花丸「写し鏡」
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―図書室―
花丸(一人きり、図書室で過ごす)
花丸(昔ならいつも一緒にいたルビィちゃんはいない)
花丸(それは正直、少し寂しい)
花丸(でもスクールアイドルを始めてから、こんなにゆっくり本を読む余裕はなかった)
花丸(マルにとって、ある意味で貴重な時間) 花丸(今日は練習が休み)
花丸(最初はルビィちゃんや善子ちゃんと遊びに行こうと思っていた)
花丸(でも二人とも用事があるからと断られて)
花丸(仕方なくやってきた図書室)
花丸(ちょうど、図書委員の仕事もあったから)
花丸(でも十分に、楽しめている)
花丸(溜まっていた本を読み、新しい本に手を出し)
花丸(これが本来の自分の姿だって、今さらながら思い出す) 花丸(でもやっぱり、一人より二人)
花丸(ルビィちゃんと過ごしていた時間を思い出す)
花丸(今の九人の世界も素晴らしい)
花丸(けど二人きりで過ごした中学の期間は、やっぱり特別で)
花丸(今度練習が休みの時、誘ってみようかな)
花丸(一緒に図書室で過ごさないかって)
花丸(でも断られるかも)
花丸(ルビィちゃんはあの時と違って、もうマル以外にも――) 【ガラッ】
花丸(……人が来るなんて珍しい)
花丸(いったい誰が――)
曜「あれ、花丸ちゃんじゃん」
花丸「曜ちゃん?」
曜「なにしてるの」
花丸「えっと、図書委員の仕事」
曜「へぇ、せっかく休みなのにえらいねぇ」 花丸「実質、本を読んでいるだけだけどね」
曜「ああ、なるほど」
曜「うちの学校の図書室なんて、人はこないもんね」
花丸「曜ちゃんはどうして?」
曜「うーん、何となく本でも読もうと思って」
花丸「あれ、そんなキャラだっけ?」
曜「おっと、聞き捨てなりませんな〜」
花丸「イメージ的にはね」 曜「曜ちゃん先輩だって本ぐらい読むんだよ」
花丸「じゃあ好きな本は?」
曜「……花丸ちゃんが読んでる本とか?」
花丸「……なるほど」
曜「ねえねえ、なに読んでるの」
花丸「恋愛小説」
曜「へぇ、その手の物語が好きなの?」
花丸「うーん、何でも読むから特別には」 曜「ちなみに内容はどんな感じ?」
曜「格好いい人が出てきて、好きになって何故か両想いとかそんな感じの?」
花丸「それじゃ少女漫画だよ」
曜「あれ、そうだっけ」
花丸「これは繊細な主人公の、不器用で上手くいかない恋愛の悲哀を描いた物語」
花丸「明るくて平和な世界とはかけ離れた話だね」
曜「……面白いの、それ?」
花丸「小説を好きな人が読めばね」 曜「へぇ、でも少し気にはなるね」
花丸「よかったら貸そうか?」
曜「うーん……、辞めとく」
花丸「そう?」
曜「私さ、どうも引きずられやすい性質なんだよね」
曜「悲しい話を読むだけで心が傷つく、弱いタイプ」
曜「きっとそれを読んだら、主人公に共感し、辛くて泣いちゃうから」
曜「駄目だよねぇ、メンタル弱くて」 花丸「……それはね、曜ちゃんが優しい証だよ」
花丸「だからね、そんな自分を卑下しないで」
曜「卑下してるんじゃないよ」
曜「その弱さが、私の人間の大切な特徴だから」
曜「弱いから、人を傷つけることを恐れる」
曜「敏感だから人の気持ちを感じ取れる」
曜「密かに感情を読み取り、行動できる」
曜「これのおかげで、理想の渡辺曜として生きてこれた」 曜「それにさ、もし卑下してるなら皮肉にしかならない言葉だよ」
花丸「どうして?」
曜「花丸ちゃん、泣いてるもん」
花丸「えっ――あっ、本当だ」
曜「気づいてなかったんだ」
花丸「本の世界に集中してたからかな」
曜「花丸ちゃん、本を読んで泣ける人なんだね」
花丸「正直、結構泣いちゃうかも」 曜「感性とか似てるのかもね、私たちは」
花丸「かな」
曜「アウトドア派の私とインドア派の花丸ちゃん」
曜「タイプ的には、あんまり似てないのにね」
花丸「でも曜ちゃん先輩は本を読むんでしょ」
曜「既に遠い過去のことだよ、それは」
花丸「早いね、切り替わりが」
曜「私は生き急ぐタイプだからね」
花丸「未来ずらね〜」 曜「まあいいや――よっと」
花丸「なんでわざわざ窓枠に腰かけるの?」
曜「うーん、風を感じたいから?」
花丸「先生に見られたら怒られるよ、きっと」
曜「大丈夫、先生なんてこないでしょ」
曜「生徒も来ない、殆ど放置されている場所なんだから」
花丸「そうかもだけど」 曜「そうそう、悪いけど読んでた本借りたよ」
花丸「あっ、いつの間に」
曜「やっぱり、気になったからさ」
花丸「辛くなるから嫌なんじゃないの?」
曜「それも楽しみの一つだよ」
曜「もし泣いたりしても、ここには花丸ちゃんしかいないしね」
花丸「涙、見せたくないとかあるんだね」
曜「うん、見栄っ張りだから」
曜「特に千歌ちゃんには隠しておきたいんだ、弱い私は」 曜「さてと」ペラッ
花丸(……風に吹かれ、髪をなびかせながら本を読む中性的な少女)
花丸「絵になるね、曜ちゃんは」
曜「そう?」
花丸「窓際に座って本を読んでる姿、格好いいよ」
花丸「惚れ惚れしちゃいそう、本当に」
曜「あはは、ありがとう」 花丸「いいなぁ、地味なマルとは大違い」
曜「いやいや、地味なんて」
曜「花丸ちゃん、可愛いじゃん」
花丸「可愛いっていうのは、ルビィちゃんみたいな子のことだよ」
曜「そんなことないって」
曜「それにさ、私と花丸ちゃんはさ結構似てると思う」
花丸「そんなこと、ないと思うけど」 曜「うーん、例えだけどさ」
曜「花丸ちゃんは、ルビィちゃんがいたからスクールアイドルを始めた」
花丸「うん」
曜「私は千歌ちゃんがいたからスクールアイドルを始めた」
花丸「そうなの?」
曜「きっかけはね」
曜「だからそもそも相手がいなければスクールアイドルを始めようともしていない」
花丸「……そうなるね」
曜「ほら、似てるでしょ」 曜「それに、学校選びでもそうだよ」
曜「私は千歌ちゃんが居なかったら浦の星じゃない違う学校に通っている」
曜「普通に考えれば、廃校の噂がある学校より沼津の方がいいからね」
曜「花丸ちゃんの場合は、普通に学校のレベル的にも」
曜「ルビィちゃんが居なかったら、ここには来なかったんじゃないかな」
花丸「それは、そうかも」
曜「ね、やっぱり似てるでしょ」
花丸「かもね」
花丸「ルビィちゃんと千歌ちゃんありきな部分が大きいけど」 曜「うーん、確かに」
曜「もし二人が居なかったら、どんな人生だったのかな」
花丸「どうだろ、分かんないや」
曜「それじゃあ、試してみようか」
花丸「えっ?」
曜「ちょっとさ、こっちにおいで」
花丸「う、うん」 曜「それでさ、このカーテンで二人をくるんで――ほら」
花丸「え、えっ」
曜「できたよ、二人がいない世界」
花丸「ちょ、ちょっと、近いよ」
曜「気にすることないよ、女同士なんだから」
花丸「でも」
曜「これぐらい、ルビィちゃんとはよくある距離でしょ」
花丸「それとこれとは話が別だよぉ」 曜「うーん、でも確かに少し緊張するね」
花丸「でしょ」
曜「私も千歌ちゃんと慣れていたはずなんだけど、違うもんなんだね」
花丸「そりゃそうずら」
曜「よし、まあ満足した」バッ
花丸「あっ」
曜「すっきりしたし、私は帰るわ」 どうしてくれんだよコレ… そろそろ寝ようと思ったのに続き気になっちゃうじゃないか 花丸「本、読んでいかないの?」
曜「やっぱり曜ちゃんには向いてなさそうだからね、読書とか」
曜「この本も返すね」
花丸「……気分屋さんだね」
曜「あはは、ごめんごめん」
曜「邪魔して悪かったね」
花丸「ううん、平気」
曜「また明日の部活で〜」バタン 花丸「…………」
花丸(まだ少し、ドキドキしてる)
花丸(あんなことを平気で出来るなんて、やっぱり似てない――)
『でも確かに緊張するね』
花丸(曜ちゃんも、ドキドキしてたのかな)
花丸(平気そうな顔をしながら、心の中では)
花丸(似てるとしたら、もしかしたら……) ※
―部室―
花丸「ルビィちゃん、迎えに来たよ」
ルビィ「マルちゃん!」
曜「ごめんね遅くなって」
花丸「衣装づくり、もう大丈夫なの?」
曜「うん、大体完成したよ」
曜「あとは少し、チェックをするだけ」 ルビィ「作詞の方はどう?」
花丸「完成したよ」
花丸「いつもどおり、千歌ちゃんがだいぶ苦戦してたけど」
曜「あはは、元々歌詞とか書けるタイプじゃないから」
曜「あれでもかなり頑張ってるんだよ」
花丸「うん、分かるよ」
花丸「それに完成した歌詞は、マルが書くよりいいものが生まれるから」 曜「そうかなぁ、私は花丸ちゃんの歌詞好きだけど」
花丸「そう?」
曜「千歌ちゃんとさ、よく話してるんだ」
曜「私たちより、衣装はルビィちゃん、歌詞は花丸ちゃんに任せた方がいいかなって」
ルビィ「そ、そんなの無理だよ」
ルビィ「曜ちゃんの方が、ルビィよりお裁縫上手だもん」
曜「またまた、謙遜しちゃって〜」ナデナデ
ルビィ「ピギッ」 ルビィ「る、ルビィ、お手洗いへ行ってきます!」パタパタ
曜「……逃げられた」
花丸「あはは」
曜「うーん、まだまだスキンシップが足りないか」
花丸「恥ずかしがり屋だから、それは逆効果化も」
花丸「きっと慣れてもああなるだろうし」
曜「かねぇ」 曜「あーあ、私も花丸ちゃんやダイヤさん並みにルビィちゃんと仲良くなりたいんだけどなぁ」
花丸「いつかなれるよ、たぶん」
曜「先は長い……」
花丸「マルも昔は苦労したから、がんばルビィだよ」
曜「へぇ、二人にもそんな時代があったんだね:
花丸「ルビィちゃん、究極の人見知りだったから」
曜「言ってたね、そんな話」 花丸「大変だったんだよ、仲良くなるの」
花丸「そもそも、マルも結構人見知りでしょ」
花丸「ルビィちゃんは『マルちゃんとはすぐに仲良くなった』っていうんだけどね」
曜「それとなく想像できるね、色々と」
花丸「曜ちゃんと千歌ちゃんの馴れ初めはどんな感じだったの?」
曜「馴れ初めって意味違くない?」
花丸「まあまあ、些細な違いだよ」
曜「結構重要だと思うけどなぁ」 曜「出会いの話なら、正直あんまり覚えてないかも」
曜「子どもの頃だから、気づけば仲良くなってたし」
花丸「マルが子どもの頃、気づけば仲良くなってた子なんていなかったけど」
曜「善子ちゃんは?」
花丸「幼稚園だけの関係だし、一緒にいるような関係ではなかったから」
花丸「もちろん、それなりに仲は良かったとは思うけど」
曜「ふーん」 花丸「すんなり仲良くなれたのは、相性とかあるのかな」
曜「かもね、割と似てるから」
花丸「性格とか体格とか?」
曜「あと、昔から二人ともみかん好きだったり」
花丸「それだとみかんの取り合いで喧嘩になったりしてそう」
曜「不思議となかったんだよね、その手のこと」
花丸「それぐらい仲良しだったってことかな」
曜「だといいんだけどね」 曜「花丸ちゃんはルビィちゃんと喧嘩したことある?」
花丸「無いと思う」
曜「だよね」
曜「私も小さい頃を含めて、千歌ちゃんと喧嘩したことないんだ」
花丸「二人の喧嘩、イメージできないもんね」
曜「それでさ、よく仲良しだねって言われる」
曜「今の花丸ちゃんみたいにね」
曜「花丸ちゃんも、似たようなことあるでしょ」
花丸「うん」 曜「でもさ、それって本当に良いことなのかな」
花丸「えっ?」
曜「単純に、相手に遠慮しちゃってるだけ」
曜「互いに本音をさらけ出さず、上辺の綺麗な世界だけを見て」
曜「本当は深い部分では分かりあえていないのかもしれない」
花丸「…………」
曜「考え過ぎかもしれないけどね、こんなのは」 ルビィ「す、すいません、作業中に」
曜「おっ、戻ってきたね」
ルビィ「チェック、終わっちゃいました?」
曜「うん」
花丸「それじゃあ、帰ろうか」
ルビィ「うん」
曜「二人とも、気をつけてね」 花丸「曜ちゃんは一緒に帰らないの?」
ルビィ「途中までは一緒だよね」
曜「私はもう少し残るよ」
曜「個人的にしておきたい作業もあるからさ」
ルビィ「そうなの?」
曜「うん」
曜「だから気にしないで、二人で帰って」 ルビィ「分かった――でも曜ちゃんもほどほどにね」
曜「そうだね、少ししたら帰るよ」
花丸「無理しちゃ駄目だよ」
曜「あはは、心配しなくても平気だよ」
曜「バイバイ、二人とも」
花丸「うん、バイバイ」
ルビィ「また明日〜」 ―バス車内―
ルビィ「ふわぁ、疲れたよぉ」
花丸「大変だったみたいだね、衣装づくり」
ルビィ「うん、流石に九人分は大変だよぉ」
ルビィ「楽しいから、全然辛くはないんだけどね」
花丸「ふふっ、お疲れ様」 ルビィ「でも曜ちゃん、凄いよね」
ルビィ「ルビィより沢山の量の作業をこなしてたのに、元気なんだもん」
花丸「流石は体育会系だよね」
ルビィ「ねー」
花丸「でも、流石に疲れてたみたいだから少し心配かも」
ルビィ「そうだった?」
花丸「うん、ちょっと元気なさげだったし」
ルビィ「うゅ、気づかなかった」
花丸「まあ、マルの気の所為かもだから」 ルビィ「マルちゃん、最近曜ちゃんと仲良いね」
花丸「そうかな?」
ルビィ「うん」
ルビィ「前はね、どこか間を保ってお話してた」
ルビィ「でも最近は、殆ど距離を感じなくなったんだ」
花丸「うーん、あんまり自覚無かったよ」
ルビィ「でも曜ちゃんのこと、よく理解できるようになったでしょ」
花丸「うーん、そうかも」 ルビィ「いいね、仲良しさんで」
ルビィ「ルビィ、まだ曜ちゃんに人見知りしちゃったりするから」
花丸「人それぞれだから、ゆっくりでも大丈夫だよ」
花丸「二人は衣装係の仲間なんだから、じきに仲良くなるって」
ルビィ「そうかな」
花丸「うん、マルが保証するよ」
ルビィ「うゅ、それなら安心だね」 ルビィ「あっ、そうだ」
ルビィ「マルちゃんにも、これあげる」
花丸「これは、飴?」
ルビィ「マルちゃんが来る前にね、千歌ちゃんが差し入れにくれたの」
ルビィ「ルビィが好きだからって、いっぱい」
ルビィ「一人じゃ食べきれないから、お裾分けだよ」
花丸「わぁ、ありがとう」 ルビィ「本当は独り占めって考えてたんだ」
ルビィ「曜ちゃんも全部あげるよって言ってくれてたから」
ルビィ「でもマルちゃんだけ、特別ね」
花丸「流石ルビィちゃん、やさしいずら〜」ギュッ
ルビィ「ピギッ」
花丸「大好きだよ、ルビィちゃん」
ルビィ「えへへ、ルビィも」 今回はこの辺で
一週間ぐらいでの完結を目指して投稿していきます ※
―水族館―
花丸「はぁ」
花丸(人生初かもしれないアルバイト)
花丸(あり得ないような失敗続き)
花丸(今日は散々ずら……)
花丸(ルビィちゃんは上機嫌なダイヤさんに連れて帰っちゃうし……) 曜「おーい、洗剤っ子」
花丸「うぐっ」
曜「あれ、どうしたの?」
花丸「……それは禁句ずら」
曜「あぁ、洗剤?」
花丸「あれで散々怒られたもん……」
曜「そりゃそうだよ、洗剤全部入れたりしたら」
曜「なんであんなことしたのさ」 花丸「だって、洗い物とかしたことなかったし」
曜「そうなの?」
花丸「ずら……」
曜「ふむ、箱入り娘か」
花丸「そう言われると否定しずらいよ……」
曜「あんなに本を読んでるのに、世間知らずとは意外だねぇ」
花丸「……本の知識には限界があるずら」
曜「はは、読書家がそれを言っちゃうか」 曜「まあ洗剤の件については、千歌ちゃんも一緒にノリノリでやってたからね」
花丸「本当だよ」
花丸「旅館で慣れてそうなのに」
曜「いやまあ、絶対おかしいことには気づいてたと思うよ」
花丸「でも止めてくれなかったよ」
曜「なんか楽しいから、ノリで続けたみたいな?」
曜「千歌ちゃん、そういうところあるし」
花丸「子供みたいだよ、それ」
曜「そうそう、子どもなんだよ」 花丸「子どもといえば、小さい子を何人も泣かせちゃったし」
曜「あれは善子ちゃんの責任でしょ」
曜「ダイヤさんが場を収めてくれたんだから、気にすることないよ」
花丸「でも、ルビィちゃんも一緒に泣かせちゃったし……」
曜「ああ、正直少し驚いた」
曜「まさか泣くなんて思わなかったから」
花丸「わざとかもだけどね、善子ちゃんをいじるため的な感じで」
曜「どちらにしても子どもっぽいなぁ」 曜「子ども仲間か、千歌ちゃんとルビィちゃん」
花丸「かもね」
花丸「ダイヤさん、前に『子どもの日はルビィの日』なんて言ってたし」
曜「千歌ちゃんも美渡姉にいつも子ども扱いされてるしなぁ」
花丸「見た目も声も、ちょっと幼いよね」
曜「ルビィちゃんも千歌ちゃんも妹だから、その辺関係あるのかな」
花丸「でもそこが可愛いよね」
曜「うん、分かる」 花丸「けど、こんな風に語るマルたちはどんな立場なのかな」
曜「うーん、お姉ちゃん?」
曜「もちろん親友であることは前提だけどね」
花丸「マルも曜ちゃんも同じなのかな」
曜「そうだよ」
曜「私も花丸ちゃんも、輝く世界を目指す大切な人を後ろから見守ってる」
曜「少し危なっかしいけど、キラキラしたあの子たちが大好き」
曜「だから支えてあげたい、先へ進む手伝いをしてあげたい、そう思ってる」
花丸「うん、そうだね」 曜「ついでに私とルビィちゃんは衣装担当」
曜「花丸ちゃんと千歌ちゃんは作詞担当」
曜「互いに手が届かない場所を助け合ってる辺り、私たちも姉妹っぽいかも」
花丸「それだと、マルがお姉ちゃんかな」
曜「えー、なんでさ」
花丸「曜お姉ちゃんは少し不安が残るずら」
曜「せ、洗剤っ子にそれを言われるか……」 花丸「でもマルもお姉ちゃんは難しいよね」
曜「それだと、誰がお姉ちゃんになるのかな」
花丸「うーん……、ダイヤさんとか?」
曜「あー、Aqoursのお姉ちゃん代表」
曜「確かに全員妹になっても違和感ないかも」
花丸「きっと喜んで引き受けてくれるよ」
花丸「ダイヤさん、妹大好きだから」
曜「ダイヤさんの妹かぁ、悪くないね」 曜「でも年齢はアレだけど、善子お姉ちゃんも見て見たくない?」
曜「案外上手くいきそうだよ」
花丸「うーん、それは駄目かな」
曜「どうして?」
花丸「善子ちゃん、みかん嫌いの異端児だから」
花丸「みかん好きの妹たちの反乱が待ってるよ」
曜「あはは、なるほどね」
曜「花丸ちゃんも好きだったね、みかん」 花丸「曜ちゃんも好きだよね」
曜「うん、前も言ったとおり小さい頃からね」
曜「千歌ちゃんもそうだし、ルビィちゃん以外はみんなみかん好きか」
花丸「ルビィちゃんも好きだったとは思うんだけど、お芋の方が好きなんだよ」
曜「好きだもんね、スイートポテトとか」
花丸「知ってるの?」
曜「流石にね」
曜「最近はだいぶ仲良くなったし」
花丸「そっかぁ」 曜「でもさ本当にさ、私たちって似てるよね」
曜「感性も、思考も、好きな食べ物まで一緒」
花丸「あと、親友への深い友情も?」
曜「うんうん、それも重要だね」
曜「だからさ、気になるんだよ」
曜「同族意識なのかな」
曜「似てるからこそ、どこかで惹かれあってる」 花丸「……その気持ちは、少しわかるかも」
花丸「共通点を見つければ見つけるほど、親近感が湧いてくるもん」
曜「でしょ」
曜「まるで写し鏡みたいに、そっくりだもんね」
花丸「やっぱり、実質姉妹なんだね」
曜「そうだね」
花丸「そうなると年上だし、曜お姉ちゃんなのかなぁ」
曜「いいね、可愛い妹は大歓迎」 花丸「でも写し鏡、いい感じの言葉だね」
曜「でしょ」
花丸「段々顔とかも似てくるのかな」
曜「いやいや、それじゃあ夫婦だよ」
花丸「そうだっけ」
曜「まあ似た物同士ってさ、身体の相性はいいらしいけどね」
花丸「あ、相性って」
曜「やっぱり上手くかみ合うようにできてるんだって」 曜「つまりさ、私と花丸ちゃんも相性いいんじゃない?」
花丸「そ、それはどうかな」
曜「せっかくだし、試してみる?」
花丸「へっ」
曜「気になるじゃん、どこまで本当なのか」ズイッ
花丸「ちょ、ちょっと、曜ちゃん」
曜「夫婦みたいな関係なら、いいでしょ」
花丸「いや、ちょっとま――」 曜「なんてね」
花丸「ふぇ」
曜「いいね、その反応」
曜「からかい甲斐があるよ、花丸ちゃんは」
花丸「も、もう」
曜「ごめんね、可愛い妹はからかいたくなるんだよ」
花丸「……困ったお姉ちゃんずら」 曜「さて帰ろうか」
曜「早くしないとお家の人に心配されるよ」
花丸「うん」
曜「歩いて帰れる範囲だっけ」
花丸「一応ね」
曜「それなら送ってくよ」
曜「どうせバスまでまだ時間あるからさ」
花丸「ありがとう、曜ちゃん」 ※
―函館ホテル―
花丸「うーん」
花丸(遅いなぁ、ルビィちゃん)
花丸(ハンバーガー屋さんで飛び出して、ダイヤさんが追いかけて)
花丸(追いかけたダイヤさんは、すぐに戻るって言ってたのに)
花丸(ハンバーガーを買っておいたのは軽率だったかも)
花丸(温められる場所とかあればいいけど) 【ギィ】
ルビィ「……」
花丸「あっ、ルビィちゃん」
ルビィ「マルちゃん」
花丸「遅かったね、ダイヤさんは?」
ルビィ「部屋に戻った」
花丸「そ、そっか」
花丸(気の所為かな、様子がおかしいずら) 花丸「大丈夫? 体調悪くない?」
ルビィ「うん、平気」
花丸「お腹空いてるよね」
花丸「さっきね、ハンバーガー買っておいたんだ」
花丸「ルビィちゃん食べてなかったでしょ」
ルビィ「……うん」
花丸「少し冷めちゃったかもしれないけど、まだそこまで――」 ルビィ「ごめん、マルちゃん」
花丸「えっ?」
ルビィ「ルビィ、ちょっと外に出てくるね」
花丸「え、えっと」
ルビィ「少しね、行かなきゃいけない場所があるの」
花丸「もうこんな時間だよ」
ルビィ「それでも」 花丸(ど、どうしよう)
花丸(ルビィちゃん、譲りそうにない)
花丸(でももう、遅い時間だし……)
花丸「その、どこへ行くの?」
花丸「流石に一人はマズいから、マルも一緒に――」
ルビィ「平気」
ルビィ「ルビィ一人で行けるよ」
花丸「ず、ずら……」 ルビィ「遅くなるかもしれないから、先に休んでて」
花丸「う、うん」
ルビィ「せっかく北海道へ来たのに、一人で動いてごめんね」
ルビィ「また今度、一緒にお泊りしようね」
花丸「そうだね……」
ルビィ「じゃあ、行ってきます」
花丸「……いってらっしゃい」
【バタン】 ―――
――
―
花丸(ルビィちゃん、出て行ってからずいぶん経ったな)
花丸(大丈夫かな、こんな時間に)
花丸(こっちに来てから、ずっと様子が変だった)
花丸(話を聞こうとしても、本人は平気と言って)
花丸(……だめ、やっぱり心配だよ)
花丸(やっぱり、無理やりでも着いて――) 花丸(いやいや、駄目だよね)
花丸(昔とは違う、手を貸すのは余計なお世話)
花丸(本人が望んでいないなら、なおさらだよ)
花丸(ルビィちゃんはもう、一人で何でもできる子)
花丸(マルは信じて、帰りを待てばいい)
花丸(……でも、何かを用意して待つぐらいはいいよね)
花丸(食べ物とか、温かい飲み物とか)
花丸(今のうちにコンビニか売店へ買いに行こう) ―ロビー―
花丸「んっ」
花丸(あれは……)
花丸「曜ちゃん」
曜「えっ」
花丸「なにしてるの、こんなところで」 曜「……見つかったか」
花丸「なにかあったの?」
曜「少し気分転換」
曜「ずっと千歌ちゃんと二人なのも、何か落ち着かなくて」
花丸「らしくないね、それも」
曜「いやぁ、何かホテルで二人ってシチュがね」
花丸「付き合いたてのカップルじゃないんだから……」
曜「あはは、確かに」 曜「花丸ちゃんは?」
花丸「マル?」
曜「私と同じような理由?」
花丸「……えっと、まぁ」
曜「……頬にパン屑ついてるよ」
花丸「えっ」
曜「ごめん、嘘」 曜「ハンバーガー、ルビィちゃんに買ってあげた奴でしょ」
花丸「ルビィちゃん、出かけるからいらないって」
曜「ああ、それでか」
曜「さっき外に出ていくのを見かけたから」
花丸「そんなに前からここに居たの?」
曜「いや、その時は飲み物を買いに来ただけ」
曜「声をかけようかと思ったんだけど、何か急いでたみたいだから」
花丸「そうなんだ……」 曜「喧嘩とかしたわけじゃないんだよね」
花丸「それは、そうだけど」
曜「どうして一緒に行かなかったの」
花丸「本人に断られちゃって」
曜「こっそりでも、着いていけばよかったのに」
花丸「でもルビィちゃんはもう、マルの助けはいらないから」
花丸「これ以上何かをするのは、邪魔なのかもしれないと思って」
曜「ルビィちゃんの成長の為とか?」
花丸「それは、ちょっと違うけど」
曜「…そっか」 花丸「駄目、なのかな」
曜「別にそういうわけじゃないよ」
曜「でも私の立場だったら、無理やりでも着いていくかなって」
花丸「曜ちゃんの立場だったら?」
曜「千歌ちゃんが、同じような状況だったらね、間違いなく」
曜「それは相手を信頼してない訳でもなくてさ」
曜「大切な友達が困っていたら、助けてあげたい」
曜「一人よりは二人の方が絶対にいい、そう思うから」 花丸「……そんな考え方もあったんだよね」
曜「明日からはさ、助けてあげなよ」
曜「その方がきっと、ルビィちゃんも喜ぶから」
花丸「うん」
花丸「ありがとう曜ちゃん」
曜「いいよ、これぐらい」
曜「一応さ、先輩だから」 曜「さて、私は部屋に戻ろうかな」
花丸「もう大丈夫なの?」
曜「たぶん、千歌ちゃんも待ってくれてるからさ」
花丸「あっ、そうだよね」
曜「今回は少し違ったね」
曜「ルビィちゃんを待つ花丸ちゃんと、千歌ちゃんを待たせる私」
曜「いつも同じとはいかないか」
花丸「ふふっ、だね」 曜「ちゃんと助けてあげなよ、ルビィちゃんのこと」
曜「きっと一番力になってあげられるのは、花丸ちゃんなんだから」
花丸「もちろん」
曜「じゃあまた明日、吉報を期待してるよ」
花丸「うん」
曜「おやすみ、花丸ちゃん」
花丸「おやすみなさい、曜ちゃん」 ※
―閉校祭―
花丸(やっと終わったぁ)
花丸(善子ちゃん、楽しそうでよかったな)
花丸(正直理解しがたい占い)
花丸(でもあんなにやりたがってたもんね)
花丸(千歌ちゃんには感謝しないと)
花丸(流石リーダー、頼りになる――) ??「花丸ちゃん」トントン
花丸「ずら?」クルッ
うちっちー「やあ」
花丸「ひっ」
花丸「だ、誰なの」
うちっちー「あれ、分かんない?」
曜「私だよ」スポッ
花丸「な、なんだ、曜ちゃんか」 曜「気づかなかった?」
花丸「本気でびっくりしたずら……」
曜「そこまで怖がられると私も割とショックなんだけどなぁ」
花丸「だって、うちっちーって少し不気味な見た目だし……」
曜「まあ、もとはセイウチだし否定はしないけどさ」
曜「うちっちー=私みたいなものなんだから、そこで認識してほしい」
花丸「そうだっけ?」
曜「だよ、バイトの時も入ってたし」 花丸「というか曜ちゃん、着ぐるみの頭とっていいの?」
花丸「子どもたちに見られたら、色々マズいんじゃ」
曜「あー、まあいいんじゃない」
曜「私が中にいることは、割と知られてる感あるから」
曜「それにもう、子どもはそんなにいない時間帯だしさ」
花丸「それもそっか」
曜「いまどきいないよ、そんなに夢見がちな子どもは」 曜「善子ちゃんの方、無事にできた?」
花丸「うん、千歌ちゃんと梨子ちゃんのおかげで」
曜「そっか、よかった」
曜「あれ、全然人が集まってなかったでしょ」
曜「怪しいし、色んな意味で」
花丸「否定はしないずら」
曜「やる前にさ、占いとか流行らないと言っておいたのになぁ」
曜「まあやりたいことをやる、それが大事なのかもだけど」 花丸「でもそれだと、曜ちゃんはよかったの?」
曜「なにが」
花丸「千歌ちゃんと一緒に、お店の方を手伝わなくて」
曜「うーん、そうだね」
曜「確かに一緒にやりたかったのは否定しない」
曜「でもこれまで、文化祭とかは散々一緒にやってきたしさ」
曜「千歌ちゃんを抜きにすれば、それ以外のことの方がしたかった」
曜「だからこれでいいんだよ、たぶん」 曜「花丸ちゃんだって、そうでしょ」
曜「ルビィちゃんより、善子ちゃんを手伝ってあげた」
花丸「あっちにはダイヤさんもいるから」
花丸「あと善子ちゃんは放っておけなくて」
曜「分かるよ、構ってあげたくなるよね」
花丸「それにルビィちゃんは成長して、強くなった」
花丸「今回、マルの助けが必要なのは善子ちゃんの方だったから」 曜「変わったよね、ルビィちゃん」
花丸「うん」
曜「函館なのかな、きっかけは」
花丸「たぶんね」
花丸「ダイヤさんから離れて、理亞ちゃんと二人で最高の舞台を創り出して」
曜「花丸ちゃんだって、助けてあげたでしょ」
花丸「うん、曜ちゃんのおかげで」
花丸「ほとんど力にはなれなかったかもだけど」 曜「あの時、千歌ちゃんも裏でこそこそやってたなぁ」
花丸「相談されてなかったんだ」
曜「うん」
花丸「それ、少し寂しくなかった」
曜「多少はね」
曜「でも慣れたよ」
曜「私も千歌ちゃんも、いつまでも一緒にいられるわけじゃない」
曜「いつか慣れなきゃいけなかったから、ちょうどいい機会だったよ」 花丸「……曜ちゃん、少し変わったね」
曜「成長だよ、私なりの」
曜「人はみんな成長して、変化していく」
曜「これは花丸ちゃんにも言えることだね」
花丸「そうだね、マルも変わった」
花丸「少なくとも、高校へ入る以前とは別人みたいに」
曜「当然変わったのは、私だけじゃない」
曜「千歌ちゃんも、ルビィちゃんも、それに当てはまる」
花丸「そうだね」 曜「行かなくていいの、ルビィちゃんのところ」
曜「善子ちゃんの方が解決したなら、行ってくればいいじゃん」
花丸「……一度、覗きにはいったんだけどね」
花丸「ダイヤさんと楽しそうなのに、お邪魔かなって」
曜「そうかな」
花丸「せっかく、姉妹での貴重な思い出づくりでしょ」
花丸「そこに入り込むのも、何か違う気がして」
花丸「マルが手伝えること、特になさそうだし」 曜「うーん、花丸ちゃんらしい答え」
曜「でもそれはきっとさ、余計な気遣いだよ」
花丸「そうかな」
曜「そうだよ、間違いない」
曜「別に手伝えなくても、普通に遊びに行けばいい」
曜「差し入れでも持って、親友として」
曜「ダイヤさんも気にしない、むしろ喜ぶはずだから」 曜「最近気づいたんだよ」
曜「気を遣い過ぎるのは、むしろ逆効果だって」
曜「自分はもちろん、相手にも損をさせてる」
曜「常識的な範囲で、やりたいように行動する」
曜「それが、一番いいんだ」
花丸「……曜ちゃんが言うなら、そうなのかもね」
曜「おや、ずいぶん信頼されたね」 花丸「だって、その言葉は曜ちゃんの成功体験から出るものでしょ」
花丸「似た物同士のマルにとっては、正しい道への道標みたいなもの」
花丸「それがルビィちゃんへ向けた対応なら、尚更だよ」
曜「なるほど、流石に頭いいね」
曜「無条件の信頼とかじゃない、根拠があってのことか」
花丸「曜ちゃんにはちょっと申し訳ないけどね」
曜「いや、いいよ」
曜「私だって変に信頼されても困るから」 曜「まあでも、一応信頼に応えるためにこれは授けておこう」スッ
花丸「これは?」
曜「焼みかん、さっき貰っておいたんだ」
曜「一応差し入れぐらいにはなると思うから」
曜「これを持って、ルビィちゃんのところへ行っておいで」
花丸「……ありがとう、曜ちゃん」
曜「頑張れ、花丸ちゃん」
花丸「うん」 ※
―東京―
花丸「はぁ」
花丸(どこへ行っても、人、人、人)
花丸(大学も二年生になるのに、全然慣れる気がしない)
花丸(都心の大学は、どうしてこんなに人で溢れかえっているのかな)
花丸(ずっと田舎で過ごしてきたマルにとっては、なかなかつらい環境) 花丸(いつもはルビィちゃんが居るけど、今日は一人での授業)
花丸(大学内には他に友達もいないし、正直つらい)
花丸(サークルも、部活も、どこも性に合わなくて)
花丸(今だってどこか居場所を探して彷徨うだけ)
花丸(馬鹿みたい、こんな生活――)
曜?「それでさー」
花丸(曜ちゃんの声?)
花丸(いや、幻聴かな) 花丸(善子ちゃんじゃなく、曜ちゃんを思い出すなんて)
花丸(曜ちゃんは私とは違う大学に進学した)
花丸(卒業まで、特別仲良くすることなんかなくて)
花丸(いくら似た物同士と言っても、学年も交友関係も違う)
花丸(あくまでも部活の仲の良い先輩後輩同士の繋がり)
花丸(もちろん大切な仲間だったし、助けてもらうことは何度もあった)
花丸(でも結局、マルと曜ちゃんはその程度の関係に過ぎなかったから) 花丸(そんな人の幻聴を聴くなんて、いくらなんでも人に餓えすぎ)
花丸(ひとりぼっちが好きだったマルは、どこへ行ったのか――)
曜「あれ、花丸ちゃん?」
花丸「えっ……」
曜「私だよ、覚えてる?」
花丸「よ、曜ちゃん」
曜「やっぱり花丸ちゃんじゃん」 花丸(ほ、本物?)
モブ1「曜、知り合い?」
曜「高校の後輩」
曜「ほら、スクールアイドルの」
モブ1「あー、なるほど」
モブ1「確かに納得の可愛さ」
曜「でしょ、妹みたいな感じで可愛がっててさ〜」 花丸「え、えっと」
曜「花丸ちゃん、いま暇?」
花丸「う、うん」
曜「モブちゃん、今日はここで解散でいい?」
モブ1「いいわよ、もう用事は終わってるから」
曜「ありがと〜」
花丸「あの……」
曜「せっかく会ったんだし、お茶でもしにいこうよ」
曜「積もる話も色々あるだろうしさ」 ―喫茶店―
曜「いやー、久しぶりだねぇ」
花丸「う、うん」
曜「元気だった?」
花丸「まあ、それなりには」
曜「そういやあの大学だったね、ビックリしたよ〜」 花丸「曜ちゃんはなんでうちの大学に?」
曜「さっき一緒にいた子、こっちに来てからできた友達でさ」
曜「その伝手で、時々遊びに行ってるんだよね」
花丸「流石、交友関係広いね」
曜「まあね」
曜「花丸ちゃんはルビィちゃん一筋?」
花丸「恥ずかしながら……」 曜「いやいや、ずっと仲良しなのは良いことだと思うよ」
花丸「善子ちゃんが違う大学だから、二人の世界に戻っちゃって」
曜「独特なことを学びたいからって、変な大学へ進学したんだよね」
花丸「うん」
花丸「もちろん今でも時々会ったりはしてるけど」
曜「私たちの学年は全員東京だから、その辺はついてたなぁ」
花丸「マルもね、最初は友達作りはしたよ」
花丸「それでルビィちゃんは仲良しな子はできたみたい」
花丸「でもマルはどうしても馴染めなくて」 曜「勿体ないね、可愛いのに」
曜「恋人とかいないの?」
花丸「全然、そもそも人とかかわらないから」
曜「それはまた……」ナデナデ
花丸「ず、ずら」
曜「相変わらずちっちゃいねぇ」
花丸「背、伸びなかったからね……」
曜「まあまあ、それぐらいの方が可愛いよ」
花丸「曜ちゃんは少し大きくなった?」
曜「そうだね、女子の平均は超えたかな」 花丸「最近、千歌ちゃんとはどう?」
曜「相変わらず仲良しだよ」
曜「あっちは恋人ができたから、ちょっと放置され気味だけどね」
花丸「そっか、曜ちゃんの方も」
曜「私の方もってことは、もしかしてルビィちゃんも」
花丸「うん」
曜「どんな相手なの?」
花丸「分からない」
花丸「大学は違うし、恥ずかしがって紹介もしてくれないから」 曜「あー、それ千歌ちゃんもだ」
花丸「みんな考えることは同じなのかな」
曜「かねぇ、惚気話とかは平気でしてくるのに」
花丸「だよねぇ」
花丸「まあ幸せそうなのはいいんだけどね」
花丸「いつも惚気話を聞かされる分、こっちとしては辛いよ」
曜「あー、分かる」
曜「仲が良い分、何でも聞かされるもんね」 曜「恋人ができたの、いつ頃なの?」
花丸「割と大学へ入ってからすぐの時期だったよ」
花丸「確か、去年の春ぐらい」
曜「マジか、千歌ちゃんもそんな感じだったかも」
花丸「春は出会いの時期だもんね」
曜「しかし恋人ができるのも同じようなタイミング」
曜「似てるのは私たちじゃなくて、あの千歌ちゃんとルビィちゃんもだよね」
花丸「だね」 曜「ついでに私たちも今さら、新しい共通点」
曜「『親友に先を越された余り者同士』の称号を手に入れたね」
花丸「あはは……」
曜「何とも不名誉だねぇ」
花丸「曜ちゃんに相手がいないの、少し意外だけど」
曜「どうにもピンとくる相手がいないんだよね」
曜「友達だけは多いんだけどさ」 曜「ちょうどいいや、ちょっと遊びに行かない?」
曜「余り者同士、気分転換にさ」
花丸「それいいね」
曜「でしょ、やけ酒でも飲みに行ってもいいし」
花丸「マル、まだ飲めないよ」
曜「あれ、未成年だっけ」
花丸「次の三月でやっと二十歳ずら」
曜「マジか、残念」 曜「まあいいか、その方が健全だし」
曜「お酒入った状態で可愛い花丸ちゃんと二人きりだと、理性を失って襲いかかっちゃいそうだし」
花丸「曜ちゃん、酒癖悪いの?」
曜「そうじゃないけどさ」
曜「お酒は怖いんだよ、本当に」
花丸「……失敗した過去がありそうだね」
曜「それは聞かないで……」 曜「まあそんなのいいじゃん」
曜「お酒の話はまた別に、今日は普通に楽しもうよ」
花丸「えー」
曜「花丸ちゃん、あんまり人と遊んだりしてないでしょ」
花丸「まあ、そうかも」
曜「それなら今日は曜ちゃん先輩が色々連れていってあげるよ」
花丸「むむ、それはなかなか魅力的」
曜「ふふっ、楽しみにしていたまえ」
花丸「了解ずら!」 夜も遅いんでこの辺で
あと1~2回、できれば今日中の更新で終わらせたいです ※
―ルビィ宅―
花丸「――それでね、曜ちゃんったら変なミスしちゃって」
ルビィ「へぇ、少し意外だね」
ルビィ「曜ちゃん、もっとしっかりしてるイメージなのに」
花丸「案外抜けてるんだよね、一緒にいると」
ルビィ「あー、そゆとこあるよね」
ルビィ「しっかりしてそうな人でも、ちゃんとかかわると目立たない部分が見えてきたり」
花丸「そうそう、そんな感じ」 ルビィ「でも花丸ちゃん、すっかり曜ちゃんと仲良しさんだね」
花丸「まあね」
ルビィ「もしかして、ルビィよりも大事な友達になっちゃったのかな……」
花丸「そ、そんなことないよ」
花丸「マルの一番はルビィちゃんずら」
ルビィ「本当に?」
花丸「うん」 ルビィ「……それ、今度曜ちゃんに言っちゃお」
花丸「えっ」
ルビィ「どんな反応するかなぁ、曜ちゃん」
花丸「ちょ、ちょっと、それは勘弁を――」
ルビィ「なんてね、冗談だよ」
花丸「だ、だよね……」
ルビィ「そんな酷いこと、ルビィはしないもん」 花丸「ルビィちゃん、冗談上手くなったね」
花丸「マル、本気で怖かったんだけど」
ルビィ「あはは、ごめんね」
花丸「……どうしよう、悪い子ルビィだよ」
花丸「これはダイヤさんに報告しないと」
ルビィ「ピギッ、それだけはちょっと――」
花丸「なんてね、マルからも仕返しずら」
ルビィ「も、もー」 【ピピピピピ】
ルビィ「あっ、もうこんな時間」
花丸「あっという間だね、話してると」
ルビィ「むぅ、もっと余裕があるつもりだったんだけど」
花丸「そうだねぇ」
ルビィ「うーん、デートは中止にしてこのまま一緒にいようか」
花丸「駄目だよ、そんなことしたら」
ルビィ「そうだけどぉ」 花丸「また今度、遊べばいいずら」
花丸「どうせ家も近いし、同じ大学なんだから」
花丸「今日のデート、楽しみにしてたんでしょ」
ルビィ「……それもそうだよね」
花丸「さて、それじゃあマルは帰るね」
ルビィ「うん」
花丸「バイバイ、ルビィちゃん」
ルビィ「バイバイ〜」 ―――
――
―
花丸(変わったなぁ、ルビィちゃん)
花丸(これが噂に聞く、恋人に似てくるってやつなのかな)
花丸(やっぱり寂しい、それは否定しずらいよね)
花丸(でも、デートよりマルと遊ぶ方がいい)
花丸(そんな風に言われたのは、少し嬉しかったかも――) ??「あれ、花丸ちゃん」
花丸「はい?」
??「あっ、やっぱり花丸ちゃん!」
花丸(この特徴的なアホ毛と三つ編みは――)
花丸「千歌ちゃん?」
千歌「そうだよ!」
花丸「本物だよね?」
千歌「うん!」 花丸「わぁ、久しぶりだね」
千歌「だね〜」ギュー
花丸「わっ、ちょっと」
千歌「相変わらず可愛いね〜」
花丸「く、苦しいよ」
千歌「あはは、ごめんごめん」
千歌「可愛いからつい」
花丸「もぅ」 千歌「どうしたの、こんなところで」
花丸「さっきまでルビィちゃんと遊んでたんだ」
花丸「この後デートだからって解散して、今から帰るとこ」
千歌「あー、なるほどね」
花丸「千歌ちゃんの家もこの近くだっけ?」
千歌「ちょっと離れてるんだけど、今日は用事があって」
千歌「今度、時間がある時に遊びにおいで」
花丸「うん、ありがとう」 千歌「そういやさ、最近曜ちゃんと仲良いんだって」
花丸「曜ちゃんから聞いたの?」
千歌「まあ、そうかな」
千歌「最初は他の人から聞いたんだけど」
花丸「へぇ、誰から」
千歌「うーん、それは内緒」
花丸「えー」 千歌「でも曜ちゃん、いつも楽しそうに花丸ちゃんのこと話してたからさ」
千歌「ずいぶん仲良くなったんだな〜って」
花丸「そうだね、高校の時よりは仲良しかも」
千歌「もしかして、付き合ってる?」
花丸「いやいや、そんなわけないよ」
千歌「あはは、だよね」
千歌「そうだったら面白いなー、とは思ったけど」
花丸「残念ながら、そもそも浮いた話がないずら」 千歌「えー、可愛いのに勿体ないねぇ」
花丸「それ、曜ちゃんにも言われたよ」
千歌「それじゃあさ、私と付き合っちゃおうよ」
花丸「駄目だよ、恋人いるんでしょ」
千歌「あー、ばれてたか」
花丸「全く、ルビィちゃんといい恋人の扱いが雑というか」
千歌「そうなの?」
花丸「さっきね、デートよりマルと遊びたいって言ってたんだ」
千歌「へぇ……」 千歌「まあいいや、それでもどっかで一緒に遊びに行こうね」
花丸「うん」
千歌「というか今もお茶ぐらいはしたいけど、時間がなくてさぁ」
花丸「あはは、無理しなくていいよ」
花丸「また今度、時間がある時に遊ぼう」
千歌「だね」
千歌「色々と話したいこともあるからさ」
花丸「うん」 ※
―ルビィ宅―
ルビィ「二人とも、準備はいい?」
花丸「ばっちりずら」
善子「もちろんよ!」
ルビィ「じゃあいくよ――」
善子「卒業――」
花丸「おめでとう!」
【パァン】 花丸「けほっ、煙た」
ルビィ「だ、だねっ」
善子「流石にこの狭い室内でクラッカーは無茶だったかしら」
花丸「いいんじゃないかな、たまには」
花丸「こんな馬鹿なことができる時間もあと少ししかないし」
善子「そうよね、大学生活も終わっちゃうわけだし」
花丸「よかったね、留年しなくて」
ルビィ「危なかったんだよね、自分の趣味の研究に熱中し過ぎて」 善子「まあ過ぎたことよ」
善子「結果、リアルこそが正義なんだから」
花丸「変わらないずらねぇ、善子ちゃん」
善子「もう、冷たいわね」
善子「あんたの誕生日祝いも込みで、忙しい中来たのに」
花丸「えへへ、久しぶりにこのノリを楽しみたくて」
花丸「感謝してるよ、ありがとう善子ちゃん」 善子「べ、別に、これぐらい」
ルビィ「ふふっ、相変わらず素直じゃないね」
善子「まあ、そうなのよねぇ」
花丸「あれ、素直だ」
善子「いいでしょ、あんたたちの前だから」
善子「外だとこれのせいか、いつまでも恋人ができなくて」
ルビィ「へぇ、意外だね」 善子「いいわねぇ、恋人持ちは余裕があって」
花丸「だよね」
善子「一番恋愛とかに疎そうだったのに、どうしてこうなったのかしら」
ルビィ「そうだよね、ルビィは昔から一番子どもっぽいし」
ルビィ「でもその人のことは、結構昔から好きだったから」
善子「……もしかして、高校時代から?」
ルビィ「どうかな」 花丸「秘密なの?」
ルビィ「うーん」
善子「いいじゃない、隠してないで教えなさいよ」
善子「私たちの仲じゃない」
ルビィ「そうなんだけど……」
善子「いいから教えてよ〜」
花丸「善子ちゃん、お酒入ってる?」
ルビィ「かも」 花丸「もう飲める年だもんね」
ルビィ「だよね、ルビィは飲まないけど」
花丸「マルも」
善子「なんでよ、付き合いなさいよ」
ルビィ「それはちょっと嫌かなぁ」
善子「むぅ」
ルビィ「でも代わりに恋人の話をすれば、許してくれる?」
善子「えっ、いいの!?」 花丸「ルビィちゃん、別に無理しなくても」
ルビィ「いいの、マルちゃん」
ルビィ「ちょうどね、二人に報告するつもりのこともあったから」
花丸「報告?」
善子「私にも?」
ルビィ「うん」
ルビィ「実はね――――」 ―花丸宅―
【ピーンポーン】
花丸「はーい」ガチャ
曜「やぁ」
花丸「曜ちゃん」
曜「遅れてごめんね、ちょっと仕事が忙しくてさ」
曜「でもちゃんと、お酒は買ってきたよ」
花丸「わぁ、ありがとう」 曜「でも、二十歳超えても飲まなかった花丸ちゃんがねぇ」
花丸「興味はあったんだよ、でもなかなか踏み出せなくて」
曜「踏み出せないまま、二年か」
花丸「結局臆病なんだよね、マルは」
曜「まあまあ」
曜「私は嬉しかったよ、一緒に飲もうって言ってくれて」
花丸「やっぱり、安心できる人が傍にいたほうがいいかなって」 曜「うーん、その信頼に応えられるかなぁ」
曜「今まで、花丸ちゃんの前では飲まないようにしてたし」
花丸「大丈夫だよ、絡み酒は善子ちゃんで経験したから」
曜「あの子、酒癖悪いのか」
花丸「うん」
花丸「あんまり強くないからすぐ酔うのにね」
花丸「この前、ルビィちゃんと三人で集まった時も、色々大変だったんだ」
曜「あはは、ある意味面倒な性格のまんまだね」 曜「でもさ、親友の花丸ちゃんも同じように弱かったら私が大変だよね」
花丸「そうかも、ね」
曜「怪しいなぁ」
曜「特に精神的に弱ってそうな、今みたいな状態だと」
花丸「やっぱり、わかる?」
曜「見てればね」
曜「そもそもお酒を飲みたいって言いだした時点で、普通じゃないし」
花丸「……だよね」 曜「……そういえばさ」
曜「今度、千歌ちゃん結婚するらしいよ」
花丸「マルも、ルビィちゃんから聴いたよ」
曜「ルビィちゃんも結婚するんでしょ」
花丸「うん」
曜「私さ、千歌ちゃんのこと好きだったかもしれない」
曜「今さらこんなこと言うのも、変だけどさ」
花丸「曜ちゃん……」 曜「花丸ちゃんは、どう」
曜「ルビィちゃんのこと、好きだった?」
花丸「分かんないや」
花丸「でも寂しい気持ちはあるよ」
花丸「ただ親友が離れて行く、それとは違う種類」
花丸「言葉に表せない、表してはいけない気持ち」
曜「……だよね」 花丸「でもね、今はこうして曜ちゃんといるから平気かな」
花丸「一緒にいれば、そんなに寂しくないから」
曜「そっか」
花丸「曜ちゃんは、マルじゃ不満かな」
曜「そんなことないよ」
曜「私には勿体ないぐらい」
曜「むしろごめんね、力になれなくて」
花丸「仕方ないよ、マルたちは写し鏡だから」
曜「……そうだね」 曜「久しぶりに、あれやろうか」
花丸「あれ?」
曜「昔図書室のカーテンに包まって創った、二人だけの世界」
曜「この家だと難しいから、布団でも使ってさ」
曜「ちょうど、感傷に浸りたい気分でしょ」
曜「お互いに大切な人がいない世界で、ゆっくりと」
花丸「……いいね、それ」
曜「あっ、でも買ったお酒だけは飲んじゃおう」
花丸「うん」
曜「似た物同士の二人に、乾杯」 以上です
読んでくださった方、ありがとうございます ほえ〜
色んな風に読める箇所があって読みごたえあったなあ
あんまり考えたことのない視点も貰えたし、よい作品をありがとう ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています