善子「うわっ……雨降ってるじゃない……」
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善子「傘持ってきてないのに」
降水確率は中の下
以前同じ予報の時に持っていって使わずじまいで荷物だったから
そう考えて持ってこなかったのに
善子「……なにこれ」
ーーザーッ
滝のような降水量……もはや雨じゃない
善子「こんなの走れすらしないじゃない」 善子「ったくもう……不幸だわ……」
みんなの前ならさすがヨハネとでも言うけれど
一人きりともなればそんな気丈さも要らなくて
悪態についでため息数回
善子「さっさと帰りたいのに」
今日は生放送の準備をする予定で
その為の買い出しにきたら、これだ
もちろん予定をずらせばいいけれど
ライブの練習もあるからじゃぁ明日とも言えなくて
善子「不運ここに極まれり…なんて」 愛犬家愛猫家のアレルギーに対する配慮の欠如は異常
特に地域猫とか禁止しろよマジで 善子「はぁ」
数えるのを止めた溜め息
雨粒に撃ち落とされていく葉っぱと堪え忍ぶ葉っぱ
ざあざあと代わり映えしない半透明のカーテン
歩行者は愚か車さえまばら中、
それはもう暖簾を潜るようにごく自然と雨を凌ぎながらやって来た
果南「善子ちゃん。こんなところでなにしてんの?」
善子「雨宿り……見て分かるでしょ」 少し大きめの傘一本さして、たたずむ先輩、松浦果南
私が雨宿りしてるってわかっているのに言うものだから
つい、強い口調で返してしまう
果南「どこまでいく?」
善子「え?」
果南「なーに驚いてんの」
果南「同じ部の仲間でしょ?」
果南「見捨てたりしないって、ほら」
だから、反応が遅れて
心許ない建物の影
座り込む私に向けられた手を私は暫く呆然と見つめて
間が空いた気恥ずかしさに私は結局掴まることなく立ち上がった 果南「濡れない?」
善子「平気」
まるで二人しかいないかのような空間での小さな会話
チラッと果南さんの方を見ると少しだけ肩が濡れてて
言うか迷って、出るのは溜め息
善子「そ……そっちは、どうなのよ」
果南「ん?」
善子「だから、濡れないのかって……」
正直者が報われる世界なら
きっと私が報われることはないと思った 果南「平気だよ〜」
善子「でも」
果南「平気平気、わたしは慣れてるし」
確かに、果南さんは海の女というか
常に海と戯れているような気がするけど
でもそれとこれとは違う気がする
いや、違うでしょ
善子「そんなに離れなくてもいいでしょ」
善子「もうちょっとくっつけば入りきるんだから」
言いながら強引に体を寄せると果南さんは少しだけ驚きながら
善子ちゃんが良いなら良いけどね。と笑う 果南「そういえば、なんであんなところにいたの?」
善子「買い物」
善子「ちょっと……私用で」
花丸達ならもはや隠す意味もなく生放送の件だと言えるけど
なんとなく笑われるような気がして誤魔化すと
果南さんはそっか。と結局笑いながら答えて
果南「わたしも買い物があったんだよね〜」
果南「まぁ、売ってなくて買えなかったんだけど」 善子「ふーん」
善子「……」
何が買いたかったのよ
そう言おうとして、でも言葉がでない
思えば部としての絡みはあったけど、
個人的な絡みは殆んどない
だから……
善子「その程度ならまだまだね」
善子「私はたまたま傘を持たなかっただけでこれよ」
善子「ま、まぁ。それも私が堕天使だからこそなんだけど」 果南「堕天使……?」
果南「あぁ、ヨシコか!」
善子「ヨハネよ!」
善子「ヨシコじゃそのまんまじゃないっ」
善子「わざとでしょ!」
果南「ごめんごめん、ジョークだよ」
果南「イッツ・ジョーク」
まるでマリーのような言い方だ そこでマリーの真似?とでも言えれば良かったかもしれないけど
ちがかったらなんか恥ずかしいというか
ヨハネ名乗りながらなに言ってんだと思うけど
スベるトラウマは優しくなくてなにも言えなくて
果南「……」
果南「……ブッブーデスワ」
善子「っ」
果南「切ないずら」
善子「……も、物真似、してたりする?」
ちょっと照れ臭そうに笑って遅いなぁとぼやく果南さんは
普段よりもなにか違って見えた そこからは無言だった
果南さんは果南さんでなぜかした物真似が私にスルーされてたからか
ちょっと寂しそうな感じで
私はそんな先輩になんて声をかけていいのか解らなくて
そんなとき激しい雨音に混じって
ばしゃばしゃという騒音が車道から聞こえてきて
善子「あ」
これは水をかけられるなと、直感した
いつものこと、私らしい日常
ふわりとする思考、諦念抱いて動く気のない体
そして、目をつむったーーけど
善子「なっ」
感じたのは冷たい水ではなく
力強く手が引っ張られていく引力と
ぐっと包む少し柔らかくて暖かい抱擁力
果南「あっぶないなぁ……」
車が走り去って行く中、果南さんの声が聞こえた 善子「ちょ……」
果南「いやー危なかったねぇ」
清々しい笑顔で果南さんは笑う
びしょびしょに濡れたまま
善子「びしょ濡れじゃない!」
果南「慣れてるし」
善子「そういう問題じゃないわよ」
果南「だいじょぶだいじょぶ」
善子「良いからっ」
もはや濡れきって傘なんて無意味な果南さんの手を掴んで
強引に私の家の方まで引っ張っていく
善子「そのまま帰ったら周りに迷惑でしょ!」
果南「マイモービルだから」
善子「なら危ないでしょ、良いから来なさいよ」
善子「それとも、私のところじゃ不満?」
果南「そういう訳じゃないけど……」
それでも嫌そうに見える果南さんをじっと見つめていると
不意に折れて、わかったよ。と
素直についてきてくれるようになった 地の文は途中で改行する場合、行間開けない方が読みやすい気が
>>1の好きにしてくれていいんだけどね 果南「運がいいねぇ……」
いやいやだった雰囲気はどこへやら
ほんわかとした表情で果南さんは息をつく
二人で入るには手狭な浴室には
その声は少し大きくて
善子「……確かに、お風呂をやっててくれたのは嬉しいけど」
善子「どうせなら迎えに来て欲しかった」
もちろん、行こうとしてくれたみたいだけど
お風呂をやった分出発が遅れて
その間に私達が帰ってきちゃったのよね
あそこで果南さんを引っ張らなければ……車で帰れたかもしれない 果南「……でもわたしはちょっと嬉しいよ」
善子「なんで?」
果南「ほら、わたし達って考えてみたらそんなに繋がりないなーって」
果南「だから」
果南「だからあそこで気遣ってくれたのは素直に嬉しかったよ」
善子「……まぁ、そうだけど」
善子「先に気遣ってくれたのはそっちだし」
善子「あれは私の不運を庇ってのやつだし」 なんだか言い訳のような言葉だった
止めたシャワーの蛇口からぽたぽたと雫が滴って
私達の言葉の間を繋ぐ
善子「だから、当然のことだったというか」
善子「そういう、あれで」
果南「じゃぁさ」
私が言い切る前に果南さんは口を挟む
果南「善子ちゃんの不運のお陰でこうなれたわけだ」
それが本当に嬉しそうな笑顔だったから
私はそうじゃない。って否定をできなかった 果南「本当は少し気になってたんだよ」
果南「あ、もちろん変な意味じゃないよ?」
私が何も言わなくても
ううん、言わなかったからかもしれない
果南さんはハッとしたように否定して苦笑する
最初の頃の気まずさはそこまで感じなくなってきているから、良く見るのか
それとも今だからなのか
果南さんは良く笑ってるのが目に入る
果南「ルビィちゃんやマルちゃんとは話すけど、善子ちゃんはあんまりで」
果南「……なのに話そうって意識すると話題さえ見つけるのが難しくてさ」
果南「今日、偶然善子ちゃんを見かけたとき。大雨の中で歩いてて良かったなーって思った」 私が傘を持ってなかったから
果南さんが傘を持っていたから
それは、私達が接触する機会になってくれるから
果南「なのにさ、あれだよ?」
果南「思い返すと自分でもアレは無いよーって思うよ」
多分、あの物真似のことだろうと思い出すと
丁度果南さんはあんまり似てなかったしねーと
自虐気味に続けて笑う
まぁ、確かに あんまり似てなかったけど
私との会話を探してしてくれたのに、不可抗力とはいえ
無視したような感じになっていたのは申しわけないなと、思う 果南「そこに、善子ちゃんの不運で車が来て、水かけられて」
果南「すぐ終わるような時間が延長戦」
果南「そのおかげでさ、こうやって話も出来て」
果南「わたしは運が良かったなと思うんだけど」
果南さんはそういいながら私を見る
善子ちゃんはどう思った?
そんなことを聞かれている気がして
私は少し、考える
偶々持たなかった傘、大雨
偶然の出会いと、必然の車
でも、だからこそ、こうした時間になった
距離の遠かった果南さんと近付くことができた
善子「こんなの……不幸って、言えないじゃない」 不幸中の幸い……は違う
これはそう、怪我の功名
善子「私も、果南さんと話したいと思ってた」
善子「でも、きっかけがつかめなかったし」
善子「上手く言葉を選べなかった」
話そう。話そう
そう思うたびにもやもやとして考えられなくて。
果南さんと一緒だ
だからきっと
善子「私も果南さんが気になってたけど」
善子「似たもの同士なら、理由も似たものなのかも」 善子「花丸たちと親しいのに」
果南「鞠莉たちと親しいのに」
「「あんまり、話してくれないから」」
声が、重なる
善子「だから」
果南「気になってた」
「「自分のことは嫌いなのかなって」」
視線が、交わる
私が思わず笑うと、果南さんも少し恥ずかしそうに笑って
思った以上に似たもの同士だったね。と言う 善子「だから、良かった」
善子「ただ同じなだけなんだって分かって 」
善子「……」
日ごろの不幸がこの結果に繋がってくれたんだと思うと
不幸なのも悪くないと 少しだけ思えてくる
善子「ありがと……果南さん」
果南「果南でいいよ。その方が言い易いでしょ?」
善子「なら果南、私は――」
果南「知ってる。ヨハネでしょ?」
善子「ううん、善子でいい」
善子「特別、真名で呼ぶことを許可するわ」
果南「ありがと」
そう言って見せてくる 果南の笑顔
ほんのりと温かくしてくれるそれが好きなんだと、思った ひょんな事から1歩近づく感じがいいな
あんまり接点無いからいろいろと捗るカップリング 二人とも素朴な感じがして良い
気が向いたらまた書いてほしい ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています