穂乃果「中途半端な朝」
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穂乃果「おっとっと」
海未「大丈夫ですか?」
穂乃果「眠くて頭がふらふらするよー……」
海未「……何時に寝たんですか?」
穂乃果「5時」
海未「早すぎるでしょう。帰ってすぐ寝たから、夜眠れなかったんですか?」
穂乃果「違うよー。朝の5時だよ」
海未「ええ?」
穂乃果「睡眠時間2時間」
海未「ほぼ寝ていないのと一緒じゃないですか」
穂乃果「一緒じゃないよ。むしろちょっとだけ寝たせいで、中途半端に眠いんだ」 海未「虫歯ですか?」
穂乃果「多分違うと思うけど……うーん、よくわかんないや」
海未「そうですか。まあ、それで眠れなかったわけですね?」
穂乃果「あともう一つ理由があってね、よく聞いてよ」
海未「なんですか?」
穂乃果「……なんと、宿題が終わらなかったんだ!」
海未「そっちが主な理由でしょう」
穂乃果「いやあ……歯が痛くて集中できなかったっていうか……」
海未「歯が痛くなったのはいつですか?」
穂乃果「昨日の夜だよ」
海未「それまでに終わらせておけばよかったのです。毎日少しずつやれば、じゅうぶん終わらせられる量でした」
穂乃果「毎日なんてやる気が起きないよー……」
海未「そんなことだから、痛い歯を抑えながらたくさんの宿題を徹夜でやるはめになるのですよ」 穂乃果「まあ、それは分かってはいるんだけど……」
海未「それで授業中に眠ったりするから、なおさら勉強についていけなくなるでしょう」
穂乃果「いつかまとめて勉強するから大丈夫だよ!」
海未「絶対にやらないと思います」
穂乃果「やるよー」
海未「いいえ。これまでのことを考えると、その言葉は信用するに足りません」
穂乃果「ちえっ」
海未「後から泣きついてきても、私にはどうにもできませんよ」
穂乃果「とか言ってー。ちゃんと教えてくれるんだもん」
海未「はあ……まったく……」 ミスった
>>1と2の間に
海未「まったく……何をやっていたんですか、そんな時間まで」
穂乃果「歯が痛くて眠れなかったんだ」 穂乃果「ため息をつくと幸運が逃げちゃうよ、海未ちゃん」
海未「あなたがそうさせているのでしょう」
穂乃果「仕方ないなー。海未ちゃんの分まで私がラッキーになっておいてあげるね」
海未「頑張ってください」
穂乃果「……うーん、それにしても、頭がガンガンするよー」
海未「歩きながら眠らないでくださいね。危ないので」
穂乃果「私はそんなに器用じゃないけど……でも、寝ながら歩けるならそうしたいよ」
海未「イルカは眠りながら行動できると聞いたことがあります」
穂乃果「あーあ、私イルカに生まれたかった!」
海未「イルカに生まれるのなら宿題に手を焼く必要もないですけど」
穂乃果「どっちにしてもイルカに生まれたかったよ」
海未「まあ、いいじゃないですか。人間にしかできないこともあります」 穂乃果「海未ちゃんは人間以外になりたい動物とかいないの?」
海未「ええ?そうですね……虎なんていいかもしれませんね」
穂乃果「虎?」
海未「強そうです」
穂乃果「海未ちゃんは強くなりたいの?」
海未「ええ」
穂乃果「海未ちゃんは誰かと戦うの?」
海未「人と戦うための強さではありません。自分のためです」
穂乃果「海未ちゃんは立派だなあ……」
海未「いいえ。そんなことはありません」
穂乃果「じゃあ、私と海未ちゃんはどっちが立派だと思う?」
海未「……難しい質問ですね。穂乃果にしかできないこともあれば、私にしかできないこともあるでしょう」 穂乃果「そっかあ」
海未「ですが、私は……」
穂乃果「うん?」
海未「……いえ、なんでもありません」
穂乃果「どうしたの?」
海未「……」
穂乃果「まあいいや。それにしても、暑いね……」
海未「ええ、蒸し暑いです。昨日も雨でしたからね」
穂乃果「少しは風吹いてくれないかなあ」
海未「祈れば通じるかもしれません」
穂乃果「神様、仏様、あとなんかの屏風に描いてあるあの緑の人……どうか風をください」 海未「ふうーっ」
穂乃果「ひゃうっ!」
海未「あれ、風が起きましたね」
穂乃果「びっくりしたあ……もー、海未ちゃん。くすぐったいよー」
海未「少しは涼しくなりましたか?」
穂乃果「全然……」
海未「残念です」
穂乃果「海未ちゃんがそういうことするの、珍しいね」
海未「『そういうこと』、とは?」
穂乃果「その……冗談、っていうか。まあ、そういうことだよ!」
海未「私だって、『そういうこと』に対する憧れみたいなものはありますから」
穂乃果「ふうん……」 海未「……嫌でしたか?」
穂乃果「ううん、そんなことないよ。むしろかわいかったよ」
海未「ありがとうございます」
穂乃果「どういたしまして……ふわぁあ……」
海未「眠そうですね」
穂乃果「波が来てるよ。眠気の波が」
海未「荒波ですか」
穂乃果「高波だね」
海未「屏風の人にお願いして鎮めてもらいましょう」
穂乃果「無理だよー……この波は風のせいで起きてるわけじゃないもん……」
海未「そうですね」
穂乃果「ねえ海未ちゃん、眠気を覚ます方法知らない?」
海未「寝てしまう以外にはありません。健康に影響を与えない方法としては」 穂乃果「そっかあ……」
海未「そんな便利な方法があったら、とうの昔に知れ渡っていますよ」
穂乃果「それもそうだね」
海未「……」
穂乃果「あっ、お金落ちてる。ラッキー」
海未「やめてください。はしたないですよ」
穂乃果「ちえっ」
海未「まったく……」
穂乃果「ねえ海未ちゃん。はしたないの『はした』と、はした金の『はした』って同じなの?」
海未「それはしりませんが……どっちも『端』という漢字を使いますし、似たような意味の言葉が語源なのでしょう」
穂乃果「ふうーん」
海未「なんですか、その興味なさそうな反応は」
穂乃果「だって海未ちゃんもわからないんでしょ?」
海未「まあ、そうですけど……穂乃果が始めた話なのですから、もっと興味を持ってください」 穂乃果「感情を強制しないでよー」
海未「そもそも、あなたみたいに考えていることがころころ変わる人は、思ったことをすぐ口に出すのが間違いなのです」
穂乃果「ひどいよー。私は喋っちゃダメってこと?」
海未「そういうわけではありません。ただ、もっと自分で考えてから……」
穂乃果「あー、お説教はもうお腹いっぱいだよ」
海未「よく噛まずに飲み込むからです。ちゃんと意味を咀嚼しながら聞けば、少しは身に染みるでしょう」
穂乃果「海未ちゃんは難しい話ばっかりするんだもん」
海未「あなたが理解しようとしないだけです」
穂乃果「まあ、そうかもしれないけど……」
海未「どうしてあなたはそんなにお説教や勉強が嫌いなんですか?」
穂乃果「だって、面倒だし……そもそも、好きな人なんていないんじゃない?海未ちゃんは好きなの?」
海未「別に、好きなわけではありませんが……説教や勉強は自分のためになると考えれば、苦ではありません」 穂乃果「そういう考えなんだ。私はこの世からお説教と勉強が無くなるなら、毎日意味もなく注射をされてもいいよ」
海未「まったく……腕がバンソウコウだらけになりますよ」
穂乃果「……でもね、海未ちゃん。私、海未ちゃんがそういうふうに考えられるのは、ちょっと尊敬しちゃうよ」
海未「『そういうふう』、とは?」
穂乃果「うーん、なんていうか……なんでも自分のためになるっていう、そういうふうな考え方だよ」
海未「そうですか」
穂乃果「どうやったらそういうふうな考え方ができるのかなあ?」
海未「私にはわかりません」
穂乃果「そっかあ……」
海未「……」
穂乃果「それにしても、やっぱり暑いねえ……」
海未「そんなに度々言うほどの暑さでもないと思いますが……」
穂乃果「特に意味はないんだよ。会話と会話のつなぎ目みたいなやつだから」 海未「そうですか。では次の会話を始めましょう」
穂乃果「話題がないもん」
海未「話題、話題……うーん、思いつきません。こう空気が重いと頭の回転も鈍くなりますね」
穂乃果「もっとかき混ぜてよ」
海未「私の脳がかき氷になってしまいます」
穂乃果「かき氷食べたいなあ」
海未「まだ少し時期が早いと思いますが……」
穂乃果「6月はもう夏だよ!」
海未「梅雨でしょう」
穂乃果「そっかあ」
海未「ええ」
穂乃果「梅雨だからこんなにジメジメしてるんだね」 海未「そうですね。最近雨が多いですし」
穂乃果「雨じゃなくて梅でも降ればいいんだよ」
海未「地面がべちゃべちゃになってなおさらジメジメしますよ」
穂乃果「わかったよ。それなら、カリカリ梅が降ればいいんでしょ?」
海未「私は梅が降ってほしいなんて言っていませんが……」
穂乃果「そっかあ」
海未「だいたい、梅なんて頭に当たったら痛いでしょう。にわか梅なんて降った日には、大変なことになりますよ」
穂乃果「そこら中、梅と血で真っ赤になっちゃうね」
海未「景観を著しく損ねます」
穂乃果「そっか……そう考えると、雨って結構バランス取れてるんだね」
海未「そうですね。雨は多くの芸術作品でも取り上げられていますから。仮に梅が降ってくるとなれば、そうはいかなかったでしょう」
穂乃果「でも、年に一回くらいなら雨じゃないものが降ってきてもいいんじゃない?」
海未「雨じゃないもの……例えば?」
穂乃果「水あめとか」
海未「ベタベタになりますよ」 穂乃果「そうだよ、みんなベタベタになりながら遊ぶんだ。楽しそうじゃない?」
海未「琥珀色の水たまりに足を取られて転んだり、瓦の隙間に入り込んだあめの重みで民家が潰れたりするでしょう」
穂乃果「うーん、それはちょっとダメだね。全員が楽しめないといけないから」
海未「そういうルールがあるんですか」
穂乃果「海未ちゃんは何か降ってほしいものある?」
海未「そうですね……花なんてどうでしょう」
穂乃果「花?」
海未「例えば、あなたが辛い仕事に振り回されているとき」
穂乃果「うんうん」
海未「ちょっと足を止めて空を見上げると、無数の花びらがどこへ行くでもなく、自由に舞っている。せわしい世の中に一瞬安心を感じますね」
穂乃果「おおっ、素敵」
海未「気に入っていただけたならよかったです」
穂乃果「即採用だよ!」 海未「採用されてもどうにもなりませんが」
穂乃果「気持ちだよ。気持ち」
海未「まあいいです」
穂乃果「……ふわぁあ……」
海未「大きなあくびですね。お饅頭がまるっと入りそうです」
穂乃果「もう和菓子は食べ飽きたよ」
海未「私は穂むらのお饅頭、好きですよ。毎日食べていたいくらいです」
穂乃果「それは嬉しいけど……」
海未「……」
穂乃果「……まあ、いいや」
海未「そうですか」 穂乃果「そうだ、海未ちゃん。夏休み、みんなで海に行こうよ!」
海未「1つの文章に海が二回出てきたからよくわかりませんでした」
穂乃果「だって海未ちゃんが海未ちゃんだもん……」
海未「冗談ですよ」
穂乃果「『そういうこと』だよ」
海未「穂乃果は、海に行ったら何をしたいですか?」
穂乃果「イルカと遊びたいなあ」
海未「イルカのいる海なんてこのあたりには無いでしょう」
穂乃果「残念だよ」
海未「そんなにイルカと遊びたいなら水族館にしましょう」
穂乃果「うーん……でも、スイカ割りもしたいし……それに海未ちゃんの水着姿も見てみたいし……」 海未「ぜひ、水族館にしましょう」
穂乃果「よーし。それじゃあ、晴れたら海で、雨が降ったら水族館にしよう」
海未「いいですね」
穂乃果「決まりだね。今日の練習のときみんなにも伝えよう!」
海未「少し気が早いような気がしますが」
穂乃果「善は急げ、だよ!」
海未「そうですか」
穂乃果「うーん、それにしても……」
海未「眠い、ですか?」
穂乃果「うん。正解だよ」
海未「ほっぺを叩いたら目が覚めるかもしれませんね」
穂乃果「じゃあ、海未ちゃん叩いて!」 海未「なぜ私が……?」
穂乃果「海未ちゃん、私のこと叩いてくれないの?」
海未「叩きません。自分で叩いてください」
穂乃果「自分を叩こうと思っても、怖くて手加減しちゃうよー」
海未「私だって穂乃果を叩こうとしても、怖くて手加減してしまいますよ」
穂乃果「海未ちゃんがどうして怖がるの?」
海未「私が思い切り叩いたら、穂乃果を傷つけてしまうでしょう。それはとても怖いことです」
穂乃果「頑丈だから大丈夫だよ」
海未「人間というのは、案外脆いのです」
穂乃果「そういうところ、甘いんだよー。海未ちゃんは」 海未「注意深いことは悪いことではありません。念には念を」
穂乃果「歯には歯を」
海未「それは違う言葉です」
穂乃果「歯で思い出した。歯が痛いって話の続きなんだけどね」
海未「続きがあるんですか?」
穂乃果「さんざん痛かった歯なんだけど、いったん寝て起きたらほとんど痛くなかったんだ」
海未「そうですか」
穂乃果「なんだったんだろうね?」
海未「まあ、よくあることでしょう。どこか痛くて、でもすぐに治るというのは」
穂乃果「そっか……」
海未「そういうものです」 穂乃果「そうだね」
海未「ええ」
穂乃果「……」
海未「……」
穂乃果「ううんっ……」
ふらっ。
海未「――危ないっ!」
穂乃果「わっ!」
海未「もう、何をやっているのですか」
穂乃果「ごめん……一瞬眠っちゃった……」
海未「はあ……」 穂乃果「ごめんね、海未ちゃん。でも、今ので目が覚めたよ。すっきり」
海未「まあ、いいですが……」
穂乃果「……」
海未「……」
穂乃果「……ねえ、海未ちゃん……」
海未「どうしたんですか?」
穂乃果「……海未ちゃん、だーいすき!」
海未「きゃっ!」
穂乃果「……」
海未「急に抱きつかないでください!」
穂乃果「えへへ」
海未「まったく。何を考えているのですか」 穂乃果「……ええっとね……」
海未「うん……?」
穂乃果「……風、吹かないかなあって」
海未「そうですか」
穂乃果「でも、もういいや」
海未「……そうですか」
穂乃果「今日も頑張ろうね、海未ちゃん」
海未「ええ」 あれ?前作は風邪引き海未ちゃんだっけ?違ったらゴメン ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています