ルビィ「夜、マックにて」
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SS初心者なので作法がよく分かりません。
キャラ崩壊しています。
地の文があります。
勢いで書いたので勢いで読んでいただけると幸いです。
以上、よろしくお願いします。 こないだ、よしまるビィでポテト食べるSS書いた人?
期待 赤い弾丸が夜風を切っていた。テールランプの様な残光を引きずりながら、疾風の如き速度で駆け抜ける。その弾丸、名前を黒澤 ルビィという。
ルビィは全速力で自転車を漕いでいる。向かうはマクドナルド。そう、彼女は今日絶対に夜マックを食べると決めていたのだ。
ルビィ「まあああああああああああああああっく!!!!」
超音波と言っても差し支えない叫び声に呼応するかのように、信号は青へと色を変えた。吹き荒れる追い風は彼女の駆るママ・チャリを亜音の速度へと高め、一刻も早くマクドナルドへ導こうとする。
自然はおろか公共装置まで味方に付けるのは、彼女の豪運が為せる業だ。押し寄せる風圧が頬を震わせることも意に介さず、表情は傲然。あおられて逆立った髪の毛はさながら獅子の鬣といったところか。 マクドナルドへとたどり着いたルビィは、すかさずサドルから飛び降りた。主を失ったママ・チャリは勢いのままに、転がっていたドラム缶へと激突、派手にぶっ飛びカゴはひしゃげ、ハンドルはあらぬ方向へと曲がってしまった。
そんな惨事などアウトオブ眼中、内浦の紅き猛犬こと黒澤 ルビィは、自動ドアにぶつからんばかりの勢いで目当てのハンバーガー・チェーンへと足を踏み入れた。
店員がその瞬間を見逃すことはなかった。間違いない、あの紅蓮に燃え上がるようなツーサイドアップ、黒澤家の次女ルビィが入店した。
「「「いいいいいいらっしゃいませええええええええええええええええい!!!!!」」」
常人であれば耳を塞がずにはいられない、店員の怒号とも区別のつかない歓迎の台詞を、ルビィは満面の笑みで受け止める。笑顔だけを見れば、年相応の天真爛漫な少女のそれであった。 ルビィの感情の昂りが限界を超え、体外へと迸る感情の奔流が店の室温を5℃上昇させる。店員がその怪奇現象に気付くことはない。次から次へと湧き出す汗は恐怖からくるものであると感じていた。
それもそのはず、眼前の小さき怪物はとんでもないクレーマーかつマナー違反者でありながら、決して摘発することのできない相手なのだ。なぜなら彼奴は沼津市を統べる黒澤家、その次女であるから。
今宵もまた始まる彼女の暴虐、蹂躙を想像してぶるりと身を震わせつつも、幾度も修羅場を潜り抜けてきた精鋭達が統率のとれた0円スマイルを崩すことなど無かった。
店内の客達は悲鳴を上げ、1人も残らず一斉に外へと逃げ出した、かのように見えた。
逃げる客の1人が放った球体から立ち昇る煙。ルビィが無発声にて頑張ルビィを繰り出すと、遅れてきた「パアアアンッ!!」という風切音と共に煙は文字通り雲散霧消し、店内に留まる者たちがその姿を現した。それはテーブル席に陣取る2人組。 濡羽色のセミロングヘア、津島 善子。
そして亜麻色の、同じくセミロングヘア、国木田 花丸。
どちらも系統は違えど美少女の部類である。
彼女らはルビィの親友だ。しかしながら、かつて永遠の友情を誓い合った時にルビィへの親愛の光を宿していた瞳は、その輝きを失いかけていた。
現在はクリクリとした可愛らしいお目々からは想像もつかないほどのギラついた闘気を放ち、夜叉めいた雰囲気を小さな身体からこれでもかと言わんばかりに漂わせている。
一方ルビィは笑顔のまま、悠々と王者の風格で以ってレジへと歩き出す。今の彼女にとって全ては有象無象、2人は存在すら知覚されていないのだ。この態度に善子と花丸はより一層の闘気を放出した。 「「ルビィ(ちゃん)っっ!!!!」」
2人の咆哮は、確かにルビィの鼓膜を揺らした。ここでルビィは親友2人を初めて認識。
しかし、ルビィは止まらない。「ちょっと待っててね」と言わんばかりに片手を振る。
レジの前まで辿り着くと、流れるような仕草で台に肘を置き、頬杖をついて店員の目を見た。
翡翠の瞳が細めた瞼に歪められ、蠱惑的かつ妖艶に光る。
店員はといえば、怪物が遂に手の届く距離に来てしまった恐怖で目には涙が滲み、膝はガクガクと震えている。
1番メンタルの弱い店員であったが、それでも彼は笑顔を絶やさなかった。
しかし、大の男嫌いであるルビィには彼の態度などどうでもいい。 ルビィ「貴方じゃダメだねぇ……」
善子「ルビィっ!!やめなさい!!!」
善子が「それ」を阻止しようと叫ぶ。が、もう遅い。ルビィは店員と目を合わせ、呟く
ルビィ『ルビィの(レッド ジェム)……』パンッ!!!『おやすみなさん(お やすみ なさん)』
ルビィの能力が発動しようかというその瞬間、先に発動した花丸の能力が店員の意識を刈り取った。
後方に控えていた女性店員がすんでのところで受け止め、彼の代わりにレジのポジションに就く。
『おやすみなさん(お やすみ なさん)』は対象を強制的に眠りに就かせる能力である。
発動条件は対象とする相手と目を合わせることで、効果範囲は目が合う距離。
効果の持続時間は少なくとも15分。
花丸は柏手を打ち店員の意識を自分へ向けると同時に能力を発動させた。
しかし能力も万能ではない。同じ能力は1日に2度以上発動することができない。
これでルビィを捕縛する術を1つ失った。
その動揺をさとられまいと平静を装い、花丸は舌打ちをしたい気持ちを誤魔化すように
小さく息を吐いた。 花丸「もうこんなことやめよう?ルビィちゃん」
ルビィ「あはっ♡ちょっとした冗談だよ、怖いなぁ♡」
ルビィ「で、花丸ちゃんの能力はもう使えないよね??」
ルビィ「じゃあ、今度はこっちの番かな♡」
花丸「そんなのはルビィちゃんの目を見なければ済む話!」サッ
ルビィ「あはっ♡……『あなたの目がきっといけないんでしょう(ホワイト ファースト ラヴ)』」
ルビィの発動した能力に、2人は驚きを隠せなかった。
しかし驚いている場合ではない。花丸の首が彼女の意思とは無関係に、徐々にルビィの方へと顔を向けようとしている。
気力で堪えようとする花丸であったが、ルビィの方を向いてしまうのは時間の問題であった。 花丸「ううっ」ギリギリ
善子「なんでルビィがダイヤの能力を!しかも『歪曲(ディストーション)』を使えるなんて!!」
ルビィ「『掠め取るいたずらっ子(リトル スティーラー)』。ルビィが生まれつき持ってる特性だよ。
人の能力を1つだけコピーしておけるの、便利でしょ?」
そう、ルビィは生まれつき能力を持っていた。それを使って姉の能力を複製していたのだ。
『あなたの目がきっといけないんでしょう(ホワイト ファースト ラヴ)』は、対象者と発動者の目を強制的に合わせるよう仕向けるという地味な能力であり、
発動条件としても、対象者が発動者に一定以上の好意を持っていること、という課せられた条件と得られる効果が見合っていないものだ。
しかしこの状況においてルビィにはこの上なく強力な能力であった。
そしてついに、ルビィの目が花丸の目を捉える。
ルビィ『ルビィの瞬き(レッド ジェム ウインク)』 善子「させるかああああ!!『この不安定な世界で(イン ディス アンステイブル ワールド)』!!!」ギラン
ルビィと花丸の視線に割り込む善子。とっさの動きではあったが、完璧な対応であると言えよう。
ルビィと善子、互いの発動した瞳術がぶつかり合い、力の原料とも言うべきS(シャイニー)粒子は安定した状態を保てなくなった。
運動エネルギーを光エネルギーへと変えたS粒子から眩い光が発生し、そこにいる誰もが目を瞑っている中、平然とスマート・フォンを操りマクドナルド公式アプリからクーポンを選択するルビィ。
善子と花丸が目を開けた時には既に、画面を店員に向けていた。
目を開けた店員は、やはり精鋭。
ルビィの提示したクーポンを見るや否や、笑顔のままルビィからは一切目を逸らさず、厨房に向かって素早くハンド・サインを送った。
ルビィは、店員に注文を短く伝える
ルビィ「倍ビッグマックはひとつ、ポテトはLふたつ、あとお水、氷抜きでひとつ。ここで食べるよ」 流れを止めて申し訳ありません。
NGワードで投稿できないんですが、どうすればよいのでしょうか。 何か、自分が忘れていたものを思い出させてくれるSS。超期待
NGワードは一番よくあるパターンは改行の連続かなぁ? 善子「店員さんにタメ語……迷惑行為ではないけど、これも見過ごせないわね」
「かしこまりました、お会計◯◯円でございます!!」
店員は追加のハンド・サインを厨房へ送る
ルビィ「はい、お支払い♡お釣りはいらないよ♡」
善子「水を頼んだのにその金額!?しかもお釣り無し!!?」
花丸「問題はそこじゃあない!!お釣りなしということはレジ内のお勘定が合わなくなるっ!!これは明らかな迷惑行為っ!!!」
ルビィ「ルビィには関係ないもん♡」
ルビィの笑顔は、無邪気そのものであった。自分が悪事を働いている自覚がないのだ。
花丸は歯噛みした。これでは捕縛して説教という方法の効果など、たかが知れる。
この無邪気なるレッドデーモンは、ここで叩き潰す他ない。 できましたね。大変申し訳ありません。
ご指摘もありがとうございます。 ルビィ「さっき善子ちゃんと「ソーサイ」したから、条件はイーブンだね♡」
善子「白々しいっ……!あんたにはまだ『歪曲』が残ってる!黒澤流の体術もね!!
ダイヤの『曲名(タイトル)』は戦闘向きじゃなくても、何をしでかすか分かったもんじゃないっ!」
叫ぶ善子に対し、ルビィは誤魔化すように笑う。
ルビィ「えへへ♡楽しいね♡」
ルビィのその言葉は、確かに本心であった。
彼女にとってこれらは全て戯れ。このやり取りを心から楽しんでいるのだ。
しかし、ルビィは理解していない。
彼女にとってのじゃれ合いが他人にはとんでもない暴力行為であることを。
所謂「丈夫な子」の部類を明らかに逸脱した強靭さをその身に宿したルビィは、
痛みを感じたことがなかった。 「痛み」が分からない人間に、他人を傷付けてはいけない理由を理解しろというのも酷な話なのかもしれない。
それに加えて、ルビィは昔から甘やかされてきた。
幼少期に姉であるダイヤを吹き飛ばした時でさえ、
ダイヤは妹に心配を掛けまいと血みどろの状態で笑顔を見せた。
両親はその異質な力に怯え、ルビィを徹底的に甘やかすことを決めた。
両親の教育方針が悪かったのか、それともダイヤが中途半端に頑丈であったのが悪かったのか。
なんにせよ彼女は苦痛を、恐怖を、ネガティヴな感情を教えてもらうことができなかったのだ。
だから戯れに曜の肩を叩き、曜が窓に突き刺さった。そして事の重大さを理解できなかった。
だが、知らなかったでは済まされないこともある。
花丸「ルビィちゃん……絶対に分からせるずら」
善子「ええ。親友として、仲間として」
「大変お待たせして申し訳ございません!!倍ビッグマックがおひとつ、
ポテトのLサイズがおふたつ、お水の氷抜きがおひとつです!!!」
ルビィ「ありがと♡」
善子「タイミング!!」
花丸「流石に食事を邪魔するのはマナー違反……!」 2人はルビィの食事が終わるまで待たねばならないことを嘆いた。
しかしそこへ、ルビィから思いもよらぬ言葉が。
ルビィ「ねぇ2人とも、早食い勝負しない?」
善子「……は?」
ルビィ「ポテトの早食い勝負!!2対1でいいよ♡2人が勝ったら何でも言うこと聞いてあげる♡」
ルビィ「ルビィが勝つのは分かり切ってるから、ルビィが勝った時はペナルティなしでいいよ♡」
悪戯っぽく笑うルビィ。愛らしいが腹の底では何を考えているのかわからない。
花丸「善子ちゃん……」
突然の提案に戸惑いつつも、花丸は善子に判断を委ね、そして善子はゆっくりと頷いた。
負けてもペナルティはない。ならばこの茶番に付き合うのも吝かではない。斯くして、ポテトLサイズ早食い勝負が始まった。 ルビィ「はい、ルビィのポテトひとつあげるね♡あとお水も♡」ウインク
「「あ、ありがと……」」
善子はルビィからLサイズのポテトを、花丸は店員からルビィを経由してお水を受け取る。
さらに善子は店員からトレイを貰い、紙ナプキンを敷く。
特別なルールのないこの勝負、2人でこの容器から食べるよりも、敷いた紙ナプキンの上に出して食べる方が効率が良いだろう。
津島 善子は常に冷静である。
ルビィ「じゃあそこの人、始めの合図出して♡」
ルビィはレジにいた店員に指示を出し、善子と花丸の緊張が高まってゆく。
そしてわずか数秒、呼吸や鼓動の音さえも感じるほどの静寂。
並々ならぬ空気の重さと緊張感から、善子の額に汗が滲む。
開始の合図は誰かがゴクリと唾を飲み込んだその瞬間であった。
「始めえええええええええいっっ!!!!」 すかさずポテトをトレイにぶちまける善子。
その動作は、熟練の職人の如き流麗さで以って行われた。
2人での食べやすさを意識しつつ、一度に大量のポテトを掴めるように山を2つ作る。
ここにきて善子の集中力と繊細さは神業の領域に達していた。
無駄に洗練された無駄のない無駄な動きは毎週欠かさず行う生放送のおかげか。
この上ない滑り出しである。
ルビィはというと、4本ほどのポテトを一気に頬張るもののしっかりと咀嚼しており、そこまでの速度は出ていないようだ。
美味しそうに笑顔でポテトを頬張るその姿はピュアな子供そのもの。
((この勝負、貰った!!))
正直この戦いに勝ったところで、ルビィに他人を傷つける事を辞めさせることは不可能であるとは思う。
しかしそれでも勝たなければならないと、強迫観念にも似た使命感に2人は突き動かされる。
善子と花丸は同時にポテトを掴んだ。そして同時に叫んだ。
「「あっつ!!」」 店員達は知っていた、ルビィが灼熱を放つポテトを好むことを。
知っていたからいつも通り
ほいよ
これ、盛り沢山・アチアチ・フライドポテトね
と提供した。
そう、揚げたてのポテトはとんでもない熱さだ。
指ですら熱く感じるその高温を、口内で受け止めるのはまさに至難の技と言えよう。
しかし2人は一切の躊躇なくポテトを鷲掴み小さなお口へこれでもかと放り込んだ。
舌と上顎が圧倒的な熱に蹂躙されるも、汗と涙を流しながら我武者羅に咀嚼を行う。
食事とはおよそ程遠く、むしろ拷問に近い光景である。
少ない水を消費することもためらわれ、
まさに焼け石に水といった体でちびちびとすするばかり。 ルビィ「?♪」モグモグ
一方ルビィはと言えば、焼けた鉄パイプの如きアチアチ・ポテトを
鼻歌交じりで食べ続けている。
黒澤半端ないって。
善子と花丸の口内は大惨事、粘膜が完全にやられている。
それでも大好きな親友のために、そして共に戦う幼馴染のために、
ここで諦めるわけにはいかない。 >>29
修正
ルビィ「〜♪」モグモグ
一方ルビィはと言えば、焼けた鉄パイプの如きアチアチ・ポテトを
鼻歌交じりで食べ続けている。
黒澤半端ないって。
善子と花丸の口内は大惨事、粘膜が完全にやられている。
それでも大好きな親友のために、そして共に戦う幼馴染のために、
ここで諦めるわけにはいかない。 着実にルビィを引き離す2人。しかし、異変が起きる。
「「ぎいぃいいぃいやぁ〜〜!!」」ゴロゴロ
突如として大きな悲鳴をあげのたうち回る2人、両者同様に胸を掻き毟っている。
((熱い熱い熱いあづいあづいあ゛つ゛い゛!!!))
ルビィ「あはっ♡『おさえきれない熱さ(レッド ジェム ウインク)』の
味はどうかなぁ?♡」ニコニコ
善子「うぐ……!!!ルビ……!いづ……!!?」ゴロゴロ ルビィ「ん?いつ発動したかって?♡」モグモグ
ルビィ「よーく思い出してみて♡」モグモグ 『はい、ルビィのポテトひとつあげるね♡あとお水も♡』ウインク
善子(ああ……!失態…!圧倒的失態っ…!!)ゴロゴロ
花丸(とんだ策士っ…!)ゴロゴロ
2人は気付いた、ルビィがポテトとお水を渡す時に遅延型の能力を発動していたことに。
だが時すでに遅く、あまりの熱さに胸を掻き毟りのた打ち回ることしかできない。 『おさえきれない熱さ(レッド ジェム ウインク)』は、
対象とする相手(A)と、対象とする物体(B)を定め、Aに対してBの熱さを誤認させる能力である。
発動条件はAと目を合わせてウインクを行うだけ。
効果の程は現状を見ての通り。
ルビィ「あ……もう食べ終わっちゃう……」シュン…モグモグ
この戦い、勝者は黒澤ルビィであった。
転げまわる友人よりも、ポテトがなくなることの方が心配だ。
ルビィ「善子ちゃんたちが食べないならルビィが貰っちゃうね♡」ニコニコ
いまだに転げまわる2人を余所目にルビィはポテトをスティールし、
再びポテトを口に放り込む作業に戻った。
そのポテトすら食べ終わり、倍ビッグマックを食べ始めるルビィ。
落ち着いたものの意識は朦朧とし荒く呼吸を繰り返すだけの2人。 そして遂に食事を終えたルビィは、丁寧に紙ナプキンで小さな口を拭くとトレイを持ち、
立ち上がった。
ルビィはニコニコ顔で2人にこう告げる。
ルビィ「じゃあ2人とも、先に帰るね♡すっごく楽しかったよ♡♡」
ゆっくりと歩き出すルビィ。
ゴミ箱の前に立つと、トレイごとゴミ箱にぶち込む。
再びゆっくりと歩き出す。
自動ドアの前に立ち、それが開くと右足を踏み出そうとした。
ウィ-ン ガシッ
そうは問屋が卸さない。
浮かせかけた彼女の右足を、左足を、這いずってきた善子と花丸がしっかりと掴んでいた。
常人であればこの時点でバランスを崩して転んでいてもおかしくはない。
だが、やはりと言うべきかルビィ倒れず、2人を振り返ると嬉しそうに笑う。 ルビィ「あはっ♡まだ遊ぶの♡♡?」
善子「当たり前でしょうが……」
花丸「行かせないずら……」
それを聞くとルビィは満足げに頷き、この至近距離で無音頑張ルビィを繰り出す。
弱った2人を吹き飛ばすには十分な威力であったが、髪をなびかせる程度に留まった。
何事も無かったかのように立ち上がる2人。
ルビィ「あれ?」ブンッ
もう1度。しかし同様に不発。 花丸『だんだん勇気がわいてくるみたい、強くなれる(お やすみ なさん)』
そう、花丸の発動させた能力により、2人には身体能力向上のバフがかかっていた。
反撃の時間だ。
善子「えいっ!!」ボッ
花丸「破ぁっ!!」ドゥッ
ババシィッ
善子は後頭部に向かって蹴りを、花丸は鳩尾に向かって掌底を放つ。
その動きは美しくも機敏。そして直撃はほぼ同時。
ルビィ「組手も楽しいよね♡」ガッシリ
しかし、ルビィはしっかりと掴んでいた。
花丸の左手を。善子の右足を。
そしてゆっくりと力を込めていく。 ギリギリギリ
「「うぐぅうう……!!」」ババッ
ここまでしても圧倒的な差が開いていることを、2人は感じていた。
そして、威嚇や牽制に過ぎない無音頑張ルビィを受け流した、
その程度で少しは戦えるかと思っていた自分達を恥じた。
どうにかルビィの手を振りほどくことに成功するも、
気圧された2人は次の攻撃を繰り出すのを、わずか一瞬躊躇した。
その一瞬が命取りであった。
ルビィ「えいっ♡」ズドドッ
花丸「がっ……っは!!」
善子「ぐぅっ……!!」
ルビィが両腕を使い放った貫手は、花丸と善子の鳩尾に向かった。
善子はギリギリで体をずらし身を後ろに引くことで、
どうにかダメージを最小限に抑えたが、花丸は判断が遅れた。
深々と鳩尾に突き刺さったルビィの右手が、花丸に酷烈なまでの衝撃を与える。 なんとか受け身をとった善子。
しかし花丸はゴロゴロと店内を転がり、レジの台に身体を強かに打つことで漸く止まる。
花丸「あうっ……!」
善子「ずら丸っっ!!!」
ルビィ「あはは、花丸ちゃんはリアクションが上手だなぁ♡」ケラケラ
ルビィは本気で笑っている。
彼女にとって花丸が吹き飛んだことも、悲鳴をあげることも、
リアクション芸人と同じ扱いなのだ。
ルビィが腹を抱えて笑っている隙に、花丸は善子へ話しかける。
花丸「……善子ちゃん」ハァ……ハァ……
善子「ずら丸、喋らないで……!」
花丸「……大丈夫だから……よく聞いて……」ハァ……ハァ……
花丸はふぅと息を吐き、荒い呼吸を整えた。 花丸「善子ちゃんなら…絶対…大丈夫だよ、何があっても。
マルが保証するから……自分の力を信じて。ルビィちゃんを…助けてあげて」
善子「……分かったわ」
両目からボロボロと涙をこぼす善子に、花丸は続ける。
花丸「これが、最後ずら。『笑ってあえるよね(お やすみ なさん)』」
善子の身に、温かく柔らかな祝福が降り注ぐ。
善子は花丸を強く抱きしめた。
花丸「『幸運はまず笑うことから』だよ、善子ちゃん」ニコニコ
花丸はその言葉を最後に全身の力を抜き、気を失った。 善子「そうね……ありがとう、『花丸』……!」
涙で霞む視界、笑おうとすればぎこちなく口が引きつるばかり。
それでも善子は、倒れゆく親友に笑顔を手向けようと口角をつりあげた。
くしゃくしゃで不恰好だが、それは今までで1番感情のこもった笑顔であった。
おそらく花丸は死んだわけではない、力を使い果たしただけ。
ならば彼女が目覚めた時に、最高の報告をしてやるだけだ。
善子は乱暴に涙を拭い、力強い目でルビィの方を向いた。
善子は自分の身を焦がさんばかりの怒気と闘気を放出させ、
戦闘続行の意思表示をする。 ルビィ「善子ちゃん、何かしようとしてる?まあ善子ちゃんじゃあ、これ以上は何もできないんじゃないかなぁ♡」
善子「安い挑発ね……『できないなんて、やんなきゃわからない』でしょうが……!」
この土壇場において、トリガーとなったのは
果たして怒りか、悲しみか、それとも誰かを想う気持ちか。
複雑な感情が渦巻いた善子の中で、新たな力が目覚めていた。
善子『Awaken the power(アウェイクン ザ パワー)』
世界はきっと、誰も知らない、見たことのない力で溢れ、輝いている。
その中からどんな未来を選ぶのかは、自分次第。
善子は新たな自分の可能性を、友人を救う力を、その手に掴み取った。 更に1つ上のステージへと自分を高めた善子。
能力乱用の所為か、彼女の美しく筋の通った鼻からは、血が流れ出していた。
ルビィ「善子ちゃん、すごーい♡」
善子「ふん、ヨハネよ!」ゴウッ
軽口を叩きつつ、文字通り全身全霊の力を込めて靠撃、貼山靠を放つ。
ルビィは真っ向からこれを受け止めた。
凄まじい衝撃に、ルビィの体は2mほど背後へと押される。
ズザザァッッ!!!
ルビィ「押されちゃったぁ♡今度はルビィの番ね♡」ババババッ!!
ルビィは凄まじい速度で攻撃を繰り出す。善子はこれを殆ど見切っている。
あまりの風圧で頬に切り傷ができても、ルビィの拳が脇腹を掠っても気にしない。
絶対に食らってはいけないものだけを丁寧に見極め、弾き逸らす。 善子「はぁ……はぁ……やっぱり早いわね、ルビィ」
苛烈な連撃をなんとか宥めすかした善子に対し、ルビィはご満悦だ。
ルビィ「今度はもっと早くするよ♡」ボボボボボッ!!
善子「くっ!早い!!」バババババッ!!
更に速度を増したルビィの連撃はまるでマシンガンのようであったが、
能力による超出力に慣れつつある善子は
最後の1発に対して上手くカウンターを合わせることに成功する。
バシッ!!
善子「よしっ…!どんなもんよ…!痛いかしら、ルビィ?」
善子のカウンターがヒットしたルビィは戸惑いつつも
すぐに笑顔を取り戻し、不敵に笑う。
ルビィ「あはっ♡やるね♡♡じゃあ♡♡♡
これは♡♡♡♡どうかなぁ♡♡♡♡♡」 ルビィ
善子「くぅっ!!!」
「頑張ルビィ」ズバァァァアアアン!!!!
まさに全力で行われた頑張ルビィは、音を置き去りにした。
しかし善子はまたしても、ギリギリでクリーンヒットを逃れる。
後ろに弾き飛ばされた善子はどうにか受け身をとり、体勢を立て直す。
ギリギリではあるが頑張ルビィをやり過ごされたルビィは、
ここにきて初めて不愉快そうな顔を見せた。 ルビィ「……?」
新たな感情に戸惑うルビィ。その隙を突いて善子はすぐに距離を詰める。
善子「おりゃあっ!!」ボウッ
ルビィ「がっっは……!!」
先程の意趣返しとばかりに、ガードのない鳩尾に善子の貫手が突き刺さる。
たった今善子は、世界で初めてルビィに痛みを与えることに成功した。
それでもルビィは体制を崩さない。
痛みに対して顔を顰めると、善子への憎悪を瞳の中に燃やす。
この感情も、ルビィにとって初めてのものであった。
善子は血に濡れた口元を手の甲で拭い、そのままルビィを指差した。
善子「ふぅっ!それが痛みよ!!まだこんなもんじゃ済まさないんだから!!」
ルビィ「うぅ……善子ちゃんなんて……善子ちゃんなんて……」
ルビィ「い な く な っ ち ゃ え ば い い ん だ ♡♡」 ルビィから悪の波動が迸る。
ここまで常に♡を絶やさなかったルビィに、憎悪をトリガーとして新たな力が宿った。
ルビィ『♡←HEARTBEAT(ハテナ ハート ビート)』
ルビィ「善子ちゃん、これがルビィの愛だよ♥」
愛と憎しみは表裏一体。同時に発生することさえある。
ルビィの中で急激に高まった善子への憎悪と友愛が反発を繰り返し、
膨大なエネルギーを生むことで異次元の扉(ポータル)を開ける。 何が起きているのか理解できない善子は、為すがままである。
突如発生した底知れぬ深き闇に呆然としていると、
ルビィがその隙を突いて双撞掌を放つ。
今度こそまともに直撃したその攻撃は内臓を揺さぶり、
善子は込み上げてきた血を吐き出す。
善子「がぼぁっ!!」ビシャッ
そして善子は立ったまま意識を失い、闇に呑まれた。
ルビィ「『パラレルな世界に迷い込んで でられない想像なんてしちゃったよ』♥」 ♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥
目が覚めると、知らない天井が見えた。あれ?ここ、どこかしら。
?「あ、起きた?」
ん、そばに誰かいるみたい。視線だけを少し動かすと、曜さんの顔が見えた。
善子「あれ、曜さん。なんでここに?もう退院できたの?……あ、ルビィは、ずら丸はどこ!?戦いはどうなったの!?」
曜「ちょちょ、ストップ!どうしたの、善子ちゃん。私入院とかしてないよ?しかも戦いって、あはは。どんな夢見てたの?」
え?……あれ?なんだっけ、なんで曜さんが入院してると思ったんだろう。
戦いって、何のことだろう。
自分の口から出た言葉なのに、意味をうまく飲み込めなかった。
善子「ふっ、前世の記憶が蘇ったようね」
曜「いやいや、前世だったら私もルビィちゃんも花丸ちゃんも出てこないでしょ」アハハ
ふざけて誤魔化してみると、曜さんは笑ってくれた。 善子「で、ここどこ?」
曜「え、善子ちゃん覚えてないの?練習中に倒れちゃったんだよ?」
善子「んん……?……あ、そういえばそうだったっけ」
そうだった。
今日は Saint Snow との合同ライブに向けて、新曲の練習をしてたんだ。
それで練習中にクラっときて、そのまま意識が無くなっちゃった。何で忘れてたんだろ。
……ん……?
曜「ああ、良かったぁ。倒れた時に頭でも打ったのかと思っちゃったよ。……善子ちゃん?」
善子「……あ、ごめん。そんなに心配しなくても大丈夫よ。でも、ありがとね」
曜「いやいや、心配するよ。でも大事には至らなかったみたいでよかった。
先生が言うには貧血だって」
善子「そう。昨日夜更かししちゃったから寝不足もあったし、それも原因ね。
もう万全だから練習に参加するわ」
曜「だーめ!大丈夫だと思っても、今日は1日安静にする!」
起き上がろうとしたところを、グッと曜さんに押さえられた。もう、心配性ね。
曜「そんなにスケジュールも押してるわけじゃないし、今日1日ゆっくりしてもバチは当たらないよ!」
善子「……ん、分かったわ」
私は曜さんの言葉に甘えることにした。
私が目覚めてすぐ曜さんが皆にラインを送っていたらしい。
しばらくすると、ガラガラと保健室の扉が開いて騒がしい声が聞こえた。 千歌「善子ちゃん大丈夫!!?」
梨子「ちょっと千歌ちゃん、保健室では静かにしないと」
ダイヤ「そうですわよ、千歌さん。他の利用者にも迷惑がかかりますし」
千歌「はーい、ごめんなさい……」
果南「まあまあ、千歌だって悪気があったわけじゃないんだから、ね?」ヨシヨシ
花丸「あ、多分そこのベッドだね」
ルビィ「善子ちゃん、大丈夫……?」シャ-ッ
ベッドを囲うようにつけられたカーテンが、ルビィの手によって開かれた。
この状態で皆に囲まれるのは、なんだか恥ずかしい。…………。 鞠莉「チャオー♡あら善子ったら、こんなに心配かけておいてピンピンしてるわね」
善子「……ヨハネよ!」
花丸「そんな軽口が叩けるなら、心配ないね」
善子「……皆、心配かけたわね。練習中断させちゃって、ごめんなさい」
鞠莉「オーウ……」
ダイヤ「善子さんが……」
果南「殊勝な態度を……」
善子「なによ。私だってこれくらい言うわ」
皆で笑い合う。ああ、皆優しいなあ。Aqoursに入れて、本当に良かった。
その後はとりあえず私抜きで練習を再開してもらった。 練習後は曜さんが迎えに来てくれて、一緒に帰ることになった。
バスに乗り込み席に着くと、曜さんがこちらを見た。
曜「善子ちゃん、大丈夫?」
善子「心配しすぎ、大丈夫よ。」
曜「うん、でもなんか様子がおかしかった気がして……」
確かに曜さんの言う通りだ。
自分の記憶が少し信じられないタイミングがあった。
というか、違う記憶が混ざったみたいな、変な感じ。
3年生を見た時も、あれ?卒業したはずじゃ?
とか思ったり、私2年に進級したわよねとか思ったり。
ルビィを見たときは何故か少しビビっちゃったし。
それに、校舎には皆で落書きしてお別れしたはずだったりとか、
今練習してる「キセキヒカル」もまるで初めて知ったみたい。 でも私は1年生だし、ラブライブ出場で学校の知名度を上げて廃校も阻止したし、
「キセキヒカル」だってここまで頑張ってきたことを皆で歌にしたものだ。
これが私の正しい記憶のはず。
それでもなんだか違和感がある。変にリアルな別の記憶がたまに顔を覗かせる。
善子「……大丈夫よ、なんともないわ」
そう、きっと気を失ってる間に壮大な夢でも見てたんだわ。今は新曲に集中しなきゃ。
曜「……そっか、それならいいんだ!」
善子「ええ、ありがとね。心配してくれて」
本当に他人のことをよく見てるわね、優しい人なんだから。 * * * * *
それから練習は順調に進んだし、記憶に関する違和感も徐々に無くなってきた。
練習も大詰めだ。
Saint Snow との合同曲もあるので、
全員で合わせるために鹿角姉妹にはライブの1週間前にこちらに来てもらった。
泊まるのは千歌さんの家だ。
千歌さんのお母さんのご厚意で、1室をタダで貸してもらえたらしい。
きちんとご飯まで用意していただけるとか。
聖良「Aqoursの皆さん、お久しぶりです」
千歌「聖良さん、理亞ちゃん!ようこそ!」
ルビィ「理亞ちゃん!」
理亞「ルビィ、久しぶりね!」
聖良「ふふっ、皆さんお元気そうで何よりです。お互い積もる話もあるでしょうが、まずはライブのことを考えましょう!」
ダイヤ「そうですわね、今日を入れてもライブまで1週間しかないのですから」
果南「とは言っても1度は函館で合わせられたんだし、気楽にね。練習のしすぎで怪我なんかしちゃったら、元も子もないし」
鞠莉「Take it easy ね! さっすが私の果南、良いこと言う?♪」
果南「いや鞠莉のものになった覚えはないなぁ」
アハハハハ 早速練習が始まった。
……正直言って、これほどまでとは思わなかった。
完璧。一糸乱れぬとはまさにこのことかというほど、完璧な通し練習だった。
正直明日からやることがない、そんなレベル。
理亞「驚いた。それぞれ練習していたとはいえ、ここまで揃うなんて」
梨子「本当にね。びっくりしちゃった」
聖良「そうですね、もう人に見せられるレベルに達していると思います」
鹿角姉妹のお墨付きともなれば、やっぱり完璧だったのだろう。
明日からはどうするのかしら。 千歌「じゃあ皆、明日からの予定を組もう!」
曜「練習メニューってこと?と言っても、微修正するところすら正直見つからないんだけど……」
千歌「違うよ曜ちゃん!遊ぶ予定だよ!!」
曜「!?……いや千歌ちゃん、流石にそれは」
ダイヤ「千歌さん!」
曜「ほら、ダイヤさんに怒られちゃうよ」
ダイヤ「良い提案ですわ!!」
曜「!!?」
ダイヤ「とはいえ、流石に一切練習しないわけにもいきません。それぞれ通し練習を1回ずつくらいは行いましょう」
花丸「それでもダイヤさんにしては甘いずら」
ルビィ「あはは……お姉ちゃん、2人が来るのをすっごく楽しみにしてたから……」
梨子「いいのかなぁ……」
果南「私も言うことないと思ったし、とりあえずいいんじゃない?」
鞠莉「はいはーい、マリーも賛成よ!」
聖良「……ワクワクしてきました」ワクワク
理亞「姉様まで……でも、たしかに」ワクワク
曜「あはは、最上級生がこれじゃあね……まあ通し練習で気になるところが見つかったら、遊びに行くのをやめて練習するってことにしようよ」
梨子「……うん、それならいいかも」
千歌「けってーい!」
善子「……」
というわけで、明日からはサクッと練習を済ませて遊びに行くことになった。 それからというもの、朝の練習で更に磨きがかかることはあれど、
直さなければいけないところは一切出なかった。
皆と一緒に遊びに行くのはすっごく楽しくて、久しぶりに心が安らぐ時間だった。
……久しぶり?私は何故、久しぶりだと思ったのだろう。
やっぱり何か大切なことを忘れている気がする。 * * * * *
ライブ前日のことだった。
いつも通り、完璧に通し練習を終わらせると、
皆で談笑しながらどこへ行くか決めることに。
1年生3人でわちゃわちゃ話しているところに、鹿角姉妹が来た。
聖良「善子さん、ちょっといいですか?」
善子「ええ、どうかしました?」
理亞「こっち来て」
善子「……?」
とりあえず2人について行くと、設営中のステージの前まで来て立ち止まった。
善子「どうかしたの?ここまで連れてくるなんて」
聖良「善子さん、最近様子がおかしくありませんか?」
理亞「遊びに行っても、上の空なことが多い」
そこまで面識のあるわけではない2人にそう思われているということは、
おそらく他の皆にはそれ以上に心配されているのだろう。 善子「そんな2人して詰め寄ってこないで……」
聖良「あ、すみません」
善子「……そうねぇ、どこから話せばいいのかしら」
もやもやしたままライブに臨むより、洗いざらい話すべきかなと思った。
ただ、こんな荒唐無稽な話をして、2人はどう思うだろうか。
悩んだ末に、私は誤魔化さずに話そうと決めた。
そう思えたのは恐らく、私達が近すぎず、遠すぎず、丁度いい距離感だったからだろう。
練習中に倒れて保健室に運ばれた時から、記憶が混濁していること。
おそらく私の中に違う未来の記憶があること。
最初の通し練習で「Awaken the power」をやった時に、何かを思い出しかけたこと。
それは全くもって自分でも信じられない、馬鹿げた世界の話。
遂に妄想と現実の区別がつかなくなってしまったのではないかと怖くなっていること。
普通なら一蹴するであろう話を、2人は最後まで黙って聞いてくれた。 善子「まあ、こんなところね。アホくさいかもしれないけど、私は至って真剣よ」
聖良「……話してくれて、ありがとうございます。正直、にわかには信じられませんが、
あなたはくだらない嘘や作り話をする類の人ではない。私はそう思っています」
理亞「……私も、そう思う」
善子「……ありがと」
聖良「目が真剣そのものでした。言い方は悪いかも知れませんが、少なくともあなたの中では本当にあった出来事のはずです」
善子「まぁ、そうね」
理亞「皆には?」
善子「言ってない。こんなよく分からないこと、相談されても困るだろうし。それに、何も訊いてこないから」
理亞「それは違うと思う」
善子「……言ってくれるじゃない」
理亞「だってそうでしょう。ルビィや花丸が同じようなことで悩んでたとして、善子はアホらしくて面倒だと思うの?」
善子「それは……」
聖良「皆さんはきっと、あなたのことを信じているからこそ詮索しないのではないでしょうか。
あなたが話してくれるのを、待っているのでは?」 聖良「皆さんはきっと、あなたのことを信じているからこそ詮索しないのではないでしょうか。あなたが話してくれるのを、待っているのでは?」
善子「そうかも知れないわね、でも―」
理亞「そんなんでいいの!!?」聖良「理亞、ストップ」
理亞「姉様……」
聖良「どうするのかは善子さんが決めることであって、私たちの意見を押し付けてはいけません」
善子「……2人とも、ありがとう。今はとにかくライブに集中したいから、
全部終わってから考えることにするわ」
私のことを思って言ってくれているのは分かったから、感謝こそすれ、
嫌な気持ちにはならなかった。
でも、私はこの話を他の誰かにすまいと決めた。
だって現状に対して特に不満もないし、むしろこれ以上ないくらいに満ち足りた現実だと思う。
仲間たちと笑いあえるこの場所に、自分がいるべきじゃないなんて、思いたくないの。 鞠莉さんの許可によって、今日は11人全員で学校に泊まることが決まった。
完全に職権濫用だけど、流石理事長と言うべきかしら。
夜の学校ってなんだか不気味だけど、皆と一緒ならなんだかわくわくしちゃう。
ライブ前で気持ちが昂ぶっているのか、なかなか寝付けない。
他の皆はもう寝てしまったみたいだ。
ちょっと夜風にでも当たろうかと、上着を羽織って外へ抜け出してみた。
うう、やっぱりまだ冬ね……寒くて仕方がない。
冷たい風に当たって布団がすぐに恋しくなってしまった。
もう戻ろうかしら。踵を返そうとしたところに、後ろから声がかかった。
?「善子ちゃん」
善子「きゃあっ!!……って、ルビィじゃない。驚かさないでよね、もう」 ルビィ「あはは、ごめんね。善子ちゃんが1人で外に出ていくのが見えたから」
ルビィは私を追いかけてきたようだ。
善子「なかなか寝付けなくてね。夜風に当たりに来ただけよ。心配いらないわ」
ルビィ「そっか。……緊張してる?」
善子「んー、緊張って言うより、興奮かしら」
ルビィ「ふふ、遠足前日の小学生みたいだね」クスクス
善子「そうね、我ながら子供じみてると思うわ」クスクス
善子「ルビィ、寒くないの?」
ルビィ「……寒い」
善子「まったくもう。こっちに来なさい」 近寄ってきたルビィを、すかさず抱きしめた。
ルビィ「ひゃあっ!」
善子「何よ変な声出して。……あー、あんた体温高いのね。暖かいわ」
ルビィ「えへへ、善子ちゃんもあったかいよ」
善子「ルビィ」
ルビィ「なぁに?」
善子「私たち、ずっと一緒よね?……あ、変な意味じゃなく。ずっと仲良しよね?」
ルビィ「ふふ、ずーーーっと一緒だよ!もちろん皆も!」
善子「……ええ、そうね!」 ルビィ「3年生の皆は遠くに行っちゃうけど、それでも心はずっと一緒だと思うんだぁ」
善子「そうよね、ずっと一緒だわ。ありがとう、ルビィ」
ルビィ「なんだか最近の善子ちゃん、素直すぎない?」
善子「……そうかもしれないわ。……ふっ、この堕天使ヨハネも丸くなったものね」ギラン
ルビィ「なんだか、久しぶりにヨハネ様見た気がする」クスクス
善子「あら、私はずっとヨハネよ」
ルビィ「そうでした、ごめんなさい」クスクス 善子「ふふ、じゃあそろそろ戻りましょう。
こんな寒い中ずっと話してたら風邪ひいちゃうわ」
ルビィ「うん、そうだね」
善子「ルビィ。明日のステージ、最高に盛り上げましょう」
ルビィ「うんっ!頑張ルビィ!だね♡」
それを見た瞬間、頭が割れるように痛んだが、すぐに治まった。
善子「………」
ルビィ「善子ちゃん……?大丈夫?」
善子「え、ええ。大丈夫よ。一瞬、立ち眩みがしただけ」
ルビィ「無理しちゃだめだよ?」
善子「分かっているわ、ありがとう」
2人でこっそり皆のいる教室へ戻る。
それがなんだかおかしくって、2人でクスクスと笑い合う。
ルビィ「おやすみ、善子ちゃん」
善子「おやすみなさい、ルビィ」
布団に入った私は、今度こそ眠りに就いた。 やってきた本番当日。Saint Snowのステージは最高の盛り上がりを見せた。
千歌「やっぱりすごいなあ、Saint Snow は。
ステージは温めておきますー、なんて言っておいて、燃え尽きるまで温めるつもりなのかな?」
曜「あはは、言えてるかも。お客さんたくさん来てくれたし、2人とも気合十分って感じ!」
梨子「そうね、私たちも頑張らなくっちゃ」
聖良「皆さんありがとうございましたー!!」
理亞「ありがとうございましたー!!」
聖良「次は皆さんお待ちかね!Aqoursの出番です!!」
千歌「よーし、みんな行こう!」 千歌「1!」
曜「2!」
梨子「3!」
花丸「4!」
ルビィ「5!」
善子「6!」
ダイヤ「7!」
果南「8!」
鞠莉「9!」
「「「「「「「「「Aqours!!サンシャイーン!!!」」」」」」」」」 結論から言うと、大成功だった。
会場は大いに盛り上がって、私たちも今までで1番のパフォーマンスを見せられたと思う。
最高のステージを、皆で作り上げたのだ。こんなに喜ばしいことはない。
それでも何故か、まだ心に靄がかかる。
* * * * *
聖良「皆さん、この場に呼んでくださったこと、改めて感謝いたします」
理亞「皆、ありがとう。すっごく楽しかった」
ダイヤ「いえ、こちらこそですわ」
ルビィ「うんうん、2人のおかげで最高のライブができたと思う!」
聖良「そう言っていただけると光栄です。では皆さん、またいつかお会いしましょう」
理亞「またね、皆。……あ、善子」
善子「ヨハネよ。どうかした?」 理亞「そっちの問題に対して色々言い過ぎた、ごめん」
善子「いいのよ。私のために言ってくれたことだもの、むしろ感謝してるわ」
理亞「……うん。……善子」
善子「?」
理亞「あなたならきっと、その問いに答えを出すはず。自分の力を信じて。『何を選ぶか 自分次第』よ」
善子「ふっ、何よそれ。でも、ありがとね。また会いましょう」
さりげなく私の喉に小骨を刺して、理亞たちは故郷へと帰っていった。
* * * * *
それからしばらくの時が流れた。
ダイヤさんたち3年生は卒業し、在校生の私たちは1つ進級。
2年になってから2カ月が経とうとしているある日のこと。
私達は休みにもかかわらず部室に集合していた。 曜「うーん、どうしようか」
千歌「そうだねぇ、なんかいいアイデアないかなぁ」
梨子「もう2カ月も経つし、今更何か思いつくとも思えないけど……」
ルビィ「なんでだろう……」
花丸「こればっかりは誰に何ができるってわけでもないと思うなぁ」
善子「流石に優勝グループだし、気後れしてるんじゃない?」
私達は、部員をたったの1人も増やすことができていなかった。
正直、これでもいいのかもしれない。
あの9人で見つけた輝きを、新しいメンバーを加えてもう1度。
なんて、なんとなく嫌だったのだ。それは子供みたいな独占欲。
そんなことを考えている一方で私は、この光景に既視感を覚えていた。
部屋が違うが、この会話をいつかどこかでした覚えがある。 この後はたしか千歌さんが……
千歌「これが燃え尽き症候群ってやつかぁ〜」
そう、それで曜さんがボケて……
曜「あはは、千歌ちゃんが燃え尽きちゃったら、炭化した焼きミカンって感じだね」
……曜さんが危ない!!!
善子「」ガタッ
ルビィ「いや曜ちゃんの例えは斬新すぎるよっ」ベシッ
曜「あだっ!………って、善子ちゃんどうしたの?急に立ち上がって」
花丸「もしかして、いいアイデア思いついたずら?」
善子「あ、いや。なんでもないわ」
何なの、今のは。ルビィに叩かれた曜さんが…………
いや、そんなふざけたこと、あるわけがない……
そうよ、あるはずが……でも…… 頭からさぁっと血が引いていくのが感じられた。
私は徐々に湧き上がりつつある記憶の奔流から逃げなければならない。
そうしなければ平穏で満ち足りたこの日常が壊れてしまう、そんな気がするのだ。
私は自己同一性を保てなくなりそうだった。
口内が緊張と恐怖でカラカラに乾いていくのを他人事のように感じる。
私が何も言わずに部室の外へ出るのを、ルビィや花丸が心配そうな目で見た。
善子「トイレよ」ヒラヒラ
小刻みに震える手を振って、ついてくるなと暗に示す。
私は部室のドアを開け、宣言通りトイレに向かうことを決めた。 逃げなければ。でも何処へ?私は何処へ逃げたら良いのだろうか。
ひどい頭痛がする。頭の中に直接早回しの映像を流し込まれているような感覚がある。
そして訪れる吐き気。
耐えきれなくなってトイレへ駆け込むと、すかさず便器に向かって胃の中の物をぶち撒けた。
善子「うぅ……」
怖くて怖くて、涙が出た。私は私の記憶から逃れられなかった。全てを思い出してしまったのだ。
しかしこれは恐らく分岐点。帰る術はあるが、私の答えは決まっていた。
……こちらに留まり、こちらの世界の津島 善子として生きていくのだ。
荒くなりそうな呼吸を落ち着かせた後、蛇口を思い切りひねって出した水で顔を洗い、
口を濯いだ。
顔をハンカチで拭いてから外に出ると、そこにルビィが立っていた。
善子「ルビィ……」
ルビィ「善子ちゃん、ちょっと話さない?」 ピッ、ガコン
ルビィ「善子ちゃんは何飲む?」
善子「いや、自分で買うわよ」
ルビィ「いいからいいから。早く決めないとみかんジュースにしちゃうよ」
善子「じゃあ、サイダー」
ちゃんとした覚悟も決まらないままルビィに連れてこられれたのは、自動販売機の前だった。
口の中をさっぱりさせたかった私は炭酸を所望する。
ルビィからサイダーの缶を受け取り、プルタブを持ち上げる。
周りを見ても私達以外に誰もいないせいか、プシ、という気の抜けた音がやけに大きく聞こえた。
ルビィはマックスコーヒーを買ったようだ。
2人とも無言でひとくちだけ飲むと、程なくゲップが込み上げてきた。
吐いた後だから少し気持ち悪い。炭酸は失敗だったかしらね。 私はサイダーを飲みながら、ルビィを横目で見る。
ルビィは何となく緊張しているような様子だった。
結局2人とも無言のまま飲み終わってしまった。
空き缶を捨てて、ルビィが先に歩き出した。
私もすぐに缶を捨て、追いついて話しかける。
善子「悪いわね、奢ってもらっちゃって」
ルビィ「ううん、気にしないで」
善子「……で、どうしたの?」
ルビィ「……」
善子「ルビィ?」
ルビィ「……新入生の勧誘についてなんだけどね。善子ちゃんはどう思う?」
善子「ああ、そのことね。なかなかいい案は浮かびそうもないわね」
ルビィ「そうだねぇ。ルビィ達だって、千歌ちゃんがグイグイ来てくれたから集まったわけだし、千歌ちゃんがやる気を出してくれないと難しいのかも」
本当は、皆Aqoursを自分達のものにしたいだけだ。
あの思い出を、閉じ込めて永遠に輝かせたいだけなのだ。
きっと少なからずそう思っているからこそ、新入生勧誘に乗り気になれないのだと思う。
ルビィは違うのだろうか。 善子「自分達から来ないなら、わざわざこっちから誘う必要も無いんじゃない?それにもう6月になるし、もう皆入る部活決めちゃったと思うんだけど」
ルビィ「そっかぁ。でももしかしたら、こっちに入りたくても言い出せない人がいるかも知れないね」
善子「だとしても、1度入った部活から抜けたり、参加の頻度を下げたりするのは難しいんじゃない?人間、定着した何かを変えるのは抵抗があるものよ」
ルビィ「そうかもね。でも、変わることを怖がってたら何もできないと思うな。ルビィだって、自分の殻を破ったら新しくてキラキラした景色が見えたもん」
ルビィは別の何かについて話しているような気がする。
それとも私の気にしすぎか。 善子「……ルビィ、あなた何が言いたいの?」
ルビィ「……んーと、なんだろう。上手く言えないけど、今の皆は多分このままが良いって思ってる。でもそれじゃあダメなんじゃないかなってこと」
だんだんと苛立ってきた。
ルビィは私が捨てるのを決めたことに、もう1度目を向けろと言いたいのだろうか。
善子「……このままが良いと思うことの、何が悪いの?」
ルビィ「……今のダラダラした時間も好きだよ。でもね、このままじゃルビィ達は前に進めないんじゃないかな。善子ちゃんだって、本当はそう思ってるんじゃない?」
やはり、ルビィは私個人の問題について言及している。
確信を得たところで、さらに苛立ちが増す。 善子「分かったようなことを……」
ルビィ「違うよ善子ちゃん。ルビィはね、何も分からない。何も分からなくて、怖いんだ」
ルビィ「善子ちゃんは、倒れて保健室に運ばれた日からずっと様子がおかしかった。まるで何かに悩んでるような、怯えてるような感じで。最近はなんともなさそうだったから、解決したんだと思ってたの」
善子「…………やめて」
ルビィ「でも今日、また様子がおかしくなった。だからルビィは思ったの。善子ちゃんは悩みを解決したんじゃなくて、蓋を閉じて見ないようにしただけなんだって」
善子「やめてよ」
ルビィ「善子ちゃんはただ逃げてるだけだよ」
善子「やめてったら!あんたに私の何がわかるって言うの!?」
ルビィ「何かから目を背けようとしてるのは分かるよ」
ルビィの声は震えていた。 ルビィ「でも、何に悩んでるのかは分からない。何も教えてくれないんだもん。扉の内側から鍵をかけたら、こっちからは開けられないんだよ。分からないから、知りたいんだよ」
ルビィ「何があったの?何を悩んでるの?一歩踏み出してきて。こっちに来てよ、善子ちゃん。それとも、ルビィ達じゃ頼りないの……?」
ルビィ「ルビィ達は何があってもずっと一緒の仲間じゃなかったの……?」
遂にルビィは顔を真っ赤にして泣き出した。
次から次へと溢れ出す大粒の涙が頬を伝い、顎を伝い、
ルビィの上履きに落ちてシミを作る。
……私は何をしているのだろうか。
このままこっちに留まっていたら、きっと同じようなことが繰り返されるのだろう。
この世界にいるべきではない私は、ずっとそのことを悩み続けるだろうから。
あっちに残してきたルビィのことを、花丸のことを、皆のことを、考え続けてしまうだろうから。
親友を泣かせて、傷つけてまで問題の解決を長引かせ、守り続ける平穏な日々に、
一体どれだけの価値があるというのか。
ルビィの言う通り、前にも進まず無為に時間を消費することを、私を信じてくれた理亞に誇れるだろうか。 逃げ出したい気持ちをぐっとこらえ、私はルビィの涙を指で掬った。
それは、とても熱い涙だった。
善子「違うのよ。ルビィ、ごめんなさい。私はあなた達とずっと一緒にいたいから、何も言えなかったの」
善子「ねえ、ルビィ。私はまだ迷ってるの。だからそれを笑い飛ばしてほしい。そうしたら私は変われるから。私の向かうべきところに行くから」
ルビィからすれば、私は遠いところに引っ越すのだとか、そんなような認識だろう。
そんなことを急に言われて、困惑しないわけがない。
それでもルビィは涙を流しながらこちらをしっかりと見て、力強く頷いた。 善子「私、変わるのが怖いの。変わってしまったら、今まで積み重ねた何もかもを失ってしまうんじゃないかって。だから教えて欲しい、私がどうすればいいのかを」
自然と涙が溢れる。ルビィは再び頷いた。
ルビィ「善子ちゃん、覚えてる?合同ライブの前日に、ハグしてくれたこと」
善子「ええ、しっかりと覚えてるわ」
ルビィ「じゃあ大丈夫だね」
善子「え?」
ルビィ「ルビィ、善子ちゃんの体温も覚えてるもん。あの時感じた暖かさは、善子ちゃんが変わってしまっても無くならないよ」
善子「ふふっ、何よそれ」
ルビィ「他のものだって同じだよ。目に見えなくても、残るものは沢山あるんだよ」 善子「……今の私が消えて無くなっちゃうくらい変わってしまっても?」
だめだ、もう涙を止められない。私はあるがままに、泣き続ける。
ルビィ「もちろん!万が一善子ちゃんが忘れても、ルビィ達が覚えてるから大丈夫!」
ルビィ「他にもね、あの合同ライブを絶対に忘れないよ。勿論それだけじゃなくて、皆との思い出はぜーんぶ忘れない。善子ちゃんはどうかな。皆で積み重ねた思い出も、自分が変わったら無くなっちゃうと思う?」
うまく声が出せなかった私は、首を左右に振った。 ルビィ「『キセキヒカル』の『いつだって熱い太陽』。ルビィね、あの歌詞が大好きなんだ」
ルビィ「何があったって太陽は光ってるし、雨でも曇りでも、本当は変わらずにそこにいる。いつまでも変わらない、すっごく強い力がルビィ達のそばにあるんだよ」
ルビィ「絆や友情だって同じ。きっとそれは変わらずに在り続けるものだと思うんだ。だからルビィは善子ちゃんとの絆を、皆との友情を信じてる」
ルビィ「皆で見つけた光は、これまでだってこれからだって、変わらないよ。ずっとそばにあって、輝き続けるよ」
ルビィ「それにね、善子ちゃん。変わることで何かを無くしても、きっとその時は、別の何かが生まれてると思うんだ」
ルビィ「善子ちゃんが自分だけの世界を無くして、ルビィ達との世界を作ったみたいに」 ルビィ「だから大丈夫、自分の信じる方に進もうよ。不安なら皆で支えるから。何があっても、ルビィ達は善子ちゃんの味方だよ」
善子「うん……」ゴシゴシ
涙を拭って、ルビィとしっかり目を合わせる。
翡翠の瞳に映る私の顔は、少し前の腑抜けたものとは違った。
単純な言葉でこんなにも強くなれるとは、私はなんてアホなことで悩んでいたのだろう。
……でも、世の中そんなものかもしれない。
自分1人で考えていても見えなかった答えを、誰かが簡単に見つけてくれる。
私は1人じゃないんだ。今の私には、こっちに来る前よりも多くの仲間達がいる。
単純計算で倍よ、めっちゃくちゃに心強いじゃない!
……そもそも私に選択肢などあったのだろうか。
あっちのルビィを助けなきゃいけないのに、私じゃなきゃダメなのに。
うだうだ言ってるうちに、私がこっちのルビィに助けられてしまった。 善子「ルビィ、ありがとう。私、頑張ってみるわ」
ルビィ「えへへ、どういたしまして」
善子「うん、じゃあ今度は私がルビィを助ける番よ」
ルビィ「……え?」
善子「ふふっ、こっちの話よ。じゃあ、私ちょっと用事思い出したから行くわね!」ダッ
ルビィ「ええ、善子ちゃん!?………もう、忙しないなぁ」クスクス 屋上を目指して階段を駆け上がる。ルビィ、本当にありがとう。今度は私の番。
あなたを助けたい、いや、絶対に助けてみせる。
最強とは孤高にして孤独。ならば同じ高さまで上り詰めるまで。
津島 善子は諦めない。なぜならば―
「独りぼっちは、寂しいもんね」
―私もまた、仲間達に孤独から救い出してもらったのだから。 屋上への扉を開け放つと、湿気を帯びた風が優しく私を迎えてくれた。空は快晴、太陽は頭上に高く。絶好の堕天日和ね。
屋上に来た理由は単純で、気持ちよさそうだったから。
私は周りを見渡した。広大な駿河湾が見える。
みかん畑が見える。
今日は富士山も見える。
ひとつ、深呼吸をしてみた。この世界の成分を、少しでも多く取り込めるような気がしたのだ。
………よし、もうこの世界に思い残すことはない。行かなきゃ。
ありがとう、皆。
胸に煌めく眩い光を
もう1度立ち上がる勇気を
とびきり幸せな未来を私にくれて
本当にありがとう。
もう2度と迷うものか。もう2度と忘れるものか。
こんな中途半端に……終わらせてなるものか!!!
善子『in this unstable world!!!!』 風景が砕け散る。アスファルトが、家が、空が、海が、空間が、次元が砕け散る。
それでも壊れた空を仰げば眩しく、そこには変わらぬ形で在り続ける太陽のさんざめく光が、私を優しく照らしてくれた。
♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥
闇の中、意識を取り戻した善子はズタボロで、今にも倒れるその瞬間であった。
それでも瞳には太陽の如く強い輝きを宿す。右足を一歩踏み出しどうにか堪えた。
こちらの時間にすれば善子が「行って」「帰ってきた」のはおそらくわずか数秒の出来事である。
しかし向こうでは長い時間を過ごし、得たものは大きい。
善子(これだけ成長の時間を与えたのは失策だったわね、ルビィ)
闇が徐々に薄れてゆく。善子は真っ直ぐ前を見据えた。 ルビィ「……っ!?なんで、まだ立ってるの……?」
善子の頭の中で、あの曲がリフレインしている。いまならきっと大丈夫。
あの光を。あの輝きを。素晴らしき仲間達との思い出を胸に宿す。
善子『いつだって熱い太陽(キセキ ヒカル)』
その言葉は、あまりにも自然に発せられた。
放つだけであった闘気が収斂し、強大なエネルギーが善子の中に渦巻いてゆく。
ここに来て更に限界を突き破った善子。
その精神が、その肉体が、津島 善子の全てが、真に極限まで研ぎ澄まされた。 善子「大好きよルビィ。だからこそ覚悟なさい」
優しげな口調で放たれた言葉には、途方もない圧力が込められていた。
ルビィは生まれて初めて心の底から恐怖を感じていたが、それの正体がよく分からない。
それ故に、ルビィは策もなく善子へと突っ込んでいった。
ルビィ「うわあああああああああああ!!!」ダッ
善子は全身全霊を以てそれを迎え撃つ。放つは右手、ただ強く握りしめた拳のみ。
全エネルギーを乗せて繰り出された拳は、突っ込んできたルビィに躱す隙を与えず、顔面をしかと捉えた。
結果―
ルビィ「PIGYYYYYYYYYYYYYYYYYッッッ!!!」
―ルビィは美しい放物線を描き、吹き飛ばされる羽目となった。 外へ吹き飛ばされ、勢いよくアスファルトを転がるルビィ。
距離にして3mほどであろうか。
肩が上下しているところを見るに、絶命しているわけではなさそうだ。
善子は油断せずゆっくりとした足取りで近付くと、ルビィの様子を慎重に確認した。
ルビィ「……ぅぅうう……ぅぇえぇ……」
口から洩れているのは怨嗟のうめきか、それとも。
ルビィ「……うぇぇぇぇえええええぇぇえええぇん!」
号泣であった。ひたすらに涙を流す赤き獣。その姿はまるで捨てられた子犬。
そんなルビィに、善子はただ優しく語りかける。
善子「ルビィ、それが痛みよ。そして恐怖よ。それはあなたがこれまで誰にも教えてこられず、他人に向かってばら撒き続けてきたものなの」
善子「きっとあなたのわがままで、痛い思いや怖い思いをした人たちがたくさんいたはずよ。曜さんもその1人。彼女は今病院にいて、目を覚まさないの。あなたがやったことなのよ」 責め立てるようなセリフではあったが、瞳はやさしく細められ、慈愛に満ちた表情を向けている。
いつか自分を救ってくれたルビィ。次は自分の番だ。
ルビィ「ぐすっ……ぐすっ……曜ちゃんが…………ルビィのせいで……」グスグス
善子「でも大丈夫。あなたは今日、痛みを学んだ。今この時から変わっていけばいいのよ」
ルビィ「ルビィ……今まで……自分が何をしてきたのか…………うゅゅ」グスグス
善子「大丈夫、私がついているわ。今は泣いてもいいの。ただ、泣き止んだら、曜さんや迷惑をかけた皆に謝りに行きましょう?」
ルビィ「…………うん……」メソメソ
少し前とは打って変わってしおらしくなったルビィの目に反省の色を見た善子は、
この時ようやく安堵し、胸の中で独りごちた。
善子(やったわよ……ルビィ……)
涙を零すまいと見上げた空に高く上る月は、やはり太陽の光を反射し、静謐で力強い輝きを放っていた。 * * * * *
曜「いやー、一時はどうなることかと思ったね!」
善子「いやそれ私たちのセリフだから!!」
花丸「まったくずら」
ルビィ「ごめんなさいごめんなさい……」
曜「大丈夫だからそんなに落ち込まないでよルビィちゃん!!」
ルビィ「でも……ルビィ……」
曜「本人が大丈夫って言ってるんだからダイジョーブ!ほらこの通り元気元気……あだだだ」
善子「何やってんのよおバカ……」
ルビィとの夜マック大戦を終えた数日後、曜は抜群の生命力で見事に意識を取り戻した。
花丸も戦いでの傷はそこまで深いものではなく、
わずか1日で普通の生活を送れるレベルにまで回復していた。
善子は能力の恩恵により自己治癒力を高めたため、1番元気である。 曜「あはは……まあ何はともあれ一件落着したんでしょ?皆の元気そうな顔が見られて良かったよ!」
曜「ルビィちゃん、こっち来て?」
ルビィ「え、あ、うん……」ビクビク
ポンポン
曜「よしよし」ナデナデ
曜「本当に大丈夫だよ、ルビィちゃん。気にしないでいつも通りに接してね?」
ルビィ「……」
善子「ルビィ、返事をなさい」
ルビィ「う、うん……ありがとう」グスグス
花丸「あ、泣かせた」
曜「善子ちゃん!なんでルビィちゃん泣かせるの!」ナデナデ
ルビィ「ぅゅゅ」メソメソ
善子「私のせいじゃないでしょ!?あとヨハネ!!」
アハハハハハ 談笑もひと区切りし、スマート・フォンを見る善子。ラインの通知を見るに、千歌と梨子がこちらへ向かっているようだ。
善子「あら、そろそろ2人が来るみたいよ」
花丸「じゃあ、行かないとね」
曜「ええー、もう行っちゃうのぉ」
善子「我儘言わないの!面会の人数とか時間とか結構厳しいのよ、ここ」
曜「ちぇっ。じゃあ、また来てね!」
花丸「もちろん!」
ルビィ「ルビィも来ていい……?」
曜「あったりまえだよ!楽しみにしてるね!」
ルビィ「…………うん!!」
善子「じゃ、またね。安静にしなさいよ!」
曜「分かってるって!3人ともありがとう、またね!」 斯くして曜の見舞いを終えた3名は、話しながらてくてくと足を進める。
ルビィ「……」ギュッ
花丸「曜ちゃん、元気そうで良かったね!」
善子「ん、あれならきっと心配ないわね」ギュゥ
ルビィ「……」ギュゥゥ
善子「で、ルビィ。何この手」ギュゥゥ
ルビィ「……え?な、なんとなく……?」
善子「なんで疑問形……?まぁ、いいけど」
花丸「ルビィちゃんずるいずら、マルも繋ぐ〜!」ギュゥゥ
善子「なにこれモテ期!?どうしたの急に!!」ギュゥゥ
花丸「ルビィちゃん、お腹空かない?」ギュギュゥ
ルビィ「そうだね、もうお昼だもんね」ギュギュゥ
善子「無視しないでよ!!」ギュギュゥ
花丸「何食べようかぁ」
ルビィ「マックとかどう?」
花丸「…………」
善子「マックはもうこりごりよ〜!!!」
ルビィ「……冗談だよ」
3人「…………ふふっ」
アハハハハハ 善子「……ねぇ、そろそろ真面目に新入部員の勧誘しない?」
花丸「どうしたの、急に」
善子「んー、今のままじゃダメってことよ!」
ルビィ「でも、どうやって?」
善子「もちろん、ライブよ!新曲を披露して、ついでに広報活動もするの!まぁ、曜さんが完全回復してからだけど……」
花丸「うーん、ライブは楽しそうだけど、その新曲はどうするの?」
善子「ふふん、曲の構想ならもうあるわよ」
ルビィ「いつの間に作ってたの!?善子ちゃんすごい!!」
花丸「どんな曲?曲名は決まってるの?」
善子「もちろん決まってるわ!曲名はねぇ……」
笑い合いながら今後のことを話し、道をゆく3人。その姿は仲睦まじく、決して離れることはない。
じりじりとアスファルトから照り返す陽光が、夏の始まりを予感させた。 この感じなら台本形式やめてぴっしぶに投稿した方が良さそう 以上で終わります。
本当に勢いだけしかありませんが、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
また機会があればよろしくお願いします。 >>103
たしかに書き込み規制で待つのが大変でした。
ありがとうございます、参考にさせていただきます。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています