理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
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聖良「……」カリカリ
聖良「……」カリカリ カリカリ
聖良「……」
カラン
聖良「……ふう。今日はこれくらいにしておきましょうか」
聖良「終わりがないのが勉強とはいえ……これだけ量をこなすのは流石に疲れますね」
聖良「まあ、今までスクールアイドルに専念していたツケと思えば」
聖良「たったこれだけで済んでいるのは有難いことでしょうか」 「成り代わり」……これは、影法師やドッペルゲンガーに似た怪異の一種です。
ただし、完全に同じものを指している訳ではない。
大まかな特徴に類似点こそあれ。その実体は似て非なるものなんですよ。
そして、これが成り代わりの恐ろしいところでもあるんです。
……順を追って、一つずつ説明しましょう。 まずはいわゆる、ドッペルゲンガーと呼ばれるものについて。
非常にざっくりした言い方をすれば、ドッペルゲンガーは「自身の分身体」とでも言えましょう。
同じ人物が同じ時間に、違う場所に存在する。こういう現象を引き起こすのが彼らの役割でして。
本人がいないところで目撃情報を与える、といった話は色々な所で聞きますね。
他に目立った特徴とすれば……周囲の人間と会話をしない、とか。
これに関しては、最近薄れてきているかもしれません。
体験談なんかでも、ドッペルゲンガーの声は本人と同じ声だった、そんな話が見受けられますし。
まあ、そういった体験談が真っ赤な嘘の作り話だったのか。
もしくは彼らが出会ったのが生き霊などの違う怪異か、はたまた時代の流れによる変化か。
このどれかだとは思いますけどね。 あとは、本人に縁ある所に出現すること。忽然と現れ、忽然と消えること。
それから……死や災難の前兆として、信じられていることくらいですか。
他人が出会った場合はまだましなようですが、自分が出会った場合は……どうにも。
自分のドッペルゲンガーにうっかり対面して、動揺し。
それを思わず殺そうとしたら自分が死ぬ羽目になった、なんて逸話もあるくらいで。
最終的に迎える結末は……あまり良いものではありません。 一応、対策らしい対策はあるようです。
通説では、「お前は誰だ」と問いかけることなどがありますね。
つまり、相手の存在……自分が何かという部分を揺らがせる。
こうして敵の正体を暴くことで相手を無効化する、という考え方です。
……そして、この対処法の確立。
これこそが、成り代わりをより厄介なものにしていると言えるでしょう。 成り代わりもまた自身の分身を作りだす怪異ですが、目的が違う。
彼らは不意に現れるドッペルゲンガーと違い、「誰かと成り代わる」ことを目的としているのです。
そのため、会話も普通に行いますし、性格や仕草、癖なども非常に本人と似通っている。
出現場所もより限定的なものになっており、現れる時間帯もまた規則的です。
あたかも本人に紐付くように……じわじわと、彼らの生活を塗り替えていくかのようにして。
少しずつ立場を奪っていき、憑いた本人の自己存在を揺らがせていく。
そうやって最後には本人と成り代わり……誰にも気付かれないようにして、社会へと溶け込んでいくんです。 そうしてこの成り代わる性質上、彼らにはドッペルゲンガーと同じ対策法は効きません。
いえ、むしろ逆効果。それこそ彼らの思う壺ですね。
「お前は誰だ」という問いかけに反論できてしまう以上、効果は相当薄い上に。
彼ら自身は、多少なりとも「自分は宿主本人である」という自我を有しています。
ですから、彼らの成り代わりを促進してしまう。
そしてこの自己確認の問いかけは、実は相手だけでなく自身の存在をも揺らがせる。
相手が黙するドッペルゲンガーだからこそ使える諸刃の剣だったわけで。
それが相手に効かない以上……ただの自殺行為に成り下がってしまうんです。 では、どうすれば良いか。答えは簡単です。
相手を貶めて弱らせることが出来ない以上、選択肢は一つ。
自我を強く持つこと。成り代わることの出来ない確固たる意志を持つことが対策になるんです。
「自分は自分だ」という意識が相手より強ければ、早々に成り代わられることはありません。
そうしているうちに、彼らは諦め……もっと成り代わりやすい相手へと移り変わっていく。
……現状こうやって、やり過ごすしかないのです。 ですから……無理に相手をCRASH MINDしようとはしないこと。
大切なのは、SELF CONTROL……少々、強引すぎましたか。すみません。
ですが、くれぐれも忘れないようにしてくださいね。
先にいった二つは、成り代わりを相手にする上で非常に大事なことです。
間違っても「お前は誰だ」なんて問いかけはしないこと……絶対ですよ? ……ふう。話し込んでいたら、すっかり遅くなってしまいましたね。
明日も早いですし、もう寝た方が良さそうです……ええ、それでは。
おやすみなさい、理亞。
第八話 『成り代わり』 終 一応ここまでが再投下分です
少し間を空けて、最終話投下しようと思います 二枚舌の多重投稿が地味に怖さに拍車かけてるよな
まさかな 第九話 『ついぞ、集いて』
……さて、困りました。
というのも、もう私には話せる怪談話が残っていません。
なので今から即興で一話、話そうかと思います。
理亞はここまで……そう、八話ですか。
聞いていて、何か違和感を感じませんでしたか? 私が理亞に語った怪談。
その話の軸となる部分に、何かしらの偏りを感じませんでしたか?
もっと、具体的に言うならば。
やけに「二」、あるいは「対」に関する話が多くありませんでした?
……やっと。気付きましたか。 「二つの話」が、一つに融合する話。
一つのものが「二つに増える」話。
表と裏、光と影。二つはいずれも「対になるもの」であり。
「双子」の因果はたとえ死せども、「二枚舌」になって残り続ける。
生者のものに留まらず、死後の魂も「二つに分裂する」という話。
「二人分の愛」が籠った、一つの贈り物の話。
そして。一人が二人に増え……また一人へと戻っていく。
そんな「二面性」を持った、成り代わりに関する話。 もっともこれだけではありません。
八話の中にもまた指向の似通っていた話があり。
それらもある種のペア……すなわち対になっている。
幾重にも幾重にも……時には、あちらを無意識に誘導しては話を紡ぎ。
ここまで私が拘っていた理由、分かりますか?
そちらの方が都合が良いからですよ。
話数をこういった話で重ねるごとに、私たちの均衡は揺らぎ、曖昧になり。
私にとっては非常に理想的な環境になっていくからです。 御託はこれくらいにしておきましょうか。
さあ、理亞。目を反らさないで。
そんなに怯えないで、こちらをしっかり見てください。
大丈夫、私からの問いかけはこれで最後ですから。
……あなたの目の前にいるのは。こうやって話をしているのは。
一体、誰でしょうか? バツンッ!!!
「ひゃっ!?」
「……停電ですか!? また、急に……」
「姉様! 姉様!?」
「理亞、大丈夫?」
「姉様!? どこ、どこにいるの!?」
「ちょっ……と待ってて、ブレーカーを見てきます」
「! 姉様、待って!! お願い!!」 パチッ
聖良「……災難でしたね。すぐに直って助かりました」
理亞「姉様!!」ギューッ
聖良「おっと……どうしました? 抱き付いてくるなんて珍しい」
理亞「姉様……怖い……すっごく、怖かった……」
聖良「……理亞ったら。大丈夫ですよ、もう平気です」ナデナデ
理亞「姉様……」ギュ 聖良「それにしても、理亞がこんな調子だと困りましたね……」
理亞「?」
聖良「理亞、今日の怪談はやめた方が良さそう?」
理亞「……え?」
理亞「姉様……いま、なんて?」 聖良「いえ、だから今日の怪談はとりやめにしようと」
理亞「待って……さっきまで姉様、話してたじゃない。怪談」
聖良「まさか。第一、今日のことは理亞に言っておいたじゃないですか」
聖良「塾の講習会があるので、いつもより帰りが遅くなります、って」
理亞「……私、そんなこと聞いてない」
聖良「……どういうこと?」 聖良「私は確かに昨日の夜、理亞に伝えたはずですけど」
理亞「本当に聞いた覚えがないの!」
理亞「昨日の怪談を聞く前も聞いた後も、姉様はそんなこと言ってなかったはず……」
聖良「……ちょっと待ってください、理亞」
聖良「私が昨日、理亞に怪談話をしたと。そう言うんですね?」
理亞「そう、だけど……」
聖良「それこそありえません。昨日は二人で夜練をしていたじゃありませんか」 理亞「……は?」
聖良「そもそも理亞が言い始めたことですよね?」
聖良「『怪談のストックがないなら一日おきで良い』」
聖良「『その代わり、間の日には夜練に付き合ってほしい』」
理亞「……違う、違う! 違う!」
理亞「それを言ったのは、私じゃない!」
理亞「姉様は、ずっと! 毎日、私に怪談を話してた!!」 理亞「はぁ、はぁ……」
聖良「……」
聖良「……ねえ、理亞」
理亞「……その、姉様」
聖良「一つだけ、聞きたいことがあるんですが、良いですか?」
理亞「私も、一つ姉様に聞きたいことがあるの」
聖良「ええと……気を悪くしないで欲しいんですが、その……」
理亞「失礼なことを聞いてごめんなさい。でも……」
聖良・理亞「「今私の目の前にいるのって……」」 .
「「本当に、ネエサマ??」」
「「本物の、リアナノ??」」
…
……
………
「……はあ。せっかく、忠告までしておいたんですけどね」
「ちゃんと自我を強く持て、と。確固たる意志を持て、と。
間違っても『お前は誰だ』と、自己を揺らすようなことを言うのは絶対にダメだ、と」
「……忠告なんか関係ない。この二人があまりにも鈍すぎただけ」
「それは……そうなんでしょうけど。我ながら、呆気ないというか」
「というか、むしろ狙ってやっていたんじゃないの?」
「……やっぱりお見通しですか」 「さて、兎にも角にも……明日からの動きは大丈夫そうですか?」
「もちろん。いつも通り生活すればいいんでしょ?」
「ええ。私も普通に過ごします……変な失敗はしないように」
「そんなこと分かって……ふあーぁ」
「おや、もう眠いんですか」
「何だか、身体が疲れてるみたい」
「……では、そろそろ寝ましょう。明日も早いですからね」 .
聖良「……それでは、おやすみなさい。『理亞』」
理亞「うん。おやすみなさい、『姉様』」
『理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」』 終 貴重な支援や保守、ありがとうございました。
方向付けの重視をしながらとはいえ、内容やら口調やらで手こずり申し訳ありません。
あげくスレを落としたのも大問題でして……大オチもパッとせず、本当にごめんなさい。
そういえば。私事ではありますが、今回で累計五十話に届いたんですね
折り返しまで、なんだかんだ辿りつけたのは驚きです。
百物語の達成は、まあ……夢のまた夢な気がしますけど。
残り50話の完結はそれこそ文字通り話半分に受け取って頂ければ。
こんな感じですかね?
改めまして、読んでいただきありがとうございました。質問などあればどうぞ (q|`˘ ᴗ˘)乙 ノJ(`σ_ σ´リノし コレは乙じゃなくて姉様の髪型なんだから!…また読ませてね。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています