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ことり「人生の大きな分岐点」
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0001名無しで叶える物語(おにぎり)
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2018/05/28(月) 18:22:59.98ID:ELX+585k
先日立ててすぐ昼寝するためだけに落としたやつ
例のごとく書き溜めしてないけどなんとかなるような気がする
0002名無しで叶える物語(おにぎり)
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2018/05/28(月) 18:25:02.08ID:ELX+585k
それは私にとって尋常じゃないほどに大きな人生の分岐点。

「ことり……ごめんなさい」

ごめんなさいと頭を下げるお母さんの姿は痛々しいというよりも凄く、悲しげだった。
仕事で学校行事に来ることが出来ないときの申し訳なさそうな姿とは似ても似つかない
放っておいたら消えてしまいそうな……とても弱った姿
だから私は謝るお母さんにいつものように返す

「大丈夫だよ。お母さんが頑張ってくれてるって私は分かってるもん」

笑って。笑って。
母親に理解ある娘であるのだと精いっぱいに言う
本当は学校行事に来て欲しくても
前も同じだったと心に思っても
お母さんが私と同じくらいに行きたかったと思ってくれていると分かっていたから。

「分かってるから」

今だって、ちゃんとわかっているつもりだった。
私の笑顔に対して、分かっているという言葉に対して
お母さんが複雑な気持ちになって、苦しそうに泣いてしまっている理由も。

だからそっと手を伸ばして――でもやっぱり引っ込めて
持ち出すことのできる小さなスーツケースの持ち手を強く握る

「分かってるから大丈夫だよ。ありがとう、お母さん」

そう言って、玄関の扉を開く
振り返りたい。そんな気持ちを噛み締めて、押し留めて
外の世界へと一歩を踏み出す

――私は今日、お母さんの子供ではなくなる
0003名無しで叶える物語(SB-iPhone)
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2018/05/28(月) 18:26:41.04ID:UwWkEhof
さよなら
0004名無しで叶える物語(おにぎり)
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2018/05/28(月) 18:30:54.80ID:ELX+585k
「荷物をお預かりします」

家を出てすぐの路地、停まっていた車の傍にいた男の人
いかにも執事らしい風貌の男の人は一声かけると私の荷物を引き取って
車の扉を開けて、中へ入るように導く

こんな場面じゃなかったら、お金持ち気分だと楽しくなれたかもしれない
穂乃果ちゃんがいたら、なんかもっと別の気分に浸れたかもしれない
そんな逃避を始めようとする心をよそに、
逆らう理由はあっても逆らう意味はなくて身を屈めた瞬間、お母さんの声が聞こえた

「ことり!」

名前を呼ぶ声、悲痛な大声
浮かぶのはご近所さんに迷惑だよ。という馬鹿みたいな考え
お母さん。お母さん。
そう叫びたくなってしまう
行きたくないと、嫌だと。
そう悲鳴を上げたくなってしまう。
歪む唇を強く噛んで、目頭の熱も振り切るように首を振る
ふわりと感じるお母さんと同じシャンプーの匂いに、私は振り向くこともなく車へと乗りこんだ

「――――!」

窓から見えるお母さんは何かを叫ぶ。
でも、お母さんからは私がどんな顔をしているのかは見えないだろう
それでいい、これでいい。
膝の上の手にぽつりぽつりと落ちていく雫

「これで……いいんだよね」

自分に問う。誰かに問う
正解なんてわからない。 だれも答えてはくれない
でも、それでも容赦なく時間は進んで行く
運転手が乗った車は水を得た魚のようにすいすいと。
私とお母さんを引き離していくのだった
0005名無しで叶える物語(おにぎり)
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2018/05/28(月) 18:37:43.63ID:ELX+585k
連れてこられたのは、大きな大きなお家
それはもう、豪邸と呼ぶにふさわしいほどの大きな邸宅
外門に比べて心許なく
しかし一般の家と比べてはるかに立派に見える表札に刻まれた主の名

「西木野……」

私がこれからお世話になるところ。
西木野邸。
なぜこんなことになったのかは、とても簡単な話だった。
お母さんが理事長を務める音乃木坂学院が廃校になるかもしれないという状況に来ていて
それを寸前のところで押し留めてくれているのが、お母さんの知り合いでもある西木野さんという人らしい
国立のため、資金援助があればいいというわけではないけれど
お医者さんで、幅広いコネのある西木野さんはちょっとだけ―度合いは不明―働きかけてくれたのだと、お母さんは言った。

ただ……学院の生徒がばらばらになったり、仕事が危うくなるということがあるとはいえ、
お母さんが私を西木野さんに謝礼の品のような扱いで差し出すのには違和感があるし納得してるわけじゃない
そんなことを言えば、怒られるけれど。
でも、それで助けられたのは事実 で。

「疑ったりしてたら、駄目だよね」

なにかがあったのかもしれない。なんて。
そんな悲しい気分に浸り始めると、ふつふつと別れを惜しむお母さんの姿がわき出して
私は考えたくないと、首を振る

「大きなお家……」

案内のメイドさんに従ってついていく道中
外観でも明らかだった家の広さを目の当たりにして、素直な感想を述べると
ちょうど、いくつかある部屋の一つから、女の子が出てきた。
私と同じ歳か、ちょっと上にも感じる雰囲気のその女の子は
私のことを見るや否や不快な表情で睨みつけてきた
0006名無しで叶える物語(おにぎり)
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2018/05/28(月) 18:45:16.74ID:ELX+585k
「誰?」

「あ、えっと……みな……」

言いかけて、言葉を飲む。
この家に住むからと、西木野ことりになったわけではないとは思うけれど
果たして、南ことりだと名乗っても良いのかどうか。
そこを躊躇った私を不機嫌に見つめる女の子は不快感をあらわにため息をつく

少し……怖いと思った。

「その……こ、ことり……です」

結局、下の名前だけを名乗ったのは正解なのか不正解なのか。
女の子は「あっそ」と興味なさそうに答えて別の部屋へと歩いていく。
催促したのは貴女だよね……?と
ちょっぴり思ってしまう心を引き締めて、待ってくれていたメイドさんの後ろを歩くと

「娘さんです。真姫さん。西木野真姫さん」

「え?」

「さっきの、女の子」

メイドさんは親切にも、女の子の正体を教えてくれた
けれど。
どこか、その表情は曇っているようにも見えて。
何も知らない、何もできない私はただ「ありがとうございます」と、会話を終わらせる。

「真姫……さん……」

女の子が消えて行った部屋へと少しだけ目を向けて、何となく名前を呟く
少し怖いと感じた雰囲気
でも、メイドさんを見ているとその印象は違うのではないかと思う

これが、、西木野真姫という恵まれながら、恵まれない
けして可哀想だと言ってはいけない女の子との初対面だった
0008名無しで叶える物語(おにぎり)
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2018/05/28(月) 18:53:28.43ID:ELX+585k
「では、ここの部屋をお使いください」

「え、えぇ……」

そんなこんなで連れてこられた広い部屋
ううん、広いなんて言葉では規模を小さく感じてしまうほどの大きな部屋
広間とも言えそうな一室が、私の新しい私室

その驚きを隠せない私を一瞥して笑ったメイドさんは、
ご自由に使っていいと伝言を言い渡されていると続けて言う

「自由に……?」

普通の家にあるリビングよりも広そうな部屋
それを、一人で?
その驚きを飲み込む前に、気づけば目の前にいたメイドさんの姿はなくて。

「あ」

バタン。
役目を終えたメイドさんは消え……残されたのは私一人
一人で使うには大きなベッド
中身のない大きな箪笥と広すぎるクローゼット
あたりを見渡して、ひとまずはと……フカフカの布団に座る

「……どうなるんだろう。これから」

高級ホテル―行ったことはないけど―にありそうな柔らかいベッドの感触を楽しむような余裕もなく
先の分からない不安、お母さんがいなくなってしまった悲しさ、一人ぼっちの寂しさ
大きな部屋での孤独はそれらをより強くさせそうで。
私は持ち出せた荷物の中から大切なぬいぐるみを取り出して抱きしめて
もう一つ、持ち出した大事な大事な枕を頭の下に敷く

「お母さん……」

閉じた瞳の裏に見えるお母さんの姿。
これまでの十数年間を眺めながら、私の意識はゆっくりと微睡の中に沈んでいく
0009名無しで叶える物語(おにぎり)
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2018/05/28(月) 18:55:27.77ID:ELX+585k
前回ここまでだったかなー?
30分くらいなら席外しても平気よね
0011名無しで叶える物語(禿)
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2018/05/28(月) 19:12:08.38ID:DNYf2Kwi
帰ってこーい
0012名無しで叶える物語(おにぎり)
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2018/05/28(月) 19:23:15.79ID:ELX+585k
「んっ……」

自分のなのか、誰かのなのか定かじゃない浮ついた感覚の中に響く声
小さく呻くようなその声に絡みつくように熱っぽいなにかを感じて、
私の意識はゆっくりと引き上げられていく

そして――

「っあ!」

最初に聞こえた声が自分のものだと知った。
熱っぽいのは何かではなく自分の体なのだと知った。
深い眠りから覚めたばかりの朦朧とした意識はそれを感じながら、受け止めきれず
その間にも、赤子の指でも砕かれてしまいそうなほど繊細なものを扱うような手つきが私の体をなぞる

細長い指、整えられた爪先が肌を掠めては指の肉感が肌を伸ばす
こそばゆさを感じるのに、抑えられて、丁重な遣いに身もだえする
私のあげた声が目を覚ましたものだと誰かは気づいているのだろう
嫌味を含んだような笑い声をこぼして、黒い影を近づける

「だ、誰……?」

怖くても、ここは西木野さんの家
暴漢ではないはず。という状況を無視した謎の信頼があったせいか、
私の声は想像以上に怯えていたけれど、
目はいつの間にか夜になっていた室内の暗さに慣れて

「……お母さんよ」

赤い髪を垂らした、見覚えがあるけれど見覚えのない女の人のにこやかな笑みが見えた
0013名無しで叶える物語(おにぎり)
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2018/05/28(月) 19:29:38.55ID:ELX+585k
「おかあ……さん?」

「そう」

「……え」

違う。知らない
そう言いかけた私は同じ髪色の女の子を思い出して、慌てて言葉を飲む
機嫌を損ねちゃいけない人
私がここに来ることになった理由。
お母さんの知り合いで、女の子――西木野真姫に似ている人
そして、お母さんと名乗る人

「西木野……さん」

「お母さんでいいのに」

知り合いから奪った……というと誤解が生じるかもしれないけれど、
学校を救う代償として差し出させたという後ろめたさや罪悪感なんてみじんもない
それどころか、手に入れられたことを心の底から喜ぶような笑みで、新しいお母さんは言う

怖いと、思った
真姫ちゃんから感じた怖い雰囲気なんて子供のおままごとのように
お母さんの浮かべる笑顔は中身の見えない、底知れない恐怖があって。

「お、おかあ……さん」

そう、呼ぶほかなかった
0014名無しで叶える物語(おにぎり)
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2018/05/28(月) 19:39:07.41ID:ELX+585k
「あの……っ!!」

冷静に話をしよう。
機嫌を損ねないようにしよう
そう考えられるくらいには頭がさえてきてようやく、自分が下着姿にまで剥かれてしまっていることに気づいた

慌てて体を覆う。
布団はない、脱がされた服もない
抱いていたぬいぐるみもない
この場になって自分の鍛えられていない細腕の頼りなさに歯噛みしながら
出来得る限りに身を屈めて自分の体を抱きしめる

「あら、女同士なのに」

西木野さんは不満そうにするどころか
その姿を楽しんでいるかのようにちょっぴり残念そうに言うだけで
相変わらずの笑みを浮かべる

「な、なん……なんで……」

「あの人の子……体つきもあの頃にそっくりでお母さんは嬉しいわ」

「っ……」

「ふふっ、驚かせちゃってごめんね。この部屋はどう? 気に入ってくれた?」

「…………」

「ことりちゃんの為に用意したのよ。まだ、お洋服とかは全然だけど何でも言ってね? 全部用意してあげるから」
0015名無しで叶える物語(おにぎり)
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2018/05/28(月) 19:49:44.29ID:ELX+585k
聞き逃すわけがない、聞き間違えるわけがない
でも、恐ろしい一言を言い放ったことが嘘かのように、
西木野さんはとても楽しそうに……まるで、子供のような無邪気さで問いかけてくる

好きな食べ物は? 好きな色は? 好きなことは? 特異なことは?
嫌いな食べ物は? 嫌いな色は? 嫌いなことは? 苦手なことは?

弾丸のごとく並びたてられる質問に、私はただただ、無心で答えるしかなかった
気分を損ねたらだめだと思ったのはおかあさんの援助をしてもらっていたからだったけれど
そんなことは関係なしに、自分の身が危険にさらされる……そんな気がしたから

「あ、の……」

「うん?」

「お、おかあ……さん」

「なぁに?」

「その、真姫ちゃ……真姫さんに会いたいなって」

この人と比べれば子供のようだと思い、ちゃん付けしかけた言葉を飲み込み、言い換えて願う
出来る限りの笑顔で、本心を装って
それが功を奏したのかは解らないけれど、お母さんは「そうね」と嬉しそうに手を叩いて

「真姫ちゃんにも紹介しようと思っていたのよ。でも、よく名前分かってたわね」

「部屋に来る途中に一瞬見かけたんです……そしたらメイドさんが教えてくれて」

「そう。真姫ちゃんはちょっと気難しい子だけど仲良くしてあげてね」

「は、はいっ」

「でも、あの子には絶対に音楽関係の話はしないであげて。特に……ピアノの話は駄目よ?」
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