千歌「白球を追いかけろ!」
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
―1―
千歌(私はずっと、退屈な日々を過ごしていた)
千歌(面白みのない日常)
千歌(色々なことに挑戦してみたけど、どれも長続きしない)
千歌(途中で壁にぶつかると、つい投げ出してしまうから)
千歌(そんな風に何もできない普通怪獣のまま、私は高校二年生になっていた)
千歌(でも、そんな私に運命の出会いが訪れた) 千歌(幼馴染の野球少女、曜ちゃんの応援で行った東京で存在を知った、美しい9人の女子野球選手、μ’s)
千歌(ありとあらゆる野球に関する知識を持つデータの鬼、小泉)
千歌(圧倒的な快足で塁を奪っていく、星空)
千歌(人を惹きつけるスター性を持つ天才、西木野)
千歌(あらゆるプレーを寸分の狂いもなくこなす精密機械、園田)
千歌(柔軟な身体を生かしてあらゆる方向へ打ち分ける打撃を持つ魔術師、南)
千歌(小柄ながら堅実な守備と技術の高さが光る、矢澤)
千歌(恵まれた体格から生み出される圧倒的なパワーを持つ、東條)
千歌(走攻守三拍子揃った一流選手、絢瀬)
千歌(そしてそんな最強のチームをまとめるキャプテンにしてエース、高坂) 千歌(動画で見た彼女たちの姿は、とても輝いていた)
千歌(私に今までになかった刺激を与えてくれた)
千歌(今までずっと追い求めていたものがそこにある、そんな気がして)
千歌(私はそれからすぐに決断した、野球を始めることを)
千歌(彼女たちのように輝きたかったから)
千歌(この場所で輝きたいと、強く想ったから) −浦の星女学院・グラウンド−
曜「相変わらず、千歌ちゃんは思い込んだら一直線だね」
千歌「むぅ、何だか馬鹿にされてるみたいなんだけど」
曜「でもさ、ちょっと刺激を受けただけでいきなりキャッチボールをしようなんて」
千歌「ちょっとじゃないよ、凄いんだよ!」
曜「そんなに?」
千歌「うん! なんかこう、キラキラと輝いてて!」 曜「でも、今まで何度野球に誘っても断ってきた千歌ちゃんをそこまで惹きつけるなんて」
曜「μ’sって人たちはよっぽど凄いんだね」
千歌「曜ちゃん、μ’s知らないの!?」
曜「いや、名前ぐらいは知ってるけどさ」
千歌「じゃあ知ってはいるんだ」
曜「そこまで詳しくはないけどね」
千歌「え〜、女子野球をやってるのに」
曜「そうかなぁ」
曜「案外選手のことなんて知らないもんだよ」 千歌「あの人たちを知らないなんて、曜ちゃんは人生損してるよ」
曜「大丈夫、私は千歌ちゃんがいれば幸せだよ」
千歌「何それ、変なの」
曜「私は真面目なんだけどなぁ」
曜「でもさ、本当に私は野球部に入らなくてもいいの?」
千歌「だってクラブチームと掛け持ちじゃ大変でしょ」
曜「それは、そうかもしれないけど」
千歌「日本代表候補にもなってる渡辺曜ちゃんだよ」
千歌「無理させて何かあったら大変だよ」 曜「でも……」
千歌「いいから気にしないで」
千歌「本当に困ったらお願いするからさ」
曜「……分かった」
曜「でも、困ったことがあったら言ってね」
曜「名前も貸すし、助っ人ぐらいはするから」
千歌「うん、ありがとう! 曜ちゃん大好き!」
曜「もう、千歌ちゃんってば〜」 −十千万−
千歌(でも実際問題、部員を集めるのは大変なんだよね)
千歌(部として認められるのには最低5人、試合をするには9人)
千歌(在校生のあてはほとんどない)
千歌(むっちゃんたちは頼めば協力してくれるかもだけど)
千歌(あとは、もうすぐ入ってくる新入生)
千歌(だけど、野球部のない浦の星に入ってくる人間に期待するのは難しい)
千歌「せめて経験者の果南ちゃんを誘えればなぁ」
千歌(でもお父さんが怪我したせいで、実家のスポーツショップも大変そうだし……)
千歌「もう、上手くいかない!」 千歌のソフトボール好き設定って本編で生かされてるの? 昨日の高校野球史上初の逆転満塁サヨナラホームランはマジヤバだった 美渡「千歌、うるさいよ!」
千歌「ご、ごめんなさい」
美渡「全く、どうしたのさ」
千歌「いやぁ、野球部に人が集まりそうになくて……」
美渡「まだ野球?」
千歌「まだってなにさ〜」
美渡「初心者が高校生になって始めるなんて無理だから、いい加減諦めな」
千歌「ソフトボールの経験はあるし……」 美渡「そもそもこんな田舎で人が集まるわけないでしょ」
千歌「そうかもしれないけど……」
美渡「馬鹿な事考えている暇があったら手伝いでもしな」
バタン
千歌(むう、痛いところばっかり突いてきて)
千歌(だけど事実だから反論できないのが……)
千歌(新入生も相当少ないらしいし、人集めは難しいのかも)
千歌「うぅ、前途多難だなぁ」
千歌(まあ嘆いても仕方ない)
千歌(まずは勧誘頑張ろう!) −入学式当日・校門前−
千歌「野球部〜。大人気、女子野球部ですよ〜」
モブ1「……」スルー
曜「君も一緒に白球を追いかけてみよう!」
モブ2「あ、いえ、私は」
曜「そこの君、ぜひ野球部に!」
モブ「すいません、私はもうバスケ部に」
ようちか「……」 曜「全然人集まらないね」
千歌「うん」
曜「そもそも今年の一年生、数が少ない気も……」
千歌「うぅ曜ちゃん、どうしよう」
曜「とにかくもう少し声かけてみるしか」
千歌「そうだね――あ、ちなみに今のは『曜』ちゃんとどうし『よう』をかけた――」
曜「お、あの子たちに声かけてみよう!」
千歌「無視しないでよ!」 曜「すいませ〜ん、ちょっといいですか」
???「ピギィ!」
曜「ピギィ?」
??「は、はい。何でしょうか」
曜「私たち野球部の者なんですけど、野球に興味ありませんか?」
??「いや、おらは別に……」
曜「おら?」
??「いや、私は……」 ???「野球部……ですか」
曜「うん、そうだよ」
???「あ、あのぉ」
千歌「もしかして、野球に興味あるの!」
???「部員はどれぐらい居るんですか?」
千歌「まだ1人なの、だから部員募集中でさ」
???「なるほど……」
千歌「だからあなたみたいに有望そうな子に入ってほしいんだよ!」 ガシッ ???「ピッ」
千歌「ピ?」
???「ピギャ――――!」
千歌「うわっ」
曜「な、なに!? どうしたの」
??「す、すいません」
??「ルビィちゃんはプレッシャーに弱くて……」
曜「いやいや、これってそんなレベルじゃ……」
ルビィ「うわぁん、おねぇちゃーん!」 ダッ
??「る、ルビィちゃん!? ちょっと待つずら〜」 曜「……なんか凄い子たちだったね」
千歌「でもルビィちゃんって子、凄い逃走スピードだったよ」
千歌「またスカウトしに行かなきゃ」
曜「あのメンタルだと、なかなか苦労しそうだけど……」
千歌「でもさ、せっかく興味を持ってくれてたんだから」
千歌「貴重な野球が好きな子かもなんだもん!」
曜「うん、そうだね!」 これ速報でやってた奴?
続きすごく気になってたから嬉しい 曜「そういえばさ、自己紹介で野球のスイングについて語りだした子のうわさ、知ってる?」
千歌「ううん、知らない」
曜「一年生なんだけどね。凄い勢いで話してたらしいよ」
曜「だけど途中で恥ずかしくなったのか教室を飛び出しちゃったんだって」
千歌「そ、それはまた……」
千歌「でもそこまで熱くなるぐらいだから、その子は野球好きなんだよね」
千歌「スカウトに行けばもしかしたら」
曜「私もそう思ったんだけどさ」
曜「その噂だと逃げ出した後、学校に帰ってこなかったみたいで」
千歌「そうなんだ、それは残念だなぁ」
曜「まあ、どこかで誘う機会はあるでしょ」 >>24
そうです
中途半端に中断したんで心機一転こっちでやろうかと 千歌「そうだね」
千歌「引きこもりにでもならない限り、学校に来るわけだから――」
???「そこのあなた、少しいいかしら」
ようちか「!」
千歌「もしかして入部希望ですか!」
???「いえ、このチラシの件でお話がありまして」
千歌「ふぇ」
曜「! ヤバいよ千歌ちゃん」
曜「この人、生徒会長の黒澤ダイヤさん!」
千歌「へっ」 ―生徒会室―
ダイヤ「なるほど」
ダイヤ「野球部を作る為に、無許可で勧誘をしていたと」
千歌「は、はい」
曜「ち、千歌ちゃん、無許可だったの!?」ヒソヒソ
千歌「いやー、ばれたら怒られると思ってさ……」ヒソヒソ
ダイヤ「……部の設立には最低でも5人の部員が必要だとは分かってますよね」
千歌「は、はい」 ダイヤ「ちなみに今の部員数は?」
千歌「え、えっと、私と」
曜「私だけです……」
ダイヤ「ほぅ、なるほど」
千歌「どうしよう曜ちゃん、生徒会長怒ってるよ!」ヒソヒソ
曜「い、今からでも謝った方が」ヒソヒソ
千歌「だ、だよね――あ、あの」
ダイヤ「素晴らしいですわね」 こちらの方が速報より反応はあるかもだけど埋め茸が来るかもというのは
覚悟というか想定しておいた方がいいかもね ようちか「へっ」
ダイヤ「私も常日頃から嘆いていたのですよ」
ダイヤ「浦の星に野球部がない、この惨憺たる現状を」
千歌「は、はぁ」
ダイヤ「以前から、いつの日か部の設立を夢見ていました」
ダイヤ「しかしただでさえ生徒数の少ない学校。現実的に難しいと諦めていました」
ダイヤ「しかし貴女のような、ルールを破ってでも野球部を作るという高い志を持った人がいるなら話は別です」
千歌(高い志?)
ダイヤ「生徒会長という立場上、大手を振って助けることはできません」
ダイヤ「しかし、個人的に出来る範囲で部員集めに協力しましょう」 千歌「本当ですか!」
ダイヤ「ええ、今回の件についても生徒会長権限で不問とします」
千歌「ありがとうございます!」
曜「い、いいんですか、それ」
ダイヤ「ええ、もちろんです」
ダイヤ「これは将来的に学校にも利益をもたらす話」
ダイヤ「だって、あの渡辺曜が所属しようとしている野球部なのですから」
曜「へっ」 ダイヤ「貴女の事はよく知っています」
ダイヤ「その類稀な野球センスに抜群の身体能力」
ダイヤ「ショートとピッチャーをハイレベルにこなし、将来は代表を引っ張る存在とも目されている」
曜「い、いやいや、私はそんなたいした選手じゃないというか」
ダイヤ「謙遜しなくてもいいですよ」
ダイヤ「一部では、あの高坂穂乃果の後継者とまで言われている選手なのですから」
千歌「よ、曜ちゃんってそんなに凄い選手だったんですか」
ダイヤ「ええ、貴女は知らなかったんですか」
ダイヤ「様子を見ている限り、とても親しいようなのに」
千歌「も、もちろん上手なことは知ってましたけど」 曜「というか生徒会長、詳しいですね」
曜「野球好きなんですか?」
ダイヤ「ええ、もちろんです」
ダイヤ「プロからアマまで、男女関係なくあらゆるデータを網羅してますわ」
曜「そ、それはまた」
ダイヤ「特にμ’sと出会ってからは女子の高校野球に夢中でして」
ダイヤ「毎年のように東京でおこなわれる全国大会には駆けつけていますの」
千歌「す、すごいですね」
ダイヤ「当然です、私を誰だと思っているのですか!」ドヤァ 曜「……ねえ千歌ちゃん」
曜「もしかして生徒会長って野球オタク?」
千歌「みたいだね」
曜「誘ったら入ってくれないかな」
千歌「どうだろう、三年生だから難しいかも」
ダイヤ「やれやれ、二人で内緒話とは、本当に仲がよさそうですね」
千歌「す、すみません」
ダイヤ「とにかく、2人共頑張って部員を集めてください」
ダイヤ「私も応援してますから」
ようちか「は、はい!」 ―バス車内―
千歌「いやー、無事で済んで良かったね」
曜「そうだね、理解のある人で助かったよ」
千歌「帰り際、曜ちゃんにサインと握手を要求したのはびっくりしたけどね」
曜「あはは、確かに」
曜「でもあそこまでされると悪い気はしないよ」
千歌「いいなぁ、私も人からサインを求められてみたいよ」 曜「千歌ちゃんならできるよ」
曜「昔、ソフトボールは得意だったでしょ」
千歌「そんなに甘いものなのかなぁ」
曜「大丈夫だよ!」
千歌「でも……」
曜「じゃあ諦める?」
千歌「もちろん諦めない!」
曜「だよね!」 千歌「でも少し困ったよね」
曜「なにが?」
千歌「ダイヤさん、完全に曜ちゃんを部員として誤解してたよ」
千歌「もし曜ちゃんが幽霊部員だってばれたら怒られるかなぁ」
曜「それはそうかもね」
千歌「うぅ、そうなったら協力もしてくれなくなっちゃうかも……」
曜「……それなら、正式に入っちゃえばいいんじゃないかな」
千歌「え?」 曜「私ね、昨日クラブチーム辞めてきたの」
千歌「な、なんで」
千歌「曜ちゃん有名選手なんでしょ、そんなことしたら――」
曜「いいんだよ」
曜「部があれば、野球ができなくなるわけじゃない」
千歌「だけど、まだ正式な部になれるかも分からないのに」
曜「大丈夫だよ、千歌ちゃんなら」
千歌「そんなこと……」 曜「夢だったの、千歌ちゃんと一緒に野球をやることが」
曜「もう叶わないと思ってたその夢が、手の届くところにある」
曜「私は絶対にそのチャンスを逃したくない」
曜「その為には、片手間なんて中途半端じゃ駄目、そう思ったから」
千歌「曜ちゃん……」
曜「なんて、ちょっと重いかな?」
曜「引いちゃうよね、こんなこと言われても」
千歌「ううん、そんなことない」 千歌「曜ちゃんが一緒にやってくれれば、何とかなる」
千歌「不思議とそんな気がする!」
曜「千歌ちゃん……」
千歌「生徒会長の協力もあるんだから、きっとできる!」
曜「うん!」
千歌「よーし、明日からまた勧誘頑張ろー!」
曜「おー!」 とりあえず夜も遅いんでここまで
済美と星稜の試合に刺激されて始めましたが、以前の書き溜めもあるんでサクサク更新していく(予定)です >>23
働く細胞みてたから白血球と認識してしまった自分が通るよ〜 >>7
北海道代表・駒大?小牧の某選手
「女子野球は、遊びじゃない!」 千歌(恵まれた体格から生み出される圧倒的なパワーを持つ、東條)
悪意を感じる このSSはご覧のスポンサーの提供でお送りします
埋 め 茸 このSSはご覧のスポンサーの提供でお送りします
埋 め 茸 >>49 あっちは小鳥がピッチャーやってたから違うはず ―2―
―十千万前・海岸―
千歌「あーあ、集まらないなぁ、部員」
千歌(始業式から一週間)
千歌(せっかく曜ちゃんが入部してくれたのに、その後勧誘で来た部員はゼロ)
千歌(ルビィちゃんには逃げられっぱなしだし、他に目ぼしい子は見つからない)
千歌「あー、どうしよう」
千歌(せっかくダイヤさんがグラウンドの都合を付けてくれて、明日から練習できるのに) 千歌「どっかに都合よく経験者でも落ちてないかなぁ」
バンッ
千歌「んっ、あれは……」
??「あぁ、また変なところに……」 パシッ
千歌(珍しい、防波堤で壁当てをやってる人なんて)
千歌(酷いコントロールだけど、その後の捕球は完璧なのが、凄いギャップ)
??「もう、これじゃあ私はまた……」
千歌(見慣れない子だけど、同年代?)
千歌(この辺の子だったら浦女の生徒の可能性も――)
曜『自己紹介で野球のスイングについて語りだした――』 千歌(そういえば例の子を一度も見かけてない)
千歌(2年生以上だったら顔ぐらい分かるだろうし、もしかしたらこの子なのかな)
千歌(声をかけるだけかけてみてもいいかも)
千歌「す、すいませーん」
??「へっ、わ、私?」
千歌「はい!」
??「な、なんでしょうか」
千歌「えっと――」 千歌(あれ)
千歌(だけどよく考えたら浦女の生徒じゃなかったら恥ずかしいかも)
千歌(そもそも合っていたとしても、こんなところでいきなり勧誘したら嫌がるかな)
??「あ、あの……」
千歌「キャッ」
??「キャッ?」
千歌「キャッチボール、しませんか?」
??「はぁ」 ―――――
――――
―――
千歌「へぇ、梨子ちゃんって言うんだ」シュッ
梨子「うん、千歌ちゃんと同じ、高校二年生」パシッ
千歌「高校はどこなの?」
梨子「東京のね、音ノ木坂って高校だったんだけど」シュッ
千歌「東京、凄いね!」パシッ
千歌(やっぱり他校生じゃん、勧誘しなくてよかった〜) 千歌「なんで内浦に来たの?」シュッ
梨子「え、えっと、その……」パシッ
千歌「あっ、何か言いにくい理由だった?」
梨子「う、ううん、そういうわけじゃないんだけど……」
千歌「梨子ちゃん?」
千歌(ありゃ、地雷踏んじゃったかな)
千歌(都会の子は結構繊細って言うもんね)
千歌(でも音ノ木坂かぁ、どこかで聞いたことあるような――)
千歌「!」 千歌「音ノ木坂ってμ’sの母校!?」
梨子「う、うん」
千歌「女子野球部の名門だよね!」
梨子「まあね」
千歌「でも音ノ木坂のの選手……」
千歌「もしかして梨子ちゃん野球エリート!?」
梨子「……元、ね」
千歌「元?」 梨子「ねえ千歌ちゃん、イップスって知ってる?」
千歌「イップス?」
梨子「主にスポーツ選手が患う、精神的な病気」
梨子「簡単に言えば、当たり前に出来ていた動作が、急にできなくなるの」
梨子「投げる、打つみたいな、基本的な動作さえも」
千歌「……もしかして、さっきの壁当て」
梨子「うん、そう」
梨子「私ね、投球イップスなんだ」 梨子「これでもね、結構有望な投手だったの」
梨子「小さい頃から、周囲からは天才だって称されて」
梨子「野球人生も順調だった」
梨子「実際に結果を残して、名門の音ノ木坂に進学して」
梨子「でもね、ある日突然、投げられなくなった」
梨子「それまで自然とできていた投球動作が、できなくなって」
梨子「必死に治そうとしたよ」
梨子「でも考えれば考えるほど、症状は悪化して」
梨子「投手を辞めてね、外野手に転向しようともしたの」
梨子「けど次第に、外野からの送球ですらまともに投げられなくなって」 千歌「でも、今はキャッチボールできてたよね」
梨子「普通に会話ができる程度の距離ならね」
梨子「でももう少し離れるだけで、それさえもできなくなる」
梨子「キャッチボールもできない、小学生以下の選手」
梨子「私は天才から練習もまともに出来ないお荷物になっちゃったの」
梨子「結局、そんな状況に耐えられなくて野球部は辞めちゃったしね」
千歌「そんな……」 それぞれのキャラがどんなポジションにつくか楽しみ
運動神経の良い曜と果南はオールラウンドだけどやはりショートとセカンドかな
果南は肩もありそうだから投手もセンターもいける
千歌も曜・果南に次いで身軽だから内野だな、サードか
ダイヤさんは頭いいからキャッチャータイプ
梨子はトノマのピアノつながりで器用な二番タイプ
…一年組は運動苦手タイプばかりだから外野か…外野も足の速さと肩の強さが必要だけどボールが飛んでくる確率を比較すると仕方ない 梨子「学校も音ノ木坂って言ったけど、もうすぐ転校予定なの」
千歌「そうなんだ……」
梨子「周囲からは野球を辞めてでも残るべきって止められた」
梨子「けど、あそこにはもう私の居場所はなかったから」
千歌「だったら、何でまだ壁当てをしてるの」
千歌「野球、やめるんだよね」
梨子「やめないよ」
梨子「私は諦めきれないから、小さい頃からやってきた野球の道を」 千歌「苦しい想いをしてまで、続けるんだ、野球」
梨子「そうね」
梨子「正直、少し意地もある」
梨子「ここで投げ出したくないって、そんな気持ち」
梨子「でも何より、例え普通に投げられなくなっても、私は野球が大好きだから」
梨子「好きだからこそ、続けるの」
千歌「……なんか素敵だね、そういうの」
梨子「千歌ちゃんはどこかの野球部員?」
千歌「うん」 梨子「それならどこかで対戦することもあるかもね」
梨子「転校する予定の学校、この辺りだから」
千歌「そうなんだ、楽しみだね!」
千歌(浦の星だったら嬉しいけど、廃校の噂もある学校にはこないだろうしなぁ)
梨子「そういえば千歌ちゃんのポジションはどこなの?」
千歌「え、えっと……」
千歌(よく考えたら決めてなかったような)
千歌(向いているところ――昔から曜ちゃんの投球練習に付き合うことはあったし) 千歌「たぶん、キャッチャーかな」
梨子「たぶん?」
千歌「実は本格的に野球を始めたのは最近なんだ」
千歌「だからちゃんとしたポジションは決まってなくて」
梨子「えっ、でもその割に上手よね」
千歌「ソフトボールの経験はあったからね」
千歌「野球も幼馴染に凄い上手な子がいて、時々練習に付き合ったりはしてたから」
梨子「なんか、特殊な環境ね」
千歌「うん」 梨子「何で今さら、本格的に始めようと思ったの?」
千歌「始めた理由はね、出会ったから」
千歌「凄くキラキラと、輝いている人たちに」
梨子「輝いている人たち?」
千歌「梨子ちゃんも音ノ木坂出身なら知ってるでしょ、μ’s」
梨子「もちろん、伝説のOGだもん」
千歌「私は最近になってね、μ'sの存在を知ったの」
千歌「それで動画を観ている内に憧れて、私もこんな風に輝きたいと思って」 梨子「分かるよ、その気持ち」
梨子「私も千歌ちゃんと同じ、μ'sに憧れているから」
千歌「おぉ、仲間だね!」
梨子「千歌ちゃんはあれかな、穂乃果さんのファンでしょ」
千歌「な、なんで分かったの?」
梨子「うーん、雰囲気が少し似てたからかな」
千歌「雰囲気?」
梨子「はっきりとした根拠があるわけじゃないけどね」 千歌「それなら梨子ちゃんは誰が好きなの」
千歌「やっぱり穂乃果さんのファン?」
梨子「私は、西木野真姫さんかな」
千歌「あー、何かそれっぽい」
千歌「自分で天才とか言っちゃう辺りとか似てるもんね」
梨子「べ、別に自分で天才って言ってるわけじゃないわよ」
千歌「えへへ、分かってるよ」
梨子「もうっ」 千歌「でもさ、ちゃんとした理由もあるんだよ」
梨子「え、そうなの?」
千歌「真姫さんがさ、イップスみたいな病気持ちだったって知ってる?」
梨子「ううん、初めて聞いた」
千歌「彼女もね、梨子ちゃんみたいに天才って呼ばれてた」
千歌「でも家が大きなお医者さんでしょ」
千歌「ご両親からはいつも野球をやることを反対されていたの」
千歌「それが結構辛かったみたいで、精神的に追い詰められて」
千歌「中学三年生の頃、まともにボールが投げられなくなっちゃったんだって」
梨子「……私と似たような状態ね」 千歌「でもね、高校に入って、何かのきっかけで立ち直れたみたい」
梨子「きっかけ?」
千歌「えへへ、実はそこからはよく知らなくて」
千歌(この前ダイヤさんから教えてもらった話だからなぁ)
千歌(詳しいこと、ちゃんと聞いておけばよかった)
梨子「それならなんでこの話を?」
千歌「えっとね、私が言いたいのは、きっとイップスは治る病気だってこと」
千歌「真姫さんだって、高校で復活できたんだから」
梨子「……」 千歌「大丈夫だよ、真姫さんは治ったんだから、不治の病ってわけじゃないよ」
千歌「梨子ちゃんなら、また投げられるようになるよ!」
梨子「……変な人ね、千歌ちゃんって」
千歌「あはは、よく言われる」
梨子「でもありがとう、おかげで少し元気が出た」
千歌「力になれたなら良かったよ!」
梨子「――じゃあ私は行くわね、お父さんたちが待ってると思うから」
千歌「うん――あ、そうだ」
梨子「どうしたの?」
千歌「せっかくだし、サイン頂戴!」
梨子「……本当に、変な人」クスッ とりあえずこの辺で
一応、自分は過去に野球の話を書いていた方とは別人です
補足
あまり本編に関係ありませんが、μ'sのオーダーはこんな感じ
1:左・凛
2:二・にこ
3:投・穂乃果
4:遊・絵里
5:右・希
6:三・海未
7:中・真姫
8:一・ことり
9:捕・花陽
(投手の控えが真姫で、交代時は絵里がセンター、穂乃果がショート) ようちかバッテリーはいいものだ
千歌「曜ちゃんが隠すなら、チカは別に知らなくていいことだよね」
曜「……。ん? なんのこと?」
千歌「曜ちゃんがいなくなったら、チカもおしまいってことだよ」
千歌「一気にいくからね」
曜「お好きなように──」
千歌「つぶれるときは一緒だよ」
曜「あいよゞ」 ―浦の星女学院・二年生教室―
曜「おはヨ―ソロー!」
千歌「おはよう!」
曜「おお、今日は元気だね」
千歌「昨日ちょっといいことがあってね」
曜「いいこと?」
千歌「実はね、音ノ木坂の子と話したんだ」 曜「東京の? そりゃまた珍しいね」
千歌「うん、それも野球部の子でね〜」
曜「へぇ、私も会ってみたかったな」
曜「音ノ木坂の野球部なら知り合いも何人かいるし」
千歌「あー、代表の子とかいそうだもんね」
千歌「あとね、さっきむっちゃん達に入部できないか聞いたの」
千歌「そしたら入るのは無理でも、試合の時に助っ人をしてくれるらしくてさ」
曜「本当!?」 よしみ「うん」
むつ「まあ私ら、全然上手くはないけどさ」
いつき「2人共頑張ってるみたいだし、それぐらいは協力しようかなーって」
曜「3人とも、ありがとう!」
千歌「一応全員経験者みたいだよ」
曜「おぉ、それは頼りになるね」
よしみ「あはは、期待はしないでよ」
むつ「本当に経験はある程度だからさ」 曜「でもこれで、あと4人揃えば試合ができる!」
千歌「ふふふ、形になってきたね」
曜「この調子で部員集めを全速前進――
ガラッ
教師「おーい、全員席につけー」
千歌「ありゃ、先生来ちゃったね」
曜「むぅ、いいところだったのに」 教師「今日は転校生を紹介するぞ〜」
ザワザワ
千歌「こんな時期に珍しいね」
千歌「曜ちゃん、何か聞いてる?」
曜「ううん、全然」
ガラッ
梨子「……」
千歌「あ、あの子は……」 教師「じゃあ、自己紹介して」
梨子「えっと、東京の音ノ木坂高校から転校してきた、桜内梨子です」
梨子「みなさんよろしくお願いします」ペコリ
千歌「梨子ちゃ――」
曜「梨子ちゃん!」
梨子「よ、曜ちゃん!?」
千歌「ふぇ」 ――――
―――
―放課後―
千歌「2人は知り合いだったの?」
曜「うん、中学の時に年代別代表の合宿でね」
梨子「まさか曜ちゃんがいるなんて、ビックリしたよ」
曜「私の方こそ」
曜「最近は代表でも見かけなかったから、心配してたんだよ」
梨子「あはは、ちょっと色々あってね」 千歌「梨子ちゃん、曜ちゃんと同じぐらい野球が上手だったんだね」
梨子「いやいや、私と曜ちゃんじゃ格が違うわよ」
梨子「だって曜ちゃんは、世代を代表する選手だもの」
曜「えー、そんなことはないと思うけど」
梨子「でも驚いたわ」
梨子「千歌ちゃんの野球が上手な幼馴染って曜ちゃんのことだったのね」
千歌「あはは、まあね」
梨子「それなら経験が浅いのに上手なのも納得ね」 曜「梨子ちゃん、こっちではどこのチームに入るの?」
梨子「一応ね、学校の野球部に入ろうと思ってるんだけど」
曜「マジで! じゃあ私とチームメイトじゃん!」
梨子「あれ、曜ちゃんってどこかのチームに所属してなかった?」
曜「最近部活に専念するために辞めたの」
梨子「……もしかして、浦の星って強豪校?」
千歌「ううん」
曜「まだ部員が2人で、正式な部にもなってないよ」
梨子「えっ」 曜「あれ、知らなかった?」
梨子「え、ええ」
梨子「入学前に会った生徒会長さんからは、ちゃんとした野球部があるって聞いたんだけど……」
千歌(ダイヤさん、また無責任なことを……)
曜(しっかりしているようで、ちょこちょこ残念だよね、あの人)
曜「まあその辺はおいおい考えるとして――」
曜「とりあえず今日から練習だよ!」
千歌「あっ、そうだよね!」
千歌「部員集めに必死で忘れてた!」 曜「梨子ちゃんも部に入るつもりだったなら練習着ぐらい持ってきてるでしょ」
梨子「う、うん」
曜「じゃあ早速行こう!」
曜「久しぶりに梨子ちゃんの球を打ってみたいし!」
梨子「え、えっ」
千歌「よーし、出発だ!」
曜「ヨ―ソロー!」
梨子「ま、待ってよ2人共〜」 ―グラウンド―
曜「さて、アップも終わったところで――早速勝負だよ、梨子ちゃん!」
千歌「いやいや、もっと基礎的な練習とかさ」
千歌「私たち、3人しかいないんだし」
曜「いいじゃん! せっかく初練習日なんだから楽しいことやりたい!」
千歌「気持ちは分からなくもないけど……」
千歌(そもそも、梨子ちゃんはイップスで投げられないんだよね) 曜「梨子ちゃんはピッチャーで、私がバッターね!」
梨子「う、うん、分かった」
曜「千歌ちゃんはキャッチャーよろしく!」
千歌「えっ、でも――」
梨子「私は大丈夫だよ、千歌ちゃん」
千歌「投げられるの?」
梨子「まあ、やってみる」
千歌「でも……」 梨子「何かね、身体が軽いの」
梨子「千歌ちゃんに励ましてもらってから、投げられるようになった気がするのよ」
千歌「そうなの?」
梨子「うん、だからお願いね」
曜「一打席勝負ね!」
梨子「うん」
千歌「……」
千歌(梨子ちゃん、どんな球投げるんだろう) 梨子(うぅ、緊張する)
梨子(でも懐かしいな、マウンドの感触)
梨子(やっぱりここに立つと、少し不安かも)
梨子(でもキャッチボールをした時、そして帰ってから軽く投げてみた時の感触)
梨子(大丈夫、私は投げられる)
曜「よーし、こい!」
梨子「んー」ググッ
千歌(確かに、ぎこちないけど昨日よりは綺麗なフォーム)
梨子「えいっ」シュッ 千歌「おっ、本当にストライクが――」
曜「!」
カッキーン!
梨子「あー、これは……」
曜「よっしゃ、ホームラン!」
千歌「容赦なさすぎるよ!」
曜「えー、でも真剣勝負だし」
梨子「あはは、流石曜ちゃんだね」 曜「ところでさ、今のストレート?」
梨子「うん」
曜「梨子ちゃん、球遅くなったんじゃない」
曜「なんかフォームも変だし、怪我でもしてるの?」
梨子「ちょっと、色々あってね」
千歌「てか誰もいないのにあんなに飛ばして、ボールはどうするのさ」
曜「あー……取ってくる?」
千歌「どこへいったのか分からないよ〜」 おーい
千歌「ん、ボールが飛んでいった方から何か」
??「おーい」
曜「おっ、あの声は」
??「千歌、いくよ〜」
ヒューン
梨子「わっ、ボールが」パシッ ??「ごめーん、めっちゃ逸れたー」タッタッ
千歌「もぅ、果南ちゃんは相変わらずノーコンだねぇ」
果南「あはは、それはもう病気みたいなもんだからさ」
曜「それにしても悪化してない?}
果南「それはほら、最近あんまり練習できてないからさ」
梨子「でもあんなところから、凄い肩……」
果南「捕ってくれて助かったよ、ありがとう」
梨子「い、いえ」
曜「でも珍しいね、学校に来てるなんて」 果南「いやー、ダイヤに野球部の備品を頼まれてさ」
曜「あー、それでもう道具があったんだね」
果南「2人が部を作ったなんて驚いたけど、うち的には助かったよ」
果南「こんな大型注文貰っちゃってさ〜、みんな大喜び」
千歌「部員も揃ってない部とは思えない部費の使い方だねぇ」
曜「これは個人的な協力の範囲なのかなぁ」
千歌「……都合の悪いことは考えないようにしよう」
果南「あ、そっちの子はもしかして新入部員」
千歌「うん。桜内梨子ちゃん」
千歌「転校生で、凄い上手なんだよ!」 果南「へぇ、それは期待できる。よろしくね!」ハグッ
梨子「え、ええ」
千歌「もう、初対面の子に抱き着いたら驚かれるよ」
曜「果南ちゃんのハグは挨拶みたいなもんだから、気にしないで」
梨子「う、うん」
果南「ヤバい、早く戻らないと時間無くなる――じゃあね!」タッタッ
千歌「バイバイ〜」
曜「またね〜」 梨子「……豪快な人だったね」
曜「あはは、梨子ちゃんとはだいぶ性格が違うよね」
千歌「でも良い人だよ、野球も大好きだし」
曜「昔はプレーもしてたよね」
千歌「最近は家の手伝いが忙しくてあんまりみたいだけど」
梨子「あの果南さんって人、上手なの?」
千歌「……まあ、実力はあるんだけど」
曜「上手かと言われると、微妙かも」 梨子「どういうこと?」
曜「いつかプレーを見ればわかるよ」
梨子「何だか気になるわね」
千歌「まあまあ、今は練習中だし」
曜「そうそう、じゃあ練習再開――あれ?」
千歌「どうしたの?」
曜「いや、今人影が見えたような……」
???「ピギッ」 静岡って意外と地方大会の参加校多いんだよね
今年は111校も参加してた 沼津の飛龍高校結構強いんだよな
甲子園は出たことないけど静岡大会決勝まで行ったことはある
今年はベスト8 ―公園―
ゲーム画面『祝・日本一!』
花丸「よしっ」
花丸(これで最高難易度、高卒ルーキー縛りのペナントも優勝)
花丸(いんたーねっと?の使い方がよく分からないから対人戦はほとんどできない)
花丸(でもCPUにはもう負ける気がしない)
花丸(ふふっ、早くルビィちゃんに報告しないといけないずら〜) 花丸「ルビィちゃん、早くこないかなぁ」
花丸(マルは昔から、目立たない子だった)
花丸(みんなが遊んでいる中、いつも隅でゲームばかり)
花丸(特にその中でも野球ゲームが大好きで)
花丸(小学校に入った時からパ○ポケに夢中)
花丸(高学年になるとパ○プロやプロ○ピにも手を出して)
花丸(気づけば一人でゲームばかりやっていた) 花丸(でもある日、運命に巡り合った)
花丸(いつものように公園でゲームをしていた時、出会ったのだ)
花丸(一人きりでレッスン本を見ながら練習をする、ルビィちゃんと)
花丸(マルたちはすぐに意気投合した)
花丸(そしてそれ以来放課後はいつも2人で集まって)
花丸(ルビィちゃんの練習を手伝ったり、ゲームをしたりして過ごしている)
花丸(もちろん今日みたいに、野球を観に行くルビィちゃんと別行動をすることもあるけど――) ルビィ「花丸ちゃん!」
花丸「あ、ルビィちゃん」
ルビィ「やっぱり野球部できてた!」
花丸「えっ、部員集まってたの?」
ルビィ「ううん、見かけたのは3人だけ」
ルビィ「でもちゃんと、練習始めてたよ」
花丸「本当に作っちゃったんだ、凄いねぇ」
ルビィ「あぁ、これで母校の応援ができる〜」 花丸「応援?」
ルビィ「うん」
花丸「プレーじゃないの」
ルビィ「駄目かな?」
花丸「ううん、駄目じゃないよ」
花丸「でもルビィちゃんはやりたいんでしょ、野球」
ルビィ「うん、そうだね」
ルビィ「だけどほら、ルビィ、プレッシャーに弱すぎるし」
花丸「そうかもだけど」 ルビィ「それにね、お姉ちゃんに悪い気がして」
花丸「ダイヤさんに?」
ルビィ「お姉ちゃんが昔、野球をやっていたのは知ってるでしょ」
花丸「うん」
ルビィ「本当はね、今もやりたいはずなの」
ルビィ「でもお母さんから禁止されちゃってるの」
ルビィ「家を継ぐ長女が、そんなことに現を抜かしてはいけないって」
花丸「でも、ルビィちゃんはやってもいいんだよね」 ルビィ「駄目だよ」
ルビィ「お姉ちゃんができないのにルビィだけなんて、可哀想だもん」
花丸「ルビィちゃん……」
ルビィ「それにね、そんなに悪いことばかりじゃないんだよ」
ルビィ「ルビィはこうやって、花丸ちゃんと2人で野球をやっている時が一番楽しいから」
花丸「マルと?」
ルビィ「仲の良い親友と2人でキャッチボールして、ノックを受けて、バントの練習をして」
ルビィ「休憩時間になったら一緒にゲームで遊ぶ」
ルビィ「こんな楽しい時間、凄く貴重だって思わない?」
花丸「……うん、そうだね」 ルビィ「じゃあ早速練習始めようよ! 早くしないと日が暮れちゃう!」
花丸「うん!」
花丸(ルビィちゃん、やっぱり良い子)
花丸(それに、きっと現状に満足しているのは本当)
ルビィ「今日は何をする予定だっけ」
花丸「ノックだよ」
ルビィ「あ、そうだったね」
ルビィ「じゃあお願いできるかな」
花丸「了解ずら!」 花丸「ルビィちゃん、いくよ〜」
ルビィ「はーい」
花丸「それっ」キン
ルビィ「ほっ」パシッ
花丸「ほい」キン
ルビィ「やっ」パシッ
花丸「あっ、ミスった」キーン
ルビィ「わっと」タタッ――パシッ
花丸「ナイスキャッチずら!」 花丸(マルは下手だから変なところにノックをしちゃうこともある)
花丸(でもルビィちゃんはどこへ行っても、全部捕ってくれる)
花丸(守備や走塁だけ見れば、相当レベルは高いはず)
花丸(マルはプレイ経験がないから、贔屓目なのかもしれないけど)
ルビィ「もっと強くていいよ!」
花丸「分かった!」カキーン
ルビィ「うん、そんな感じ!」パシッ
花丸(でもやっぱりこのままプレーできないなんて、勿体ないよ)
花丸(このままじゃ駄目、やっぱりなんとかしないと――) ―翌々日・浦の星女学院―
ルビィ「助っ人?」
花丸「うん」
花丸「千歌さんたちに聞いてみたらね、やっぱり試合に出れる人数が足りないんだって」
ルビィ「うゅ、三人しかいなかったもんね」
花丸「だからね、お願いされたの」
花丸「野球経験のあるルビィちゃんに、試合だけでも出てくれないかって」 ルビィ「で、でも……」
花丸「やっぱり嫌?」
ルビィ「だ、だって、昨日も言ったけど――」
花丸「ダイヤさんにもね、お願いされたんだ」
花丸「母校のチームが試合もできないなんて嫌だから、協力してほしいって」
ルビィ「お姉ちゃんが……」
花丸「それにね、ルビィちゃんがいてくれないと困る人がいるんだよね」
ルビィ「困る人?」 花丸「実はね、マルも助っ人として参加することになったんだ」
ルビィ「マルちゃんが!?」
花丸「うん」
ルビィ「な、なんで……」
花丸「前から実際のプレーにも興味はあったんだ」
花丸「それでやってみたかったから――じゃ駄目?」
ルビィ「駄目じゃないけど……」
花丸「でもね、1人だと心細いんだよ」 花丸「今日ね、早速練習に参加することになってるの」
花丸「最初に実力を図るために、プレーを見ておきたいんだって」
花丸「だけどほら、マルは初心者でしょ」
花丸「だから、ルビィちゃんがいてくれると心強いんだよね」
ルビィ「マルちゃん……」
花丸「友達としてのお願い、駄目かな?」
ルビィ「……分かったよ」 花丸「ルビィちゃん!」
ルビィ「助っ人は分からないけど、今日練習だけでも出てみるよ」
花丸「ありがとう! 今度ちゃんとお礼はするから」ギュー
ルビィ「ま、マルちゃん、痛いよ」
花丸「ルビィちゃん大好きずら〜」
ルビィ「も、もう」
花丸(上手くいった!)
花丸(これで、あとはルビィちゃんを――) ―グラウンド―
千歌「やあやあ、よく来たね!」ガシッ
ルビィ「ピギッ」
曜「話は花丸ちゃんから聞いてるよ」
梨子「とっても上手なんだって」
ルビィ「そ、そんなことは……」
千歌「いやぁ、助かるよ、ほんと。まさに期待の星!」
ルビィ「う、うぅ」 ルビィ「ま、マルちゃぁん」ヒシッ
花丸「よしよし、落ち着いて」
ルビィ「うぅ」
曜「ありゃ、後ろに隠れちゃった」
梨子「千歌ちゃん、ルビィちゃん怖がってるよ」
千歌「あはは、ごめん」
千歌「つい興奮しちゃって」
ルビィ「い、いえ、すいません、ルビィの方こそ……」 花丸「大丈夫」
ルビィ「うゅ……」
花丸「ルビィちゃん、がんばルビィだよ」
ルビィ「う、うん!」
曜「もう大丈夫そう?」
ルビィ「はい!」
千歌「よーし、じゃあ練習開始だ!」 ―――
――
―
花丸「も、もう駄目ずらぁ……」
花丸(ランニングの時点でもう限界、運動不足にもほどがあるよ……)
花丸(これだったら体力トレもルビィちゃんと一緒にやっておけばよかったかも……)
ルビィ「だ、大丈夫?」
花丸「大丈夫じゃ……ない……」 曜「あはは、最初はそんなもんだよね」
梨子「でもルビィちゃんは元気ね」
ルビィ「あっ、はい」
ルビィ「一応、体力トレーニングは毎日欠かさずやってるんで」
千歌「おぉ、偉いねぇ」
曜「でもこの後の練習どうする?」
曜「花丸ちゃんが回復するまで一回休憩にしようか?」
花丸「い、いえ、マルの事は気にせず続けてください」
花丸「動けるようになったら戻りますから」 千歌「分かったよ、じゃあ続けようか!」
曜「了解ヨ―ソロー!」
ルビィ「ま、マルちゃん」
花丸「どうしたの?」
ルビィ「ルビィ1人だとちょっと……」
花丸「大丈夫だよ、ルビィちゃんなら」
ルビィ「でもぉ」
花丸「ほらほら、すぐに合流するから頑張って」
ルビィ「……うん」 曜「そういやルビィちゃん、ポジションはどこなの?」
ルビィ「え、えっと」
ルビィ(決まってないけど、ルビィの適性的には……)
ルビィ「たぶん、セカンドです」
曜「おっ、セカンドかぁ。私と二遊間だね!」
ルビィ「えっ」
ルビィ(そっか、曜さんは内野もやるんだ)
ルビィ(あの有名人と二遊間)
ルビィ(そんなの絶対に目立っちゃうよ……) ルビィ「あ、あの、やっぱり――」
曜「よし、なら早速ノックしてみよう!」
ルビィ「ピッ」
曜「私が打つから、ルビィちゃんはセカンドに入って」
曜「返球はキャッチャーに千歌ちゃんにすればいいから」
梨子「あっ、じゃあ私は後ろで逸れたボールを回収しておくね」
曜「ありがとう」
ルビィ「ぴぃ……」
花丸(どうしよう、ルビィちゃんだいぶきちゃってる……) ルビィ(うぅ、緊張する)
ルビィ(よく考えたらグラウンドで野球をするのは始めてだよぉ)
曜「じゃあ行くよ〜」
ルビィ「は、はい」
曜「それ」キン
ルビィ「あっ」ポロッ
曜「もう一丁!」キン
ルビィ「あぅ」ポロ ルビィ(駄目だ、緊張で身体が上手く動かない)
梨子「ルビィちゃん、落ち着いて!」
千歌「次は捕れるよ!」
ルビィ(……注目されてる)
曜「……」
ルビィ(曜さん、ガッカリした顔してる)
ルビィ(嫌だよ、みんなルビィを見ないでよぉ……) ―――
――
―
ルビィ「ハァ、ハァ」
花丸「ルビィちゃん……」
花丸(ここまでの数十球、ルビィちゃんは一球も捕れてない)
花丸(最初はグローブには当てられていたのに、今はかすりもしなくなって)
花丸(それどころか、動くことさえ……) 曜「どうしよう、もう止めた方がいいかな」
千歌「で、でも、流石にマズいよ」
千歌「一球も捕れないまま止めるはちょっと」
曜「……あの様子だと、いつまでたっても捕れないかもしれないよ」
曜「私はむしろここで止めてあげた方がいいと思う」
曜「下手に続けても、ルビィちゃんは苦しむだけだよ」
千歌「……そうだね、このままだと逆効果――」
花丸「ま、待ってください!」 千歌「!」
曜「花丸ちゃん、もう回復したの?」
花丸「はい」
花丸「あの、マルもノックを受けさせてください」
花丸「ルビィちゃんと一緒に、同じように」
曜「えっ、でも花丸ちゃんは初心者だったよね?」
花丸「だ、大丈夫です」
花丸「一応、ルビィちゃんと一緒に練習はしてましたから」
曜「いや、でも」 千歌「いいんじゃないかな」
曜「千歌ちゃん?」
千歌「本人がやりたいっていうんだから」
千歌「確かに危ないかもしれない」
千歌「どっちにしろ、試合になればボールは飛んでくるんだよ」
千歌「今のうちに練習しておいた方がいいよ」
曜「まあ、千歌ちゃんがそう言うなら」
花丸「ありがとうございます!」 ※
ルビィ(頭がグルグルして、前もよく見えない)
ルビィ(何度かボールもぶつかって、身体痛い)
ルビィ(……そういえば、ボールが来なくなったなぁ)
ルビィ(終わったのかな)
ルビィ(最後まで、一球もボールが取れないまま)
ルビィ(……)
ルビィ(まあ、いっか)
ルビィ(やっぱりルビィには向いてなかったんだよ、野球は――) 花丸「ルビィちゃん!」
ルビィ「……マルちゃん、どうしたの?」
花丸「一緒にやろう!」
ルビィ「一緒に?」
花丸「ずら!」
ルビィ「でもマルちゃん、ノックは打ってくれるばかりで、受けたことなんてほとんど――」
花丸「ふふん、甘いよ」
花丸「これでもゲームではファインプレーを連続してるずら!」
ルビィ「……もぅ、ゲームと現実の世界は違うよ」 花丸「それでもイメージはできてるずら!」
ルビィ「ふふっ、そっかぁ」
花丸「見ててね、マルの華麗な守備を」
千歌(不思議)
千歌(二人で話している内に、ルビィちゃんの表情が和らいできた)
千歌(本当に仲良しなんだね、あの2人は)
曜「順番にいくよ!」
花丸「はい!」
曜「花丸ちゃん!」キン 花丸「わっと――あれ」
ドスッ
千歌「へっ」
梨子「あ……」
曜「あら?」
ルビィ「ピギィ!」
花丸「――――!」ジタバタ 梨子「顔面直撃……、あれは痛そうね……」
千歌「よ、曜ちゃん、強く打ち過ぎだよ!」
曜「ご、ごめん、大丈夫?」
花丸「だ、大丈夫れす」
ルビィ「駄目だよぉ、ちゃんとボールを見なきゃ」
花丸「あはは、やっぱりゲームとは違うね」
ルビィ「マルちゃんは意外とやんちゃさんなんだから」
花丸「むぅ、いけると思ったんだけどなぁ」 曜「大丈夫そうなら――ルビィちゃんいくよ〜」
ルビィ「あ、はい!」
曜「それ!」カキーン
千歌「ちょっ」
曜「あっ、また強く――」
ルビィ「!」パシッ
曜「えっ、あれを捕った!?」 ルビィ「千歌さん!」シュ
千歌「えっ」
ドスッ
千歌「ぐぇ」
曜「ち、千歌ちゃん!?」
千歌「……しまった、ボーっとしてた」
ルビィ「だ、大丈夫ですか!?」
千歌「あはは、大丈夫大丈夫……」 千歌「それよりも――凄いよルビィちゃん!」
ルビィ「ふぇ?」
曜「そうだよ!」
曜「あんな私でも捕れるか分からないボールだったのに!」
ルビィ「そ、そうですか?」
曜「今の感じで続けて――でも次は花丸ちゃんか」
花丸「あ、マルはぶつかったところが痛むんで、少し休んでもいいですか?」
曜「分かった――じゃあルビィちゃん、続けよう!」
ルビィ「はい!」 ―帰り道―
花丸「うぅ、体中が痛いずら……」
ルビィ「守備の後も自打球当てたりしてたもんねぇ」
花丸「あんなにふんわりとしたボールを打つのが、こんなにも難しいなんて」
ルビィ「公園じゃ打撃練習とかはできなかったから、仕方ないよ」
花丸「でもその分、バントの練習はたくさんしてきたからそこは褒められたよね〜」
ルビィ「えへへ、ルビィも『バント職人』なんて言われちゃったし」 花丸「2年生の先輩たち、凄かったよね」
ルビィ「そうだよね!」
ルビィ「千歌さん、野球を始めたばかりなのに普通にプレーできてたし」
花丸「梨子さんも流石は元名門校って感じの華麗な動きだったずら〜」
ルビィ「何といっても曜さん!」
ルビィ「動き一つ一つが、まさにスターって感じだよねぇ」
花丸「だよね、まるで別世界の人みたいだった」
ルビィ「どうやったらあんな風に動けるんだろうなぁ」 ルビィ「本当に凄かったなぁ、今日は」
花丸「2人じゃできない事もたくさんできたもんね」
ルビィ「うん!」
ルビィ「いつものマルちゃんとの野球も楽しい」
ルビィ「けど、たくさんの人と一緒に練習するのも面白いんだね」
花丸「うんうん」
花丸「だから、これからも――」
ダイヤ「2人とも、お疲れ様です」 ルビィ「!」ビクッ
花丸「……ダイヤさん」
ダイヤ「ルビィ、少しいいですか」
ルビィ「えっと、その」
花丸「……ルビィちゃん」
花丸「マルは待ってるから、行ってきなよ」
ルビィ「だけど……」
花丸「大丈夫だから、ね」
ルビィ「う、うん」 ダイヤ「練習、楽しかったですか」
ルビィ「……うん」
ダイヤ「そうでしょうね」
ダイヤ「二人であんなに楽しそうに話していたんですもの」
ルビィ「……」
ダイヤ「話は花丸さんから聞きました」
ルビィ「マルちゃんから?」
ダイヤ「私に気を遣って野球部をしてこなかったそうですね」
ルビィ「そんな、ことは」 ダイヤ「否定しなくても大丈夫で」
ダイヤ「私も、以前から知っていましたから」
ルビィ「えっ」
ダイヤ「貴女は自分よりも他人を優先することができる、とてもやさしい子」
ダイヤ「私に見つからないよう、陰に隠れて一生懸命努力してきましたよね」
ダイヤ「いつもは花丸さんと2人で練習し、1人でも素振りや体力トレーニングを欠かさない」
ダイヤ「貯めたお小遣いを使ってバッティングセンターに通う」
ダイヤ「参考にするために、色々な試合を観に行っている事」
ダイヤ「隠しているつもりかもしれませんが、全部知っていますよ」
ルビィ「お姉ちゃん……」 ダイヤ「ルビィは本当に野球をするのが大好きですね」
ダイヤ「自分の弱い心を技術と努力で補おうと頑張る」
ダイヤ「多くの人が嫌がるような基礎練習も、いつも楽しそうにおこなう」
ダイヤ「その姿をずっと陰で観てきました」
ダイヤ「そうしている内に、私も貴女のプレーに引き込まれるようになりました」
ダイヤ「姉ではなく、一人の野球好きとして」
ダイヤ「贔屓目もなく、ファンになってしまったのです」
ダイヤ「だって心から楽しんで野球をするルビィは、とても魅力的だもの」 ダイヤ「今日練習も、密かに見学していたんですよ」
ダイヤ「最初は緊張している、弱々しいいつもの貴女」
ダイヤ「でも一度それが解けると、生き生きと、宝石のように輝いていた」
ダイヤ「その姿に、思わず涙してしまいました」
ダイヤ「私は見たいのです」
ダイヤ「姉として、一ファンとして、貴女が輝く姿を」
ダイヤ「だって素敵でしょう」
ダイヤ「大好きな妹が、私の大好きな舞台で躍動するなんて」
ルビィ「……」
ダイヤ「もちろん、強制ではありません」
ダイヤ「この後の選択はあなたの自由です」
ダイヤ「けれども、私の為に我慢する」
ダイヤ「そんな事だけは、絶対にしないで」 ―翌日・野球部部室―
ルビィ「これで――よし!」
『入部届:黒澤ルビィ』
ルビィ「よろしくお願いします!」
梨子「うん、よろしくね」
曜「初めての後輩ゲットだよ!」ギュー
ルビィ「うゅ、痛いですよぉ」 曜「嬉しいなぁ」
曜「練習の時からルビィちゃんと一緒に二遊間を組みたいって思ってたんだよね〜」
梨子「あら、投手はもういいの?」
曜「どっちもやるからいいの!」
梨子「ふふっ、相変わらず欲張りね」
曜「そりゃあ、千歌ちゃんとのバッテリーは外せないもんね!」
梨子「そうね――そういえば千歌ちゃんは?」
曜「あれ、確かにいないね」
ルビィ「……」 ―図書室―
花丸「無事、終わりましたね」
千歌「うん」
花丸「協力してくれて、ありがとうございます」
千歌「ううん。私の方こそ」
千歌「おかげで貴重な部員を確保できたんだから」 花丸「ルビィちゃんのこと、大事にしてあげてください」
千歌「うん、もちろんだよ」
花丸「マルも陰ながら、応援しますから――」
千歌「入るよね、花丸ちゃんも」
花丸「えっ」
千歌「花丸ちゃんも好きなんでしょ、野球」
花丸「そ、そんなことは」
千歌「あるよね」
花丸「……だってマル、運動神経ないし」 千歌「普通出来ないよ」
千歌「好きじゃない人が、何時間も練習をするなんて」
花丸「それは、ルビィちゃんの為に」
千歌「それも本当なのは分かる」
千歌「ルビィちゃんの為に行動する姿は散々見てきたから」
千歌「でもね、私は見てた」
千歌「ルビィちゃんの横で、花丸ちゃんも楽しそうにプレーする姿を」
花丸「それは、その……」 千歌「いいじゃん、好きなら始めちゃえば」
千歌「部員は足りないからね、どんな初心者でも大歓迎なんだよ」
千歌「きっと、花丸ちゃんが入ってくれた方がルビィちゃんも喜ぶと思う」
花丸「だけど、マルじゃ足を引っ張るだけなのは目に見えてるから」
花丸「せっかく野球を始められたルビィちゃんも、マルに気を遣ったりしたら……」
千歌「……もう、じれったいなぁ」
千歌「じゃあ別の理由を作ろうか――」
千歌「ねっ、ルビィちゃん」
花丸「へっ」 ルビィ「えへへ、マルちゃん」
花丸「ルビィちゃん、なんで」
ルビィ「千歌さんに聴いたんだ」
ルビィ「花丸ちゃんがルビィの為に動いてくれていたこと」
ルビィ「ありがとね、ルビィの為に色々してくれて」
花丸「ち、千歌さん、内緒だって約束が」
千歌「ごめんね、最初は私も内緒にしておくつもりだったんだ」
千歌「でも必要だと思ったから、今の花丸ちゃんには」 ルビィ「花丸ちゃん、言ってたよね」
ルビィ「ルビィが一緒に練習に参加する時、『お礼はする』って」
花丸「う、うん」
ルビィ「だからあの時のお礼に、ルビィのお願いをきいてほしいんだ」
花丸「……お願いって?」
ルビィ「ルビィ、花丸ちゃんと一緒に野球がやりたいの」
ルビィ「だから一緒に、野球部に入って」 花丸「ルビィちゃん……」
ルビィ「駄目、かな?」
花丸「……分かった、マルの負けだよ」
ルビィ「花丸ちゃん!」
花丸「ルビィちゃんのお願いを、無下にするわけにはいかないもんね」
ルビィ「えへへ、ありがとう」
花丸「……お礼を言うのは、マルの方だよ」 千歌「じゃあ、入部するってことでいいのかな」
花丸「はい」
花丸「改めて、よろしくお願いします」
千歌「うん、よろしくね!」
ルビィ「マルちゃん、一緒に頑張ろうね!」
花丸「うん!」
千歌「それじゃあ早速、練習へ行こうか!」
ルビまる「「はい!」」 ※
―沼津市内・某所―
善子「感じます」
善子「津島式修正法により、あなたの投球が進化するのを」
善子「自分でも理解できる筈です」
善子「貴女が投げるボールのキレが増していることを」
善子「野球界に降臨した堕天使ヨハネの魔眼は、全てのプレイヤーを高みへと導きます」
善子「すべてのリトルデーモンに授ける、津島式野球メソッド!」
善子「信じるのです、あのダル○ッシュも参考にした、堕天使の力を!」
注:勝手にDVDを送りつけただけです
善子「さすれば、あなたの道は開かれるでしょう――」
『放送は終了しました』 甲子園を観る為に朝は起きなければなので、とりあえずこの辺で
以前書いていたのがこれから始まる善子ちゃん編辺りまでなので、その後は少し投稿ペース落ちるかもです 黒澤姉妹の流れすごくよかった
長編はモチベ保つのが難しいと思うけど頑張って 俺はこのルビまるが好きで前速報で更新してたときは何度か読み返してたな… ―浦の星女学院2年生教室―
千歌「うーん」
梨子「どうしたの、変な顔して」
千歌「部員の勧誘について、ちょっとね」
梨子「部員?」
梨子「5人揃ったから正式な部にはなったよね」
千歌「そうなんだけど、まだ試合をするには一人足りないし」
梨子「確かにね」 千歌「それでね、実は勧誘しようと目をつけていた子がいるんだよ」
梨子「うん」
千歌「でも、いつまでたってもその子が見つからなくてさぁ」
梨子「どんな子なの?」
千歌「自己紹介で自分の野球理論を語りだすような子」
梨子「そ、それはなかなか強烈ね」
千歌「でもそこまでするような子なら、即戦力になりそうでしょ」
千歌「今日もね、曜ちゃんが探しに行ってくれているんだけど、見つかるかなぁ」 ―バッティングセンター―
カァン
善子「違う」
カァン
善子「こうでもない」
カキーン!
善子「!」 善子「今のは良かったわ!」
善子「くっくっくっ、徐々に新しいスイングが見つかってきたわね――
ドスッ
善子「ぼ、ボールが……、痛い……」
子供「パパ―、あそこに変なお姉ちゃんがいるー」
父親「しっ、絡まれると面倒だぞ」
子供「でも凄く綺麗だよ」
父親「あれは残念美人っていう、一番関わっちゃいけないタイプの人なんだ」 善子(学校をサボって、誰もいないバッティングセンターに来る)
善子(最初はドキドキしていたけど、すっかり馴染んできたわね)
善子(沼津寄りのここなら、浦の星の生徒が来ることもないし、安心してバッティングに集中できる)
善子(まさに私の為にあるような、理想的な環境――)
曜「ラッキー、人が全然いないじゃん」
善子(と思ったらうちの制服を着た人が)
善子(まあ制服的に上級生みたいだし、気にしなければ大丈夫でしょう)
善子(私の顔なんて知られてるわけないし) 曜(流石にバッセンに探しに来たは無理があるかな)
曜(でも探してくるとは言ったけど、結局見つからないしなぁ)
曜(そもそも学校に来ない子をノーヒントで探すのは無理があるよね)
曜(千歌ちゃんの頼みだから、断らなかったけど)
曜(……)
曜(気分転換も必要だし、たまにはいいよねっ)
曜(とりあえず、140辺りで――) 善子(あ、あの人、女子なのに140キロを打つ気なの?)
善子(そんなに出る人はいないし、そもそも女の子が普通に打ち返せる球速じゃない)
善子(始めて見る顔だし、よく分かってない初心者なのかな)
善子(浦の星は野球部もないし、経験者じゃないわよね)
善子(教えてあげた方がいいのかな)
カーン! カーン!
善子「えっ」
善子(凄い、平然と打ち返してる) 曜「うーん、いまいち」
善子(しかも恐ろしいこと呟いている)
善子(綺麗なスイング……もしかしてプロなのかな)
善子(だけど浦の星に居たら流石に気づくような)
善子(でも女子プロ野球は詳しくないから、チェック漏れしててもおかしくないし)
カキーン!
善子(どちらにしろ、あれは参考になるわ!)
善子(もっと、もっと近くで観なきゃ) 花丸「――まずは打撃からだよね」
ルビィ「マルちゃんの場合、ほとんど打撃経験がないからね」
善子『ビクッ』
花丸「前の練習の時も恥ずかしかったずら……」
ルビィ「最初はみんなそうなんだから、大丈夫だよ」
花丸「でもちょっと緊張するかも」
ルビィ「ここなら遅い球から打てるから、慣れるにはちょうどいいよ」
花丸「でも最初は、ルビィちゃんにお手本を見せてほしいずら〜」
ルビィ「えぇ、恥ずかしいよぉ」 善子「あの2人、クラスメイトの……」
善子(何でこんなところにいるの)
善子(全然野球をやるようなタイプには見えないのに)
善子(もしかして、最近世間では野球ブームとか?)
カキーン!
曜「よし、最後はいい感じで――」
花丸「あれ、曜ちゃん?」 曜「げっ、花丸ちゃん」
ルビィ「何をしてるんですか?」
曜「えっと、バッティング?」
花丸「あれ、でも今日は新入部員を探しに行くって」
ルビィ「もしかして、サボり?」
曜「え、いや、その――」
善子(何か話してるわね、知り合いなのかしら……)
曜「!」
善子(ヤバっ、目が合った) 曜「……」ズンズン
善子(な、なに、こっちに来た)
善子(もしかして、凝視してたのがばれたとか)
善子(ど、どうしよう、絡まれる前に逃げなきゃ――
曜「この子だよ」
善子「はっ?」
曜「この子をスカウトしに来たんだよ!」
善子「はい!?」 ―浦の星女学院・野球部部室―
千歌「ってことは、あなたが例の!」
曜「そう、自己紹介で野球を語りだした子!」
千歌「凄いよ曜ちゃん! 本当に見つけてくるなんて!」
曜「えへへ」
千歌「これはまさに奇跡だよ〜」
花丸(絶対たまたまだろうけど、ツッコんだら負けなんだろうなぁ) 善子「なによ、いきなり連れてきて」
梨子「曜ちゃん、説明とかしてなかったの?」
曜「あはは、勢いで引っ張ってきたからさ」
梨子「え、えっと、私たちは野球部なんだけど」
善子「野球部?」
善子「この学校にはなかったはずよね」
曜「最近できたんだよ」
曜「正式な部になったのもほんの数日前だし」
善子「へぇ」 善子が中二病じゃなくて野球オタクになってるww
ルビィがの球を追う勘が良いってのもまたええな 千歌「というわけで津島善子ちゃん!」
善子「ヨハネよ!」
曜「はい?」
善子「あ、いや、何でもないわ」
ルビィ「ヨハネって?」
善子「何でもないわよ!」
千歌「ともかく――野球部にようこそ!」
善子「いや、私は入らないわよ」
千歌「えー、なんでー」 善子「だって野球部に入ったら学校へ来なきゃいけないじゃない」
千歌「確かにそうだね」
善子「それは嫌よ」
善子「自己紹介の所為で、クラスでは絶対ヤバい奴だと思われてるし」
ルビィ「そんなことないと思うけど」
花丸「みんな心配はしてるけど、ヤバいなんて言ってる人はいないよ」
善子「えっ、そうなの?」
ルビィ「うん」 花丸「そもそもそこまで自分が注目されていると考えてる辺り、自意識過剰ずら」
善子「うぐっ」
千歌「うわぁ、きつい」ヒソヒソ
梨子「花丸ちゃん、結構きつい言い方するわよね」ヒソヒソ
曜「でもさ、野球部に入ればみんな自己紹介の件も好意的に受け取ってくれるんじゃないかな」
曜「よっぽど野球に熱心な子だと思ってさ」
善子「言われてみると……」
曜「しかも今なら部員も5人しかいないからレギュラー確定だよ〜」
善子「れ、レギュラー……」 善子(試合に出れる、選手にとって魅力的な話)
善子(野球はプレーしてこそだもの)
善子(でもやっぱり、学校へ行くのは気まずいし……)
千歌「どうする、善子ちゃん」
善子「さすがにそんな簡単に決められないわよ」
千歌「じゃあ練習に出てみるのはどう?」
善子「練習に?」
千歌「今から軽く練習する予定だったからさ」
千歌「それに参加して、考えてみればいいんじゃない」 ―グラウンド―
善子「新しい野球部にしては、ずいぶん立派なグラウンドね」
千歌「何か学校側が協力的でさ」
曜「とりあえずキャッチボールでもしようか」
千歌「善子ちゃんは梨子ちゃんと組んでね」
梨子「よろしくね、善子ちゃん」
善子「ええ」 善子(キャッチボール、久しぶりかも)
善子(何か、変に緊張するわね)
善子「じゃあ、行くわよ」シュッ
善子(あっ、悪送球)
梨子「よっと」パシッ
善子「あっ、ナイス」
善子(上手いわね、この人)
梨子「それっ」シュッ 善子「んっ」パシッ
善子(今のは……)
梨子「善子ちゃん?」
善子「ねえ、少しいいかしら」
梨子「どうしたの」
善子「梨子さん、投げる動作になると妙にぎこちなくなるわね」
善子「捕球動作とのギャップが凄いんだけど」
梨子「あ、よくわかったね」 千歌「梨子ちゃんね、イップスなんだよ」
善子「イップス……」
梨子「これでもだいぶマシにはなったんだけど、まだ完璧じゃなくて」
善子(イップス、か)
善子「くっくっくっ」
梨子「よ、善子ちゃん?」
梨子(この子、どこか変な部分があるわね)
善子「ねえ梨子さん」
善子「私、イップスに利く良い方法を知ってるんだけど、興味ない?」 梨子「!」
善子「知りたくないなら、別に構わないけど」
梨子「……本当なら、もちろん教えてもらいたいわ」
善子「いいわよ、教えてあげましょう」
曜「ねえ、どうしたの?」
ルビィ「何かあったんですか?」
梨子「なんかね、善子ちゃんがイップスに利く方法を知ってるって」
千歌「本当!?」 善子「ええ、もちろんよ」
千歌「なになに、どんな方法?」
善子「落ち着きなさい」
善子「少し準備が必要だから」
梨子「準備?」
善子「それはね」ゴソゴソ
『津島式野球メソッド』
善子「これよ!」
千歌「な、なに、その真っ黒な仰々しい本は」 善子「私の野球に関する理論が全て詰まった魔本よ!」
千歌「は、はぁ」
善子「さて、症例に照らし合わせると、あなたに必要なのは――催眠術!」
梨子「さ、催眠術?」
曜「それって、5円玉を揺らすあれ?」
善子「違うわよ、もっと本格的なもの」
花丸「怪しさ満点ずら……」
善子「うっさいわね」
ルビィ「それ、効果あるの?」
善子「あるわよ、騙されたと思って受けてみなさい」 梨子「まあ、薬とかじゃないものね」
善子「物分かりが良いじゃない」
梨子「それで、催眠術っていうのはどこでやればいいの?」
善子「そうね……とりあえず一度部室に戻りましょう」
千歌「私たちはどうすればいいの?」
善子「練習を続けてていいわよ」
善子「順調にすすめば、そんなに時間かからないから」
千歌「分かったー」 ―部室―
善子「さて、じゃあそこの椅子に座って」
梨子「う、うん」
善子「それでこのボールを持って」
梨子「えっと、どっちの手で?」
善子「梨子さん、元から右利きよね」
梨子「そうだよ」
善子「じゃあ右手で」 梨子「握りは?」
善子「自分が野球を始めたばかりの頃にしていた握り方でいいわよ」
梨子「握りに何か意味があるの?」
善子「話してしまうと意味がなくなるから、後でね」
善子「とりあえず目をつぶってくれる?」
善子「始める前に、電気を消したいから」
梨子「うん」 善子「さて、まずは深呼吸をしてくれるかしら」
梨子「す――は――」
善子「いい感じね」
善子「それじゃあ、自分が野球を始めたばかりの頃を思い出して」
梨子「野球を?」
善子「鮮明に思い出す必要はないわ、アバウトでいいの」
善子「誰にでも最初、何も知らずにボールを握ってた事があるでしょ」
善子「何も考えずに投げて、捕って、そんな頃のこと」
善子「昔の自分をよみがえらせるの」
梨子「昔の、私」 ―――
――
―
千歌「梨子ちゃん、大丈夫かな」
花丸「流石に2人きりはマズかったんじゃ……」
ルビィ「うゅ……」
曜「まあ今さら気にしても仕方ないし――あ、戻って来たんじゃない」 善子「ふっ、魔界から帰還してきたわ」
梨子「ただいま」
花丸「梨子さん、大丈夫?」
梨子「ええ」
曜「効果はありそうかな」
梨子「どうだろう、とりあえず投げてみないと」
曜「じゃあちゃちゃっとアップ済ませて、一度投げてみようか」
梨子「うん」 ―――
――
―
梨子(マウンドの感触、不思議と前よりも馴染んでるように感じる)
梨子(これは、本当に)
千歌「梨子ちゃん、無理なくね」
梨子「うん」
曜「ねえ、実際催眠術って効果あるの?」
善子「正直、人によるわね」
善子「でも梨子さんみたいなタイプはきっと効果があるはずよ」 曜「梨子ちゃんみたいなタイプ?」
善子「たぶんあの人は、他人の言葉の影響を受けやすい人だから」
梨子(善子ちゃんの催眠術を受けた後、不思議と身体が軽い)
梨子(まるで昔の私に戻ったみたいな感覚)ググッ
千歌(投球動作が、前よりもスムーズになって――)
シュッ
千歌「!」バシッ
梨子「あっ……」
千歌「本当に、投げられるようになってる」 曜「凄いっ」
曜「あれは昔見た、梨子ちゃん本来の球に近いよ」
梨子「ち、千歌ちゃん、もう一球」
千歌「う、うん」
シュッ バシッ
梨子「投げられる」
梨子「私、普通に投げられる!」
千歌「梨子ちゃん!」 善子「ふっ、これぞ津島式野球メソッドの力」
曜「凄いよ、善子ちゃん!」
ルビィ「うゅ!」
花丸「見直したずら!」
曜「ねえ、私にも何か教えて!」
善子「じゃあ津島式スイング理論を……」
曜「おぉ、何か逆方向に鋭い打球が打てるようになった!」
千歌「す、すごいよ、善子ちゃん!」 善子「ざっとこんなものよ」
千歌「私にも教えて!」
花丸「ま、マルにも!」
善子「任せなさい!」
ルビィ「うゅ……」
花丸「ルビィちゃんはいいの?」
ルビィ「えっと、ルビィは自分のやり方を崩したくないから」
善子「くっくっく、そんなことを言っていると、後で後悔するわよ―― ―――
――
―
千歌「心なしか前より打てなくなった……」 ボコッ
花丸「マルも全然変わらないずら……」 スカッ
善子「あれ?」
曜「うーん、上手くいく人といかない人がいるのかな」
花丸「むぅ、やっぱり善子ちゃんの理論は欠陥品ずら」
善子「う、うるさいわね!」
善子「完璧じゃないのは仕方ないじゃない!」 善子「充分でしょ、イップス治したんだから」
梨子「そうよ、人それぞれ理論が合う合わないはあるんだから、仕方ないわ」
花丸「まあ、それはそうだけど」
曜「でも野球に関する情報をこんなに持ってるなんて凄いね」
善子「そう?」
曜「うん」
曜「ここまで野球に詳しい同年代の人なんて、他にほとんど知らないよ」 千歌「善子ちゃん、中学はどこのチームでプレーしてたの?」
千歌「ここまで詳しいなら、結構凄いところに――」
善子「どこにも所属してないわよ」
千歌「へっ」
善子「どこへいっても上手くいかなかったのよ、私は」
千歌「な、なんで?」
善子「色々あったのよ、色々」
千歌「色々……」 善子「……」ごめん」
善子「悪いけど私、帰るわね」
千歌「よ、善子ちゃん?」
善子「気にしないで」
善子「久しぶりに人と話したら、ちょっと疲れちゃっただけ」
千歌「そう……」
花丸「ねえ、野球部には入るの」
善子「うーん、どうしようかしら」
千歌「私は善子ちゃんに入ってもらいたいと思ってるよ」
梨子「私も大歓迎よ、イップスを治してくれた恩人だもの」 善子「……ありがとう、今日は楽しかったわ」
花丸「善子ちゃん……」
善子「じゃあね、また学校に来ることがあったら会いましょう」
タッタッ
千歌「無神経な事聞いちゃったのかな、私」
花丸「千歌ちゃんの所為じゃないよ」
花丸「マルも厳しい言い方が多かったし……」
梨子「2人の所為じゃないわよ」
ルビィ「そうだよ、いまのは不可抗力だもん」
千歌「そうかも、しれないけど」
「「「「……」」」」
曜(ふむ……) ―バス車内―
善子「はぁ……」
善子(何であんな出て行き方しちゃったんだろう)
善子(みんな私を受け入れてくれて、楽しく野球をしていたのに)
善子(千歌さんだって悪気があって言ったわけじゃない)
善子(それなのに私はついキツイ返答をして)
善子(しかもパニックになって逃げだしてきて……) 善子「はぁぁぁ」
曜「リストラされた中年サラリーマンみたいなため息だね、若者よ」
善子「うわっ!」
曜「同じ方面だったんね、ちょうどよかったよ」
善子「い、いつの間に乗ってたの?」
曜「善子ちゃんが出てった後、全力で走って先回りしたのさ」
善子「なによそれ……」
善子(バッセンの時といい、本当に滅茶苦茶だわ、この人……) 善子「それで、何の用なの?」
曜「よう? 曜は私だよ!」
善子「そうじゃなくて……」
曜「あはは、分かってるよ」
善子「ふざけないでよ、もう」
曜「ごめんごめん」
曜「でもこうした方が少しは元気になるかなぁと思って」
善子「……悪いわね、わざわざ」 曜「みんな心配してたよ」
善子「そりゃそうよね、あんな出て行き方をしたら」
曜「やっぱり、昔の話に突っ込まれたのが嫌だったの?」
善子「ハッキリ聞くわね、あなた」
曜「その方がいいかなって」
曜「私で良ければ話を聴くよ」
曜「もちろん、誰かにいいふらしたりもしないし」
善子(……本当に不思議な人)
善子「なら、少しだけ昔話をしてもいいかしら」
曜「うん」 善子「私はね、お母さんが野球のコーチを務めるような人なの」
善子「だから小さい頃から野球が身近にある環境だった」
善子「そんな中で育ったせいか、昔から野球が大好き」
善子「どんな時でも、ずっと野球のことばかり考えて」
善子「実際そこそこセンスもあったし、始めた時期も早かったから、最初にチームに入った時はもてはやされたわ」
善子「天才、流石はお母さんの娘だって」」
善子「でも、良かったのはそこまで」
善子「私はとてもこだわりが強い人間でしょ」
善子「だから自分の考え方を譲れなかった」 善子「中途半端に知識があったせいで、色んな動作が我流で」
善子「ちゃんと教わってなかったから、普通とは全然違う動きをしていた」
善子「当然、コーチはそれを正そうとする」
善子「でも私は指導を拒否した」
善子「その上で自分自信の研究を重ねるの」
善子「どうすれば自分のやり方で上手なプレーができるかを、ひたすら探求して」
善子「それで結果的に理想のスイングを作り出しても、大人たちはそれを否定する」
善子「そしてさらに意地になって――そんな繰り返し」 善子「結局、監督やコーチと不仲になって、チームメイトからも孤立して」
善子「実力的には十分でも、試合では使ってもらえなくて」
善子「たまに試合に出れても、謎の不運が私に付き纏う」
善子「打席に立てば何故かデッドボールを当てられてばかり」
善子「守備では打球が不思議とイレギュラーを繰り返す」
善子「いくら努力しても、周りはそれを認めてくれない」
善子「結果で見返そうとしても、不運に阻まれる」
善子「そんなことを繰り返し、色々なチームを転々としている内に、私が入れるチームは一つも無くなっていたの」 曜「……なるほどね」
善子「どう、馬鹿みたいな話でしょ」
曜「傍からみれば、そうかもね」
善子「別に理解してほしいわけじゃないの」
善子「きっと分からない感覚でしょうから」
善子「貴女みたいな、輝かしい場所を歩いてきたであろう人には」
曜「いやいや、そんなことないよ」
善子「えっ?」 曜「私もさ、そんなに協調性があるほうじゃないんだよね」
曜「止められても勝手に練習始めるし、必要ないことだと思ったら積極的にやらないし」
曜「色んなところが結構自己流で」
曜「自分のやりたいようにやって、勝手に突っ走ってさ」
曜「前に教わっていたコーチにもよく皮肉言われたものだよ」
曜「『個人競技の方が向いてるんじゃないの』なんて」
善子「意外ね、協調性高そうなのに」
曜「あはは、野球は別なんだよ」 曜「私は自分の感覚に従って努力していけば、上手くなると信じてる」
曜「そして成長していって、世界で一番の選手になるの」
曜「誰に負けない、凄い選手に」
善子「世界一の選手……」
曜「善子ちゃんはさ、上手くなりたい?」
善子「もちろんよ」
曜「だろうね」
曜「私と善子ちゃん、考え方がどこか似てるもの」
曜「きっと普通に野球ができてたら、いい選手になっていたと思うよ」
善子「……何が言いたいの」 曜「私と善子ちゃんは違うってこと」
曜「私はトラブルはあっても、最終的にチームで受け入れられてきた」
曜「今まで追い出されるように辞めたことは、一度もないよ」
善子「なんで?」
曜「他の子に比べて、実力があったから」
曜「私は集中力がない方だから変なエラーとかよくする」
曜「監督やコーチ、チームメイトとも揉めたことも当然ある」
曜「でも実力があったから、使ってもらえた」
曜「周囲から受け入れてもらえた」 善子「それ、私に実力がないっていう皮肉かしら」
曜「そんなことはないよ」
曜「そこまで多くのプレーを見たわけじゃないけど、善子ちゃんは十分実力はあると思う」
曜「野球が好きで、頭もいい」
曜「きっと充分な才能もある」
曜「不運っていう問題もあるから、私よりも大変だろうし」
善子「それなら、なんで」 曜「キミの一番の問題はね、チームを変え続けること」
曜「すぐに辞めちゃうその癖が、良くないんだよ」
善子「仕方ないでしょ、居辛くなったらまともに練習だって――」
曜「私だって最初はそうだったよ」
曜「主張が強いから、みんなが私を非難した」
曜「軽いいじめみたいなことをされた経験もある」
曜「でもね、そこで我慢したの」
曜「すぐに逃げることなく耐えて、1人でも必死に練習した」
曜「そして実力をつけて、みんなから認められるようになった」 曜「善子ちゃんもね、きっとそれができる」
曜「だからね、今回は辞めないでほしい」
曜「ひきこもり、最初の悪印象、学校内での人間関係、きっと大変なことだらけ」
曜「でもそこで頑張って、耐えてほしいんだ」
曜「そうすれば、善子ちゃんは自分の欲しかった物を手に入れられると思う」
曜「私も協力できることは何でもする」
曜「きっと花丸ちゃんとルビィちゃんも助けてくれる」
曜「これでも運はいい方だから、私といれば不運も吹き飛ばしちゃうよ!」
善子「曜さん……」 曜「だからさ、野球部に入ってよ」
曜「絶対に、みんな歓迎するから」
善子「……ねえ、なんで出会ったばかりの私にそこまでしてくれるの」
曜「正直に言っちゃえばね、部員が欲しいっていうのはあるかな」
善子「まだ5人しかいないなら、そうでしょうね」
曜「でも一番の理由は、善子ちゃんと一緒に野球がやりたいから」
曜「初めてなんだよ、こんなに面白そうな選手に出会ったの」
曜「その上野球理論も合うし、相性も良さそうだしさ」 善子「――分かった」
善子「入るわよ、野球部に」
曜「善子ちゃん!」
善子「勘違いしないで、私は最初から入るつもりだったのよ」
善子「貴女がおせっかいを焼かなくても、最初から」
曜「ふふっ、そっか、余計な事しちゃったかな」
善子「グラウンドに降臨する堕天使ヨハネを舐めない事ね」
善子「そんなにやわなメンタルしてないわよ」 イチローは若手時代にコーチから振り子打法やめろとか言われたけどつっぱねて成功したと聞いたことある
コーチもコーチなりの根拠があっただろうし自分のやり方にこだわって失敗する人もいるだろうから難しいね 『次は○○〜』
曜「あ、私ここで降りなきゃ!」
善子「あら、そうなの」
曜「じゃあまたね、善子ちゃん」
善子「ええ」
善子「ねえ、曜さん」
曜「なに?」
善子「……ありがとう」
曜「――うん!」 序章的な部分はここまでです、次から試合へと入る予定です
やはりこっちで書くと割と反応があるので楽しいですね(ないのは少し寂しい)
以前書いたように投稿ペースは多少落ちるとは思いますが、できるだけサクサク進めていければと思います
以下、少し補足 現時点でのパワプロ的に例えた能力(女子野球基準)
女子野球の平均球速は120に満たないと考えてください
千歌:弾道2 ミF パE 走E 肩E 守E 捕C
調子安定 チームプレー○
曜:弾道3 ミC パB 走A 肩A 守B 捕D
:球速133 コンF スタB カーブ5 スライダー1
積極打法 積極盗塁 調子極端 チャンスB エラー 併殺 人気者 広角打法
テンポ○ 乱調 奪三振 ノビA 短気
梨子:弾道2 ミD パE 走D 肩C 守D 捕D
:球速115 コンC スタD カーブ2 シンカー3 スライダー2
キレB
ルビィ:弾道1 ミD パF 走C 肩F 守C 捕E
積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C
三振 チャンスF エラー バント職人
ルビィ(弱気状態)
:弾道1 ミF パF 走C 肩F 守F 捕G
積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C
扇風機 チャンスG エラー バント職人
花丸:弾道4 ミG パF 走G 肩F 守G 捕E
エラー バント○
善子:弾道2 ミE パE 走D 肩E 守D 捕E
選球眼 悪球打ち 意外性 エラー
むつ:弾道1 ミG パG 走F 肩E 守E 捕F
いつき:弾道1 ミG パF 走E 肩G 守F 捕F
よしみ:弾道2 ミF パF 走F 肩F 守F 捕F
設定
・μ’sとA-RISEの活躍で女子野球の人気が出ている世界
・全国には300校を超える女子野球部がある(μ's、A-RISEの活躍以前は全国で30校程度)
・道具の進化などにより、女子でも高いパフォーマンスが発揮できるようになっている この世界線だとヨハネは厨二病かつ野球オタク…?続き待機です ―3―
―生徒会室―
ダイヤ「千歌さん、あなたは素晴らしいですわ」
ダイヤ「まさかこんな短期間で部員を集めきってしまうなんて」
千歌「えへへ、それほどでも――あるかな」
梨子「こら、調子に乗らないの」
曜「まあいいじゃん、実際上手くやったんだし」 ダイヤ「そうですよ」
ダイヤ「助っ人も含めれば9人、試合ができる状態になったんですから」
ダイヤ「正直あまり期待してなかったんですよ、部員集めは」
ダイヤ「今だから言えることですがね」
曜「その割に、諸々の環境を整えるの早かったですよね」
ダイヤ「いざとなれば、私が部員を用意するつもりでしたので」
千歌「えっ、ダイヤさんに当てがあったんですか」
ダイヤ「2人ほどですがね」 千歌「それなら最初からお願いすればよかったかも……」
ダイヤ「いいじゃないですか、おかげで質の高い部員が集まったんですから」
梨子「質の高い、部員――」
ルビィ「ノック行くよ」カーン
善子「ちょ、どこに打ってるの――ってまたイレギュラー!?」
ドスッ
花丸「あはは、また善子ちゃんにボールがぶつかってるずら」
善子「私の所為じゃないわよ!」 善子「少なくとも、あんたには笑われたくないわよ!」
善子「さっきから自分へのボールを私に処理させてるじゃない」
花丸「……マルは初心者だから仕方ないんだよ」
善子「言い訳するな!」
ルビィ「け、喧嘩しないでよぉ」
ダイヤ「……」
曜「あ、あはは」
千歌「さ、最初はあんなものだよ。みんな一年生なんだし」
梨子「そ、そうね」 ダイヤ「まあ、気を取り直して」
ダイヤ「ここからが本題なのですが」
千歌「あ、はい」
ダイヤ「試合をできる人数が揃ったということで、早速練習試合を組んでおきました」
曜「おぉ、流石ダイヤさん」
梨子「早いですね」
千歌「相手はどんな高校なんですか?」
ダイヤ「全国大会に出場したこともある、沼津の高校です」 梨子「えっ、それって大丈夫なんですか」
梨子「あんまり実力差があると、試合にならないような」
ダイヤ「確かにそれなりの相手ではあります」
ダイヤ「ただ静岡は女子野球が強い地域ではないので、何とかなるレベルのはずです」
千歌「まあ、私たちには曜ちゃんと梨子ちゃんが居るからね」
ダイヤ「それに練習試合は負けてもいいのですよ」
ダイヤ「負けは負けで、とてもいい経験になります」
ダイヤ「それに皆さんはまだ二年生、他の部員も一年生です」」
ダイヤ「今年一年じっくりと練習して、来年に賭けるぐらいの余裕を持ちましょう」 千歌「えー、でも負けたくないよ」
曜「そうだよ」
曜「今年からいきなり全国へ行くぐらいの意気込みじゃないと!」
梨子「ぜ、全国は流石に」
千歌「そ、そうだね、ちょっと現実的じゃないような」
曜「駄目だよ二人とも、そんな弱気じゃ」
曜「私はどんな相手でも絶対に勝つつもりなんだから」
千歌「そ、そうだよね!」
ダイヤ「ふふっ、その意気で頑張ってください」 ―部室―
千歌「というわけで、練習試合をすることになりましたー」
ルビィ「し、試合……」バタン
花丸「あ、ルビィちゃんが緊張のあまり気絶しちゃったずら」
善子「本当にメンタル弱いわね、この子……」
ルビィ「ぴぃ……」 曜「気合入るよね、私たちの初試合!」
善子「確かに」
善子「何といっても、この堕天使ヨハネのデビュー戦だもの!」
曜「ねえ、時々入るその堕天使って何なの?」
善子「真顔で聞かないで、回答に困るから」
千歌「でも試合前に色々と決めなきゃいけないね」
曜「例えば?」
千歌「えーと、打順とか?」
曜「あー」 梨子「そういえば、みんなのポジションは決まってたっけ?」
千歌「あ、忘れてた!」
梨子「忘れないで……」
善子「ある意味一番肝心なことよ……」
千歌「じゃあそれぞれ、希望ポジションを出していこう」
梨子「それでいいの?」
千歌「明確に決まっている人も少ないしね」
千歌「被ったら話し合って決めればいいかな」 曜「私は当然ピッチャーとショートで!」
梨子「投手は私と曜ちゃんの二人制だね」
梨子「投げない時、私はレフトかライトかな」
花丸「じゃあマルは残った方の外野?」
千歌「ううん、花丸ちゃんはファースト」
千歌「内野の動きの知識はあるし、捕球は上手いから」
花丸「でもそれ以外は自信ないずら……」
曜「そこはほら、セカンドのルビィちゃんがフォローしてくれるからさ!」
ルビィ「う、うん」
千歌(そもそも、花丸ちゃんの傍からルビィちゃんを離すと色々心配なんだよね……) 曜「それで、当然キャッチャーは」
善子「私ね!」
千歌「ふぇ」
梨子「へっ」
花丸「ずら?」
ルビィ「ピギィ!」
曜「はっ?」
善子「ひっ」 梨子「よ、曜ちゃん、善子ちゃん怖がってる」
曜「いやいや、どう考えてもキャッチャーは千歌ちゃんでしょ」
善子「い、いいじゃない」
善子「私だって津島式配球理論が通用するか試したいのよ」
善子(あとちょっとだけ、曜さんとバッテリーを組んでみたいし)
曜「むぅ、じゃあ私の球を捕れたら考えるよ」
善子「捕るだけ? そんなの余裕よ」
曜「ほー、言ったな、早速グラウンドへ行こうか」 ―グラウンド―
梨子「ねえ、善子ちゃん大丈夫かな?」
千歌「まあ捕るだけならそこまで難しくない、はず」
梨子「でもいいの、簡単にポジション譲っちゃって」
千歌「大丈夫だよ」
千歌「そもそも曜ちゃんも『考える』としか言ってないし」
梨子「あー、言われてみれば」
曜「さー、行くよ」
善子「ふっ、いつでも来なさい」 曜「喰らえよーしこー!」シュッ
善子「へっ、はやっ」
ドカッ
曜「うわっ」
善子「だ、堕天……」バタン
ルビィ「よ、善子ちゃん!?」
千歌「うわぁ、あれは痛い……」
花丸「自業自得ずら」
梨子(そういえば善子ちゃん、曜ちゃんが投げるのを見るの初めてだったかも)
梨子(予測できてないと、あの浮き上がるようなストレートを捕るのは難しいわね) 曜「ご、ごめん」
曜「本当に当てる気はなかったんだけど」
善子「……怖かった」ヒシッ
曜「ちょ、善子ちゃん」
善子「グスッ」
花丸「善子ちゃん、何か幼児化してるずら」
ルビィ「不謹慎だけど、ちょっと可愛いかも」
梨子「確かにね」 ―――
――
―
曜「というわけで、キャッチャーは千歌ちゃんになりました」
全員「わ〜」
千歌「善子ちゃんはセンターね」
善子「なるほど、この堕天使は中心こそが相応しいと――」
曜「外野だったらイレギュラーしても防ぎやすいからだよ」
花丸「やっぱり自意識過剰ずら」
善子「分かってるわよ! 最後まで言わせないさいよ!」
ルビィ「あはは」 千歌「さて、ポジションはこれで決まり」
千歌「あとは帰ってゆっくりと――」
ブンッ
千歌「あれ、素振りの音?」
曜「でも全員いるよね」
千歌「じゃあ誰が?」
梨子「もしかして、まだ他に野球をする人が?」
曜「見に行ってみよう!」 ダイヤ「……」ブンッ
梨子「えっ、あれって……」
千歌「ダイヤさん?」
ダイヤ「……」ブンッ
善子「綺麗なスイング……」
曜「ダイヤさん、もしかして野球上手なのかな」
千歌「かも、ね」
梨子「だけど家庭の事情でプレー出来ないんでしょ?」
千歌「でも、お願いすれば助っ人ぐらいなら――」 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b) ルビィ「駄目っ!」
千歌「ルビィちゃん!?」
ルビィ「ごめんなさい、それだけは……」
千歌「な、なんで?」
ルビィ「その、理由は……」
千歌「あ、いや、別に無理に話さなくてもいいよ」
ルビィ「すみません……」
全員「…………」 ダイヤ「あら、みなさんどうされたのですか」
千歌「ダ、ダイヤさん」
ダイヤ「もしかして、見られてしまいました」
千歌「えっと、その……」
ダイヤ「いいのですよ、気にしなくても」
ダイヤ「なんてことない、ただの遊びですから」
曜「遊び?」
ダイヤ「昨日、プロ野球を観ていたら素晴らしいプレーを目にしまして」
ダイヤ「あるでしょう、その後に無性にバットを振りたくなることが」 千歌「でも――」
善子「あー、分かるわ」
善子「私も時々やるもの」
梨子「そ、そうよね」
千歌「ちょっと、善子ちゃん」ヒソヒソ
善子「空気読みなさいよ」ヒソヒソ
梨子「気になるのは分かるけど、ルビィちゃんの為にも、ね」ヒソヒソ
千歌「うん、そうだね……」ヒソヒソ ダイヤ「どうかしましたか?」
千歌「い、いえ、大丈夫です」
ダイヤ「そうですか、ならいいのですが」
ダイヤ「そろそろ私は帰ります、皆さんも気をつけて帰ってくださいね」
千歌「は、はい」
千歌(ルビィちゃんの反応的にも、興味本位で聞いていい話じゃないのかもしれない)
千歌(凄く気になるけど、仕方ないよね)
千歌(それよりも今は、試合に向けて集中していかないと) 次の投稿から試合です
>>256
ストライクボールの見極めは上手いけど、ボールだと理解していても手を出す困ったちゃんということです
>>257
大体その認識でOKです
詳細については物語の中で語られる――かも ついに前の投稿分が終わって新規のところに入ったか! パパっとメンバー集めて野球やってうぇーいじゃなくて、ちゃんとそれぞれのバックボーンが作り込まれてて、完結したら名作になる予感しかない >>248
仰木監督だけは認めてくれてたエピ好き
やっぱり理解者が一人でもいると救われる ―試合当日・沼津、グラウンド―
千歌「ついにこの日が来たよ!」
梨子「はぁ、緊張するわね」
花丸「ですね……」
千歌「あれ、そういえばルビィちゃんは?」
梨子「一番緊張してそうなのに、反応がないわね」 花丸「あ、ここです」クルリ
ルビィ「」
千歌「う、後ろに背負ってる……」
曜「ずいぶんシュールな絵だね」
花丸「緊張がピークに達したみたいで……」
梨子(花丸ちゃん、身長の割にパワーがあるのはこれのせい?)
善子「ま、全く、情けにゃいわにぇ」
善子「これだから人間風じぇいは」
花丸「善子ちゃんも大概ずら」 曜「一年生はみんな試合慣れしてないから仕方ないよ」
梨子「そうね」
梨子「慣れればもう少し平常心を保てるようになるでしょう」
曜「ちなみに千歌ちゃん、オーダーはどんな感じ?」
千歌「ふっふっふっ」
曜「おお、自信満々だね!」
梨子「なんか逆に不安なんだけど……」
千歌「まあまあ、千歌ちゃん監督の有能さを観るがいい!」 1:中・善子
2:遊・曜
3:投・梨子
4:捕・千歌
5:右・よしみ
6:左・いつき
7:三・むつ
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ 梨子「こ、これは」
ルビィ「うゅ……」
花丸「あっ、ルビィちゃんおはよう」
善子「曜さんが2番?」
千歌「ネットで見た『2番打者最強説』だよ!」
善子「打てる方のルビィが9番なのよ」
千歌「その方がプレッシャーも小さいかなって」
千歌「それに9番に打てる打者を置くのは、有名なラミ○ス監督も好む戦術なんだよ!」
善子「ネットに流されやす過ぎでしょ……」 梨子「しかもさらっと自分を四番に置いてるし」
千歌「ギクッ」
ルビィ「諸々の理由付け、自分が四番を打ちたかっただけなんじゃ……」
花丸「うわぁ」
千歌「そ、そんなことないって」
曜「わ、私はいいと思うよ」
梨子「曜ちゃんは黙ってて」
曜「はい……」 梨子(でも千歌ちゃんの組んだ打順は案外理に適ってる)
梨子(実際、ルビィちゃんのメンタルで目立つ上位は難しい)
梨子(ただでさえ打てる選手が少ないチーム)
梨子(出塁できそうなルビィちゃんと善子ちゃんの2人を並べて、私たち2年生で返す)
梨子(それが理想的であることも確かなのよね)
梨子(こっちには曜ちゃんがいるんだから、大量点は必要ないもの)
梨子(いくら守備が不安でも、数点取ればなんとかなる)
梨子(……まあ、私が余計な点を取られなければだけど) 梨子「そういえば、今日の対戦相手はどんなチームなの」
千歌「えっと、ダイヤさんからもらったデータによると――」
『日中高校:投手力が高い反面、打撃は標準レベル』
『左のエース中野は特に注意 伝統的に守りが強いチーム』
千歌「だって」
梨子「へぇ、じゃあ大敗の心配はなさそうね」
曜「ダイヤさんも、その辺を考えての選んだ相手なのかな」
梨子「かもね」 千歌「ちなみに相手のオーダーはこんな感じだって」
1:中・小島
2:遊・東田
3:右・凸田
4:一・ヴィシー
5:三・福井
6:ニ・高平
7:左・藤田
8:捕・梅井
9:投・中野 千歌「4番の留学生、ヴィシーさんが要注意らしいよ」
曜「留学生か……対戦してみたい!」
梨子「曜ちゃんは本当にメンタル強いわね」
梨子「私はそんな前向きに考えられないわよ」
曜「梨子ちゃんは強打者を相手にするのが嫌なの?」
梨子「そりゃ嫌よ」
梨子「そんな強打者が居れば、打たれる可能性が上がるわけだから」 曜「むぅ、弱気だね」
千歌「梨子ちゃんの場合、久々のマウンドだから仕方ないよ」
曜「あー、それはそうかもね」
梨子「そもそも、何で私が先発なのよ」
千歌「それはほら、練習試合だから色々試さないとだし」
千歌「梨子ちゃんは実践の勘を取り戻さなきゃでしょ」
千歌「あと私も含めて試合経験少ない子が多いから、打たせて取るタイプの梨子ちゃんの方がいい練習になると思うんだよね」
曜「な、なるほど」 ルビィ「流石千歌さん、考えてますね」
善子「正直見直したわ」
千歌「いやー、実は全部ダイヤさんの受け売りなんだけどね」
善子「あらっ」ガクッ
花丸「千歌さん……」
梨子「あれ、じゃあ打順も」
千歌「それは私」
梨子「でしょうね……」
千歌「いやぁ、ダイヤさんの案だと梨子ちゃんと私の打順が逆だったからさ」 曜「と、とにかくそろそろ行かないと」
曜「早くしないと相手を待たせちゃうよ」
千歌「あ、そうだね」
千歌「よーし、行くよ浦の星ナイン!」
ようりこ「おー!」
よしまる「おー!」
千歌「あれ、ルビィちゃんは?」
花丸「試合が迫ったことを意識してまた気を失ったみたいです」
千歌「あらら……悪いけど花丸ちゃんまた運んであげて
花丸「了解ずら!」
梨子(……本当に大丈夫なのかな) 【一回表】
千歌「よーし、初回に先制するぞ〜」
曜「善子ちゃん、頼むよ!」
善子「ええ、任せて!」
ルビィ「善子ちゃん、気合入ってるね」
花丸「だね」
ルビィ「あれなら期待できるかな」
花丸「でも、何か嫌な予感が……」 善子(久しぶりの試合――そして何より初めての一番!)
善子(そもそも上位打線を打つのが初めてだもん、もう最高!)
プレイボール!
善子(でも頭は冷静に)
善子(一番なんだから、しっかり球種を見極めて――)
ドンッ
千歌「うわっ」
梨子「初球からデッドボール……」 善子「もう、なんでよ!」
ルビィ(なんとなく)
花丸(そんな気はしてたよね)
梨子(ある意味期待を裏切らないわね、善子ちゃんは)
千歌「でも曜ちゃんの前でランナーが出たよ!」
梨子「そ、そうね」
千歌「ふっふっふっ、これは先制点貰った!」 梨子「ねえ、千歌ちゃん」
千歌「なぁに?」
梨子「実は期待したでしょ、このデッドボール」
千歌「……そんなことないよ」
梨子(千歌ちゃん、何も考えていないようで案外したたかよね)
曜「……」ニコニコ
梨子(それよりも、目の前で死球を見ながら満面の笑みの曜ちゃんの方が怖いし) 曜(ふふふ、初回からランナーがいるなんて嬉しい誤算だよ)
曜(善子ちゃん、後で褒めてあげないと)
プレイ!
曜「よし、こい!」
中野(この子は有名な渡辺曜……)
梅井(とりあえず、慎重にくさいところを――)シュッ
曜「!」
カッキーン! 千歌「打った!」
ルビィ「大きいよ!」
花丸「これは――――入った!」
千歌「ホームランだ!」
善子「う、嘘っ」アゼン
曜「ちょっとよーしこー」
曜「早く走らないと追い抜いちゃうよ」
善子「ご、ごめんなさい」 善子(あんな難しいコースを、逆方向へホームラン)
善子(女子野球ではあり得ないような現象なのに、何で平然としてるのよ……)
善子(この人は化け物じみてるわね、本当に)
梅井「そんな……」
中野「……」ボーゼン
梨子「ナイスバッティング、曜ちゃん」
曜「えへへ〜、上手く打てたよっ」
千歌「凄いよ! これで二点先制!」
ルビィ「相手も動揺してる、チャンスかも!」
千歌「よーし、この回に大量得点だ!」 今日はこのぐらいで
試合の表現方法は読み易いよう、色々と模索していくつもりです
オリジナルの高校については、所属する県と地理的に近い現実のチームをモデルにしていく予定 乙
モデルはドラゴンズか
先発はともかくリリーフがヤバそうなチームですね >>303
うむ、素晴らしい…
でもセンター善子て…空間移動か
投手梨子か意外、ピアノ経験者の繊細な指先によるコントロールか
ばか千歌に捕手はちょっと荷が重いかもしれんが野球誰よりも好きなら問題ないか…
ファースト花丸は納得、それしかできそうにないw
セカンドのルビィも断然納得w 二番がホームランてwww
千歌ちゃん打順間違えてるだろwwww
曜ちゃんは三番か一番タイプか… >>333
トラウトや、メジャー選手を考えればそんなに珍しいことではない 【一回裏】 2−0
千歌(梨子ちゃんのフォアボールの後、初球ゲッツーはマズかったなぁ)
千歌(後続は3球三振、立ち直られちゃったかもだし)
千歌(でも切り替えて守備に集中しないと)
プレイ!
千歌(梨子ちゃんは低めにボールを集めてゴロを打たせるタイプ) 千歌(とりあえず外にストレートを)
梨子『コクリ』
シュッ
小島「!」キンッ
千歌「曜ちゃん!」
曜「!」パシッ――シュッ
アウト! 梨子「ワンナウト!」
千歌(よしよし、いい感じだね)
千歌(次も同じ感じで、今度はカーブで)
梨子「えい!」シュッ
ボール
千歌(反応しないな、まだ変化球の調子はいまいちかも)
千歌(じゃあやっぱりストレートを)
シュッ――キン
千歌「よし、ファーストゴロ――」 花丸「あっ」トンネル
ルビィ「よ、よしみさん、フォローを――」
よしみ「う、うん」モタモタ
千歌(しまった、あそこは初心者地帯……)
千歌(ランナーも三塁まで行っちゃったよ……)
花丸「ご、ごめんなさい」
梨子「最初は仕方ないわよ、気にしないで」
千歌(でも梨子ちゃんも思ったより気にしてなさそう)
千歌(これなら大丈夫かな) 千歌(次は三番だけど、三振が欲しい)
千歌(この人はお腹も出てるし、一球内角にストレートを投げてみよう)
梨子(内角……私の球威だと甘く入ると怖いわね)
梨子(でもここは千歌ちゃんを信じてっ)シュッ
梨子「あっ」
千歌「真ん中に――」
カキーン
千歌「センター!」 梨子(案外浅い、これなら――)
善子(ギリギリ、でも私の肩じゃ――)パシッ
曜「中継!」
善子「!」シュッ
曜「ヨ――ソロー!」パシッ――シュッ
千歌(いいボール!)パシッ
東田「うおっ」タッチ
アウト! 千歌「二人とも、ナイス連携!」
梨子「ありがとう、助かったわ」
曜「いやぁ、助けになれてよかったよ」
善子「私はほとんど何もしてないけどね」
曜「そんなことないって」
曜「二人で完成させたんだから、半分は善子ちゃんの手柄さ」
千歌「でもいい感じじゃん、久しぶりのマウンドなのに」
梨子「まあ、それなりね」
善子「この調子でお願いね」
梨子「ええ!」 【5回表】 音2−1日
千歌(試合はサクサクと進んで5回)
千歌(守備は梨子ちゃんの好投もあって順調)
千歌(留学生のヴィシーさんにはホームランを一本打たれちゃったけど、そこは仕方ないよね)
千歌(だけど攻撃は上位の3人以外出塁できないまま)
花丸「ずらっ」ブンッ
バッターアウト! >>347
訂正
【5回表】 浦2−1日
千歌(試合はサクサクと進んで5回)
千歌(守備は梨子ちゃんの好投もあって順調)
千歌(留学生のヴィシーさんにはホームランを一本打たれちゃったけど、そこは仕方ないよね)
千歌(だけど攻撃は上位の3人以外出塁できないまま)
花丸「ずらっ」ブンッ
バッターアウト! 花丸「また三球三振だよ……」
ルビィ「あの投手じゃ仕方ないよ」
花丸「うぅ、あんなの初心者には反則だよ……」
花丸「ルビィちゃん、マルの敵を取ってぇ」
ルビィ「う、うん、頑張ってみる」
ルビィ(実際、段々身体は動くようになってきた)
ルビィ(一打席目は緊張し過ぎてバットも振れなかったけど、今度は大丈夫かな)
ルビィ(打てるかは分からないけど、とにかくがんばルビィ!」 中野(独り言?)
梅井(変な子ね)
中野(でも下位二人は見るからに打たなそうね)
梅井(たぶん人数合わせなんでしょう)
梅井(真ん中に手を抜いたストレートでいいわよ)
中野(了解)シュッ
ルビィ「あっ、いい球――」
カッキ―ン! 梨子「完璧!」
曜「右中間――抜けた!」
ルビィ(三塁、行ける!)
善子「ちょ、暴走――
セーフ
善子「じゃなかったわね」
千歌「ルビィちゃん、足速いね!」
梨子「確かに足も速いけど、走塁が上手よね」
梨子「実戦経験が乏しい割に、状況判断が的確だわ」 花丸「流石ルビィちゃん、やるときはやれる子ずら!」
千歌「さて、これでランナー三塁」
千歌「次の次は曜ちゃんだけど、これは練習試合だから――」
善子(スクイズ――か)
善子(バント、あんまり得意じゃないのよね)
善子(多分人並みだとは思うけど、コーチに反抗して二塁打を打ったりした記憶しかないわ)
善子(でもここはちゃんと役割を果たさないと!)ブンブン
善子「よし、こい!」 梅井(なんとも分かりやすい……)
千歌「よーし、じゃあ初球からいっちゃえ!」
梨子「えっ、ちょっとそのサインは待って千歌ちゃん――
シュッ
善子(ヤバッ、外され――)
梅井「うわっ」
千歌「暴投だ!」 ルビィ「えっと、いいのかな」ホームイン
曜「いいんだよ、追加点だ!」
梨子「何が起こったの……」
千歌「さあ?」
花丸「善子ちゃんの不運属性の所為で普通に投げても外れるボールが、さらに外れていった的な?」
千歌「善子ちゃんの不運がいい方向に働いた――ってことでいいのかな」
梨子「たぶん……」
花丸「あんまり深く考えたら負けなんですよ、きっと」 【6回裏】 3−1
―選手交代―
『曜:遊→投』
『梨子:投→左』
『モブ:左→中』
『善子:中→遊』
千歌「ここで曜ちゃんに投手交代だね」
曜「ようやくマウンドだよ!」 曜「サインはいつもどおり無しでいいかな」
千歌「うん、曜ちゃんに任せるよ」
曜「まあ私には球種以外関係ないからさ」
千歌「あっ、でもゴロは注意ね」
千歌「正直、善子ちゃんのところでのイレギュラーが心配だから、特にショートは」
曜「つまり――三振を取ればいいんだね!」
千歌「そうそう」
曜「分かりやすくていいじゃん、流石は千歌ちゃん」 千歌(3番から――でも曜ちゃんなら大丈夫かな)
プレイ!
千歌(曜ちゃんの投球スタイルは梨子ちゃんとは対照的)
千歌(コントロールはアバウト、球種も実質二つだけ)
千歌(でも女子野球では10人投げられる人がいないであろ130キロ台の球速を生かして――)
曜「フッ」シュッ
バシッ
ストライク!
千歌「三振を――取る!」ビリビリ 千歌(まるで浮き上がるように伸びるストレート)
千歌(速球での空振り率だ圧倒的に高い)
千歌(高校野球なら、男子でも通用するであろう速球)
千歌(並みの女子選手では手も足も出ない)
千歌(まあ、これもやっぱりダイヤさんの受け売りだけど)
千歌(小さい頃から傍で見てきた分、あんまり実感が湧かないんだよね)
千歌(そりゃ、凄い投手なのは分かるけど)
ストライク! 千歌(でも改めて考えてみると、曜ちゃんより早いストレート投げる人ってほぼいないよね)
千歌(もし漫画みたいに、早い球を受けてるからある程度は打てるとかあれば、千歌ももう少しいい成績を残せそうなのに)
ストライク! バッターアウト!
千歌「ナイスボール、曜ちゃん!」
千歌(っていつの間にか三振だよ)
千歌(ちゃんと試合に集中しないと)
ヴィシー「……OH」
千歌(でもこの、留学生さんの青ざめた顔を見る限り、大丈夫そうかな)
千歌(打たれそうな気、全然しないもんね) 曜ちゃんがチートすぎる
守備も上手い大谷みたいなもんか?
女子の最速が137キロみたいだし133キロとか余程の強豪校でもない限り打てる訳がない >>361
今まで打たれたことがほぼないから打たれ強さがないとか
球の速さで盗塁は刺せてたからクイックが苦手(盗塁上手い人にはやられる)
とかいくらでも弱点は作れるからヘーキヘーキ パワーだけで言うなら果南さんだけども、やはり曜ちゃんは四番投手タイプやね
というか何でもできるフィジカルモンスターか…
千歌よ…打順も変えろ… 頭弱い千歌が捕手てのもあり得んと一度は思ったが…
相手の気持ちになって考える能力とか、みんなを引き付ける天性の魅力とかあるしな お勉強面だとバカチカなだけで
直感や瞬時の判断力はそれなりにありそうだしね 130キロオーバーを捕球できる時点で既に特別な存在 ※
―浦の星女学院・野球部部室―
千歌「それでは浦の星女学院野球部の初勝利を祝して――
全員「「「カンパーイ」」」
ごくっごくっ
曜「いやー、今日もプロテインが美味い!」
善子「いやいや、何でプロテインなのよ」
花丸「そうずら、もっと他にジュースとか――
ダイヤ「ブッブーですわ!」
ルビィ「ピギッ」 ダイヤ「アスリートはジュースなど厳禁!」
善子「でも、果汁100%ジュースとかはみんな飲んでるし……」
ダイヤ「偉そうなことは試合で活躍してから言いなさい!」
善子「は、はい」
ダイヤ「あっ、でもルビィは特別にアイスを食べていいですわよ」
善子「なにそれ、ダブスタよダブスタ!」
花丸「そうずら、マルものっぽパン食べたいのに」
ダイヤ「二安打と一死の差ですわよ――あっ、のっぽパンなら食べてもいいですわよ」
花丸「流石ダイヤさん、最高ずら〜」
善子「あー、裏切り者!」 梨子「みんな、ダイヤさんにはかなわないわね」
千歌「環境の面とか、色々お世話になりっぱなしだもんね」
梨子「本当にね」
梨子「もしダイヤさんがいなかったら、まともに機能しない野球部になってたかも」
千歌「梨子ちゃんを引き込んでくれたのもダイヤさんだしね」
梨子「ああ、そんなこともあったわね」
千歌「騙されたー、みたいな感じだったもんね」
梨子「結果的に、感謝しかないけどね」
梨子「みんなと出会えて、イップスも治って」 千歌(結局、試合は5対2で勝利した)
千歌(内野の三連続エラーで一時一点差に詰め寄られたけど、リリーフの田馬さんを9〜3番で打ち込んで2点を追加、完勝だった)
千歌(私を含めて、4〜8番が無安打だったのは結構な問題かもだけど)
ダイヤ「しかし流石我が妹、デビュー戦から活躍とは素晴らしいですわね〜」ヨシヨシ
ルビィ「お、お姉ちゃん」
花丸「善子ちゃん、当たったところ大丈夫?」
善子「ええ、慣れてるもの」
曜「結局、イニング数を考えたら梨子ちゃんに結果で負けちゃったかぁ」
梨子「被安打も自責も0なんだから、曜ちゃんの勝ちよ」 千歌(でも、この様子なら何とかなるかな)
千歌(きっとみんな、順調に成長――
ガラッ
千歌「ふぇ」
???「……」
千歌「えっと、どなたですか」
???「ごめんなさい、貴女に用じゃないの」
千歌「はぁ」 ???「渡辺さん、少しいいかしら」
曜「あ……」
千歌「曜ちゃん、知り合い?」
曜「……前に所属していたチームのコーチ」
コーチ「見たわよ、今日の試合」
コーチ「相変わらず貴女は素晴らしいわ」
コーチ「逆方向へのホームランを見る限り、さらに成長もしたようね」
曜「どうも」 ダイヤ「あの、申し訳ないのですが部外者の方は」
コーチ「あら、ごめんなさい」
コーチ「でも私は、部外者ではありませんから」
ダイヤ「と、いいますと?」
コーチ「実は、野球部員の保護者なんです」
千歌「保護者?」
コーチ「はい――ねっ、善子」
善子「……ヨハネよ」 善子母「貴方はまたそんなこと言って……」
善子「ふん」
千歌「えっ」
ルビィ「というか」
梨子「善子ちゃんの」
ダイヤ「お母様!?」
曜「そういえば、コーチも苗字が津島だった……」
善子母「あら、てっきり私は知っているものだとばかり」 善子母「でも善子、良かったわね」
善子母「貴女みたいな問題児でも試合に出れるレベルのチームで」
善子「うっさいわね」
千歌「ねえ、皮肉言われてる?」
梨子「皮肉というか、直球というか……」
曜「普段は嫌味をいうような人じゃないんだけど……」
ダイヤ「根に持っているのでしょう」
千歌「根に持つ?」
ダイヤ「曜さんを引き抜かれ、自分ではコントロールできない娘まで手なずけられ、プライドが傷ついてしまったのでしょう」 善子母「……貴女も大概失礼ね」
善子母「ほとんど当たっている分、妙に腹が立つわ」
ダイヤ「すみません、私も根に持つタイプなのです」
ダイヤ「母校の、妹も所属する大切な野球部を貶められたことが許せなくて」
善子母「どちらかといえば、貴女は私に同意してくれると思ったのだけど」
善子母「一番冷静に、現実が見えていそうなのに」
千歌「現実?」
ダイヤ「……気にしてはいけません」
ダイヤ「更年期にありがちな戯言です」 善子母「……覚えてなさい」
善子母「他校とはいえ、私は教師でもあるのよ」
ダイヤ「そうですか」
ダイヤ「しかし私は黒澤家の人間――これ以上言わなくても意味は分かりますわよね」
善子母「なるほど、性質が悪いわけね」
善子母「バックに黒澤家がいたなら、話が妙に順調に進んだのも納得だわ」
ダイヤ「ではそろそろお引き取り願えますか?」
ダイヤ「私たちはまだ、祝勝会の途中なので」 善子母「そうね、水を差して悪かったわ」
善子母「でもじきに、あなた達は思い知ることになる」
善子母「残酷な現実と、自分たちの愚かさについて」
善子母「特に渡辺さんは予めよく考えておくことね」
善子母「ここでの野球と、貴女が今までやってきた野球の、決定的な違いを」
善子「捨て台詞、カッコワルイ」
善子母「……善子」
善子「は、はい」
善子母「ちゃんと遅くなる前に帰ってくるのよ」
善子「わ、分かっているわよ!」 善子母「今後も浦の星女学院野球部の健闘を祈っているわ」
ガララッ――ピシャッ
千歌「……なんか、滅茶苦茶な人だったね」
梨子「流石、善子ちゃんのお母さんって感じ」
善子「なんかごめんね、迷惑かけて」
曜「いやいや、原因は私かもだし」
善子「でも私の母親だから」
善子「曜さんには日ごろから迷惑かけてるかもだし……」
曜「別に善子ちゃんが謝ることじゃないって」 ダイヤ「それにしても、申し訳ありませんでした善子さん」
善子「なんで謝ってるのよ」
ダイヤ「お母様に対して、大人げない態度をとってしまって――」
善子「気にしないで――というか最高だったわ!」
ダイヤ「はい?」
善子「あんな悔しそうなお母さんの姿、初めて見た」
善子「凄くスカッとして、むしろお礼を言いたいぐらい」
善子「私、ダイヤがこんな凄い人なんて知らなかった」
善子「貴女は最高よ!」
ダイヤ「は、はぁ」 ルビィ「善子ちゃん、親子仲悪いのかな」
花丸「昔はそんなことなかったのに」
ルビィ「あれ、花丸ちゃんは善子ちゃんのお母さんのこと知ってたの?」
花丸「うん、一応幼稚園が一緒だったから」
ルビィ「へぇ」
花丸「親子二人で野球について楽しく語り合ってた記憶があるよ」
花丸「その頃は、普通に仲良しだったのに」
ルビィ「それは流石に古すぎて参考にならないかも……」 善子「でも驚いたわ」
善子「まさか曜さんが教わっていたコーチがお母さんだったなんて」
曜「私の方こそ」
曜「よくよく考えたら、性格も結構似てる気がするけどさ」
善子「どの辺がよ」
曜「色々とこだわりの強いところとか」
善子「ぐっ」 曜「まああれで、コーチとは結構馬が合うからさ」
曜「善子ちゃんとも仲良くなれそうでよかったよ」ギュー
善子「な、なんで抱きつくのよ!?」
千歌「曜ちゃんだけズルい、私も!」ギュー
善子「ちょ、千歌さん」
花丸「それならマルも」ギュー
ルビィ「る、ルビィも」ギュー
善子「ルビィまで!?」 ダイヤ「やれやれ、騒がしいこと」
梨子「でも、すぐに元気になって良かったです」
ダイヤ「ふふっ、そうですわね」
梨子(ここまでは凄く順調)
梨子(初心者だらけのメンバーだけど、チームも完成して、試合にも勝って)
梨子(けど気になるのは、さっきの会話の中)
梨子(善子ちゃんのお母さんが話して、ダイヤさんも否定しなかった『現実』)
梨子(それはいったい、どんな意味なんだろう) >>361
>>251でも書いたように、全体のパフォーマンス自体が向上しているので、最高球速は140ぐらいの世界となっています
130オーバーの投手女子高校野球の中だと5人+球速だけは出る野手が一人、プロなどを含めると+4~5人
曜ちゃんはセミプロのようなチームで主力だったので、高校野球では全国クラス以外が相手だとだいぶレベルに差がある感じです
>>362
これも>>251にの特殊能力欄にあるように、精神面に問題があるタイプなので現状はそこが弱点です
(乱調、短気、エラーなど)
>>370
勉強の出来=野球脳の高さ、捕手としての能力の高さとは言い切れないので
(球史に残る名捕手が漢字も書けないなんて話もありますし)
まあ現状、捕手を出来る選手が他にいないという理由が大きいですが
>>372
その辺はおいおい触れていきます
一応設定的には、もう一人凄い球速の球を捕れる幼馴染がいて、
その子の壁役もしていたから速球の捕球は上手いという感じです 凄い球速の球を投げれるの間違いかな?
まあとりあえずエラーを減らさないことにはいくらピッチャーが良くてもキツイよな 果南が強肩ノーコンなんだっけ
その相手してたら壁性能も高まるな りこちゃんのときは津島式配球術のヨハネ
よーちゃんのときは速球取れるちかちゃんみたいな感じでバッテリー組むのかと思った ポジションはまず基礎能力が上がってからだろうね。というかまだ全員揃ってないし >>395
おぉ能力表なんてあったのかサンクス
俺は据え置きしかやってないんだがキレってアルファベット表記あったっけ?
ノビはあったけどキレはなかった記憶 ―4―
―部室―
曜「あー、今日も疲れたぁ」
梨子「その割には元気そうね」
曜「いやほら、練習後の定型文みたいなもんだし」
梨子「まあ、そうね――」
花丸「ずらぁ……」
ルビィ「ピギィ……」
善子「堕天……」
梨子「本当に疲れている子もいるみたいだけど」 千歌「まあまあ、一年生は仕方ないよ」
千歌「今日の練習は曜ちゃんが気合い入ってて、いつもより厳しかったし」
曜「あはは、ごめんごめん」
千歌「でも、みんな体力はついてきたよね」
千歌「こんな風に疲れ切ってはいても、最後まで練習に参加し通してたし」
曜「確かに、花丸ちゃんも途中で休まずに練習できるようになったもんね」
千歌「でしょ!」 梨子「あら、千歌ちゃんはずいぶん元気みたいね」
千歌「それだけが取り柄だからね!」
千歌(野球部の結成から少しの時が経った)
千歌(曜ちゃんの力もあって、練習試合は全勝)
千歌(私もヒットを打てたし、花丸ちゃんも一度バットにボールが当たった)
千歌(梨子ちゃんもイップスから順調に回復して、再発もなさそう)
千歌(善子ちゃんは出塁率4割近いし、ルビィちゃんも試合前に気絶しなくなった)
千歌(全てが順調、怖すぎるぐらいに) 千歌「そうだ、みんな居るうちに次の練習試合の予定についてなんだけど――」
曜「ちょっと待った!」
千歌「曜ちゃん?」
曜「ねえ、この大会に出てみない?」
『春季女子高校野球大会』
千歌「これは?」
曜「女子には男子みたいに春季大会がないから、それの代わりみたいなイベント」
曜「要するに、夏大前の余興みたいなものかな!」
千歌「おー、そりゃいいね!」 ルビィ「うゅ……」
花丸「どうしたの、ルビィちゃん」
ルビィ「この大会、それなりの強豪校じゃなきゃ出られないはずだよ」
善子「そうなの?」
ルビィ「確か……」
ルビィ「お姉ちゃんもプロ野球の試合と被ってもこっちを観に行くぐらいだし」
千歌「梨子ちゃん、知ってる?」
梨子「そうね、ルビィちゃんの言うとおり」
梨子「少なくとも、創部間もない私たちが出られる大会じゃ―― 曜「でももう、エントリー済ませたよ」
梨子「えっ」
ルビィ「うゅ?」
曜「むしろ主催者から参加を薦められたぐらい」
善子「な、なんでそうなるのよ」
曜「私も気になって色々聞いてみたんだけどさ」
曜「善子ちゃんのお母さんが推薦してくれたみたいなんだよね」
善子「お母さんが?」 千歌「どうしたんだろうね、急に」
曜「きっとアレだよ」
曜「これで現実を見せてやるとか、そんな感じ」
千歌「うへぇ、感じ悪い……」
梨子「だ、駄目よ」
梨子「証拠もないのに、推測でそんなこと言っちゃ」
善子「けど、お母さんなら考えそうなことよ」
梨子「娘にそう言われると否定しずらいわね……」 千歌「でも大会かぁ」
千歌「楽しみだなぁ、東京」
梨子「そう?」
千歌「しかも野球の大会でしょ」
千歌「もしかしたら、μ’sに会えるかもだし!」
ルビィ「それは流石に……」
千歌「分かんないじゃん、東京の大会だもん!」
梨子「ふふっ、そうかもね」
千歌(本当に楽しみ)
千歌(少し前、応援で行った東京に、選手として行けるなんて)
千歌(素敵な旅になる、そんな予感がするよ!) 善子出塁率4割の内死球どれだけあるか気になる
四球も多そう ―数日後・部室―
ダイヤ「やれやれ、勝手にエントリーしてしまうとは」
曜「あはは、すみません」
ダイヤ「できれば相談ぐらいはしておいてほしかったものです」
ルビィ「ご、ごめんなさい」
梨子「これからはちゃんと曜ちゃんを見張っておくんで……」 ダイヤ「……まあ、過ぎたことは仕方ありません」
ダイヤ「出場するからには、頑張ってください」
ダイヤ「おそらく、応援へは行く予定ですので」
千歌「は、はい」
ダイヤ「……ルビィ」
ルビィ「は、はい」
ダイヤ「なにがあっても、気持ちを強く持つのですよ」
ルビィ「うゅ?」 ダイヤ「これは皆さんにも言えることです」
ダイヤ「しかし、心の弱い貴女は特に心に留めておきなさい」
ルビィ「う、うん」
善子「どういう意味よ」
花丸「分からないよ」
ダイヤ「では、私は生徒会の仕事があるので失礼しますわ」
ダイヤ「書類が完成したら、生徒会室へ持ってきてくださいね」
曜「了解であります!」
ダイヤ「では――」ガララ 梨子「なんか、意味深な感じだったね」
曜「だね」
千歌「まあともかく――きました、正式な書類!」
曜「待ってました!」
梨子「内容はどんな感じ?」
千歌「えっと学校名、部員数――チーム名?」
ルビィ「えっと、女子は男子と差別化するために、チーム名をつけるんです」
千歌「へぇ」 曜「そういや、前の日中高校はドラゴンズっていうらしいね」
善子「ドラゴン――なんか格好いい!」
ルビィ「でも、同じチーム名は駄目だよ」
善子「えー、何でよ」
ルビィ「ただでさえ同地区なんだから、紛らわしいもん」
梨子「そもそも私たちにはドラゴンとか似合わないでしょ」
花丸「そんな迫力、どこにもないずら」
善子「えー、でも曜さんとか――」
梨子「いやー、でも曜ちゃんの場合」
ルビィ「ドラゴンというより」
千歌「猫?」 曜「な、なんでそうなるのさ」
千歌「気まぐれなところとか」
梨子「性格が面倒なところとか」
ルビィ「勝手にどこか行っちゃうところとか」
花丸「動いているボールに何でも反応しちゃうところとか」
曜「よ、善子ちゃん〜」にゃー
善子「あー、よしよし」
善子(案外寂しがり屋で甘えん坊なところとか)
善子(目もそれっぽい吊り目だし)
花丸「でも善子ちゃんも猫っぽいとこあるよね」
善子「にゃっ」 千歌「まあ猫ちゃんたちはともかく――早速案を出し合っていこう!」
千歌「まずは曜ちゃん!」
曜「えっと、そうだね」
曜「無難に野球少女隊とかどうかな」
千歌「却下!」
曜「えー、何でさ」
千歌「ダサいから、あと昭和」
曜「ぶーぶー」 千歌「お次は――善子ちゃん」
善子「フッ、決まっているわ」
善子「その名はヨハネリトル――
千歌「次は花丸ちゃんね」
善子「ちょっと!」
千歌「なにさ」
善子「せめて最後まで言わせなさいよ!」
千歌「時間の無駄だよ」 花丸「善子ちゃん、諦めるずら」
花丸「頭おかしいいつものは置いておいて、後はマルに任せて」
千歌「おお、自信あり?」
花丸「ふふっ、これでもゲームだけじゃなくて本も読むからね」
花丸「文字については任せるずら!」
曜「な、なんかプレー中には感じられないオーラを感じる」
ルビィ「マルちゃん、実際文字には強いんですよ」 千歌「それで、どんなチーム名?」
花丸「いくつか候補があって――」
花丸「一つ目がモグラ○ズ」
善子「はい?」
花丸「あと、ホッパ○ズ」
花丸「一応、パワ○ルズとかもあるずら」
善子「色々と直球すぎるわよ!」
ルビィ「しかもパクリばかり……」
善子「私より普通に酷いじゃない」 千歌「えっと、ルビィちゃんは?」
ルビィ「えー――キャンディーズとか?」
千歌「なんか芸人みたいだから駄目」
ルビィ「ピギィ……」
曜「ちなみに千歌ちゃんは何か案があるの?」
千歌「みかんーず」
梨子「論外」
千歌「えー」
梨子「今までで一番あり得ない名前だわ」 千歌「……そこまで言うなら、梨子ちゃんは素晴らしい案を持っているんだよね」
梨子「へっ」
千歌「やっぱりこういうのは東京出身のセンスがある子じゃないとね」
千歌「というわけで、よろしく!」
梨子「え、えっと……」
千歌「えっと?」
梨子「ナインマーメイド、とか?」
「「「…………」」」 千歌「それ、本気で言ってる?」
梨子「え、えっと」
千歌「もし本気だとしたら、私は梨子ちゃんのこと軽蔑する」
梨子「……ごめん、忘れて」
曜「千歌ちゃん怖いよ、抑えて」
ルビィ「うゅゅ」ササッ
花丸「わっ、ルビィちゃん」
曜「ルビィちゃんも怯えて花丸ちゃんの後ろに隠れちゃったし」 千歌「だって、ろくな案がないんだもん!」
梨子「千歌ちゃんも含めてでしょ」
千歌「このままじゃ埒があかないから、誰かいい案を――
ルビィ「Aqours……」
千歌「ふぇ?」
花丸「ずら?」
曜「ルビィちゃん?」
ルビィ「Aqoursは、駄目ですか」 花丸「ルビィちゃん、その名前――」
ルビィ「……」コクッ
善子「アクア?」
ルビィ「えっと水にかけた造語なんだけど」サラサラ
ルビィ「ここは海に近い学校だし、そういうのもいいかなって」
曜「へぇ、いいじゃん」
千歌「何か私たちらしい感じがする!」
善子「そう、それはまさに――」
花丸「それ以上は言わせないずら」
梨子「でもこれは、決まりね」
千歌「よーし、私たちは今日からAqoursだ!」 ※
―東京・某ホール―
千歌「来たぞ、東京!」
千歌「目指すは聖地――
曜「神宮球場!」
千歌「あれぇ」ガクッ
千歌「そこはアキバドームでしょ!」
曜「いやほら、歴史が違うよ」
千歌「そりゃそうかもだけどさ……」 ザワザワ
梨子「その前に抽選会だね」
千歌「くじは誰が引く?」
曜「そりゃ千歌ちゃんでしょ、キャプテンなんだし」
千歌「えー、でも不安だよぉ」
善子「仕方ないわね」ジャラ
千歌「な、なにそれ」
善子「私が念を込めた、このお守りをあげるわ」
梨子「何よこの黒い物体……」
曜「見るからにヤバそうなんだけど……」 善子「いやいや、せめて梨子さんは信じてよ!」
善子「イップスを治してあげた仲でしょ」
梨子「まあ、そうなんだけど」
梨子「あの後、変な占いみたいなのを色々薦められるから、若干不信感が」
善子「な、なんでよ〜」
ルビィ「善子ちゃん、可哀想」
花丸「受け入れてくれる相手には、調子に乗っちゃうタイプだから、仕方ないよ」
ルビィ「……花丸ちゃんも、似てるとこあるよ」
花丸「ずらっ!?」 千歌「ま、まあ、せっかく用意してくれたんだから、ありがたくいただくよ」
曜「そうだね、どうせ抽選結果には関係ないだろうし」
梨子「ええ、ごちゃごちゃ言われるよりはマシだわ」
梨子「さっきから、周りの視線が集まって恥ずかしいし」
善子「だ、駄目よ」
善子「そんな姿勢では、運命は手に入らないわ!」
花丸「善子ちゃん」
ルビィ「ちょっと黙るビィ」 係員「浦の星女学院さんは次にお願いします」
千歌「あっ、はい」
千歌(確かにこのお守りは怪しい雰囲気満点)
千歌(だけど得体の知れない力を感じるのは事実なんだよね)
千歌(何だろう、謎の迫力みたいな?)
千歌(外れることも多い善子ちゃんのオカルト)
千歌(けど案外、信じていればプラスの効果も少なくない気もする) 係員「ではくじをどうぞ」
千歌「あっ、はい」
ガサガサ
千歌(あれ)
千歌(凄い、勝手に手が導いてくれる)
千歌(まるで、良いくじに吸い寄せられるように)
千歌(これ、これを引けば――)
ガタッ
千歌(あれ、手前にも――ついこっちを引いて) ワッ
千歌「えっ」
『浦の星女学院、グループAに入りました』
曜「相手は、音ノ木坂学院と函館聖泉女子高等学院」
むつ「あちゃー」
よしみ「これは」
いつき「やっちゃったね」
ルビィ「ゆ、優勝候補が固まった最悪の組……」バタン
花丸「ルビィちゃん!」 千歌「そ、そんな〜」
善子「あ、あれ」
花丸「善子ちゃんの変なお守りの所為ずら!」
善子「し、知らないわよぉ」
曜「でも強敵とできるなんて、最高のくじだね!」
曜「千歌ちゃん、流石だよ!」
花丸「そんなポジティブでいられるのは曜さんだけずら……」
善子「まったくよ……」 千歌「ごめん、ヤバいの引いちゃった」
曜「気にしないで――ねっ、梨子ちゃん」
梨子(音ノ木坂……)
千歌「梨子ちゃん、大丈夫?」
曜「顔色、凄く悪いよ」
梨子「……ええ」
千歌「もしかして、音ノ木坂と当たること意識しちゃってるのかな」ヒソヒソ
曜「確かに、色々あったみたいだしね」ヒソヒソ 千歌「だ、大丈夫」
千歌「私たちはこれまでチーム結成から全勝だよ」
千歌「この試合も、勝てはしなくても何とかなるって」
善子「そ、そうよね」
善子「負けて元々、成長のためのはむしろ全国トップとやれるのは悪くない話よね」
花丸「まあ、そうだよね」
花丸「これ以上、善子ちゃんを責めるのも可哀想だし」
千歌「そうそう」 千歌「3チーム中、2チームがトーナメントに上がれるグループ」
千歌「どっちかに勝てれば、上へはいけるわけだし」
千歌「だから元気出してね、梨子ちゃんも」
梨子「……うん」
千歌「よーし、初戦は音ノ木坂戦、頑張ろう!」
よしまる「おー!」
曜「…………」
ルビィ「曜さん?」
曜「……ごめん、気にしないで」
ルビィ「は、はい」 次から試合です
>>396
そのとおりです、訂正ありがとうございます
>>398
正式な部員じゃないからと空気を読んで自分たちから帰りました
>>401
おそらくなかったと思います
あくまでパワプロ『的』に例えたものなので、伝わればいいかなと(その方が今後の成長も示しやすいので)
>>413
20−8で内訳は、3安打、1四球、4死球です 善子ぶつけられすぎィ
これ毎試合死球食らってるじゃ 梨子ちゃんと同じく曜ちゃんも知り合いばかりなんだろうな 合宿で見慣れた顔が多いんだろうね。さすがにそのレベルで無双できるわけないし 函館だとあの2人も出てくるんだろうしそっちとの絡みも楽しみだな
能力もどんな感じなのか楽しみ セイントスノーの二人は…
聖良さんは胸が邪魔でよく動けないだろうし、理亞ちゃんはチビだから大した活躍はできんと思う…
どちらも運動神経は良いから守備はいいのかもな…特に理亞はアクロバットな守備を披露しそう
聖良さんは胸の重量もあるからバッティングは強いかも… ―音ノ木坂学院戦・当日―
ルビィ「わーい、綺麗な芝生だよぉ」ボフッ
花丸「本当だね〜」ボフッ
善子「ちょっと、あんたたち恥ずかしいわよ」
花丸「ぶー、善子ちゃんノリ悪いよ〜」
ルビィ「気持ちいいよ、一緒においでよ」
善子「そ、そうね」ボフッ 梨子「ああもう、善子ちゃんまで」
曜「そういや、ちゃんとしたグラウンドでの試合初めてだっけ」
梨子「言われてみると、そうかも」
曜「それならはしゃぎたくなる気持ちも分かるよ」
曜「最初に芝の球場で野球をした時は感動したもん」
曜「よし、私も混ざってきちゃおうかな〜」
梨子「それは流石に止めようね」
千歌「あはは――でも流石は東京の球場」
千歌「凄く整備されていて、綺麗だね〜」 ??「ははっ、カッペ丸出しだな」
梨子「っ」
千歌「えっと、貴女は?」
??「私? 私は――」
曜「板ちゃんじゃん、何してんの」
??「知り合いがいるから、試合前に挨拶と思ってさ」
千歌「あの、音ノ木坂の選手だよね」
曜「ああ、千歌ちゃんは知らないんだっけ」
曜「この人は板本さん、私と同じ日本代表候補」 板本「私のこと、知らない同年代がいたんだな」
曜「千歌ちゃん、あんまり詳しくないからさ」
千歌「す、すいません」
板本「ふーん、まあいいや」
板本「でもビックリした、曜が高校野球を始めるなんて」
曜「いやー、ちょっと事情があってさ」
板本「気まぐれだもんな、お前」
曜「うーん、最近よく言われるから否定しにくいなぁ」 板本「でもありがたいよ」
板本「代表でポジションを取られたリベンジをここで出来るなんてな」
曜「えー、お手柔らかに頼むよ」
曜「こっちは創部間もない野球部なんだからさ」
板本「それでも、お前が投げたらそう簡単に点は取れねえだろ」
板本「正直今年のチーム、速球に強くない奴だらけだし」
曜「いやいや、私は先発じゃないから」
板本「はっ?」
曜「基本リリーフだもん、このチームでは」 板本「じゃあ先発では誰が投げるのさ」
板本「外野で転がってる可愛い連中はなさそうだし」
板本「もしかして、このボケっとしたオレンジちゃん?」
千歌「いや、私はキャッチャーで」
板本「マジかよ、つまり投手は――」
板本「さっきから黙ってる、そのバッティングピッチャーかよ」
梨子「……」
曜「ちょっと、その言い方は」
板本「仕方ないだろ、事実だったんだから」 板本「鳴り物入りで入ってきたのに、すぐにイップスで投げられなくなって」
板本「たまに練習で投げても小学生みたいなボール」
板本「どう頑張っても、バッピにしかなりゃしない」
板本「結局、最後には野手に転向して、気づいたらいなくなってた」
板本「そんな奴だぞ、こいつ」
梨子「……」
板本「少しはまともな球、投げられるようになったのか」
板本「レベルの高い試合をできるはずの大会なんだ」
板本「初戦から大差コールドは勘弁だぞ」 曜「ちょっとその辺にしといてよ」
曜「おかげで空気が最悪なんだけど」
板本「悪い、色々思うところがあってつい」
板本「私そろそろ行くわ――お互い頑張ろうな」タタッ
曜「ごめんね、口の悪い奴で」
梨子「……あの人は、そんなに悪い人じゃないわ」
梨子「昔も私によく気を遣ってくれた」
梨子「ただ素直に、思ったことを口に出しちゃうだけ」 梨子「見返すには、結果を出すしかない」
梨子「見ていて、二人とも」
梨子「私は音ノ木坂を、μ’sを抑え込んで、自分の過去を払拭する」
千歌「……うん、その意気だよ!」
よしみ「おーい、三人とも」
いつき「話しているのもいいけど」
むつ「早くしないと練習時間終わっちゃうよ」
千歌「あっ、ごめん」 千歌「それにしても、今日の相手の先発……」
バンッ
花丸「わっ」
ルビィ「な、何の音?」
???「……」シュッ
バンッ
???「ナイスボール、ここあ」 千歌「ふぇぇ、曜ちゃんほどじゃないけど早いねぇ」
ククッ――バンッ
花丸「なにあのスライダー……」
善子「む、無理よ、あんなの」
曜「矢澤姉妹、健在だね」
千歌「えっと、ダイヤさん情報によると」
『日本代表候補の捕手である矢澤こころと、その双子の妹ここあのバッテリー』
『120キロ台中盤から後半のストレートと、切れ味鋭いスライダーが武器』
千歌「だって」 ルビィ「ちなみにあの二人、初代μ’sの主将だった矢澤にこさんの妹さんたちです」
千歌「マジで!?」
ルビィ「はい」
千歌「どうりで小さいと思った……」
曜「そこなんだ」
ルビィ「曜さんはこころさんと、年代別代表でバッテリーを組んだことがありますよね」
曜「そうだね」
曜「凄く頭のいい選手で、色々助けられた記憶があるよ」
曜「ここあちゃんも代表とは縁がないけど、対戦したことは何度かある」 曜「まあ、私は得意なタイプだけどね、ここあちゃんみたいな本格派」
善子「ちなみに苦手なタイプは?」
曜「梨子ちゃんみたいな球種の多いタイプ」
曜「なんか感覚が狂うんだ」
千歌「今年の音ノ木坂は、凄く強いんだっけ」
ルビィ「はい」
ルビィ「昨年、冬の全国大会で優勝」
ルビィ「今年も夏と冬、それぞれ優勝候補の筆頭にあげられています」 ルビィ「今年は、今の仕組みになってから10回目の記念大会」
ルビィ「今の音ノ木坂は、それに向けて全国から選手をかき集めた世代です」
ルビィ「だから3年と2年には例年以上の戦力が整っています」
ルビィ「投手はここあさんと三年で130キロ台中盤の速球が武器の笠野さんの二枚看板」
ルビィ「野手も板本さんは日本代表候補」
ルビィ「さらに長崎選手や岡野選手、村田選手など、年代別代表候補クラスが揃っています」
ルビィ「その中でもこころさんは二年生ながらキャプテンにして、実質監督に近い立場」
ルビィ「まさに司令塔であり、精神的主柱ですね」
千歌「精神的、シチュー?」
善子「意味、全然分かってなさそうね」
花丸「千歌さんには関係ない話ずら」 千歌「まあともかく、最強のチームってことでいいんだよね」
ルビィ「はい」
千歌「それならいい勝負をすれば、私たちもそれなりのレベルってことでしょ」
ルビィ「たぶん、そうなりますね」
千歌「じゃあ目標は、コールド回避とか?」
花丸「確かにその辺りが無難かも」
善子「まあ、いいんじゃないかしら」
千歌「確か5〜6回で10点、7〜8回だと7点だったっけ」
千歌「ひとまず、それは回避できるぐらいに抑えて――」 曜「駄目だよ!」
千歌「曜ちゃん?」
曜「最初から負けるつもりで挑むなんて、絶対に」
曜「勝つんだよ」
曜「どんな相手だとしても、勝つつもりで挑まないと!」
ルビィ「そ、そうですよ」
ルビィ「最初から諦めるなんて駄目です!」
ルビィ「あれ、でも音ノ木坂に勝つ――想像したら……」バタン
花丸「る、ルビィちゃん、試合前に気絶はマズいずら!」 千歌「で、でもそうだよね」
千歌「勝つ気でいかなきゃだよね!」
曜「その意気だよ!」
曜「私はどんな相手にも負けたくない」
曜「同じ高校生なんだ、きっと勝てる」
曜「勝てる、はずなんだよ」
千歌「よーし、じゃあ皆行くよ!」
全員「「「うん!」」」 〔春季女子野球大会 グループA初戦〕
【浦の星女学院『Aqours』VS音ノ木坂学院『μ's』】
先発メンバー
Aqours
1:中・善子
2:遊・曜
3:投・梨子
4:捕・千歌
5:右・よしみ
6:左・いつき
7:三・むつ
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ
μ’s
1:中・長崎 3年
2:捕・矢澤こころ 2年
3:遊・板本 2年
4:一・岡野 3年
5:左・ぺゲロ 3年
6:三・村田 3年
7:投・矢澤ここあ 2年
8:ニ・吉田 3年
9:右・立本 3年 【一回表】
『一番センター津島さん』
善子(ちゃんとウグイス嬢付きなのは凄いわね……)
善子(さて、初回)
善子(いつもより多いお客さん)
善子(ルビィじゃなくても緊張するわ)
善子(そもそも、実質初めての公式戦)
善子(簡単に凡退は嫌ね)
ここあ「……」シュッ
ストライク! 善子「うわっ」
善子(インコースいっぱい)
善子(ヤバい、こんなの打てないわよ……)
ストライク!
善子(ああ、今度は外)
善子(駄目だ、混乱してる)
善子(せめて次、振らないと――)
ここあ「ふっ!」シュッ
善子「えっ、ぶつか――」
ククッ――パシッ
ストライク、バッターアウト!
善子「す、スライダー……」
こころ「ワンナウト!」 曜「ドンマイ、善子ちゃん」
善子「洒落にならないわよ、あれ」
善子「ストレートとほとんど変わらない球速なのに、鋭く曲がってくる」
曜「あー、そうだったね」
善子「なんか余裕っぽいけど、打てるの、あれ」
曜「まあ任せて」
曜「とりあえず、軽く打ってくるよ!」
善子(か、カッコいい!) 『二番ショート渡辺さん』
曜(実際、球速に差がないここあちゃんみたいなタイプは得意なんだよね)
曜(割と本能のままに振っても打てちゃうし)
曜(偉そうなことを言った手前、しっかり打たないと)
曜「よし、こい!」
こころ「……」スッ
曜(え、こころちゃん外に構えて――)
千歌「もしかして、敬遠?」
花丸「で、でも1アウトランナー無しだよ」
ボールフォア!
曜「えー、つまんない」 こころ(渡辺曜さん? 敬遠に決まってるでしょ)
ザワザワ
こころ(ざわつく会場、でも知ったこっちゃない)
こころ(私たちは常に勝ちを義務付けられたチーム)
こころ(一度負けただけで、大きな批判にさらされる)
こころ(それなのになぜ勝負しなければならないんですか)
こころ(Aqoursの中で、『唯一』打たれる可能性がある選手と)
こころ(彼女にさえ打たれなければ、『確実』に勝利できる試合なのに) 『三番ピッチャー桜内さん』
曜(次は梨子ちゃん、私が走ってしまえばヒット一本で先制)
梨子(大丈夫、私は大丈夫……)
曜(でもあの様子だと、無理か)
バッターアウト!
曜(初見じゃ、千歌ちゃんも)
バッターアウト!
千歌「くぅ〜、ちっちゃいのあんなに凄い球を」
こころ「ここあ、ナイスピッチ」
ここあ「渡辺曜とも勝負したかったんだけど」
こころ「それは点差がついてからね」
ここあ「なら大丈夫か」
ここあ「梨子が相手なら、すぐに出番がくるだろうし」
曜(……マズいかも、この試合) 【一回裏】 Aqours0−0μ’s
キンッ
梨子「あっ」
ここあ「よし、先頭出た!」
板本「やっぱりあいつはチョロいな」
梨子「……」ザッザッ
千歌(梨子ちゃん、ブルペンから全然球が来てないよ)
千歌(やっぱり、緊張してるのかな) 『二番キャッチャー矢澤こころさん』
こころ「お願いします」ニコッ
千歌「あっ、はい」
千歌(流石妹さん、笑った姿が映像で見たにこさんにそっくり)
千歌(でもプレースタイルまで似ていたら嫌だな)
千歌(にこさんは相手の嫌がる打撃が得意だった)
千歌(打順も同じ二番だし、怖いなぁ)
千歌(とりあえず、外にストレートで――)
梨子『コクッ』 ダダッ
曜「走った!」
千歌「初球から盗塁!?」
キンッ
千歌「じゃなくてエンドラン!?」
ルビィ「ピギッ」
千歌「あ、空いた場所を綺麗に抜かれた……」
こころ「よし、完璧です」
曜(経験の浅い私たちの弱点を突いてくるしたたかさ)
曜(相変わらず、相手の隙を突くのが上手い) 梨子「一・三塁……」
『三番ショート板本さん』
板本「いやー、いきなりチャンスじゃん」
千歌「た、タイムお願いします」
千歌「ごめん梨子ちゃん」
千歌「牽制もなしに軽率だった」
梨子「う、ううん、謝らないで」
梨子「私の方こそ、ぼんやりと投げちゃって」
千歌「でも次はあのムカつく人だよ」
千歌「しっかり押さえていこう」
梨子「……ええ」 千歌(どうせこの手のタイプは口だけなんだ)
千歌(一点は仕方ない、低めの変化球をひっかけさせてゲッツーを狙おう)
梨子『コクッ』シュッ
曜(今の調子だったら、無理に勝負は避けた方がいいかも)
曜(板ちゃんは、天才だからなぁ)
千歌「よし、いいところ――」
カキーン!
千歌「あ、あんな難しいコースを」
曜「いっちゃん!」
いつき「あ、あわわ」
セーフ! 曜「ツーベース……」
板本「いきなり二打点は美味しいねぇ」
板本「やっぱりあいつはバッピだわ」
曜「相変わらず、上手いね」
板本「あの球じゃ当然よ」
板本「早く交代しろよ、曜」
曜「……」
ボールフォア!
千歌「うぅ」
梨子「っ」 板本「あの様子じゃ、アウトを取るのも難しそうだぜ」
曜「ううん、まだ早いよ」
曜「梨子ちゃんはそんな簡単に折れる子じゃない」
曜「板ちゃんも、知ってるでしょ」
板本「……まあな」
バッターアウト!
梨子「よしっ」
千歌「ナイス梨子ちゃん!」
千歌(このぺゲロさんはインコースが明確な弱点で良かった)
千歌(梨子ちゃんみたいに制球のいいタイプには、いいカモだよね) 『六番サード村田さん』
村田「こいっ」
千歌(そして次の村田さんも)
梨子「えいっ」シュッ
村田「!」カキーン
千歌「あっ」
千歌(そんなに甘くはない――)
ルビィ「うゅ!」バッ――パシッ
板本「捕った!?」 ルビィ「曜さん!」シュッ
曜「ナイス」パシッ――アウト!
曜「花丸ちゃん!」シュッ
花丸「ずら!」パシッ
アウト!
板本「マジかよ、ゲッツーとか」
梨子「ナイスルビィちゃん!」
千歌「凄いよ! ファインプレー!」バシバシ
ルビィ「い、痛いよ千歌さん」 善子「いつもの緊張はどこへ行ったのよ、もう!」
ルビィ「な、一週回って緊張が解けたっていうか」
花丸「流石ルビィちゃんずら!」
板本「ファインプレーじゃん、やるね〜」
ルビィ「ピギッ――あ、ありがとうござます」
梨子「でも助かったわ、本当に」
千歌「うん、おかげで守備は何とかなりそうだね」
ここあ「あーあ、二点だけかぁ」
こころ「初回だから、仕方ないわよ」
曜「あとは、攻撃さえ何とかできれば」 もしかして巨人の選手から名前とった?
で練習試合は中日か 村田がそのままいる
板本さんいいキャラしてるなぁ… やっぱ村田ってk(ry
函館聖泉はsaint snow+日ハムになるのかな 【4回表】 Aqours0−3μ’s
千歌(試合は進む)
千歌(相変わらず攻撃は絶望的)
千歌(誰一人、まともにバットがボールに当たっていない状態)
千歌(守備は梨子ちゃんが大量のランナーを出しながらも粘りのピッチング)
千歌(曜ちゃんとルビィちゃん、善子ちゃんの三人の好守にも助けられて何とか抑えているけど――)
ボールフォア!
曜「またか――もうっ!」 善子「曜さん、また敬遠……」
ルビィ「今までの練習試合、曜さんの打点がチームの7割近いのに……」
花丸「でも、この後も二人は期待できるし」
曜(今日の梨子ちゃんは打撃どころじゃない)
曜(点を取るなら、私が無理やりでも三塁へ行かないと)
曜(でも相手は矢澤姉妹、盗塁阻止率は驚異的な高さ)
こころ「ふふっ」
曜「むっ」
曜(挑発的な目)
曜(走れるものなら走ってみろと、喧嘩を売られているみたい)
曜(やってやろうじゃないか――) ここあ「――」グッ
曜「いける!」ババッ
こころ「!」パシッ――シュッ
アウト!
曜「あー、駄目かぁ」
板本「ははっ、ごくろーさん」
ここあ「ナイスこころ!」
こころ「ここあも、いいクイックだったわよ」
こころ(私の送球もほぼ完ぺき)
こころ(それなのにギリギリだった辺り、相変わらず恐ろしい走力ね) 【4回裏】 Aqours0−3μ’s
千歌(後続の私と梨子ちゃんは凡退で、結果的に三者凡退)
千歌(流れが、悪いな)
花丸「あれ」
ルビィ「音ノ木坂が円陣を組んでる」
曜「この状況で……」 こころ「板本さん」
板本「な、なんだよ」
こころ「貴女は試合前、梨子さんのことをバッピと馬鹿にしましたね」
こころ「しかし現状の得点は、平均すると一イニング一点ずつ」
こころ「ありえない得点数です」
こころ「本当にバッティングピッチャーを相手にしているなら」
板本「いやいや、私は打ってるんだからいいだろ」
こころ「はいっ?」
音ノ木坂ナイン『ビクッ』
こころ「そういう問題ではありません」
こころ「貴女のそのような態度が、チーム内に油断を蔓延させているのです」 こころ「もちろん、私にも油断がありました」
こころ「忘れてはいけません」
こころ「彼女は本来、私たちが確実に夏冬連覇をするために、3本柱の一角を担う予定だった人」
こころ「ここからは、本気です」
こころ「一流の投手を相手にする意識で、彼女を叩き潰します」
板本「……おう」
こころ「ではいきますよ」
こころ「μ's、Baseball――」
音ノ木坂ナイン「「「スタート!」」」 『一番センター長崎さん』
長崎「よっしゃ!」
梨子『ビクッ』
ルビィ「ピギッ」
千歌(さ、さっきまでと全然雰囲気が違う)
千歌(ど、どうしよう。何を投げても打たれそうな雰囲気だよ)
梨子「っ」シュッ
長崎「いただき!」カキーン!
曜「センター!」
千歌「よ、善子ちゃん」 善子「くっくっくっ、堕天キャッチ!」パシッ
アウト!
ルビィ「ナイス善子ちゃん!」
花丸「変な言葉は余計だけどね」
千歌「た、助かった」
千歌(当たりは凄く良かったけど、守備範囲だった……)
長崎「すまん」
こころ「いえ、今のは運がなかっただけです」
こころ「とてもいい打撃でしたよ」 『二番キャッチャー矢澤こころさん』
こころ「……」グッ
梨子「っ」ゾクッ
梨子(凄く、嫌な予感がする)
梨子(でも逃げられない、マウンドに立っている以上)
梨子「えいっ」シュッ
こころ(打ちごろ!)
こころ「ふっ」カキーン
千歌「一塁線――抜かれた!」 ルビィ「よしみさん、早く!」
よしこ「ちょ、ちょっと待って」
こころ(これは行ける!)
千歌「ヤバいよ、三塁打――って三塁蹴った!」
曜「バックホーム急いで!」
セーフ!
千歌「ランニングホームラン……」
板本「こころ、ナイスラン!」
こころ「一塁方向は穴です」
こころ「ファーストは素人同然、ライトもそれに近い」
こころ「しっかり狙っていきましょう」
板本「了解!」 キン!
曜「花丸ちゃん!」
花丸「と、捕れないよこんなの――」
よしみ「またこっち来たの!?」
千歌「三塁、急いで!」
ルビィ「駄目、間に合わないっ」
セーフ!
梨子「くっ」
千歌「今度は三塁打……」 『四番ファースト岡野さん』
カキーン!
梨子「!」
千歌「ヤバッ」
曜「でも風に押し戻されて――」
善子「くっ」パシッ
アウト!
ここあ「あー、ついてない」
こころ「でも、犠飛に十分ね」
千歌「5対0……」 板本「センターの変な奴、そこそこ上手いな」
こころ「そうですね、センターラインはよく守れています」
こころ「流石に渡辺さんのチーム」
こころ「いくら寄せ集めでも、重要な部分はしっかり埋めていますね」
こころ「狙うなら、はっきりと左右どちらかを狙うべきでしょう」
ぺゲロ「ヨクワカラン、テキトウ二ウツヨ?」
こころ「……貴女はそれでいいです」
板本「得意のランナー無しの場面だしな」 『五番レフト・ぺゲロさん』
千歌(留学生、一発が怖い打者)
千歌(でもこの人は内角、内角に投げれば何とかなる)
シュッ
千歌(少し甘い――でもこれぐらいなら)
カッキ――ン!
千歌「えっ」
善子「……追うまでもないわね」
ルビィ「特大の、ホームラン……」 梨子「あ、ぁぁ」ガクッ
曜(6対0)
曜(いつも冷静な梨子ちゃんが、あんなに取り乱してる)
千歌「た、タイム!」
千歌「り、梨子ちゃん」
梨子「……」
曜「駄目だ、交代しよう」
千歌「で、でもいつもは5回か6回で交代なのに」
曜「これ以上失点したら、試合が壊れる」
千歌「でも、梨子ちゃんは音ノ木坂を見返すって……」 曜「もう無理だよ、これ以上は梨子ちゃんの為にもならない」
曜「まだリベンジには早かったんだよ、これじゃあ傷を抉るだけ」
曜「これでイップスが再発したりしたら、目も当てられない」
花丸「ずら……」
ルビィ「うゅ……」
むつ「そ、そうだよ、とりあえず曜に交代しよう」
むつ「リベンジする機会は、またあるって」
千歌「……分かった」
曜「梨子ちゃん、交代!」
梨子「……うん」 選手交代
【曜:遊→投】
【梨子:投→左】
【いつき:左→中】
【善子:中→遊】
ここあ「お、投手交代っぽいね」
板本「あーあ、曜になっちゃったか」
板本「相変わらずバッピにもならないな、梨子は」
こころ「板本さん、その言い方は反感を買いますよ」
板本「でも否定はできないだろ」
こころ「……そうですね」 ここあ「曜ってどんなスペックだっけ」
ここあ「あたし、打者として対戦したことないから分かんないんだけど」
こころ「とにかく力で押してくるパワーピッチャー」
こころ「球速は130キロ台だけど、140以上に見えるとも言われる質の高いストレート」
こころ「本人は好きじゃないみたいだけど、縦に大きく割れるカーブも素晴らしいわ」
こころ「私たちみたいに体格もパワーもないタイプだと打つのは厳しいわね」
ここあ「諦めるの早いな」 バンッ
ここあ「でも確かに、速い」
こころ「まあ点差も十分についたし、ここあは交代しましょう」
こころ「他のメンバーもベンチ入りしてる1・2年生に交代」
こころ「好投手との実戦経験を積む貴重な機会です」
こころ「投手を笠野さんにしておけば、まず問題は起こらないでしょうから」
ここあ「えー、私も打ちたいんだけど!」
こころ「駄目よ、あの人の場合、デッドボールもあるから」
ここあ「えっ、あの球速でノーコンなの?」
こころ「ええ」
こころ「しかも投手相手でも平然とインコースに投げ込んでくるわ」
ここあ「わ、私怖いからパス」 笠野「面倒だなぁ、投げるの」
こころ「文句言ってないで、準備してください」
こころ「ベンチに居てもプロ野球の結果を予想して遊んでるだけでしょ」
笠野「はーい、りょーかい」
板本「私はそのままでいいよな」
板本「曜と対戦できないのは勘弁だぞ」
こころ「ええ」
こころ「私と板本さんはそのまま出ましょう」
こころ「念のための保険にもなります」
こころ「控えメンバーでは、渡辺さんからの得点は難しいかもしれませんから」 【7回表】 Aqours0−6μ’s
千歌(何とかコールドを回避しながら試合は進んでる)
千歌(曜ちゃんはランナーを出しながらも、下級生主体の音ノ木坂を0に抑える)
千歌(でも攻撃は相変わらずヒットすら出ない)
千歌(代わった笠野さんは、ほぼストレートのみながら圧倒的な投球で――)
曜(また敬遠臭いけど、完全に外されてはいない)
曜(ボール球でも無理やり食らいつけば)ブンッ
バッターアウト!
曜「ああ、駄目かぁ」
こころ(渡辺さん、いい選手だけど相変わらず荒いわね) 『三番レフト桜内さん』
梨子「くっ」
カツン
花丸「あ、当たった!」
善子「しかも転がったの三遊間深いところよ!」
ルビィ「梨子さん走って!」
板本「よっこら――しょ!」パシッ――シュッ
アウト!
善子「う、上手い……」
ルビィ「あれをアウトにするなんて……」 『四番キャッチャー高海さん』
笠野「おら!」ビュッ
ストライク!
千歌「球速――135キロ!?」
千歌(こ、こんなの打てないよ)
千歌(で、でも何とか当てないと)
千歌(バットを短く持って、コンパクトに)ビュッ
ガン
こころ「オーライ!」パシッ
アウト! 笠野「よっしゃ!」
板本「ナイスピッチ!」
こころ(態度は悪いけどピッチングはいいんですよね、この人)
千歌「キャッチャーフライ……」
千歌(手が凄く痺れてる)
千歌(当たったけど、ボールは見えていないほぼマグレ当たり)
千歌(この人、本当に二番手なの)
千歌(今すぐプロに入っても通用しそうな球を投げてるのに)
千歌(無理だよ、こんなの……) 【8回裏】 Aqours0−6μ’s
千歌(先頭にフォアボールで無死ランナー一塁)
千歌(ここでバッターは――)
こころ(結局、もう8回)
こころ(今日の渡辺さんは調子が良いとはいえ、流石に一点も取れないのは想定外)
こころ(選手を入れ替えすぎました、反省です)
こころ(けど流石にそろそろ、試合を決めたいですね) 千歌(また何か仕掛けられたら嫌だな)
千歌(慎重に入りたいけど、曜ちゃんの事だから――)
曜(ストレ――――ト!)シュッ
こころ「くっ」キン
曜「よし、ゲッツーコース!」
善子「ルビィ!」パシッ――シュッ
アウト!
ルビィ「マルちゃん!」シュッ
ガッ
花丸「あっ、バウンドして」ポロッ
セーフ! こころ「た、助かった……」
こころ(やっぱり渡辺さんとは相性が悪いわね)
ルビィ「ご、ごめんなさい」
花丸「ち、違うよ」
花丸「今のは、普通のバウンドを捕れなかったマルの所為だから」
曜「二人とも気にしないで!」
曜「この後しっかりお願いね!」
ルビまる「は、はい!」 『三番ショート板本さん』
曜(でもランナー置いて板ちゃんか)
曜(嫌な状況だな)
板本(一打席目、ストレートを捉えられずに三振)
板本(でも野手視点では二打席目で打てれば勝ったようなものだ)
板本「今度は打つ!」
曜「させるか!」シュッ
板本(いける!)カキーン
曜「!」
千歌「あー、綺麗にセンター前」 曜「くそっ」
曜(これで一・二塁)
曜(でもここからは、控えの一年生)
『四番ファースト大井さん』
曜(このクラス、三振は取れなくても抑えるだけなら――)
キン
曜「げっ」
千歌「ファーストにボテボテのゴロ――」
花丸「え、えっと」パシッ
千歌「ベースカバーの曜ちゃんに!」
曜「花丸ちゃん!」
花丸「は、はい!」
フワッ
千歌「マズい、送球逸れて――」
曜「おっ――とと」タタッ――パシッ
セーフ! 曜「また、えらい方向にボールを……」
花丸「ご、ごめんなさい」
曜「ドンマイ、大丈夫」
曜(けどあと一点でコールドの場面で満塁……)
曜(四死球が許されないのは、ちょっときついな)
『五番レフト石田さん』
曜(こうなったら、思い切り真ん中に投げ込むしかない!)シュッ
カキーン!
千歌「ピッチャー返し――」 曜「!」パシッ
アウト!
曜「花丸ちゃん!」シュッ
花丸「ず、ずらっ」パシッ
アウト!
板本「バカ大井、なんでこの場面で飛び出してんだよ……」
こころ(後で説教ですね……)
ここあ「こ、こころ、何か怖いぞ」
笠野「あーあ、一イニング余計に仕事増えたよ」 曜「はぁ、助かった」
千歌「曜ちゃん、ナイスキャッチ!」
花丸「す、すいません、助かりました……」
曜「いやいや、花丸ちゃんもとっさの送球をよく捕ったね」
千歌(とりあえずコールドは回避できた)
千歌(あとは何とか――)
曜「このままだとノーヒットノーランだよ!」
ルビィ「そそそ、そうですね」
千歌(1人でも、ヒットを打たなきゃ)
千歌(そして一点でも返さなきゃ)
曜「とにかくランナーを貯めて私に回して」
曜「試合の大勢は決まった状況、きっと勝負してくるはずだから」
曜「一点でも返せればきっと投手は動揺する」
曜「6点差なんだ、そうすればまだ試合も分からないよ!」
よいむつよしまるびぃ「「「おお!」」」 【9回表】 Aqours0−6μ’s
花丸(とは言ったものの、これは流石にマルにはちょっと――)
バッターアウト!
いつき「あ、あっさり三球三振」
むつ「いやぁ、あれはしゃあないよ」
よしみ「私たちと花丸ちゃん、一球もバットに当たってないもんね……」 ルビィ「ま、マルちゃ〜ん」ブルブル
花丸「る、ルビィちゃん、落ち着いて」
花丸「平常心なら、何とかなるはずだから」
ルビィ「で、でもぉ」
『九番セカンド黒澤さん』
ルビィ「ぴ、ぴぃ」
笠野(投げにくいなぁ、この手のタイプは)
笠野(何か、弱い者いじめしてるみたいで嫌なんだよ……)
ボール ボール ボール ボールフォア!
笠野「ほらぁ」 花丸「ルビィちゃん出た!」
曜「よし!」
千歌「これであとは善子ちゃんも出れば……」
『一番ショート津島さん』
善子「くっくっくっ、あなたも私の魔力の前には子ども同然のようね!」
笠野「はっ?」
笠野(お前は関係ねーよ。雑魚の癖に――)シュッ
善子「グェッ」ドスッ
笠野「あ」
笠野(ムカついて、つい力が) 花丸「出た! 善子ちゃん得意の身体を張った出塁!」
千歌「こ、今回に限ればナイスだよ!」
千歌(これでバッターは曜ちゃん!)
千歌(曜ちゃんなら打ってくれる!)
千歌(初ヒットも初得点も――)
『二番ピッチャー渡辺さん』
曜(キタキタ!)
曜(笠野さんは短気な性格)
曜(ただでさえ荒れ球傾向にあるんだ)
曜(ここでノーヒットノーランと完封を同時に打ち破れば、まだ分からない――)
こころ「……」スッ
曜「えっ」 よしみ「きゃ、キャッチャーが外に構えて……」
いつき「この状況で」
むつ「敬遠?」
曜「な、なんでさ!」
こころ(ごめんなさい)
こころ(本当は勝負させたい気持ちもある)
こころ(けどノーヒットノーランがかかった状況)
こころ(創部間もない相手にコールドを逃した)
こころ(その事実で批判されることを避けるには、ノーノ―しか考えられない)
ボールフォア! 曜「梨子ちゃん! 千歌ちゃん! あとは任せたよ!」
梨子「う、うん」
千歌「任せて!」
こころ(梨子さんはともかく、高海さんは流石主将、凄い気合いの入り方)
こころ(でもね、世の中は残酷なんですよ)
バッターアウト!
梨子「やっぱり私には……」
バッターアウト!
千歌「あ、当たらない……」
こころ「生まれ持った才能と長期間の努力で築かれた壁は、簡単には超えられないんです」
【試合終了】 Aqours0−6μ’s 次の更新は一日ぐらい空くかもです
>>484
一応、青いチームから移籍して、監督と揉めてる人のつもりです
名前の変え方が悪かったですね、すみません
>>485
そのとおりです
基本的に現時点での主力+個人的に好きな選手って感じです
>>487
現時点のプロットではハムにはしない予定です
予定では球団に元ネタを作らないか、近年最強の西にあるチームになると思います 乙
笠野って笠原(能力菅野)かよw音ノ木坂はヤベーやつ抱えてるな
高校としてのモデルは大阪桐蔭かね?記念大会に合わせてスカウティングしたあたり
しかし全国最強レベル相手にしたわりには思いの外よくやったけどそれは結局ほぼ曜ちゃんの力だしなぁ… いや、桐蔭は音ノ木の方の話な
選手じゃなくて高校としての在り方のモデル >>528
笠野のモデルは、賭博で辞めた人が基本ですね
現役時代の投球は凄く好きだったので……
音ノ木坂のチームモデルは大阪桐蔭です
物語として書けていませんが、μ's側で作っていた原案ではUTX=PL、音ノ木坂=桐蔭のイメージだったので
>>530
>>532
一応ホークスのつもりです
紛らわしくてすみません PLが野球の強豪校としてのイメージがあるかどうかは、年齢や出身地によって大きく変わりそう 野球全然詳しくないけど、桐蔭と21世紀枠が試合したくらいの力量差? 野球はほとんど知らないけど、やっぱり"現実"ってそう言うことか
なまじコールドじゃない分余計突き刺さるな、これ 21世紀枠のチームに大谷レベルの2刀流ドラ1競合選手が1人とメンタル壊れてなければドラ下位レベルの投手1人いるようなもんじゃね
一番の問題は守備だよ、守備 ってか野球詳しくないけど、強豪校が弱小校のたった一人に対して全打席敬遠ってそっちの方がネットで叩かれないか?(戦術としては正しいだろうが)
それともノーノー出来ない方が叩かれるのか? 実際にそれやって地獄絵図になったことがある松井秀喜時代 勝たなきゃそれこそ意味ないからな
もし全打席勝負して全部本塁打だったら負けてた訳だし
どのみち全打席敬遠は叩かれるけど勝つことを優先したんだろ この世界の曜ちゃんヤバさで有名だし観客も敬遠はやむ無し的な? 有名だったら、なおさら勝負が見たいというファンが増えそうな気がする。音乃木坂ファンでも
お前らの姉ちゃん達の代なら絶対に勝負してそれで勝ってたぞ!みたいなファンが多そう
にこは敬遠を進めても穂乃果が押し切って勝負しそうだしw
こころあ姉妹も偉大な先代の存在に苦しんでる部分も大きそうだね ―宿舎―
千歌「みんな、お疲れ様」
曜「うん」
善子「ええ」
花丸「ずら……」
梨子「……」
千歌(空気が重いな……) ルビィ「すぅすぅ」
善子「ルビィ、この状況でよく眠れるわね」
花丸「ずっと緊張しっぱなしで疲れたんだよ」
花丸「メンタル面を考えれば、よく最後までプレーしてたよ」
善子「でもあんたも大変でしょ」
善子「移動中ずっと、ルビィをおぶってたじゃない」
花丸「これぐらい、たいしたことないよ」
花丸「今日だけで3エラーに3三振」
花丸「せめてこれぐらいはしないと、逆に居た堪れないよ」
善子「花丸……」 梨子「ごめん、ごめんね、みんな」
梨子「私が、ちゃんと投げてれば」
梨子「ううん、それだけじゃない」
梨子「変な意地を張らずに、最初から曜ちゃんに先発をお願いしてれば……」
曜「関係ないよ」
曜「私だって、レギュラー相手に投げてたら失点してたと思う」
梨子「違うよ、私の所為なの」
梨子「バッティングピッチャー同然の私が、全部悪いの」
千歌「梨子ちゃん……」 千歌(無理もない)
千歌(あんなに気合いを入れていた音の木坂との試合だったのに)
千歌(何もできず、あっさりとKOされて)
千歌(連勝で浮かれて忘れていたけど、思い知らされた)
千歌(私たちは所詮、曜ちゃんに依存したチームだと)
千歌(彼女の存在がなければ、どうしようもないと)
千歌(かろうじて通用していたのは、投手以外だとルビィちゃんと善子ちゃんだけ)
千歌(その2人だって、相手に比べれば圧倒的に劣ってる)
千歌(最強と言われるチーム相手にいい勝負をするなんて考えは、都合が良すぎたんだ)
千歌(だけど、気にし過ぎちゃ駄目)
千歌(とにかく今はこの空気を何とかしないと) 千歌「まあさ、今は一生懸命やることが大事だよ」
千歌「まだ三年生もいない、最初はみんなこんなもの」
千歌「私たちは小さい頃から野球に全てを賭けてきたわけじゃない」
千歌「初心者もたくさんいるチームなんだよ」
千歌「今は勝敗なんて気にせず、何事も経験」
千歌「せっかく大舞台に上がれたんだよ、みんなで楽しまなきゃ」
善子「いや、でもそれは」
曜「千歌ちゃん――」
こころ「すみません、浦の星女学院のみなさんですよね」 千歌「あ、あなたは」
梨子「こ、こころちゃん」
曜「……何しに来たのさ」
こころ「そんな冷たい態度取らないでくださいよ」
こころ「そりゃ気持ちは分かりますが」
曜「最初からまともに勝負しないなんてあり得ないでしょ」
曜「強豪校の癖に」
こころ「仕方ないじゃないですか」
こころ「プレッシャーなんですよ、一戦一戦」
こころ「真姫さんの世代まで圧倒的な強さを誇っていたせいで、周囲の期待値は異常に高い」
こころ「『音ノ木坂は勝って当たり前』なんて、平然と言われるですよ」
こころ「にこお姉さまの妹である私たちに対しては、特に強く」 千歌「だからって、あの敬遠は流石に」
こころ「所詮はテレビどころかネット中継もない大会ですから」
こころ「あの四球、別に立ち上がったわけでも極端に外したわけでもないですし」
こころ「状況を考えれば敬遠だと分かっても、確固たる証拠はありません」
こころ「ここあは年代別代表にも入れないクラスの投手ですよ」
こころ「そんなあの子が、相性の悪い世代を代表する選手と勝負」
こころ「長打を避けようとアウトコースを攻めた結果、慎重になり過ぎてフォアボールになった」
こころ「そんな言い訳も簡単に出来ます」
こころ「渡辺さんに打たれて失点し、早い段階でマウンドにも上がられて負ける」
こころ「そんな最悪のシナリオを考えれば、妥当な判断だと思いませんか」 こころ「世の中、結構面倒なんですよ」
こころ「私たちが負けるだけでなく、少し苦戦しただけで鬼の首でも取ったかのように騒ぐ人がたくさんいる」
こころ「これがなかなかつらくて、その批判でメンタルを崩す選手もいます」
こころ「今回の件でも、多少は批判を受けるでしょう」
こころ「ですが、勝てばいいんです」
こころ「勝てば、結果を残せばすべて正当化される」
こころ「勝手な外野の批判を大方抑え込める」
こころ「それが野球でしょう、渡辺さん」
曜「……それはそうだね」
曜「それでも、納得したわけじゃないけど」 こころ「でしょうね」
こころ「逆の立場なら、そう簡単に納得できる話ではありません」
こころ「けど貴女なら少しは分かるでしょう」
こころ「私たちの失敗が許されない厳しさを」
こころ「年代別代表で、嫌というほど経験してきたんですから」
曜「まあ、ね」
こころ「実際、そのプレッシャーに潰されてしまった選手も少なくありません」
こころ「本来エースを争うはずだった選手にも、その影響もあって辞めた人がいました」 千歌「それって……」
こころ「梨子さん、お久しぶりです」
梨子「うん、久しぶり」
こころ「投げられるようになったみたいでよかったです」
こころ「突然転校した後、心配していましたから」
梨子「ありがとう」
梨子「連絡もせずに、ごめんね」
こころ「いえ、気にしないでください」
こころ「貴女がイップスを悪化させ、転校にまで至ったのは私が助けになれなかったことも原因です」
こころ「むしろ謝らなければいけないぐらいですよ」 梨子「謝るなんて、そんな」
こころ「まあ、そうですね」
こころ「これ以上この話をしても、お互いに気を遣いあって生産性がありません」
こころ「私がここへ来た理由でもある、本題に入りましょうか」
千歌「本題?」
曜「今日の試合について皮肉を言いに来たんじゃないの」
こころ「違いますよ」
こころ「渡辺さんの中の私のイメージ、どうなってるんですか」
曜「いやぁ、性格が悪い人的な」
こころ「それは勝利を最優先にしなければならないプレー中だけです」
こころ「別にルールや倫理の範囲での行動だけで、反則とかはしないですから」
曜「確かにそうだけどさ」 こころ「まあともかく本題ですが」
こころ「梨子さん、イップスは完治したようですね」
こころ「昔と変わらない美しいフォーム、同様の芸術性のある球」
こころ「今でも十分に一流選手でしょう――時間も一緒に止まっていれば」
梨子「時間が止まっていれば?」
こころ「今の貴女は入学時――中学生の全盛期と変わらない球を投げている」
こころ「逆に言えば、成長もしていないんですよ」
梨子「っ」
こころ「勿体ないです」
こころ「本来は高校で成長しているはずの時間が、イップスで止まってしまった」 こころ「中学時代は一流の投手でも、成長せずに高校で投げれば中の上程度の選手」
こころ「それは貴女も気づいていたでしょう」
こころ「経験があることを考えれば、一流半に近いレベルの投球はできているかもですが」
梨子「……かも、しれないわね」
千歌「曜ちゃん、本当なの」ヒソヒソ
曜「うん」ヒソヒソ
曜「正直梨子ちゃんの球は、昔と何も変わっていない」ヒソヒソ
曜「下手をすれば、一番良かった時期より劣っているかもしれないぐらい」ヒソヒソ こころ「けど、あまり気にすることはないと思うんです」
梨子「えっ」
こころ「梨子さんはトレーニングなどを怠っていたわけではありません」
こころ「まだ身体と頭のイメージや、力の出し方の点で問題があるだけ」
こころ「今日私たち相手に通用しなかったのも、それが原因です」
こころ「特に球速、今どき120も出ないようでは強豪校には通用しません」
こころ「まずはゆっくり、高校仕様の投球を出来るようになることを目指すべきです」
こころ「少なくとも体格的には、私よりだいぶ恵まれています」
こころ「きちんと感覚を修正すれば、高校レベルでも一流の投手になれるはずです」
梨子「こころちゃん……」 こころ「今、試合で投げるのは逆効果になるかもしれません」
こころ「ひとまず、そちらは渡辺さんに任せればいいと思います」
こころ「彼女なら一試合、問題なく投げきれますから」
こころ「言い方は悪いですけど、貴女よりも良い結果が出ることは間違いありませんし」
梨子「……そこをはっきり言われると、少し傷つくかも」
こころ「すみません、元チームメイトなのでつい」
梨子「ふふっ、変わってないのね」
千歌「あの、矢澤さん?」
こころ「あっ、こころかこころちゃんでいいですよ」
こころ「基本的にみんなそう呼ぶんで」 千歌「えっと、じゃあこころちゃん」
千歌「本題って、梨子ちゃんを励ましに来たってこと?」
こころ「はい、そうですよ」
曜「なんで、梨子ちゃんを助けに来たの」
こころ「私だって本意じゃないんですよ」
こころ「かつての仲間の心の傷を抉ることなんて」
こころ「試合中の様子がおかしかったので、気になっていたんです」
こころ「実際、今も凄く落ち込んでいましたし」
こころ「そんな姿を見たら、居ても立っても居られないでしょ」
曜「こころちゃん……」 こころ「皆さんにも言えることですが、今日の試合は落ち込むような内容ではないですよ」
こころ「調べても、過去のデータがあるのは梨子さんと渡辺さんのみ」
こころ「そう考えれば、色々と仕方のない部分はあります」
こころ「試合後では皮肉に聞こえてしまうかもしれませんが、皆さんはいいチームでしたよ」
こころ「特に津島さんと黒澤さん」
こころ「あなた達二人には、ずいぶんやられてしまいましたね」
善子「ふぇ」
こころ「実は津島さんの存在は元から少し知っていました」
こころ「ネットで時々、動画や生放送を観ていまして」
こころ「独特の野球論、とても勉強になります」 善子「そ、そう」
千歌「善子ちゃん、こころちゃんに知られてるなんて凄いね!」
こころ「世間的にはあまり知られていませんが、毎回なかなか興味深い内容なんですよ」
こころ「最近新作が上がらないのは、野球を始めたからだったんですね」
こころ「実際プレーの質も一年生とは思えない内容でした、流石です」
善子「ま、まあ、私レベルになると当然よね」
花丸「あはは、分かりやすく嬉しそうだね」
善子「……そりゃね、嬉しくないわけないでしょ」 こころ「しかしそれ以上に驚いたのは黒澤さんです」
こころ「初回や、それ以降の見事な守備」
こころ「多少の粗さやプレーの波は見られますが、むしろそこに将来性を感じる」
こころ「どこに隠していたんですか、こんな子」
こころ「狭い女子野球の世界、全く無名だったのは信じられません」
花丸「それはちょっと、色々な事情があって」
こころ「いいですよ、そこまで深く聞いたりはしません」
こころ「悪い子でないのは、今の無邪気な寝顔を見ればわかります」
こころ「素行に問題があるとか、突然現れた天才であるとか、そんな類の話でないのも」 こころ「黒澤さんが本当に野球を好きで努力も重ねてきたのは、守備などのプレーと――」スッ
ルビィ「ぅゅ」スヤスヤ
こころ「この可愛らしい見た目に反した、ゴツゴツの手を見れば分かります」
こころ「日ごろから相当振り込んでいるのでしょう」
こころ「体格的に恵まれない物同士の親近感もあります」
こころ「この子は応援したくなりますよ、本当に」ナデナデ
千歌「なんか、お姉さんみたいだね」
曜「……こころちゃんの方がルビィちゃんよりちっちゃいけどね」
こころ「い、言わないでください」
こころ「これでも結構気にしてるんですから」 曜「あっ、そうだよね、ごめん」
こころ「いえ、渡辺さんに悪気がないのは分かりますし、よくあることです」」
こころ「もう私はとっくに割り切れています」
こころ「ここあは未だに足掻いていますがね」
こころ「あの体格で投手は限界があると何度言っても、聞き分けがなくて」
花丸「体格……」
こころ「ごめんなさい、国木田さんと黒澤さんも気になる問題でしたね」
こころ「でもあなたは大丈夫ですよ」
こころ「まだ身長も伸びそうですし、体質的にパワーも付きそうです」
こころ「黒澤さんもそう、少なくとも現時点でさえ私よりは体格はあるんですから」
こころ「まだ一年生、きちんと努力すれば相応に上手くなれますよ」
花丸「は、はい」 こころ「では私はそろそろ帰ります」
こころ「早く戻らないと、お姉さまたちに心配されてしまうので」
千歌「あっ、はい」
梨子「色々ありがとう、こころちゃん」
こころ「いえ、私の方こそ」
こころ「明日試合がある皆さんに付き合っていただけて、ありがたかったです」
こころ「相手が聖泉女子なので苦労するとは思いますが、健闘を祈っています」
千歌「うん、ありがとう」
こころ「渡辺さん、期待してますよ」
こころ「鹿角さんとの対決、私だけではなく多くの人が」
曜「……うん」 とりあえず敬遠について
現実の松井敬遠が騒ぎになったのは、甲子園という全国にテレビ放映され、注目を集める晴れ舞台というのが大きいです
今回の舞台はテレビ放映などはされていない(されている場合は実況を入れます)、エキシビションに近い女子の大会
明確な敬遠でもなく、一度曜ちゃんが手を出して凡退しているので、4連続四球にもなっていない
現実で起こっても、よほど運が悪くない限り騒がれないと思います
もし試合に負けた場合、『音ノ木坂が負けた!』と確実に話題になりますが(現実の大阪桐蔭も練習試合で負けただけで一部では騒がれます)
>>535
まあPLクラスなら、これを読んでくださる方たちなら大丈夫かなと
自分もやや世代がずれていますが、過去の最強のイメージはありますので
>>536
もう少々お待ちください
>>537
>>539
音ノ木坂側は大阪桐蔭
浦の星側は今年の選手で例えると、
地方一回戦負けレベルのチームに
ヨシダ君レベルのストレートを投げられるネオ君(曜)と、
地方の中堅校のエース(梨子)+野手二人(善子、ルビィ)を加えた感じです 乙
毎回解説ありがとう
Saint Snowとの対決楽しみだな おつです
しごろの3人も自分で初心者レベルといってるのに強豪相手じゃてんぱっちゃうよね ―グラウンド―
ルビィ「ふわぁ」
花丸「ルビィちゃん、眠たそうだね」
ルビィ「うゅ、昨日変な時間に寝ちゃったから」
梨子「ルビィちゃん、元気そうでよかったね」
千歌「他の皆と違って、こころちゃんに励ましてもらえなかったのに」
善子「あんな臆病なのに、案外図太いわよね、ルビィは」 千歌「ルビィちゃん、今日の相手のデータは」
ルビィ「えっと、学校名は函館聖泉女子高等学院」
ルビィ「チーム名はSaint Snowです」
ルビィ「昨年の冬季全国大会でベスト8」
ルビィ「三年生のエース、鹿角聖良の加入と共に力を付けてきた高校です」
ルビィ「昨年までは彼女による典型的なワンマンチーム」
ルビィ「しかし今年は有望な一年生の加入も選手層が厚くなりました」
ルビィ「特に4番を打つ柳澤選手、そして聖良さんの妹の理亞さんに注意です」
ルビィ「柳澤さんは年代別代表にも入っています」
曜「私や現三年生の代表とは、一世代ずれてるけどね」 ルビィ「チームの特徴として、投手は聖良さんが投げきる形が多いです」
ルビィ「一応二番手投手には、ショートの間宮さんがいます」
ルビィ「間宮さんも130近いストレートが武器です」
ルビィ「打線は音ノ木坂に比べれば劣りますが協力」
ルビィ「特に速球を得意としています」
ルビィ「落ちる球に弱いですが、ストレートの安打率が圧倒的に高い」
ルビィ「おそらく、曜さんは相性があまりよくない相手です」 千歌「それでこころちゃんは、苦労するって」
ルビィ「あとは比較対象ということもあります」
千歌「比較対象?」
ルビィ「今の高校生の世代は、三人のスター選手がいます」
ルビィ「その中で誰が最も優秀か、ファンの間でよく議論になるんです」
ルビィ「一人目が曜さん」
ルビィ「二人目が音ノ木坂の板本さん」
ルビィ「そして三人目が、鹿角聖良さんなんです」
千歌「へぇ」 ルビィ「特に曜さんと聖良さん二人は一学年年齢が違いますが、よく比較されます」
ルビィ「二人とも投手としては本格派、高い身体能力が売りです」
ルビィ「投球スタイルは130キロ台の速球」
ルビィ「そして落ち方は小さいけど速球と同じぐらいの球速のスプリットで圧倒します」
ルビィ「球種は違いますけど、音ノ木坂のここあさんと笠野さんを組み合わせたような選手かも」
ルビィ「打撃については、確実性はやや欠けますが体格の良さもあってパワーが凄いです」
ルビィ「μ’sに詳しい人なら、希さんに近いといえば分かりやすいかもしれません」
千歌「それは、凄そうだね」 曜「凄いよ、聖良さんは」
曜「実際私も、年代別代表でエースの座を奪われてるから」
千歌「えっ」
曜「嘘じゃないよね、梨子ちゃん」
梨子「ええ」
梨子「私が知っている範囲ではね」
梨子「もちろん、聖良さんが一学年上という事実も関係はしているけど」 ルビィ「そのような実績がありながら、音ノ木坂やUTXなどの強豪からの誘いを断って地元の進学校へ進学」
ルビィ「相当自分に自信があるのでしょう」
ルビィ「今年は理亞さんの加入もあり、本気で全国優勝が狙えると言われています」
千歌「姉妹バッテリーなんだよね」
ルビィ「はい」
ルビィ「絶対サインに首を振らないといわれるほどの信頼関係で結ばれているみたいです」
曜「私だって千歌ちゃんのサインには絶対に首を振らないよ!」
千歌「いやいや、そもそも私からサイン出してないじゃん」
曜「ま、まあね、基本ノーサインだし」
善子「えっ、曜さんと千歌さん、ノーサインだったの?」
曜「そうだよ! 私と千歌ちゃんの絆の証!」 ??「なるほど、彼女が理由でしたか」
曜「あっ」
梨子「あなたは」
曜「聖良さん!」
聖良「自分のやりたい方向へ一直線」
聖良「分かりやすいですねぇ、貴女は」
ルビィ「ほ、本物の聖良さん……」
??「ふふん、どうやら姉さまに見惚れているようね」 ルビィ「えっと、貴女は」
理亞「鹿角理亞」
理亞「これでも貴女たちと同じ世代の代表よ」
理亞「つまり、レベルの違う選手ということね」
善子「なんか痛い奴ねぇ」
花丸「可哀想なタイプなんだよ」
理亞「聴こえてるわよ」
花丸「ずらっ」 理亞「まあいいわ、いくら言っても負け犬の遠吠え」
善子「試合前から負け犬って」
理亞「見てなさい、私たちSaint Snowの野球を」
理亞「あなたたち素人軍団なんて、粉砕してやるんだから」
曜「へぇ……」
理亞「ひっ」
聖良「理亞、いい加減にしなさい」
聖良「挨拶に来たはずなのに、なぜ喧嘩を売っているんですか」 理亞「だって、ムカつくから」
理亞「たいした力もない癖に、こんなところにいて」
ルビィ「そ、そんなこと――」
聖良「すみません、愚妹が色々と失礼を」
聖良「私たちはそろそろ行きますね――理亞」
理亞「はい、姉さま」
聖良「楽しみにしていますよ、今日の試合」
千歌「は、はぁ」 千歌「キャラの濃い妹さんだったね」
善子「くっくっくっ、あれの素はおそらく人見知りね」
善子「姉がいるから強気だったけど、一人じゃまともに話せもしないわ」
曜「へぇ、なんでわかるの?」
花丸「善子ちゃんも同じタイプだからでしょ」
善子「そ、それはあんたもでしょ」
花丸「……知らないずら」 曜「まあとにかく、今日は頑張っていこう」
曜「いくら聖泉女子が強くても、音ノ木坂が負けるとは思えない」
曜「今日勝てば、決勝トーナメントに進める」
曜「昨日の負けを帳消しにできる」
曜「絶対に負けられないよ!」
ルビィ「はい!」
善子「ええ!」
梨子「そうね!」 〔春季女子野球大会 グループA第二戦〕
【浦の星女学院『Aqours』VS函館聖泉女子高等学院『Saint Snow』】
先発メンバー
Aqours
1:遊・善子
2:投・曜
3:捕・千歌
4:左・梨子
5:右・よしみ
6:中・いつき
7:三・むつ
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ
Saint Snow
1:捕・鹿角理亞 一年
2:遊・間宮 一年
3:投・鹿角聖良 三年
4:中・柳澤 一年
5:一・内村 三年
6:三・松尾 一年
7:右・下林 一年
8:左・江戸川 三年
9:二・牧田 三年 【1回表】
『一番ショート津島さん』
善子(鹿角聖良……)
聖良「……」
善子(スペックを聞くと恐ろしい投手)
善子(135以上の直球)
善子(昨日、笠野にぶつけられた時は凄く痛かった)
善子(ほとんど見えなくて避けることもできなかったのと同クラスの球を、私は打てるの?) 聖良「ふっ」シュッ
ストライク!
善子(やっぱり速い)
善子(でもこれと同じぐらいの球速を落ちる球もある)
善子(とにかく手を出さないと!)
シュッ
善子(えーい、当たれ!)
キン
理亞「オーライ!」
アウト! 花丸「あぁ」
千歌「キャッチャーフライかぁ」
曜「善子ちゃん、どんな感じ?」
善子「やっぱり速いわね」
善子「昨日の笠野とほぼ変わらないわ」
曜「ふむ、了解」
善子(あれ、今日の曜さんはあんまり余裕がなさそう)
善子(やっぱり、相手はそれだけの投手ってこと……) 『二番ピッチャー渡辺さん』
曜「……」
理亞(この人、やっぱり雰囲気あるわね)
理亞(でもデータ的に、真っ向勝負する必要はない)
理亞(初球は――)
シュッ
曜「っ」
ストライク!
曜「カーブ……」
曜(完全に裏をかかれた) 理亞(よし、これでいける)
理亞(次はストレートで)
キン
曜(ファール、追い込まれた)
理亞(カウントに余裕あるし、一球インハイに釣り球を)
ボール!
理亞(流石に手は出さない)
理亞(でも次のボールは――)
聖良「ふっ!」シュッ
曜「っ」ブン
バッターアウト!
曜「フォークか……」 善子「よ、曜さんが」
花丸「三振……」
ルビィ「初めて見たかも……」
曜「ごめん千歌ちゃん、あとよろしく」
千歌「う、うん」
『三番キャッチャー高海さん』
千歌「お、お願いします!」
理亞(こいつは……適当にストレート三つで充分でしょ)
バッターアウト!
千歌「当たらないよぉ」 【1回裏】 Aqours0−0Saint Snow
『一番キャッチャー鹿角理亞さん』
曜(今日は打席で敬遠はされそうにない)
曜(でもしっかり抑えないと、勝てそうにないな)
曜「よしっ!」
プレイ!
曜(この子は身体が小さい、とにかくストレートで押そう!)シュッ
ストライク! 理亞(速い)
理亞(これを捉えるのは、なかなか骨が折れそうね)
ストライクツー!
理亞(でも――)
キン――ファールボール!
曜(確かに速い球には強いみたいだけど――)シュッ
理亞(えっ、カーブ――)
ブン
千歌「あっ」ポロッ 間宮「キャッチャーこぼしてる!」
聖良「走って!」
理亞「!」
千歌「し、しまった」
セーフ
理亞「た、助かった……」
千歌「曜ちゃん、ごめん」
曜「ううん、私の方こそ」
曜「ちょっと低め狙って弾ませちゃったよ」
千歌「うん……」
千歌(けど、別に難しいボールでもなかった)
千歌(ああは言ってくれるけど、今のぐらいは止めないと) 『二番ショート間宮さん』
曜(バント……)
曜(素直にさせて一死貰おう)シュッ
コン
曜「花丸ちゃん――えっ」
花丸「わわっ」ポロッ――コロコロ
千歌(でもまだファースト――)パシッ
曜「投げるな!」
千歌「えっ」ピタッ
曜「ベースカバー、入ってない」 ルビィ「あっ」
ルビィ「ご、ごめんなさい」
曜「大丈夫、気にしないで」
曜(実戦経験が少ない弱点が出ちゃったか)
曜(いくらルビィちゃんが努力を重ねてきたとはいえ、二人で出来る範囲)
曜(投内連係とかの練習は不足してるもんね)
曜(花丸ちゃんやむっちゃんもそう)
曜(バント処理は基本、自分でやるぐらいのつもりでいこう) 『三番ピッチャー鹿角聖良さん』
曜(聖良さん……)
曜(投手対投手では劣っているかもだけど、投手対野手なら私の方が上のはず)
曜(抑えることは!)シュッ
コツン
曜「げっ」
千歌「バント!?」
曜(転がったのはいいとこだけど、私なら守備範囲)パシッ
曜(ストレートな分打球は強いし、三塁刺せる!)ビュッ むつ「あ、ありゃ」ポロッ
セーフ!
曜「あっ」
曜(強く投げ過ぎた)
曜(あれだとむっちゃんは取れないじゃん……)
むつ「曜――」
曜「ごめん、私の所為!」 聖良「ふふっ」
千歌「曜ちゃん!」
曜「大丈夫、まだ点は取られてない」
曜「とにかくアウト一つ、そうすれば落ち着くはずだから」
千歌「う、うん」
千歌(でも守備の弱点、完全にばれてる)
千歌(しかも聖泉女子の選手みんな、バント上手いよ)
千歌(練習試合の相手だと、曜ちゃんの球を全然上手くバントできなかったのに)
千歌(これが全国トップレベル……) 『四番センター柳澤さん』
柳澤「あっす!」
千歌(うわっ、おっきい)
千歌(見るからに飛ばしそう、本当に一年生?)
千歌(この人も、年代別代表だっけ……)
曜(とにかく三振)
曜(高めで押し込もう!)シュッ
千歌(あっ、真ん中に)
キン!
千歌(でも押し切った――ライト浅い!)
よしみ「よしっ」パシッ
理亞「っ」ダッ 曜「タッチアップした!」
ルビィ「よしみさん!」
よしみ「え、えい!」スポッ
花丸「あ、あらぬ方向に」
善子「ど、どこ投げてんのよ!」
よしみ「ご、ごめん」
梨子「早く拾って!」
千歌(うぅ、結局犠飛、しかもニ・三塁だよ……)
曜「ワンナウト! 落ち着いていこう!」 柳澤「ナイスラン、マジでパなかった!」
理亞「ありがとう」
理亞「でもらしくないわね」
理亞「貴女がストレートに差し込まれるなんて」
柳澤「いやいや、あのストレートマジパないんだぜ!」
柳澤「スゲエぐわーっと来て、パないわ!」
柳澤「本当にスゲエ、パねえ!」
理亞「相変わらず、語彙力が壊滅的ね……」 『五番ファースト内村さん』
曜「このっ」シュッ
キン!
千歌(三遊間――抜かれた!)
千歌(でも打球強い、二塁ランナーが回ってもホーム刺せる!)
聖良「――」ダッ
善子「三塁蹴った!」
曜「梨子ちゃん、バックホーム!」
梨子「えいっ!」シュッ 千歌「いい球、これなら――」
聖良「――」ギラッ
千歌「っ」
千歌(凄い勢いで、迫ってきて――)
ポロッ
千歌「し、しまった」
セーフ!
内村(よしっ)ダッ
曜「千歌ちゃん、セカンド!」
千歌「えっ」
千歌(投げっ――握り損ねっ)スポッ ルビィ「わっ」
善子「どこ投げてるのよぉ!」
よしみ「あ、フォロー忘れて……」
いつき「誰もいないよっ」
内村「ラッキー!」ダッ
千歌「サード――いやホーム、急いで!」
セーフ!
千歌(ば、バッターまで帰ってきちゃった……)
曜(4−0……)
曜(まともなヒット一つで、4失点……)
曜「くそ――」
曜(いやいや、駄目だよ)
曜(私がキレたら、試合が終わる)
曜(みんな経験もない、実力的にも仕方ない)
曜(勝つためには、私が冷静でいないと) とりあえずこの辺までで
続きは早いうちに投稿できるとは思います 曜ちゃんのストレートは善子ですら取れなかったんだから、速球活かしてアウト狙いにいくのはまず無理か
りこルビ相手なら本気で投げても一応キャッチしてもらえるのかな? そういや監督は選手が兼任してる感じなのかな?
現実の高校野球でもそういうとこたまにあるらしいけど 【4回表】 Aqours0−5Saint Snow
ボール!
善子(よし、これでスリーボール)
善子(この回の先頭で、次は曜さんなんだ)
善子(何とか出塁して繋げないと)
聖良「――」シュッ
善子(際どい)
善子(でも打つより――)
ボールフォア!
善子「よしっ」
曜「よーしこー!」 理亞「ちっ」
理亞(この球審、辛過ぎでしょ)
理亞(この状況じゃ、多少の肩入れしたくなる気持ちは分かるけど)
聖良「理亞、落ち着いて」
理亞「あ、ごめんなさい」
『二番ピッチャー渡辺さん』
曜(初回以降、守備は頑張ってくれてる)
曜(失点も私が普通に打たれただけ)
曜(少なくとも、自責点の分ぐらい取り返さないと) 聖良(曜さん――抑える!)シュッ
曜(昨日の試合から今まで、チームは無安打)
曜(ここで私が――)
曜「流れを――変える!」
カッキ―ン!
理亞「!」
千歌「大きい!」
梨子「いった!?」
ビュッ
花丸「あっ」
ルビィ「でも逆風……」 柳澤「うおっ」パシッ
アウト!
善子「フェンス際……」
曜「あー、広い球場じゃなかったら入ってたのに!」
柳澤「やっぱアイツパねえ!」
柳澤「この風で聖良先輩の球をアレとか、マジリスペクト!」
理亞「助かった……」
聖良「流石曜さんですね」
聖良「あそこまで飛ばされるなんて」
理亞(でもこれで大丈夫)
理亞(一番怖いバッターは切り抜けたんだもの) バッターアウト!
千歌「……私、打撃センスないなぁ」
梨子「仕方ないよ」
梨子「聖良さんは、女子球界全体で考えてもかなりのレベルの投手なんだから」
千歌「うぅ――でも梨子ちゃん、何とか打って!」
梨子「うん、頑張ってみる」
梨子「今日は外野で4番だから、その分の仕事はしなきゃだからね」 『四番レフト桜内さん』
梨子(今日は投げる予定がない分、野手として頑張らないと)
梨子(一応、曜ちゃんの次に打てる可能性がありそうなのは私)
梨子(そして後続は打てる可能性が低い、ここは――)スッ
善子(まあ、それしかないわね)
聖良(梨子さん、昔は決して打撃が苦手な選手ではなかったはず)
聖良(四番を打つぐらいですから、警戒しないと)グッ
善子(!)ダッ
聖良「スチール!?」シュッ
梨子「当たって!」キン! 曜「叩きつけた!」
千歌「ショート深い、これなら余裕で内野安打――」
間宮「しゃっ」パッ――ビュッ
アウト!
千歌「う、うそぉ」
むつ「あ、あの打球で一塁刺すなんて……」
いつき「す、凄い」
よしみ「曜や、音ノ木の板本さんみたい」
ルビィ(……たぶんその2人でもあの打球をアウトにするのは難しい)
ルビィ(あの人、一年生なのに守備だけならトップクラスなのかも……) 【5回裏】 Aqours0−5Saint Snow
千歌(気づけば5回裏)
千歌(何とか守備は建て直し、踏ん張ってきた)
千歌(でも流石は速球に強いと評判のSaint Snow)
千歌(序盤のドタバタ劇のせいか疲れが出てきた曜ちゃんをついに捕らえて――)
カキーン!
曜「くっ」
ルビィ「ピギィ!」
花丸「これで二連打」
善子「無死一・ニ塁……」 『六番サード松尾さん』
曜(ストレート、球威が落ちてきてる)
曜(カーブをもっと使っていかないと、抑えられない)
曜(本当は使いたくないけど、一応サインを出して投げれば――)シュッ
千歌「カーブ……」
バンッ
曜「しまった、バウンドさせて――」
千歌「あぅ」ポロッ
曜(……そう、なるよね)
千歌「ごめん、二人とも進塁しちゃった」
曜「私こそ、ちょっと軽率だった」 ボールフォア!
曜(駄目だ、動揺してる)
曜(気持ち、立て直さないと)
曜(これ以上の失点は致命傷になる)
千歌(どうしよう、あと二点で7回コールド圏内)
千歌(それどころか、5回コールドだって……)
善子「満塁……」
ルビィ「ぴ、ぴぃ」フラフラ
花丸「る、ルビィちゃん、落ち着いて!」 『七番ライト下林さん』
曜(カーブは危ない)
曜(千歌ちゃん、まだ変化球の捕球には慣れてないもの)
曜(けど、ストレートだけだと……)
曜(このクラス相手だと――)シュッ
カキーン!
曜「センター!」
曜(駄目か、これじゃ犠飛に――)
いつき「こ、これは無理っ」
曜「ツーベース……」
曜(ただのセンターフライでしょ)
曜(普通の経験者なら、誰でも取れるような)
千歌「走者一掃で、0対8……」 『八番レフト江戸川さん』
曜「このやろっ」シュッ
カキン!
曜「ルビィちゃん!」
ルビィ「あっ」ポロッ
曜(今度はエラー……)
ルビィ「す、すみません」
曜「ドンマイ」
曜(ルビィちゃん、もう頼りにならないモードになってる)
曜(過剰に信頼しちゃ駄目だ) 『九番セカンド牧田さん』
曜(けどここは併殺が欲しい)
曜(スライダーでタイミングを外そう)
曜(私のスライダーを相手は想定してないはずから、上手くいくはず)シュッ
カツン
牧田「しまったっ」
曜(ショートゴロ、これなら――)
善子「やばっ」イレギュラー
曜「っ」 千歌「ファースト、間に合う!」
善子「花丸!」シュッ
花丸「あ、あれっ」ポロッ
曜「はい!?」
千歌(な、なんでもない送球を……)
曜「っ〜〜〜〜〜〜〜」バンッ
千歌(ぐ、グラブを叩きつけた)
千歌「よ、曜ちゃん、落ち着いて」
曜「分かってる、分かってるよ!」 曜(駄目だ、打たせちゃ)
曜(今は自分以外信用しちゃいけない)
曜(三振、三振を取らなきゃ)
理亞「くっ」
バッターアウト!
間宮「どうした」
理亞「ここへきて、また速くなってる」
間宮「マジか」
バッターアウト!
間宮「確かに、これは凄いな」 理亞「けど、この二打席で分かったわ――姉さま!」
聖良「どうしたの、理亞」
理亞「たぶん、渡辺曜が投げる球は――」
『三番ピッチャー鹿角聖良さん』
曜(ツーアウト)
曜(次の回はルビィちゃん、善子ちゃんに回る)
曜(二人が出て、私が打てばまだ試合は分からない)
曜「ここを、三振で切り抜けられれば!」シュッ
カッキ――――ン!
曜「あっ……」 千歌「ほ、ホームラン」
ルビィ「11、点目」
花丸「コールド負け……」
善子「あの曜さんが、そんな……」
聖良「くすっ」
聖良「確かに理亞の言うとおり、三振を狙った高めのストレートのみ」
聖良「分かりやすいですね、曜さんは」
【試合終了】 Aqours0−11Saint Snow (5回コールド) ―グラウンド外―
曜「くそっ」バンッ
曜「ああもう!」バンッ
ルビィ「ぴ、ぴぃ」
善子「よ、曜さん、落ち着いて」
曜「落ち着いてるよ!」
善子「だ、駄目よ、ユニフォームとか、色々叩きつけたりしたら」
梨子「そうよ、暴れる時も利き手には注意しないと」
むつ「梨子ちゃん、そこじゃないよっ」 花丸「ごめんなさい、マルがエラーばっかりするから……」
ルビィ「る、ルビィも……」
よしみ「それは、私たちもだし」
いつき「うん……」
千歌「そう、だよね」
千歌(怒るのも無理ない)
千歌(今日のは、いくらなんでも酷過ぎた)
千歌(記録に残らないエラーも含めれば、余裕で二桁に達する)
千歌(これじゃあ、野球にならない) 聖良「あの、すみません」
千歌「聖良さんと――理亞ちゃん」
理亞「ほら言ったでしょ」
理亞「あなた達を粉砕するって、宣言どおり」
曜「はっ!?」
曜「理亞ちゃんだっけ? 君無安打でしょ」
曜「なに偉そうに言ってるのさ!」
理亞「ひっ」
善子「なんでビビってるのに毎回煽るのよ……」
花丸「もう性分なんだよ……」 千歌「あの、なにかご用ですか?」
千歌「たいしたことじゃなければ、後にしてもらいたいんですけど」
千歌「見てのとおり、曜ちゃんがあんな感じなので……」
聖良「いや、用事があるのは私ではなくて」
理亞「私よ」
善子「なによ、今充分に煽ったでしょ」
理亞「違うわよ、それとは別件」
理亞「そこの主将さんに話があるの」
千歌「えっ、私?」 理亞「高海千歌」
千歌「は、はい」
理亞「あなた、キャッチャーのことを馬鹿にしてるでしょ」
千歌「そ、そんなこと」
理亞「確かにストライクゾーンのキャッチングは上手」
理亞「でもそれ以外は落第、最悪」
理亞「枠に来たボールを捕れればいいと思っているようにしか見えない」
理亞「存在自体が、ポジションへの冒涜よ」
善子「ちょっと、そこまで言わなくても」 理亞「でもそうでしょ」
理亞「例えばこの二試合、投手はバウンドするようなボールをまともに投げられていない」
理亞「そのせいで、変化球自体も少なくなってる」
理亞「桜内梨子なんて、ほぼ変化球中心じゃなきゃいけない技巧派の投手なのに」
千歌「そ、それは」
理亞「私たちが渡辺曜を打ち込めたのもそうよ」
理亞「貴女が信頼されずに、カーブを有効活用できていないから」
理亞「基本的にストレートしか来ないと分かってたら、そりゃ打つわよ」
理亞「姉さまがホームランを打った場面もそうだったでしょ」 理亞「しかもなに、打たれた後」
理亞「ほとんど励ましにも行かず、毎回投手よりもオロオロして」
千歌「っ」
理亞「貴女、才能ないのよ」
理亞「センスも、頭も、それを補おうとする気概も」
理亞「どんなことがあっても、私以上になることは絶対にありえない」
理亞「二流止まりが精々でしょ」
千歌「……」 理亞「そもそも舐めてるのよ」
理亞「9人ギリギリ、お遊戯会みたいな面子で乗り込んできて」
理亞「負けて当然、そんな感じでヘラヘラと野球をしてる連中を見ると、本当に腹が立つ」
理亞「馬鹿にしないで」
理亞「野球は、キャッチャーは遊びじゃない!」
曜「お前、それ以上は!」
聖良「理亞!」
理亞『ビクッ』
聖良「ごめんなさい」
聖良「この子、昔から口が悪くて」
曜「そういう問題じゃ――」 聖良「でもそれだけ、真剣に野球をしているんです」
聖良「真摯に、野球に向き合っているんです」
聖良「私は野球を辞めろとは、大会に出るなとは言いません」
聖良「けど皆さん、大きな舞台を目指すのは諦めた方がいいかもしれませんね」
聖良「そこを本気で目指している人が、どれほどいるかも分かりませんが」
曜「っ」
聖良「厳しい言い方をしましたが、今年度創部でここまでに仕上げたのは見事だと思います」
聖良「私はその意味ではあなた方をリスペクトしている」
聖良「それは、忘れないでください」 >>609
>>611
予告されてしまいましたね笑
>>613
投球と送球は別物なので、善子ちゃんも送球なら問題なく捕球できます
そもそも捕手として捕球できなかったのは、曜ちゃんのストレートのスピードを想定していなかったのも大きいので
曜ちゃんが全力で投げた送球を取れるのは、よしりこちかルビの4人
あと一応、花丸ちゃんも捕ることはできます(それなりにこぼしますが)
>>614
浦の星以外、監督は存在します(音ノ木坂はこころが実質監督なのでお飾りですが)
描写がないのは尺を長くしたくないのと、オリキャラを余計に増やしたくないので
現時点の浦の星のみ、監督はいません
指示やサイン等は基本千歌ちゃん、あとは各々も簡単なサインを状況に応じて出し合う感じです 乙
徹底した対策をされてきたからこの結果もやむなしだな
曜ちゃんも100%の実力発揮出なきゃ強豪校相手にはキツイわな 三年生の性能と初心者組の伸びしろかな
わかってるのは果南がノーコンだけど強肩ってことだよね?
アメリカ帰りであろう鞠莉が強打者ムーブするか否か、も気になる ダイヤも昔やってて今も練習は続けてるからスペックは高そう
あとは守備練習をしないとね 孤軍奮闘の曜ちゃん…
好きだから頑張れ!
みんなは守備猛特訓しなさい(プンスカ) おお、上手くアニメの話と絡めてきたなあ…
理亞「野球は、遊びじゃない!」みたいなw
運動神経抜群の理亞が捕手というのも何かもったいない気もしたが、一流の投手である聖良さんと姉妹で息が合うなら当然か
曜ちゃんがイライラするのはスポーツ選手なら当たり前だな
ここから特訓が始まるのかな…合宿かな たしかに理亜捕手は勿体ない気もするけど、フライに物凄い飛びつき方するキャッチャーもたまにいるし
いずれアクロバティックが活きるシーンもあればいいね 能力値はDで平均ぐらい?
だったらよしルビあたりでも強豪校相手だとキツいか 板本や柳澤あたりの代表クラスは能力値C〜Aぐらいなのかな 合宿するにしても特訓するにしてもちゃんとした指導者が欲しいよな
そこはダイヤちゃんが担ってくれそうだけど ―宿舎―
千歌「みんな、お疲れ様」
ルビィ「はい……」
花丸「ずら……」
梨子「……」
善子「……」
よしみ「……」
いつき「……」
むつ「……」 千歌(流石に全員、落ち込んでる)
千歌(無理ないよね、酷い負け方をして、あんなことまで言われて)
千歌(私も、あんな言われ方――)
千歌「っ」グッ
梨子「……ねえ、千歌ちゃん」
千歌「し、仕方ないよ」
千歌「まだ私たちは始めたばっかりだし、こんな結果になっても」
梨子「千歌ちゃん……」
千歌「帰って練習しよう」
千歌「そしてまた、一から頑張ろう」
ルビィ「うゅ……」
梨子「そう、よね」 千歌「一応、今日の分までは部屋取ってあるから、泊まっていいって」
千歌「明日はさ、みんなで観光とかしに行こうよ」
千歌「そうすれば、少しは気が晴れるよ、きっと」
梨子「でも、曜ちゃんが……」
千歌「それは」
善子「曜さん、部屋に籠ったままなのよね」
花丸「やっぱりまだ、怒ってるのかな」
ルビィ「分からない」
ルビィ「だけど、本当に悔しかったんだと思う」
ルビィ「それだけは、分かるよ」 千歌「とりあえず、私が様子見てくる」
千歌「もし今の状態が明日まで続くようなら、一緒にいる」
千歌「みんなは普通に観光してきなよ」
ルビィ「でも……」
千歌「曜ちゃんと同部屋なのは私でしょ」
千歌「たぶん一番仲が良いのも私」
千歌「それに一応、曜ちゃんの女房役だし」
千歌「それぐらいは、ね」 梨子「……そうね」
梨子「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら」
善子「ちょ、ちょっと」
梨子「いいから」
梨子「みんなは、私が東京を案内してあげるわよ」
よしみ「ごめん、私たちは朝には帰るよ」
いつき「三人とも家の用事があるからさ」
むつ「だからみんなは楽しんできて」
梨子「そ、そう?」
ルビィ「……」
花丸「……」 トントン
千歌「曜ちゃん、調子どう?」
ガチャ
曜「ごめん、寝てた」
千歌「もう、大丈夫?」
曜「うん」
千歌「今日はごめんね、私たちが足引っ張っちゃって」
千歌「あれは怒るのも無理ないよね」 曜「違うよ、私はみんなに怒っていたわけじゃない」
千歌「えっ?」
曜「言い方は悪いけど、エラーとかはある程度は想定してた」
曜「怒りは、それでも勝てると過信していた私自身へのもの」
曜「あの子の言うとおり、ちょっと馬鹿にしてたかも、野球を」
千歌「曜ちゃん……」
千歌(顔、泣いた痕が残ってる)
千歌(それを見せたくなくて、部屋に残ってたのかな) 曜「どうしたの?」
千歌「その、顔……」
曜「あっ――顔洗うの忘れた」
千歌「やっぱり、泣いてたの」
曜「まあ、悔し泣き」
曜「あとまだ少し、荒れてた」
千歌「そ、そっか」 曜「千歌ちゃんだって、悔しかったでしょ」
曜「試合に負けたこと、色々言われたこと」
千歌「そりゃ、まあね」
千歌「負けたのは仕方ないけど、言われたことはちょっと」
曜「……」
千歌「あのね、一応もう一日泊まってもいいんだって」
千歌「だから明日さ、みんなで東京観光しないかって――」
曜「ねえ」
千歌「ど、どうしたの」 曜「私たちだけでも、明日の試合を観に行こう」
千歌「曜ちゃん?」
曜「音ノ木坂と、聖泉女子の試合」
曜「見なきゃ駄目だと思う。この先の現実も、しっかりと」
曜「そうしないと、先へ進めないよ」
曜「日本一は、狙えないよ」
千歌「それは……」
千歌(正直、気が進まない)
千歌(でも、曜ちゃんがそれで満足するなら――)
千歌「分かった、いいよ」
千歌「行こう、試合を観に」 ―翌日・神宮外苑―
善子「こ、これは!?」
ガシャン――シュッ
善子「ス○ノ、オ○ワ、ノリ○ト……各球団のエースがびっしり」
梨子「どうかしら、これが都会のバッティングセンター」
梨子「いえ、バッティ○グドームよ!」
善子「ドーム――か、カッコいい……」
梨子「もちろんピッチングに、卓球まであるわ!」
善子「おぉ!」 梨子「この後は水道橋の野球殿○博物館、それが終わったら秋葉原に直行よ!」
善子「秋葉原、堕天使グッズまで買える……」
善子「最高よ、貴女は最高よ!」
善子「ぜひリリーと呼ばせて!」
梨子「そ、それはちょっと恥ずかしいかな」
善子「ちょ、急に素に戻らないでよリリー!」
梨子「あっ、結局呼ぶのね」 花丸「二人とも楽しそうだね」
ルビィ「う、うん」
花丸「よかった、元気になって」
ルビィ「そうだね」
花丸「でもここ、本当に凄い設備」
花丸「こんなに近代的な設備――まさに未来ずら〜」
ルビィ「あはは」
ルビィ「花丸ちゃんも、楽しそうだね」 花丸「ルビィちゃん、楽しめてない?」
ルビィ「ううん、そんなことはない」
ルビィ「でもね、近くに神宮があるとどうしても思い出しちゃう」
ルビィ「もしかしたら、あそこへ行けるのかな」
ルビィ「一番上の舞台まで勝ち進んだら、さらにドームまで……」
ルビィ「そんな風に夢を見ていた、ここに来る前の自分のこと」
ルビィ「恥ずかしいよね、本当に」
ルビィ「昨日、あそこまではっきり言われても、仕方ないぐらい」
花丸「ルビィちゃん……」 善子「ちょっと、何を辛気臭い話してるのよ」
花丸「辛気臭いって」
善子「今はそれを忘れて、楽しむときでしょ」
ルビィ「そうだけど……」
善子「私だって、辛いわよ」
善子「反省しなきゃいけないこともたくさんある」
善子「でも今はその時じゃない」
善子「今後の為に必要なエネルギーを養うときでしょ」
善子「とにかく、馬鹿みたいにはしゃぎましょうよ」
花丸「……うん」
ルビィ「そ、そうだね」 善子「じゃあ早速打ちましょう」
善子「本物の投手と対戦できるみたいで凄いわよ!」
花丸「あはは」
ルビィ「善子ちゃん、子どもみたい」
善子「とりあえず私はスガ○に――」
梨子「ごめんなさい、そこは私の打席よ」
善子「じゃあオガ○――」
花丸「面白いフォーム、未来ずら〜」
善子「ノ○モト――」
ルビィ「うゅ!」
善子「な、なんでよ〜」 ―某球場―
曜「開始前に間に合ったね」
千歌「うん」
曜「なんか変な感じ」
曜「昨日まであそこで試合してたなんて」
千歌「確かにね」
曜「それで、待ち合わせはどの辺の席だっけ――」 ダイヤ「お二人ともここですわ」
千歌「あっ、ダイヤさん」
曜「おぉ、バックネット裏特等席……」
ダイヤ「流石に女子の春季大会では人も少ないですからね」
ダイヤ「朝一番に来れば、余裕で座ることができました」
ダイヤ「しっかり三人分確保してあります」
曜「第一試合から見ていたんですか?」
ダイヤ「もちろん」
曜「本当に好きなんですね、野球」
ダイヤ「そりゃもう、私の生き甲斐ですからね」 こころ「あら、曜さん」
板本「おっ、本当だ――おーい」
曜「こころちゃん、板ちゃんも」
曜「すいません、ちょっと行ってきます」
ダイヤ「はい、私のことは気になさらず」
板本「おっ、11失点投手が来たぞ」
曜「あー、言ったなぁ〜」
こころ「全く、相変わらず落ち着きのない……」 ダイヤ「千歌さんは行かなくてもいいのですか」
千歌「いやぁ、私はちょっと」
ダイヤ「まあ、仕方ないでしょう」
ダイヤ「あの三人は、μ’sとA-RISE効果で競技人口が増えた世代」
ダイヤ「その中でもトップ、つまり将来日本の女子野球界を背負う存在」
ダイヤ「気後れしてしまう気持ちも分かりますわ」
千歌「そうですよね」
千歌「私には関係のない、想像もつかないような世界の人たち」
ダイヤ「…………」 千歌「ダイヤさん、私たちの試合は観に来なかったんですか」
ダイヤ「いえ、もちろんいました」
ダイヤ「見守ってきたチームの、妹の晴れ舞台ですから」
ダイヤ「ただ、声をかけるタイミングを逃して」
ダイヤ「というか、正直に言えば雰囲気的にはばかられて……」
千歌「あはは、昨日はあんな感じでしたし」
ダイヤ「曜さん、割と温厚なイメージでしたが、あんな風に怒りを表に出すのですね」
千歌「私もあそこまで怒った曜ちゃんは初めて見たかもです」
ダイヤ「それだけ負けず嫌い、勝ちへの執念が強いということでしょうか」
千歌「勝ちへの、執念」 曜「すいません、お待たせしました」
ダイヤ「あら、話はもういいのですか?」
曜「練習中にあんまり話してるわけにもいかないので」
ダイヤ「それもそうですわね」
曜「散々煽られちゃいましたよー」
曜「昨日の投球は酷かったんで、仕方ないですけど」
ダイヤ「あら、それなのによく大人しくしていられましたわね」
ダイヤ「昨日の様子だと、怒り狂ってそうですのに」
曜「うっ、昨日の今日だと否定しずらい」 千歌(曜ちゃんとダイヤさん、楽しそうだな)
千歌(でも、私はグラウンドから目が離せない)
千歌(客観的に、この場所から練習を見ればわかる)
千歌(そこにいるのは、まるで別世界の人たち)
千歌(そりゃ勝てないよね、勝てるわけない)
千歌(昨日、改めてスコアブックを見た時の数字が忘れられない)
『0勝、0得点、0安打』 千歌(途方もない差を象徴するように並ぶ、0)
千歌(嫌でも見せつけられる、現実の数字)
千歌(鹿角姉妹が言っていたように、諦めた方がいいんだろうな)
千歌(全国とか、優勝とか、夢みたいな話は)
千歌(でもいいよね)
千歌(私は野球をしてたかっただけ)
千歌(μ'sみたいに、グラウンドで輝くために)
千歌(その輝きは、別に大舞台じゃなくても、手に入る――はず)
千歌(身の丈に合った世界で楽しめれば、それでいいんだ)
曜「……」 ―東京某駅―
『まもなく○○番線に〜』
千歌「あー、待ち合わせ時間過ぎちゃった」
ダイヤ「楽しんでいるのでしょう、いいことではありませんか」
ダイヤ「楽しむ気力があるなら、まだ安心できます」
千歌「そっか、それもそうですね」
曜「あっ、噂をしたら来たかも」 梨子「ごめん2人とも、遅れちゃって――」
善子「あっ」
花丸「ダイヤ、さん」
ダイヤ「みなさん、お疲れ様でした」
梨子「来てくれていたんですが」
ダイヤ「ええ」
花丸「じゃあ、試合も」
ダイヤ「もちろん見ていました」 ルビィ「お姉、ちゃん」
ダイヤ「ルビィ」
ルビィ「あ、あの」
ダイヤ「いいのです、言葉にしなくても」
ルビィ「う、うぅ」
ダイヤ「私は、分かっていますから」
ルビィ「ううぅ――」ダキッ
ダイヤ「よく、頑張りましたね」
ルビィ「うわぁぁ――ん」
花丸「ルビィちゃん……」
善子「ルビィ……」
千歌「……」
梨子「……」 ―沼津・渡辺家―
曜「すみません、わざわざ送ってもらっちゃって」
美渡「ううん、気にしないで」
美渡「ついでだから、このぐらい大丈夫よ」
千歌「じゃあね曜ちゃん、また学校で――」
曜「あの、少し千歌ちゃんと二人で話してもいいですか」
千歌「曜ちゃん?」
美渡「大事な話?」
曜「はい」
美渡「分かった、じゃあ車で待ってるわね」
バタン 千歌「曜ちゃん、話って――」
曜「夏の予選まで、あと二か月と少しぐらいだね」
千歌「あっ、もうそんなに近いんだっけ」
曜「勝ちたいよね」
曜「勝って、今度こそ音ノ木坂や聖泉女子にリベンジしなきゃ」
千歌「いやぁ、でも流石に厳しいよ」
千歌「とりあえず、今年はそこそこ勝ち進む感じでさ」
千歌「来年地区の決勝を目指すとか、それぐらいが現実的じゃない?」
曜「……千歌ちゃん」 千歌「流石にさ、今回で思い知ったよ」
千歌「非現実的な理想を掲げても、無謀だって――
曜「ねえ、千歌ちゃん」
曜「悔しくないの?」
千歌「えっ」
曜「千歌ちゃんは、悔しくないの?」
千歌「え、いや、そりゃ悔しいけど、仕方ない部分は――」
曜「仕方ない!?」
千歌「っ」ビクッ 曜「私たち、負けたんだよ」
曜「その上で理亞って子にあんなこと言われて、何でそんな態度でいられるの」
曜「ゼロ、ゼロ、ゼロ――これが私たちの現実だよ」
曜「私は悔しい、悔しいよ」
曜「勝てなかった、手も足も出なかった」
曜「それどころかヒットすら打てずに、試合後には馬鹿にされて」
曜「それなのに千歌ちゃんは、全然悔しそうに見えない」
千歌「そ、そんなこと」
曜「あるでしょ」
曜「次は勝とう、リベンジしよう、そんな言葉も、態度も千歌ちゃんからは出てこない」
曜「それどころか、先に進むことを諦めてしまっているみたい」
千歌「それは……」 曜「ずっと違和感はあった」
曜「私が目指している舞台と、千歌ちゃんが目指している舞台」
曜「同じようで、どこか違う感じがして」
曜「でも一緒に野球をやりたいから、気づいても直視しないようにしてた」
曜「けどね大会中やその後、千歌ちゃんの態度を見て確信しちゃったんだ」
曜「そこには、大きなギャップがある」
曜「私と千歌ちゃんは、相いれない存在なんじゃないかって」
千歌「曜ちゃん?」 曜「ごめん、私は明日から練習行かない」
千歌「えっ」
曜「しばらく、部活は休むよ」
千歌「そ、それはあれだよね」
千歌「ちょっと疲れたから休むとか、そんな感じの」
曜「……どうかな」
曜「少し考えないと、分からない」
千歌「よ、曜ちゃん?」
曜「……ごめん」ダッ 千歌「ちょ、ちょっと待って!」
ガチャン
千歌「曜ちゃん、曜ちゃん!?」
曜『悪いけど、帰って』
千歌「えっ……」
曜『今は千歌ちゃんと話したくない』
曜『落ち着いたら、ちゃんと話すから』
千歌「曜ちゃん……」 ―浦の星女学院・グラウンド―
善子「ちょっと、本当にやるの」
花丸「うん」
善子「でも、こんな時間にノックなんて」
善子「いくら照明があっても、疲れてるし」
花丸「いいからっ!」
善子「花丸、無理は駄目よ」
善子「怪我したら、どうしようもないわよ」 花丸「無理、しなきゃなんだよ」
花丸「マルは今までずっと、みんなの足を引っ張ってきた」
花丸「一番下手なのは、一番足を引っ張っているのは、間違いなくマル」
花丸「助っ人の三人よりも、ずっと下手なんだ」
花丸「今回の大会だってそう」
花丸「あんなにポロポロエラーしなきゃ、曜ちゃんが怒ることもなかった」
花丸「みんなだって、あんなに落ち込むことはなかった」
花丸「それに、ルビィちゃんが泣くことも……」 花丸「マルの所為で、チームが滅茶苦茶になってる」
花丸「みんなは初心者だから仕方ないって言ってくれる」
花丸「けどそれに甘えてちゃ駄目なんだ」
花丸「もうあんな思い、絶対にしたくない」
花丸「だから、だからっ――」
善子「分かった、分かったから」
善子「でもこの時間は本当に危ないわ」
善子「せめて素振りとかランニングとか、ボールを使わない事をしましょう」 花丸「でも――」
善子「いいからっ」
善子「あんたが怪我したら、またルビィは落ち込むわよ」
善子「あの子の事だから、きっとあんたの怪我も自分の所為だって抱えこむ」
善子「それでもいいの?」
善子「よくないでしょ」
花丸「それは……」 善子「守備はちゃんと人数が揃ってる時に、みんなと一緒にやればいい」
善子「普通の練習以外にもルビィにも声をかけて、明るい時間に三人で自主練すればいいでしょ」
善子「その方が効率もいいし、みんな練習にもなる」
花丸「う、うん」
善子「大丈夫、とことん付き合うわよ」
善子「私たちはまだ一年生」
善子「ちゃんと練習すれば、じきに上手くなるはずよ」
善子「焦る気持ちも分かるけど、少しずつ、一緒に頑張っていきましょう」
花丸「善子ちゃん……ありがとう」
善子「えっ、えっと――ヨハネよ」 ―黒澤家―
ルビィ「…………」
ダイヤ「ルビィ、早く寝なさい」
ダイヤ「疲れを取るのも、アスリートには大切なことですわよ」
ルビィ「……うん」 ダイヤ「やはり、試合のショックは大きいのですか」
ダイヤ「初公式戦があれでは、無理もありませんが――」
ルビィ「ううん、違うの」
ルビィ「考えてるのは、別のこと」
ダイヤ「別の?」
ルビィ「曜さんね、野球部を辞めちゃうかもしれない」
ダイヤ「曜さんが?」
ルビィ「うん」 ダイヤ「なぜ、そう思ったのですか」
ルビィ「……ずっとね、違うと思ってた」
ルビィ「他の皆と、見ている世界が、目指している場所が」
ルビィ「どこか噛みあわない部分があったの」
ルビィ「常に、どんな相手でも勝利を目指す曜さんと、他のみんな」
ルビィ「東京の大会、曜さんは全部勝つつもりで戦ってた」
ルビィ「けど他のみんなは、千歌さんは、最初から勝ちなんて考えてもなくて」
ルビィ「何とか善戦できればいい、楽しめればいいって」
ルビィ「それが、当たり前なんだけどね」 ルビィ「たぶんね、曜さんは耐えられない」
ルビィ「Aqoursの野球と、自分がやってきた野球とのギャップに」
ルビィ「でもね、それが分かっているのに、ルビィは何もできない」
ルビィ「曜さんの助けにも、千歌さんの助けにもなれない」
ルビィ「大切なチームの崩壊を、止められないの」
ダイヤ「そうですか……」
ダイヤ(それを感じ取れる)
ダイヤ(それはつまり、あなたも曜さんと同じ世界を垣間見ていたということ)
ダイヤ(恐らく、自分では気づいてはいないのでしょうが) ダイヤ「大丈夫です、私が何とかします」
ダイヤ「時間はかかるかもしれませんが、任せてください」
ルビィ「本当?」
ダイヤ「ええ」
ダイヤ「今までも、私はそうやって貴女を助けてきたでしょう」
ダイヤ「私を信じなさい」
ルビィ「……うん!」
ダイヤ「では早く休みなさい」
ダイヤ「明日からまた、部活は始まるのでしょう」
ルビィ「ありがとう、お姉ちゃん」タッタッタッ
ダイヤ(どうやら早急に、動き出さなければいけないようですね)
ダイヤ(もう悠長なことは言っていられません)
ダイヤ(問題は、野球部だけの事ではありませんから)ピラッ
【浦の星女学院、統廃合についてのお知らせ】 続きは今日の夜か明日に
次の投稿文でとりあえず一区切りになります
>>649
特殊能力などを考慮しなければ
強豪校:平均D〜C
全国出場校:平均ほぼD
中堅校:平均E〜D(全体平均はここ)
ぐらいのイメージです
プロ選手で最低平均Cプラス特殊能力ぐらい(偏った能力の選手など例外はあり)
さらに状況により、その能力を常に発揮できるわけでもありません
分かりやすい例では春大会の場合、
Aqoursは経験不足の影響で、ゲーム的に表現すればようりこ以外は全員不調状態と考えてください
>>651
対戦相手の能力については、次回投稿後に補足でつけますので詳細はそちらを 乙
これは遅かれ早かれ避けられなかったら崩壊だな…
どう立て直すか… 乙。ここまで言われたら千歌ちゃん
「……曜ちゃんと野球やるの、息苦しいよ」
みたいなこと言いそうだな 基本的なプロットはアニメ通りなのに違和感がないように野球に置き換えてるのがいいね ―某グラウンド―
コーチ「ラスト!」キンッ
曜「やっ」パシッ――シュッ
選手A「いいね!」パシッ
コーチ「OK、上がっていいわよ!」
曜「はい!」 曜「はぁ、疲れたぁ」
選手B「お疲れさん」
選手C「相変わらずいい動きしてるわね〜」
曜「ありがとうございます」
選手B「今日はどうしたの、部活は休みとか?」
曜「まあそんな感じです」
選手C「あれ、そうなんだ」
選手C「私はてっきり、チームに戻ってきたのかと」 選手B「いやいや、流石に早いって」
選手B「少し心配ではあったけど、上手くやってんだろ」
曜「あはは、それなりに」
選手C「えー、期待して損したわ」
選手C「戦力的には曜ちゃんが居るといないじゃ大違いなのに」
選手B「まあ、帰ってきたかったらいつでも待ってるから」
曜「ありがとうございます」
曜「じゃあ私はこの辺で」
選手C「はーい」
選手B「お疲れさん〜」 曜(……戻ってくると、安心するな)
曜(部活の練習を休むようになって数日)
曜(身体がなまらないように、監督に頼んでクラブチームの練習に混ぜてもらって)
曜(正直、物足りなさのあった部活より、しっくりくる)
善子母「渡辺さん」
曜「あっ、どうも」
善子母「大会、残念だったわね」
曜「……そうですね」 善子母「思ったより頑張ったんじゃないかしら」
善子母「二戦目はともかく、一戦目はコールド回避できるなんて驚いたわ」
曜「いや、勝てなかったし、負けは負けなんで」
善子母「勝つ?」
善子母「あの面子じゃ、それは絶対無理だわ」
曜「……」
善子母「気持ちは分からなくはないわよ」
善子母「貴女は今まで、困難な状況を何度も覆してきた」
善子母「その成功体験があるから、何とかなる気はしたんでしょ」 善子母「でもね、それは渡辺さん一人の力じゃない」
善子母「貴女よりは影響力は少なくても、微力ながらチームメイトの力もあってこそ」
善子母「あそこじゃ、浦の星じゃそれすら望めないもの」
曜「否定はできませんよ」
曜「たぶん、コーチの言うとおりでしょうから」
善子母「えらい素直になったわね」
善子母「よほどショックだったのかしら」 曜「誰の所為だと――」
善子母「そうね、ごめんなさい」
善子母「こうなると分かっていてそそのかしたのは私」
善子母「指導者――大人としてその点は謝るわ」
曜「コーチ……」
善子母「それで、戻ってくる気になったの?」
曜「こうなることまで、分かっていたんですか?」
善子母「そりゃね」
善子母「貴女が求める野球があそこにはないことは知っていたから」 善子母「早速練習に出る?」
曜「少し、考えさせてください」
善子母「分かったわ」
善子母「満足いくまで、ゆっくり考えなさい」
曜「ありがとうございます」
善子母「一応、理解してるわよね」
善子母「私が何度失礼な態度を取られてもあなたにやさしいのは、特別な才能を持っているからだって」
曜「ええ」
善子母「特別な才能を持つ人は、特別な場所で輝かなければいけない義務があるのよ」
善子母「それだけはちゃんと、理解しておいて」 ―帰路―
曜「はぁ」
曜(ずっと千歌ちゃんと一緒に野球をやりたいと思ってた)
曜(それができれば、満足だって思ってた)
曜(でも、自分の本能的な部分がそれを否定する)
曜(勝ちたい、負けたくない)
曜(その為には、千歌ちゃんと一緒に野球をやっていたら駄目)
曜(矛盾した二つの感情に、心を乱される)
曜(浦の星で野球部を始めたのは千歌ちゃん)
曜(千歌ちゃんが望まないなら、私は無理やり自分の考えを押し通すことはできない)
曜(あの場所にいることは、出来ない) ダイヤ「曜さん」
曜「へっ」
ダイヤ「練習、お疲れ様です」
曜「どうして、こんなところに」
ダイヤ「貴女を待っていたのです」
果南「少し、話があるからさ」
曜「果南ちゃんまで……」 ダイヤ「少し時間よろしいですか」
曜「えっと、その話で?」
ダイヤ「はい」
曜「サボりのお説教とかだったらまた今度に――」
果南「違うよ」
曜「違う?」
ダイヤ「今後の、浦の星についてです」
ダイヤ「野球部、そして学校全体について」
曜「は、はぁ」 ―同刻・内浦海岸沿い―
千歌「はぁ」
千歌(気まずいなぁ、練習に出るのも)
千歌(曜ちゃんの件、ちゃんと説明ができていないまま)
千歌(みんな明らかに不審に思っているのに、適当に誤魔化して)
千歌(でも私も話せていないんだから、どうしようも―― ??「ハァイ」
千歌「へっ」
??「あなた、高海千歌よね」
千歌「そ、そうですけど」
千歌(何この金髪の人)
千歌(喋り方も含めて、怪しい雰囲気がプンプンする)
千歌(一応、外国人ではなさそうだけど) 千歌「あの、私に何か?」
??「ええ、そうなの」
??「今、時間あるかしら」
千歌「えっと、時間――」
千歌(ど、どこかに連れ去られるとか)
千歌(逃げた方がいいのかな)
??「その様子だと問題なさそうね」
??「では来てもらいましょうか」グィ
千歌「へっ、ちょっとなにを――」 ―浦の星女学院・野球部部室―
千歌「えっと……、部室?」
??「連れてきたわよ!」
ダイヤ「鞠莉さん、いらっしゃい」
千歌「ダイヤさん、この人知り合いですか?」
ダイヤ「……その反応、説明さえしてなさそうですね」
鞠莉「あー、忘れてた」テヘペロ
果南「相変わらずだね、鞠莉は」
鞠莉「あら果南、シャイニー!」ハグ
果南「おー、よしよし」ハグ 千歌「あのぉ」
ダイヤ「すみません、いつもこの二人はこんな感じでして」
千歌「あはは、仲良いんですね」
ダイヤ「ええ、私も含めて幼馴染ですので」
千歌「へぇ」
千歌(面識なかったけど、果南ちゃんは他にも幼馴染がいたんだな)
ダイヤ「今さらですが紹介します」
ダイヤ「この方は浦の星の新理事長で、アメリカへ野球留学をしていた小原鞠莉さん」
鞠莉「よろしくね〜」 善子「ちょ、ちょっと待って」
花丸「理事長って、どういうことずら?」
鞠莉「そのままの意味よ」
梨子「ダイヤさんたちと同い年、なんですよね」
鞠莉「ええ、だから生徒も兼任の理事長」
善子「そんなの聞いたことないわよ」
花丸「ずら」 ルビィ「え、えっとね」
ルビィ「鞠莉ちゃん、世界的にも有名な大企業のお嬢様だから」
善子「お嬢様」
花丸「それは未来ずらね〜」
梨子(何が未来なんだろう)
ルビィ「確か浦の星の経営にもかかわってるから、そんなにおかしい話ではないのかも」
ルビィ「元々、何でもありの変な人だし」ボソッ 鞠莉「あらルビィ、ずいぶん立派になったわね」ハグっ
ルビィ「ピギッ」
鞠莉「色々と成長して――小さいのは変わらないけど」ワシワシ
ルビィ「ピ、ピィ―――――」ダッ
ルビィ「マルちゃ〜〜〜〜ん」ダキッ
花丸「おー、よしよし、怖かったねぇ」ナデナデ
ダイヤ「鞠莉さん、妹をからかうのもほどほどにしてくださいまし」
鞠莉「ごめんごめん、可愛いからつい」 ダイヤ「まあとにかく、全員揃いましたわね」
花丸「あの、曜さんは?」
ダイヤ「少し、お休みしています」
ダイヤ「東京でずいぶん疲れてしまったようなので」
善子「そうなの?」
ダイヤ「ええ」
花丸「それで最近の練習休んでたんだ」 ダイヤ「さて、本題に戻りますが」
千歌「はい」
ダイヤ「今日、皆さんに集まっていただいたのは、ある大事なお話があるからです」
千歌「大事な」
梨子「お話?」
善子「それはそこの鞠莉さんが理事長になったのと、何か関係があるの」
鞠莉「もちろん」
鞠莉「私が理事長兼任として戻ってきたのは、学校を救うためだから」
千歌「学校を、救う?」 ダイヤ「……皆さんには話していませんでしたね」
ダイヤ「現在、この学校には統廃合の話が持ち上がっています」
梨子「えっ……」
鞠莉「相手は、沼津にある高校よ」
千歌「それは聞いたことあるけど、噂だって」
ダイヤ「今年の新入生の数が、例年にも増して少なかった為、話が進行したのです」
鞠莉「新入生が一クラス分も確保できない現状では、仕方のないことだけどね」
鞠莉「一応、今は私が新理事長としてその話を遅らせている状態」 千歌「でも、何で私たちにその話を?」
鞠莉「簡単な話よ」
果南「野球で廃校を覆して、学校を救うためだよ」
善子「野球で廃校を覆して」
花丸「学校を」
ルビィ「救う?」
鞠莉「ええ」 ダイヤ「実は2年前、既にこの学校には廃校の話が持ち上がっていました」
鞠莉「それを聞いた私たち3人は部を設立したのよ」
果南「人気上昇中の女子野球で有名になれば生徒が集まる、そう思ってね」
ダイヤ「鞠莉さんと果南さんの力もあり、私たちは創部間もなく頭角を現します」
千歌「ダイヤさんもいたんですか」
ダイヤ「もちろんです」
ダイヤ「2人のように、特別に上手なわけではないですけどね」 ダイヤ「まあその野球部は、私の実家の事情もあり、大手を振って活動はできませんでしたが」
果南「周囲にばれないように、出来るだけこっそりと」
果南「他の助っ人や先輩も含めて集まって、鞠莉の家ので練習したりさ」
ダイヤ「両親が野球に関心がないのも幸いでしたわ」
鞠莉「でもね、静岡県予選を目前にしたところで事故が起きた」
鞠莉「念願の大会直前の練習試合」
鞠莉「当時キャッチャーだった私が、クロスプレーで負傷したの」
果南「投手だった私の球を捕れる人は、他にいなかった」
果南「さらに悪いことは重なって、黒澤家に部活のことがばれちゃったんだよ」 ダイヤ「そして私は部を退部させられました」
ダイヤ「二度とプレーをしないという近いと共に」
ルビィ「……」
千歌「そんな……」
ダイヤ「約束を破ったのは私、仕方のないことです」
ダイヤ「それに、悪い話ばかりではなかったのですよ」
ダイヤ「退部以降、多少ガス抜きをするためにと、観戦については両親ともに寛容になりました」
ダイヤ「そのおかげでさらに野球に詳しくなり、曜さんの存在を認知出来て、野球部の再興に繋がったのです」
果南「その時は色々あって、統廃合の話も立ち消えになったしね」 鞠莉「私と果南もね、ダイヤから話を聞いて新生Aqoursの事は気にかけていたのよ」
千歌「新生Aqours?」
善子「どういうこと?」
梨子「Aqoursって、元々あったチーム名だったんですか」
果南「そうだよ、私たち3人で野球部を作った時にも使っていた名前」
ダイヤ「最初に聞いたときは驚きましたわ」
ダイヤ「いったい、誰がこの名前付けてくれたのでしょうね」チラッ
ルビィ「……」フィ
千歌「あっ」
千歌(それで、ルビィちゃんは) ダイヤ「つまり話というのは、皆さんへのお願いです」
ダイヤ「何とか全国大会で、優勝してほしいという」
花丸「全国優勝って」
善子「最近強豪校相手にあんな試合をしたばかりなのに」
ダイヤ「もちろん全力で支援はするつもりです」
ダイヤ「優勝すれば、入学希望者などいくらでも集まります」
ダイヤ「例え少なくても、窮状を知ったファンからの寄付金も期待できる」
ダイヤ「優勝して、学校を救う」
ダイヤ「その為には、協力を惜しみません」 千歌「でも、私たちが優勝できるとはとても」
ダイヤ「大丈夫です」
ダイヤ「みなさん、きちんと練習すれば上達します」
ダイヤ「すぐには無理でも、0を1へ、1を10へと積み重ねていくことはできる」
千歌「0から、1へ」
ダイヤ「もちろん、それだけではなく――」
果南「私たち三人も」
鞠莉「野球部に入りま〜す」 千歌「だ、ダイヤさん達が!?」
ダイヤ「ええ」
ダイヤ「現実的に考えれば、確かに優勝は厳しい」
ダイヤ「強豪相手に手も足も出なかった現有戦力だけではなおさらです」
ダイヤ「しかし私はともかく、果南さんと鞠莉さんは全国クラスに匹敵する選手」
ダイヤ「Aqoursには元々、全国でも戦えるレベルの投手が存在するのです」
ダイヤ「私たちが加われば、可能性が0とは言えないでしょう」 ルビィ「でもお姉ちゃん、野球は禁止されてるんじゃ」
ダイヤ「この夏だけ許可を頂けました」
ダイヤ「お母様は私の野球への情熱を買って」
ダイヤ「お父様も全国大会優勝者の肩書を手に入れると誓ったら、折れてくださいましたわ」
千歌「全国大会――」
梨子「優勝――」
ダイヤ「優勝です」
ダイヤ「黒澤家に敗北の二文字は許されません」
鞠莉「私と果南が戻ってきたのも、ダイヤが復帰できることが決まったから」
果南「一緒に失ったあの時を取り戻し、大切なもの守り抜くために」 ダイヤ「廃校を阻止するためには、冬の大会で結果を残すのでは遅い」
ダイヤ「夏に結果を出さなければおしまいです」
ダイヤ「これから求められるのは、勝利のための野球」
ダイヤ「楽しむ、それだけではいけません」
ダイヤ「辛い想い、苦しい想い、することは何度もあるでしょう」
ダイヤ「それでも、あなた達は協力してくれますか」
ダイヤ「一緒に、私たちと夢を追っていただけますか」 千歌「……私、やるよ」
ダイヤ「千歌さん」
千歌「私だって、本当は悔しかった」
千歌「負けたのも、何もできなかったのも、言葉で現実を突きつけられたのも」
千歌「でも現実に立ち向かうのが怖くて、不可能だって逃げて」
千歌「それで無意識の内に、仲間を苦しめて」
千歌「本当は怖いよ」
千歌「ただ普通に、野球を楽しんでいたい」
千歌「でも母校の廃校、お世話になったダイヤさんの立場」
千歌(そして、曜ちゃんのこと――)
千歌「それらがあれば、頑張れる気がする」
千歌「0から1へ、一歩を踏み出せる気がする」 千歌「梨子ちゃんも、一緒に目指してくれるよね」
梨子「もちろん」
梨子「私は最初からその気よ」
花丸「マルも頑張る!」
善子「私だって!」
花丸「ルビィちゃんも、だよね」
ルビィ「うん!」 ダイヤ「ありがとうございます、みなさん」
ダイヤ「さて、ということですがどうしますか――曜さん」
梨子「えっ」
千歌「曜ちゃん?」
ガチャ
曜「……」チラッ
千歌「曜ちゃん……」
善子「隠れてるなんて趣味悪いわよ」
曜「うん、ごめん」
花丸「心配してたんだよ、みんな」
善子「でもよかったわ、無事で」
善子「曜さんもいれば、今の話もあながち世迷い言とも言い切れないもの」 曜「いやその、私は……」
千歌「曜ちゃん」ガシッ
曜「千歌ちゃん……」
千歌「一緒にやろう」
千歌「私、もう逃げない」
千歌「本気で勝ちたい、勝って廃校を阻止したい」
千歌「だからお願い、力を貸して」
曜(千歌ちゃん、真剣な顔)
曜(本気なんだな、きっと)
曜(でも私は、私は――――) 曜「……分かったよ」
千歌「曜ちゃん!」
曜「正直、まだモヤモヤが晴れたわけじゃない」
曜「でもやっぱり私は、千歌ちゃんと一緒に野球をやりたい」
曜「一緒に頂を目指したい」
曜「だから、やるよ」
千歌「うん、ありがとう!」 善子「なによ2人とも、喧嘩でもしてたの」
千歌「ううん、たいしたことじゃないよ」
善子「でも、今のは――」
梨子「善子ちゃん空気を読んで」ガシッ
花丸「そうずら」ガシッ
善子「ちょ、離しなさいよ!」
ルビィ「善子ちゃん、黙るビィだよ」クチフサギ
善子「むー」 果南「やれやれ、騒々しいね」
鞠莉「いいじゃない、これぐらい元気があるほうが」
ダイヤ「そうですよ、私たちは野球部なのですから」
果南「まあ、それもそうか」
ダイヤ「何はともあれ、これで正式な部員が9人揃いました」
ダイヤ「ある意味で、Aqoursが完成した日」
ダイヤ「きっとこれから、数多くの困難が待ち受けているでしょう」
ダイヤ「でもそれらはを全員で一緒に乗り超えていく」
ダイヤ「その為によろしくお願いしますわね、みなさん」
ダイヤ以外「「「おー!」」」 ここで前編完結ということで、一区切り――いったん投稿を中断させていただきます
理由は単純で、少し書き溜めてから投稿しないと量的に辛そうということ
最初の練習試合後ぐらいから書き溜め無しでやっていたのですが、流石に色々と厳しい感じで……
物語自体は最後まで構築済みなので、そんなに時間はかからないはずです
遅くとも野球のCSが始まる前ぐらいには再開できればと考えています
残りの量や空白期間から考えて、続きは新しいスレッドで投稿する予定です
疑問点や質問などはここに投げておいていただければ、可能な範囲で再開後に解説、回答します(今日中ならここで出来るかもです) 以下補足
○○代表〜的な表記がありますが、これについては
日本代表>代表候補>年代別代表>年代別代表候補
のという感じの差があります
各自能力値
(あくまで基準値。ゲームではないので、常にその通りの力を発揮できるわけではないです)
見方
野手能力 弾道 ミート パワー 走力 肩力 守備力 捕球 利き手(投打の順) ポジション
投手能力 球速 コントロール スタミナ 変化球
表記はG〜A(最高でSもあり、特殊能力はAまで)で、Gに近いほど低く、Aに近いほど高い
特殊能力欄はほぼ表記のまま受け取っていただければ
球速はMax 120で男子の140、130で150ぐらいの凄さ
基本的に伸びしろは学年が下の方があります
ただ伸び方には個人差はあります
(基礎ができている善子とルビィは伸びやすく、運動が苦手な花丸は伸びにくいなど) Aqours(前編終了時点)
ダイヤ:弾道2 ミD パG 走D 肩E 守D 捕D 右左 左(ニ・遊・中)
アベレージヒッター 流し打ち いぶし銀 逆境○ チャンスA 粘り打ち
鞠莉:弾道3 ミD パB 走D 肩C 守C 捕D 右右 右(捕・一)
悪球打ち 連打
果南:弾道4 ミE パA 走B 肩A 守E 捕E 右右 三(投・左)
:球速138 コンG スタS
強振多用 積極打法 プルヒッター 送球E 扇風機 盗塁F 走塁E
四球 短気 闘志
千歌:弾道2 ミF パE 走E 肩E 守E 捕C 右右 捕(一・三)
調子安定 チームプレー○
曜:弾道3 ミC パB 走A 肩A 守B 捕C 右右 投/遊
:球速134 コンF スタB カーブ5 スライダー1
積極打法 積極盗塁 調子極端 チャンスB エラー 併殺 人気者 広角打法
速球中心 テンポ○ 乱調 奪三振 ノビA 短気
梨子:弾道2 ミD パE 走D 肩C 守D 捕D 右右 投(左)
:球速117 コンC スタC カーブ2 シンカー3 スライダー2
キレB ルビィ:弾道1 ミD パF 走C 肩E 守C 捕E 右左 二(遊)
積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C
三振 チャンスE エラー バント職人
ルビィ(弱気状態)
:弾道1 ミF パE 走C 肩E 守F 捕G
積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C
扇風機 チャンスG エラー バント職人
花丸:弾道4 ミG パF 走G 肩F 守F 捕E 右右 一
エラー バント○
善子:弾道2 ミD パE 走D 肩E 守D 捕D 右右 中(遊・右・左)
選球眼 悪球打ち 意外性
むつ:弾道1 ミG パG 走F 肩E 守E 捕F 右右 三
いつき:弾道1 ミG パF 走E 肩G 守F 捕F 右右 中(左)
よしみ:弾道2 ミF パF 走F 肩F 守F 捕F 右右 右(中) μ’s
こころ:弾道2 ミA パE 走D 肩C 守S 捕S 右右 捕
キャッチャーA チャンスB 流し打ち 人気者
板本:弾道3 ミB パC 走C 肩B 守A 捕C 右右 遊(一・ニ・三)
チャンスB 流し打ち 固め打ち 広角打法 人気者
ここあ:弾道2 ミE パE 走D 肩C 守B 捕C 右右 投
:球速126 コンC スタC 高速スライダー5 シンカー1 フォーク1
対左C ピンチB
笠野:弾道4 ミG パB 走F 肩A 守E 捕E 右右 投
:球速137 コンF スタC カーブ2 チェンジアップ2
速球中心 短気 乱調 四球 重い球 闘志
Saint Snow
聖良:弾道4 ミD パA 走D 肩A 守C 捕C 右右 投(一・右)
:球速135 コンD スタS スプリット5 カーブ2
パワーヒッター 威圧感 人気者
重い球 キレC 打たれ強さE
理亞:弾道2 ミC パD 走B 肩C 守B 捕C 右左 捕(左・中・右)
キャッチャーB チャンスメーカー 三振 チャンスE エラー
間宮:弾道3 ミE パD 走C 肩S 守A 捕D 右右 遊(投・ニ・三)
:球速130 コンE スタD カーブ2 スライダー2
守備職人 バント職人 チャンスE 粘り打ち
柳澤:弾道4 ミB パB 走B 肩B 守E 捕E 左左 中(右)
三振 パワーヒッター 乙
ついに3年組も加入か
鞠莉ちゃんが捕手もやれるのは助かるな
果南は変化球皆無なのね
後半も気長に待ってます おつ
1期9話の途中まできた感じか
9人の試合が早く読みたいww お疲れ様でした!とても面白かったです。後編も楽しみです! おつ
ダイヤさんがAqoursで1番非力だという風潮 曜ちゃんの元女房役とか見てみたいな
人間性的な相性は千歌ちゃんなんだけど投手としての能力を引き出す力の差で悩むとか
倒した後に協力してくれそうだし ガチ勢とエンジョイ勢や、才能ある組とそれほどでもない組の葛藤というのは良くあるネタだけど、
どちらが正しいと答えの出ることじゃないから難しいね ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています