花丸「たとえそれが罪深いことだとしても」
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善子「あのね、花丸。私……」
善子「私、もしかしたら……ダイヤのことが好きになったっぽい……っ」
花丸(放課後の図書室、誰も居ない、マルだけの空間)
花丸(入ってきた善子ちゃんは夕日を絡めた色をしていた)
花丸(廊下を走った荒い吐息)
花丸(ふざけていない真っ直ぐな瞳)
花丸(驚きに戸惑うそんな堕天使を前に)
花丸(マルは落ち着いて本を閉じる)
花丸「知ってた」
善子「は……?」
花丸「凄く分かりやすかったから」ニコッ
善子「は……ちょ……え……///」
花丸「それで、善子ちゃんはどうしたいの?」 花丸(笑顔で、聞く)
花丸(優しく、聞く)
花丸(答えなんて分かっているのに)
花丸(聞く必要なんて無いのに)
花丸(善子ちゃんの友達だから、聞く)
善子「ど、どうしたいって、そりゃ……えっと……」
花丸「何も無くていい?」
善子「それは」
花丸(暗きに棲む生き物が初めて光を得たように)
花丸(迷い、躊躇い、困惑する)
花丸「先んずれば人を制す」
花丸「思い立ったが吉日」
善子「わ、分かってるけど……」
善子「怖いし」
善子「ダメだったら」
善子「そのあと元に戻れなかったら……」 花丸「……はぁ」
花丸(分かる)
花丸(分かるけど)
花丸「こういうときは勢いこそが重要ずら。善子ちゃん」
花丸(ダメだったとしても、きっと)
花丸「善子ちゃんは」
花丸「堕天使ヨハネは」
花丸「尻尾を巻いて逃げても良いけど」
花丸「殺がれた勢いは、戻らない」
花丸(後になって、こうしよう。そう思っても)
花丸(出来ない)
花丸(恋は落ちた瞬間だけが、追い風で)
花丸(後はいつも、向かい風だから) 花丸「別に、今の関係が好きなら――」
善子「……いや」
善子「いや、頑張る」
善子「頑張ってみる……怖いけど」
花丸「……そっか」
花丸(それがまるで対岸の火事であるかのように)
花丸(マルは読みかけの本をまた開いて、文字を追う)
花丸「なら、頑張って」
善子「あ、あのさ……花丸。それで、相談。なんだけど」
花丸(元からそのつもりだったんだと思う)
花丸(善子ちゃんはページを捲ろうとする私の手を掴む)
花丸「マルじゃないとダメ?」
善子「花丸なら、恋愛小説とか読んでそうだし」
花丸「事実は小説よりも奇なり」
花丸「恋愛小説が役立つとは限らないずら」
善子「それでもいいから、お願い!」 花丸(なんでマルなのか)
花丸(千歌ちゃん達でも良いじゃないかと)
花丸(思いながら)
花丸(けれど。と考えて頷く)
花丸「分かった。少しだけ乗ってあげるずら」
善子「さすが花丸!」
花丸「頼りすぎてもダメずらよ〜」
善子「分かってるって!」
花丸「あと図書室ではお静かに。ずら」
善子「は、はい……」
花丸「誰も居ないけど」 善子「まず、ダイヤになんて言――」
花丸「そういうのは変に格好つけると雰囲気が台無しになるよ」
花丸「漫画やゲームみたいに格好良く」
……グイッ
善子「っ!」
花丸「俺のものになれよ」ボソッ
善子「ちょ、花丸……」
花丸「とかやってもはぁ? というのが正直な感想ずら」
花丸「もちろん、そう言うのに憧れていたり」
花丸「相手が初めからそう言う対象で見てくれているなら別だけど」
花丸「ダイヤさんは?」
善子「違う……」
花丸「そう。特にダイヤさんは普段厳しいけど」
花丸「相談事の時とかは優しいし、気を張って真面目に構えてくれてるから」
花丸「ふざけないでくださいな。とか、言われるずら」 花丸「もっとも、ダイヤさんのことだから」
花丸「それえ混乱させられれば」
花丸「上手くいく可能性もあるけど」
善子「それは、ちょっと……」
善子「ちゃんとした判断での答えが欲しいし」
花丸「なら、真っ向勝負」
花丸「ベタに下駄箱に手紙を仕込んで生徒会室」
善子「手紙……ね。名前は?」
花丸「書けば告白までの時間が気まずくなるけど」
花丸「ダイヤさんの視線を感じたりするとひょっとするかもっ」グッ
善子「んなゲームみたいな」 花丸「その一方」
花丸「名前が無ければ匿名になる」
花丸「真面目なダイヤさんは来てくれると思うけど」
花丸「何よりもまず不安な気持ちになっているはず」
花丸「そこを善子ちゃんでしたーっていう安心感で包むことができるずら」
善子「それ――」
花丸「これは雰囲気作りの一環」
花丸「名前を書いて意識させて予め考えてもらうのと一緒」
花丸「そこで善子さんがわたくしのことを……と、心拍数上昇」
花丸「ドキドキしているダイヤさんに告白する」
花丸「なお、この場合は高確率で答えが後日になるから」
花丸「断られる可能性も必然的に上がるずら」ニコッ
善子「ダメじゃないそれっ!」 花丸「ダイヤさんにはシンプルで一直線」
花丸「マルはそれをお勧めするかな」
善子「シンプルかつ、一直線」
善子「手紙で呼び出して、ただ好きになった。って、言えば良いのね?」
花丸「そうずら」ニコッ
花丸(笑う笑う、笑う笑う)
花丸(吐き気がするほど笑ってみる)
花丸(善子ちゃんは何も分かってない)
善子「なるほど……」
花丸(マルが何で承諾したのかなんて)
花丸(ちっとも分かってない)
花丸(さっさと失敗しちゃえば良い)
花丸(ここに善子ちゃんが来たときからずっと)
花丸(そう思ってることなんて分かってない)
花丸「…………」 善子「そしたら、答えを聞いて……」
花丸「違う」
善子「え?」
花丸「両思いの時は、分からないけど、違うなら基本的に分岐する」
善子「分岐?」
善子「どういうこと?」
花丸「ダイヤさんはきっと、善子ちゃんの告白の後にこう言うはず」
花丸「どうして……そう思ったのですか? って」
善子「……っ」
花丸「そこで詰まったらダメ」
花丸「迷ったらダメ」
花丸「躊躇ったらダメ」
花丸「自分の理由をちゃんとぶつけないとダメ」
花丸「たとえダイヤさんが口を挟んでも、自分は恋愛的に好きなんだと」
花丸「それを貫き通す必要がある」
花丸「出来る?」 善子「……」
善子「うー……///」
善子「や、やってやるわ!」
善子「どうせ告白するんだから」
善子「いけるところまでいってやるし!」
花丸(善子ちゃんは真っ赤な顔で、答える)
花丸(勢いの有り余った大きな声)
花丸(マルが出来なかったこと)
花丸(できなくなってしまったこと)
善子「そうと決まったら、手紙を用意して……」
善子「ちゃんとしたやつ買わなきゃ……」
善子「あーもう!」
善子「やること多い!」
花丸「善――」
善子「ありがと花丸!」ニコッ
善子「私、頑張ってみる!」ダッ
花丸「……」ハァ 花丸(善子ちゃんが居なくなって)
花丸(一人の図書室)
花丸(読みかけの本を閉じて、ため息)
花丸(嵐が去った後の空虚な切なさは)
花丸(胸が痛くなるから、嫌い)
花丸「……善子ちゃん」
花丸「別に、告白しなくても良いんだよ」
花丸「ちがう、ずら」
花丸「しないでよ」ポロポロ
花丸「……しないで」
花丸(対岸の火事なんて大嘘だった)
花丸(対岸だと思っていたのは)
花丸(ううん、そう思い込もうとしたのは川に映る後ろの景色)
花丸(そう、燃えていたのはマルの家だった) 花丸(次の日、善子ちゃんはダイヤさんに告白した)
花丸(勢いが大事)
花丸(そう話したから)
花丸(ダイヤさんは凄く驚いていたけれど)
花丸(快く、受け入れてくれたらしい)
花丸(……)
花丸(そして、ダイヤさんと善子ちゃんの交際が始まった) ◇図書室◇
ルビィ「花丸ちゃーん」
花丸「ルビィちゃん、ここは図書室だよ」
ルビィ「あっ」
ルビィ「ご、ごめんね」ヒソヒソ
花丸「無人だけど」ボソッ
ルビィ「聞こえたよっ!」
花丸「……はぁ」
花丸「それで、どうかした?」
ルビィ「どうかしたというか」
ルビィ「どうも出来ないと言うか」
ルビィ「……居場所がない」 花丸「だからといって」
花丸「ここにこられても困るずら」
花丸「マルは愚痴聞き屋じゃないから」フイッ
ルビィ「そんなぁ……」
ルビィ「花丸ちゃんまで……」
花丸「善子ちゃんから聞かされ」
花丸「景色として見せられ」
花丸「さらにルビィちゃんからも聞けと?」
花丸「マルは拷問を受けるような」
花丸「悪いことはしてないずら」 ルビィ「拷問は言い過ぎじゃないかな……」
ルビィ「あっ」
ルビィ「でも、キリストさんは良い人なのにーー」
花丸「マルは仏教だから関係ないずら」
ルビィ「花丸ちゃん……」
ルビィ「……」
ルビィ「ねぇ、花丸ちゃん」
ルビィ「何かあった?」 花丸「なにもないよ」
ルビィ「でも、花丸ちゃん」
ルビィ「お姉ちゃんたちの事があってから」
ルビィ「いつも一人になりたがるし」
ルビィ「話しかけても冷たいし」
ルビィ「ふきげーー」
バンッ
ルビィ「っ」ビクッ
花丸「ルビィちゃん」
花丸「ここはどこ?」
花丸「マルは何してる?」
ルビィ「え……?」
ルビィ「えっと、図書室……あっ」
花丸「分かったら、静かにして」 ううう...
よしまるもダイよしもダイルビも幸せになってほしくて困る ルビィ「……」
ルビィ「やっぱり」ボソッ
ルビィ「は、花丸ちゃん。あのね」
ルビィ「ルビィはーー」
ガタンッ
ルビィ「っ!」
花丸「図書室を締めるから出ていって」
ルビィ「花ーー」
花丸「出ていって!」バンッ
ルビィ「!」
花丸「……わかってるなら、出ていって」
ルビィ「……」
ルビィ「……ごめんね」 タッタッタ…
ガラッ
カタンッ
タッタッタ…
花丸「……」
花丸(ルビィちゃんがいなくなるのを目で追い、耳で追い)
花丸(一人になってため息をつく)
花丸(らしくない)
花丸(わかってる……わかってるずら)
花丸(でも)
花丸(でも、どうしようもないから)
花丸「……八つ当たり、しちゃった」
花丸「ごめんねは……マルの言葉だよ」 花丸「……」
バサッ
花丸「?」
花丸(そんなときに、一冊の本が棚から落ちた)
花丸(表紙の擦りきれた古そうな本)
花丸(いや、それは本というには薄い)
花丸「誰の……?」
花丸(一冊のノートだった)
花丸「名前は、ない」
花丸「中は……」
パラパラ…
花丸「ぼろぼろで読めない……」
花丸「でも」
花丸(たった一文、奪ったのは彼女。という)
花丸(刻まれた文字だけは、読めた)
花丸(奪った……)
花丸(そう……奪ったのは……)
花丸「……っ」フルフル
ポイッ
花丸(ノートを棄てて考えを振り払う)
花丸(奪い返せば良い)
花丸(そう考えてしまいそうだったから) ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています