ことり『小夜啼鳥協奏詩』
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ーーー小さい頃から隣にいて
いつのまにか好きになっていて
大切な思い出もたくさん作った
どんなときもずっと支えてくれた大切な人
最初で、最後の初恋でした
これはことりだけの心にしまう物語
静かに流れる悲恋のお話…… 好きになったきっかけは覚えていない
物心つく頃から一緒にいた
ちょっと引っ込み思案な所とか
時々見せるカッコいい所とか
弓をしてる時の凛々しい顔とか…
きっと好きな点を上げたらきりがないくらい好き
そんな海未ちゃんとスクールアイドルをやれたことはとっても嬉しかった 高校を出たあと、ことり達は初めて別々になった
ことりは夢を叶えるため
海未ちゃんは家を継ぐため…
会えない日々は少し寂しくはあったけど不安はなかった
大好きな服飾に打ち込めて時々大好きな人には電話ができる
そんな生活が五年続き、ようやく日本で仕事ができるようになった 会うのは卒業して以来
胸が高鳴らない訳がない
きっともっと可愛くなってるんだろうな
服沢山作ったけど気に入ってくれるかな?
そんな事を考えていると遠くからことりを呼ぶ声
海未ちゃんは高校の時みたいに、ううん
もっともっと綺麗になっていた こっちに少し駆け足で近づいて来てくれる海未ちゃん
ああ、その辺は全然変わってないな
その時急に司会が真っ暗になった
『だ〜れだ♪』
こんなイタズラをする人は一人しかいない
もう一人の幼馴染、太陽のような眩しい人 穂乃果ちゃんも一緒に来てくれたんだ
名前を呼ぶと今度は全力で抱きついてきた
もう、苦しいよ〜
その後ろでは海未ちゃんが優しい顔でことり達を眺めていた
ただいま、海未ちゃん、穂乃果ちゃん
……………………
穂乃果ちゃんが落ち着いたところでどこか食べに行くことになった
折角だしお酒も飲もうかな 沢山飲むぞ〜!と張り切る穂乃果ちゃん
明日も仕事でしょう! と怒る海未ちゃん
それに笑っちゃうことり
小さい頃からなにも変わっていない幸せな関係
そう、なにも変わっていなかった
ことりは勇気が出せずにここまで来ちゃったんだ 振り返れば恐れていたんだと思う
中学のときも、高校のときも
外国に行くときだって見送りに来てくれていたのに
ことりは勇気が出なかった
よく言っているのに本気で言えなかった
『好き』 たった二文字の言葉を
でも心のどこかでずっとこのままだと思っていた
きっと三人で集まって笑っても過ごしていくと
…そうはならなかった お酒は進み、色んな話題に飛んで行く
学生時代の話や仕事の話
近況報告も兼ねて沢山ファッションの話もした
離れていた時間を取り戻すよういっぱい、いっぱい
そして酒が進むとやっぱり恋の話になる
その話題を振ったとき海未ちゃんの顔が赤くなった なんだろう?
恋愛に奥手の海未ちゃんの事だ
ついに好きな人ができてしまった?
それとも誰かに言い寄られているとか?
頭の中がグルグル回っていることりを他所に二人はヒソヒソ話している
でもまだ取り戻せる、今度こそ私は一歩前に進むと決めたんだから
『ことりちゃん、実はね…』 きっとことりはこの日の事を一生忘れないだろう
夢だと思いたかった 幻だと思いたかった
けど、これは現実なんだ
ことりが勇気を出さない間に誰かに抜かされてしまった
この事実を受け止めなきゃいけないんだ
目の前にいる海未ちゃんの幸せそうな顔と薬指に光る物がそれをはっきりと示していた
指にキラリ光る、婚約指輪を 頭が真っ白なことりを他所に、教えてくれなかった理由を教えてくれた
きっと言ってなかった事を怒っていると思われたのだろう
二人の話によると
相手は貧乏な人で海未ちゃんの家柄もあり中々相談できなかったこと
その関係で口止めされていたこと
ついこの間プロポーズされたからこの機会に話すと決めたこと
聞けば納得できる話だ
確かに海未ちゃんの家系ならそんな問題もあるのだろう
それでも、それでも、それでも…
その瞬間、フラッと力が抜けた 目が覚めたらことりの家にいた
高校まで住んでいた家だ
頭がズキズキ痛む、飲み過ぎたのかも知れない
でも頭だけじゃなくて心も痛んでいた
さっきあったことを忘れてしまいたくて布団に潜り込もうとした
携帯がなる
何か、嫌な予感がする
それでも仕事関係かもしれないのでことりは見てしまった
さっきあったことは確かに現実だと証明する家まで運んでくれたメールだ
もう寝よう
今度こそ、ことりは深い眠りに落ちていった… 次の日
ゆっくりと体を起こす
正直あまり元気ではない
昨日の事で頭がいっぱいなんだ
仕事関係は片付けて来たので当分はお休み
誰かに会おうか
なんとなく頭に浮かんだ相手にメールを送る
『久しぶりに日本へ帰って来たんだ、今日会えないかな?』 程なくして、相手は家にやって来た
『本当に久しぶりやね、元気にしてた?』
希ちゃん、いつも一歩引いた場所で皆を見ていた人
卒業したあとも仲良くしていたので聞いてみたいことは沢山あった
だけど言葉が出なかった
ただ唇が震えているのだけが分かる
不思議そうに見つめ返す希ちゃん
ね、ねえ 何で…何で どうやって婚約者とあったの!?
なんで海未ちゃんは好きになっちゃったの!?
いつから付き合っていたの!?
ことりじゃ……ダメだったの?
口が止まらない
捲し立てるように言葉が出てくる
止めようとしても動いてしまう
希ちゃんからしたら唐突でビックリしたかもしれない
それでも希ちゃんは黙って聞いてくれた 希ちゃんはただ静かに抱き締めてくれた
ことりはいつの間にか泣いていた
後悔が止まらない
悲しみが止まらない
そもそも何に怒りをぶつけているかすら分からなかった
……………………
暫くしてことりが落ち着いた時に気づいた
海未ちゃんが好きなことを人に伝えたのは初めてかもしれない
ずっと一人で20年近く抱えていたものがようやく降りた
それが出来たときは、あまりにも遅すぎた それから海未ちゃんの話を沢山した
友達と恋バナは合わせるだけだったことりが
初めて自分の恋を話した
積もった思いも、もう届かないことも
そして私は人として思ってはいけないことを考えてしまった
とられちゃったんなら奪えばいいんだ
簡単なことだ
今のことりなら海未ちゃんに見合う事も沢山あるはずだ
収入も、容姿も、思い出も、何もかも
今のコトリナラデキルハズ そうと決まれば行動を始めよう
希ちゃんは気づいたらいなくなっていた
いついなくなったか分からない
けどそんな事はどうでも良かった
どうやって私のものにしようか
きっと海未ちゃんは忘れているだけ、騙されているだけ
優しいから、疑えないからそう思わされているんだ……
そんな事を考えていると一件のメールが来た
海未ちゃんからのメールだ
世界で、誰よりも、一番に愛してる海未ちゃんからのメールだ 電車内で女性のスカートの中を盗撮しようとしたとして、朝日新聞東京本社報道局スポーツ部記者、
増田啓佑容疑者(35)=東京都文京区=が都迷惑防止条例違反(盗撮)容疑で現行犯逮捕されていたことが、警視庁三田署への取材で分かった。「数カ月前からやっていて、やめられなかった」と容疑を認めている。
逮捕容疑は7日午後4時半ごろ、JR山手線田町−浜松町間の電車内で、小型カメラで20代くらいの女性のスカート内を盗撮しようとしたとしている。
同署によると、増田容疑者は小型カメラを紙袋に入れ、女性のスカート内に差し向けていたという。男性が目撃し、110番通報した。増田容疑者はこの日、仕事が休みだった。
同社広報部は「記者が逮捕されたことを重く受け止めている。事実関係を確認したうえで厳正に対処する」とコメントした。
https://mainichi.jp/articles/20171108/k00/00e/040/281000c 「すみません、急に呼び立ててしまって」
気にしないで海未ちゃん
海未ちゃんが呼ぶなら世界の果てからでも飛んで行くよ?
それにしてもお休みの日に連続でことりの所に来るなんて
やっぱり思ってた通りなんだ
今こそ伝えなきゃいけない
ただの言葉じゃ足りない想いを
やっと話せるようになった想いを
そう伝えようとした時
想像外のお願いが飛んできた
「私のウエディングドレスを作ってくれませんか?」 へ?
うえでぃんぐどれす……?
すぐに言葉を飲み込めなかった
「そうです、 急で申し訳ないのですが…」
遠い昔に同じ言葉を聞いた気がする
二人で交わした、大切な約束
いつだったっけ
あれは小学校に入ってすぐの時
そうだ、あの時だ ーーーーーーーーーーーー
ことりはいつも絵を描くのが上手ですね
うん! しょうらいはふくをつくるんだ〜♪
そうなんですか じゃあ私のふくも作ってくれますか?
うん! かわいいウエディングドレスを作るね! ぜったいきてよ!
わかりました やくそくですよ
うん! やくそく…
ーーーーーーーーーーーー ああ…… 覚えていてくれたんだ
小さい頃に交わした取るに足らない約束を覚えていてくれたんだ
その約束が少しだけズレていたんだ……
今の海未ちゃんはことりのものじゃない
どこか誰かが幸せにしてくれているんだ
そんな幸せを少しでも支えられるなら
作るよ
世界一素敵なウエディングドレス 私は家に帰るなり私は服のデザインに取りかかった
今までに一番の、大切な人の門出を祝う一着を作るんだ
そう思うと気合いが入った
やれるだけ完璧にしよう
想いを捨て去れるくらい完璧なものを
とにかく多くのアイデアが欲しい
今までかいた数百冊のスケッチブック
その全てを洗い出すことにした これも違う… これも
沢山のアイデアが詰まったスケッチブック
そのどれもが今のイメージに入らなかった
少し焦りが出てきた時 いつものスケッチブックとは違うノートが出てきた
どこにでもある、普通の大学ノート
けれどタイトルになぜか惹かれた
小夜啼鳥協奏詩……?
何のノートだろう 中を見てすぐに思い出した
これは中学の時に書いたポエムのノートだ
海未ちゃんに感化されて少しだけポエムを書いていた時期があったんだ
中には海未ちゃんへの思いが詰まった詩が沢山かかれている
そうそう、この時期は海未ちゃんポエムがマイブームになってたんだね
本当はこのノートなんか置いといて他のスケッチブックを見なきゃいけないのに
1ページ1ページ、ノートをめくっていた もう夜だぞって言おうと思ったらしっかり戻ってきてた 静かに夜は更けていく
部屋のなかでただページをめくる音だけが聞こえる
きっと一番純粋だった頃の嘘偽りない気持ち
それが沢山込められていた
楽しいことを分かち合いたい
悲しいことを聞いて欲しい
苦しい気持ちを背負ってあげたい
自分を確かめるように文字に目を通す
心の中で新しい決意が固まってゆく
きっと次が最後のチャンスだ
そう思えた 服を作り始めて数ヶ月
日本に来るタイミングで海未ちゃんを呼び出した
名目は試作品を来てもらうこと
その言葉は嘘じゃない
もうひとつの目的は相手を見定めること
告白されてから暫く、話しには聞いていたが顔を合わせたことはなかった
どんな人なのだろうか
色んな気持ちが混ざっている
いい人であって欲しかったのか
救いようのないダメ人間であって欲しかったのか
分からなかった 少しでも嘘があれば問い詰めてやる
少しでも邪な気持ちがあれば引き裂いてやる
例え猫を被っていても引きずり出す
そんな覚悟を持って望んだ運命の日
二人がやって来た
さあ本性を見せて
貴方は本当に……
海未ちゃんを幸せにできるの? 隣にいる人を一目見ただけで分かった
分かってしまった
婚約者の目はどこまでも真っ直ぐな目をしていた
仕事で何百何千の取引先やお客様を相手にしているから分かってしまった
どこか不器用でそれでも偽りのない
海未ちゃんに似ていて、お似合いで
幸せにできると直感してしまった
それを感じてしまったことが
堪らなく悔しかった 試作品を受け取った海未ちゃんは別の部屋へいく
それを見送り、婚約者の目を見つめた
もちろん婚約者の瞳にはことりが映っている
ことりと何が違ったんだろう
前に踏み出す勇気だと思っていた
でも、それだけじゃなかった
ことりは何処かで海未ちゃんはことりのものだと思っていた
けど婚約者は違う
婚約者は海未ちゃんを思いやる気持ちを痛いほど感じられた
ことりも持っていたはずの相手を思いやる気持ち
それを失ってしまったことが
ことりとの差だったんだね 海未ちゃんが戻ってくる
海未ちゃんは恥ずかしそうに、それでいて幸せそうに服を見せる
そこには妬みや偽り、恨み辛みなんて一切ない穏やかな空気が流れていた
婚約者もそれに笑顔で答えている
もうここにことりの居場所はない
大切な人の幸せを壊したくない
今日からは親友として会おう
初恋から十数年
ことりが園田海未を諦めた瞬間でした ことりが二人と別れて数時間
私は大きなピアノのある一室に来ている
かつてメンバーだった、真姫ちゃんの私室だ
『頼まれていた仕事、完成したわ』
そうぶっきらぼうに言いながら数枚の紙を差し出した
そこにはことりの書いていたポエムに音符が乗っていた
ことりが想いを込めた海未ちゃんへの言葉が詰まった歌だ
だけどこの歌にはことりが持っているノートのとは違うところがある それは二部重奏になっていること
本来はことりと海未ちゃんで歌いたかった曲
だから音程は一つで十分だった
だけど婚約者に合わせて少し低音と高音の二部に変更
本来無かった部分に一パートしっかりと書かれていた
それはことりと海未ちゃんが別々の道を歩んでいく思いも込められていて…
本当に良かったの?と言いたげにことりを見ている真姫ちゃん
もしかしたらずっと前から初恋の事を知っていたのかもしれない
でもゴメンね、もう決めたの
ことりも変わらなきゃダメだって そう考えるとこの『小夜啼鳥協奏詩』は曲名として相応しくないのかも
変わるために、変えなきゃいけない
ことりが海未ちゃんのために書いた曲で今は二人のために変わっている
何がいいんだろう
海未ちゃんに込めた想いを一言で表せるもの
そうだ
新しい曲名は… 結婚式当日
仕事の予定をすべて断り三度日本へ帰って来た
前と違ってとても晴れ晴れな気持ち
頼まれた衣装も過去最高に仕上げた
溜め込んだ想いも全て吐き出した
そして作った歌も二人に渡した
もう悔いなんてない
ことりは式場に入る
懐かしい面々が迎えてくれた
高校時代と変わらない、温かい時間
後は式が始まるのを待つだけだね 『新郎新婦 入場です』
大きな拍手と共に新たな一組の夫婦が入ってくる
海未ちゃんはやっぱり綺麗だった
ことりの全ての技術と気持ちを込めた最高のウエディングドレス
それに飲まれることなくバージンロードをしっかりと歩んでいた
ことりも誰にも負けないくらい拍手を送る
この幸せが少しでも長く続くように
ことりの決断が間違いじゃなかったと願うように
ただ拍手を送る 『汝は夫である…』
誓いの言葉が始まる
健やかなる時も、病めるときも
どんな障害も二人で乗り越える誓いの言葉
その問いに対して
『誓います』
とはっきり答える海未ちゃん
新郎も同じように答え 誓いのキス
ことりは静かに二人を見ていた
二人なら苦難を乗り越えてゆける
穂乃果ちゃんなんて涙で顔がぐちゃぐちゃになっている
ことりも泣いてしまった
頬を一筋だけ、流れていった その後、二次会が行われた
厳粛な結婚式とは違い楽しくわいわいと騒ぐ時間
それぞれ思い思いの時間を過ごしている
感動の涙は引っ込み、ことりも笑顔が戻っていた
……そろそろ時間かな
『今から南ことりさんから受け取った歌を歌いたいと思います』
そう海未ちゃんが言うと穏やかなイントロが流れる
二人は近づき、歌い始めた 最初に海未ちゃん
次に新郎さん
そして二人で歌っていく
二人の声は息ピッタリでとても美しかった
ことりが想っていた言葉が二人の口から歌われている
ことりが海未ちゃんを想っているように
二人はお互いを想って歌っているのだろう
覚悟していたのに、もう悔いはないはずなのに
最後まで聞くことが出来なかった
ことりは二番が終わった間奏の間にこっそり会場を後にした
扉の向こうでは最後のサビが流れる 嬉しいから会いたいよ
寂しいから会いたいよ
楽しい悲しいそして
会いたくなるんだ
どんなときも
会場から大きな拍手が聞こえる
心なしか二人の笑い声も聞こえた
おめでとう海未ちゃん
幸せになってね
おしまい 海未視点も書きたかったけど結婚相手が伏せにくくなっちゃうジレンマ
お相手はご想像にお任せ
上手く書けそうならまた書く
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