千歌「スクールアイドル?」
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桜の季節。
それぞれの客室にあったコタツや電気ストーブの片付け。
長持ちさせるために、汚れや埃をしっかりと拭き取ってから、押し入れへ運ぶ。 最後には自分の部屋のコタツをしまう。
…。
千歌「お母さーん、まだ寒いしコタツ出しておいていい?」
母「駄目だって言ってるでしょー。毎年聞くんじゃありません」
千歌「いいじゃん減るもんじゃないし」
母「手伝いの時間が減ります。春までコタツに潜り込まれたら溜まったもんじゃないわ」
千歌「なら一層置きたいんだけどー」
母「お小遣いも減ります」
千歌「ええー」 お母さんのけちんぼ。
ああ、愛しのコタツみかんともお別れだね。
コタツムリのことも忘れないよ。 押し入れと言っても一部屋を収納スペースにしてあるから、一通りの季節ものから年に一度限りのイベントのものまでなんでも置いてある。
そういう意味で、来るたび新鮮さを感じる部屋。
何度来ても見慣れない、不思議な感じ。
ちょっと煩雑としてて埃っぽいけど、お気に入りの場所なんだ。 千歌「よっこらしょっと」
マイバディー(コタツ)を置く。また来年だね。
と、置いた衝撃か、視界の端で何かがふわりと落ちた気がした。
近寄って手にとってみる。白い鳥の羽。
募金? 視線を上けて、ここから落ちてきたであろう、ぎっしり詰まった本棚を眺めてみる。
千歌「う〜ん」
どうしてこんなものが本棚から?
事件の予感。
千歌気になります。
腕組みして本棚とにらめっこを開始した。 夕食後、居間で集中して雑誌を眺めていると、姉の美渡姉がからかってきた。
美渡「お、珍しく集中してんじゃん。何読んでるの?」
千歌「うるさいなあ」
大分熱中してるので適当に返事をする。
あと珍しくなんてないし。 美渡「なんか黄ばんでんなあ。なになに。マイクロズ?スクールアイドル?」
千歌「ミューズ。石鹸じゃないから」
美渡「何、急にアイドルヲタにでもなった?」
千歌「違うし」 美渡「アイドルはやめとけー。なんてったってこんなド田舎じゃせいぜい指くわえて画面越しだぞー」
千歌「だから違うし!μ'sって高校生のアイドルだよ?自分たちで活動はじめて学校救って日本一位になっちゃうんだよ?普通のアイドルとは一線を駕す存在?可能性の塊?」
美渡「うわこれ相当お熱だ」 千歌「もう!取り敢えず馬鹿にするなら読んでからにすることだよ、μ'sはね」
母「あら、懐かしい単語が聞こえてくると思ったら」
突然お母さんが割り込んできた。
母「よっこらしょっと」
雑誌の目の前を陣取るなり、どこか遠いあたたかい目で眺め出した。
あ、これもしかしてお母さんの? 母「スクールアイドル…懐かしいわあ…」
ブツブツニヤニヤするお母さんに訪ねてみる。
千歌「この雑誌ってお母さんの?」
母「え?ああ、押し入れにでもあったの?よく探してきたわね」
やだ怖い何このブツニヤお母さんデレてる。
普段なら、勝手にこんなもの持ち出して!コタツはしまったの⁉とか怒鳴り出すのに。
あれ?何か忘れてるような…。気になったことがあった気が。
美渡「ああ、母さんのだからそんな年季が」
母「あ?もう一度言って頂ける?」グリグリ
美渡「いでででで!」 角がかなりまるまってるし、印刷も薄い。それに黄ばみ。
雑誌の裏を捲って日付を探していると、お母さんが言った。
母「スクールアイドル、μ's。一部始終を一冊にまとめた集大成。相っ当にレアよ?買ったのは、高校3年生の頃だったかしら」
そうすると、ええと40年くらい前? 母「日本で知らない人はいない程名を馳せてた、世界にすら進出してた。ほんっとうに輝いてたわ。思い出すだけで興奮しちゃう」
千歌「そんなにすごかったの?」
母「それはもう。ブームとかそんな生易しいものじゃなくて、社会現象と言っても過言ないくらい」
その割には一度も聞いたことないな。世間に詳しいかと言われるとあんまりTVも見ないけどさ。 でもこの雑誌の写真見てると、わかる気がする。
ステージで踊ってるμ's9人の笑顔。
どう表現すればいいのか分からないけど、キラキラしてる。
一切の憂いの無いその笑顔。何か、一つのものを見ている…彼女達だけの正解に満足しきったような。
とにかく、惹かれる何かを感じる。 目指したい。
千歌「スクールアイドル、か…」
なんだか美渡姉がからかっていたけど、返事するも忘れて考え込んだ。 翌日。
今日は入学式
晴天に恵まれたこの良き日にここに入学式を何とやら。
桜は見事に満開で、これからの期待と不安をに胸をときめかせるあれ。
とは言っても、私達三人は今日から二年生。
まあ、幕開けには持ってこいの日和だよね。 二人の親友、曜ちゃんと梨子ちゃんに尋ねる。
千歌「ねえ、曜ちゃんと梨子ちゃんは部活に入る予定あるの?」
曜「ん?私はないよ。今更だし、プールで泳いでる方が有意義だし」
梨子「私も特にはないけど。千歌ちゃんは入りたい部活あるの?」
千歌「スクールアイドルって、聞いたことある?」
曜「スクールアイドル?」
梨子「聞いたことないな」
???「…」 昨日徹夜てインターネットを使って調べまくったμ's&スクールアイドルについての情報を弁舌しながら、教室に到着。
自分の机に集めて、昨日お母さんから拝借した例の雑誌(事細かに扱う上での注意を受けたものの、ニヤニヤしながら貸してくれた怖い)を広げると、その内容に感動してか『おお』と感嘆の上げてくれた。
二人とも興味がないという訳ではなかったものの雑誌を見ることでより私の気持ちを理解してくれたみたい。 曜「で、千歌はスクールアイドルをやってみたいと?」
千歌「まあ、そうだね、なんかまっすぐ言われると恥ずかしいけど…」
むずむずする。背中とか掻きたくなっちゃう。
曜「いいんじゃない。青春って感じで」
千歌「おお、さすが曜ちゃん、サッパリしてる!」
曜「ミカンと塩水(海)しかない鄙びた青春過ごすよりずっと楽しそうじゃん?」
千歌「よっ、曜ちゃん爽やか海オンナ!」 ちょっと曜ちゃんの言い方は他人事に聞こえるかもしれないけどこれは曜ちゃんの癖で、大抵のことは賛成してくれるし、どんなワガママも有無言わずについてきてくれる。
何度かワガママ言ってる気がして心配になって聞いたけど、曜ちゃん自身「身に危険がないならやりたいことやるべき、私は泳げればそれでいい」らしいので、甘えさせてもらってる。
ちなみに曜ちゃんプール大好き。海が大好きな幼馴染もいるよ。けどプール女は格好悪いしね。 で曜ちゃんはいいとして、梨子ちゃんは?
ちょっと困り顔で、梨子ちゃんらしく申し訳なさこの上ないような表情。
梨子「素敵だと思う。いい思い出になると思うし、大切な経験になると思うけど、私は…。人前とか、苦手で…」
曜「ほんと?ちょっと以外」 千歌「えぇー、やろうよスクールアイドル。慣れちゃえばへっちゃらだって。きっと楽しいよ」
曜「そうだね、慣れって大切だよ。苦手意識先行するのは勿体無い」
梨子「うう、私人前本当に苦手で…怖くて」 千歌「野菜だと思えばいいんだよ」
曜「梨とか」
千歌「教室で発表するのの人が多い版だよ」
曜「梨畑」
千歌「うちのみかん畑思い出してくれれば」
梨子「無理…」
はやくも涙声の梨子ちゃん。
千歌「わ、ごめん、そんなつもりなくて、ごめんね?無理に誘ったりしないから、ね?」 まさか泣き出しちゃうとは。
(ピュアだけど(梨子に限って腹黒はあり得ない))梨子ちゃんの方は色オンナだね。
涙だけに(※海オンナの塩水と掛けている)。
なんちゃって。
…。
…。
全然二人とも笑ってくれなかったけど泣き止んでくれた。
あははは。 始業式だったので、今日は授業もなくホームルームで午前中だけで解散。
校舎を後にする。
曜「でさー、部活って言うからには新設するの?」
いきなり曜ちゃんが切り出す。
竹を割ったような性格っていうのかな?あとマイペース。いや、ペースメーカー? 千歌「うんそのつもり」
梨子「新しい部活って夢があるね。何もない部室を一からつくっていくのって楽しそう」
曜「ロマンチストだねえ」
梨子ちゃんは女子力が高い。女子力53万くらい。 千歌「梨子ちゃんは綺麗好きだしお上品だからお花とか飾ったり」
梨子「ああ、生花なら最近部屋に飾ってるよ」
千歌「おお!」
曜「来客にはお抹茶をお出しするどす?」
千歌「正座は日本人の心どす」
梨子「皆様お着物で身を着飾りましょう。淑女の嗜みどす」
千歌「おほほ」
曜「おほほ」
???「て総ボケかーい!」 ん?今何か言った?
三人各々の顔を見合わせる。違うみたい。
千歌「なんだろうね?」
梨子「す、ストーカー?」
曜「怪しいやつ出てきたら逃げればいいよ」
流でスルー。 曜「練習ってどうするの?歌や振り付けって他から借りるの?」
千歌「曲はそうするしかないかも。歌詞と振り付けはよくよくは自分たちで考えて行きたいなって」
曜「ならまず曲を選ばないとね」
梨子「私、音楽結構知ってるから力になれるよ」
千歌「知らなかった、音楽好きなんだ」
梨子「少しだけどね」
にこにこの梨子ちゃん。引け目を感じてたのかな。 千歌「んー、曲借りることになるし、当たり前だけど日本に名を知らしめるのを目標にするのは無謀すぎるかなー」
曜「そりゃ、μ'sが一から始めたスクールアイドルといえど、素質なしに曲とか衣装はつくれないからね、ポテンシャルの差?」
???「…」
千歌「μ'sってμ'sの中だけで全部賄ってるのも凄いけど、それ以上に凄いものがあるんだよ。心の持ちようだよ」 梨子「あ、それわかる気がする!あの雑誌から伝わってくる想い」
千歌「そうそれ!」
曜「ふうん。でもとにかく、心の持ちようをいくら変えても、自給自足できる人材は不足な訳だ」
???「ちょっと待ったぁ桜内!」 梨子「へ?」
千歌「何?」
曜「誰?」
???「ククク…」
梨子「厨二?」
???「なんだかんだと聞かれたら、解を降すは魔の所業」
聞いたというか面食らっただけ。
???「世界の組織を粉砕し」
???「時代と真名を刻む者」
怪しいサングラスを勢い良く外した。私達の顎はハズレっぱなしだ!
やばい人! ???「欺瞞に埋もれた真の価値、Kき翼で我が手に入れて魅せよう」
ヨハネ「堕天使ヨハネ!ここに見参ッ!」
梨子「…」
千歌「…」
曜「誰?」 結局ヨハネと名乗る女の子(制服から考えるに同じ浦の星女学院の新一年生)は「また会おう」とか言って何処かへ走り去ってしまった。
一体何だったんだろう。まさか本当にあの年で女の子がストーカー?
絶望的な女子力の持ち主である梨子ちゃんにやられたという可能性もなくはない。ヨハネさんは梨子ちゃんの苗字知ってたし。 当の梨子ちゃんは、
梨子「はじめてお会いする子だと思うんだけど…。幼稚園の頃の知り合いだったりするのかな…」
と心配顔。
因みに梨子ちゃんは中学ニ年に上がると同時に都内から越してきたから丁度四年のお付き合い。
曜ちゃんは幼馴染。
はいいとして、一学年のクラスは一、ニクラスだし、学校の数が少ないから基本的に小学生から高校まで(高校については意識の高い人は遠くに出るけど)顔なじみ。
生徒の数が限られてるから他の学年も基本的に顔見知りが多い中、見ず知らずのヨハネさん(そういえばハーフなのかな)。
間違っても遠出してこんな高校に来る物好きはいない(母校に失礼)。 となると…。
梨子ちゃんのストーカーだ!危険!女子力なばっかりに!
あの奇怪な登場にも見解がいくじゃん(都会は進んでるんだ)。
私があわあわと二人に説明しながら登校していると、運悪く…。 曜「ね、思い出したんだ」
千歌「まさか曜ちゃんも犯人と関係が⁉」
曜「違う違う。私こういうの疎いんだけどさ、ああいうの、厨二病、って呼ぶんだよね」
梨子「うん、そうだよ」
千歌「相当レベル高いよね75くらい?」
梨子「もう少し突き詰められそうだし、47くらいじゃないかな」
千歌「まあなんと具体的な」
曜「いつか店で耳に挟んだんだけど、一年下の学年に、不登校で重度の厨二病の子が居るらしくってさ、名前を確か津島善子…」
ヨハネ「善子じゃなくてヨハネ!」
千歌「ぎゃあ出たストーカー変態犯人痴漢!」 梨子「ああ、つまり厨二病だから真名〜って別の名で名乗ってたから気が付かなくて、学校にいることが少なくて見識がなかったんだ」
わあ梨子ちゃんなんかのんきにぽんと手を打って安心してるよ!今はそんな状況じゃないのに!守らなきゃ!
