小林「異世界召喚?」
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小林「あれ、ここどこ?」
小林「森の中?なんで?」
小林「おっかしいなー、散歩してたはずなのに」
小林「東京にこんなとこあったっけ」
小林「スマホで位置確認しよっと」
小林「……でない」
小林「もしかして、迷子?」
小林「ヨハちゃんと同じで不幸な目にあってるんだ!」
小林「いやー、困っちゃうなー」 〜
梨香子「あれwここ何処w」
梨香子「あいきゃんいなくなってるしw」
梨香子「てか床光ってるんだけどwキモw」
梨香子「なんか蝋燭とか立ててあるしw」
梨香子「面白そうw」
梨香子「倒しちゃったw」
梨香子「やっばw掃除しないとw」
梨香子「魔法陣まで消えちゃったw」
梨香子「wwwwwwww」 〜
魔王「どうした小娘共!」
魔王「その程度では我には勝てんぞ!」
降幡「ちっ……普通に強いじゃねーか」
小林「小娘だって!まだ全然若く見えるのかな?」
高槻「アホか馬鹿にされてんだよ!」
小林「え、そうなの!?」
小林「もう許さないよ!」
善子『それでけ元気があればまだ大丈夫ね』
小林「うん!ヨハちゃんがいるからね!」
善子『上等よ。もう一踏ん張り、頑張りなさい』 魔王とはその名の通り、魔族の王。魔族の中で一番強い者がなる。
遠距離ではありとあらゆる魔法を使いこなし、近距離では無双の剣を奮う。
遠近共に弱点など無く、三人は攻めあぐねていた。
高槻「どうすんだよ、このままじゃジリ貧だぞ」
降幡「全員で攻撃するしかないだろ」
降幡「こっちにあるのは数の有利だかんな」
降幡「あいきゃん!突っ込むから援護頼む!」
小林「分かった!」
小林「見ててね、ヨハちゃん!」
善子『ええ、かっこいいところ見せなさいよ、小林』
小林「もちろんだよ!」
高槻「あいつに背中預けるのこえーんだけど」
降幡「うるせぇ!いいから行くぞッ!」 魔王「くらえ!《業火の炎》!」
小林「いけ!【煉獄の焔】!」
魔王が赤い炎を出現させるの同時に、それを相殺するように、小林が闇の焔を放つ。
二人の接近を阻もうとした赤い炎は、闇の焔に侵食され、消えて無くなってしまう。
魔王「ふん、ならばこれならどうだ!」
魔王「【悪魔召喚】!」
魔王が魔法陣を描くと、その中心から黒い羽を生やした数体の悪魔が湧いてくる。
小林「【堕天使の息吹】!」
その悪魔たちへと迫るのは、禍々しい冷気だ。
それに触れた悪魔たちは体が徐々に凍っていき、恐怖の表情を浮かべながら氷の中へと閉じ込められ、体の芯から動けなくなる。
高槻「……なあ、本当はあいつが魔王なんじゃねーのか」
降幡「軽口叩いてる暇があるなら……攻撃しろよ!」 降幡が両手に持った剣を、腕を交差するように両側から剣で斬りつける。
左右同時の攻撃であり、それを防ぐのは難しいだろう。
しかし、その攻撃には重大な欠点があり、それは正面の防御が無防備になることだ。
それを魔王が見逃すはずもなく、降幡の攻撃に合わせるように剣を振り下ろす。
高槻「させるかよっ!」
魔王「ちぃっ!」
当然その弱点が狙われることは二人も分かっており、高槻がそれを補うように斧で魔王の攻撃を受け止める。
その隙を見逃さず、降幡の刃が魔王の腹を切り裂いた。
降幡「浅いかっ……!」
魔王「ふんっ!」
凄まじい衝撃と共に、降幡と高槻が弾き飛ばされ、小林の元へと転がる。
これが三人が魔王を攻めあぐねている理由であった。 魔王「遊びは終わりだ!これで終わりにしてやる!」
降幡「やべぇ!何か来るぞ!」
魔王の力の高みを感じ、降幡が声を上げる。
魔王の周りには幾多もの魔法陣が描かれ、そのどれもが眩い輝きを放っている。
魔王「己の無力を呪いながら息絶えるが良い!」
魔王「《消滅のーーぬぉっ!?」
魔王が魔法を放つ瞬間、天井が崩れ、魔王へと降り注ぎ、魔法陣を全て掻き消してしまう。
咄嗟に体制を立て直そうとした魔王であったが、上から落ちてきた人に頭を踏まれ、地面に転がった。
梨香子「やっばw床壊しちゃったw」 梨香子が破壊しまくっていたのは玉座の上の部屋であり、面白がっているうちに床まで壊してしまったのだ。
梨香子「なんか踏んだw誰こいつw」
降幡「おい!あぶねーぞ!離れろ!」
魔王「くそがぁっ!」
怒りに任せて振り払った剣に当たり、梨香子が吹き飛ばされる。
梨香子「いったwなにすんのw」
魔王の剣を受けた梨香子は、どくどくと血を流しながら立ち上がる。
しかし、それは魔王の渾身の一撃を受けたとは思えない程度の傷であった。
本来であれば体が真っ二つになっていてもいいはずの威力であり、魔王が思わず目を見張る。 善子『小林!今がチャンスよ!』
小林「うん!【堕天・鳳凰双翼】!」
高槻「ふりりん!」
降幡「分かってるッ!」
黒い翼を羽ばたかせ、漆黒に彩られた鳥が魔王へと襲いかかる。
それに追随するように、降幡と高槻が己の武器を構え、魔王へと迫る。
魔王「舐めるなぁ!」
黒き鳳凰の直撃を受け体勢を崩した魔王が、持っている剣を突き出す。
高槻はそれを避けることなく、剣を握る右腕に向け、大きな斧を振り下ろした。
魔王「がっ、ぁぁぁぁぁっっっ!!」 高槻の脇腹が抉り取られるのと引き換えに、魔王の右腕が血飛沫を上げて吹き飛ぶ。
降幡「さっさとくたばれッ!」
魔王「【切り裂きの風】!」
残された左手で放たれた風の刃の雨。
降幡はそれから逃げることなく、切り刻まれながらも前へと出る。
この場で勝負を決めるために、そして高槻の覚悟に応えるために躊躇なくした選択は、魔王の動揺を誘うには十分であった。
降幡「もらったっ!」
自身の速さを剣に乗せ、さらに大きく遠心力を込めた一撃は、容易に魔王の左腕を斬り落とした。
魔王「ぐっ、おおおっっ!」
梨香子「仕返しwどーんw」
完全に無防備になった魔王へ、追い討ちのように巨大な衝撃が走り、地面を転がる。 魔王「おのれ……貴様ら……」
小宮「おや、もう終わりのようですね」
すわわ「うむ」
愛奈「やっぱり、みんな強いんだね」
魔王「っ……新手、だと」
杏樹「しゅか、ありがとね。大好きだよー」
朱夏「あーもー、もたれ掛からないで。まだ痛いんだから」
降幡「全員勢揃い、ってわけだな」
魔王「ばかな……この私が……人間ごときに……」
高槻「何が人間ごときだっての」
高槻「そんなに強くもねーくせに威張りやがって」 魔王「……奥の手にとっておいた魔法陣も発動せんか」
魔王「人間に敗北する日が来るとは、思わなかったぞ」
小林「やった!遂に私たち勝ったんだよ!ヨハちゃん!」
善子『ええ、よく頑張ったわね、小林』
朱夏「これでやっと帰れるんだね」
高槻「そうだな。おら、とっとと元の世界に帰る方法言えよ」
降幡「確か倒したら帰れるんだよな……倒すってなんだ?」
高槻「やっちまわないとダメか?」
すわわ「うむ」
魔王「……く、くはは」
魔王「舐めてくれるなよ、人間」
降幡「なんだって?」
魔王「見よ!私の最後の魔法を!」
降幡「てめぇっ!何する気だ!」
高槻「取り押さえるぞ!」
小林「ヨハちゃん!あいつまだ何かするみたいだよ!」
善子『大丈夫よ、小林』
小林「そうなの?」
善子『ええ、だって』
善子『ここまで計画通りだから』 強く光を放つ魔王へと、善子は歩みを進める。
それに気付いた小林の制止を聞かず、善子はだんだんと大きくなる光の中へと入っていった。
小林「ヨハちゃん!」
降幡「やめとけ!」
追い掛けようとした小林は近くにいた降幡と高槻に取り押さえられる、ただその光が収束するのを見ているだけだった。
光が治まると、そこには一人の少女が立っており、全員が思わず息を飲んだ。
それは紛れも無い津島善子……いや、漆黒の羽根を纏うその姿は、堕天使ヨハネと形容した方がいいのだろうか。
本来であれば有り得ないはずの現象に、誰も言葉を発することができなかった。
たった一人を除いては。 小林「ヨハちゃん、大丈夫!?なんともない!?」
小林「もー、びっくりしたんだから」
小林「あれ、翼が生えてる!」
小林「凄い……本物だ」
小林「これがヨハちゃんの本当の姿なんだね!」
善子「小林……」
小林「ん?どうしたの?」
小林にそう聞かれた善子は、口を噤んだ。
少しの逡巡の後、善子はゆっくりと小林へ体を近付ける。
善子「……会いたかった」
そう言うと、善子はほんの少しだけ強く、小林を抱きしめた。 小林「ヨハちゃんとはいつも会ってるよね?」
善子「うっさい、ばか。さっさと抱きしめなさいよ」
小林「甘えん坊なヨハちゃんも大好きだよ〜」
善子「……ん」
その温もりを心の底から味わうように、善子は小林の胸へと顔を埋め、目を閉じる。
目の前で繰り広げられる光景に脳が追い付かず、黙ったままのメンバーであったが、杏樹が一番先に我に返った。
杏樹「イチャついてるところ悪いんだけどさ、これはどういう状況なの?」
杏樹「なんで善子ちゃんがここにいるの?」 善子「……そうだった、説明しないとね」
善子「それと、何度も言ってるけど、私はヨハネよ」
善子「堕天使ヨハネ。それがこの世界での呼び名よ」
朱夏「この世界ってどういうこと?」
善子「元々、私はこの世界の住人なのよ」
善子「こっちの世界で死んで、みんなが元いた世界に行ったの」
愛奈「私たちの世界って……雑誌とか、アニメ?」
善子「そうね。それも経験したわ」
善子「でも、最初に自我を自覚したのは、小林の部屋だった」
善子「その時の私は小林とお喋りをしてたわ」
善子「それからずっと、小林と一緒だった」 善子「でも、それとは別にもう一つの人生も送ってた」
善子「Aqoursのみんなに出会って、ラブライブで優勝した」
善子「ちょっとだけ奇妙な感覚だった」
善子「でも、不思議と嫌じゃなかった」
善子「だって、小林がいつも側にいてくれたから」
杏樹「もしかして、私たちがこっちの世界に来たのって」
善子「私の仕業よ」
杏樹「……そう。理由は?」
善子「理由なんて決まってるでしょ」
善子「小林と……こうして触れ合うためよ」 小林「うーん、つまりどういうこと?」
善子「私が小林のことを好きってこと」
小林「私もヨハちゃんのこと大好きだよ!」
善子「知ってるわ」
降幡「理由は分かったし、なんとなくいろいろ理解できた」
降幡「それで、どうやったら元の世界に帰れるんだ?」
善子「帰る?」
善子「そんな必要ないでしょ?」
善子「みんなこっちの世界で暮らせばいいじゃない」 降幡「いや、そういうわけにもいかねーだろ」
善子「どうして?」
善子「こっちの世界、楽しかったでしょ?」
善子「チートの力で、好き放題できるんだから」
杏樹「この力は善子ちゃんがくれたの?」
善子「違うわよ。世界を移動すると、特殊な力を得られるの」
善子「もちろん、帰ったら無くなるけどね」
朱夏「別に無くなるのはいいんだけどさ」
善子「なんでそんなに帰りたいの?」
善子「せっかく罪悪感を減らしてあげたのに」
高槻「どういうことだよ」
善子「不思議に思わなかった?人を殺してもあんまり罪の意識がなかったでしょ?」
善子「みんなに楽しんでもらうために、わざわざしてあげたのよ」 杏樹「逆に、どうして善子ちゃんは戻りたくないの?」
善子「ヨハネ。どうしてって、あっちの世界に戻ったらまた霊体みたい状態になるからよ」
善子「小林と触れ合えないなんて、そんなの嫌」
善子「だから、みんなでこっちで暮らすわよ」
善子「なんなら、一人に一つ国をあげてもいいわ」
善子「望む物は、なんでも手に入る」
善子「ここはまさしく楽園よ」
愛奈「それは、この世界の人たちを力付くで支配するってこと?」
善子「ええ、そうよ」
善子「良かったじゃない、人間を憎んでたんでしょ?」
愛奈「っ……!」 杏樹「そういうのはいいから、帰る方法を教えてよ」
杏樹「私たちだけでも帰るからさ」
善子「無理よ。帰るなら、全員で帰るしか方法がないの」
善子「それはつまり、私と小林が離れ離れになるってことよ」
杏樹「あんまりしつこいと、力付くで聞き出すことになるよ」
善子「そんなボロボロの体で何言ってるんだか」
杏樹「…………」
善子「全員いい感じに消耗してるし、本当に上手くいったわ」
高槻「……まさか、お前」
善子「ええ。あいにゃが敵になるように仕組んだのも、由佳さんを召喚したのも私よ」
善子「8人が万全の状態なら、万が一があり得るからね」 善子「それで、どうするの?」
善子「一度痛い目見ておく?」
杏樹「……あんまり調子に乗るなよ」
善子「ふふ、怖いわね」
善子「他の全員もやる気出し」
小林「ま、待ってよ、みんな!」
小林「なに戦おうとしてるの!?ヨハちゃんは良い子でーー」
善子「大丈夫だから、ここで大人しく待ってなさい、小林」
そう言うと、善子は小林の側を離れ、他のメンバーの近くへとやってくる。
善子「ねぇ、あんちゃん」
杏樹「なに?」
善子「8人じゃ、奇跡は起こせないわよ」 杏樹「『火矢の雨』!」
善子「【堕天使の息吹】」
善子の言葉を開幕の合図とし、杏樹が魔法を発動させる。
空中に出現した炎の矢は間断なく善子へと降り注ぐが、全て禍々しい冷気により掻き消されてしまう。
降幡「あの技……あいきゃんが使ってたやつじゃねーか」
善子「小林は私のリトルデーモンなんだから、私の力を使えてもおかしくないでしょ」
善子「まあ……小林が使ってないものもあるけどね」
善子「【闇の弾丸】」
杏樹「っ!」
前へと突き出された善子の右手から質量を持った闇が高速で打ち出され、杏樹が反応するよりも早く杏樹の胸を打ち抜き、そのまま地面へと崩れ落ちる。 朱夏「よくもあんじゅを!」
一瞬のうちに距離を詰めた朱夏が巨大な大剣を振り下ろすが、善子はそれを左手で軽々と受け止める。
力尽くで押し切ろうにも、どれだけ力を込めようが善子の左手はビクとも動かず、その隙に善子は朱夏の頭を鷲掴みにし、地面へと叩きつけた。
善子「地元愛で、よく小林と絡んでたわよね」
善子「あの時、凄くもやもやしてたのよ」
善子「私の小林が取られるんじゃないかって、胸が凄く騒いでた」
善子「だから、優しくできないわよ」
すわわ「うむ」
すわわが善子の背後から首元へと日本刀を一閃するが、それを善子は人差し指だけで受け止める。 すわわ「ん」
善子の体は堕天使という身であるため、他の生物よりも体の硬さは段違いである。
しかし、すわわの能力で生み出された刀も伝説級の物であり、本来であれば指ごと首を斬り落とせる一撃であったのだが、善子は闇の力を通わせることで体の防御力を向上させたのだ。
善子「すわわも、よくも小林のことをレイプしようとしてくれたわね」
善子「【煉獄に咲くは血塗られた薔薇】《ブラッド・アイン・ローズ》」
地面から生えた蔓が槍のようにすわわへと襲いかかり、すわわが刀で迎撃を行う。
すわわ「んぁっ」
数の多さに距離を取ろうとしたすわわの足を細い荊が何本も貫き、地面へと縫い止められ、足を動かすことができなくなる。
真っ白な太腿から赤く滴る血が地面を濡らし、血を吸った薔薇は赤い薔薇を咲かせる。 小宮「一つ、貸しですわよ」
体の硬直したすわわへと迫る蔓を、小宮が鉄扇で斬り払う。
小宮「こうなってしまった以上、善子ーー」
小宮の言葉が、途中で止まった。
いや、止められたと言った方が正しいのだろうか、向かい合っていたはずの善子が、いつのまにか小宮の首を掴み持ち上げていたのだ。
善子「そういえば、ありしゃも小林にちょっかい掛けようとしてたわよね」
善子「朱夏に化けて忍び込むなんて……悪戯好きにも程があるわ」
そのまま右手を振り払い、小宮は投げつけられ壁に激突する。
すわわ「うむ」
善子「当たらないわよ」
自身の間合いへと入った善子に対し、反応がしにくい下からの切り上げを放つが、あっさりと躱され、お腹へと食い込んだ右拳にその場で崩れ落ちる。 降幡「嘘だろ……こんな、あっさり」
愛奈「っ……よくもみんなを!」
愛奈「『光よ手繰れ』!」
愛奈の手からの伸びた光の鞭が善子へと迫るが、善子はそれを笑いながら見ていた。
善子「押し潰しなさい、【重圧の闇】」
愛奈「ぐっ!?」
放たれた光ごと、周囲一帯を質量を持った闇が多い、愛奈の体が地面へと叩きつけられる。
自身へと掛かる重力が何十倍にもなった圧迫感に指先一つ動かずことができず、愛奈の視界は閉ざされ、ただ圧力のみが愛奈を襲う。 梨香子「調子に乗るなwどーんw」
愛奈の飲み込まれた闇へと視線が行く善子を巨大な衝撃波が襲う。
梨香子「逢田さんぱーんちw」
ばちん、と乾いた音を立て、梨香子の拳が受け止められる。
善子は衝撃波を受けても無傷であり、梨香子の拳を受け止めることは造作もなかった。
梨香子「放せw」
善子「りきゃこも、いつも小林がお世話になってるわね」
善子「ボール、投げ付けられたらどうなるんだろうね」
善子の手から放たれた闇の球体が梨香子に命中し、弾かれた梨香子は地面を転がりそのまま動かなくなる。 善子「さて……と」
部屋の一部を覆っていた闇が消えると、横たわり動かなくなった愛奈が姿を現わす。
善子「それで、貴女達はどうするの?」
降幡「どうするって……」
降幡は答えられなかった。
自分より強いメンバーが挑み簡単に返り討ちにされているのだから、自分が勝てないと言うことは戦う前から分かっていたからだ。
もしもこの場で戦えば、最悪死ぬ可能性もあり、それならば元の世界に帰れなくてもいいんじゃないかという考えが胸をよぎってしまったのだ。
高槻「お前をぶっ殺すに決まってんだろ!」
そのせいもあり、高槻が走り出した瞬間、降幡は止まったままであった。 高槻「『超倍加』!」
高槻の持つ巨斧が5倍ほどの大きさへと膨らむ。
真っ二つにする勢いで振り下ろしたそれは、当然のように善子に受け止められた。
高槻「知ってんだよ!」
高槻は受け止められた斧を手放すと、小さな手斧を出現させ、善子へと投げ付ける。
それを指一本で弾いてみせた善子へと、新たに出現させた斧で切り掛かるが、それも善子の体に傷を付けることはできなかった。
善子「力の差が分からないっていうのは、悲しいことね」
高槻「うるせぇ!やってみなくちゃわかんねーだろ……う……が……ちく、しょう、」
どさり、と善子に胸を殴られた高槻がその場に崩れ落ちる。 善子「残るは、あいあいだけね」
降幡「っ……」
それは、強者のみに許される余裕。
降幡は気付いてしまった、自分が『敵』とすら認識されていないことに。
善子からすれば、降幡を葬るのは造作も無いことであり、やろうと思えば降幡が思考する前にできるだろう。
降幡「やるしかねぇ、だろ」
本当は今にも逃げ出してしまいたいのだが、仲間を見捨てて逃げるという選択肢を降幡は選べない。
恐怖に立ち向かいながらも、降幡は刀が胸の前で交差するように二刀流を構える。
善子「……ふふ」
降幡「何がおかしいんだよ」
善子「震えてるから、可愛いなって思ったの」
降幡「っ……!」 カチカチカチ、と刀同士が小刻みにぶつかる音が聞こえる。
それは体が震えているせいであり、降幡はそれを振り払うかのように前へと出た。
降幡「でやぁぁぁぁっ!」
踏み込みの直前、左に重心を傾けてからの右跳び。
善子のお腹を掠めるように放たれた斬撃は、パキンという音と共に掻き消された。
お腹に強い衝撃を受け、そのまま地面へと放り出される。
手に持った剣は、両方とも刀身を失っていた。 善子「私の勝ちね」
善子「ふふ、良かった。これで小林とずっと一緒にいられる」
善子「ねぇ、小林、何かしたいことある?」
善子「今の私ならなんでも叶えてあげられるわよ」
小林「……ヨハちゃん、こんなの、おかしいよ」
善子「……え?」
善子「何言ってるのよ、小林」
善子「あんちゃん達は、私と小林の仲を引き裂こうとしたのよ?」
善子「だから返り討ちにしただけ。何もおかしくないでしょ?」
小林「そうだけど……でも、その、なんていうか」 小林「ほら、やっぱりさ、みんなで仲良くしてる方がいいと思うの」
小林「だからさ、みんなが納得するように……」
善子「……言ったわよね、小林」
善子「私さえいればいいって」
小林「う、うん。ヨハちゃんは私の大切な人だから」
善子「じゃあ、他の人のことなんてどうでもいいでしょ」
善子「まさか、元の世界に帰りたいなんて思ってたりしないわよね、小林」
小林「思ってないけど、みんなどうしてるのかとか、後は、いろいろどうなってるのかとか、気になったり……」
善子「…………」
小林「あの……ヨハちゃん」
小林「怒ったのならごめんね」
小林「私の一番はヨハちゃんだから、こっちの世界で一緒に暮らそう?」
善子「……分かったわ」
小林「良かった……じゃあ、まずはみんなをーー」
善子「あんちゃんを、殺すわよ」
小林「え……?」 小林「ま、待って!なんで!?」
善子「小林は元の世界に未練があるんでしょ?」
善子「大丈夫、小林は私のリトルデーモンなんだから、ちゃんと理解してあげてる」
善子「あんちゃんを殺せば、向こうに戻ってもAqoursは再開できないでしょ?」
小林「っ!」
善子「小林の未練、消してあげるわ」
小林「だ、だめだよ!殺しちゃ!」
善子「なんで庇うのよ、小林」
善子「あんちゃんは小林を殺そうとしてたのよ?」
小林「でも、最後は助けてくれたし……」
善子「あれは相手のせいよ」
小林「で、でも……」
善子「いいから、おとなしくしてなさい、小林」
善子「私とあんちゃん、どっちが大切なの?」
小林「…………っ」 かつん、かつん、と乾いた音を立てながら、善子は杏樹に向かって足を進める。
その近づいてくる足音は、嫌という程明確に降幡の耳に入ってきた。
降幡は善子と杏樹のちょうど中間におり、善子は必ず降幡の横を通過する。
そして、通過してしまえば、杏樹は殺されてしまうということを、降幡は先程の会話から理解してしまっていた。
善子から放たれる明確な殺意が、今度こそ自分に降りかかるかもしれない。
そんな考えに支配された体は、立ち上がれという脳の命令を無視するのだ。
自分が立ち塞がったところで無意味という気持ちと、杏樹を守りたいという気持ち。
その二つが、降幡の脳内を駆け巡っていた。
例え勝てなくても、隙を見つけて杏樹を連れて逃げることができるかもしれない。
それなら、やるしかないと。
善子「もし立ち上がれば、殺すわよ」 冷や水を浴びせられたかのように、高まっていた鼓動が急速に静かになっていく。
喉元に鋭利な刃物を突きつけられた感覚。
力の差は歴然であり、そもそも隙を見つけて逃げるということすら不可能なのだ。
つまり、降幡がここで立ち上がるのは、完全な犬死に。
杏樹が一人死ぬか、そこに降幡が加わるか、その違いでしかない。
降幡「ちく、しょう……」
降幡は自分を呪った。こんなにも弱い自分を。
こんな時でも、自分の身を考えてしまう自分の弱さを。 降幡「私は、誰も、守れないのかよ」
みんなと旅をしていても、これといった活躍が出来ない。
みんなは自分より遥かに強い力を持っており、最終決戦でも、本当は自分はいらないんじゃないかと思っていた。
降幡「ちき、しょ、う」
力は無くとも、自分の信念だけは曲げないでいようと思った。
仲間のことを思い、助けて合う。
だが、死の危険に直面した今、それすらもやり遂げられないことに気付いた。
目の奥から少しずつ湧き出る涙。
悔しさと情け無さに支配された降幡は、ただただ冷たい床の感触を感じていた。
降幡「なんで……私は……こんなに……情け……ないんだよ……」
『情けなくなんかないよ』
降幡「え……?」
その声を降幡は聞いたことがあった。
元の世界にいた頃、一番身近にいたと言ってもいい、聞き間違えるはずのない声。
『あいちゃんは、本当は怖がりさんなのは知ってるよ』
『でも、今はこうして……大切なみんなのために、勇気を出そうとしてる』
『勇気が足りないなら、背中くらい、押させて欲しいな』
『善子ちゃんに負けないくらい、側にいるんだもん』
『だから、もう少しだけ』
ルビィ『がんばルビィ、だよ』 自分の声とそっくりな声がいきなり聞こえたらちょっと怖い 花丸『そんなところで寝てないで、さっさと起きるずら』
高槻「……うるせぇ。ぶっ殺すぞ」
花丸『そんなこと言って、本当はマルのことが好きなのバレバレずら』
高槻「ちっ……」
花丸『……だから、早く立ち上がるずら』
花丸『マルも、きんちゃんのことがだーい好き、なんだから』 果南『これはこっぴどくやられたねぇ』
すわわ「うむ」
果南『やれやれ、素直じゃないんだから』
果南『でもまあ、だから私たちは似てるのかもしれないね』
すわわ「うむ」
果南『いつまでも倒れてないで、もう一度立ち上がるよ』
果南『力が出ない?仕方ないなぁ』
果南『じゃあ、ハグしよ?』 ダイヤ『大丈夫、なんて聞くだけ野暮という物ですね』
小宮「……情けないところ、見られてしまいましたね」
ダイヤ『何処が情けないのですか?』
ダイヤ『私の目には、仲間を助けるカッコいい姿しか写っていませんけど』
ダイヤ『ほら、シャキッとしてください』
ダイヤ『こんなところで負けるなんて、ぶっぶーですわ』 鞠莉『チャオ!マリーも応援に来たわよ』
愛奈「……夢?」
鞠莉『残念ながら夢じゃないわ。ここでみんなが負ければ、永遠に元の世界に帰れなくなる』
鞠莉『辛かったわよね。あいにゃは心の優しい人なんだから、戦うのだって、本当は嫌なんだよね』
鞠莉『でも、もう少し頑張ってほしい』
鞠莉『私も、もう一度会いたいから』
鞠莉『大丈夫、ちゃんと隣にいるよ』
鞠莉『この手、握っててあげる』 梨子『みんなは凄いな、こういう時、すっと言葉が出てきて』
梨子『私は口下手だから、気持ちを伝えることしかできないの』
梨子『私は、梨香子ちゃんのことが大好きだよ』
梨香子「…………」
梨子『本当は怖がりなところも、私にそっくりで』
梨子『なんて、こんなこと言ったら怒らせちゃうかな』
梨子『文句があるなら、元の世界にちゃんと戻ってきてから聞かせてね』 曜『元気、じゃないよね』
朱夏「曜、ちゃん?」
曜『うん、そうだよ。まだ頑張れそう?』
朱夏「……無理、だよ」
曜『無理なんかじゃないよ』
曜『だって、朱夏ちゃんは本当はなんでもできる力を持ってるんだもん』
曜『自信が無いなら、私が保証してあげる』
曜『だからもう一度、頑張ろう』
曜『ほら』
曜『全速前進、ヨーソロー!』 千歌『私ね、不思議だったんだ』
千歌『Aqoursは9人。だけど、側でいつも見守って、一緒に歌ってくれる人がいるような、そんな気がしてた』
千歌『その人は、何の取り柄もない、ただの普通怪獣な私を、最初から最後まで、ずっと見守って、側にいてくれた』
千歌『ねぇ、杏樹ちゃん』
千歌『私はね、ちゃんと自分の輝きを見つけたよ』
千歌『何もかも一歩一歩、私たちの過ごした時間の全てが輝きだったんだ』
千歌『その輝きの中には、杏樹ちゃんも入ってるんだよ』
杏樹「…………」
千歌『大丈夫、最後まで私は杏樹ちゃんと一緒にいるから』
千歌『だから、一緒に輝こう!』 善子「なんでよ」
善子「なんで……なんで、邪魔するのよ!」
善子「もう少しで、私と小林は結ばれるのに」
善子「それなのに……なんでみんな邪魔するのよ!」
小林「みんな、ヨハちゃんにこれ以上悪い子になってほしくないんだよ」
善子「え……?」
小林「ヨハちゃんの気持ち、私は嬉しいよ」
小林「でも、やっぱり、そのためにみんなを傷付けるなんて間違ってる」
善子「な、何言ってるのよ、小林」
善子「小林は私の味方でしょう?」
善子「早くこっちに来てよ……一緒にみんなを倒し……」
小林「……ごめん、ヨハちゃん」 善子「……嘘」
善子「嘘でしょ……嘘に決まってる……」
善子「だって、小林が、私のこと、見捨てるわけ……」
小林「…………」
善子「…………っ」ギリッ
善子「もう、いいわ」
善子「みんな、嫌いよ」
善子「小林も、Aqoursのみんなも、みんな、みんな!」
小林「ヨハちゃん、お願い、話を聞いて」
善子「うるさい、裏切り者!」
善子「あんたなんか……あんたなんか、死んじゃえばいいのよ!」 善子「【煉獄の焔】!」
闇の焔が地面を走り、空気を侵食しながら小林へと迫る。
降幡「させるかよっ!《流星》!」
降幡が振るった刃から出た光の斬撃が、雨のように降り注ぎ、闇の焔を掻き消していく。
相殺されると思っていなかった善子は、思わず息を飲んでしまう。
降幡「いくぞっ!」
善子「来られるものなら……来てみなさい!」
善子「【堕天・闇宝珠】」
愛奈「『光は闇を照らすもの。皆を守る盾となれ』」 巨大な重力を纏った闇が頭上に出現すれば、それを受け止める光の盾が現れる。
壁ごと飲み込むその闇は、光を飲み込むことはできず、消滅した。
降幡「でりゃぁっ!」
善子「っ……舐めるな!」
正面から突撃をする降幡に、善子が禍々しく光る剣を振り下ろす。
それはもはや加減のない一撃であり、当たれば即死するものだ。
しかし、その金属と金属のぶつかる音がし、その刃は弾かれた。
高槻「はっ!こんな軽い攻撃で調子に乗ってんじゃねーぞ!」
善子「っ……!」
降幡「もらった!」
高槻が剣を防いだことによってできた隙を見逃さず、降幡は善子の右手を掠めるように剣を振るう。
咄嗟に魔力で覆った右手であったが、それを感じさせないほど鮮やかに、真っ赤な鮮血が空を舞った。 善子「なっ!?」
それは善子からすればあり得ないことであった。
自身の防御力を貫く物があるなど、この世界ではあってはならないことなのだから。
