【SS】 よしルビQUEST
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それから数日後…
─内浦のとある廃墟
千歌「全員いる?」
善子「大丈夫、問題ないわ」
曜「それにしてもよくこんなところ見つけてきたね」
梨子「どうやって調べたの?」
千歌「ちょっと色んな人に話を聞いただけだよ」 善子「さてと、それじゃあ実行する場所だけど…どこがいいかしら」
花丸「そうだね、ここから入って真っ直ぐ進んだところに広間があるずら」
花丸「ここだと、あそこが一番嫌な気配がする」
善子「ならそこにしましょう…全員準備はいい?」
善子「……行くわよ」カツンッ ……
…
曜「着いたね…」
千歌「うん、だけど…」
千歌「なんか来たとたん一気に寒気が……」ブルッ
花丸「千歌ちゃん、今ならまだ引き返せるよ?」
千歌「あはは、まさか」
梨子「そんな気ないわよ、誰もね」
善子「……」コトン 善子「よし、配置は済んだわ…最後に」
キュッキュ
曜「何描いてるの?」
善子「六芒星よ、“記憶”の中にあったものから引っ張り出してきたの」
善子「直感だけど、多分これで……扉が開く気がする」
善子「準備は整ったわ、あとは映すだけ」
「「……」」
善子「やるわよ」スッ 持ってきた手鏡を六芒星が描かれた鏡へと向ける。
向き合った二つの鏡は互いに反射を繰り返し、同じ面が先へ、先へと
際限なくずっと続いていく。
その状態からどれくらい経っただろう…5分、いや3分だったかもしれないし
もしかしたら1分にも満たない時間だったかもしれない
静けさと暗闇から溢れる禍々しい気
それがあらゆる角度から突き刺さるような悍ましさを感じて
そんな数字を数えることすらままならなかった しばらくすると不意に終点……目で確認出来る一番奥のところが突如として光り始めた。
小さかった光はだんだん大きくなっていって、遂には
鏡全体を覆うほどの、青白い輝きと化し……もう鏡面には何も映っていない
そしてその中央には、それよりもっと深く青い色に包まれている…自分が描いた六芒星
間違いない、確信を持って言える。
善子「“開いた”っ…!」 花丸「これが……実際に見るのは初めてずら…」ゴクッ
曜「本当に成功、したんだね」
善子(…形も変わっているわね、長方形だった鏡が楕円形になっている)
善子(大きさは…ちょうど1人入れるくらいの)スッ
ズズッ…
梨子「善子ちゃん、手が!」
善子「うん……今ので分かった」 善子「この感触、あのときと似ている」
善子(夢の中で感じ取ったアレと…つまり─)
善子「向こうに、繋がっているっ……!」ダッ
ブォンッ
花丸「善子ちゃん!?」
曜「消えたっ! 入れたってこと!?」
千歌「それより早く追いかけなくちゃ!」タッ
梨子「ええ!」
ヒュンッ ヒュンッ
ズッ ズズズズゥゥ……
……
… 死神「……」ピクッ
ルビィ「あれ? 何だろう……なにか」
死神「…来る」
ルビィ「え?」
トンッ
善子「……ふぅ、意識だけだったとはいえ二回目ともなると流石に少しは慣れるものね」
ルビィ「…善子ちゃん? 本当に……?」
善子「…ルビィ、会いたかったわ」
死神(ほう…成程そうか、あの娘が)
死神「まだ他にも来るな、数は3…いや4か」 シュンッ スタッ
千歌「わっとと…着いた?」
梨子「みたいね」ホッ
花丸「─! ルビィちゃんっ!!」
ルビィ「花丸ちゃん! それにみんなも…!」
死神「なんだ顔見知りか」
曜「! 待って、ルビィちゃんの隣にいる人」
曜「善子ちゃん……じゃないね、似てるけど」
善子「ええ、あれが恐らく…」 善子「ねえ、あんたよね…ルビィをここへ連れ去ったのは」
死神「そうだが」
死神「お前、私の言葉が分かるのか」
善子「は? 何言ってるのよ、分かるに決まって……!」ハッ
「「……?」」
善子「え、嘘でしょ…まさか」 善子「…ねえ皆、あいつの言ってること」
梨子「…うん、全く聞き取れない…さっきの善子ちゃんの言葉も、何を喋っているのか」
梨子「私たちにはこれっぽっちも…」
善子「……私も? それってどういう─」
死神「ふむ、これで決まりだな」
死神「津島善子───お前か、私の来世は」
善子「……えっ……?」 善子「来世…って、なに?」
死神「知らないか、ここまで来たのなら少しは身に覚えがあってもおかしくないと思っていたのだがな」
善子「どういう意味よ」
死神「言葉通りの意味だが?」
死神「お前に私の知識や記憶を借りた経験はないのかと聞いている」
善子「!」
死神「今抜けてきた道もそうだな、ここへ明確に繋がるよう六芒星を用いて行く先を固定したみたいだが」
死神「一体何をもってそれを正しいと判断した」
善子「……」 花丸「…ねえ善子ちゃん、あっちの人、なんて」
善子「…私があいつの来世だって、言ってる」
花丸「来世って…! じゃああの人は善子ちゃんの前世の姿なの…?」
梨子「確かに似てるとは思っていたけど……まさかそんな」
善子「いや、あり得ない話じゃないわ、寧ろ…それで今までの辻褄が合うくらい」
善子(だとすると…魔術書の文字が読めたのも、今向こうと会話が出来ているのも)
善子(多分その言語に対する知識が、私の中に無意識に備わっていて)
善子(実際に本物に触れることで、その記憶が蘇るきっかけになったから……?)
善子「けど、もしそうなら…」 善子「ルビィ! 貴女も彼女の言葉を聞き取れたりするの?」
ルビィ「え? うん、分かるけど」
善子(思った通りか……)
ルビィ「やっぱり他のみんなは死神さんの言葉、分からないんだね」
善子「死神、それがあいつの……」チラッ
曜「!……」コクッ
善子「ふーん、ずいぶんと物騒な名前なのね」 死神「別に私が名付けたわけではないが、真名を名乗る気もないのでな」
死神「敢えて使わせてもらっている」
善子「へえ…まあそんなことはどうでもいいのよ、それより」
善子「ルビィがあんたの言語を理解できる、その理由が知りたいんだけど」
善子「私が思うに、あの時の選別もそれを確かめるためのものだったんじゃないの? 違う?」
死神「教える必要はないな」
善子「さっきは色々と喋ってくれたみたいだけど?」
死神「私が確認するためだ、それが済んだ以上話す道理は存在しない」
死神「そしてお前らにも用はない、消えろ」 善子「あっそう、ならその前に─」
死神「何?」
曜「ルビィちゃんを返してもらうよ!」ヒュンッ
死神「」スッ
ルビィ「よ、曜さん!? いつの間に」
曜「かわされたかっ……でも」
曜「今だよ二人とも!」 グイッ
ルビィ「花丸ちゃん! 千歌さんも!」
千歌「ルビィちゃんこっちに!」
花丸「早く逃げるずら!!」
ダダダッ
死神「…ほう」
死神「先ほどの会話は時間稼ぎだったか、咄嗟に思いついたものにしては上出来だ」 曜「もう一回!!」ブンッ
死神「だが、そこの身軽な小娘」
死神「再び私に挑みにきたのは間違いだったな、愚の骨頂だ」パシッ
曜「なっ……」
死神「脆弱すぎる、話にならん」
メキメキメキッ
曜「…っ……い…! ああああぁぁぁぁああ!!!」 千歌「曜ちゃんっ!!」
曜「ぁぐっ……! うぅ………かはっ…!」
梨子「やめて! 離してっ!!」
善子「嘘でしょ…曜さんが、あんな…」
死神「痛みへの耐性もこの程度か……全く、どれほど温い人生を歩んできたのか計り兼ねるな」
死神「…いや待て、逆に言えばそういった生活を送れるだけの秩序が保たれている、ということになるのか?」
死神「……確かめてみるか」 死神「ルビィ、それと善子だったか、聞こえているだろう?」
ルビィ・善子「……」
死神「どちらでもいい、私の質問に答えろ」
ルビィ「答えたら、曜さんを放してくれるの?」
死神「そうだな、お前もこちらに戻ってくれば解放してやる」
善子「っ…ふざけないでよ!!」
死神「生殺与奪の権を握っているのは私だ、この意味が分かるな」
善子「…反吐が出るわね」
死神「ふん、耳慣れた言葉だな」
ルビィ「……」
死神「さあ、返事を聞かせてもらおうか」 毎度続きが気になるところで止めよる……
お伝えしておきます ルビィ「…分かった、でももう少しだけ待って」
ルビィ「みんなと決めたいの」
死神「構わん、だがなるべく手短に済ませてもらう」
善子「……っ」
花丸「善子ちゃん、ルビィちゃん、さっきから何を…?」
善子「…向こうは私たちに聞きたいことがあるみたい」
善子「だから質問に答えてルビィもあっちに送り返せば、曜さんは解放するって」
善子「そう言ってるわ」
梨子「それって人質じゃない!」
花丸「…どうするの?」 善子「もちろん曜さんのことは見捨てたくない……けど」
善子「ルビィをあいつの元に戻らせることも…私には出来ない」
善子「折角ここまで来たのに…っ…! どうすれば!」
ルビィ「……」
ルビィ「善子ちゃん、あのね」
ルビィ「ルビィ、死神さんのところに戻ろうと思うの」
「「!!」」
ルビィ「それが一番、無事に終わらせられる解決方法だと思う」
善子「な…何言ってるよ! 駄目に決まってるでしょそんなの!!」 善子「まだ曜さんを取り戻す方法だってあるかもしれないじゃない!」
ルビィ「ううん、無理だよ」
善子「無理じゃないわよ! さっきだって上手くいったじゃないの!」
ルビィ「最初はね、でも二度目はない」
ルビィ「あの時は死神さんの不意をついたけど、流石にもう警戒されてる…それに」
ルビィ「もう一度それをやろうとしたらきっと、死神さんは曜さんを殺すから」
千歌「…嘘だよね?」
ルビィ「本当だよ、間違いなくそうする」
ルビィ「あの人にね、迷いはないの…多分殺す時も躊躇は一切しない」
ルビィ「でも約束さえ守れば、無事に返してくれるはずだよ」
ルビィ「だから、ルビィが行かなくちゃ」 善子「だけどっ!! そんな奴のところに行かせるなんて尚更!!」
ルビィ「ルビィなら大丈夫」
善子「何でそう言い切れるのよ!!」
ルビィ「死神さんはルビィを絶対に殺せない」
ルビィ「“その日”が来るまで、ルビィに死なれたら困るから」
ルビィ「だから安心して」 千歌(それって…)
梨子(その日が来たら確実に死ぬってことじゃない…!)
ルビィ「曜さんを助けたいの…お願い善子ちゃん」
善子「……」
ルビィ「ルビィに行かせて」
善子「………分かった、わよ…」グッ
善子「でも……今だけだからね、次は絶対に助ける」
善子「必ずよ……私は絶対に、貴女のことを諦めないから」
ルビィ「うん、ありがとう……みんなもごめんなさい、折角ルビィを助けに来てくれたのに」 梨子「…謝るのは私たちの方よ、結局…何の役にも立てなかった…!」
ルビィ「そんなことないよ、嬉しかったもん」
花丸「…」
ルビィ「花丸ちゃん、善子ちゃんのことお願いね」
花丸「……任せるずら」
善子「…………」
ルビィ「善子ちゃん、ルビィ信じてるからね…善子ちゃんがまたここに来てくれるって」
善子「…当たり前よ、何度だってやってやるんだから」
ルビィ「うん、待ってる」ニコッ 死神「……」
ルビィ「そろそろ危ないかも…でもその前に」
ルビィ「善子ちゃん、聞いて」
ダキッ
善子「…ルビィ?」
ルビィ「──────」
善子「!!」
スッ
ルビィ「じゃあまたね、善子ちゃん」クルッ 死神「決まったのか?」
ルビィ「うん、今からそっちに行くね」
死神「……」
スタスタ
ルビィ「はい」
死神「よし、戻ってきたな」
ルビィ「早く曜さんを放して」
死神「いいだろう、約束だ」パッ
曜「うぐっ…! はぁ……はあ…!」
ルビィ「曜さん!!」
曜「ルビィちゃ…ごめ……足、引っ張って…」ヨロ
ルビィ「そんなのいいよ!」 ダッ
千歌・梨子「曜ちゃん!!」ギュッ
曜「千歌ちゃん……梨子ちゃん…」
善子「曜さん、ごめんなさい…私のせいで」
死神「集まったな」
死神「少し離れていろ、もう術式は仕込んである」
ルビィ「…うん」 バチッ バチバチッ…
善子「な、何? なんなの!?」
ブォンッ
花丸「! いきなり真下に…」
善子「この模様っ…! これ、まさか!!」
善子(私たちを飛ばすための!?)
死神「言っただろう、お前達に用などないと」
死神「時間だ、全員まとめてここから出ていけ」
善子「待っ──」シュンッ フッ…
死神「行ったか」
ルビィ「それで、聞きたいことって何?」
死神「あの娘達が送っている生活は、お前らの国では普通にあるものなのか」
死神「それとも特別なものとして扱われているのか、どっちだ」
ルビィ「…そうだね、ルビィのところは分からないけど」
ルビィ「善子ちゃんたちは多分、普通だと思うよ」
ルビィ「そこまで特別なことでもない気がする」
死神「…そうか」 ルビィ「ねえ、ルビィも聞いていい?」
死神「何だ」
ルビィ「あなたの記憶、善子ちゃんはどこまで見れるの?」
死神「今はまだ大して引き出せてはいないだろうな、しかし」
死神「今回ここに来たことと、アレが復活する際の影響を考えると」
死神「存外早く、全てを理解する日が来るかもしれん」 ルビィ「全部……見るんだよね」
死神「恐らくな、だが」
死神「お前だけは絶対にそれを見るな、いいか、絶対にだ」
ルビィ「……」
死神「一生記憶の底に閉じ込めて出さないようにしろ……要らん傷を負いたくなければな」 シュイン
善子「! ここは…やっぱり戻らされたのね」
善子「みんな無事? 曜さんは?」
梨子「大丈夫ここにいるわ、でも」
曜「…痛ぅ……」
梨子「腕の腫れが酷いから早く病院で診てもらわないと」
梨子「それにいつまでもここにいるのも危ないし、早くここから出ましょう」
善子「…そうね」 千歌「行こう、曜ちゃん」
曜「…ありがと」
善子「……鏡が割れてる、どこまでも徹底してるわね」
善子「…っ!」ガンッ
花丸「善子ちゃん」
善子「…分かってる、大丈夫、すぐ切り替えるから」ハァーッ
善子「……行きましょ」
カツンッ カツンッ
善子(待ってなさいルビィ、そして死神)
善子(私は必ずそこに戻る) ─それから数日後
善子「……」トントン
『善子ちゃん、聞いて』
『ルビィたちがやった儀式はあくまでも補助、本命は別のところにある』
『それと、重要なのは数字』
『あの時のこと、もう一度思い出してみて』
『あとね、最後にお願いが……』
善子「重要なのは数字、あの時のこと……つまり」カキカキ 善子「この方法を使って……出来た、でもこれに一体何の関係が」パラッ
善子「…ん? またページが直っているわね、今度は何が書かれて…」
善子「! これって……成程ね、だから…」
善子「ありがとうルビィ、おかげでようやく分かったわ」
善子「そういうことだったのね」
……
… ─さらに数日が経って
善子の部屋
ガチャ
曜「お邪魔しまーす!」
千歌「善子ちゃんこんちかー!」
善子「元気そうね二人とも」
梨子「花丸ちゃんも来てたのね」
花丸「うん、ちょっと前に」 善子「曜さん、腕の具合は?」
曜「もう平気だよ! ごめんね心配かけて」
梨子「お医者さんも驚いてたわ、凄い回復力だって」
千歌「流石曜ちゃんだね!」
善子「そう、良かったわ」
曜「えへへっありがと…あっ、そうだ善子ちゃん!」
善子「ん? なに?」
曜「あのとき頼まれていたやつ、ようやく分かったよ!」 善子「本当に?」
曜「梨子ちゃん、あれお願い」
梨子「ええ」ゴソゴソ
梨子「はい、これが詳しく書かれている本よ」
善子「……」
花丸「うーん確かにそっくりずら……ねえ二人とも、これ何語だったの?」
曜・梨子「ヘブライ語」 千歌「へぶらい?」
曜「イスラエル国で使われている公用語、らしいよ」
梨子「名前が似てるから誤解されがちだけど、イスラム国とは違う国だからね、勘違いしちゃ駄目よ」
千歌「ほえ〜、そうなんだ」
花丸(ん? でも確かイスラエルって…)
善子「…やっぱりね」ボソッ
善子「二人ともありがとう、これで確信が取れたわ」 曜「何か分かったんだね」
善子「ええ、例の事件が起きた原因」
善子「それはやっぱりこの魔術書が引き起こしたものだということが、分かったわ」
善子「そしてその術式がどんな要素で構成されているのかも」
梨子「……」
善子「理由も含めて一から説明するわね」 善子「まずはこの図を見て」カサ
千歌「あ、これアニメとかで見たことあるよ! 確か」
千歌「セフィロトっていうんだよね!」
善子「正解、実は数日前にまた魔術書のページが修復されててね」
善子「そこにこれが載っていたの、今見せてるのは私が簡略化したものだけど」
善子「これでも充分伝えられると思うわ」
https://i.imgur.com/Z09BT44.jpg 梨子「ページに載ってたということは、この図も重要なものの一つなのよね?」
善子「ええ、取り敢えず簡単に説明すると」
善子「セフィロトの樹はカバラという西洋魔術において大きな影響を与えた神秘主義、思想から生まれたものの一つで」
善子「別名、生命の樹とも呼ばれているわ」
善子「ちなみにセフィロトというのは複数形で、一つ一つはセフィラと呼ばれているの、この丸いやつがそうよ」
善子「で、こっちの各セフィラを繋いでいる道がパスって名前」
善子「この10の球体と22の道が合わさって出来たもの、その名称がセフィロトの樹なの」
善子「ただ今回は知識のセフィラともされている11個目、ダアトも含めて話を進めるわね」
善子「セフィロトは球体一つ一つとそれを繋ぐ道、その組み合わせ全てに意味があるとされているんだけど」
善子「それを一個ずつ説明していくとキリがないから、重要な部分だけ触れていくわよ」 善子「まずカバラの理論では、この世界は4つに分けられていると言われているの」
善子「初めに神、創始の世界とされるアツィルト、それに次ぐ創造の世界ブリアー」
善子「更にそれらを形成する世界イェツィラー、最後に私たちが生きている現実世界アッシャー…この4つ」
善子「で、ざっくり言うとここの一番上、最上界には神の魂が宿っていて」
善子「そこに辿り着くことで人は至高の幸福を得られるだろうというのがカバラの教義なのね」
善子「線で分けるとこんな感じ」キュッキュ
善子「死神はこれを利用して、この世とあの世を結ぶ道を創ったのよ」
https://i.imgur.com/vjDoiMv.jpg 花丸「でもどうやって?」
善子「数字よ」
花丸「数字?」
善子「カバラの考えの中でも有名なものがあるわ、数秘術と呼ばれるものよ」
曜「あっ、それ知ってる、占いでよく見るやつだ」
千歌「生年月日を入れるやつでしょ? 私も知ってるよ」 善子「そう、年月日の数字の足し算を繰り返して、最後の一桁の数で運命を占うといったものね」
善子「タロットとかにも使われていたりするわ」
善子「この数秘術を奴は発動させる魔術の基盤、トリガーとして、術式に組み込んだの」
善子「そうして起こったのがあの赤夜失踪事件」
善子「奇しくも私たちが最初に思っていた通り」
善子「あれは偶然の産物ではなく、死神の手によって意図的に引き起こされたものだったってわけね」 梨子「術が発動した日が、何か数字的に意味のあるものだったということ?」
善子「ええ、私は最初月のほうに何かがあると思っていたけど」
善子「ストロベリームーンという存在にまんまと踊らされたわ」
善子「よくよく考えてみればこの魔術書が日本以外の国にあった場合」
善子「時差や緯度経度の関係で赤い月は見ることが出来ないし、そうなれば本末転倒になる」
善子「なら何かそれ以外の要素があると考えるのはおかしくないはずなのに、まだ浮ついていたのかしらね」
梨子「善子ちゃん…」
善子「ごめん、話を戻すわね」 善子「いい? 重要なのはここ……事件が起きた当日の2018年6月28日」
善子「これを数秘術で計算すると…」
善子「2+0+1+8+6+2+8=27 ここから更に分けて2+7=9…9の数字が出てくるわけね」
善子「だけどこれで終わりじゃない、この数字の計算を更に年、月、日の三つに分けて計算する」
善子「そうすると…2018は11、6月は6、28日は10と1…合計五つの数字が浮かび上がるわ」
善子「そしてこの数字をさっきのセフィロトに合わせて繋げると…」ツゥー
「「「!!?」」」
善子「現実世界から神の魂へと繋がる一本道の完成よ」
https://i.imgur.com/aQ3GoBB.jpg 曜「ん…? ちょっと待って善子ちゃん、確かに道のほうは今ので分かったけど」
曜「繋げるためには本に書いてあった器…命が必要だったんじゃないの?」
善子「その通りよ、けどその器が何かももう分かっているわ」
梨子「本当に? ねえ、一体誰の命だったの?」
善子「死神よ」 千歌「死神って善子ちゃんの前世の人、だよね? でもその人ってもう死んでいるんじゃ…」
善子「そうね、そこも私が誤解していた部分の一つだったわ」
千歌「どういうこと?」
善子「つまり結論から言うと、そこに命さえ宿っていれば」
善子「その対象は生きた人間じゃなくても良かったってことよ」
花丸「! 善子ちゃんそれってまさか……その本が?」 善子「ええ、この魔術書には死神の命が宿っている」
善子「そして自分の命を器として、現世と冥府を繋げたの」
曜「本に命って…そんなことあり得るの?」
花丸「そこまで変な話でもないよ、日本にも付喪神<つくもがみ>といった伝承があるように」
花丸「長い年月を経たものには魂が宿ると云われているの」
花丸「また、呪いの人形みたいに作り手の念が強く込められているものには」
花丸「作り手の命が吹き込まれ、その人形が生きているかのように見えたりする」
花丸「心霊現象とかで人形の髪が伸びていた、っていう映像を見たことはある?」
千歌「うん」
花丸「あれにはそういったものも少なからず含まれているずら」 曜「じゃあ死神は…自分の命を奉げてまでこの魔術書を…」
善子「恐らく死に至るその際まで書き続けたんでしょうね、そうなることも狙って」
善子「全く、本命とはよく言ったものだわ」
梨子「なら、本のページが直っていったのは?」
善子「術の発動によって魔術書に宿っている死神の命と冥府にある魂が繋がったから」
善子「おかしいと思わなかった? ルビィはともかくとして」
善子「どうして魂だけの存在である死神が、冥府とはいえ自分自身の実体を持っていたのか」
梨子「そういえば……確かに」 善子「答えは簡単よ、あの日から時間の経過とともに死神は本来の力を取り戻しつつあるの」
善子「だから実体もあって、こっちにある魔術書のほうも」
善子「自然と元の完全な状態に近づいていってたというわけ」
梨子「成程ね…だとすると、善子ちゃんが言ってた情報や記憶が流れ込むっていうのは…」
善子「死神が力を取り戻していくにつれて、前世である私もそれによる影響を強く受けていたから」
善子「要は力が戻った分だけ、私は奴からその知識を授かっていたということになるわ」 曜「そういうことかあ…色々納得したよ」
曜「でもそれならさ、善子ちゃんとルビィちゃんがやった儀式には一体どういう意味があったの?」
曜「今までの話をまとめると魔術もそれに必要なものも、全部死神が用意していて」
曜「時間が来たから勝手に発動されたってことになるけど」
善子「ルビィの言葉と私の記憶から推測するに、あれは恐らく召喚術だと思うわ」
曜「召喚?」
善子「そう、前世の血を通して発動よりも早いうちに現世と繋がるためのもの」
善子「まあ曜さんも言った通り、その日が来れば勝手に本陣が発動するからこれはあくまで補助なんだけど」
善子「その儀式も予期せぬ結果で失敗に終わったわ」 梨子「予期せぬ結果? 聞いていて何かおかしい部分があったとは思えないけど…」
善子「注目するのは、この儀式には前世の血が必要だったというところ」
千歌「んーと…そっか分かった、ルビィちゃんだ!」
千歌「あれってルビィちゃんと二人でやったものなんでしょ? なら」
花丸「…そこにはルビィちゃんの血も混ざってる」
善子「そういうこと、つまり私とルビィの血が混ざりあったことで向こうは判別することができなかったのよ」 善子「さてと、これで大体の解説は終わったわね……じゃあ最後に」
善子「死神、彼女は一体何者なのか…その正体について話すわ」
善子「まずこの魔術書に書かれている言語、ヘブライ語」
善子「現在ではイスラエル国で使われているものだって二人も言ってたわね」
梨子「ええ」
善子「けどそれは今の話、考証をするにはもっと昔の時代まで遡る必要があるわ」
曜「そっか、昔に書かれたものだもんね」
善子「それで過去の話になった場合、このイスラエルというのは国でもそこに住んでいる国民でもなく」
善子「イスラエル人という部族のことを指していたの」 善子「当時イスラエル人は他民族からヘブライ人とも呼ばれていたわ」
千歌「ヘブライ人、言語と同じ名前だ」
善子「そう、ともすれば書かれている文字にヘブライ語が使われていても何らおかしくはない」
曜「じゃあ死神の正体は、昔のイスラエル人、ヘブライ人だったってこと?」
善子「いいえ正確には違うわ、正式に呼ぶならそうじゃないのよ」
曜「え?」
善子「確かにここまで聞くと死神はイスラエル人なのかと思うかもしれないけど」
善子「その前にもう一つ、確認しなくちゃいけないものがあるわ」
善子「それがこの魔術の大元になっているカバラ」 善子「セフィロトを生み出した思想、神秘主義というのはさっき説明した通りだけど」
善子「まだ触れていない部分があるの」
千歌「なに?」
善子「その思想や主義はそもそもどこから来たものなのか、ここについて」
善子「そしてそれを突き止めることこそが、奴の秘密を暴くうえで最も重要な鍵になったの」
花丸「……」 善子「最初に、カバラが形成されたのは12〜13世紀の中世…カバラとはヘブライ語で<伝承>を意味していて」
善子「この教義はユダヤ教の伝統に基づいた神秘主義思想として作られた」
善子「本来は宇宙の真理や神に対する追求を行うためのものだったけれど、いつしか思索と魔術に分けられ始め」
善子「そして魔術側の教義が西洋魔術の基盤として広がり始めたのは15世紀あたりから」
善子「また、現在の話に戻るけどイスラエル国は」
花丸「住民の8割がユダヤ人、宗派もユダヤ教が多数を占めているずら……ということは」
善子「そう、つまり私の前世、死神の正体は────」
善子「ユダヤ人なのよ」 曜「ユダヤ人って言うと……あの?」
善子「まあ私たちがどういう印象を持っているかはこの際関係ないのよ」
善子「大事なのは当時、彼女がその民族であったために誰に何をされてきたのか」
善子「死神がこうなるまでに至った過程ときっかけ、それを知ること」
「……」
梨子「…魔術といえば、確かその時代にそれに関係する有名なものがあったわよね」 善子「ええ、中世ヨーロッパで15〜18世紀にかけて行われた」
善子「魔女狩り、魔女裁判」
善子「詳しいことは分からないし、その記憶もまだ見つけられないけど」
善子「多分それが、全ての始まりなんじゃないかしら」
善子「とにかく、私が分かったのはここまで」
善子「また何かあったら教えるから、そっちも色々調べてみてね」
千歌「うん、わかった」 曜「それじゃまたね」
善子「ええ、お疲れさま」
花丸「……」
善子「? 何よ花丸、帰らないの?」
花丸「帰る前に話しておきたいことがあって」
善子「…なに?」
花丸「魔女裁判は……証拠がなくても被疑者を罰することが可能で、いや」
花丸「裁判とは名ばかりの人種差別による迫害ずら」 善子「……」
花丸「それともう一つ」
花丸「ルビィちゃんも本の文字、ヘブライ語を読むことが出来たんだよね? …ということは」
花丸「ルビィちゃんの前世もユダヤ人である可能性が高い」
花丸「日ユ同祖論なんていうのもあるくらいだから、そんなに妙な話でもないと思うし」
花丸「…だからね善子ちゃん」
花丸「そのルビィちゃんを死神が連れ去ったということは」
善子「…ええ、私も同じことを考えていたわ」
善子「恐らく直接的な被害を受けたのは死神ではなく…」
善子「“そっち”のほうなんだってね」 =====
===
=
……………………
善子(……ぅ…うぅん…?)
善子(あれ、ここは…確か)
死神『…何? お前の前世のことを知りたいだと?』 善子(! この声! ということはやっぱりここは冥府……でも)
善子(どうして死神の声が聞こえるようになったのかしら)
ルビィ『うん、なんでルビィがここに来たのか、それは分かったけど』
ルビィ『死神さんがそこまでする理由が知りたいの』
死神『知る必要は『あるよ』
ルビィ『だって、そのためにルビィの命を使うんでしょ?』
善子(!!)
死神『受け入れている割には随分と落ち着いているようだが?』 ルビィ『うん、善子ちゃんが助けに来てくれるからね』
死神『無駄だと思うがな、仮にここへ来たところで邪魔はさせん、阻止するだけだ』
善子(まあ、実際手も足も出なかったしね……悔しいけど)
善子(…ってそうか、これ…今より少し前の死神の記憶なんだ)
ルビィ『それなら教えてくれてもいいでしょ? どうせルビィしか聞かないんだから』
死神『ほう意外と強かな奴だな、いいだろう』
死神『確かにお前には知る権利がある、前世として、その当事者として』
死神『私の過去を知る資格が……それに』
死神『お前の記憶を蘇らせるよりは、私の口から話しておいた方が楽かもしれん』 ルビィ『記憶……』
死神『ああ、お前にとっては負の遺産にしかならない』
ルビィ『どういうこと?』
死神『これからする話を聞けばすぐに分かることだ、だがその前に』
死神『話をするにあたって、まず始めにあいつの名前を教えておく必要があるな』
ルビィ『あいつって、ルビィの?』
死神『そうだ、名前はマリア……私の妹だ』
善子(妹!?) ルビィ『え? 死神さんってお姉さんだったの?』
死神『血の繋がりは無いがな、単に向こうが私を姉と呼んでいただけだ』
死神『しかし私はそれを止める気はなかった、血の繋がりなど私にとっては些細なことだったからな』
死神『それに、自分を慕ってくれていることに──悪い気はしなかった』
死神『いいや違うな……嬉しかったんだ、私は』
グワングワンッ
善子(っ!? 何……急に景色が……) ──
「……ちゃん…お姉ちゃん」
「エステルお姉ちゃんってば!」
エステル(現死神)「…なんだマリアか、どうした」
マリア(前ルビィ)「なんだどうしたじゃないよ、族長様が探してるよ」
エステル「族長…どうせいつもの煮え切らない話だろうが」
マリア「そんなこと言ったらまた説教されちゃうよ、ほら早く!」
エステル「はあ…行けばいいんだろう」 族長「……であって…故に……」
エステル(相変わらずつまらんな、救世主<メシア>の到来がどうだのと、それしかないのか)
エステル(とはいえ、こんな日々が続けばその思想に囚われるのもやむを得ないのだろうが)
エステル「……」
エステル「族長、一つ聞いても宜しいでしょうか?」
族民「おいエステル! お前また族長の話を!!」
族長「構わん、言ってみろ」
エステル「その救世主というのはいつ我々を救ってくれるのでしょうか」
「!!」
族長「貴様…自分が何を言っているのか分かっておるのだろうな」 エステル「我らが神を否定しているわけではありません、しかしながら」
エステル「それらとは別に我々が直面している問題があることも確かです」
エステル「例えば3日前に処刑されたラバン、彼は祈りを捧げていたところを偶然街の者に発見され」
エステル「魔女の疑いを掛けられ、聴取という名の長い拷問の末に処せられました。彼を含めてこれで19人目です」
エステル「このことについてはどうお考えでしょうか」
族長「我々には使命がある、多少の犠牲はやむを得まい」
エステル「その犠牲で何が変わったのでしょうか、寧ろ敵を倒した事実や快楽を機に」
エステル「街の人々の結束が強まっているようにも見えますが」 「……」
エステル「それでもまだ、彼らの死は無駄ではないと言うのですか」
エステル「いや、たとえそうだとしても、周囲の懐疑の念は留まることを知りません」
エステル「恐らく近いうちにまた犠牲者がこの中から出るでしょう」
エステル「なれば族長、生き残るためにもそのような行為は極力控えるべきなのでは「エステル」
族長「そこまでだ、口を慎め」
族長「それ以上は我らが神、そして我が一族への冒涜とみなすぞ」
エステル「…失礼いたしました。しばらくあちらで瞑想をしてきます」 エステル「…」スタスタ
ゲシッ ガンッ バキッ
「……ごふっ…ぉ…」
「早く立てよ、おい、このくらいで倒れてるんじゃねえぞ」
「仕方ねえな、こっちで遊ぶか…お前ら身体押さえてろ」チャキッ
「!! や、やめろ!やめてくれ!!」
「そうだ、せっかくだから何か書いてやるよ! 俺の名前を入れてやるからありがたく思え!!」ガリガリ
「やめっ…ぎゃああああああああぁぁぁぁああ!!! 離せ!離してっ…」
「ああああああああ!!」
エステル「…これを仕方のないことだというのか」
エステル「……私には、理解できん」スタスタ 族長「……」
族民「長、いいのですかあのまま放っておいて!! 先程の失言の数々! あれはもはや異端の領域ですよ!」
族民「いくら才覚に恵まれているとはいえ!!」
族長「分かっておる、だがここから追い出すわけにもいかなかろうて」
族長「あ奴は全てを知っておる、我らが目指している真理に最も近い場所にいる…いわば神の子なのだ」
族長「神が我らに遣わした希望の子、それこそがエステルなのだよ、ならばそこには必ず大きな意味があるのだろう」 族民「しかし!」
族長「確かに常軌を逸した存在はその思想すらも、常人には理解し得ないものだと言う」
族長「だが考えてもみろ、それが神の啓示でもない限り、奴の言い分を理解する必要がどこにある?」
族長「だから言わせておけばいい、所詮やつの言葉に耳を傾ける者などどこにもいないのだからな」
族長「それは……成程、確かにその通りかもしれません」
族長「我らはただ祈っていればよい、救世主が現れるその日まで」
マリア「……」 ─
マリア「だって」
エステル「いかにも向こうが言いそうなことだ、馬鹿馬鹿しい」
マリア「そんなこと言うから皆に避けられるのに」
エステル「構わんどうでもいい、それにマリアは近くにいるだろう?」
マリア「楽しいからね、お姉ちゃんといると」
マリア「他の人と考えてること全然違うし、話していて面白いもん」
エステル「そうか…なら、私に賛同しているお前も異端というやつなのかもな」フフッ
マリア「えへへっ、そうかも」 マリア「ねえ、ところでさっきから何を書いてるの?」
エステル「これか? 新しい術の構築式だ、ルリアの輪廻転生の思想…あれを基に私なりの解釈を少し書き加えている」
エステル「今のメシア待望論は大体がルリア神学のせいだが、彼の思想自体は実に興味深い」ジャリジャリ
マリア「えっと、よく分からないけど…そんな大事そうなことを地面に書いていいの?」
エステル「ああ、少し土をいじればこの通り証拠も消せるからな、理論を頭に入れるだけならこの方法が一番いい」ザザッ
マリア「成程…やっぱりお姉ちゃんはすごいねぇ」 マリア「でもなんで輪廻転生の術にしようと思ったの?」
エステル「仲間の無念を晴らすためだ…あんな最期では、皆救われはしない」
マリア「……」
エステル「先にも言ったように救いがいつ来るのかなど、誰にも分かりはしないんだ」
エステル「ならばせめて、生まれ変わった先で安らかに過ごしてほしいと…そう思ってな」
エステル「それだけだ」
マリア「そっか…そうだよね、みんな大切な仲間だもん…」
マリア「分かるよ、私もお母さんやお父さんがそうなっていたらいいなって思うから」
エステル「…そうか」 マリア「うん、だから応援してるね」
エステル「必要ない、すぐに終わらせるからな」
マリア「えー」
エステル「まあ一応受け取ってはおくがな」
マリア「ならいいんだけどね、えへへっ!」ニコ
エステル「それよりもマリア、このことはむやみに口外してはいけないからな」 マリア「うん」
エステル「ただでさえ魔女の件で疑いが強まっているんだ、もし知られようものなら…」
マリナ「分かってるよ大丈夫、絶対に言わないから!」
エステル「ああ、そうしてもらえると助かる」
エステル(…流石に心配しすぎか、ここは街はずれで滅多に人が来ない場所…それに)
エステル(私の一族ですらここへ立ち寄ることはそうないんだ、だからこそ私もここを拠り所にしている……だというのに)
族民「…………」サッ
エステル(…何だ? この、妙な胸騒ぎは……) 族長「…成程な、そのようなことが」
族民「ええ、奴はルリアの思想も完全に理解出来ているようでした」
族長「この短期間でか、流石は神が与えた才だな」
族民「はい、しかし我らが救世主を否定するようなあの思想はやはり危険かと」
族長「ふむ…考えを改めさせることが出来れば、我らに大きな恩恵がもたらされるのは間違いないのだが……」
族長「どうしたものか」
族民「長、それなのですが一つ提案がございます」 族長「何だ?」
族民「エステルが自分の主張を曲げないのは奴自身の我の強さもあるでしょうが」
族民「それ以上に大きく関わっているのが奴に理解を示す者、マリアの存在です」
族長「マリア、確かエステルを姉と慕っていた娘か」
族民「はい、自分を肯定してくれる者がいるからこそ、より正しいと信じて疑わないのでしょう」
族民「それならば話は簡単です、奴からその要素を消してしまえばいい」
族民「肯定してくれるものがいなくなれば、エステルも己の間違いに気付くはずです」
族長「ほう…して、どうするつもりだ?」 族民「奴も言っていたでしょう、懐疑の念は留まることを知らないと」
族民「ならばその疑いは緩和しなければなりません、そう、信頼という形で」
族民「マリアにはそのための尊い犠牲となってもらいましょう」
族長「ふむ。話を詳しく聞かせてもらおうか」
……
… ─
「で、貴様らの用件とは何だ」
族長「身内から魔女を見つけた。その始末に手を貸してもらいたい」
「! ハハッ、そうか“売り”か!! 面白い…いいだろう、暫くの間は貴様らに手を出さないことを約束しよう」
「それで、対象はどいつだ?」
族長「二人いる、一人は観賞側、もう一人はその見せしめだ」
「観賞に見せしめ…となるとアレだな」
族長「ああ、被疑者の名はマリア」
族長「これから我らの礎になる少女だ、宜しく頼むぞ」 マリア「〜♪ 〜〜♪」
マリア(今日はお姉ちゃん、何してるかなー)
族民「マリア、少しいいか?」
マリア「? 何でしょうか?」
族民「確かお前はエステルと関係が深かったよな?」
マリア「は、はい」
族民「これはまだ公には広まっていないのだがな……奴に魔女の疑いが掛けられている」
マリア「!!?」 族民「聞くところによると、奴が怪しい動きをしている現場を目撃したとのことだ」
マリア「そんな…」
族民「まあいつもの言いがかりという可能性もあるが、お前はどう思う?」
族民「何かそのことについて思い当たる節はないか?」
マリア「それは……」
マリア(…え、なんで? どうしてバレたの……?)
マリア(お姉ちゃんがそんな簡単につけられるはずがない、なのに……)
マリア(……もしかして、私のせい、なの…?)
マリア「…っ……」
族民「…」ニタ 族民「マリア」
マリア「」ビクッ
族民「分かっているとは思うが決められてしまった以上、遅かれ早かれ裁きは下されるだろう」
マリア「あ……」
族民「だがマリアよ、実をいうとエステルが生き残る術はまだ残っているのだ」
マリア「ほ、本当ですか!?」
族民「ああ、エステルの代わりとなる魔女を見つけ、執行前にすり替えればよい」
族民「それが連中の魔の手から逃げのびる術であり、またこの方法しか奴が助かる道はない」 マリア「……」
族民「我らとしても、あれ程恵まれた素質があるものの幕をこのような無残な形で終わらせたくはない」
族民「しかし先程も言ったように、このことはまだ公には知られていないし、知られてもいけない」
族民「それゆえ周囲に悟られないよう、この計画は秘密裏に進める必要がある」
族民「代わりといってもそれが出来る人間は限られているのだ」
マリア「…!」ゾクッ
マリア(それって、つまり…)
族民「これがどういう意味か、分かるよな」 マリア(…嫌だ、怖い……怖いよっ……)ガタガタ
マリア(…でも、私のせいでお姉ちゃんがこうなったのなら…)
マリア(私が、助けなくちゃ…)グッ
マリア「…………はい」
マリア「私がエステルの代わりを務めます」
族民「マリア、いい子だ」ニコ
族民「お前に神の御加護があらんことを…」 ====
スタスタ
エステル「……妙だな」
エステル「ここ最近、どこに行っても傷つけられている者の姿を見かけない…」
エステル「迫害の数が目に見えて減っている……何があった?」
「特報、特報ー!!」
エステル「ん?」
「住民全員に告ぐ!! 本日正午より魔女の処刑を執り行うこととなった!」 ウオオオォォォォ!! ワアアァァアァ!!
エステル「魔女だと? ……そうか、通りで」
「では罪人を発表する! 魔女の名はマリア!」
エステル「!? なん、だと……」
「罪状は魔術による我らへの反逆、及び殺人未遂だ!!」
「これは我々にとって最も唾棄すべき行為であり、その歪みきった心情は筆舌に尽くし難い!!」
「よってその遺恨を根元から取り除くため奴を火刑に処すことが決められた! これは正義の執行である!!」
「繰り返す! 魔女の名はマリア!!」
エステル「マリアが……魔女?」
エステル「一体どうなっているっ…!」 「……あいつか」
「皆の者! あそこに魔女の関係者がいる! 取り押さえろ!!」
エステル「何ッ!? 待て……がはっ!」
「よし、連れていけ! 余計な手出しはするなよ」
「そこのお前もな、娘」
エステル「!! 貴様………ぐっ!」
「おら! さっさと歩け!」
エステル「…っ…! クソ……」
エステル(マリア…) ザワッ ザワザワッ
エステル「……」
カツンッ カツンッ
エステル「─! マリアッ!!」
マリア「……」
オイアレガ… マダコドモジャナイカ ナンテスエオソロシイ…
「縛り付けろ」
「はっ」 「さて、では刑の執行を始めようと思う…が、その前に」
「身内とはいえ、悪魔の所業を暴いたユダヤの長に皆盛大な拍手を」
族長「……」
パチパチパチパチ!!
エステル「なっ…」
「そして彼らの今回の働きに免じて、魔女以外の者の刑を取り下げることを」
「どうか許してもらいたい」
エステル「……まさか、族長…あなたは…っ」 オオ…ナントジヒブカイ…
「ああ、目の前にいる君は特に仲が良かったようだな」
エステル「…っ…」
「ふむ…魔女よ、何か彼女に言い残すことはないか」
エステル「…マリア…?」
マリア「……お姉ちゃん、ごめんね…それと─」
マリア「ありがとう」
エステル「!!」 「…だそうだ」スタスタ
「運がよかったな……“魔女”」ボソッ
エステル「!! っ…貴様あああああああああああああ!!!!」
「おい暴れるな!!」
「抑えろっ!!」
エステル「離せっ!! 離せええええええ!!」
「ではこれより刑を執行する」
「火を点けろ」 パチッ バチバチッ
ゴオッ
マリア「ひっ……」
エステル「やめろぉっ!!ふざけるな!正気か貴様ら!!」
エステル「これが使命だと!?役目だと!?」
エステル「貴様らこそ冒涜も大概にしろ!!こんなっ!こんなもの!」
エステル「救いでもなんでもないじゃないか!!」 ジジ ジジジッ…
ジュウゥッ
マリア「っっっ!! あぁっあああああああああああああ!!!」
マリア「いや!! やだ!! やあああああああああ!!」
ボウッ ボオォォ…
マリア「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいゆるして!!」
マリア「私じゃない!!私はやってないよ!!」
マリア「私は違う!私はっ…ああああぁぁぁぁああ!!!」
マリア「あぁあっ……かひゅ…こひゅ……っ」
マリア「……………ぁ……」 エステル「…………マリア? マリアッ!!」
マリア「……」
「ふむ……酸欠で死んだか」
エステル「!!」
「まあ、仕方あるまい」
「続けろ」
エステル「…………………は?」
エステル「何を、言っている…?」 ボオッ ボオオゥッ
エステル「続ける…? もう、いいだろ……息がないんだぞ…」
マリア「」ドロ
エステル「やめろ……」
マリア「」
エステル「頼…む……」
ボトボトッ
エステル「もう…やめてくれ……」 『ねえお姉さん、そこで何してるの?』
『私知ってるよ! お姉さんって女神様なんだよね! …あれ、違った?』
『ねえねえ、一緒についていってもいい? 何でって、えっとね…面白そうだから!』
『あっそうだ! 私ね、マリアっていうの!』
『えへへっこれからよろしくね、お姉ちゃん!』
エステル「マリアああああああああ!!!」 ……
パチッ パチパチッ
「やれやれ、ようやく全部燃えたか」
「えー早いでしょ、これで終わり?」
「次まで我慢しろよ、そう日が長いわけでもないんだ」
「さあ見世物は終いだ、みんな帰るぞ」
スタスタ
エステル「……」 エステル「……マリア」
エステル「頼む、返事をしてくれ」ベチョ…
エステル「頼むから…っ……」
「」
エステル「…ぅあっ…あぁ……ああぁ……」
エステル「うわああああぁぁぁああああああああ!!!」 エステル「………………」
エステル「なんだ…なんだっていうんだ」
エステル「お前も……お前も……お前たちも」
エステル「本当に同じ人間なのか……これが、あいつと一緒だと…?」
エステル「こんなものを、認めろというのか」
エステル「……ふざけるな」 エステル「認めない、私は、絶対に」ヨロ
エステル「貴様らだけは」
「うおっ! なんだ貴─」ザクッ
族長「!?」
族民「なっ…」
「何をやっている! 死にた─」
エステル「…なんと脆い」
エステル「今までこんな連中に怯えて暮らしていたというのか……はっ」
エステル「はは…あははははははは!!!」 「おい! 街の連中を連れてこい!! 全員で奴を殺──」
「この─」 「くら─」 「死っ─」
エステル「……」クルッ
族民「は、反逆者が……」
エステル「黙れ」ザシュッ
族民「」ボトッ
エステル「そこで首だけ晒していろ……さて」
エステル「これで全員か? …………いや」
族長「……」
エステル「最後にひとり、いたな」スッ ゴロゴロ……
エステル「」グチャッ
族長「ひっ……」
エステル「……」ザッ ザッ
族長「く、来るな…」
族長「来るな化け物おおおおおおおおお!!!」 ズブッ
エステル「……」
族長「……ぉ…あ…ぇ」
ドサッ
エステル「……」
エステル「化け物はお前らだろ」 ………………
「なんだこの有り様は、地獄絵図だな」
「生存者はいないのか」
「いえ、我々が来た時にはすでに…」
「……そうか」
「ですが、魔女の一派…その生き残りと思われる者から証言はとれました」
「ほう、してその者は?」
「すぐに殺しました」 「宜しい、他にも仲間がいないか徹底的に探せ」
「情報を聞き出すまでは生かしておくよう、他のものにも伝えろ」
「はっ」
「ふん…魔女の反逆か、図に乗りおってからに」
「……いや、この所業…もはや魔女と呼ぶことすら生温いのかもしれん」
「言うなれば、そうだな」
「常に我々の命を脅かす──死神、といったところか」 カリカリ……
カリ…
死神「………は…ぁ…」パタンッ
死神「っ! ……ゴホッ…ゴホッ!!」
死神「…そろそろか」ベト
死神「待っていろ……マリア…」
死神「…私は…必ず……」
──
─ ルビィ『…………』
死神『マリアの最期を見届けたとき、私は誓った』
死神『他の誰でもない、私自身の手であいつを救ってみせると』
死神『だからこそ…………』
死神『何故泣く』
ルビィ『──え──?』 ====
善子「……っ!!」ガバッ
善子「……はぁっ、はあっ!!」
善子「……っ、あれが…」
善子「死神の……過去」ポロポロ
善子「そう、だったのね……うっ」
善子「おえぇ…っ…」ベチャベチャ
善子「けほっ…………だけど、それでも」
善子「私は…」 ─
二週間後、8月12日
「……」
善子「───とまあ、死神にはそういった背景があったのよ」
善子「ざっくりと説明したけど大体こんな感じ」
曜「そんな事が……」
千歌「善子ちゃん…辛かったね」
善子「…っ……うん」
善子「…けど、だからといって彼女のやることを見逃すわけにはいかないわ」
善子「私たちは私たちで守りたいものがあるから」
梨子「…そうね」 善子「じゃあ本題に入るわよ」
善子「死神の過去を見て、そして前世の記憶が全て蘇って、ようやく彼女のやろうとしていることが分かったわ」
善子「覚えてる? 全員で冥府に行ったあの日、ルビィが言ったこと」
花丸「えっと確か…その日が来るまで死神はルビィちゃんを絶対に殺せないって」
千歌「ルビィちゃんに死なれたら困るからとも言ってたよね」
善子「そう、それは何故かというと」
善子「死神が行う魔術にはルビィの身体が必要不可欠だったから」 花丸「ルビィちゃんが?」
善子「魔術書に書かれてあった言葉があったわよね、前に皆で解読したやつよ」
善子「器、暦、来るその時に導かれるようこの術を新たな世界創造に捧げる…この部分」
善子「これが指し示すものは一つだけじゃない、二つあったの」
善子「一つは6月28日に発動した術のこと…器が魔術書、暦は今言った日付け、導くのはルビィ」
善子「そして世界創造とは自分たちのいる冥府のこと」 曜「じゃあ二つ目は?」
善子「これから発動させる術のこと、これを指しているわ」
善子「こっちは器がルビィ、暦がルビィや死神が言っていた“その日”、導くのはルビィの前世…マリアの魂」
善子「以前私は、ここに書いてある世界とは世界観という意味なんじゃないかって考えを述べたけど」
善子「それがこの部分に当て嵌まるのよ、つまり」
善子「二つ目でいう世界創造とは、ルビィの前世マリアをこの世に蘇らせること」
善子「死神は彼女の来世であるルビィの身体を器にして、そこにマリアの魂を定着させるつもりなのよ」 梨子「じゃあ死ぬっていうのは…」
花丸「肉体的ではなく、精神的な意味での死…一つの身体に二つの魂が入るのは危険とされているから」
花丸「死神の過去のことも考えると、魂の共存は実質不可能ずら」
曜「そんな危ない状態で生きていかせるわけにもいかないから…か」
花丸「うん、だからその術が発動したら必然的にルビィちゃんの身体にはマリアさんの魂が入ることになる……そうなれば」
善子「ルビィの魂、人格は完全に消滅する……たとえ姿は同じでも」
善子「そこにいるのは別人でルビィの面影はない、それは結果として死と同義よ」 千歌「…ねえ善子ちゃん、ずっと気になっていたんだけど」
善子「何かしら」
千歌「生まれ変わる魔術が発動する“その日”って、いつなの?」
善子「大丈夫それも分かってるわ、順を追って説明するわね」
善子「まず最初の術の重要な要素が数字であったのと同じように」
善子「こっちのほうにも構築式にカバラのそれが使われているわ」
善子「そこで私が描いたこのセフィロトを見返してほしいんだけど」カサッ
善子「見てほしいのはここ、一番上にある1のセフィラ、ケテル」キュッキュ
https://i.imgur.com/1PPngI6.jpg 善子「前にもサラッと触れたけど、改めて解説すると」
善子「このケテルがある場所は最上界に位置していて、そこには神の魂が宿ると言われている」
善子「創造の更に上、完全なる世界がこのケテルなのね」
善子「死神はこのケテル…1の力を利用できるように術式を組み込んだ」
善子「つまり数字の1が揃う日、それが術が発動する日になる」 曜「1が全部揃った日…」
善子「2018年は別名運命の年とも呼ばれているわ、これは何故かというと」
善子「普通は一桁の数字が出るはずの計算式で2018年だけ運命数“11”の数字が浮かび上がるから」
梨子「! ちょっと待って、ということは」
善子「ええ、暦に当て嵌まる日付け…それは2018年11月11日」
善子「今から約三ヶ月後に行われるその日が」
善子「私たちの運命を賭けた、死神との決着をつける最後の戦いよ」 千歌「最後…え、でもさ善子ちゃん」
千歌「その日が来る前にルビィちゃんを取り戻すこととかは出来ないの?」
梨子「そうね、私もわざわざそこまで待つ必要なんてないと思うけど」
曜「いや、やめておいたほうがいいと思うよ」
梨子「曜ちゃん?」
曜「千歌ちゃんたちも見たでしょ、私が手も足も出なかったところ……あの人は魔術だけじゃない、身体能力も優れている」
曜「しかもそれに加えて紛争、戦争経験者…どう見繕っても正面切って勝てる相手じゃない」
曜「仮に私と果南ちゃんが二人揃ったところで……いや、どんなに鍛えていても」
曜「私たちがただの女子高生であるうちは絶対に敵わないよ、喧嘩とかそういうレベルの話じゃない、向こうは殺し合いの世界で生きてきたんだ」
曜「実際にやられた身として言わせてもらうけど、何の考えも無しに行っても返り討ちに遭うだけだよ」 梨子「流石にそこまで言うこと…」
曜「ううん、卑下でもなんでもなく客観的に見た結果としての事実だよ…だからさ」
曜「善子ちゃんにはその“何か”の考えがあるってことなんだよね?」
善子「そうね、曜さんの言った通り」
善子「前みたいな手段で取り戻そうとするつもりはないわ」
善子「警戒心の強い死神のことだから冥府への道も閉ざされてそうだしね」 千歌「あっ…そうだよね、あの時も鏡が割られていたし……」
梨子「いつまでも私たちが行けるような状態を放置しているわけがないわよね…」
善子「だけどそんな状況でも一度だけ、絶対に道を開かなければいけない時間があるわ」
善子「それがマリアの魂を入れたルビィを現世に送るとき、術を使う日よ」
善子「決着をつけるとは言ったけど、まず前提として冥府に行くことが出来なければ話にならない」
善子「そしてそれが出来るのは、現状この日しかないのよ」 梨子「成程ね…それで対策っていうのは?」
善子「数字を使った術式、命が宿っている魔術書、これを逆手にとって死神が私に手出しすることが出来ない状況を作る」
千歌「どうやって?」
善子「死神の魔術と真逆の効果を持つ魔術を同じタイミングでぶつけて打ち消す」
善子「数字を要素にしているのなら、こっちだって同等の力が使えるはずよ」
善子「この魔術書を利用して、そのための術式を私が新しく構築する」
曜「対抗するための新しい魔術を作るってこと!? そんなこと出来るの!?」 善子「今の私には魔術師である死神の知識が全て備わっている、不可能じゃないわ」
善子「それにこの二週間で発動条件や式のイメージも大体掴んでいるの…期限は多く見積もっても二ヶ月ちょっとしかないけど」
善子「絶対にやってみせる…………ただ、これに一つだけ問題があるとすれば」
善子「この術式を完成、発動させるにはみんなの協力が必要不可欠だってこと」
曜「え、それの何が問題なの?」
梨子「リスクを伴う協力ということでしょ…そうなのよね?」
善子「ええ、文字通り命を懸けることになるわ」
善子「言っておくけど大袈裟な表現をしているつもりはないわ、本当に命に関わることなの」 善子「それに……本音を言うと、不安しかない」
善子「前世の記憶があるといっても所詮それは借り物の力、本物には遠く及ばないもの」
善子「正直、私一人の力じゃ太刀打ちできない…ルビィを助けられない」
善子「でも全員の力を合わせれば、一人じゃないのなら、絶対に勝てる……私はそう信じてる」
善子「だからどうかお願い……みんな、私に力を貸してください」
「「……」」
千歌「……ふーん、やっぱり何が問題なのか全然分からないね」
曜「だね、寧ろ頼ってくれて嬉しいくらい」
善子「……え?」 曜「言ったじゃん、なんでも一人で抱え込むのはよくないって」
曜「それに乗り掛かった船から降りるなんて、私はそんなの絶対に嫌だ」
千歌「うん、出来るか出来ないかじゃなくて、やるかやらないかが問題なら」
千歌「答えなんて、もうとっくに決まってるよ」
善子「千歌さん、曜さん…」
梨子「善子ちゃんのことだもの、多分善子ちゃん自身も相当危ないことするんでしょ?」
梨子「それが分かってて放っておけるわけないじゃない、僕であるリトルデーモンとしてはね」クスッ
善子「リリー…」 花丸「一蓮托生って言葉があるずら」
花丸「意味は、たとえどんな結果が待っていたとしても最後まで行動や運命を共にすること」
花丸「つまり、いつも通りのAqoursだってことだよ…何も変わらない、変わっていない」
花丸「皆で決めたあの時から今でも、そしてこれからもずっと、マルたちは運命共同体ずら」
善子「花丸…」
千歌「やろう、善子ちゃん…私たち皆で」
千歌「そして今度こそ絶対に救おうよ、ルビィちゃんを」
善子「…っ…ありがとう、みんな…」ポロポロ
善子「……グスッ…じゃあ作戦を伝えるわ、よく聞いて─」 善子「───以上よ、これが私が考えた死神に対抗する策と」
善子「全員の力を使った魔術を発動するための手段」
梨子「……考えたわね、確かにこの方法ならきっと」
曜「けど想像していたものよりかなりハードだよ、時期も考えると本当に死にかねない」
花丸「善子ちゃんはこれ…大丈夫なの?」
善子「大丈夫なわけないでしょ、でもこれしか私とルビィが帰って来れる方法はないの」
千歌「…死なないよね? ちゃんと生きて帰ってくるんだよね?」
善子「当然、命は懸けても死ぬつもりは全くないわ、皆もそうでしょ?」
善子「安心しなさい必ず戻ってくるから、だから貴女たちも絶対に死なないで」
千歌「……分かった、信じる」 曜「でもそういうことなら、付け焼刃でも少し慣らしておく必要があるね」
曜「“ここ”が空いている期間は確か来月までだし、休みを使って出来るだけ多く皆で行ってみようよ」
梨子「そうね、そこに辿り着くまでの時間と距離も測らなくちゃいけないし」
梨子「でも実際問題、当日に行けるのかしら?」
曜「大丈夫、許可さえ取れば行くことは出来るよ、その場合は自己責任になるけどね」
善子「でもなるべくなら万全の状態で臨みたい…その為にも」
善子「最後にあと一人、どうしても力を借りたい人がいる」
善子「私個人としても話をつけなくちゃいけない人が」
千歌「…今、実家に帰ってるって」
善子「ありがとう千歌さん」
善子「じゃあ……行ってくるわ」 ─黒澤家
コンコン
ダイヤ「どうぞ」
ガチャ
善子「……」
ダイヤ「お待ちしていましたわ」
ダイヤ「こうして顔を合わせるのは、久しぶりですわね」
善子「ええ、そうね」 ダイヤ「それで私にご用とは一体何でしょうか?」
善子「待って、その前に言っておかなくちゃいけないことがあるわ」
善子「……」スゥーッ
善子「ルビィのこと…本当にごめんなさい」
ダイヤ「……」
善子「こんなことに巻き込んで、黒澤家の人たちにも迷惑かけて」
善子「もちろん許してもらえるなんて思っていないわ、それでも」
善子「ずっと謝りたかった…貴女にちゃんと、伝えたかった」
善子「本当に…申し訳ありませんでした」 ダイヤ「……言いたいことはそれで全部ですか?」
善子「……」
ダイヤ「…そうですか」
ダイヤ「……」ハァーッ
ダイヤ「善子さん、顔を上げてください」
ダキッ
善子「…え……?」
ダイヤ「もういいです……もう、いいですから」
ダイヤ「少しの間だけ、泣かせてください」
善子「…………うん」ギュッ ====
ダイヤ「──成程、ある程度の事情は千歌さん達から伺っていましたが」
ダイヤ「まさかここまでとは……大変でしたわね」
善子「いや、別に私は……それに辛いのはルビィだって」
ダイヤ「……そうですわね、その通りですわ」
ダイヤ「…話を戻しましょう、さて善子さんの話を聞いたうえでまとめますと」
ダイヤ「11月11日…この日に善子さん達はルビィを救うため、あの場所へ辿り着かなければいけない」
ダイヤ「そしてその為には私、いえ黒澤家の力が必要で」
ダイヤ「だから手を貸してもらうためにここへ来たと、そういうことで宜しいのでしょうか?」
善子「ええ、それで合ってるわ」 ダイヤ「…………」フム
善子「どう? 問題なさそう? それとも流石にそこまでは……」
ダイヤ「…いえ、掛け合ってみれば大丈夫だとは思いますが……しかし」
ダイヤ「善子さん」
善子「何?」
ダイヤ「死にたいのですか?」
善子「言うと思ったわ、はっきり言って自分でもどうかしてると思うし」
善子「でもね、私は本気よ」
ダイヤ「……覚悟は、もう決めているということですね」 善子「私だけじゃないわ、他の4人も全員腹を括っている」
ダイヤ「…これは止めても無駄ですわね」
ダイヤ「分かりました、貴女たちに協力しましょう」
善子「本当!?」
ダイヤ「ただし一つだけ条件があります、当日その場所に私も同行させてください」
善子「ダイヤ…」 ダイヤ「元Aqoursのメンバーとして、元生徒会長として、鞠莉さんと果南さんの代表として」
ダイヤ「そして最後に、ルビィの姉として」
ダイヤ「私には貴女たちの行く末を見届ける義務がある、嫌とは言わせませんわよ」
善子「駄目なんて言う気はないわよ、最初からね」
ダイヤ「フフッ、そうでしたか……では改めまして、善子さん」
ダイヤ「ルビィのこと、どうかよろしくお願いします」
善子「……任せて」
善子「絶対に救ってみせるわ、そして叶えてみせる」
善子「あの時の約束を─」
……
… ─冥府
死神「…ふむ、これで残りは50を切ったか」
ルビィ「……」
死神「さて、あれから一向に音沙汰がないわけだが、まだ信じているというのかお前は」
ルビィ「うん、来るよ」
ルビィ「約束したもん」
死神「…一つ聞くが、何故そこまで大丈夫だと言い切れる?」
死神「ルビィ、お前がそこまで信じられる根拠とは一体何だ?」
ルビィ「…知ってるから、ルビィも、みんなも」
ルビィ「大切なものがなくなる辛さを、苦しみを……みんな分かってるから」 ルビィ「それにね、ルビィたちって諦めが悪いの」ニコッ
死神「……」
ルビィ「だから来るよ、必ずね」
ルビィ「ルビィの知ってるAqoursは、善子ちゃんは…」
ルビィ「どんな困難にも負けたりしない、途中で挫けたって、何回でも立ち上がって前に向かって進むんだ」
ルビィ「死神さん、ルビィはね、そんな善子ちゃんたちのことを」
ルビィ「信じてるんだよ」 ─それからまた月日が過ぎて、季節は冬
11月10日、早朝
善子「忘れ物は、ないわよね」
善子「……よし」キュッ
善子母「善子、迎えが来てるわよ」
善子「今行くから待ってて!」 善子母「ではよろしくお願いします」ペコリ
善子母「みんなも、気をつけてね」
千歌「はい!」
ダイヤ「ありがとうございます」
善子「お待たせ」タッ
曜「おはよう善子ちゃん、これで全員揃ったね」 善子「ええ、それじゃあ「待って!」
善子母「善子……」
善子「ママ…」
善子母「……っ……」
善子母「いってらっしゃい」
善子「! …うん」
善子「いってきます!」 梨子「もういいの?」
善子「いいのよ、あれで」
花丸「…いよいよだね、善子ちゃん」
善子「ええ…ようやくここまで来たわ」
善子「さあ、みんな準備はいい?」
「「……」」コクッ
善子「行くわよ、これが正真正銘最後の戦い!」
善子「目的地は富士山、その頂上! 待っていなさい死神!」
善子「私はもう絶対に負けない! 今度こそあんたの手から」
善子「ルビィを救い出してみせる!!」 ─富士山五合目
ダイヤ「着きましたわね」バタン
「お待ちしておりました、こちらの方々が?」
ダイヤ「ええそうです、人払いのほうは上手くいっていますか?」
「問題ありません、閉鎖という形をとっていますので」
ダイヤ「そう、ご苦労様でした」 ダイヤ「では皆さん参りましょうか」
曜「車で来れるのはここまで、後はただひたすら登るだけだよ」
曜「体調管理には十分に注意を払ってね」
ダイヤ「念のため、登山経験のあるこちらの方にも同行してもらうようにしました」
「よろしくお願いいたします」
善子「え、いやそれは有難いけど」
ダイヤ「心配ありません、今からやることは他言無用として通してありますから」
善子「…分かったわ、行きましょう」 ─八合目、山小屋
曜「はいストップ! 今日はここまでにしよう、みんなお疲れさま!」
千歌「つ、疲れたー……」
梨子「はぁっ…やっぱり…厳しいわね」
花丸「だけど、あともう少しずら…」
千歌「いや…本当ダイヤさんに頼んで良かったね、休める場所があるのは助かるよー」
千歌「ありがとうダイヤさん」
ダイヤ「冬の山道は危険ですからね、これくらい当然ですわ」 善子「そうね、なら休める今のうちにもう一度確認しておきましょう」
善子「曜さん、この調子のまま頂上まで行けたとして、どれくらい持つと思う?」
曜「そうだね、今のところ天気は悪くない…でも気温自体はかなり低いから」
曜「長く見積もっても30分…ってところかな」
ダイヤ「30分……大丈夫なのですか?」
善子「やってみせるわよ、向こうだってそんなに長居させてはくれないだろうしね」 千歌「それはそうだろうけどさ」
善子「大丈夫よ、私なら」
善子「さあもう寝ましょう、明日も早いわ」
曜「うん、そうだね…おやすみなさい」
善子「おやすみ」
善子(……30分、それが私たちのタイムリミットか)
善子(…充分過ぎるわね、うん、大丈夫)
善子(私たちならやれる) ─そして翌日、11月11日夜
富士山、頂上部
ヒュオオォッ……
善子「……着いたわね」
曜「うん、ようやくこれでスタートラインだね」
梨子「善子ちゃん、時間のほうは?」
善子「大丈夫、まだ来てないわ」
千歌「良かった、なら早速」
善子「ええ、全員配置について、時間が来たら私が合図を出すわ!」 花丸「善子ちゃん、全員準備できたよ!」
善子「分かったわ、そのまま待機でお願い!」
ダイヤ「……やはり見ているだけというのは、歯痒いですわね」
「あの、お嬢様…彼女たちは何を」
ダイヤ「直に分かりますわ、ですが……この先何が起きても、決して彼女たちを止めないよう、お願いいたします」
「? 畏まりました」
ダイヤ「……」フゥーッ
ダイヤ(皆さん、どうか負けないでください)ギュッ 善子「……来たわね、満月」
善子(本来、この日この時間帯に出てくるのは三日月…皆からもそう見えてる)
善子(満月が見えてるのは私だけ……そう、あの時と一緒だ)
善子(今になって分かる、あの時のあれは…私が初めて魔術書を通して観た予兆だったんだ)
善子(魔法陣の円、そのファクターを暗に示していたそれが、私と死神の最初の繋がり)
善子(ならきっと見えるはず…全てが分かった今の私なら)
ズズ…
善子(月を通して浮かび上がる死神の魔術…その本陣が!!)
ズズズッ
善子「──! 見えた!!」 善子「やるわよ皆!」スッ
ダイヤ「!!」
善子「反撃…開始だ!!」ザクッ
ズブッ! グサッ!
「!!? 自分たちを刺した!? 一体何を──!」
ダイヤ「待ちなさい! 言ったでしょう止めてはならないと!」
「しかし!」
ダイヤ「あれでいいのです!!」 千歌「……っ…ああああ! 右足!!」
梨子「ひだり……うで…!!」
曜「右…腕っ…!!」
花丸「左足……!! 善子…ちゃん!!」
善子「ごほ…っ…! 揃ったわね……これで…」ボタボタッ
ギュルギュルギュルッ!!
「なっ…血が……円を描いて…!」
バチバチ バチィッ!!
善子「完、成………よ…」バタン
シュウゥゥッ 花丸「善子ちゃんっ!!」
曜「善子ちゃんが、消えた…! …ということは」
千歌「……うん」
千歌「“成功”…した!!」
梨子「……良かった、後は…待つだけね」ガクッ
ダイヤ「!! 手当を!早くっ!」
「は、はい!!」
花丸「…うっ……頼んだよ、善子ちゃん」 ─
死神「…そろそろだな」
ルビィ「……」
死神「お別れだルビィ、来世の魂よ」
死神「短い付き合いだったが、お前と過ごす時間は悪くはなかった」
ルビィ「うん、ルビィも」
死神「さらばだ」 バチッ
死神「……何?」
ルビィ「?」
死神「…術が、発動しない」
「ようやく面食らったような表情をしたわね」
ルビィ「あ…!」
死神「…そうか、お前か」
「ええ、待たせたわね死神、そしてルビィ」
善子「今戻ってきたわよ」 ルビィ「善子ちゃん!」
死神「再び扉を開けてこちらにやってきたか…しかし解せんな」
死神「どうやって術を打ち消した、お前の力では私に及ばないはずだが」
善子「ええ、あんたの言う通りよ、私じゃあんたの魔術には敵わない」
善子「でも一人じゃなく、五人分の力なら、どうかしらね?」
死神「何だと?」 善子「私が術式に使ったものは五芒星、東洋では五行思想と呼ばれているものよ」
善子「でも西洋魔術のほうはそれとはまた違う、当然知ってるわよね?」
善子「西洋の五芒星は火、水、土、風、そして霊…この五つの要素で成り立っている」
善子「そこにあんたの魔術書と4人を当て嵌めて、中央には私、それで陣を展開させた」
死神「成程な、霊の位置に私を組み込んだか、だが」
死神「それ以外の属性は分けられまい」
https://i.imgur.com/GqifaNG.jpg 善子「いいや出来るわね、人間の命と魂を繋げるうえで最も深く関わっているもの……それは血よ」
善子「だから私はこの魔法陣を血で描くことにした…そして」
善子「血を使ううえで区別出来るもの、分類されるもの、それは血液型」
善子「千歌さんはB、曜さんはAB、リリーはA、花丸はO型! 丁度四つ分揃ってるのよ!!」
善子「数さえ揃えば後はそれを繋げればいい!」 死神「無理だな、例えその4人とお前の繋がりが深かったとしても」
死神「私には関係がない」
善子「そうよ、だからその為に真ん中に私がいるんでしょ」
善子「あんたと唯一繋がりの深い、来世である私がね」
善子「五芒星の要は中心、つまり全員の力を一つにまとめ上げるのが私の役目」
善子「そしてね、言っていなかったけど、私もO型なのよ」
善子「O型がそう呼ばれるようになった由来はね、全ての血液型の輸血において反応が0だった0<ゼロ>型から来ている」
善子「もうどういうことか分かるわよね」
死神「貴様、まさか」
善子「そう、私が発動させた魔法陣は──」
善子「私の血を巡回させて、あんたと他の4人全員に結びつきを与えるためのものなのよ!」
https://i.imgur.com/DcXEQzf.jpg ルビィ「みんなの、力…」
死神「…理屈は分かった」
死神「どうあっても邪魔をするというのだな」
善子「その為にここへ戻ってきた、さあ…返してもらうわよ」
善子「私の大事な人を」
死神「無駄だ─」バチッ!バチバチッ
ゴオッ!!
善子「っ!! 大した風圧じゃないの!」ザッ 死神「お前たちが打ち消したのはあくまで表面上の円に過ぎない」
善子「表面上ですって…!?」
死神「そうだ、たとえ先程の陣でお前が私自身の力と拮抗し、一時的に相殺したとしても」
死神「我が魔術の根本にある内側から溢れ出る力……我らが“神”の力を」
死神「その程度のもので完全に消し去れるわけがないだろう」
善子「神…! やっぱりね…だと思ったわ…!」
死神「術が消えたというのなら、今からまた発動しなおせばいいだけの話だ」ヴォン
死神「お前たちがやったことは所詮僅かな時間稼ぎ、無駄な抵抗に過ぎん」 善子「……」
フッ
死神「──構築は済んだ」
死神「短い逆転劇だったな」スゥ……
善子「……短い、ねえ」
善子「それはどうかしら?」
ピシッ ビシビシビシッ
死神「…何?」
パァンッ!
死神「!」
善子「あんまり私を舐めるんじゃないわよ」 死神「馬鹿な、何故消される」
善子「さっき無駄な抵抗って言ったわよね、その台詞、そっくりそのまま返してあげるわ」
善子「あんたが何度式を組み立てようが無駄よ。私が何回でも打ち消してやる」
善子「神様? 上等よ、来るなら来なさい」
善子「真っ向から迎え撃って返り討ちにしてあげるから」
死神「貴様ら…何をした?」
善子「別に、神様の力を借りてるのはあんただけじゃない…それだけのことでしょ」
善子「もう一度言うわ死神、あんまり私を舐めないで」
善子「あんたがこの日の為に計算を重ねてきたのと同じように」
善子「私も勝つための布石は全部打ってきてるのよ!!」 ──
─
『五人の力を合わせた五芒星を使って死神の魔術に対抗する、ね』
『うん! これならいけるよ!』
『ええ、勿論よ……だけど』
『これはきっと、一時的な打ち消し程度にしかならないと思う』
『一時的? どういうこと?』
『魔力の強さ、大きさではなく、量の問題ってこと』
『恐らく向こうは私たちが術を一回消しただけじゃそこまで動じない、何故かというとまた術を発動すればいいだけだから』
『それって、あっちは何回でも同じ魔術を使えるってこと?』
『そう、水で例えるなら私たちは精々コップ一杯分、向こうはウォータータンク10L超え、それくらいの差があるわ』 『そんなに!?』
『絡繰りはここ、11月11日の奥に隠された数字“666”の存在』
『666って確か…悪魔の数字って言われてるやつだよね』
『一般的にはね、でもユダヤの場合は違う』
『ユダヤにとって666は神の数字なのよ』
『聖書の一つにメシーアスという言葉があるわ、救世主という意味を持ったギリシャ語よ』
『神による救いを信じているユダヤ教ではこのメシーアス、メシアこそがユダヤ人にとっての神様、その象徴にあたるの』
『そしてそのメシーアスの文字列を数字に置き換え、計算して浮かび上がる数字が666』
『死神はその数字を利用して、神の力を借りるつもりなのよ』 『じゃあここにその6の数字が3つ隠されているってことだよね』
『えっとまず、日付けの計算式で出た数字の6と…』
『年、月、日で分けると1が6つ並ぶから、それが2つ目の6よね……3つ目は?』
『最初の術が発動してからこの日が来るまでの間に経過した月日の合計数』
『6月は2日、7月8月10月は31日、9月は30、11月は10日、これを全て計算すると』
『6+2+7+31+8+31+9+30+10+31+11+10=186 → 1+8+6=15 → 1+5=6 となるわ、これが最後の3つ目』
『数字が揃った…しかも』
『魔術書に蓄積された日数も組み込んで……こんなの一体どうすれば…』
『簡単よ、こっちも神様の力を借りればいい』
『え……?』 『もう皆分かってると思うけど、死神が魔術に使っている最大の要素は数字』
『だから例え魔術書がどんな場所にあろうと、時間さえ来ればこれが勝手に発動する仕組みになってる』
『つまり、これは逆に言えば』
『魔術を使うその場所だけは、私たちが任意の位置を指定できるということ』
『向こうが数字なら、こっちは土地で対抗するのよ』
『でもそんな、神様がいる場所なんて……あっ!』
『そうか! そういうことなんだね!』
『ええ、私たちが向かう場所…それは』
『大地に根付く日本の象徴、富士山よ!!』 善子「私が構築した魔術は“生きている人間をこの世に留まらせる術”」
善子「不死の山という伝承を持っているここは正に私にとっておあつらえ向きの場所なのよ」
死神「生きた人間、ルビィも含めてか」
善子「そう、死人のあんた達はお呼びじゃないの」
死神「…成程、つまり」
死神「消すものが増えただけか」パキッ
善子「やってみなさいよ、やれるものならね」ヒュオッ ビリィッ! ガガガガガガガガッ
バチバチィッ!
死神「! また…っ!」パァンッ
善子「…15回目っ!!!」キイィィン
善子(無効化されると分かってから、あっちは高エネルギーの魔力を組み込んでき始めた…!)
善子(恐らく私の体力を削ろうとして……けど!!)
善子「無駄よ! あんたがどんな小細工を仕掛けようが!」
善子「何度でも何度でも何度でも!! 私が弾き返す!!」
死神「…貴様っ!」 死神「いい加減に諦めろ! 引き際を知れ!!」バッ
善子「こっちの台詞…ってんでしょうが!!」バッ
バリバリバリバリッ!! ガガガガガガガガッ
ドオオオォォォン!!
善子「…16回目、何さっきからバカスカ威力上げてきてるのよ、焦ってるの?」ケホッ
ルビィ「すごい……善子ちゃん」 死神「焦る? 私が? 冗談を言うな」スッ
善子「……!」
死神「いつまでも食い下がる貴様に苛ついてるだけだ!!」ゴオォッ!!
善子(っ嘘でしょまだ大きくなるの!?)
善子「それを余裕がないっていうのよ!!」ビリビリビリッ!
善子「17…っ…回目ぇ!!」 ドド ドド ドド ドドド
善子「18!!」
ド ド ド ド ド ド ド
善子「19!!」
ドド ドド ドド ドドド
ド ド ド ド ド ド ド
善子「20っ!!」
キイイイィィィィィィン
善子「これ、で…21っかいめ……はぁっ、はあっ…どうよ…!?」
死神「まだ…逃れているっ…!!」ギリィ 死神「……だが」
善子「…っ……」ガクッ
ルビィ「善子ちゃん!!」
死神「…ふん、そろそろ限界が近いようだな」
善子「このっ涼しい顔して……体力どんだけあんのよ…!」
死神「当然だ、貴様らのような温い連中と一緒にするな」
善子「!!」
死神「これで最後にしてやる、もう楽になれ」ヴォォォ
善子「く……!」
善子(まずい……体が…) 死神「終わりだ」スッ
ズアァァァァァァ
ルビィ「──! やめて!!」ダッ
善子「……ぁ…」
死神「なっ…! ルビィどういうつもりだ!!」
死神「死にたいのか!! さっさとそいつの前から離れろ!!」 ルビィ「嫌だ!! 絶対に離れない!!」
善子「…………ル、ビィ…!」
ゴオオオォォォォォォ!!
ルビィ「!! ……善子ちゃんはっ!ルビィが守る!」
─お姉ちゃん。
死神「!!やめ──」
バチィッ!!!
ルビィ「…………え?」
善子「待ち、なさいって…」ギギギッ…
死神「…馬鹿な」 バチッ
善子「……なに、やってんのよ…」ググッ
善子「私が、わたしたちが…誰のために……」
バチバチバチ!
善子「ここまで来たと、思ってるのよ…!」
善子「なのに、守られるなんてっ……」
善子「何やってんのよ!私はっ!!」ブシュッ
善子「っああああああああああ!!22ぃっっ!!」
ドパンッ!!!!
ルビィ「善子ちゃ…」
善子「はぁっ……何よ…まだ動けるじゃない」シュウゥゥッ
死神「…………何故だ」
なぜ、立ちあがれる? すみません、一旦ここまでで続きは明日に。
そろそろ終わります 善子「…理解出来ない…って顔してるわね、そりゃ、分からないでしょうよ」
善子「あんたみたいな、甘ちゃんに…私たちの想いが!強さが!分かるわけがない!!」
死神「私が、甘いだと…!?抜かすな小娘がっ!!」ゴォォォッ!!!
死神「貴様らに私の何が分かるっ!!!」
善子「っ!まだまだぁっ!!!」バチィィィィイッ!!!
善子「ルビィ!力を貸しなさいっ!!」
ルビィ「──! うん!!」ギュッ
ルビィ「頑張って善子ちゃん!!後ろはルビィが」
ルビィ「皆が支えるから!!」 死神「何を考えている!何故ルビィから力を借りようとする!!」
死神「ルビィにお前のような魔力は存在しない!!ルビィは!貴様が救うべき存在ではなかったのか!!」
ズウウウウゥゥウゥアアアアアアァァァ!!!!
善子「ふざ……けるな……」バチッ…
善子「ふざけるなあっ!!」キイィィイインッ!!
死神「!」
善子「いい加減にしなさいよあんた!!力がないだの温いだの!人を見下すのも大概にしろっ!!!」
善子「なんでそうなのよ!!こんなに…とんでもない力を持ってて……!神様への信仰心も、あるくせに…!!」
善子「あんただって誰かのために戦っているのに!!」
善子「なんで自分以外の人間を!その強さを!!信じることが出来ないのよっ!!」 死神「信じるだと!?アレを信じろというのか!許せというのか!!」
死神「貴様は奴らの行いを見てもまだそんなことが言えるのかっっ!!!」ゴォオ!
ドンッッッッッ!!
善子「くぅ……! そん、なわけ…ないっ!」
死神「何!!」
善子「許せるわけないでしょあんなの!!」
善子「ルビィだって皆だって全員許してないわよ!!怒ってるのよ!だけど!」
善子「だからこそ!!ルビィを犠牲にしようとしているあんたが許せないんでしょうが!!」 善子「だから私もルビィもここに立っているの!あんたを止めているのよ!それを本当に分かっているの!!?」
死神「!!!」
バチバチバチイッ!!!!
善子「ルビィは!私はねえっ!!」
『あとね、最後にお願いがあるの』
善子ちゃん…死神さんのこと、助けてあげて。
善子「貴女を救いたいのよ!!」 死神「救い、救いだと…!?…っ…そんなもの必要ない!!」
死神「私は救われたいと…望んでいない!!ここに来て選択を誤るか!!」
死神「ここまで来て出した答えがそれならっ…!愚かにも程がある!!」ズァァァッ!!!
善子「愚かは…どっちだあっ!!」バアンッ!!
死神「っ!!」
善子「なんでそうやって自分一人で何でも分かった気になって!それが正しいことだって勝手に決めつけるのよ!!」
善子「あんたずっとそうじゃない!!昔も!今も!誰の言葉にも耳を貸そうともしないでっ!!」
善子「それで生まれた悲劇があるのに!また同じことを繰り返そうとしている!!」 『族長…どうせいつもの煮え切らない話だろうが』
『その救世主というのはいつ我々を救ってくれるのでしょうか』
『いかにも向こうが言いそうなことだ、馬鹿馬鹿しい』
『救いがいつ来るのかなど、誰にも分かりはしないんだ』
『…馬鹿が。信じたところでどうにもならんわ』
『結局己が身を救うのは……己自身でしかないのだからな』
死神「──!」 死神「私が…全て招いたことだと言うのか」
善子「違う!あんただけじゃない!!誰にだって罪はあるわよ!」
善子「マリアを焼いた連中は勿論!それに手を貸した族長たちも!」
善子「そんな奴らを殺したあんたも!!そんなあんたを助けたいと思ってるルビィにも!!」
善子「そしてルビィを巻き込んだ私にも!!今ここにいる全員が!その罪を背負ってるんだ!!」
善子「だけどその中でも何一つ変わってない!変わろうともしない!自分だけが絶対だと思っている!!」
善子「そんなあんたがっ!私は一番許せないのよ!!」
死神「!!」
善子「あんたは!たったの一度でも誰かを頼ったのか!死神ぃ!!」
ゴオオオォォォォォォ!!!!!
死神「私…私は……!」 善子「だから私たちは負けない!負けたくない!!」バチッ
善子「私はあんたとは違う!一人で戦っているんじゃない!」
善子「私の目の前で守ってくれているこの両手も!!」バチバチィッ!
善子「前に進めようとしてくれているこの両足も!!」ザッ!!
善子「私の背中を押してくれる後ろの小さな体も!!」
ルビィ「っうううああああぁぁ!!」
善子「その全てに支えられて私はここに立っているんだ!!」
善子「皆の想いを背負ってここに立っているのよ!だから私は!!」
善子「絶対に!負けるわけにはいかないのよ!!」ギギギギギッ!!! 善子「っ……うああああああああああ!!!」
死神「!!……何故だ、術が…!」
死神「壊れ…っ…!!」
善子「罪なら一緒に背負ってあげるわよ!!だからもう」
善子「独りになるのはやめろぉっ!エステルーーーーー!!」
キイイイイイイイィィィィィィン!!!
死神「……あ…」 ねえ、一緒についていってもいい?
死神「…………そう、か」
……ピシッ
これからよろしくね、お姉ちゃん!
死神「そうだったのか」
ピシピシピシッ…
死神「本当に、救いを…求めていたのは…」
エステル「救われたかったのは……私だ」
────パリンッ シン……
善子「はあっ……はぁ……」
ルビィ「とまっ…た……?」
善子「…………みたい、ね」ヨロッ
ルビィ「善子ちゃん!」ダキッ
善子「大丈夫…ありがと」
善子「……」
エステル「…………なんだ」
善子「……貴女の負けよ、エステル」
エステル「……ああ……そうだな」
エステル「お前“たち”の…勝ちだよ」 エステル「私の完敗だ……心残りは、ない」スッ
ヴォンッ
善子「! 陣が…!!」
エステル「行け、器は用意した、これで問題なく帰ることが出来るはずだ」
ルビィ「器…それって!!」
エステル「ああ、私の命だ、使え」
善子「……」
ルビィ「そんな!駄目だよ!」
エステル「私に構うな、ルビィ」
エステル「お前たちには帰るべき場所があるのだろう?」 ルビィ「だけど!」
エステル「……本当にお前は、よく似ているな」
エステル「どうしてそこまで、寄り添おうとするのか」
ルビィ「だって……大切な人だもん」
ルビィ「マリアちゃんにとっても!ルビィにとっても!大事な人だから!」
エステル「!…………馬鹿者が、もういい」
エステル「それだけで、もう十分…私は救われている」
エステル「ありがとう。ルビィ」
ルビィ「……っ…」ポロポロ
エステル「……善子、ルビィを“頼む”」 善子「エステル…」
エステル「お前だから、頼むんだ」
善子「…わかったわ」
善子「ルビィ」
ルビィ「……うん」スッ
エステル「そうだ、それでいい」フッ 善子・ルビィ「……」
エステル「さあ、時間だ……唱えろ、その言葉を」
エステル「お前たちは誰よりも、その術を知っているはずだ」
善子・ルビィ「……うん」
善子・ルビィ「……」スウーッ
そうだ、私たちは知っている
たった一滴でも、最初に血を分け合ったのは他の誰でもない
──私たちだから
エステル「……いけ」 善子・ルビィ「……汝、常世の国に在らずレば! 我、現世にて己が姿をミたりて!」
善子・ルビィ「故有りし世に糸重ね、一輪自≪かかぐ≫り下思ひて! 響かせたまへ!」
エステル「……ああ、だが…そうだな…一つだけ、願うことがあるとするならば」
善子・ルビィ「我、張り者也───!!」
どうか、幸せに生きて──。
それだけでいい。
そうなんだろう? マリア。 ──ピカッ
「「!!!!!」」
シュウゥゥッ
花丸「魔術書が…っ…消えていく……!!」
花丸「!あ…ああぁ……!!」
花丸「善子ちゃんっ!ルビィちゃんっ!!」
曜「戻って…来た……」
梨子「……っ…時間は!!」
ダイヤ「…43分、ごじゅうっななびょう……!!」
花丸「……息…あるよ!!」
千歌「…うぅっ…あああぁ……やった…やったよ、善子ちゃんっ…ルビィちゃん…!!」ボロボロ
千歌「私たちの…っ…みんなのっ…完全勝利だ!!」 ─善子の家
善子母「善子ー、ルビィちゃん来てるわよ」
「うん、すぐ行く」
ガチャ
善子「わ…っとと、あぶな…」
善子母「もう、慌てないの…転んで怪我でもしたら心配されるわよ?」
善子「う……わ、分かってるわよ気をつけるから!」 ルビィ「善子ちゃん! おはよう!」
善子「おはよう、待たせたわね」
善子母「二人とも、気をつけてね」
善子「うん」
善子・ルビィ「いってきます!」
善子母「はい、いってらっしゃい……ふふ」
善子母「全く、あんなに機嫌よくして」クスクス
善子母「…………」
善子母「おかえりなさい。善子」 花丸「善子ちゃーん! ルビィちゃーん!」タッ
ルビィ「あっ花丸ちゃん!」
善子「おはよ、早いわね」
花丸「居ても立っても居られなくて、それにそういう善子ちゃんだって」
善子「まあね、だって楽しみじゃない」
善子「年末年始、久しぶりにAqoursのみんなが揃うんだもの」
ルビィ「えへへっ、ワクワクするね」 ======
善子「……あれから一ヶ月、か」
善子「早いのか遅いのか、よく分からないわね」
ルビィ「うん」
花丸「全員すぐさま病院に運ばれた時は本当に大変だったんだよ! もうご近所さんから何まで大騒ぎで……」
花丸「マルも寿命がかなり縮んだ気がするずら……」
善子「本当よね、正直これはもう駄目だと思ったわ」
ルビィ「ちょっ善子ちゃん!?」
善子「じょ、冗談よ冗談」
ルビィ「もう…」
善子「……でも、こうしてみんな生きてるでしょ」
ルビィ「…うん、生きてる」 花丸「あっ! 見えてきたよ!」
曜「…お! 千歌ちゃーん! ルビィちゃんたち来たよー!!」
「はーい!」
善子「準備?」
曜「まあそんな感じ、でももうすぐ終わるよ」 曜「そういえば、二人とも進路決まったんだって?」
ルビィ「うん、大学に行こうと思ってるんだ」
善子「そこで民族のことについて色々学んで、教員免許も取って、いつか」
善子「その大切さを子供たちに伝えていく…そんな教師になりたくて」
曜「そっか、いい夢だね」
善子「幸いうちのママも教師だし、使えるものは全部使っていくつもりよ」
曜「あはは、相変わらず抜け目がないね善子ちゃんは!」
曜「うん、私も応援するよ! 頑張ってね二人とも!!」
千歌「準備できたよー!」
曜「はーい! それじゃいこっか!」ニコッ 鞠莉「ルビィー!善子ー!花丸ー!」ガバッ
花丸「わわっ鞠莉ちゃん」
鞠莉「会いたかったわよー!!」スリスリ
果南「こら」ペシッ
鞠莉「あいたっ」
果南「久しぶり、三人とも元気そうで何よりだよ」
善子「ええ、果南さんもね」 ダイヤ「……あら、もう皆さん揃っていましたのね」ガチャ
梨子「私たちが最後みたい」
ルビィ「お姉ちゃん!」
善子「リリーも!?」
ダイヤ「買い出しですわよ、注文が多すぎるので時間がかかってしまいました」ガサッ
梨子「それで私も手伝いに呼ばれたわけなの」
ダイヤ「おかげで助かりましたわ、しかし、一体誰がこんなに…」
鞠莉「えー!? だって折角みんな集まったんだしパーッとやりたいじゃない!」
ダイヤ「…やはり鞠莉さんでしたか」
梨子「あはは…やっぱり」 ─
千歌「よぉーし!! それじゃあ皆さん揃いましたところで!!」
千歌「ルビィちゃんが戻ってきたお祝いと!二人が付き合ったお祝いと!Aqours集合記念と……まあ諸々含めた祝宴会を!!」
千歌「今から始めたいと思いまーす!!かんぱーーーーーい!!」
「「乾杯ーー!!」」
ワイワイ ガヤガヤ
果南「さ、どんどん食べてってよ!」ドンッ
花丸「うぅ〜ん! 美味しいずらぁ〜!」ムグムグ
鞠莉「ねえねえそれで? 聞かせてくれるんでしょう、今までのこと!」
善子「やけに興味津々ね…あ、おかわりお願い」プハッ 鞠莉「私のも持ってきてー! だって聞きたいんだもの、貴女たちの愛の物語」
善子「愛って……」
鞠莉「あら、違った? ……色々協力出来ることがあるかもしれないでしょ」
ルビィ「! 鞠莉さん…」
果南「ま、そういうことだよね」ズイッ
鞠莉「言っておくけど、私たちだけ除け者なんてなしよ、善子」
果南「それに皆も改めて聞きたいみたいだよ? ほら」 「「……」」
善子「全く……長くなるわよ」クスッ
鞠莉「逆にすぐ帰れると思っていたのかしら?」
ルビィ「えへへっ! それもそうだね!!」
果南「聞かせてよ善子ちゃん、私たちに二人の物語を」
善子「…仕方ないわね」フフッ
善子「じゃあ、そうね…どこから話せばいいかしら」
善子「もう半年も前になるのね……そう、あれは私が部屋で本を見つけた頃まで遡るわ────」 ────救いとは一体何だろうかと、最近になって考える。
神か、人か、それとも自らの欲を満たしてくれる別の何かか
恐らく、人が人である限り完全なる答えは出ないのだろう。
そうだ、多様な価値観の中で争いが繰り返されるこの世の中で
全ての人を救える術など、どこを探しても見つからないだろう。
だが、それでも悩み、苦しみ、足掻き続けたその先には
きっと、お前たちを照らしてくれる光が待っているはずだ。
だから進め、お前たちの信じる仲間とともに。
そして掴み取れ、己自身の幸せを。
善子、そしてルビィ。
その日が来るのを私たちは楽しみに待っている。
この雄大な海よりも更に高い、空の上から────ずっと。 終わりです、ありがとうございました。
最後に名前の補足ですが、エステルは「星」、マリアには「海の輝き」という意味がそれぞれあるそうです。 おつでした
一ヶ月以上に渡り楽しませてもらいました >>515
元ネタが漫画やアニメ等といった作品を指しているのならssの元ネタはありません
ただ、今回のオリジナル要素における部分
エステルやマリア、ユダヤの魔女裁判につきましては
実際に行われていた中世ヨーロッパの魔女狩りの事件などを参考に書きました。
エステルの名前の元ネタは旧約聖書の一つ「エステル記」の主人公エステルから
マリアについてはユダヤでそういった名前がよく使われていたから名付けただけで元になった人物は特にいません お疲れさまでした
ここ最近の楽しみの一つでした
毎回読ませてもらってる、今回もとても良かったです おつおつ
最後の対決は熱い展開で凄いよかったわ
魔術の法則も色々練られてて面白かったです よく勉強してるなあ
ただの匿名掲示板に書き込むのはもったいないんじゃないか ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています