善子「例えばダイヤが欠けたとしても」
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その日は酷い雨が降っていた
傘に打ち付ける雨粒は重く激しく穴が開きそうなほどで
思えば、そんな悪天候だからこそ私はその路地に目を向けたのかもしれない
建物の隙間、滝のように流れ落ちる水の壮大さが幻想的で
自分以外の存在を聴覚的に遮断する空想感が
この大雨は私の力ー不幸ーが働いたもののような気がしたから
善子「ぁ……」
そこに、欠けたダイヤが落ちていた
不純物が混じり、傷のついたダイヤが。
何をしても、それはもう手遅れだった 果南「どういうこと……?」
善子「知らないわ」
壁が崩れそうなほどに強い衝撃音が横から響いて
二つ上の先輩の険しい表情がグッと近づく
でも、そんなことされても嬉しくない
心が踊るわけがない
動じるわけもない
善子「知らないわ」
私は何も知らないから
一つの宝石の価値が失われた事くらいしか
私にはわからないから 患者名、黒澤ダイヤの病院の一室
面会謝絶の掛札がついたその扉の奥から轟く悲鳴に混じり男女の緊迫した声がする
出てきた白衣の彼は言う。暫くは安静に
出てきた白衣の彼女は言うが、誰の耳にも届かない
そしていかにもな風貌の男女が現れ手帳を見せる
残念ですが。そう答える白衣の二人から目をそらした彼らは私を見る
「君が、津島善子さん?」
首肯する。何が聞ける訳でもないけど 善子「見たのはそれだけです」
欠けたダイヤ、不純物が混じった無価値なダイヤ
どうしようもない砕けたダイヤ
善子「…………」
酷い雨が降っていた
練習をすることはなかった
だからダイヤが沼津に落ちているのがおかしい
私には関係がない
私の不幸より、不幸だっただけ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています