小林「異世界召喚?」
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もしここにふりりんがいれば罠を警戒したのであろうが、二人は特に警戒することなく愛奈の後をついていった。
三十分程歩いた頃だろうか、森の中をひたすら進んでいくと、集落が見えてきた。
小林「村だよ、ヨハちゃん!」
善子『言わなくても分かるわよ、小林』
小林「何か美味しい食べ物あるかな?」
小林「ヨハちゃんは何が食べたい?」
善子『久しぶりにチョコレートが食べたいかも』
朱夏「そんな話ししてる場合じゃないから」
小林「どうしたの?」
朱夏「ここは魔族の村でしょ?」
朱夏「みんな襲い掛かってくるんじゃない?」
愛奈「そんなことしない」
愛奈「魔族のみんなは、とてもいい人ばっかりよ」 朱夏「そんなこと言われてもなー」
愛奈「……それを分かって欲しいから、二人を連れてきたの」
小林「この村に?」
愛奈「うん」
愛奈についていく形で、二人は一軒の民家へと辿り着いた。
年季が入っているのか、見た目はお世辞にも綺麗だとは言えず、ところどころ変色した箇所が見つかる。
だが、家自体の雰囲気とは正反対に、中からは元気な声が溢れていた。
愛奈「ただ今、みんな」
「にゃーねーちゃんだー!」
「おかえりなさい!」
「お土産はなにー?」
家の扉を開けると、子供たちが我先にと愛奈の側に駆け寄ってくる。
「……あれ、この人たちは?」
「ひっ!に、人間……!」 愛奈「大丈夫。悪い人たちじゃないから」
善子『小林、こういう時は場を和ませる何かをするのよ!』
小林「ギランっ!リトルデーモンがこの禁じられた世界に舞い降りてきたわよ」
善子『微妙ね』
小林「ヨハちゃんが辛口だー……」
「一人で誰かと会話してる!」
「やっぱり人間って怖い!」
愛奈「みんな、落ち着いて」
愛奈「私はこの二人と話があるから、部屋に戻って」
「「「「はーい」」」」 朱夏「この子達は?」
愛奈「孤児よ」
愛奈「人間に、親を殺されたの」
小林「戦争してるんなら仕方ないんじゃないのかな?」
小林「兵士になったら死んじゃう可能性だってあるんだし」
善子『そういう問題じゃないわよ、小林』
小林「どういうこと?」
愛奈「……人間が、村を襲ったの」
愛奈「村に火を付けられて、略奪が始まった」
愛奈「抵抗した人は全員殺された」
愛奈「女性は酷い目にあわされた」
愛奈「だから……だから……私は……!」 朱夏「それで、人間を恨んでるんだ」
愛奈「そう。人間は、この世界にいてはいけない」
愛奈「だからお願い。もう何もしないで」
小林「無理だよ!だって、もうすぐ元の世界に帰れるんだもん!」
愛奈「元の世界に……?」
小林「うん!魔王を倒すとね、元の世界に帰れるってヨハちゃんが言ってたもん!」
小林「だからさ、あいにゃも一緒に帰ろう?」
愛奈「……無理よ」
小林「なんで?あいにゃも帰りたいでしょ?」
愛奈「人間を滅ぼすまでは帰れない」
愛奈「この村のみんなのためにも」
小林「あいにゃ……」 善子『説得は無理そうね』
善子『帰るわよ、小林』
小林「うん。じゃあ帰ろうか、しゅか」
朱夏「え、待って、ここそういう流れじゃなくない?」
小林「ん?」
朱夏「あれ、話終わったっけ?」
愛奈「待って。もうこの戦いに参加しないって誓って」
朱夏「それは無理だよ。もうここまで来たんだから」
愛奈「……私は、みんなと戦いたくない」
愛奈「お願い。引き返して。魔王城には、絶対来ないで」 愛奈のお願いを聞きながら、二人は村を出た。
元の見張りの位置に行くと、ふりりんと高槻が見張りをしているのに気付く。
小林「あれ、あいあいとかなこだ」
降幡「あ、てめ!見張りサボってどこ行ってやがった!」
小林「なんか魔族の村に行ったよー」
降幡「はぁ!?」
小林「じゃあ後よろしくねー」
小林「いこ、ヨハちゃん」
善子『そうね』
降幡「あ、おい!待ちやがれ!」
降幡「ったくよー」 小林「んー、今日も疲れたー!」
小林「ヨハちゃん、一緒に寝よ」
善子『当たり前よ』
善子『といっても、一人につきテント1つだから一緒に寝る以外の選択肢はないわ』
小林「そうだね!ヨハちゃんかしこーーっ!?」
テントの前、扉を開けようとすると、急に中から手が飛び出し、小林の首を絞め上げた。
小林「がっ、っ、ぃ、」
杏樹「おかえり、あいきゃん」
杏樹「こんな時間まで、何処で、なにしてたのかな?」
小林「っ、ぁ、っ、っ、」
杏樹「しゅかと一緒に、なにしてたの?」
杏樹「何処に行ってたの?」
杏樹「私のしゅかと一緒にさ」
小林「っ……ぅ……!」
杏樹「さようなら、あいきゃーー」ピクッ
杏樹「ん?しゅかが呼んでる?」パッ
小林「っ、げほっ、げほっ!」ドサッ
杏樹「しゅか〜!今いくよ〜!」
小林「はぁ……はぁ……」
小林「……え、何だったの、今の」 それ以降、特に変なことがおきることもなく日が明けた。
朝、昼は森の中を進み、夜は野宿をする。
魔王城までの道のりは通常であれば厳しいものであるのだが、全員が危機感を持つような事態にはならなかった。
小林「ここが魔王城かー」
小林「ねーねー!写真撮ろう!」
善子『スマホがないわよ、小林』
小林「えー!」
降幡「うるせーよ!やっとここまで来たんだ、静かにしとけ」
降幡「あいにゃのことも気掛かりだし、気を引き締めていくぞ」
杏樹「そうだね。しゅかは私の側から離れないように」
朱夏「引っ付かないでいいから」
杏樹「一生隣にいてね」
朱夏「だから今じゃないでしょ」
すわわ「うむ」
小宮「zzz」
高槻「あー、だりー」
梨香子「優勝w」
降幡「まじで大丈夫なのか……」 敵に遭遇することなく、小林達は城の中へと入っていく。
それは通常であれば不自然なことであろうが、大体の者が何も考えておらず、特にそれが話題となることはない。
小林「あれ、分かれ道だ」
降幡「どっちに進む?」
朱夏「二手に分かれて両方行けばいいんじゃない?」
杏樹「うん、そうしよう」
すわわ「うむ」
高槻「メンバーはどうすんだよ」
杏樹「しゅかと一緒だったら別にいいよ」
杏樹「梨子ちゃんと……あいきゃんかな」
梨香子「おけw」
小林「はーい」
小林「ヨハちゃん!頑張ろう!」
善子『そうね』
小林「どっちに行った方がいいのかな?」
善子『こういう時は右に行くのよ』
小林「右ね!流石ヨハちゃん!」 小林達は二手に分かれ、魔王城を進むことにした。
高槻「おい」
降幡「ん?」
高槻「このメンバーで大丈夫なのか」
降幡「別に大丈夫だろ」
高槻「半分くらい意思疎通できるか怪しいのにか?」
すわわ「ふんふん」
小宮「zzz」
降幡「……なんとかなるだろ」
降幡「お、なんか見えて来た」
高槻「あそこにいるのは……」
愛奈「…………」 四人が辿り着いたのは、大きく開けた空間であった。
その真ん中には愛奈が立っており、その向こう側に先へ進む扉が置かれている。
愛奈「結局、来ちゃったんだ」
降幡「あいにゃ、あいきゃんから話は聞いた」
降幡「辛いことがあったってのは分かった」
降幡「でも、こんなことしても意味ないだろ?」
降幡「みんなで一緒に帰ろうぜ」
愛奈「……できないよ」
愛奈「人間を滅ぼした後じゃないと、みんなが安心して暮らせない」
愛奈「なるべく、殺さないようにするから」
降幡「くそっ!やるしかねぇのか!」 ポンポン
降幡「ん?なんだ?」
すわわ「ん」
剣を構えたふりりんが、肩を叩かれて振り返ると、扉を指差しているすわわの姿が目に入った。
降幡「行けっていうのか?」
すわわ「うむ」
高槻「私も一緒に?」
すわわ「うむ」
小宮「ここは私たちが相手をします」
すわわ「ありさは寝てていいよ」
小宮「zzz」
降幡「……分かった」
高槻「じゃあ任せるわ」 愛奈「『光は鞭となり敵を排除する』」
愛奈の言葉に連動するように、数本の光の鞭が四人を目掛けて振るわれる。
常人の目では追うこともできないであろうそれは、誰にも当たることなく両断された。
すわわ「うむ」
降幡「この隙に行くぞ!」
高槻「分かってるよ」
愛奈「させない!」
さらに現れた数本の鞭が鋭い音を立ててふりりんへと迫るが、それも届くことはなかった。
キン、と渇いた金属音が鳴るのと同時に、鞭は切断されて霧散してしまう。
愛奈「……っ」
降幡「後は任せたぞ!」
ふりりんと高槻が先へと進み、三年生組だけがこの場に残った。 〜
小林「凄いよヨハちゃん!お城の中にこんな広いところがあるんだ!」
善子『油断したらダメよ、小林』
杏樹「おかしい」
朱夏「何が?」
杏樹「敵の本拠地なのに、今まで何とも遭遇してない」
小林「そっちの方が楽だしいいんじゃない?」
梨香子「楽勝w」
善子『そういうことじゃないのよ、小林』
善子『罠か……もしくは、誰か強い人が待ち構えてるのかもしれないわ』
小林「そうなの!?」
杏樹「……出てきなよ」
小林「え?」
杏樹「そこにいるのは分かってるんだから」 ???「あーあ、気付かれちゃった」
???「やっぱり女狐は鼻が利くんですね」
朱夏「え……?」
杏樹「……」
???「久し振りだね、しゅか」
???「会えるのを凄く楽しみにしてたよ」
朱夏「由佳?なんでここに?」
由佳「そんなの、朱夏がいるからに決まってるでしょ?」
朱夏「いや、決まってはないかな」
由佳「照れなくてもいいよ」
由佳「この世界で、二人でずっと生きて行こう」
由佳「大丈夫。邪魔なやつらはみんな……殺してあげるから!」
杏樹「ちっ!」 突如として現れた巨大な魔槍が、杏樹を目掛けて物凄い速度で投擲される。
即座に反応した杏樹は障壁を展開し、槍を受け止めた。
由佳「へぇ、反応できるんだ……と!」
飛び退いた由佳の足元から氷の槍が無数に伸び出る。
もしもその場にいれば串刺しになっていたであろうが、由佳はそれを笑いながら軽く躱してみせた。
杏樹「しゅかに付き纏うストーカーはここで抹殺してあげる」
由佳「ストーカーはそっちじゃないですか?」
由佳「しゅかに近付いていたのは私だけですから」
小林「しゅかは人気なんだねー」
善子『呑気なこと言ってる場合じゃないわよ、小林』
善子『ここはあんちゃんに任せて、先に進んだ方がいいわ』
小林「うん!」
由佳「……ああ、何処かで見たと思ったら、地元愛の」
小林「え?」
由佳「貴女も、ここで死んでくださいね」 じゃらららと冷たい金属音が鳴り、小林の足が地面へと繋ぎとめられる。
小林「『だ、堕天ーー』」
由佳「残念、遅すぎます」
突如出現した無数の黒槍が、風を切りながら小林へと迫る。
小林「っ、!」
善子『小林!逃げなさーー』
小林は逃げることも出来ず、ただ呆然とその光景を眺めていた。
魔法も間に合わず、回避をすることもできない絶対絶命の状態に、思わず目を瞑ってしまう。
しかし、覚悟していたはずの衝撃は小林へと襲い掛かってこなかった。 小林「あれ……?」
小林が目を開けると、そこには見慣れた背中……杏樹の背中があった。
杏樹の展開した魔法障壁が、あいきゃんを無数の黒槍から守ったのだ。
小林「あ、ありがとう、あんちゃ……」
しかし、小林の言葉はそこで止まってしまう。
ぼたぼたと真っ赤な血が杏樹の腕を伝い、地面を濡らしていく。
杏樹の障壁は確かに由佳の攻撃を防いだのだが、突然のことに展開が遅れ、最初の一本目が杏樹の左腕を貫いたのだ。
その軌道は小林へと向いており、もしも杏樹が庇わなければ、小林の命は無かったかもしれない。
小林「な、なんで……?」
小林「あんちゃんは、私を殺そうとしてた、よね?」
小林「なのに、なんで守ってくれるの?」 杏樹「……別に、あの女の思い通りになるのが許せないだけ」
杏樹「それに……あいきゃんが死んだら、しゅかが悲しむでしょ」
小林「あんちゃん……」
杏樹「先に行って、こいつは私が殺すから」
由佳「あはは、物騒ですね」
由佳「左手がそんな状態なのに、できるんですか?」
杏樹「ちょうどいいハンデでしょ」
由佳「その強気な発言、いつまでできますかね?」
善子『小林、先に行くわよ』
小林「で、でも」
善子『ここにいても、あんちゃんの足を引っ張るだけよ』
小林「……うん」
小林「りきゃこ、行くよ」
梨香子「はいはいw」 〜
魔王「よくぞここまで辿り着いたな」
魔王「だが、貴様らはここで終わりだ!」
降幡「いや、誰だよこいつ!」
高槻「知らねーよ、魔王だろ」
降幡「こういう時って知ってる奴が出てくるんじゃねーのかよ!」
高槻「知るかよ、ゲームじゃあるまいし」
魔王「もう少しで儀式は完成する」
魔王「邪魔はさせんぞ!」
高槻「うっせーな、何が儀式だ」
降幡「あっちの連中はまだ来ないのか」
高槻「みたいだな……いや」
小林「あいあい!かなこ!」 降幡「あいきゃん!」
高槻「おせーよ」
小林「お待たせ!」
小林「あれが魔王なんだね」
善子『ええ、そうよ』
小林「よーし、五人で力を合わせて倒そう!」
高槻「三人しかいねーだろぼけ」
小林「え?」
小林「あれ?りきゃこは!?」
降幡「知るか!」
善子『遊んでる暇はないわよ』
善子『敵は強いわ。気をつけるのよ、小林』
小林「うん!」
降幡「よし、やるぞ!」
高槻「やってやんよ、面倒だけど」 みんな名前漢字なのに一人だけすわわなのがじわじわくる 〜
愛奈「邪魔、するんだね」
すわわ「うむ」
愛奈「なんで?私が間違ってるっていうの?」
すわわ「うむ」
愛奈「魔族のみんなを救うために人間を滅亡させることが、そんなにいけないことなの?」
すわわ「うむ」
愛奈「……分かった」
愛奈「すわわにも、ちょっとだけ痛い目にあってもらう」
愛奈「本気で、行くからね」
すわわ「うむ」 愛奈「『光の矢は高速に飛び敵を貫く』」
矢を象った光の粒子が愛奈の後方から放たれる。
すわわは刀を携えた右腕を鞭のようにしならせ、矢継ぎ早に矢を切り落とし、愛奈へと向かって駆ける。
すわわの狙いは近接戦への移行であり、その狙いに気付いた愛奈は矢の本数を増やすがすわわの歩みを止めることはできない。
愛奈「っ……『光を集めて剣と為せ』」
愛奈が剣を構えたのを見て、すわわは片手で持っていた刀を両手で握り、正面に構えたまま足の速度を速めた。
上段の構えからの強力な振り下ろしと同時の踏み込み。その衝撃により愛奈を中心に床が蜘蛛の巣状に割れるが、それを愛奈はしっかりと受け止めていた。
愛奈「やぁっ!」
剣を弾き返され、体勢を崩したすわわへと斜め方向からの袈裟斬りを放つ。
当たれば致命傷となるであろう剣が、すわわに届くことはなかった。 愛奈「っ!?」
唐突に愛奈の右腕に走る激痛。それと同時に右腕の感覚が全て無くなり、刀が勝手に手から離れてしまったのだ。
愛奈「な、なんで……」
すわわ「ん」
それはすわわが何かをしたことが明白であり、一度距離を取ろうと思考したその一瞬の隙に、すわわが愛奈との距離を詰める。
愛奈「っ!」
咄嗟に左足に力を込め地面を蹴ろうとしたが、また激痛が走るのと同時に力が抜け、そのまま尻餅を付いてしまう。
愛奈「……これが、すわわの力なんだね」
すわわ「うむ」
愛奈「右手と左足……全く感覚がない」
愛奈「やっぱり、強いね」
すわわ「うむ」 すわわは不可視の刃を振り下ろし、相手の神経を斬ることができる。
射程範囲は刀をめいいっぱい伸ばした程ではあり、本当に斬るのではなく、実際には刃を通した先に痛みを与えるだけである。
しかし、その痛みのせいで脳が実際に切られたと認識してしまい、その先の感覚が全て失われてしまうのだ。
また、脳から切られた部分への信号も出なくなるため、自分の意思で動かすことができない。
愛奈「降参……しなさいって?」
すわわ「うむ」
愛奈「……それは、できない」
愛奈「こんなに強いなら、ここで倒しておかないといけないから」
すわわ「んあっ」
意識から外れていた、愛奈の左足による足払いにすわわが体勢を崩す。
すわわから見ればそれはありえないことであるが、愛奈はその隙に立ち上がると、すわわと逆方向へ走っていったのだ。 愛奈「ごめん……もう、手加減してる余裕、ない」
愛奈「『それは牢獄、嘘偽りを全て暴き、裁く者』」
すわわ「ん」
空中に、地面に、壁に、この空間のあらゆる場所に、大小さまざな鏡が出現した。
それは一見すればただ鏡を出しただけのことであり、特に情勢に影響はないように見えるが、すわわはこの技がどれだけ強大であるかを一瞬のうちに判断した。
小宮「まずいですね」
すわわ「うむ」
小宮「加勢しますけど、いいですよね?」
すわわ「うむ」
愛奈「有紗……」 小宮「酷い顔ですね」
愛奈「っ、それが、どうしたの」
小宮「愛奈は笑ってた方がいいと思っただけですよ」
愛奈「……笑い方なんて、忘れた」
梨香子?「じゃあ思い出させてあげるw」
愛奈「え、りきゃーー」
ずがん、と巨大な音と共に愛奈が吹き飛ばされ、地面を転がっていく。
完全な無防備を狙われた愛奈は受け身もとることができず、それを好機と梨香子ーーに変身した小宮が一気に距離を詰めた。
梨香子?「逢田さんぱーんちw」
起き上がろうとしている愛奈へと襲いかかる無慈悲な右ストレート。しかし、その手は愛奈に受け止められ、そのまま体を捻るように力を込められる。
梨香子?「え?w」
空中で一回転し、地面に転がった小宮へと右足が振り下ろされ、間一髪で首を振って躱す。
次の一手の前にすわわが駆けつけ、愛奈は大きく距離を取った。 小宮「不意打ち作戦は失敗ですね」
小宮は他人に変身し、その能力を真似ることができる。
梨香子へと変身し愛奈の隙を作ったところに攻撃を叩き込み、一気に決める作戦であったが、愛奈の立て直しが予想よりも早く、上手く決まらなかった。
愛奈「そうやって、騙すんだよね、人間って」
小宮「これは勝負ですから」
愛奈「……そっか。じゃあ、争いのない世界を作ってあげないと」
愛奈「『集いて弾けろ、裁きの光』」
部屋の中央に出現した巨大な光が、全ての方向へと弾け飛んだ。
小さなレーザー光線のように襲いかかるそれらを、すわわは全て刀で弾き飛ばす。
しかし、それはただそれだけの攻撃ではない。
光は部屋中に出現した鏡から鏡へと乱反射を繰り返し、無数の光線となって全方位からすわわ、小宮へと襲いかかる。 何十、何百、何千、何万、無数の光が襲い掛かるのはほんの一瞬であり、時間にすれば一秒にも満たないであろう。
小宮「……だい、じょうぶ、ですか?」
すわわ「うむ」
いつもと変わらぬ口調、変わらぬ抑揚の返事。
しかし、刀を支えに立ち上がり、着物を血で濡らしている姿を見ればそれが強がりであることがわかるだろう。
小宮もまた、耐えることはできたものの、いくつかの光に肉を抉られ、全身から血を流している。
愛奈「降参して。さもないと……死ぬよ」
それは二人が聞いたことがないほど、冷たい声であった。
愛奈という少女は本来争いもできないほど優しい人であることを二人は知っていた。だからこそ、彼女が普通の状態でないと分かるのだ。
小宮「まだいけますね?」
すわわ「うむ」 愛奈「なにをしても無駄。私には勝てない」
愛奈?「えー?そんなことないわよぉ?」
愛奈「え?」
愛奈?「ふふ、ロック、オーン!」
愛奈「……私に化けたところで、何も変わらない」
愛奈?「すわわ……あのね……私、すわわと……したいな」
すわわ「うむ」
愛奈「っ……ふざけないで!」
愛奈「『集いて弾けろ、裁きの光』」
愛奈?「『集いて弾けろ、裁きの光』」
愛奈「え……?」 光と光がぶつかり合い、お互いに打ち消しあう。
それは愛奈の必殺技が、完全に防がれたことを意味する。
しかし、少なからずの動揺はあるものの、他の技は健在であり、愛奈に悲観の様子はない。
愛奈「それを防いだところで、勝てない」
愛奈?「……戦いたくない」
愛奈「……え?」
愛奈?「本当は、戦いたくなんてない」
愛奈?「みんなを傷付けるなんて、嫌」
愛奈?「でも、私がやらないと、あの子達を救えない」
愛奈?「私は、どうしたら、いいの?」
それはまるで愛奈自身の心を写したような姿であった。そして、それを一番感じるのは愛奈であり、それを振り切るために光の剣を構え、小宮へと迫る。 愛奈「やぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
しかし、その剣は小宮の剣により受け止められた。感情に任せた直情的な攻撃は軌道が読みやすく、簡単に受け止められるのだ。
愛奈?「どうしたらいいのか、分かんない」
愛奈?「魔族のみんなを助けるために、戦わないと」
愛奈?「でも、それでみんなを傷付けるのは、正しいことなの?」
愛奈「やめて……やめてよ!」
それは女優である小宮だからこそできることであった。
内面を理解し、それを全て「愛奈」という人物の心として演じる。
心に蓋をして選択肢から逃げた愛奈に、もう一度、その問いを突き付けたのだ。
愛奈は何がしたいのか、と。 愛奈「私は……私ッ!」
キン、と金属音が響き、愛奈の手から光の剣が弾け飛び、霧散する。
愛奈はその場から動くことをせず、また、反抗する様子もない。
ただ呆然ともう一人の自分と……そして、目の前で刀を構えているすわわへと視線を向ける。
それを見る愛奈の瞳に宿っていたのは、諦めと、そして救いであった。
死して幕を閉じれば、もう迷う必要はないからと、全てを受け入れるように目を閉じる。
しかし、覚悟したはずの痛みは何も襲ってこなかった。
代わりに、自分を抱きしめる温かい感触に、愛奈は気付く。
愛奈「すわ……わ?」
すわわ「うむ」
愛奈「慰めて、くれてるの?」
すわわ「うむ」
愛奈「っ……!」 愛奈「どうしたら、いいの」
愛奈「私は、どうしたら、いいの?」
愛奈「分からないよ、決められないよ」
愛奈「だって、みんな大切で、みんなに幸せになって欲しいんだもん!」
愛奈「それなのに、片方なんて、そんな、の、」
小宮「……馬鹿」
愛奈「っ……」
小宮「そういう時こそ、頼るのが仲間でしょう」
愛奈「ぅっ、っ、ぁ、」
小宮「一緒に考えてあげるから、全部吐き出しなさい」
小宮「大丈夫、ちゃんと受け止めてあげますから」
大切な人達に抱きしめられながら、愛奈は泣き噦り、心の本音を吐露した。 〜
朱夏「やめてよ二人とも!」
朱夏「戦う必要なんてないじゃん!」
由佳「ううん、これは必要なの」
由佳「私の思い描く世界に……そこの女は邪魔だから」
杏樹「そこだけは気が合うね」
杏樹「私も、邪魔者は葬りたいと思ってたんだ」
由佳「申し訳ないですけど、命乞いは聞きませんよ」
杏樹「するのはどっちだろうね」 話は終わりだと言わんばかりに、杏樹は両手を前に出し、前羽の構えを取る。
これは相手の攻撃に備える防御の構えであるが、左手の負傷、杏樹の魔法のことを考えればこれが最善であるだろう。
杏樹「『火球(ファイアーボール)』!」
巨大な火の玉が由佳を目掛けて真っ直ぐに放たれるが、由佳はたいした反応を見せることもなく槍で払ってみせた。
由佳「こんな魔法しか使えないんですか……っ!?」
由佳の言葉が驚きに彩られる。それも当然だろう、火の玉を払いのけたと思えば、その先に杏樹が迫っていたのだから。
杏樹「しっ!」
由佳が辛うじて体勢を逸らすことで、胸を抉り抜こうとした杏樹の四本貫手は肩を掠めるだけですんだが、肩の肉が抉られ、傷口から血が飛び散った。
由佳「小賢しい真似を!」
杏樹を突き放すために、右手で掴んでいた槍を薙ぎ払おうとした由佳は、がちゃりという金属音に気付く。 由佳「ちっ!」
杏樹の魔法により鎖に絡め取られた槍を捨て、すぐさま距離を取ろうとする由佳だが、杏樹を振り切る事ができない。
目を潰すよう放たれた貫手を躱しながら、次の一手を考える。
由佳「鬱陶しいッ!」
由佳の右足の蹴り上げを左足で抑えて止めた杏樹は、好機とばかりに右手を振るう。
狙うは由佳の瞳。目潰しを狙った貫手では躱されてしまうことがほとんどであるため、杏樹は手刀による擦りを狙った。
由佳「調子にのるなっ!」
杏樹「甘い」
なんとか手刀を回避した由佳は反撃のために左手に槍を出現させ、正面への杏樹へと繰り出す。
しかし、杏樹は穂先へと手を添え力を込める事で、その軌道を自分から逸らしてしまう。 強力な力を身に付けたとしても、使いこなせなければ意味がない。
それを見せつけるかのように杏樹は由佳の攻撃を全て受け流していく。
杏樹「りゃぁっ!」
由佳「がっ!?」
そして、できた隙を見逃さず、その体へと右足を鋭く蹴り上げ、由佳の体は空中へと舞った。
杏樹「これが経験の差」
杏樹「分かったら、おとなしく死んで」
杏樹の振りかぶった右手に真っ赤な焔が宿る。
その狙う先は当然無防備に空を舞う由佳であり、杏樹は思い切り地面を蹴り上げ、由佳の後を追った。
杏樹「さようなら」
由佳「……ええ、さようなら」 杏樹「がぁっ!?」
突如身体中を走る電撃に、杏樹の体が強張り、空中に貼り付けにされる。
気付けば、杏樹を取り囲むように出現した槍から、強力な電撃が発せられていたのだ。
由佳「あはは、待ち構えてたのになんの仕掛けもしてないと思いましたか?」
由佳「ちゃーんと罠を仕掛けておいたんですよ」
杏樹「ちっ!」
由佳「残念、私の方が早いです」
防御魔法を展開しようとした杏樹だが、電撃のせいで反応が遅れてしまった。
その一瞬の差に、由佳が禍々しいほどの黒炎を纏わせた黒槍を身動きの取れない杏樹へと叩き込む。 杏樹に防御する手段は無く、由佳の攻撃を食らい、その衝撃で奥の壁へと叩き付けられ、巨大な破砕音を立てる。
由佳は追い討ちをせず、ただその光景を眺めていた。
なぜなら、追い討ちの必要がないと分かっていたからだ。
煙が無くなると、そこには杏樹が壁に背を預けるように座っていた。
いや、それは座るというよりも、もたれ掛かるという方が合っているのだろうか、杏樹の体には力が入っておらず、両腕がだらりと下げられている。
そして何より、杏樹の体の真ん中には、槍で貫かれたせいか、大きな風穴が開いていた。
由佳「……ふふ」
由佳「さようなら、杏樹さん」 朱夏「あんじゅ……?」
朱夏「嘘でしょ、ねぇ」
朱夏「あんじゅ!」
駆け寄った朱夏が杏樹へと呼び掛けるが、反応は帰って来ない。
ただただ赤い血溜まりだけが、ゆっくりと地面を濡らしながら広がっていく。
由佳「やっと殺せたよ、その女」
由佳「やっと二人きりになれたね」
朱夏「……い」
由佳「どうしたの?ほら、こっちに来てよ」
朱夏「……さない」
由佳「え?」
朱夏「絶対に許さないよ、ゆか」
由佳「……しゅか?」 立ち上がった朱夏の右手には、いつの間にか大剣が握られていた。
本来であれば両手持ちであり、持ち上げるのにも苦労するはずであろうその剣を、朱夏はやすやすと持ち上げ、由佳へと剣先を向ける。
由佳「待って、どうして?」
由佳「そいつがいなくなって、しゅかも嬉しいでしょ?」
由佳「付き纏われて迷惑してたの、知ってるんだよ」
朱夏「嬉しくなんかない」
朱夏「あんじゅは、私の大切な人」
朱夏「例えゆかでも、あんじゅを傷付ける奴は許さない!」
突如として悪寒に襲われた由佳は、迷わずに地面を蹴り後ろへと下がる。
その由佳の眼前には、横薙ぎにされた大剣が見えた。 由佳「速い……!」
慌てて体勢を立て直そうと由佳が槍を構えると同時に、朱夏が大剣を振り下ろす。
槍を交互させ穂先で受け止めようとするが、その重量と勢いを受け止めることができず、由佳は即座に右へと回避行動をとる。
その回避行動を見た朱夏は即座に左手を振りかぶる。
由佳はその左拳による強打を受け止め、体勢を崩して取り押さえようと一瞬のうちに考えるが、朱夏の左拳を右手で受け止めきることができず、その勢いのまま床を転がることになった。
由佳「……そうだったね、しゅかは力が強かったもんね」
朱夏「…………」
朱夏の強さは、圧倒的な力と速さ、ただそれだけである。
だからこそ由佳は朱夏の動きを止める方法を考えるが、その速さ故に罠に掛けることが難しい。 由佳「いいよ、やろうか、久しぶりに……本気の喧嘩」
このままでは殺されると考えた由佳は、自分の甘い感情を切り捨てる。
そこには本気でやっても朱夏は死なないであろう、という一種の信頼もあり、全力を持って戦闘に応じるつもりだ。
由佳「ふッ!」
弾丸のように直線上を駆け、朱夏へと槍を繰り出す。
その突撃に合わせ、朱夏は振りかぶった大剣をそのまま振り下ろした。
由佳「そこッ!」
乾いた金属音が鳴り響き、朱夏の手足へと鎖が絡み付き拘束をしようとするが、朱夏は特に気にした様子もなく、鎖ごと腕を振り下ろす。
由佳「なっ!?」
大剣はそのまま由佳を両断……したかに見えた。
しかし大剣はただ地面を砕いただけであり、由佳の姿はそこにはない。
由佳は踏み込みの瞬間に合わせ左に高速で飛んでおり、大剣を躱したのだ。
そして、その隙を見逃さず、朱夏の肩を目掛け槍を振るう。 だが、それも朱夏には通じない。
朱夏は右手で槍の先端を掴むと、そのままボールを投げるように肩を回し、槍ごと由佳を地面へと叩き付けた。
由佳がまずいと思った時には遅く、その無防備となったお腹を思い切り蹴りあげられる。
由佳は腹が千切れそうな痛みに意識を飛ばさないようにしながら、朱夏から視線を外さない。
この無防備な姿を晒せば、杏樹同様追撃をすると由佳は考え、その通りに朱夏は動く。
地面を蹴り上げ、大剣を振り上げながら空を舞う。
その無防備となった朱夏へと、電撃が襲い掛かる。
朱夏「……っ!」
だが、朱夏は止まらない。
電撃に拘束されることもなく、真っ直ぐに由佳へと向かってくる。
その姿を、由佳は悲しい瞳で見つめていた。
由佳「……使いたく、無かったんだけどな」 由佳「『絶槍の処女』」
朱夏「!?」
巨大な鋼鉄の球体が、朱夏を中心とするように部屋の中央に出現する。
その壁には伝説から粗悪品であろう、全種類の槍が埋め込まれていた。
由佳「ごめんね、朱夏」
由佳「多分、死ぬと思う」
由佳「その時は、ちゃんと私も後を追うから」
球体が少しずつ小さく縮んでいき、それに合わせるように様々な槍から魔法が飛び交う。
雷、炎、風、氷、水、土、闇、光、伝説として記された力が朱夏目掛けて振るわれながら、大量の槍が迫る。
無論、空中にいる朱夏にはそれを避ける術などない。
無数の魔法を内部で起こしながら球体は縮んで行き、そして、人の大きさになるところで停止した。 由佳「殺し、ちゃったかな」
由佳「……あれ、なんで、私、こんな」
ばきり、と何かを砕く音が由佳の言葉を遮る。
それは球体から発せられた音だ。
球体の一部が割れ、そこから赤い雫が垂れている。
本来であればこの球体が割れることはないはずであり、それは即ち、何か異常自体が起こっているというこであろう。
由佳「……うそ」
その球体から出てきたのは、全身を血塗れにした朱夏であった。
全身に傷を作りながらも、致命傷は追っていない。
由佳「っ!」
由佳が反応するよりも先に、朱夏の拳が、由佳の顔面を捉えた。 二発目、三発目、四発目、防御が間に合わず何度も拳を貰い、最後に胸を打たれ、由佳は壁に激突しそのまま座り込んでしまう。
胸を抉る衝撃に肺から空気が吐き出され、身体中が痙攣を起こす。
由佳「あ、はは……強いね、しゅか」
朱夏「何か、言い残すことはある?」
由佳「……ないよ。しゅかが生きてて、良かった」
朱夏「自分で殺そうとしたのに?」
由佳「……うん。なんでだろうね、絶対に使わないって思ってたのに」
由佳「こっちの世界に来て、私もおかしくなっちゃったのかな」
朱夏「ゆか……」
由佳「ああ……ごめんね。いいよ、殺しても。抵抗はしないからさ」
朱夏「……そんなことしないよ。ゆかは、私の大切な親友だもん」
由佳「……親友、かぁ」 朱夏「杏樹、大丈夫?」
朱夏は由佳から離れると、杏樹の所へと急ぐ。
朱夏「っ……誰か、治してくれそうな人のところに連れて行かないと」
何も答えない杏樹を腕に抱きかかえ、朱夏は通路を進もうとする。
朱夏は回復魔法を使うことができず、そのため杏樹を回復させるには他の誰かの力が必要になる。
小林はよくわからない魔法をたくさん使っており、もしかすると回復もできるんじゃないかと、先の道へ行くことを朱夏は選択したのだ。
由佳「ねぇ」
朱夏「何?」
由佳「止め、刺さなくていいの?」
朱夏「必要ないでしょ」
由佳「……そうだね。さっきから、体が全然動かないもん」
朱夏「……じゃあ、先に行くから」
由佳「待って」
由佳「もし、さ」
由佳「私がその人に殺されてたら、朱夏は怒ってくれた?」
朱夏「……怒らないよ」
由佳「……そっか。やっぱり、その人の方が大切ーー」
朱夏「だって、杏樹はゆかを殺したりしないから」
朱夏「そうしたら私が悲しむって、知ってるんだよ、杏樹は」
由佳「……あはは、そう、なんだ」
由佳「……負けた、なぁ」 朱夏「あんじゅ、大丈夫だよ」
朱夏「もうすぐあいきゃんが治してくれるからさ」
朱夏「だからもう少しだけ頑張って」
朱夏「大丈夫……大丈夫だから」
杏樹「……しゅ、か」
朱夏「あんじゅ!」
杏樹「ごめ、ん……しゅか、きず、つい、て、」
朱夏「そんなのどうでもいい」
朱夏「それより、自分に回復魔法は使えないの?」
杏樹「……まりょく、たりない」
朱夏「どうやったらその魔力は回復するの?」
朱夏「私にできることはある?」
杏樹「…………」ボソッ
朱夏「……っ」
朱夏「……緊急事態だから、だよ」
朱夏「これで治らなかったら、怒るからね」
朱夏「……あんじゅ」 〜
梨香子「あれwここ何処w」
梨香子「あいきゃんいなくなってるしw」
梨香子「てか床光ってるんだけどwキモw」
梨香子「なんか蝋燭とか立ててあるしw」
梨香子「面白そうw」
梨香子「倒しちゃったw」
梨香子「やっばw掃除しないとw」
梨香子「魔法陣まで消えちゃったw」
梨香子「wwwwwwww」 〜
魔王「どうした小娘共!」
魔王「その程度では我には勝てんぞ!」
降幡「ちっ……普通に強いじゃねーか」
小林「小娘だって!まだ全然若く見えるのかな?」
高槻「アホか馬鹿にされてんだよ!」
小林「え、そうなの!?」
小林「もう許さないよ!」
善子『それでけ元気があればまだ大丈夫ね』
小林「うん!ヨハちゃんがいるからね!」
善子『上等よ。もう一踏ん張り、頑張りなさい』 魔王とはその名の通り、魔族の王。魔族の中で一番強い者がなる。
遠距離ではありとあらゆる魔法を使いこなし、近距離では無双の剣を奮う。
遠近共に弱点など無く、三人は攻めあぐねていた。
高槻「どうすんだよ、このままじゃジリ貧だぞ」
降幡「全員で攻撃するしかないだろ」
降幡「こっちにあるのは数の有利だかんな」
降幡「あいきゃん!突っ込むから援護頼む!」
小林「分かった!」
小林「見ててね、ヨハちゃん!」
善子『ええ、かっこいいところ見せなさいよ、小林』
小林「もちろんだよ!」
高槻「あいつに背中預けるのこえーんだけど」
降幡「うるせぇ!いいから行くぞッ!」 魔王「くらえ!《業火の炎》!」
小林「いけ!【煉獄の焔】!」
魔王が赤い炎を出現させるの同時に、それを相殺するように、小林が闇の焔を放つ。
二人の接近を阻もうとした赤い炎は、闇の焔に侵食され、消えて無くなってしまう。
魔王「ふん、ならばこれならどうだ!」
魔王「【悪魔召喚】!」
魔王が魔法陣を描くと、その中心から黒い羽を生やした数体の悪魔が湧いてくる。
小林「【堕天使の息吹】!」
その悪魔たちへと迫るのは、禍々しい冷気だ。
それに触れた悪魔たちは体が徐々に凍っていき、恐怖の表情を浮かべながら氷の中へと閉じ込められ、体の芯から動けなくなる。
高槻「……なあ、本当はあいつが魔王なんじゃねーのか」
降幡「軽口叩いてる暇があるなら……攻撃しろよ!」 降幡が両手に持った剣を、腕を交差するように両側から剣で斬りつける。
左右同時の攻撃であり、それを防ぐのは難しいだろう。
しかし、その攻撃には重大な欠点があり、それは正面の防御が無防備になることだ。
それを魔王が見逃すはずもなく、降幡の攻撃に合わせるように剣を振り下ろす。
高槻「させるかよっ!」
魔王「ちぃっ!」
当然その弱点が狙われることは二人も分かっており、高槻がそれを補うように斧で魔王の攻撃を受け止める。
その隙を見逃さず、降幡の刃が魔王の腹を切り裂いた。
降幡「浅いかっ……!」
魔王「ふんっ!」
凄まじい衝撃と共に、降幡と高槻が弾き飛ばされ、小林の元へと転がる。
これが三人が魔王を攻めあぐねている理由であった。 魔王「遊びは終わりだ!これで終わりにしてやる!」
降幡「やべぇ!何か来るぞ!」
魔王の力の高みを感じ、降幡が声を上げる。
魔王の周りには幾多もの魔法陣が描かれ、そのどれもが眩い輝きを放っている。
魔王「己の無力を呪いながら息絶えるが良い!」
魔王「《消滅のーーぬぉっ!?」
魔王が魔法を放つ瞬間、天井が崩れ、魔王へと降り注ぎ、魔法陣を全て掻き消してしまう。
咄嗟に体制を立て直そうとした魔王であったが、上から落ちてきた人に頭を踏まれ、地面に転がった。
梨香子「やっばw床壊しちゃったw」 梨香子が破壊しまくっていたのは玉座の上の部屋であり、面白がっているうちに床まで壊してしまったのだ。
梨香子「なんか踏んだw誰こいつw」
降幡「おい!あぶねーぞ!離れろ!」
魔王「くそがぁっ!」
怒りに任せて振り払った剣に当たり、梨香子が吹き飛ばされる。
梨香子「いったwなにすんのw」
魔王の剣を受けた梨香子は、どくどくと血を流しながら立ち上がる。
しかし、それは魔王の渾身の一撃を受けたとは思えない程度の傷であった。
本来であれば体が真っ二つになっていてもいいはずの威力であり、魔王が思わず目を見張る。 善子『小林!今がチャンスよ!』
小林「うん!【堕天・鳳凰双翼】!」
高槻「ふりりん!」
降幡「分かってるッ!」
黒い翼を羽ばたかせ、漆黒に彩られた鳥が魔王へと襲いかかる。
それに追随するように、降幡と高槻が己の武器を構え、魔王へと迫る。
魔王「舐めるなぁ!」
黒き鳳凰の直撃を受け体勢を崩した魔王が、持っている剣を突き出す。
高槻はそれを避けることなく、剣を握る右腕に向け、大きな斧を振り下ろした。
魔王「がっ、ぁぁぁぁぁっっっ!!」 高槻の脇腹が抉り取られるのと引き換えに、魔王の右腕が血飛沫を上げて吹き飛ぶ。
降幡「さっさとくたばれッ!」
魔王「【切り裂きの風】!」
残された左手で放たれた風の刃の雨。
降幡はそれから逃げることなく、切り刻まれながらも前へと出る。
この場で勝負を決めるために、そして高槻の覚悟に応えるために躊躇なくした選択は、魔王の動揺を誘うには十分であった。
降幡「もらったっ!」
自身の速さを剣に乗せ、さらに大きく遠心力を込めた一撃は、容易に魔王の左腕を斬り落とした。
魔王「ぐっ、おおおっっ!」
梨香子「仕返しwどーんw」
完全に無防備になった魔王へ、追い討ちのように巨大な衝撃が走り、地面を転がる。 魔王「おのれ……貴様ら……」
小宮「おや、もう終わりのようですね」
すわわ「うむ」
愛奈「やっぱり、みんな強いんだね」
魔王「っ……新手、だと」
杏樹「しゅか、ありがとね。大好きだよー」
朱夏「あーもー、もたれ掛からないで。まだ痛いんだから」
降幡「全員勢揃い、ってわけだな」
魔王「ばかな……この私が……人間ごときに……」
高槻「何が人間ごときだっての」
高槻「そんなに強くもねーくせに威張りやがって」 魔王「……奥の手にとっておいた魔法陣も発動せんか」
魔王「人間に敗北する日が来るとは、思わなかったぞ」
小林「やった!遂に私たち勝ったんだよ!ヨハちゃん!」
善子『ええ、よく頑張ったわね、小林』
朱夏「これでやっと帰れるんだね」
高槻「そうだな。おら、とっとと元の世界に帰る方法言えよ」
降幡「確か倒したら帰れるんだよな……倒すってなんだ?」
高槻「やっちまわないとダメか?」
すわわ「うむ」
魔王「……く、くはは」
魔王「舐めてくれるなよ、人間」
降幡「なんだって?」
魔王「見よ!私の最後の魔法を!」
降幡「てめぇっ!何する気だ!」
高槻「取り押さえるぞ!」
小林「ヨハちゃん!あいつまだ何かするみたいだよ!」
善子『大丈夫よ、小林』
小林「そうなの?」
善子『ええ、だって』
善子『ここまで計画通りだから』 強く光を放つ魔王へと、善子は歩みを進める。
それに気付いた小林の制止を聞かず、善子はだんだんと大きくなる光の中へと入っていった。
小林「ヨハちゃん!」
降幡「やめとけ!」
追い掛けようとした小林は近くにいた降幡と高槻に取り押さえられる、ただその光が収束するのを見ているだけだった。
光が治まると、そこには一人の少女が立っており、全員が思わず息を飲んだ。
それは紛れも無い津島善子……いや、漆黒の羽根を纏うその姿は、堕天使ヨハネと形容した方がいいのだろうか。
本来であれば有り得ないはずの現象に、誰も言葉を発することができなかった。
たった一人を除いては。 小林「ヨハちゃん、大丈夫!?なんともない!?」
小林「もー、びっくりしたんだから」
小林「あれ、翼が生えてる!」
小林「凄い……本物だ」
小林「これがヨハちゃんの本当の姿なんだね!」
善子「小林……」
小林「ん?どうしたの?」
小林にそう聞かれた善子は、口を噤んだ。
少しの逡巡の後、善子はゆっくりと小林へ体を近付ける。
善子「……会いたかった」
そう言うと、善子はほんの少しだけ強く、小林を抱きしめた。 小林「ヨハちゃんとはいつも会ってるよね?」
善子「うっさい、ばか。さっさと抱きしめなさいよ」
小林「甘えん坊なヨハちゃんも大好きだよ〜」
善子「……ん」
その温もりを心の底から味わうように、善子は小林の胸へと顔を埋め、目を閉じる。
目の前で繰り広げられる光景に脳が追い付かず、黙ったままのメンバーであったが、杏樹が一番先に我に返った。
杏樹「イチャついてるところ悪いんだけどさ、これはどういう状況なの?」
杏樹「なんで善子ちゃんがここにいるの?」 善子「……そうだった、説明しないとね」
善子「それと、何度も言ってるけど、私はヨハネよ」
善子「堕天使ヨハネ。それがこの世界での呼び名よ」
朱夏「この世界ってどういうこと?」
善子「元々、私はこの世界の住人なのよ」
善子「こっちの世界で死んで、みんなが元いた世界に行ったの」
愛奈「私たちの世界って……雑誌とか、アニメ?」
善子「そうね。それも経験したわ」
善子「でも、最初に自我を自覚したのは、小林の部屋だった」
善子「その時の私は小林とお喋りをしてたわ」
善子「それからずっと、小林と一緒だった」 善子「でも、それとは別にもう一つの人生も送ってた」
善子「Aqoursのみんなに出会って、ラブライブで優勝した」
善子「ちょっとだけ奇妙な感覚だった」
善子「でも、不思議と嫌じゃなかった」
善子「だって、小林がいつも側にいてくれたから」
杏樹「もしかして、私たちがこっちの世界に来たのって」
善子「私の仕業よ」
杏樹「……そう。理由は?」
善子「理由なんて決まってるでしょ」
善子「小林と……こうして触れ合うためよ」 小林「うーん、つまりどういうこと?」
善子「私が小林のことを好きってこと」
小林「私もヨハちゃんのこと大好きだよ!」
善子「知ってるわ」
降幡「理由は分かったし、なんとなくいろいろ理解できた」
降幡「それで、どうやったら元の世界に帰れるんだ?」
善子「帰る?」
善子「そんな必要ないでしょ?」
善子「みんなこっちの世界で暮らせばいいじゃない」 降幡「いや、そういうわけにもいかねーだろ」
善子「どうして?」
善子「こっちの世界、楽しかったでしょ?」
善子「チートの力で、好き放題できるんだから」
杏樹「この力は善子ちゃんがくれたの?」
善子「違うわよ。世界を移動すると、特殊な力を得られるの」
善子「もちろん、帰ったら無くなるけどね」
朱夏「別に無くなるのはいいんだけどさ」
善子「なんでそんなに帰りたいの?」
善子「せっかく罪悪感を減らしてあげたのに」
高槻「どういうことだよ」
善子「不思議に思わなかった?人を殺してもあんまり罪の意識がなかったでしょ?」
善子「みんなに楽しんでもらうために、わざわざしてあげたのよ」 杏樹「逆に、どうして善子ちゃんは戻りたくないの?」
善子「ヨハネ。どうしてって、あっちの世界に戻ったらまた霊体みたい状態になるからよ」
善子「小林と触れ合えないなんて、そんなの嫌」
善子「だから、みんなでこっちで暮らすわよ」
善子「なんなら、一人に一つ国をあげてもいいわ」
善子「望む物は、なんでも手に入る」
善子「ここはまさしく楽園よ」
愛奈「それは、この世界の人たちを力付くで支配するってこと?」
善子「ええ、そうよ」
善子「良かったじゃない、人間を憎んでたんでしょ?」
愛奈「っ……!」 杏樹「そういうのはいいから、帰る方法を教えてよ」
杏樹「私たちだけでも帰るからさ」
善子「無理よ。帰るなら、全員で帰るしか方法がないの」
善子「それはつまり、私と小林が離れ離れになるってことよ」
杏樹「あんまりしつこいと、力付くで聞き出すことになるよ」
善子「そんなボロボロの体で何言ってるんだか」
杏樹「…………」
善子「全員いい感じに消耗してるし、本当に上手くいったわ」
高槻「……まさか、お前」
善子「ええ。あいにゃが敵になるように仕組んだのも、由佳さんを召喚したのも私よ」
善子「8人が万全の状態なら、万が一があり得るからね」 善子「それで、どうするの?」
善子「一度痛い目見ておく?」
杏樹「……あんまり調子に乗るなよ」
善子「ふふ、怖いわね」
善子「他の全員もやる気出し」
小林「ま、待ってよ、みんな!」
小林「なに戦おうとしてるの!?ヨハちゃんは良い子でーー」
善子「大丈夫だから、ここで大人しく待ってなさい、小林」
そう言うと、善子は小林の側を離れ、他のメンバーの近くへとやってくる。
善子「ねぇ、あんちゃん」
杏樹「なに?」
善子「8人じゃ、奇跡は起こせないわよ」 杏樹「『火矢の雨』!」
善子「【堕天使の息吹】」
善子の言葉を開幕の合図とし、杏樹が魔法を発動させる。
空中に出現した炎の矢は間断なく善子へと降り注ぐが、全て禍々しい冷気により掻き消されてしまう。
降幡「あの技……あいきゃんが使ってたやつじゃねーか」
善子「小林は私のリトルデーモンなんだから、私の力を使えてもおかしくないでしょ」
善子「まあ……小林が使ってないものもあるけどね」
善子「【闇の弾丸】」
杏樹「っ!」
前へと突き出された善子の右手から質量を持った闇が高速で打ち出され、杏樹が反応するよりも早く杏樹の胸を打ち抜き、そのまま地面へと崩れ落ちる。 朱夏「よくもあんじゅを!」
一瞬のうちに距離を詰めた朱夏が巨大な大剣を振り下ろすが、善子はそれを左手で軽々と受け止める。
力尽くで押し切ろうにも、どれだけ力を込めようが善子の左手はビクとも動かず、その隙に善子は朱夏の頭を鷲掴みにし、地面へと叩きつけた。
善子「地元愛で、よく小林と絡んでたわよね」
善子「あの時、凄くもやもやしてたのよ」
善子「私の小林が取られるんじゃないかって、胸が凄く騒いでた」
善子「だから、優しくできないわよ」
すわわ「うむ」
すわわが善子の背後から首元へと日本刀を一閃するが、それを善子は人差し指だけで受け止める。 すわわ「ん」
善子の体は堕天使という身であるため、他の生物よりも体の硬さは段違いである。
しかし、すわわの能力で生み出された刀も伝説級の物であり、本来であれば指ごと首を斬り落とせる一撃であったのだが、善子は闇の力を通わせることで体の防御力を向上させたのだ。
善子「すわわも、よくも小林のことをレイプしようとしてくれたわね」
善子「【煉獄に咲くは血塗られた薔薇】《ブラッド・アイン・ローズ》」
地面から生えた蔓が槍のようにすわわへと襲いかかり、すわわが刀で迎撃を行う。
すわわ「んぁっ」
数の多さに距離を取ろうとしたすわわの足を細い荊が何本も貫き、地面へと縫い止められ、足を動かすことができなくなる。
真っ白な太腿から赤く滴る血が地面を濡らし、血を吸った薔薇は赤い薔薇を咲かせる。 小宮「一つ、貸しですわよ」
体の硬直したすわわへと迫る蔓を、小宮が鉄扇で斬り払う。
小宮「こうなってしまった以上、善子ーー」
小宮の言葉が、途中で止まった。
いや、止められたと言った方が正しいのだろうか、向かい合っていたはずの善子が、いつのまにか小宮の首を掴み持ち上げていたのだ。
善子「そういえば、ありしゃも小林にちょっかい掛けようとしてたわよね」
善子「朱夏に化けて忍び込むなんて……悪戯好きにも程があるわ」
そのまま右手を振り払い、小宮は投げつけられ壁に激突する。
すわわ「うむ」
善子「当たらないわよ」
自身の間合いへと入った善子に対し、反応がしにくい下からの切り上げを放つが、あっさりと躱され、お腹へと食い込んだ右拳にその場で崩れ落ちる。 降幡「嘘だろ……こんな、あっさり」
愛奈「っ……よくもみんなを!」
愛奈「『光よ手繰れ』!」
愛奈の手からの伸びた光の鞭が善子へと迫るが、善子はそれを笑いながら見ていた。
善子「押し潰しなさい、【重圧の闇】」
愛奈「ぐっ!?」
放たれた光ごと、周囲一帯を質量を持った闇が多い、愛奈の体が地面へと叩きつけられる。
自身へと掛かる重力が何十倍にもなった圧迫感に指先一つ動かずことができず、愛奈の視界は閉ざされ、ただ圧力のみが愛奈を襲う。 梨香子「調子に乗るなwどーんw」
愛奈の飲み込まれた闇へと視線が行く善子を巨大な衝撃波が襲う。
梨香子「逢田さんぱーんちw」
ばちん、と乾いた音を立て、梨香子の拳が受け止められる。
善子は衝撃波を受けても無傷であり、梨香子の拳を受け止めることは造作もなかった。
梨香子「放せw」
善子「りきゃこも、いつも小林がお世話になってるわね」
善子「ボール、投げ付けられたらどうなるんだろうね」
善子の手から放たれた闇の球体が梨香子に命中し、弾かれた梨香子は地面を転がりそのまま動かなくなる。 善子「さて……と」
部屋の一部を覆っていた闇が消えると、横たわり動かなくなった愛奈が姿を現わす。
善子「それで、貴女達はどうするの?」
降幡「どうするって……」
降幡は答えられなかった。
自分より強いメンバーが挑み簡単に返り討ちにされているのだから、自分が勝てないと言うことは戦う前から分かっていたからだ。
もしもこの場で戦えば、最悪死ぬ可能性もあり、それならば元の世界に帰れなくてもいいんじゃないかという考えが胸をよぎってしまったのだ。
高槻「お前をぶっ殺すに決まってんだろ!」
そのせいもあり、高槻が走り出した瞬間、降幡は止まったままであった。 高槻「『超倍加』!」
高槻の持つ巨斧が5倍ほどの大きさへと膨らむ。
真っ二つにする勢いで振り下ろしたそれは、当然のように善子に受け止められた。
高槻「知ってんだよ!」
高槻は受け止められた斧を手放すと、小さな手斧を出現させ、善子へと投げ付ける。
それを指一本で弾いてみせた善子へと、新たに出現させた斧で切り掛かるが、それも善子の体に傷を付けることはできなかった。
善子「力の差が分からないっていうのは、悲しいことね」
高槻「うるせぇ!やってみなくちゃわかんねーだろ……う……が……ちく、しょう、」
どさり、と善子に胸を殴られた高槻がその場に崩れ落ちる。 善子「残るは、あいあいだけね」
降幡「っ……」
それは、強者のみに許される余裕。
降幡は気付いてしまった、自分が『敵』とすら認識されていないことに。
善子からすれば、降幡を葬るのは造作も無いことであり、やろうと思えば降幡が思考する前にできるだろう。
降幡「やるしかねぇ、だろ」
本当は今にも逃げ出してしまいたいのだが、仲間を見捨てて逃げるという選択肢を降幡は選べない。
恐怖に立ち向かいながらも、降幡は刀が胸の前で交差するように二刀流を構える。
善子「……ふふ」
降幡「何がおかしいんだよ」
善子「震えてるから、可愛いなって思ったの」
降幡「っ……!」 カチカチカチ、と刀同士が小刻みにぶつかる音が聞こえる。
それは体が震えているせいであり、降幡はそれを振り払うかのように前へと出た。
降幡「でやぁぁぁぁっ!」
踏み込みの直前、左に重心を傾けてからの右跳び。
善子のお腹を掠めるように放たれた斬撃は、パキンという音と共に掻き消された。
お腹に強い衝撃を受け、そのまま地面へと放り出される。
手に持った剣は、両方とも刀身を失っていた。 善子「私の勝ちね」
善子「ふふ、良かった。これで小林とずっと一緒にいられる」
善子「ねぇ、小林、何かしたいことある?」
善子「今の私ならなんでも叶えてあげられるわよ」
小林「……ヨハちゃん、こんなの、おかしいよ」
善子「……え?」
善子「何言ってるのよ、小林」
善子「あんちゃん達は、私と小林の仲を引き裂こうとしたのよ?」
善子「だから返り討ちにしただけ。何もおかしくないでしょ?」
小林「そうだけど……でも、その、なんていうか」 小林「ほら、やっぱりさ、みんなで仲良くしてる方がいいと思うの」
小林「だからさ、みんなが納得するように……」
善子「……言ったわよね、小林」
善子「私さえいればいいって」
小林「う、うん。ヨハちゃんは私の大切な人だから」
善子「じゃあ、他の人のことなんてどうでもいいでしょ」
善子「まさか、元の世界に帰りたいなんて思ってたりしないわよね、小林」
小林「思ってないけど、みんなどうしてるのかとか、後は、いろいろどうなってるのかとか、気になったり……」
善子「…………」
小林「あの……ヨハちゃん」
小林「怒ったのならごめんね」
小林「私の一番はヨハちゃんだから、こっちの世界で一緒に暮らそう?」
善子「……分かったわ」
小林「良かった……じゃあ、まずはみんなをーー」
善子「あんちゃんを、殺すわよ」
小林「え……?」 小林「ま、待って!なんで!?」
善子「小林は元の世界に未練があるんでしょ?」
善子「大丈夫、小林は私のリトルデーモンなんだから、ちゃんと理解してあげてる」
善子「あんちゃんを殺せば、向こうに戻ってもAqoursは再開できないでしょ?」
小林「っ!」
善子「小林の未練、消してあげるわ」
小林「だ、だめだよ!殺しちゃ!」
善子「なんで庇うのよ、小林」
善子「あんちゃんは小林を殺そうとしてたのよ?」
小林「でも、最後は助けてくれたし……」
善子「あれは相手のせいよ」
小林「で、でも……」
善子「いいから、おとなしくしてなさい、小林」
善子「私とあんちゃん、どっちが大切なの?」
小林「…………っ」 かつん、かつん、と乾いた音を立てながら、善子は杏樹に向かって足を進める。
その近づいてくる足音は、嫌という程明確に降幡の耳に入ってきた。
降幡は善子と杏樹のちょうど中間におり、善子は必ず降幡の横を通過する。
そして、通過してしまえば、杏樹は殺されてしまうということを、降幡は先程の会話から理解してしまっていた。
善子から放たれる明確な殺意が、今度こそ自分に降りかかるかもしれない。
そんな考えに支配された体は、立ち上がれという脳の命令を無視するのだ。
自分が立ち塞がったところで無意味という気持ちと、杏樹を守りたいという気持ち。
その二つが、降幡の脳内を駆け巡っていた。
例え勝てなくても、隙を見つけて杏樹を連れて逃げることができるかもしれない。
それなら、やるしかないと。
善子「もし立ち上がれば、殺すわよ」 冷や水を浴びせられたかのように、高まっていた鼓動が急速に静かになっていく。
喉元に鋭利な刃物を突きつけられた感覚。
力の差は歴然であり、そもそも隙を見つけて逃げるということすら不可能なのだ。
つまり、降幡がここで立ち上がるのは、完全な犬死に。
杏樹が一人死ぬか、そこに降幡が加わるか、その違いでしかない。
降幡「ちく、しょう……」
降幡は自分を呪った。こんなにも弱い自分を。
こんな時でも、自分の身を考えてしまう自分の弱さを。 降幡「私は、誰も、守れないのかよ」
みんなと旅をしていても、これといった活躍が出来ない。
みんなは自分より遥かに強い力を持っており、最終決戦でも、本当は自分はいらないんじゃないかと思っていた。
降幡「ちき、しょ、う」
力は無くとも、自分の信念だけは曲げないでいようと思った。
仲間のことを思い、助けて合う。
だが、死の危険に直面した今、それすらもやり遂げられないことに気付いた。
目の奥から少しずつ湧き出る涙。
悔しさと情け無さに支配された降幡は、ただただ冷たい床の感触を感じていた。
降幡「なんで……私は……こんなに……情け……ないんだよ……」
『情けなくなんかないよ』
降幡「え……?」
その声を降幡は聞いたことがあった。
元の世界にいた頃、一番身近にいたと言ってもいい、聞き間違えるはずのない声。
『あいちゃんは、本当は怖がりさんなのは知ってるよ』
『でも、今はこうして……大切なみんなのために、勇気を出そうとしてる』
『勇気が足りないなら、背中くらい、押させて欲しいな』
『善子ちゃんに負けないくらい、側にいるんだもん』
『だから、もう少しだけ』
ルビィ『がんばルビィ、だよ』 自分の声とそっくりな声がいきなり聞こえたらちょっと怖い 花丸『そんなところで寝てないで、さっさと起きるずら』
高槻「……うるせぇ。ぶっ殺すぞ」
花丸『そんなこと言って、本当はマルのことが好きなのバレバレずら』
高槻「ちっ……」
花丸『……だから、早く立ち上がるずら』
花丸『マルも、きんちゃんのことがだーい好き、なんだから』 果南『これはこっぴどくやられたねぇ』
すわわ「うむ」
果南『やれやれ、素直じゃないんだから』
果南『でもまあ、だから私たちは似てるのかもしれないね』
すわわ「うむ」
果南『いつまでも倒れてないで、もう一度立ち上がるよ』
果南『力が出ない?仕方ないなぁ』
果南『じゃあ、ハグしよ?』 ダイヤ『大丈夫、なんて聞くだけ野暮という物ですね』
小宮「……情けないところ、見られてしまいましたね」
ダイヤ『何処が情けないのですか?』
ダイヤ『私の目には、仲間を助けるカッコいい姿しか写っていませんけど』
ダイヤ『ほら、シャキッとしてください』
ダイヤ『こんなところで負けるなんて、ぶっぶーですわ』 鞠莉『チャオ!マリーも応援に来たわよ』
愛奈「……夢?」
鞠莉『残念ながら夢じゃないわ。ここでみんなが負ければ、永遠に元の世界に帰れなくなる』
鞠莉『辛かったわよね。あいにゃは心の優しい人なんだから、戦うのだって、本当は嫌なんだよね』
鞠莉『でも、もう少し頑張ってほしい』
鞠莉『私も、もう一度会いたいから』
鞠莉『大丈夫、ちゃんと隣にいるよ』
鞠莉『この手、握っててあげる』 梨子『みんなは凄いな、こういう時、すっと言葉が出てきて』
梨子『私は口下手だから、気持ちを伝えることしかできないの』
梨子『私は、梨香子ちゃんのことが大好きだよ』
梨香子「…………」
梨子『本当は怖がりなところも、私にそっくりで』
梨子『なんて、こんなこと言ったら怒らせちゃうかな』
梨子『文句があるなら、元の世界にちゃんと戻ってきてから聞かせてね』 曜『元気、じゃないよね』
朱夏「曜、ちゃん?」
曜『うん、そうだよ。まだ頑張れそう?』
朱夏「……無理、だよ」
曜『無理なんかじゃないよ』
曜『だって、朱夏ちゃんは本当はなんでもできる力を持ってるんだもん』
曜『自信が無いなら、私が保証してあげる』
曜『だからもう一度、頑張ろう』
曜『ほら』
曜『全速前進、ヨーソロー!』 千歌『私ね、不思議だったんだ』
千歌『Aqoursは9人。だけど、側でいつも見守って、一緒に歌ってくれる人がいるような、そんな気がしてた』
千歌『その人は、何の取り柄もない、ただの普通怪獣な私を、最初から最後まで、ずっと見守って、側にいてくれた』
千歌『ねぇ、杏樹ちゃん』
千歌『私はね、ちゃんと自分の輝きを見つけたよ』
千歌『何もかも一歩一歩、私たちの過ごした時間の全てが輝きだったんだ』
千歌『その輝きの中には、杏樹ちゃんも入ってるんだよ』
杏樹「…………」
千歌『大丈夫、最後まで私は杏樹ちゃんと一緒にいるから』
千歌『だから、一緒に輝こう!』 善子「なんでよ」
善子「なんで……なんで、邪魔するのよ!」
善子「もう少しで、私と小林は結ばれるのに」
善子「それなのに……なんでみんな邪魔するのよ!」
小林「みんな、ヨハちゃんにこれ以上悪い子になってほしくないんだよ」
善子「え……?」
小林「ヨハちゃんの気持ち、私は嬉しいよ」
小林「でも、やっぱり、そのためにみんなを傷付けるなんて間違ってる」
善子「な、何言ってるのよ、小林」
善子「小林は私の味方でしょう?」
善子「早くこっちに来てよ……一緒にみんなを倒し……」
小林「……ごめん、ヨハちゃん」 善子「……嘘」
善子「嘘でしょ……嘘に決まってる……」
善子「だって、小林が、私のこと、見捨てるわけ……」
小林「…………」
善子「…………っ」ギリッ
善子「もう、いいわ」
善子「みんな、嫌いよ」
善子「小林も、Aqoursのみんなも、みんな、みんな!」
小林「ヨハちゃん、お願い、話を聞いて」
善子「うるさい、裏切り者!」
善子「あんたなんか……あんたなんか、死んじゃえばいいのよ!」 善子「【煉獄の焔】!」
闇の焔が地面を走り、空気を侵食しながら小林へと迫る。
降幡「させるかよっ!《流星》!」
降幡が振るった刃から出た光の斬撃が、雨のように降り注ぎ、闇の焔を掻き消していく。
相殺されると思っていなかった善子は、思わず息を飲んでしまう。
降幡「いくぞっ!」
善子「来られるものなら……来てみなさい!」
善子「【堕天・闇宝珠】」
愛奈「『光は闇を照らすもの。皆を守る盾となれ』」 巨大な重力を纏った闇が頭上に出現すれば、それを受け止める光の盾が現れる。
壁ごと飲み込むその闇は、光を飲み込むことはできず、消滅した。
降幡「でりゃぁっ!」
善子「っ……舐めるな!」
正面から突撃をする降幡に、善子が禍々しく光る剣を振り下ろす。
それはもはや加減のない一撃であり、当たれば即死するものだ。
しかし、その金属と金属のぶつかる音がし、その刃は弾かれた。
高槻「はっ!こんな軽い攻撃で調子に乗ってんじゃねーぞ!」
善子「っ……!」
降幡「もらった!」
高槻が剣を防いだことによってできた隙を見逃さず、降幡は善子の右手を掠めるように剣を振るう。
咄嗟に魔力で覆った右手であったが、それを感じさせないほど鮮やかに、真っ赤な鮮血が空を舞った。 善子「なっ!?」
それは善子からすればあり得ないことであった。
自身の防御力を貫く物があるなど、この世界ではあってはならないことなのだから。
小宮「戦闘中に気を抜くのは感心しませんわね」
善子「っ!」
振るわれた鉄扇を、自身を覆うように展開した翼で防御する。
小宮「今です!」
すわわ「うむ」
きん、と乾いた音。日本刀により放たれた一閃は、漆黒の翼を中程から刈り取り、善子の防御に穴が出来上がる。
小宮「そこっ!」
その隙に鉄扇を叩き込み、善子は強い衝撃を受けて地面を転がった。 善子「はぁ……はぁ……」
梨香子「聞こえたよ、みんなの声が」
梨香子「善子ちゃんを止めて欲しいって」
善子「くっ!」
咄嗟に手を前に出し、障壁を作ると同時に巨大な衝撃が、障壁を襲う。
バキバキバキ、と透明な空間にヒビが入り、善子の障壁は粉々に砕け散った。
善子「距離を……!」
朱夏「ごめん、取らせないよ」
一瞬で距離を詰めた朱夏は、善子の持っていた剣を跳ね飛ばし、善子の腕を掴んで空中へと投げ飛ばした。 善子「もう少し、だったのに」
善子「なんで、こんな!」
杏樹「やり方を間違えた」
杏樹「ただそれだけだよ」
善子「っ、うるさい!私は間違ってない!私は……私は!」
善子「【堕天使の弾丸雨】!」
杏樹「『烈火閃光】」
善子の周囲に展開された闇の弾丸が、無数の星となって杏樹へと降り注ぐ。
杏樹はそれに対し眉を動かすことすらしない。
杏樹の周囲で燃え上がる炎から打ち出された無数の光が、全ての闇を蹴散らし、善子へと襲いかかる。 善子「っ、ぐっ、ぁぁぁっっ!!」
空中で翼を焼かれた善子は、飛ぶことができず、そのまま地面へと落下をする。
その善子の目に写ったのは、自分のことを真っ直ぐに見つめる小林の姿。
善子「……いいわ、来なさい、小林!」
二人の周囲を取り巻く空気が歪み、震え上がる。
何者も干渉できない二人だけの世界。その一瞬の、心が触れ合ったような感覚に、二人の意識が研ぎ澄まされた。
小林・善子「「【堕天使の杭】!!」」
頭上から出現した巨大な杭が、空中でぶつかり合う。
お互いの想いをぶつけるように重なり合ったそれは、やがて均衡状態を抜け出した。
善子「……やれば、できるじゃない」
漆黒の杭はもう片方を打ち破り、その勢いのまま轟音と共に善子の体を地面へと突き立てた。 小林「ヨハちゃん!ヨハちゃん!しっかりして!」
善子が目を覚ますと、必死に善子の名を呼び続ける小林の姿が見に入った。
善子「……そう、負けたのね、私は」
小林「ヨハちゃん……ごめんね」
善子「なんで小林が謝るのよ」
小林「だって、私、ヨハちゃんのこと……」
善子「……気にしてないって言えば嘘になるわ」
善子「でも、小林の選択は正解だった」
善子「力に溺れて、何にも見えてなかった」
善子「全く……最低ね、私は」
小林「そんなことないよ」
小林「だって、ヨハちゃんは私と一緒にいたいから、こうしてみんなと戦ったんだよね」
小林「本当はダメなんだと思うけど、私は嬉しかったよ」
善子「……全く、バカなんだから、小林は」 善子「もう少し話していたいけど、あんまり待ってはくれなそうね」
杏樹「…………」
善子「小林、悪いけど、そこの短剣取ってくれる?」
小林「別にいいけど、何に使うの?」
善子「いいから。……ん、ありがとう」
その短剣を見て、善子はにっこりと微笑んだ。
それは何かを諦めたような、儚い笑顔。
ぐちゃり。
響き渡る誰かの悲鳴。
小林が止める間もなく、善子はその短剣を自分の胸へと突き刺した。 小林「ヨハちゃん!?なんで!?どうして!?」
小林「あんちゃん!回復魔法!お願い!」
善子「……無駄よ。心臓を潰したわ」
善子「これでもう、私は助からない」
小林「なんで、こんなこと」
善子「元の世界に戻る方法は、私が死ぬこと」
善子「それを知ったら、小林は止めるでしょ?」
小林「だから、言わなかったの?」
善子「ええ、そうよ」
小林「っ……いやだ」
小林「いやだよ、こんな、お別れなんて」 善子「……何泣いてるのよ、小林」
善子「私がいなくなったら、慰めてくれる人なんていないわよ」
小林「いやだよ……そんなこと、言わないでよ」
小林「私、ダメなんだよ。ヨハちゃんがいないと、なんにも、できないんだよ」
小林「バカだから、一人じゃなんにも、できない」
小林「お願い……一人に、しないで」
善子「……小林は、一人じゃないでしょ」
善子「大切な仲間が、いるじゃない」
小林「っ、でも!ヨハちゃんが……ヨハちゃんが、いてくれないと……!」
善子「……全く、小林は仕方ないんだから」 善子「ねぇ、最後に、お願いを聞いてくれる?」
小林「何……?」
善子「……キス、しなさいよ」
小林「キス……」
善子「せっかく小林に会えたんだもの、ファーストキス、私に差し出しなさい」
善子「私のファーストキスも、あげるから」
小林「……うん」
善子「……全く、酷い顔ね」
善子「こういう時くらい、笑ってしなさいよ」
小林「っ……ぅ、うん、」
泣きながら唇を触れ合わせる小林とは対照的に、善子は穏やかに笑い、その感触を味わった。
それがもう、二度と感じることのできないものだと知っていたから。 小林「っ!?ヨハちゃん!?ヨハちゃん!!」
小さな光が、徐々に大きくなって善子を包み込んで行く。
善子「お別れ、ね」
小林「いやだ、いやだ!」
小林「魂でも、なんでもあげるから、」
小林「側に……いてよ……ヨハちゃん……!」
善子「……大丈夫」
善子「小林が私のことを大切に想ってくれてる間は、私はずっと小林の側にいるから」
小林「……っ、ほん、とう?」
善子「……ええ、本当よ」
善子「だから……泣かないで、頑張りなさい」
善子「今まで、ありがとうね」
善子「……大好きよ、小林」
光は善子を、小林を、そして世界中を包み込んだ。 〜
小林「よーし、お仕事終わったー!」
小林「急いで帰らないと!」
元の世界に戻ると、小林達は来た時と同じ場所にいた。
どうやら時間は経っておらず、あの時の記憶を持ったまま帰ってきたらしい。
小林「ん?あそこにいるのは……りきゃことあいにゃ?」
小林「おーい!二人ともー!」
愛奈「あいきゃん!今帰りなの?」
梨香子「なんかきたw」 小林「そうだけど、二人はどうしたの?」
梨香子「買い物w」
愛奈「りきゃこが新しい服買いたいって言うから付いてきたの」
小林「あいにゃは買わなくていいの?」
梨香子「私のあげるからいいよw」
小林「ほえー、それでいいんだ」
愛奈「うん……貰えるの、嬉しいから」
梨香子「一番高いのあげるからw」
愛奈「あんまり気を使わなくていいんだよ?」
愛奈「それとも、あっちで言ったこと……気にしてる?」
梨香子「してないしw」
梨香子「次向こう見に行くぞw」
愛奈「うん。またね、あいきゃん」
小林「またねー」 〜
小林「仲直りしてて良かったー」
小林「って次のところ向かわないと……ん?」
杏樹「なんで私と朱夏のデート場所に女狐がいるのかな?」
由佳「朱夏が予定入ってるなんて言うから様子を見に来たらクソ女に誑かされてたなんて笑えないですね」
朱夏「……あ、あのさ、二人とも、一旦落ち着こう?」
杏樹「朱夏はどっちとデートしたいの?」
由佳「もちろん私だよね?」
朱夏「いや、なんていうか……あ!あいきゃん!おーい!」
小林「え?」 杏樹「まさかあいきゃんもしゅかを狙いに?」
由佳「もう一人抹殺対象が増えましたね」
小林「うぇっ!?わ、私は違うって!」
杏樹「もういい。今日こそしゅかのファーストキスを貰うから」
朱夏「いや、私初めてじゃないし」
杏樹「え?どこの誰!?」
杏樹「見つけ出して絶対抹殺しないと!」
朱夏「……うるさい。自殺でもしてろ、ばか」ボソッ
杏樹「え?何か言った?」
朱夏「なんでもない!もういいから、三人で出かけるよ!」
朱夏「喧嘩は禁止だからね!」
杏樹「はーい」
由佳「しゅかが言うなら」
小林「しゅかも大変だねー」 〜
小林「うわ、凄い人だかり!」
小林「急いでるのに何してるんだろう」
小林「ん?」
「握手して下さい!」
「私も!」
「きゃー!触っちゃった!」
すわわ「うむ」
有紗「zzz」
小林「あれ、すわわとありしゃだ」 すわわ「うむ」
有紗「zzz」
小林「うーん、遊んでたらみんなに見つかった感じ?」
すわわ「うむ」
小林「大変だねー、二人とも」
「あ!あいきゃんだ!」
「握手して下さい!」
小林「え……どうしよう、時間……」
有紗「ここは私たちに任せて、行きなさい」
すわわ「有紗は寝てていいよ」
有紗「zzz」
小林「えーと……ごめん!お願い!」
すわわ「うむ」 〜
小林「急げー!」
降幡「あれ、あいきゃんじゃん」
高槻「何してんだよ」
小林「二人こそ何してるの?」
降幡「買い物に来てるんだよ」
降幡「大好きな子のために本読むとか言い出した奴がいてよ」
高槻「はぁ〜?そんなこと言ってませんけど〜?」
小林「いいじゃん、読者!」 高槻「それより、あいきゃんはなんで急いでんだよ」
小林「え、あ、そうだった!」
小林「早く家に帰らないといけないの!」
降幡「何かあるのか?」
小林「そうじゃないけど……さよなら!」
高槻「あ、おい……全く、なんだってんだ」
降幡「まあ、でもあれだろ」
高槻「うん、多分あれだろうな」 〜
小林「はぁ、はぁ、あと、少し、」
旅をして、分かったことがある。
世界中にはいろんな人がいて、みんなが支え合って生きてるってこと。
小林「到着……っと!」
誰かを大切に想う気持ちは、何処に行っても変わらない。
想いが通じていれば、なんだってできる、勇気に変わるんだ。
小林「ただいまー!」
ううん、勇気だけじゃない。
想いを重ねれば、奇跡だって、なんだって、起こせるんだから。
小林「待たせてごめんね」
「全く、そんなに慌てなくても大丈夫なのに」
善子「おかえりなさい、小林」
〜fin〜 長篇完結、お疲れ様でした!
最近はこちらのSSを見るのが日ごろの楽しみの一つでした。
素敵な物語をありがとう…! 1月半は経ている長編なんて初で驚き
完結乙、楽しめたよ。定期保守も乙 おい!おい!お疲れ様だよ!楽しませてもらったんだよこっちは!! 神
おつでした。序盤なんかはどうなることかとヒヤヒヤしたが、それすらも綺麗に上手くまとめられてすごいなぁ…好き… 小ネタかと思って読み始めたが、思いの外熱い展開で良かった キャストについてはよくわからないけどとても面白かった!
(由佳って誰…?) >>665
闇杏スレにちょっと顔だしてきたらわかるよ >>665
しゅかの幼馴染で、現在はNGT48のメンバー
二人ともアイドルで幼馴染ということで一緒に雑誌の表紙を飾ったことがあったり、こないだの紅白などでもAKBとして出演するなど共演(?)の機会が多い方 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています