みもりんスペシャル「三十路探偵・みもりんの事件簿M XIX」自殺志願者毒殺事件!解けばくっすん助手卒業!?みもりん運命の選択[字][解][デ]
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冬
えみ「……っ」ギュッ
えみ「大丈夫だよ。なにがあっても私はずっと味方だから……ね?」
スルッ……ドサッ
えみ「えっ……どうしたの? ねえ、しっかりして! ねえってば!!」
――――――
――――
――
二年後・春 定食屋
ガラガラ
みも「こんにちはー」
えみ「いらっしゃい、探偵。今日も来てくれたんだ」
みも「うん、ここ安くて美味しいからさ」
えみ「ふふっ、今日は何にするの?」
みも「うーん、そうだなぁ……」
………………
…………
…… 翌日 うち宅
うち「今日はずいぶん人数が多いんですね」
じょる「あぁ、ちょっとね……」
うち「で、なにかわかったんですか?」
じょる「これ、被害者が生前ネットに書き込んでいたものなんだけど……」スッ
うち「ネットに……?」
りぴ「たぶん被害者には自殺願望があっ――」
バンッ!!
りぴ「ひっ……」
うち「そんなにあの子を自殺にしたいの!?」
じょる「いや……私も自殺だとは考えてないよ」
うち「えっ……?」
じょる「だから教えてほしい。本当に、自殺の兆候はなかった?」
うち「……なかったと思います。少なくとも、私の知る限りでは」
じょる「わかった。みもちゃんはなにか聞きたいことある?」 みも「えっと……じゃあちょっと手を握ってもいい?」
うち「は……?」
みも「すぐ済むから、お願い」
うち「……どうぞ」スッ
みも「……っ!」ニギッ
ビビッ!
みも「あれっ?」
じょる「どうしたの?」
みも「いえ……あぁ、ありがとね」
うち「……?」
みも「じゃあ一つだけ質問していいかな」
うち「なに?」
みも「被害者のこと、好きだったの? その……恋愛的な意味で」
うち「なっ……」
じょる「みもちゃんっ」
みも「ああ、言いたくないなら無理に聞かないけど」 うち「……好きだったよ、ずっと前から」
みも「そうなんだ……辛いね」
うち「……ぐすっ」
りぴ「あ、泣かした」
うち「泣いてないっ!」
りぴ「え〜、絶対泣い――」
じょる「りっぴー、お口にYKK」
りぴ「むっ」
うち「……あのっ」
みも「ん?」
うち「絶対に、犯人を見つけてね」
みも「あぅ……」
くす「大丈夫だよ、探偵なら絶対に犯人見つけるから。そうでしょ?」
みも「う、うん……」
うち「よろしくお願いします」
みも「…………」 ぱい宅
ぱい「どうぞ、なんでも聞いてください」
じょる「えーと、被害者と付き合ってたんだよね?」
ぱい「はい。でもなんだか、まだ実感がわかなくて……」
りぴ「まあ急にいなくなっちゃったらねぇ。もう死んじゃったなんて――」
ぱい「ううん、そうじゃなくて……本当に恋人同士だったのかなぁって」
りぴ「えっ?」
ぱい「なんていうか……今でもそらが恋人みたいな気がするの」
みも「そらって昨日取り調べ受けてた子ですか?」
じょる「そう」
りぴ「でも振ったのはぱいるちゃんなんだよね?」
ぱい「そうなの……?」
りぴ「んん?」
じょる「……振ったんじゃないの?」
ぱい「うーん……なんかね、気付いたら別れてたみたい」
みも「なんじゃそりゃ」
ぱい「だってそう言われたんだもん……」
みも「言われたって、被害者に?」
ぱい「うん」
じょる「……つまり被害者に騙されて別れたってことか」
みも「ふーむ……」 じょる「一応聞いておくけど、被害者が自殺を考えてる様子はあった?」
ぱい「え、あの子って自殺だったの?」
じょる「それを今調べてるんだよ。自殺なのか殺しなのか……」
りぴ「最初は病死の可能性もあったんだけどねー」
ぱい「病死……あっ」
みも「ん? なんか思い出したの?」
ぱい「あ、大したことじゃないよ。気にしないで」
みも「いや気になるよ! なんでもいいから話して」
ぱい「えっと……前にね、『死にたい』って言ってた友達が病死したことがあったの。それだけ」
みも「その人もともと病気がちだったの?」
ぱい「ううん。いきなりだったからみんな驚いてたよ」
みも「いきなりねぇ……」
ぱい「でもよく考えたら今回のこととはあんまり似てないね。あの子は自殺なんてしなさそうだったし」
みも「……そうだ、もう一つ。手を握らせてもらっていい?」
ぱい「いいけど」スッ
みも「どれ……」ニギッ
ビビッ!
みも「やっぱり普通だ……どうもありがとう」
ぱい「いえいえ」
じょる「あぁ、あと被害者を恨んでる人物とかに心当たりはない? 元カノ以外で」
ぱい「んー……ない、かなぁ?」
じょる「そっか……」 道
みも「うーん、あの二人のどっちかが共犯者なんですかね?」
じょる「いや、たぶんどっちも違うね……」
みも「えっ、そうなんですか? じゃあ誰が殺したんだろ……」
じょる「そういえばみもちゃん無駄にレズ確認してたけど、あれ何?」
みも「あれはなんというか……いつもの癖ですかね。職業病ってやつですよ」
じょる「へぇ……」
みも「そういえば例の掲示板で被害者に返信してた人物は特定できました?」
じょる「あー……それなんだけど、どうやらネットカフェから書き込んでたらしくてさ」
じょる「何度か掲示板でやりとりしたあとはフリーメールを使ってたみたいで、なかなか特定は難しそうだね」
みも「そうですかぁ……」
くす「じゃ、私はそろそろ」クルッ
みも「ああ待ってくっすん! このあと一緒にご飯でも食べない?」
くす「食べない」スタスタ
みも「私また奢っちゃうよ?」
くす「…………」ピタッ
みも「ね、行こっ?」 くす「……帰る!」タッタッタッ……
みも「はあ……まだダメかぁ」
じょる「なかなか手ごわいねぇ……」
みも「なんかもう逆に腹立ってきましたよっ」
じょる「お願いだから喧嘩とかしないでよ?」
みも「それはくっすん次第ですねー」
じょる「……しょうがない、ここは私が一肌脱ぐかな」
みも「ほんとですか!?」
じょる「私だってくっすんには助手をやめてほしくないからね」
みも「南條さん……! ありがとうございますっ!」ギュッ
じょる「抱きつくなって……」
りぴ「もー、こんなとこでなにいちゃついてるの!」
じょる「いちゃつくって、これはみもちゃんが勝手に――」
りぴ「はいはい、わかったから早く署に戻ろうよ。探偵さんも離れて」
みも「むぅ……」
じょる「じゃあまた家でね」
みも「はい。お仕事頑張ってくださいね」 定食屋
みも「ねぇえみつん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
えみ「ん? なに?」
みも「その……えみつんの親友ってどんな子だったのかなーって」
えみ「えっ?」
みも「無理にとは言わないけど、できれば教えてほしいんだ」
えみ「うーん……静かな子だったよ。はしゃいだりしないような」
みも「暗い子だったってこと?」
えみ「悪く言うとそんなとこかな……」
みも「その子さ、『死にたい』みたいなこと言ってなかった?」
えみ「……どうして?」
みも「あ、いや、えっと、気を悪くしたらごめん……」
えみ「別に謝らなくてもいいよ、怒ってないから」
みも「……で、どうなのかな」
えみ「まあ……そうだったかもしれないね」 夜 みも宅
じょる「明日ね、くっすんとふたりで話をすることになったよ」
みも「そうですか……じゃあ、あとはよろしくお願いします」
じょる「言っとくけど、私はみもちゃんと話をするように説得するだけだからね」
みも「えっ、それだけ?」
じょる「だってくっすんはみもちゃんの助手なんだからさ、みもちゃん自身が引き止めるべきだと思う」
みも「そんなっ……無理ですよ絶対!」
じょる「やる前から諦めてどうするの?」
みも「なら南條さんは私が説得できると思うんですか?」
じょる「そんなの私にわかるわけないでしょ」
みも「はぁ!? 無責任すぎませんかそれっ!」
じょる「そもそも私が説得できるって保障もないこと忘れてない?」
みも「南條さんなら大丈夫に決まってます」
じょる「その根拠はなんじゃらほい」
みも「くっすんは南條さんのことが好きだからですよ」 じょる「なるほど。じゃあもしかしたら私とみもちゃんが別れることを条件に助手を続けるって言ってくるかもしれないね」
みも「へ?」
じょる「そうなるとやっぱり私とくっすんが付き合うってのも要求してくるだろうねぇ……」
みも「まっさかぁ〜、さすがにそれはないでしょう……」
じょる「どうかねえ」
みも「というか南條さんもそんな条件飲むわけ――」
じょる「本当にそう言い切れる?」
みも「……飲みませんよね? 私のこと好きですもんね?」
じょる「みもちゃんが大事だからこそ、ってことも考えられるんじゃないの?」
みも「ぬぅ……」
じょる「ま、それでもいいって言うなら私がくっすんを引き止めるよ」
みも「……あーもうわかりましたっ! 私がやりますよ私が!」
じょる「うん、頑張ってね」
みも「はあ……あぁ、そうだ。ちょっと調べてほしいことがあるんですけど」
じょる「なに? 事件関係?」
みも「はい……私、犯人がわかったかもしれません」 翌日 墓地
みも「こんにちは、また来ちゃいました」
みも「今回の事件の犯人、今日中にはっきりしそうです」
みも「ってことで……くっすんとの時間もそろそろ終わりかもしれません」
みも「南條さんのおかげで、今夜はくっすんと話ができると思います」
みも「でもやっぱり説得できる自信はなくって……あはは」
みも「……ジョナさん。どうか私に、勇気をください」
………………
…………
……
夜 くす宅
じょる「その……話っていうのは、なんというか――」
くす「わかってるよ。探偵のことでしょ?」
じょる「う、うん……」
くす「なんちゃん警部補」
じょる「ん?」
くす「私にさ……キスしてよ」 定食屋前
りぴ「えっと……おぉ、ここか」
ガラガラ
えみ『ありがとうございましたー』
女「…………」スタスタ
りぴ「あっ、すみません警察です。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
くす宅
じょる「んん……? 今なんて?」
くす「キスしてって言ったの」
じょる「な、なんで?」
くす「だって探偵にはキスしてたじゃん」
じょる「やっ、それはさぁ……ねえ?」
くす「探偵もなんちゃん警部補もずるいよっ! 私だって……」
じょる「くっすん……」
くす「一回だけでいいの。そしたら……私は満足するから」 じょる「……ごめん。キスはできない」
くす「どうして?」
じょる「くっすんが私のことを好きだっていうのはわかってる。それでキスしたいって思うのも、自然なことだと思うよ?」
じょる「現に私もそうだったしさ。だけどね、私がキスしたいって思ったのは……みもちゃんだった」
くす「……そっか。やっぱり探偵とキスしてたのは、探偵のことが好きだからなんだね」
じょる「うん……」
くす「いつから探偵と付き合ってるの?」
じょる「前にみもちゃんと三人でドライブに行ったでしょ? 仲直り記念とか言って」
くす「ああ、なんちゃん警部補の元カノに会った時?」
じょる「そうそう。あの後からだよ、みもちゃんとそういうふうになったのは」
くす「ってことは一年以上前から? 全然気付かなかった……」
じょる「何度も話そうとは思ったんだけど、みもちゃんに止められて……いや、言い訳してもしょうがないか」
くす「……ねぇ、なんちゃん警部補」
じょる「なに?」
くす「もし私が探偵より先になんちゃん警部補と出会ってたら、なんちゃん警部補は私のことを好きになってたのかな?」
じょる「さあ……どうだろうねぇ」 くす「……私、これからどうすればいいんだろ」
じょる「みもちゃんと話をしてあげてよ」
くす「でもすごく怒ってるんじゃ……」
じょる「まさか、めちゃくちゃ寂しがってるよ」
くす「ほんと?」
じょる「あ、いや……ちょっとは怒ってるかもだけど、多分大丈夫!」
くす「えっ、どっち?」
じょる「と、とにかくマンションで待ってるはずだから、行ってあげて」
くす「……わかった!」バッ
ガチャバタンッ
じょる「あっ、ちょっと!」スクッ
ガチャッ
じょる「くっすん! 鍵!」
くす「植木鉢の下ー!」タッタッタッ……
じょる「植木鉢? これかな?」ヒョイッ
じょる「あった……まったく不用心だなぁ」
じょる「……頑張ってね、ふたりとも」 みも宅
ピンポーン
みも「んっ?」スタスタ
くす『…………』
みも「あっ! んんっ、ごほんっ」
ピッ
みも「はぁいッ!」
くす『あ……えと……中、入れてもらえる?』
みも「もももちろん! ちょっと待ってて」
リビング
みも「あー、なにか飲む? 大したものないけど……」
くす「いい、いらない。それより私に話したいことがあるんじゃないの?」
みも「まあ……うん」
くす「言ってみてよ」 みも「オッケー、じゃあ言うよぉ……」
くす「?」
みも「南條さんとのこと、ずっと黙っててごめんなさいっ!」
くす「……そんなこと謝られても、私は――」
みも「それでも謝りたいの!」
くす「探偵……」
みも「本当なら、真っ先にくっすんに話すべきだったのに……」
くす「そうだね……私ももっと早く話してほしかったな」
みも「ごめん……ごめんね。いくら謝っても許してもらえないだろうけど……ごめんなさい」
くす「……どうしてすぐに話してくれなかったの?」
みも「くっすんのこと、傷つけたくなくて。結局そのせいでもっとひどいことになっちゃったけど……」
くす「はぁ、なんでそんなこと気にするかなぁ……」
みも「だって……くっすんのことは助手として以前に、友達として好きだからさ」
くす「友達として、か……」
みも「ん? どうかした?」
くす「ううん、なんでも」 みも「でもよかった、ちゃんとくっすんに謝れて。なんかスッキリしたよ」
くす「あれ……? 他には話したいことないの?」
みも「うん、私からはこれだけ」
くす「えっ、助手を続けてほしいとかそういうのは?」
みも「うーん、それはいいや。とりあえず今日のところは」
くす「そっか……私てっきりそっちが本題だと思ってた」
みも「正直私じゃ説得できる気がしないしねぇ……」
くす「ふふっ、なにそれ」
みも「あっ、でも一つだけお願いがあるの」
くす「なに?」
みも「もうすぐ事件の犯人がわかると思うから、そしたら一緒に犯人に会いに行ってもらえないかな……」
くす「そんなの行くに決まってるでしょ? 私はまだ探偵の助手なんだから」
みも「……くっすんっ!」ギュッ
くす「わぁっ!? 探偵、苦しい……」
………………
…………
…… 翌日 神社
えみ「本当にいいの?」
しか「うん、お願い」
えみ「……わかった」
しか「その……ありがとう。いろいろ話とか聞いてくれて」
えみ「いいよ、お礼なんて。やりたくてやってることなんだから」
しか「……そっか」
えみ「じゃあ……始めるよ」
しか「…………」
えみ「っ……」スッ
みも「待って!」
えみ「!?」
しか「な、なに……?」
みも「もう終わりにしようよ、こんなこと」
えみ「探偵……どうしてここに?」
みも「えみつんが家を出たところからずっと尾行してたんだよ」 えみ「……私ここで一時間くらい話してたと思うけど、ずっと隠れて聞いてたの?」
みも「一番かっこいいタイミングで登場したいからねっ」
えみ「えぇ……っと、あなたは?」
じょる「刑事だよ。この女、知ってるよね?」スッ
えみ「あっ……」
じょる「話、聞かせてもらえるかな」
えみ「……ごめん、私この人たちと話をしなくちゃいけなくなった」
しか「えっ……じゃ、じゃあ――」
えみ「悪いけど、私にはもう……」
しか「そんなっ、待ってよ!」ガシッ
じょる「りっぴー、その子をお願い」
りぴ「わかった。さ、こっちに」グイッ
しか「やだっ、生きたくない! 離して! 離してよっ!」
じょる「……5日前、つまりこの女が殺された日、定食屋をいつもより2時間近く早く閉めてたよね?」
えみ「はい……」
じょる「なにか用事でもあったの? できればどこでなにをしてたか教えてほしいんだけど……」
えみ「その写真の子と、会ってました」 じょる「……それから?」
えみ「その子を……殺しました」
みも「どうして殺したの?」
えみ「その子が『死にたい』って言ってたから……」
じょる「詳しく話してくれる?」
えみ「……二年くらい前から、ネットの掲示板に“辛い”とか“死にたい”って書き込んでいる人に返信するようにしてて――」
えみ「大抵は無視されるか“マジレス乙”って返されるだけなんですけど、たまに話をしてくれる人もいるんです」
えみ「私はそういう人たちを慰めたり励ましたりして……それで立ち直ってくれる人が何人もいました」
えみ「ただ……そうじゃない人もたくさんいて。そういう人とは直接会って話をするようにしてるんです」
えみ「その写真の子とも、そんな経緯で会いました」
くす「……最初から殺すつもりで会ったの?」
えみ「ううん、いつも思い直してくれるように説得するつもりで会ってるよ」
みも「じゃあ……それでも心が変わらなかったら?」
えみ「……苦しまない方法で、死なせてあげてる。どんな方法かは話しても信じてもらえないだろうけど」
みも「……特殊能力、でしょ?」
えみ「そっか……そこまでわかっちゃってるんだ」 みも「うん……それからその能力を初めて使った相手は、えみつんの親友だよね?」
えみ「……そうだよ。あの子は病死なんかじゃない」
くす「えっ……なんで親友を殺しちゃったの? そんなに嫌いだったの?」
えみ「……大好きだったよ。今でも私にとって一番の友達はあの子だって思ってる」
くす「ならどうして……」
えみ「あの子、昔から一人ぼっちでね。友達ができても、すぐに離れていっちゃうんだよ」
えみ「なんていうか……人付き合いが苦手な子だったから。私以外の誰にも心を開いてなかったな」
じょる「誰にも、ね……」
えみ「思い上がりすぎだって思いますか? ま、それも仕方ないか……でも本当にそうだったんです」
えみ「友達は私くらいしかいなかったし、家にだって居場所なんてなかった」
みも「居場所がなかったって?」
えみ「あの子の親はろくでもないクズで、あの子のことを子供の頃からずっと苦しめてたんだよ」
えみ「そんなのがいる家に居場所なんてあるわけないでしょ?」
みも「……親とうまくいってなかったんなら、家を出ればよかったんじゃ?」
えみ「それができればよかったんだけどね……」
みも「できなかったの? なんで?」 えみ「あの子、こっそり家を出て一人暮らしをしようとしたことがあったんだけど――」
えみ「アパートに越したその日に親が連れ戻しにきたんだよ。それ以降監視も厳しくなったみたいで」
みも「え……」
えみ「ほんとどうかしてるよね。自分の娘を所有物だとでも思ってるのかな?」
くす「心配だっただけなんじゃない? 親なんだし……」
えみ「出た出た、『親なんだから』。みんなそう言うけど、その言葉がどれだけあの子を追い詰めたかわかる?」
くす「ん〜……わっかんないブルース」
えみ「だろうね……そんな世の中だから、あの子はずっと心を閉ざしてたんだよ」
えみ「だけど私には、私にだけはどんなことでも話してくれた。どんなことでも……」
えみ「それであの日、あの子は私に言ったんだ。『もう生きていたくない、これ以上耐えられない』って」
みも「……それで、殺したの?」
えみ「うん……でもね、殺すつもりなんてなかった。私はただ、あの子を抱きしめてあげただけ」
えみ「なにがあっても私はずっと味方だよって、伝えたかっただけなのに……あの子は死んじゃったの」
えみ「病死ってことになったけど、私には自分が殺したんだってはっきりとわかった」
みも「えみつん……」
えみ「あの子の親にも『お前が殺したんだ!』って責められたよ。あの子を散々苦しめたくせに泣き叫びながらね」
えみ「でも私は……なにも言い返せなかった。だって本当に、殺したのは私なんだから……」 じょる「それがどうして自殺志願者を殺すことに繋がるの?」
えみ「……あの子が死んでから、私はずっと抜け殻みたいに過ごしていました。それでもあの子のことを考えない日は一日もなかった」
えみ「そんなある日、思いついたんです。自分の能力を使えば、あの子みたいに苦しんでいる人を救えるんじゃないかって」
えみ「そうすることが、あの子への贖罪になるんじゃないかって……」
みも「…………」
えみ「心の傷って、一生消えないんだよ。割れたガラスが二度と元に戻らないのと同じように……」
えみ「なのに世間じゃ『辛い』って口にするだけで責められるし、辛いことから逃げるのは甘えだって叩かれる」
えみ「だけど私はそうは思わない。辛い時は逃げてもいいし、その方法が死ぬことだっていい」
えみ「私の能力を使えば、苦しむことなく楽にしてあげられるんです。だから……」
じょる「そう。それが動機ってわけか」
えみ「はい……私は、これからどうなるんですか?」
じょる「さあね……特殊能力で殺したってんじゃ警察は逮捕もできないよ」
えみ「えっ、じゃあ――」
みも「まだ続けるつもりなの?」
えみ「……私の力を必要としている人がいるなら、やめるわけにはいかないよ」
みも「本当にそれでいいの? その能力を使うたびに傷つくのはえみつんなんだよ?」 えみ「私にはそれしかできないんだからしょうがないよ。結局あの子にしてあげられたのもそれだけだったし……」
みも「そんなことないよ! えみつんはずっとその子の友達だったんでしょ?」
みも「それに言ってたよね、今でも一番の友達だって。きっとその子は何度も何度もえみつんに救われたはずだよ」
みも「私だったら、そこまでしてくれたえみつんにこれ以上望んだりしない」
みも「だからもう終わりにしよう? 私はえみつんのことを責めたりなんてしないからさ」
えみ「……でもこんな能力があるんじゃ、普通になんて生きられないよ」
みも「どうして?」
えみ「もしこの先、私にまたあの子みたいな大切な人ができたとしても、私はその子を抱きしめることもできない」
えみ「抱きしめたら、それだけで殺しちゃうんだから……」
みも「大丈夫だよ」ギュッ
えみ「!」
みも「たとえ抱きしめられなくても、こうやって抱きしめてもらうことならできるでしょ?」
えみ「……そうだね」
みも「だから、心配しなくていいよ」
えみ「うん……ありがとう、探偵……」
タッタッタッ……
グサッ! えみ「え……?」
うち「あの子が死にたいなんて思うわけない!!」
くす「ひっ……」
じょる「このっ!」ガシッ
ドサッ!
えみ「たん、て……」バタッ
みも「えみつん……? えみつんっ!」
うち「あははっ、死んじゃえ!」
みも「そんなっ……えみつん! しっかりして!」
えみ「……ねぇ、探偵」
みも「なにっ?」
えみ「死ぬのって……本当はこんなに痛くて、苦しいんだね……」
みも「バカなこと言わないでよ! えみつんはまだ生きなくちゃっ!」
えみ「…………」
みも「えみつん? ねえっ、返事してよ! えみつん!!」
――――――
――――
―― 病院・廊下
じょる「あっ、いた」タッタッタッ
くす「廊下走っちゃダメだよ」
じょる「あぁ、ごめん。えみつんは?」
くす「命に別状はないって」
じょる「そっか……みもちゃん、大丈夫?」
みも「……私のせいです」
じょる「えっ?」
みも「私が事件を解決しなければ、こんなことには……」
じょる「ショックなのはわかるけど、あんまり自分を責めちゃだめだよ」
みも「でも……」
じょる「そもそもこうなったのはみもちゃんのせいなんかじゃ――」
みも「じゃあ誰のせいでえみつんは刺されたって言うんですか!」
くす「探偵……」
みも「誰のせいで、こんな……」
じょる「それはもちろん……この事件の真犯人のせいだよ」 夕方 ビル・屋上
そら「私が殺した? まさか、そんなの無理ですよ。だってアリバイがあるんだから」
じょる「たしかに直接殺すのは不可能だろうね。でも殺されるように仕向けることはできた……違う?」
そら「なにを言ってるのかさっぱりわかんないですね」
みも「聞いたんでしょ? 元カノのぱいるちゃんから、病死した友達のことを」
そら「……なんのこと?」
みも「とぼけないで。さっきぱいるちゃんに確認したよ、その話をしたら興味津々だったって言ってた」
そら「…………」
じょる「話を聞いてきっといろいろ調べたんだろうね。その結果、ある人物にたどり着いた」
じょる「自殺志願者を病死に見せかけて死なせている、一人の女に」
みも「それをいつ知ったのかはわからないけど、恋人を奪われた時、それを利用することを思いついたんだよね?」
みも「被害者に自殺志願者のふりをさせれば、自分の手は汚さずに殺すことができるって」
そら「……証拠はあるの?」
みも「ないよ、証拠はなにも。ただ私たちはそれが真実だって思ってる」
そら「ふーん……で、それが事実だったとして、私はなにかの罪に問われるの?」
みも「それは……」
じょる「難しいだろうね。残念だけど」
そら「ですよね。あははっ」 くす「なにがおかしいの?」
そら「いいや、別に?」
みも「どうせ捕まらないんだから正直に言ってよ。“殺したのは自分だ”って」
そら「私は殺すつもりなんてなかったよ? ただちょっとした罰ゲームをしてもらっただけ」
みも「罰ゲーム?」
そら「そう、自殺志願者のふりをするっていうね。そんなので人が死ぬわけないでしょ?」
くす「でもそのゲームのせいで、本当に人一人死んでるんだよ?」
そら「うーん、偶然って怖いね〜」
くす「偶然なわけないじゃんっ!」
みも「くっすん、落ち着いて!」
そら「ねえ、そろそろ帰っていい? 私も暇じゃないしさ」
みも「じゃあ、最後にひとつだけ」
そら「なに?」
みも「私たちはこの事件のことを、絶対に忘れないから」
そら「……なら私はとっとと忘れることにするよ。さようなら」スタスタ……
くす「…………」
じょる「…………」
みも「…………」
………………
…………
…… 夜 みも宅・リビング
くす「……もうこんな時間か。そろそろ帰ろっかな」
みも「えっ、もうちょっと話さない?」
くす「ううん、なんちゃん警部補も戻ってくる頃だろうし」
みも「で、でも……」
くす「私と探偵がちゃんとお別れできるように二人っきりにしてくれたんだからさ。ね?」
みも「その……昨日はああ言ったけど、くっすんさえよかったら――」
くす「それはだめ。もう決めたことだもん。今回の事件が解決したら助手をやめるって」
みも「くっすん……」
くす「正直最後の事件にしては、ちょっとスッキリしない終わり方だったけど」
みも「あっ、じゃあさ、時々くっすんとこに遊びに行ったりするのはいいよね? 普通の友達として」
くす「それもだめだよ、電話とかメールも禁止。念の為私のアドレスはスマホから消してね」
みも「……ん、あとでやっとく」
くす「今やって」
みも「うぐ……あ、アドレス消しても私暗記してるかもよ? だから消しても――」
くす「探偵に限ってそれはないでしょ。早く消しなよ」
みも「わ、わかったよ……えっと、あれれー? どうやって消すのかわかんないや〜」 くす「じゃあ私が消してあげる」ヒョイッ
みも「あぇ!? ちょっと!」
くす「削除削除っと……はい、できた」ポイッ
みも「あぁ〜……」パシッ
くす「これでもう二度と私に連絡できないねえ」
みも「ひどい……ひどすぎる……」
くす「はいはい、私はひどい女ですよー」
みも「……ねぇくっすん、私たちって本当にこれでお別れなの? もう会えないの?」
くす「うーん……会えるかもしれないし、会えないかもしれないかな」
みも「えぇどゆこと?」
くす「とりあえずなんちゃん警部補と別れたらすぐ会いに来ていいよ」
みも「なにそれぇ! 私が南條さんと別れるわけないじゃんっ」
くす「あはは。ま、そうじゃなくてもいつかきっとまた会えるよ」
みも「……約束だよ?」
くす「うん。それじゃあ……探偵、今までありがとうございましたっ!」
みも「……ありがとうはこっちの台詞だよ、くっすん」ギュッ
………………
…………
…… みも宅・玄関
ガチャッ
じょる「ただい――」
みも「…………」
じょる「うわびっくりした……なんでこんなとこ座ってんの?」
みも「すみません……」
じょる「別に謝んなくていいけど……くっすんは? もう帰った?」
みも「はい……私の助手も、やめちゃいました」
じょる「そっか……寂しくなるね」
みも「ぐすっ……南條さん……」ギュッ
じょる「もう、泣くなよ子供じゃないんだから」
みも「だって……」
じょる「はぁ……わかった、今日は特別にみもちゃんの気が済むまで私が慰めてあげるよ」
みも「……じゃあ、お言葉に甘えて。んっ!」
じょる「んむっ!?」
みも「南條さんっ……んんっ」
じょる「ぷはっ! ちょっと待ってせめて部屋でっ、みもちゃ、あぁ〜……」
………………
…………
…… 一ヶ月後・夜 みも宅
ガチャッ
じょる「ただいまー」
みも「あ、おかえりなさい」
じょる「みもちゃんさぁ、郵便受けの中身ちゃんと出しときなよ。こんなに溜まってたけど」バサッ
みも「え、えへへー……」
じょる「えへへじゃないんだよ、えへへじゃ」
みも「いいじゃないですか、どうせ大したもの届いてないんですから……どれどれ」ペラッ
みも「おっ、レストランできたんだぁ。南條さん、一緒に食べに行きましょうよ〜」
じょる「はいはい、今度ね」
みも「ふんふーん……ん? なんだこれ」ペラッ
みも「えっ……南條さん、ちょっと!」
じょる「どうした?」
みも「見てください」スッ
じょる「なに……? あれっ、これって……」
みも「あの、私、えっと――」
じょる「行ってあげなよ、今すぐに」
みも「……はいっ! じゃあちょっと出かけてきます!」 元探偵事務所前
みも「ふー……よしっ!」
コンコンッ
??『どうぞー』
ガチャッ
みも「こんばんは……くっすん」
くす「ふふっ、来てくれたんだ」
みも「当たり前でしょ。ていうかこのチラシなに? 『探偵募集、当方助手』って」
くす「えっ、なんか変かな?」
みも「どう見ても図々しいバンドメンバー募集広告じゃん」
くす「そんな〜、一生懸命作ったのに……」
みも「それよりここどうしたの? まさかとは思うけど、勝手に忍び込んだんじゃ……」
くす「そんなわけないじゃん、ちゃんと買ったよ」
みも「うっそだぁ! どうやって買ったのさ、お金ないのに」
くす「探偵と同じ手を使っただけだよ」
みも「私と同じ……? あっ、もしかして!」 くす「宝くじ、当たっちゃった〜!」
みも「ええっ!? で、でもどうして事務所を?」
くす「そりゃ借りたものは返さないといけないからね」
みも「だからってここまでするかね普通……」
くす「あれ? 嬉しくないの……?」
みも「いや嬉しいよ? 嬉しいけど驚きのほうが大きくて」
くす「そっかぁ。でさ、私……また探偵の助手になってもいいかな?」
みも「ダメ」
くす「なんで!?」
みも「嘘だよっ、信じないでよぉ」
くす「もー! 怒るよ!」
みも「あはは、めんごめんご」
くす「じゃあ気を取り直して……これからよろしくね、探偵」スッ
みも「うん。こちらこそよろしく」ニギッ
ビビッ!
つづく 乙ー
ひさびさに読めたけどやっぱり面白いな
次回最終回なんて、寂しいよ…寂しいよ! 最終回とか信じないぞ
前も最終回だったけど新シーズンが始まるに違いない ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています