真姫「別れのあとには」
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3月、別れの季節。
昔は別れなんて気にしたこともなかった。
でも一昨年に唯一の友達と離れることで、別れの悲しさを知った。
去年はまた、大切な人、にこちゃんとの別れを経験した。
そして今年も―― 穂乃果「真姫ちゃん〜」
真姫「穂乃果。遅かったわね」
穂乃果「えへへ、色んな人に捕まっちゃって」
真姫「元生徒会長でμ’sのリーダーだもの、まあ仕方ないわよ」
穂乃果「でも海未ちゃんの方が人気だったよ。後輩の女の子に囲まれちゃってさー」
目の前で笑っている、私をμ’sに誘ってくれた人。
1人きりの世界から、外へと導いてくれた大切な人。 真姫「それは穂乃果には無縁そうな世界ね」
穂乃果「えー、そんなことないよ。この前も――」
真姫「海未とことり関係は禁止ね」
穂乃果「ぐっ」
真姫「あら、図星かしら」
穂乃果「うぅ、酷いよ真姫ちゃん〜」
泣きながら私に抱きついてくる、まるで子どものよう。
でもそれが可愛らしくて、彼女らしくて、私はそんな姿が大好きで。 真姫「でも大丈夫よ。私はちゃんと貴女のことを愛しているから」
穂乃果「そ、そんなこと言っても誤魔化されないよ」
真姫「あら、失敗したみたいね」
本音だったのに。
穂乃果「でも真姫ちゃんも冗談なんて言うようになったんだね。何だか感慨深いよ」
真姫「冗談ぐらい以前から言っていた――かしらね?」
穂乃果「どうだろう。でも初めて会った時より、雰囲気がやさしくなったよ」
真姫「穂乃果のおかげよ、感謝してるわ」
穂乃果「またお世辞?」
真姫「ううん。ちゃんと正直な気持ちよ」
穂乃果「素直な真姫ちゃん、珍しいね」
真姫「卒業式だもの。たまにはいいでしょ」
穂乃果「……そうだね」 今日で穂乃果は卒業して、この学校を去っていく。
運命的な出会いから、色々な事があった。
穂乃果「送辞、素敵だったよ」
真姫「穂乃果こそ。人には怒られそうではあったけどね」
穂乃果「あはは、海未ちゃんにはさっきお小言言われちゃった」
真姫「私は好きだったわよ。穂乃果らしくて」
穂乃果「そう言ってもらえるとありがたいよ」 私は穂乃果の後、生徒会長の座を引き継いだ。
正直に言ってしまえば、その役割をやりたかったわけではない。
でもどうしても、在校生代表として送辞を贈る立場になりたかったから。
直接、素直に感謝の言葉を伝えられない私が、代表者という皮を被って伝えられる役目だったから。
今までのように、後悔するような別れ方は嫌だったから。 真姫「改めて卒業おめでとう、穂乃果」
穂乃果「うん、ありがとう真姫ちゃん」
真姫「出会えてよかった。貴女が居なかったら、きっと私はずっと一人だったから」
穂乃果「穂乃果の方こそ、真姫ちゃんに出会えて良かったよ」
真姫「私も、何か穂乃果の力になれたかしら」
穂乃果「うん、いっぱいあるよ、真姫ちゃんのおかげで出来たこと」 穂乃果「真姫ちゃんがいなかったら、μ’sは曲もないまま、スタートラインにすら立つことができなかった」
穂乃果「花陽ちゃんを引っ張ってきてくれて、結果的に凛ちゃんも入ってくれた」
穂乃果「合宿をしようなんて我儘も聞いてくれたよね。勝手に倒れた時も心配してCDを作ってきてくれて、自分勝手な理由でμ’sを辞めようとしたときも、穂乃果の側に立ってくれた」
穂乃果「考えていけば、いくらでも思いつく。それぐらい、穂乃果にとって真姫ちゃんは大切な人だよ」 真姫「……少し、照れるわね」
穂乃果「真姫ちゃん、顔真っ赤だよ」
真姫「誰のせいよ、誰の」
穂乃果「トマトみたいで可愛いよ」
真姫「あんまり褒められてる気がしないんだけど」
穂乃果「えー、真姫ちゃんトマト好きでしょ?」
真姫「それとこれとは話が別よ」
穂乃果「うーん、そうかな」
真姫「まったく。そんな感じだから海未と違っていまいちモテないのよ」
穂乃果「そう言われると痛いなぁ」
口ではそう言いながらも、まるで反省した様子はない。 実際、穂乃果を好きな人はいくらでもいる。彼女がその存在に気づかないのは、幼馴染2人によるガードが固すぎるから。
まあ本当にたくさんいるかなんて、分からないけどね。
仕方ないでしょ。好きな相手についてのことは、盲目的に見えちゃうんだから。
穂乃果「さて、お話はこれぐらいにして、そろそろ行こうか」
時計を見た穂乃果が、笑顔で私に手を指し出す。
今日はこの後、μ'sのメンバーが集まっての卒業祝いパーティーがあるから。
絵里や希、にこちゃん。卒業していったメンバーも含めて全員が集まる素敵な場所。
私も楽しみだ、すぐにでも向かいたい。 真姫「待って。もう1つだけいいかしら」
穂乃果「なぁに?」
でももう一つ、伝えなければいけないことがある。
μ'sに入った時から、ずっと秘めていた気持ち。
真姫「あのね、私ね」
さっきみたいに冗談に聞こえないように、はっきりと言わなきゃいけない。
真姫「その、あの……」
心の準備は散々してきた。
何度も1人で練習した。
でもいざ彼女を前にすると、言葉が出てこない。 真姫「だから、その……」
やっぱり私は、素直になれない。
今回の別れも、結局後悔したまま終わっちゃうのかな。
今まで以上に、辛い気持ちにならなきゃいけないのかな。
真姫「っ」
ついに言葉も出なくなる。
涙が滲み出てくる。嫌だ、こんな風に泣きたくないのに。 穂乃果「落ち着いて、大丈夫だよ」
そんな私の目に、そっと伸びてくる手。
穂乃果の、大好きな人の、温かい手。
真姫「い、嫌なの。毎年のように、素直な気持ちを伝えられないまま、大切な人が私の前から居なくなるのが」
その手に導かれるように出てきたのは、考えていた言葉とはまるで違うもので。
真姫「ずっとそうだった。去年も、にこちゃんに感謝の気持ちを伝えようとしたのに、素直になれずに喧嘩して」
真姫「今年も穂乃果に、伝えたいことがあったのに。どうしても、言葉にできなくて」 次々とあふれ出す言葉。
こんなことを言われても困らせるだけなのに。
穂乃果「そっか。辛かったんだね」
でも穂乃果はそんな私を受け入れてくれて。
穂乃果「大丈夫だよ。穂乃果はずっと、真姫ちゃんが話してくれるまで待っているから」
真姫「でも、もうお別れなのに――」
穂乃果「そうだね、確かに卒業は一つのお別れ」
穂乃果「でもその後、一緒に居たらいけないなんて決まりはないよね」
真姫「!」
目から鱗。
そんなこと、考えたこともなかった。 穂乃果「卒業しても、穂乃果はまた音の木坂に遊びに来るよ! 休日には一緒に遊びに行こう!」
穂乃果「何回も会ってれば、きっと真姫ちゃんも素直になれるタイミングがあるよね!」
真姫「なによそれ、いみわかんないわよ」
環境が変わって今後どうなるか分からないのに。私だって受験生なのに。
穂乃果「うん、やっぱりちょっと素直じゃない方が真姫ちゃんらしくて好きかも」
穂乃果は笑いながら私の顔を拭う。
気づけば涙は止まっていた。 穂乃果「さあ、今度こそ行こうか」
再び差し出される手。
私はその手をしっかりと取り、握りしめる。
穂乃果「あんまり待たせると、海未ちゃんたちに怒られちゃうよ!」
走り出す穂乃果。
その背中に、素直じゃない私はそっと呟く。
真姫「大好きよ、貴女のこと」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています