しくないの?)
善子(こんな夏は当たり前で)
善子(今までも同じような夏を、過ごしてきたから?)
善子(寂しく、ないのかな) 善子母「花火はね、善子の部屋からが一番綺麗に見えるわよ」
曜「へー、善子ちゃん特等席」
善子母「もう少し時間あるけど、二人で楽しんでね」
曜「あれ、ママさんは?」
善子母「私が居たら若い二人にはお邪魔でしょ」
曜「えー、そんなことないですよー」
善子母「一人で自分の部屋から楽しむから」
善子母「善子のことはよろしくね」 善子(お母さん、気を使ってくれてる)
善子(最後の思い出、だものね)
曜「ねえねえ、善子ちゃん」
善子「なによ」
曜「なんか駅の方で屋台出てたんだけどさ」
曜「花火が終わったら行かない? もう人も少なくなってるだろうし」
善子「嫌よ。家に引きこもった意味がないでしょ」
曜「むー」 曜「いいもん、それなら私一人で行くから」
善子「駄目よ、うちでご飯食べていく予定じゃない」
善子「お母さん、張り切って準備していたんだから」
曜「マジで?」
善子「ええ」
曜「ふふっ、それは期待しちゃうな」
善子(ああ)
善子(もうすぐ、始まってしまう) 曜「善子ちゃんはそんなに楽しみじゃないの?」
曜「見慣れてるし、そんなもん?」
善子「そんなことないって」
曜「えー、だけどやっぱテンション低いよ」
善子「そんなことないわよ」
善子「ほら、カメラも持ってる」
曜「本当だ、準備バッチリじゃん!」
善子「私は私なりに楽しむから、あなたも――」 曜「おっ」
善子「あっ……」
善子(爆音と)
善子(真っ暗な夜空に散る、鮮やかな火花)
曜「始まった!」
善子(曜は飛び出すように、ベランダへ出る)
善子(私も無言で、後に続く)
善子(離れたくなかった)
善子(最後だから、離れたくなかった) 曜「綺麗だね〜」
善子「……うん」
善子(ああ、笑ってる)
善子(輝いている)
善子(太陽のように眩しい笑顔を浮かべている)
善子(きっと曜にも、私にも)
善子(最高の思い出の一ページになる)
善子(そんな、素敵な時間) 善子(だけど花火は、この輝きは)
善子(夏の終わりを告げる)
善子(私と曜の時間を終わらせる)
善子(花火に夢中になってる曜)
善子(私に横でカメラを向けられても気づかない)
善子(私は何度もシャッターを切る)
善子(被写体は花火ではなく)
善子(はしゃぐ先輩の、横顔) 善子(この時間を)
善子(無くしたくなくて)
善子(永遠に、保存しておきたくて)
善子(花火に目を向けることもなく)
善子(カメラの容量がなくなっても)
善子(ずっと横顔を)
善子(曜を、見つめ続ける) ※
善子母「楽しかったわね」
善子「うん」
善子母「食器片付けたらお風呂いれるから、入って早めに休みなさいよ」
善子母「新学期、万全の体調で迎えないと」
善子「はーい」 善子(花火の後も)
善子(楽しい時間は続いて)
善子(曜も、お母さんも、私も)
善子(みんな、笑っていた)
善子(だけど)
善子(曜が帰って)
善子(一人になって)
善子(部屋に戻ると) 善子「寂しいよ……」
善子(曜の気配が残る部屋)
善子(さっきまで輝いていたはずの部屋が)
善子(灰色に見える)
善子(彼女の存在が大きかった分)
善子(喪失感も、大きく)
善子(ぽっかりと)
善子(大きな穴を残してしまったみたいで) 善子(次に会えるのは、始業式の日)
善子(夏の時間は、もうおしまい)
善子(嫌だ)
善子(消えちゃうなんて、嫌だ)
善子(私はずっと、この夏を過ごしたい)
善子(この夏が、終わってほしくない)
善子(曜と、一緒にいたい) 善子(衝動的に、スマホを開く)
善子(なにか、伝えないと)
善子(終わらせないように、何か)
『会いたい』
善子(送った、一言)
善子(とっさに浮かんだ言葉はそれで)
善子(打って、送って、恥ずかしくなってベッドにスマホを放り投げると)
善子(すぐにブザー音が鳴る)
善子(返信、ではない) 善子「あ……」
善子(曜、スマホを忘れてる)
善子(馬鹿)
善子(台無しじゃない)
善子(取り戻ってくる?)
善子(いや、だけど始業式の日に受け取ればいいって考えるかも)
善子(もし、そうだったら)
善子「っ」 善子(気づけば、身体が動いていて)
善子母「善子、どうしたの?」
善子「ごめん、ちょっと出かけてくる!」
善子母「えっ?」
善子(突然のことに言葉を失うお母さんも無視して)
善子(私は、家を飛び出す) 善子(もう、帰ったのかな)
善子(家の場所、どっち――)
『駅の方に屋台が――』
善子「あっ」
善子(もしかしたら、そっち?)
善子(分からないけど)
善子(浮かんだからには理由があるかもしれない) 善子(走ればいい)
善子(間違っていても、また走って探せばいい)
善子(この夏の、魔法のような時間)
善子(それが終わる前に、伝えないと)
善子(必死に追いかけないと)
善子(無駄かもしれないけど)
善子(走る、全力で――) 「あれ」
善子「……空気、よんでよ」
善子(せっかく、盛り上がってきたのに)
善子(最悪、自分が格好わる)
曜「引きこもり少女が、なんでここに?」
善子「……どうして」
善子(私のことが) 曜「気づいたんだよ、なんとなく」
善子「……意味、分からない」
善子(本当に)
曜「息、切れてるね」
曜「これ飲む?」
曜「まだほとんど残っているよ」
善子(差し出されたラムネの瓶)
善子(曜の瞳のように、透き通った綺麗な水色) >>129修正
曜「気づいたんだよ、なんとなく」
善子「……意味、分からない」
善子(本当に)
曜「息、切れてるね」
曜「これ飲む?」
曜「まだほとんど残っているよ」
善子(差し出されたラムネの瓶)
善子(曜の瞳のように、透き通った綺麗な水色) 曜「どこのお店も閉まっちゃっていたけど」
曜「これだけ、余ったからってくれたんだ」
曜「でも走ってきたんだよね」
曜「炭酸は微妙かな?」
善子(いつもと同じ)
善子(私の気持ちは、この人には絶対に理解できない) 善子「これ、忘れてたから」
善子(ポケットに入れてきたスマホを渡す)
曜「うわ、マジで?」
善子「部屋に落ちてたのよ」
曜「全然気づいてなかった……」
曜「ありがとう、助かったよ」
善子「別に、気にしないで」
曜「だけどさ、このためにわざわざ走ってくれたんでしょ?」
善子(それは……) 善子(理解してくれないなら)
善子(伝えなきゃ)
曜「善子ちゃん?」
善子(その為に、私は)
善子(私は)
善子(私は) 善子「私は」
善子「終わらせたくなかったの」
善子「この夏を、あなたと過ごした大切な時間を」
曜「それ、どういう?」
善子「二学期になって」
善子「日常が戻ってきて」
善子「そうなったらもう戻れない」
善子「だから、この時間を残したくて」 善子「だから」
善子「だから……」
善子(衝動)
善子(感情だけが先走った行動)
善子(適切な理論も)
善子(言葉も)
善子(なにも浮かばない) 善子(私のこれは)
善子(思い通りにならないことを嘆き、癇癪を起こす子どもと同レベル)
善子(いや、それ以下)
善子(時間を止めるんなんて不可能だし)
善子(永遠に夏に留まるなんてあり得ない)
善子(手の出しようのない領域)
善子(そんなことは子どもでも理解できる)
善子(はずなのに) 善子(目が熱くなり)
善子(湿っていくのを感じる)
曜「……善子ちゃん」
善子(ああ、最悪)
善子(せっかく、いい終わり方だったのに)
善子(最高の夏だったのに)
善子(最後にこんな、余計な) 曜「……大丈夫だよ」
善子(そっと)
善子(頭に手を置かれる)
曜「夏が終わってもさ」
曜「私と善子ちゃんは仲良しのまま」
曜「前にも言ったけど、学校だって楽しい」
曜「他の季節も、楽しいよ」 曜「秋になったら焼き芋でもしようか」
曜「冬は雪合戦とか、私強いんだよ」
曜「春になったら、やっぱりお花見かな」
曜「梅雨はちょっと憂鬱だけど、仲良しの人と室内で過ごせる貴重な日だし」
曜「そうやって素敵な時間を過ごして」
曜「気づけばね、また夏は来るよ」 曜「今年の夏は終わっても」
曜「来年、再来年、夏は続いていく」
曜「終わりなんか、来ないんだよ」
曜「この輝く素敵な時間は、続くんだよ」
曜「だからさ」
曜「泣かないで、夏を楽しもうよ」
曜「今回の夏は特別に、最後まで付き合ってあげるから」
善子(……どうしてかな)
善子(どうしていつも、あなたは) 善子「……今回だけじゃ、嫌だ」
善子(もう、恥じらいなんてどこかへ消え去って)
善子「これからもずっと、最後まで付き合って」
善子(私は子どものように、曜に抱きついて)
曜「うーん、我儘な後輩だね」
曜「私は構わないけどさ、そのぐらい」
善子「……約束よ」
曜「うん、約束」
善子(子どもじみた約束に)
善子(子どもじみた指切りで契約をする) 曜「よし、落ち着いたなら――
善子「待って」
善子(もうひとつ、ある)
善子(伝えたい事) 善子「私、知らなかったの」
善子「誰かと過ごす時間が、こんなに素敵だったなんて」
善子「この夏を迎えるまで」
善子「あなたが教えてくれるまで」
善子(きっとあそこで誘ってくれなかったら)
善子(一人、つまらない日々を過ごしていた)
善子(あなたは、くすんだ私を、明るい世界へ引き上げてくれた)
善子(だから)
善子「だから」
善子「ありがとう、曜」 ※
善子(休み明け)
善子(早々にやらかさないように、何度も確認した持ち物)
善子(今までで一番苦労した宿題も、もちろん入ってる)
善子(先にバスに乗る)
善子(一人で)
善子(それでも寂しさはない)
善子(だって) 曜「おはよう!」
善子(すぐにあなたはやってくる)
善子(いつものように、あなたの姿はそこにある)
善子「おはよう」
曜「おーい、休み明け早々テンション低いよー」
善子「朝から元気なあなたの方が特殊なのよ」
曜「うむむ、それはよく言われる」 善子(まだ暑さは残る)
善子(日差しも眩しい)
善子(だけど着実に、季節は秋へと変化していく)
善子(夏の気配は消えていく)
善子(それでも、私の心は晴れやかなまま) 善子(バイバイ、夏)
善子(また、来年会いましょう)
(これは私が体験した)
(素敵な夏のお話) 以上です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。 これからもずっと一緒の時間を過ごそう、って言える親友関係って素敵よな……
曜ちゃんカッコいいよ 最高だった曜ちゃんどちゃくそいい先輩だしヨハネ可愛いしママの優しさも好き…ありがとう ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています