ぽんこつ絵里ちゃんといじわる海未ちゃん
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『ぽんこつ』
絵里「わたしってポンコツかしら……?」
海未「はい?」
絵里「ファンの人がね、私のことポンコツだって言ってるの、最近よく聞くの。悪意はないようなのだけれど……」
海未「それはかつての絵里があまりにも真面目だったからでしょう」
絵里「え? どういうこと?」
海未「絵里はスクールアイドルになってから穏やかになりました。言いかえれば、ありのままの絵里を見せるようになった」
海未「人によってはそのギャップが、以前と比べて少し抜けているように映るのではないでしょうか」
絵里「自分ではそこまで自覚がないのだけれど」 『お泊り』
穂乃果「ふう! このくらいにしておこっか!」
海未「そうですね。今日は無理をしても仕方ありませんから」
ことり「それじゃ、今からお泊りだね!」
真姫「係を決めた方がいいんじゃない」
絵里「食事を作る班と、寝床を確保する班に別れましょうか」
希「それじゃあ、うちは料理! にこっちが失敗しないように見張ってる!」
にこ「なんでにこが作ること前提なのよ!」
凛「りんも手伝うにゃ〜!」
花陽「じ、じゃあわたしも」
穂乃果「ほのかも手伝うよ!」
にこ「待ちなさい! まともなのが花陽くらいしかいないんだけど!?」
絵里「……わたしも行くわ。海未、寝床の方、お願いね」
海未「了解です」 『布団チーム』
海未「――こんなものでしょうか」
真姫「……ねえ、布団こんなにくっつける必要ある?」
海未「ことりに言ってください」
ことり「えへへ、こんな機会もうないかなって」
真姫「そうかもしれないけど……」
ことり「真姫ちゃん、いや?」
真姫「い、いやってわけじゃ」
ことり「おねがぁい!」
真姫「うっ」
海未「……あきらめた方がいいですよ」
真姫「わ、わかったわよ!」
ことり「やったぁ!」 真姫「向こうはどうなってるのかしら」
海未「そろそろ完成するころでしょう」
ことり「お手伝いしに行く?」
海未「そうですね。料理を部室まで運ぶ必要がありますから」
真姫「それじゃ、行くわよ」 『料理チーム』
にこ「花陽、ごはんは!?」
花陽「炊けたよぉ!」
にこ「絵里、サラダは!?」
絵里「準備できてるわ」
にこ「よし、あとは……」
穂乃果「ねぇ、適量ってどれくらい?」
凛「よく分かんない」
希「適当な量ってことやろ? 適当でいいんやない?」
穂乃果「なるほど!」
凛「さっすが希ちゃんにゃ!」
にこ「……あたま痛くなってくるわ」 海未「こちらは終わりましたが、どんな感じでしょうか?」
にこ「いいタイミングよ! その3バカの代わりにスープの仕上げお願い!」
穂乃果「3バカ?」
希「って?」
凛「誰のこと?」
にこ「あんたらはさっさと食器運びなさいっ!」
穂乃果・凛・希「はーい!」 『食後』
絵里「これで片付けは終わりね。あとは寝るだけかしら」
海未「そうですね。今日は早めに休みましょう」
絵里「その前にちょっとだけ付き合ってよ」
海未「お手洗いですか? えりの怖がりにも困ったものですね」
絵里「違うわよっ! ちょっと話したいことがあるだけよ!」
海未「そうですか?」
絵里「ほら、行くわよ!」 『屋上で』
絵里「屋上、結構寒いわね」
海未「まだ冬があけたばかりですから」
絵里「風邪でも引いたら大変ね。長居はできないわ」
海未「それで、話したいこととは?」
絵里「特にないわ。海未と二人きりになりたかっただけ」
海未「……は?」
絵里「なによ。海未だって生徒会の話があるとかなんとか嘘ついて私を連れ出したじゃない」
海未「あれは嘘ではなく、単純に解決しただけだと言ったではありませんか」
絵里「どうかしら? 後輩にわたしを取られて嫉妬してたんじゃないの?」
海未「……帰ります」
絵里「うそうそっ! ごめんってば!」 絵里「ついに明日ね。緊張してる?」
海未「えりが失敗しないか不安で夜も眠れません」
絵里「だからごめんってば。機嫌直してよ」
海未「……緊張してないといえば嘘になりますが」
絵里「そっか」
海未「えりはどうなのですか?」
絵里「もちろん緊張してるわ。でも、嫌じゃない。むしろ心地よく感じるほどよ」
海未「ずいぶんと強気ですね」
絵里「だって私、いま、すっごく幸せだもの」
絵里「このままずっとμ'sのみんなと学校に泊まり続けて、ラブライブの決勝を明日に控えた一日を永遠に繰り返す」
絵里「そうなってもいいなって思うくらいに」
海未「……」 海未「わたしは嫌ですよ。そんなの」
絵里「……海未?」
海未「私たちはもっと先へ進んでいく。それはラブライブが終わっても、μ'sがおしまいになっても、……えりたちが卒業しても変わらない」
海未「私たちは進まなければならないんです。それが残された私たちの役目ですから」
絵里「そうかしら」
海未「そうなのです」
絵里「……そうかもね」 絵里「あーあ、なんかしんみりしちゃった。海未が真面目なこと言うから」
海未「えりが変なことを言うからでしょう」
絵里「もっと明るい話題にしましょうか」
海未「まだ話すのですか? そろそろ冷えてきたのですが」
絵里「だったら、最後に一つだけいいかしら」
海未「どうぞ」
絵里「……絶対に優勝するわよ」
海未「!」
絵里「ここまで来れたんだもの。いちばんになって、最高の景色を見るわよ。それくらい望んでもいいでしょ?」
海未「……はい!」 『余韻』
絵里「……」
海未「えり」
絵里「あら、海未」
海未「朝からずっと眺めていませんか」
絵里「いいでしょ。今日くらい」
海未「別に構いませんが」
絵里「……ねぇ、海未」
海未「はい」
絵里「私たち優勝したのよね。夢じゃないわよね」
海未「当然です。私だってはっきりと覚えていますから」
絵里「……そうよね」 海未「えりがそこまで優勝にこだわっていたなんて、少し意外です」
絵里「だって、はじめてだもの。友達と一緒に全力で何かをするのも、一番になるのも。バレエはずっと一人だったし、優勝したこともなかったから」
海未「……」
絵里「ほら、海未も隣に座りなさい。喜びを分かち合いましょう」
海未「……もう十分なのですが」
絵里「いいじゃない。ほらっ」 絵里「そういえば、決勝の時もアンコールの時も投げキッスしなかったわね」
海未「そういえばそうですね」
絵里「……もしかして、私の言ったことまだ気にしてるの?」
海未「だから、それはもとから気にしていないと言ったではありませんか」
絵里「そうだけど……」
海未「あんなに多くの人の前でするのが憚られただけです。PV撮影とは違いますから」
絵里「それならいいんけど」
海未「……それに、他の人には見せたくないのでしょう」
絵里「え?」
海未「なんでもないです」 絵里「あれ、もう行っちゃうの?」
海未「明日の式の準備がありますから」
絵里「なら仕方ないわね」
海未「答辞、しっかり決めてくださいよ。元生徒会長として」
絵里「大丈夫。すでに準備は万端よ。この式でポンコツなんて言葉ともお別れかもね」
海未「あまり調子に乗っていると足元をすくわれますよ」
絵里「ラブライブ決勝っていう最大のイベントを終えたのよ。もうすくわれようがないわ」
海未「……どうでしょうか」 『事件』
―翌日―
絵里「う、うみっ!」
海未「どうしたのですか。そんなに慌てて」
絵里「ちょ、ちょっときて! おねがいっ!」
海未「え?」
絵里「はやくっ!」
海未「わ、わかりましたから」 海未「え!? 答辞の原稿が見当たらない!?」
絵里「そ、そうなのよ! 心当たりのある場所は全部探したんだけど……」
海未「最後に原稿を見たのはいつですか」
絵里「昨日の夜、自分の部屋でチェックしたのが最後だと思うの。でも、電話して亜里沙に聞いてみたんだけど、どこにもないって」
海未「鞄の中は? 隅々まで探しましたか?」
絵里「もちろんよ。でもどこにもなくて……」
海未「……」
絵里「ねえ、どうしよう!? わたし、こんな大事な時に……!」
海未「落ち着いてください。式まであと二時間ほどあります。何か手はあるはずです」 海未「この話、他の人には?」
絵里「してないわ。海未がはじめてよ」
海未「それでは、学校に着いてからの行動を教えてください。他のメンバーにも連絡して探してみます」
絵里「わたしも一種に……!」
海未「えりは少しでも内容を思い出してください。新しい紙を用意しますから」
絵里「……分かったわ」 『捜索』
穂乃果「海未ちゃん、生徒会室にはなかったよ!」
ことり「部室にもないよ!」
海未「学校にないとすれば、やはり絵里の家でしょうか」
穂乃果「どうする? お父さんに言って車出してもらう?」
海未「あと一時間、往復で間に合うかどうか……」
ことり「少し厳しいかも」
海未「とりあえず、えりに確認してみます」 海未「えり、どうですか?」
絵里「半分くらいは思い出せたけど……」
海未「学校にはありませんでした。やはり、家にある可能性が高いと思います」
絵里「式まであと一時間……、行って帰ってくるだけでギリギリだわ」
海未「しかし、決断するなら早いほうがいいかと。どうしますか?」
絵里「……」
亜里沙「お姉ちゃん!」
絵里「亜里沙!?」 絵里「どうしてここに……!」
亜里沙「原稿、見つからないの?」
絵里「……大丈夫よ、ほとんど覚えてるから。何も問題ないわ」
亜里沙「お姉ちゃん……」
海未「……」
海未「亜里沙、もう一度家を探すの、手伝ってもらえませんか? 私も一緒に行きますから」
絵里「海未!? わたしは大丈夫だって……!」
海未「そうかもしれません。でも、そうでないかもしれない。私はそんな絵里を見たくありません」
絵里「……!」 海未「では、向かいます。亜里沙、準備はいいですか?」
亜里沙「はい!」
雪穂「……あの、一ついいですか?」
海未「雪穂、すみません、今は時間が……」
雪穂「そういう原稿って、予備にコピーしたものを先生に預けてるんじゃないですか? お姉ちゃん、そうしてたような」
海未「まさか。そうであればえりも気付く……」
絵里「あっ」
海未「……え?」
絵里「そういえば、あずけた、かも……」 『答辞』
「卒業生を代表して、元生徒会長の絢瀬絵里さん」
絵里「はい!」
ことり「――良かったね。原稿のコピーがあって」
海未「寿命が縮みますよ。まったく」
ことり「穂乃果ちゃんの送辞も大成功だったし、これで安心だね」
海未「そうでしょうか。舞台上でぽんこつを発揮したら洒落になりませんよ」
ことり「大丈夫だよぉ。ほら、はじまるよ」
『肌寒い日々にも別れを告げ、春の暖かさを感じる今日、私たちは学び舎を巣立ちます。思えば三年前、期待と緊張に包まれて……』 『打ち上げ』
穂乃果「にこちゃん! 絵里ちゃん! 希ちゃん! せーのっ……」
「「「「「「卒業おめでとう!」」」」」」パーン! パーン! パーン!
絵里「ひゃっ!?」
希「驚きすぎやろ」
にこ「ついさっきまではカッコよくきめてたのにねぇ」
海未「まあ、今朝からああでしたからね」
希「言われてみればそうやね」
にこ「結局、どこまでいってもポンコツな訳ね。絵里は」
絵里「ちょ、ちょっと! 好き放題言うのやめてよ!」 穂乃果「せーのっ……」
みんな「かんぱーい!!!」
凛「あっ、カラオケにゃ〜!」
ことり「バイト先から持ってきたの!」
凛「さっすがことりちゃん! かよちん、一緒に歌おう!」
にこ「待ちなさい。花陽は私と歌うのよ! あんたアイドルの曲知らないでしょ!」
凛「かよちんも凛と歌いたいよね!」
花陽「み、みんな一緒じゃだめ?」 穂乃果「ん!? 真姫ちゃんのケーキすっごく美味しい!」
ことり「大丈夫? 高価なものじゃない?」
真姫「いいの。家に置いておいても食べきれないから。遠慮しないで」
穂乃果「ほんとっ!? じゃあほのか、もうひとつもーらいっ!」
希「あっ、うちもうちも!」
ことり「じゃあ、ことりも!」 タノシイネッテマイニチ♪
アーッノゾミチャンガイチゴトッター!
海未「……」
絵里「よいしょっと。おかし持ってきたわよ。海未もたべる?」
海未「頂きます」
絵里・海未「……」
絵里「あの、今朝はごめんなさい。迷惑かけて」
海未「本当ですよ、まったく」
絵里「やっぱりダメね、私って。肝心なところで失敗しちゃうんだもの」
海未「……本番は問題なかったでしょう」
絵里「でも、もう少しで卒業式を台無しにしちゃうところだったわ。海未たちの助けがなかったら」
海未「……」 海未「いいんじゃないですか」
絵里「え?」
海未「別にいいんじゃないですか。少しくらいぽんこつでも」
絵里「いやよ、そんなの」
海未「普段しっかりしているからこそ、たまに抜けたところがあるとぽんこつと言われる。だから胸を張るべきだ。そう前に言ったではありませんか」
絵里「……あれだって私をからかって言ったんでしょ」
海未「まあ、半分はそうです。でも、半分は本気ですよ」
絵里「ほんとかしら」 海未「それに、少しくらいぽんこつでないと困ります」
絵里「なんでよ」
海未「……頼ってもらえなくなりますから」
絵里「え?」
海未「……」
絵里「ごめんなさい。海未、今なんて……」
海未「からかいがいがなくなると言ったのです」
絵里「な、なによそれ! 無理してからかわなくてもいいわよっ!」
海未「それなら、ぽんこつを直すことですね」
絵里「ぐぅ……!」 海未「ほら、行きますよ。ぜんぶ穂乃果に食べ尽くされてしまいます」
絵里「そうね。……あっ、海未」
海未「……?」
絵里「これからも頼りにしてるわよ」
海未「……っ!? えりっ! さっきの聞こえてっ……!」
絵里「真姫! 私にもケーキちょうだいっ!」
海未「え、えりっ! 待ってください!」
絵里 「〜♪」
海未 「えりっ!」
おわり とりあえず以上です
最後までお付き合い頂きありがとうございました よかったです
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