小宮「戦闘中に気を抜くのは感心しませんわね」
善子「っ!」
振るわれた鉄扇を、自身を覆うように展開した翼で防御する。
小宮「今です!」
すわわ「うむ」
きん、と乾いた音。日本刀により放たれた一閃は、漆黒の翼を中程から刈り取り、善子の防御に穴が出来上がる。
小宮「そこっ!」
その隙に鉄扇を叩き込み、善子は強い衝撃を受けて地面を転がった。 善子「はぁ……はぁ……」
梨香子「聞こえたよ、みんなの声が」
梨香子「善子ちゃんを止めて欲しいって」
善子「くっ!」
咄嗟に手を前に出し、障壁を作ると同時に巨大な衝撃が、障壁を襲う。
バキバキバキ、と透明な空間にヒビが入り、善子の障壁は粉々に砕け散った。
善子「距離を……!」
朱夏「ごめん、取らせないよ」
一瞬で距離を詰めた朱夏は、善子の持っていた剣を跳ね飛ばし、善子の腕を掴んで空中へと投げ飛ばした。 善子「もう少し、だったのに」
善子「なんで、こんな!」
杏樹「やり方を間違えた」
杏樹「ただそれだけだよ」
善子「っ、うるさい!私は間違ってない!私は……私は!」
善子「【堕天使の弾丸雨】!」
杏樹「『烈火閃光】」
善子の周囲に展開された闇の弾丸が、無数の星となって杏樹へと降り注ぐ。
杏樹はそれに対し眉を動かすことすらしない。
杏樹の周囲で燃え上がる炎から打ち出された無数の光が、全ての闇を蹴散らし、善子へと襲いかかる。 善子「っ、ぐっ、ぁぁぁっっ!!」
空中で翼を焼かれた善子は、飛ぶことができず、そのまま地面へと落下をする。
その善子の目に写ったのは、自分のことを真っ直ぐに見つめる小林の姿。
善子「……いいわ、来なさい、小林!」
二人の周囲を取り巻く空気が歪み、震え上がる。
何者も干渉できない二人だけの世界。その一瞬の、心が触れ合ったような感覚に、二人の意識が研ぎ澄まされた。
小林・善子「「【堕天使の杭】!!」」
頭上から出現した巨大な杭が、空中でぶつかり合う。
お互いの想いをぶつけるように重なり合ったそれは、やがて均衡状態を抜け出した。
善子「……やれば、できるじゃない」
漆黒の杭はもう片方を打ち破り、その勢いのまま轟音と共に善子の体を地面へと突き立てた。 小林「ヨハちゃん!ヨハちゃん!しっかりして!」
善子が目を覚ますと、必死に善子の名を呼び続ける小林の姿が見に入った。
善子「……そう、負けたのね、私は」
小林「ヨハちゃん……ごめんね」
善子「なんで小林が謝るのよ」
小林「だって、私、ヨハちゃんのこと……」
善子「……気にしてないって言えば嘘になるわ」
善子「でも、小林の選択は正解だった」
善子「力に溺れて、何にも見えてなかった」
善子「全く……最低ね、私は」
小林「そんなことないよ」
小林「だって、ヨハちゃんは私と一緒にいたいから、こうしてみんなと戦ったんだよね」
小林「本当はダメなんだと思うけど、私は嬉しかったよ」
善子「……全く、バカなんだから、小林は」 善子「もう少し話していたいけど、あんまり待ってはくれなそうね」
杏樹「…………」
善子「小林、悪いけど、そこの短剣取ってくれる?」
小林「別にいいけど、何に使うの?」
善子「いいから。……ん、ありがとう」
その短剣を見て、善子はにっこりと微笑んだ。
それは何かを諦めたような、儚い笑顔。
ぐちゃり。
響き渡る誰かの悲鳴。
小林が止める間もなく、善子はその短剣を自分の胸へと突き刺した。 小林「ヨハちゃん!?なんで!?どうして!?」
小林「あんちゃん!回復魔法!お願い!」
善子「……無駄よ。心臓を潰したわ」
善子「これでもう、私は助からない」
小林「なんで、こんなこと」
善子「元の世界に戻る方法は、私が死ぬこと」
善子「それを知ったら、小林は止めるでしょ?」
小林「だから、言わなかったの?」
善子「ええ、そうよ」
小林「っ……いやだ」
小林「いやだよ、こんな、お別れなんて」 善子「……何泣いてるのよ、小林」
善子「私がいなくなったら、慰めてくれる人なんていないわよ」
小林「いやだよ……そんなこと、言わないでよ」
小林「私、ダメなんだよ。ヨハちゃんがいないと、なんにも、できないんだよ」
小林「バカだから、一人じゃなんにも、できない」
小林「お願い……一人に、しないで」
善子「……小林は、一人じゃないでしょ」
善子「大切な仲間が、いるじゃない」
小林「っ、でも!ヨハちゃんが……ヨハちゃんが、いてくれないと……!」
善子「……全く、小林は仕方ないんだから」 善子「ねぇ、最後に、お願いを聞いてくれる?」
小林「何……?」
善子「……キス、しなさいよ」
小林「キス……」
善子「せっかく小林に会えたんだもの、ファーストキス、私に差し出しなさい」
善子「私のファーストキスも、あげるから」
小林「……うん」
善子「……全く、酷い顔ね」
善子「こういう時くらい、笑ってしなさいよ」
小林「っ……ぅ、うん、」
泣きながら唇を触れ合わせる小林とは対照的に、善子は穏やかに笑い、その感触を味わった。
それがもう、二度と感じることのできないものだと知っていたから。 小林「っ!?ヨハちゃん!?ヨハちゃん!!」
小さな光が、徐々に大きくなって善子を包み込んで行く。
善子「お別れ、ね」
小林「いやだ、いやだ!」
小林「魂でも、なんでもあげるから、」
小林「側に……いてよ……ヨハちゃん……!」
善子「……大丈夫」
善子「小林が私のことを大切に想ってくれてる間は、私はずっと小林の側にいるから」
小林「……っ、ほん、とう?」
善子「……ええ、本当よ」
善子「だから……泣かないで、頑張りなさい」
善子「今まで、ありがとうね」
善子「……大好きよ、小林」
光は善子を、小林を、そして世界中を包み込んだ。 〜
小林「よーし、お仕事終わったー!」
小林「急いで帰らないと!」
元の世界に戻ると、小林達は来た時と同じ場所にいた。
どうやら時間は経っておらず、あの時の記憶を持ったまま帰ってきたらしい。
小林「ん?あそこにいるのは……りきゃことあいにゃ?」
小林「おーい!二人ともー!」
愛奈「あいきゃん!今帰りなの?」
梨香子「なんかきたw」 小林「そうだけど、二人はどうしたの?」
梨香子「買い物w」
愛奈「りきゃこが新しい服買いたいって言うから付いてきたの」
小林「あいにゃは買わなくていいの?」
梨香子「私のあげるからいいよw」
小林「ほえー、それでいいんだ」
愛奈「うん……貰えるの、嬉しいから」
梨香子「一番高いのあげるからw」
愛奈「あんまり気を使わなくていいんだよ?」
愛奈「それとも、あっちで言ったこと……気にしてる?」
梨香子「してないしw」
梨香子「次向こう見に行くぞw」
愛奈「うん。またね、あいきゃん」
小林「またねー」 〜
小林「仲直りしてて良かったー」
小林「って次のところ向かわないと……ん?」
杏樹「なんで私と朱夏のデート場所に女狐がいるのかな?」
由佳「朱夏が予定入ってるなんて言うから様子を見に来たらクソ女に誑かされてたなんて笑えないですね」
朱夏「……あ、あのさ、二人とも、一旦落ち着こう?」
杏樹「朱夏はどっちとデートしたいの?」
由佳「もちろん私だよね?」
朱夏「いや、なんていうか……あ!あいきゃん!おーい!」
小林「え?」 杏樹「まさかあいきゃんもしゅかを狙いに?」
由佳「もう一人抹殺対象が増えましたね」
小林「うぇっ!?わ、私は違うって!」
杏樹「もういい。今日こそしゅかのファーストキスを貰うから」
朱夏「いや、私初めてじゃないし」
杏樹「え?どこの誰!?」
杏樹「見つけ出して絶対抹殺しないと!」
朱夏「……うるさい。自殺でもしてろ、ばか」ボソッ
杏樹「え?何か言った?」
朱夏「なんでもない!もういいから、三人で出かけるよ!」
朱夏「喧嘩は禁止だからね!」
杏樹「はーい」
由佳「しゅかが言うなら」
小林「しゅかも大変だねー」 〜
小林「うわ、凄い人だかり!」
小林「急いでるのに何してるんだろう」
小林「ん?」
「握手して下さい!」
「私も!」
「きゃー!触っちゃった!」
すわわ「うむ」
有紗「zzz」
小林「あれ、すわわとありしゃだ」 すわわ「うむ」
有紗「zzz」
小林「うーん、遊んでたらみんなに見つかった感じ?」
すわわ「うむ」
小林「大変だねー、二人とも」
「あ!あいきゃんだ!」
「握手して下さい!」
小林「え……どうしよう、時間……」
有紗「ここは私たちに任せて、行きなさい」
すわわ「有紗は寝てていいよ」
有紗「zzz」
小林「えーと……ごめん!お願い!」
すわわ「うむ」 〜
小林「急げー!」
降幡「あれ、あいきゃんじゃん」
高槻「何してんだよ」
小林「二人こそ何してるの?」
降幡「買い物に来てるんだよ」
降幡「大好きな子のために本読むとか言い出した奴がいてよ」
高槻「はぁ〜?そんなこと言ってませんけど〜?」
小林「いいじゃん、読者!」 高槻「それより、あいきゃんはなんで急いでんだよ」
小林「え、あ、そうだった!」
小林「早く家に帰らないといけないの!」
降幡「何かあるのか?」
小林「そうじゃないけど……さよなら!」
高槻「あ、おい……全く、なんだってんだ」
降幡「まあ、でもあれだろ」
高槻「うん、多分あれだろうな」 〜
小林「はぁ、はぁ、あと、少し、」
旅をして、分かったことがある。
世界中にはいろんな人がいて、みんなが支え合って生きてるってこと。
小林「到着……っと!」
誰かを大切に想う気持ちは、何処に行っても変わらない。
想いが通じていれば、なんだってできる、勇気に変わるんだ。
小林「ただいまー!」
ううん、勇気だけじゃない。
想いを重ねれば、奇跡だって、なんだって、起こせるんだから。
小林「待たせてごめんね」
「全く、そんなに慌てなくても大丈夫なのに」
善子「おかえりなさい、小林」
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