梨子「その真名がヨハネの黙示録さん」
ヨハネ「黙示録じゃなくてヨハネ!」
千歌「曜船長引っ捕らえろ!」
曜「ヨーソロー!」ガシッ 曜ちゃんは引き締まったアスリート体型でかなり運動神経が良いから犯人を抵抗する間もなく確保した。
船長に命令下すっておかしいね。
曜「観念しなァ、善子」
千歌「でかしたぞ曜船長」
梨子「あらあら」
ヨハネ「ヨハネー!」 教室についてから二人から説明を受けて、善子さんの疑いは晴れた。
千歌「まさかあんかにユニークな子がいて気が付かなかったなんて」
曜「登校滅多にしなかったみたいだし、友人関係が築きにくいと接点はほとんどないかも」
梨子「時々とはいえど学年の差を超えてコミュニケーションを図ろうとするイベントもあるのに、誰もピンとこないなんて…」
闇に包まれる謎の少女、善子ちゃん。
そういえばサングラスもしてたけど、顔を隠すため? 放課後も善子ちゃんは謎度は絶好調。
どこからとなく現れて変な台詞(闇だのデーモンだの運命の選択だの)を口にしながらついてきた善子ちゃん。
私と曜ちゃんが部活設立を考えていることを知っていて、
善子「クククっ…この私、堕天使ヨハネが直々に入部してやろう。さて入部届を献上したまえ」
なんて言った。曜ちゃんすかさず、
曜「まだ部活設立してないんだけど。あとさ、先輩だってことを少しは弁えて話してくれないかな」 ここで善子ちゃん怯まず、
善子「…ッ!なんて愚かな!まだ部活すら設立していない?!絶望的だ…やる気が足りない…」
憤る曜ちゃんを私と梨子ちゃんでなだめているところに、さらに一言、
善子「一刻も性急に設立するように。あと桜内、入部は運命」
と意味深な台詞を残してサングラスしてさっさと歩いていってしまった。
曜「なんなのあいつ…!」
曜ちゃん激おこ。
うむ、あれは良くない態度だ。
本当は、入部を希望してくれてることがすごく嬉しくて、そんなことはどうでも良くなってしまった。 翌々日。日曜日。
旅館の手伝い地獄から解き放たれる唯一の曜日。ようなしちゃん(曜、梨子)に同時着信をかけてみる。
案の定暇してたらしく、午後から遊ぶ話に。避けようと思ったけど何かの拍子にスクールアイドル練習の件が持ち出され、梨子ちゃん大賛成により可決。 梨子ちゃんが浮いちゃうと思って避けてたんだけど、案外引き目を強く感じてるのかもしれない。あるいは見るのも楽しいのかもしれない。
入部希望の善子ちゃんを思い出してちゃっかり連絡先を交換していた梨子ちゃんに通してもらうように頼む。曜ちゃんブーイング。 昼過ぎ、淡島神社。
木々に囲まれたこの神社は、いい感じに日光を遮ってくれるし、静かで人の邪魔にならないし、ベンチもあるし、運動とか練習にはうってつけなんだ。
千歌「…お?」
かなり早く来た自身があったけど、先に人影発見。
あのお団子は善子ちゃんだ。なんか黒いマントに見を包んでいて不気味…。 千歌「早いね、よしこちゃ」
善子「木が…囁く…」
千歌「飢餓?サヤック?」
木が囁くのはあえてスルーしてみた。
あえて厨二をスルーすることでツッコミをさせることで彼女の世界に終止符を!て思ったんだけど、失敗。
善子「感じる…。ヨハネの目覚めは、目前である…。目を見開く時…っ!」
すかさずサングラスを外した!
千歌「ひっ!」 無防備に顔覗き込んでたからびっくりしちゃったよ。
寿命縮まっちゃうじゃん。
口に出そうとしたら、意外と眼力の強い視線で目を一点見つめられている事に気が付いて、口ごもる。
千歌「…あ、あのー?」
善子「…」
何か言いたいことがあるのかな。
き、気不味い。
あー、ええと、そうだ、こんな時には。
テレレテッテレー、ミカンー(どら声)。 困った時殆どの場面で役に立つオールマイティなグッズ。マイバディー。因みにコタツは相棒の相棒の関係に当たるよ。
ミカンさえあれば戦争は起きないさ!
千歌「はいこれ、甘くて美味しいよ♪」
善子「…」
満面の笑みでポケットに入っていたミカンを手渡す。十分咲きの笑顔だよ。桜は散っても私の笑顔は変わらないよ。 ミカンで育ったと言っても良いほどみかん好きの私は人にミカンをあげると水共有出来るような気がしてつい笑顔が漏れる。
並大抵の相手はつられてありがとうにへら、ってするんだけど善子ちゃんは手にミカンを置いてまた固まってしまった。
あー、ポケットに入れてたの渡したのが良くなかったかな。
とりわけ美味しそうなのを毎日見つけてはポケットに入れて、少々熟れさせて更に甘くする&切り札として持ち歩くことのできる一石二鳥アイデアで長年続けてたけど、見る人によっては不快に思うよね、悪いことしちゃったな。 脇に置いてある紙袋に詰まったミカン(後でみんなで食べる予定)を何個か取り出して詫びようとすると、後ろから梨子ちゃんの声。
梨子「千歌ちゃーん」
千歌「やっほー!」
みかん片手に元気よく手を振る。隣に曜ちゃんもいる。
さては善子ちゃんを見つけて挨拶もしないほど不機嫌になったな。
梨子「あ、善子ちゃんも」
善子「ヨハネ!」 千歌「やっほー曜ちゃん、食べて。今日もミカン、おいしいよ♪」
曜「…あ、りがとう、いただきます」
ほうら、不機嫌曜ちゃん一発でにーこにこ。
笑顔のミカン、にこにこにー。
矢澤さんの名言。 ぼちぼち練習開始。
善子ちゃんが暴言を吐くことなく、ミカンのおかげもあってか三人仲良く練習する。
曜ちゃんは勿論、引きこもりの筈の善子ちゃんも見ただけで上手に踊れてて、私も負けてられない!と頑張る。
梨子ちゃんのPCの動画のダンスをとりあえずそのまま真似る形で踊ってる。たまにアドバイスしながら見守ってる梨子ちゃん。
梨子ちゃんははじめは皆に分かりやすいように、って簡略化した動きでリズムとってたけど、なんかもう座ってるだけで上半身本格的に踊ってるじゃん。
実質四人だね。よかった。 数時間後、踊ってるところに友達が二人訪れた。
千歌「やっほー、花丸ちゃんにルビーちゃん」
曜「よっ」
梨子「あ、久しぶり」
一つ下の仲良し二人組。中学高校とつい先日まで別れていたものの、ここら辺は行く場所なんて指を折るほどもないし、歳は一年しか変わらないものだから、どこか行けば大抵誰かに出くわす。
私は一週間前くらいにあったかな。 梨子「高校は慣れてきた?」
あふれるお姉さん力。でもそんなことより花丸ちゃんルビーちゃん。
花丸「ええ、ぼちぼち…あんら!善子ちゃん?!」
ルビー「はい、私も…嘘!善子ちゃん?!」
善子「ヨハネ!ヨハネ!」 花丸「おら読書による目の疲労ひいては視力の低下、違うものを錯覚してるずら?」
ルビー「ううん、間違いないよ、あれは本物に間違いないよ花丸ちゃん」
花丸「善子ちゃん?」
ルビー「善子ちゃん」
善子「あんたら人を何だと思ってんのよ、あとヨハネ、ヨ・ハ・ネ!」
梨子「っくく…」 曜「先輩を何だと思っていらっしゃる善子さんが使ってよろしい言葉ではないでしょ善子さん」
善子「ムキー!」
なんだかカオスだ。
曜ちゃん喧嘩売らない。
花丸「いやあおらおったまげたずらまさか休日に善子ちゃんを拝める日が来るなんて思っても見なかったずらナンマンダブナンマンダブ」 ルビー「花丸ちゃん方言出てるよ方言全開だよぉ…」
善子「ヨハネ。もっと崇めるがいい」
曜「引きこもり善子さんは外に出ると拝められるほど重度の引きこもりのですかくすくすくす」
善子「ムキーうっざなんなの曜!」
梨子「…っくくくくく」
梨子ちゃんすごく笑ってるよ! 花丸「踊ってたみたいだけど、何を踊ってたんですか?どこかで見たような…」
全員落ち着いてから、はじめて花丸ちゃんからこの質問が投げられる。
千歌「花丸ちゃんやルビーちゃんは、スクールアイドルって知ってる?」
同時に梨子ちゃんpcを二人の前に置く。
花丸ちゃんは息を呑んだ。
花丸「未来ずらーー!」
と叫んだ。 何でも花丸ちゎんはスマートフォンは愚か家にインターネット環境すら無いらしく、唯一のモニターがテレヴィジョンらしい。
テレビでいいんだよ。
最近はテレビ離れって言葉もあるのに。
花丸「パソーナルコンピュータ、略称パソコン!これがあれば、好きなスクールアイドルの好きなライブのテレビを好きなだけ見られるずら?」 千歌「そうだよ、それより花丸ちゃん、スクールアイドル知ってるの?」
花丸「知ってるずら、特にμ'sは実物を見たことがなければリアルタイムで生きていたことがないけど大々々ファンずら!」
μ's!
知ってる人いたよ!石鹸じゃない!
私はまだまだ知ってたった数日といえど、嬉しくて、μ'sの魅力を共感したくてたまらない。
千歌「誰推し誰推し?私高坂穂乃果さん!」
花丸「おらは小泉花陽ちゃんずら、心から温かい優しさ溢れた表情とおにぎりを食べるときの幸せそうな笑顔がたまらんずら」 んん?花陽ちゃんのおにぎり食べてるときの笑顔なんて見たことないよ?
千歌「ね、そのおにぎりスマイルってどこに載ってた?」
花丸「ええと、例えばスクドル特集第四弾とか…幾つかあったような」
千歌「その本って一体どこで入手したの?」
花丸「入手したというか、学校の図書館?」
花丸ちゃんは摩訶不思議そうに答える。
ああ、そうか。
インターネットと母親曰く伝説の雑誌にばかり気がいってて盲点だった。 花丸「逆に千歌ちゃ…千歌先輩は、パソコンから情報を?パソコンは情報の海ずら?ここの本屋さんは小さいし何十年も昔のものは扱ってないずら」
千歌「千歌でいいよ。家の暖房器具を片付けててね、うちの押し入れでμ'sの雑誌見つけたんだ」
花丸「ああ、お父さんかお母さんが捨てずに大切に保管してあったんだ」
千歌「保管というよりひょっこり出てきた感じだけどね」
花丸「40年くらい前になるからお母さんの時代ともマッチしてるずら」
曜「あれそんなに年季入ってたんだ」
暇そうに聞いていた曜ちゃんが意外だと口を開く。
ああ、今日もあの雑誌借りてくればよかったな。 千歌「雜誌は今度持ってくるとして」
すっと立ち上がって、花丸ちゃん、ルビーちゃんを見る。
千歌「二人とも、スクールアイドル部に入らない?」
μ's大ファンの花丸ちゃん。
さっきからずっとPCに釘付けのルビーちゃん。
脈アリ、だね。 花丸「お気持ちは嬉しいんだけど、おら運動苦手だし、訛に訛って大訛だから…。ね、ルビーちゃん」
すかさすpcの動画から目を離さないルビーちゃんに振る花丸ちゃん。
ルビー「ふぇ!?私?」
花丸「千歌ちゃんがスクールアイドル部に入らないかって誘ってくれてるずら」
千歌「どう?動画、見てるだけでわくわくするでしょ?絶対楽しいよ」
ルビー「む、無理無理ルビーには無理。人前出るだけで涙出てきちゃうルビー踊るなんて失神しちゃうよ」
人前が苦手という部分に梨子ちゃんが反応する。
自分と同じ理由な以上共感出来るから何も言えないのかもしれない。 曜「運動が苦手でも練習で補えるし、人前も慣れだと思うよ。初めは誰だって緊張するものでしょ。要は経験値」
千歌「うーん」
私は梨子ちゃん泣かせた前科があるので推すまい。
年下泣かせて早々最低な先輩になりたくないもん。
突然、黙って木々の木漏れ日を見て黄昏れていた善子ちゃんが口を開く。
善子「その程度でまごついている志では、足手まといになるだけ。入部拒絶」
千歌「ええー!」
曜「いやいや、意味わかんないんですけど」
梨子「突然部活のお誘いを受けて、即決というのは難しいよ」 善子「その程度の気持ちでスクールアイドル?あなた達もそうだけど、お遊びのつもりなら即中止して。ザッツ冒涜」
曜「何様なの?部長気取り?別のことしたいなら別の部活立ててくれないかな、これ私達の部活なんだけど」
善子「ヨハネは、スクールアイドルの味方。馬鹿にした行為を目の前にしてスルー出来るほどあなた達のようなお気楽愛好家ではない」
曜「言ったね?!つまりさ─」
梨子「あわあわ」
花丸「うぅ」
ルビー「うゅ」
ヒートアップする曜ちゃん善子ちゃん。慌てる梨子ちゃん。俯いて縮こまる花丸ちゃんルビーちゃん。
この二人はすぐ喧嘩はじめるなあ。むしろ相性ピッタリ。 千歌「あーとにかくまた今度、気が向いたときにでいいからさ、ゆっくり考えて答え聞かせてほしいな。全然無理強いはしないから」
と告げて、曜ちゃんと善子ちゃん的に練習続行不可、オレンジがかってきた空の頃合いもよく、今日はお開きにすることになった。 ィが好きじゃないのと学習機能働かせるのが面倒という個人的な理由です 帰り際に千歌ちゃんにミカン貰ったから食べながら帰るずら♪
ルビー「ミカンを配る千歌ちゃん、とびっきりの笑顔だった」
花丸「スマイルでお金取れそうな領域ずら。セラピードッグも顔負けのセラピー効果だね」
あ、顔をかけた訳じゃないよ。 ルビー「見てるこっちも笑みがこぼれちゃうような笑顔だったね」
善子「…」
黙って後ろから付いてくる善子ちゃんが黒いマントの内ポケットからミカンを取り出して眺めはじめた。
あ、善子ちゃんも貰ったんだね。千歌ちゃんが配ってるとき近くに居なくて、千歌ちゃんも探してるみたいだったから気になってたんだ。 一歩後ろを歩くのが気になって、声をかけてみる。この際に気になった質問を。
花丸「善子ちゃん。疑問に思ったんだけど、どうしていきなりスクールアイドル部に入りたいと思ったの?」
ルビー「ルビーも気になった。中学生の時は部活入ってなかったし」
善子「…時代」
花丸「時代?」
善子「欺瞞の世界に忘れ去られた記憶を、ヨハネの名と共に顕現させなければならない」
ルビー「記憶?」
何かのために、ってことはわかるんだけど、てんで釈然としない。
スクールアイドルの為? 花丸「もう少し詳しく」
善子「クク…風にでも聞いてみるがいい」
ダメだこりゃ。
諦めて、手の中を転がせていたミカンを口に放り込む。
途端に、口内に広がる濃厚な甘みとそれを引き立てる酸味、青臭さは全くないのに柑橘系特有の鼻を抜ける爽やかな香り。
花丸「んー、美味しい!これぞ高海さん家のミカン」
ミカンの中でも特級品で、花丸はこれに勝るミカンを食べたことがない。
比類なきミカン。 ルビー「ぅわー!あまー!」
ルビーちゃんも食べ始める。食べるっていいずら。
こんなに美味しそうに食べてればクールぶってる善子ちゃんも食べ始めるだろうと思いきや、そうではなかった。
善子「…幸せの実、授けよう」
急になぜか罰が悪そうに目を逸らしながら、返事を待つこともなく片手でぽんとおらの手に載せた。 ルビー「うりゅ?善子ちゃん、食べないの?」
善子「ヨハネ。は、食物はチョコレートと苺以外口にしない」
花丸「千歌ちゃんのミカン、とっても甘くて美味しいよ。あのとびきり笑顔♪も納得がいくくらい」
善子ちゃんは蹌踉めいた。
あの笑顔を見せられながら渡されたミカンをそのまま本人の知らないところで他人に譲歩するなんて良心が痛むに違いない。
あれは破壊的ずら。 善子「駄目っ…。柑橘系、特にミカンは天敵」
ルビー「ミカン好きじゃないってこと?」
善子「吸血鬼にとってのニンニク」
苦手なものを押し付けることもないずら。
花丸「じゃあ遠慮なくいただこっか」
ルビー「うん」
残す方が良心が抉れる。
抉れすぎて穿たれて空洞できちゃう。 半分にしたミカンの一房を口に入れた。
そこは別世界だった。
先程とは更に比べようがないほどの強烈な甘み。
濃厚なのにあとに残らない爽快感。
皮を噛む感覚はあるのに、あとは舐めているだけで溶けそうな口溶け。ミカンで口溶け?
何もかも完璧プラスα。文句のつけようがない。つまり、星三つです。 花丸「素晴らしいミカンずら!」
ルビー「い、今までで食べた食べ物の中で一番おいしい!って言ったらお母さんに怒られちゃうけど」
気付けば四分の一になっていたミカンを急いで善子ちゃんに差し出す。
美味しい。ミカン嫌いな人に革命を起こせる。
善子「…拒絶」
ルビー「100%美味しい!」
花丸「間違いない!」
流石の善子ちゃんもこの勢いに気圧される。
善子「…信じて、良いのだな?」
花丸「うん!」
ルビー「うん!」
善子「では…一つだけ」 恐る恐る、ゆっくりと、それが口に近づいていく。
某鮫映画のBGMが流れそうだ。
あと10cm。5cm。3cm。
そして、ついに──。
善子「…食べ、られる」
みるみるうちに表情は明るくなっていく。
善子「このミカン、不味くない」
花丸「やったー!」
ルピー「すごいよ!苦手なもの食べられた!」 なんだか見てただけなのにとっても嬉しくなって、ルビーちゃんとハイタッチを交わす。
花丸「善子ちゃんおめでとうずらー!」
勢いでハイタッチ!
善子「ふん」
花丸「おっとっと」
と思ったんだけど、躱されてしまう。
うむむ。
ツンツン善子ちゃん、まだ仲良しになる道は遠そう。 善子「クク…私に革命を起こさせた…高海千歌。魔法のミカン、にっこにっこにー。彼女は、何か持っている。そう、全ては、矢澤様の為に」
手のひらを顔にやり、突如ブツブツ独りごちりながらにやける善子ちゃん。
ミカンが垣間見せたデレ。
案外そう遠くないかもしれない。 故意にキャラ名正しく表記しないとかクソだね
まだ間違えて覚えてる方が可愛げがあるよ お昼休み。
曜ちゃん梨子ちゃん善子ちゃんを連れて図書館にやってくる。
すると丁度いいことに花丸ちゃんとルピーちゃんまで。
もしかしたら本が好きなのかな?教えてくれたの花丸ちゃんだし。 あ、あそこカウンターじゃん。図書委員やってるんだ。
千歌「早速来たよ花丸ちゃんにルビーちゃん」
花丸「あ、こんにちはずら」
ルビー「こんにちわ」
座ったままお辞儀するルビーちゃんが面白い。 曜「やっほー」
梨子「こんにちは。二人とも図書委員だったんだね」
ルビー「ううん、ルビーは連れ添い」
花丸「付き添い。おらは図書委員」
梨子「あらあら」
曜「うふふ」
千歌「連れ添いの意味教えてあげよう?!」
間違いをそのままにしておいて失敗させて笑う腹黒ですみたいなノリは可愛そうだからやめようね。 本題。
千歌「昨日教えてくれたμ'sの本を見に来たの」
花丸「それならこっちだよ」
よっこらしょと膝に手をついて立ち上がると(おばあちゃんみたいで吹きそうになった)迷うことなく一角に案内された。
付近の本を数冊手にとって図書館の真ん中の机に広げた。 千歌「あ、これ家から持ってきたの。ミカンじゃないよ」
さっき机の脇に置いたのを思い出して、例のレア度高いらしい雑誌を花丸ちゃんルビーちゃんに手渡す。
図書室置いてあったら被っちゃうから渡すまいと思ってたけど無くてよかった。
やっぱりレアもの? 善子「…」
いきなり二人の背後から顔を出す。
さっきまで窓際で「ヨハネの漆黒の翼にマジックポイントを」とか呟いて奇天烈なダンスに勤しんでいたのに、いつの間に。
善子「…‼」
善子ちゃんは急に二人の間から顔を突き出した。
千歌「ちょっ!」
善子ちゃん奪い取らんばかりの勢いで手を中途半端な位置まで持ち上げたけど、何を思ってか中断。
ふぃー危なかった。
どこか千切れでもすればこれから死ぬまで毎日3時間位お手伝いに徹しなければならない羽目になってたかもしれない。 花丸「ど、どうしたの、善子ちゃん」
全員の視線が集まる。
善子「こ、これ、これ」
震える手で指差す。
お母さんの雑誌。
善子「売ってください‼」
千歌「売る?!」 曜「それ、そんなにレアなの?」
善子「レア、レアの中のレア!僅か1000冊しか発行されなかったμ'sの第全集にして完成版!第全集にしては薄いのと何故1000冊しか発行されなかったかというとそれはμ'sの意思で…」
めちゃめちゃ早口でまくし立てるように説明した。
善子「お願いします、売ってください」
余裕に構えていて適当な揺さぶりじゃ全く動じなそうな善子ちゃんが必死の表情で半分涙目で土下座。
動転がうつってきてどうすればいいのか分からなくなる。
お母さん注意事項其の四。譲歩を決して許さず。法外な金額を吹っかけられても決して売るべからず。
でもこれどう謝ればいい訳⁉ すかさず梨子ちゃんフォロー。
梨子「千歌ちゃん、とりあえずお母さんに連絡してみたら?」
千歌「そ、そうだね」
善子「10万で!」
千歌「10万?!」
曜「ダメだ千歌、騙されるな」
梨子「お母さんに相談しなくちゃ駄目だよ」
善子「100万で!」
五人『100万?!』 目の眩む数値に戸惑ったものの、なんとか冷静さを取り戻し、丁重にお断り。
実際善子ちゃんはその雑誌のために100万は貯金してあるらしく、ものすごく落ち込んでいた。
罪悪感が…。 一緒に見る分や撮影する文には問題ないと慰めて、ある程度機嫌を取り戻してもらったよ。
千歌「あれ?善子ちゃんってμ'sのこと知ってたの?」
善子「もちのろん」
いままでそんなこと一言も言ってくれなかったのに。 善子「矢澤にこは天使。私は堕天使。矢澤にこ以外の推しは認めない」
へえ、善子ちゃんはにこちゃん推しなんだ。
梨子「私は、このオリジナリティに溢れてる髪型の女の子らしいことりちゃんが可愛いと思う」
ルビー「凛ちゃんって子がイキイキしてて好き」
花丸「花陽ちゃんずら」
曜「私はこの西木野真姫ちゃんって子で。ちょっと先が螺旋状の髪と吊り目にあふれる可能性に一票」
見事に被らない。
善子「けっ、どいつもこいつも」
口悪いなあ善子ちゃん。 梨子「にこちゃんは、とても格好いいね」
花丸「小柄で幼い外見のわりに肝が座っててお世話焼きなんだよ」
曜「プライドは感じるね」
ルビー「小さな体から溢れ出す無限のパワー?」
千歌「それすっごくよくわかる!ほらこの写真見てよ」
善子「……ふ」
あれだこれだと雑誌を広げて喋り込む。
わいわいと盛り上がっていると、あっという間に終了のチャイムが鳴った。 教室までの道のりもμ'sの話で盛り上がる。
千歌「なんかこう、パワーを感じない?後光、というか」
ルビー「仏様レベルに崇拝したくなるってこと?」
千歌「いや、そうじゃなくて、オーラ?」
曜「エネルギーは感じる。超パワフルなやつ」
花丸「プロのアイドルすら持っていない何かを持ってるずら」 梨子「誇りと満足感と達成感のその先みたいなもの?」
千歌「そう、そんなイメージ」
すると梨子ちゃんは何やら考え込む。
善子「…やっと、魅力の核に目を向けだした様だ、子羊たちは」
善子ちゃん瞑想中。
絶対75は超えてるよ。
千歌「実際に人の前で踊ったら、何か理解できるものがあるのかな」
μ'sのファーストライブはたった数人の来場者だったっていうから、そうはいかないのかな。 放課後。
もう大分桜は散ってなくなっちゃったけど、まだまだ幕開け日和。
春の肌寒い風が興奮気味の体に心地良い。
いよいよ正式な幕開けスタートだよ!つまり部の設立申請。
花丸ルビーちゃんを待ってからでも遅くないって梨子ちゃんと曜ちゃんは言ってたけど、善子ちゃんがプレッシャーかけてくるのと、私の方もうずうずしてたので出航です。 千歌「曜船長、舵を」
曜「おもかじいっぱーい、全速前進!」
千歌「ヨーソロー!」
小学生のごっこ遊びみたいに前の肩に手を置いて生徒会室まで意味もなく蛇行する。
善子も無理言って付き合わせた。
善子「なんなのよー」
不満たらたら。
梨子「ヨーソロー」
梨子ちゃんは相変わらずのノリで楽しそう。
さあさあ、いざ生徒会であります。 とうちゃーく。
曜「たのもー」
たのもしい(たのもーとかけました)掛け声は曜ちゃん役。
???「は?」
???「What?」
中から不信感丸出しの声がした。
当たり前だよねー。 曜ちゃんが勢い良くドアを開け、曜ちゃん先頭にぞろぞろお邪魔する。
曜ちゃん大活躍!盾にしてるわけじゃないんだからね。
ミカンあげるって取引したもん。
曜「我ら部の設立の申請に参った者ぞ」
千歌「ものぞー」
梨子「どすこい!」
斬新な。
善子「ほう…ここが私達の新たなるアジト」
占領しちゃだめだよ。
ダイヤ「ノックぐらいしたらどうですの?」
マリー「Lke chird」
てへぺろ。 梨子「あは…」
ピュアな梨子ちゃんは私の悪ふざけの付き合いと生徒会室の方に失礼をした罪悪感の板挟みで戸惑ってるみたい。
曜「ドンマイ」
千歌「大丈夫だよ、梨子ちゃん」
梨子「何が?!」
ダイヤ「はぁ…。兎角、お座りなさいな」 黒澤ダイヤ会長とマリーって名前の金髪の人(確か副会長)と机を挟んで三人で対面。
善子ちゃんは座らずに後方で行ったり来たりしてる。
ダイヤ「何部を作りたいんですの?」
至って淡々といった感じで質問してくる。
千歌「スクールアイドル部です」
ダイヤ「スクールアイドル?」
千歌「はい。スクールアイドルっていうのは…」
自分なりに重点をまとめて説明する。
雑誌を見つけてから調べまくった情報。
興味をもって自分から始めたことだからそこまでトンチンカンな説明にはなってないはず。 ダイヤ「μ's?」
マリー「薬用石鹸?」
部屋の脇でカチャカチャ作業をしてたマリー副会長(仮)が紅茶をトレーに乗せて運んできた。
一緒に運ばれてくるいい香り。なんて上品な生徒会室。優秀な右腕感半端ない。
だけどね、石鹸じゃありません。 ダイヤ「μ's?」
マリー「薬用石鹸?」
部屋の脇でカチャカチャ作業をしてたマリー副会長(仮)が紅茶をトレーに乗せて運んできた。
一緒に運ばれてくるいい香り。なんて上品な生徒会室。優秀な右腕感半端ない。
だけどね、石鹸じゃありません。 指摘する前にダイヤさんが訂正した。
ダイヤ「いいえ、恐らく違いますわ。ルビーが昨日からμ'sがどうだのかっこいいだの言っておりましたもの。グループ名か何かでしょう」
千歌「そうだよ」
ダイヤ「そう。ルビーがスクールアイドルに興味を。あの子が…」
お姉ちゃんとして思うところがあるのか、思慮顔のダイヤさん。
あ、ダイヤ会長はルビーちゃんのお姉ちゃんだよ。 ちょっと口元を緩めて優しい表情になったダイヤさんは、また質問してきた。
ダイヤ「部を建てたいと思った動機は?」
千歌「μ'sについてとあるきっかけで知ったんですけど、もう凄くって、感動したんです。そんな姿に憧れた、とは若干違うんですけど、少しでも同じものを見てみたいんです。スクールアイドルになれば同じ立場になれるから」
曜「要は青春に向かって全速前進であります」
梨子「μ'sに、というよりは、μ'sの夢に向かう姿に憧れた、ってことだと思います」 ダイヤ「部活ができたら、何か目標はあったりするのかしら」
千歌「そうだな、取り敢えず目前の目標としては学校のみんなに知ってもらう」
善子「はいはいレッドカード!天・下・統・一・以・外・認・め・な・い」
千歌「ええ!?」
マリー「Wow!」
生徒会室では飽き足らず天下までをも狙う善子に脱帽。
千歌「なわけあるかー!意味わかんないんだけど!」
善子「志低過ぎ!つまりスクールアイドルにおいてレッドカード!金輪際関わる資格なし」
曜日「よしぷり♡武士道」
梨子「†ヨシプリ†武士道†」
マリー「Wow!Cool!」 千歌「天下統一って全国制覇だかなんだかわかんないけど階段飛ばし過ぎだよ。学校で知名度上げられたら近隣の方々、それができたら町のみんな、それでいいじゃん」
善子「ああ、もう。頭が痛い。…くっ、視界が黒に染まる」
色々痛いよって言い返そっかなー。
曜「痛い奴」
我らが曜ちゃんは心強い。よっ、船長。
善子「痛い奴?言ったわね、この堕天使ヨハネに言ってはならない禁断の句を…!」
曜「体力と筋力には自信あるよ。引きこもりのもやしはどう抵抗するかな」 善子ちゃんは何やら背中にどっかから取り出した黒い羽を生やして両手を広げた変なポーズをとり、曜ちゃんは丹念に準備運動を始めた。
嫌な予感!
ダイヤ「まあまあ、落ち着きなさい。いいでしょう。先生方に申請しおきます」
あ、いいんだ?今の流れで。 きょとんとしたであろう私達にダイヤさん説明。
ダイヤ「きっかけや動機、当面の目標を迷いなく言えるようなら問題ありませんわ。乱立は困りますので、そこはこちらで少々加減しますが、今現在生徒たちによる活動が積極的とは言い難い状況ですもの」
も、目標とかスラスラ言えてよかった。
まあ私が迷っても善子ちゃんが天下統一宣言したかな。それはそれで認められるか分からないけど。 マリー「楽しそうな部活になりそうね〜。じゃ、早速だけど書類の記入をお願い。部員は四名でいいのかしら?」
善子「問題ない」
梨子「あれ?」
千歌「ん?」
ヒソヒソ声で話しかけてける梨子ちゃん。
梨子ちゃんっていい匂いするけどなんの柔軟剤使ってるんだろ。
梨子(どうして私ここについてきたんだっけ)
千歌(どうしてってそんなの…あ。でもなんだかんだ楽しそうに練習してなかった?)
梨子(無理無理無理無理。今は気楽に考えられてもいざとなるとあのステージ見るだけでコーヒーカップみたいに視界が回っちゃって) 善子「やれ」
善子「あんた無くしてこの部ははじまらない」
千歌「何を言って─」
善子ちゃんは梨子ちゃんを真っ直ぐ見つめて変わらないハッキリとした口調で言った。
善子「堕天使ヨハネはずっとあんたを見てる。桜内梨子」
梨子「──っ」
梨子ちゃんは息を呑んだ。
ここに来てストーカー疑惑発覚…! ダイヤ「縁起悪いですわね、メンバーで早々喧嘩ですの?そんな内輪揉めは後にして下さい。それから部員に強制的に加入させるような行為は生徒会として見過ごせませんが、続けますか?」
善子「ち…」
善子ちゃんはおとなしく引き下がった。
ダイヤ「結構。お後、入部の手続きは至って簡単ですの。この活動状況が芳しくない中です、千歌さんに何枚か入部届を渡しておきますので、好きに使うといいですわ」
マリー「ダイヤ、大胆!」
ダイヤ「構いませんわ。どうせ生徒会を通さなければできることなんてありませんもの」
そして、申請書の記入を終え、部屋を出る際、ダイヤさんはこう言った。
ダイヤ「よろしく頼みますわよ」 数日後。
私達三人は生徒会から渡された部室を装飾してるところ。
あ、三人といってもようなし組じゃない。
曜ちゃんに善子ちゃん。
梨子ちゃんは何度か顔を見せてくれたものの「部員じゃないもの」と一人で帰ってしまう。
除け者にしているようで悪い気がして「ステージに上がらなくても部員になっていいんだよ、梨子ちゃんいると助かるし」などと説得しても一向に拒否。
珍しく頑なな梨子ちゃん。何か悩みでもあるのかな。 善子「駄目ー!この最後の机が『THE DEOMN FIELD』を創り上げる最後のパーツ!」
曜「はぁ?そっちでどんだけ机占領してると思ってんのよこれは昨日私が使うってジャンケンで決めたでしょ」
善子「悪魔の運勢と書いて悪運を司どる私が珍しくじゃんけんに勝利して手に入れた机!改ざんの疑い!それにありったけの椅子取り上げたのはそっちも同じ!」
曜「改ざんなんてしてませんー!それに椅子と机ってまるで大きさが違うからね?」
善子「いやいやそっちはその分」
繊細な悩みを抱く私の目の前では今日もゼッサン壮絶な(なにこれ?)バトル開催中。 きっかけとしては善子ちゃんが何やら黒くて禍々しい置物から剥製から大量に持ってきて部室に置き始めたこと。
で曜ちゃんが「ここスクールアイドル部なんですけどオカルト研究部じゃないんですけど」と真っ当な指摘をして、
…。
二人が張り合いに張り合って、部屋の45%が真っ黒、部屋の45%が真っ青(海とプールと魚達、が題材らしい)残り10%がスクールアイドルの領域となった。
どうしてこうなったんだっけ?
ここスクールアイドル部なんですけど。 繊細さのかけらもない不可解な問題に頭を抱えていると、後ろのドアがノックされた。
誰かな。ダイヤさん?先生?
二人もバトルを中断してドアに注目する。
果南「お邪魔しまーす」
千歌「あれ、果南ちゃん?」
曜「おー果南ー!」
果南「遊びに来たよー」
善子「誰。認識レベル0。危険レベル4」 果南「ん?はじめまして、かな?転校生さん…?おかしいな、聞いてないけど」
千歌「ああ、引きこもりで今年一年になった津島善子ちゃん」
善子「ヨーハーネー」
果南「ああ、聞いたことがあるよ。引きこもりで厨二病の津島善子さん」
善子「ヨーハーネー」
果南「夜羽?」
曜「気にしないであげて」
果南「そうなの?必死そうだけど」
千歌「気にしないであげてほしい」 果南「ふーん、なら、まずは自己紹介だね。私は果南。千歌と曜の幼馴染だよ」
千歌「あと海オンナ」
曜「沼津代表」
曜ちゃんも海大好きだけど、果南ちゃんも凄い。
海に行けば果南ちゃんに会える。
人魚説もある。 善子「…」
善子ちゃん無反応。
いや、なんか変なポーズで固まってる。どこかから取り出した黒いマントに身を包んでるし。
何かを待ってる…?
果南「名前は、善子ちゃんだね。ヨハネって何?」
あ、気になってたんだ。
善子「ククク」
待ってたやつ。
善子「なんだかんだと聞か」
(略) 果南「…ヨハネって何?」
今度は私に向かって質問した。
訳のわからない決め台詞中ではヨハネが何なのか説明されてないよね。
言いたかっただけなんだね、うん。
千歌「ただの偽名…程でもない、自分に対するニックネーム?」
曜「厨二病あるあるかっこいいだけ意味はないby桜内」
善子「ちょっとそこー!勝手に決めつけないでよ!」 曜「聞かれても説明すらしなかったのに?」
果南「重度の厨二病だね」
千歌「お察しの通り」
善子「…格の違いが甚だしいあまりあやつらにはヨハネという存在を認識できないようだククク」
千歌「で果南ちゃんってば何しに来たの?」
果南「(スルーするんだ)ダイヤ達から千歌部活作ったって聞いて気になって来てみたんだけど」 果南ちゃんは一つ上の先輩。けど昔からの仲ってこともあって敬語だの水臭いことはしてない。
ダイヤ達っていうのは多分ダイヤさんとマリーさんだね。
果南「スクールアイドル部って一体何をする部活?」
千歌「んーと」
何だっけ?
部屋の惨状を見るに縄張り争奪戦? 果南「黒いスペースは私の分野外だけど青いスペースはセンスあるね。このイルカとか」
腕を組みながら真剣に青いスペースを観察する果南ちゃん。
匠っぽい。
曜「さっすが代表!わかってもらえる?特にこのヒレとくちばしの角度にはこだわり抜いた」
理解してもらえた喜びに目を輝かせて説明し始める曜ちゃん。 果南「いいセンスしてるよ。あと背景のブルーシートも意匠が凝っててポイント高い」
曜「でしょでしょ!特にそのスパンコール選びと散らし方には手間取ってさ」
楽しそうだなー。
善子「うぅ」
黒いスペースには感想すら貰えなかったことに流石の精神力でもしょぼくれる善子ちゃん。 千歌「…」
そして気付かれもしないスクールアイドルスペース。
芸術部インテリア部門はここですか。
何も出来ずに立ち尽くしていると、水属性同士語り合って満足した果南ちゃんがこう言った。
果南「楽しそうな部活だね」
千歌「あ、一つささやかに事実を提示しておくけど、ここは芸術部じゃないよ」 果南「知ってる、スクールアイドル部でしょ」
千歌「スクールアイドルっていうのはね」
果南「それも知ってる。μ'sについても調べた」
千歌「知ってたの?じゃあどうして」
果南「楽しそうだから。それじゃ駄目?」
そう言って私の方に歩き出す果南ちゃん。 すごくさっぱりしてて、自由で、何かこだわりを持ってて、不思議な雰囲気のある人。
昔からそうだった。
しっかしと芯があるようで、ふらふらしていて。
近付いてきて、私が気付いたときには、私の後方にあった机に載せられていた入部届を書き上げていた。
入部届と古いPCとお母さんから厳重に拝借した雑誌しかない、スクールアイドルスペース。
果南「入部の理由」
千歌「に、入部?」
果南「うん。しっかり渡したからね、部長」 そのまま流れるように出ていこうとする果南ちゃんを呼び止める。
千歌「す、ストップストップ」
果南「何?」
勢いに制服と髪を翻して顔だけこちらに向けて足を止めた。
まるで急ってるみたいに。
千歌「ほら、お店大丈夫なの?海は?」
果南「お父さんから許可は貰ってるんだ。海はその気になれば24時間泳げるからね」
千歌「ふ、ふうん」
突飛すぎて何がなんだか。
果南「ところで、梨子ちゃんは?」
千歌「り、梨子ちゃん?梨子ちゃんなら、人前が苦手とかどうとかで、入部はしてないけど」 果南「その割には、随分寂しそうに下校したのを見かけたけどな」
千歌「へ?寂しそうに帰宅?」
果南「まあいいや、明日からよろしくね」
慌てて部室から顔を出したけど時既に遅く、廊下をジョギングしながら「頼んだぞ会長〜」なんて手を振られた。 ため息を吐きながらドアを閉めると、複雑な表情の曜ちゃんが立っている。
曜「どうしよ」
やっぱり何か悩みがあるんだ。
直接本人に聞かないと。明日にでも聞いてみる?
善子「案ずるな」
不気味に微笑う善子ちゃんが手を額に当てたへんてこなポーズで「全ては手の内」的に応えた。
それ絶対悪役ポーズだよね。
善子「クク…桜内梨子は神託によって選ばれている。その運命を覆せるジョーカーは堕天使ヨハネ以外には無いのだから」 穏やかな昼下がり。
鳥のさえずりが暖かさを感じさせる朗らかな天気だよ。
花丸「決めたずら!」
ルビー「ひぎぃ!」
鳥のさえずりを遮って花丸ちゃん、突然叫ぶように言い放つから驚いちゃった。
お弁当口に入ってなくてよかった。 花丸「おらスクールアイドル部に入ることに決めたずら。他にやりたいこともないし、μ's大ファンにとって二度とない機会。一期一会、チャンスの前髪、よし」
チャンスの前髪ってNo brand girlsの歌詞にあった。
どういう意味なのかな。チャンスの尻尾、とかだったらまだわかるけど。
花丸「ルビーちゃんはどうするか決めた?」
ルビー「う、うん。やっぱり無理かなって」 ちょっと歯切れが悪くなっちゃう。
弱虫な自分を見せるのに抵抗があるから、って理由が一つ。
やりたいと思ってる気持ちに無理をさせてるから、って理由が一つ。
自分で分かってるんだよ。
どうしても自分には不向きだってことも。
気持ち以上に自分の相性に無理させちゃう。 ルビー「人前が大の苦手で失神しそうになったことだってあるルビーには向いてないよ」
花丸「緊張するのはだれだってそうずら。何度か経験して、自信を持てれば可愛いルビーちゃんにはむしろぴったりずら」
ルビー「歌って踊るとなったらそうはいかないよ」
花丸「そんなことないよ。μ'sのライブ見たでしょ?あのかよちんや凛ちゃんだって、恥ずかしがり屋で全然自信なかったんだから」
ルビー「ううん」 花丸「何よりμ's好きでしょ?スクールアイドルってかっこいいな、憧れるな、って思ったでしょ?それが何より大事なんだと思うな」
μ'sは確かにかっこいい。憧れる。
でも高嶺の花というか、完璧の結晶というか、目指すべきものとはまた違うんじゃないかな。
アイドルの大ファンでも結婚したいかというとそれとこれは別ってよくある話だし。
花丸「うーん、そっか」
とだけ、花丸ちゃんは言った。 放課後。
オレンジ色の夕焼けに照らされて伸びるベンチに座る二人の影。
時々元気に走り回る子供の影が重なっては遠ざかっていく。
よくこうしておしゃべりする為に寄り道する、お気に入りの公園なの。
無邪気な声と足音には癒やされるんだ。 今日は小気味良い缶の音も聞こえる。
花丸「缶けり、懐かしいずらね」
ルビー「よくやったね」
ルビーは頭隠して尻隠さずの代表例みたいな隠れ方で、怖くて震えながら待ってると大声で「ルビーちゃんみーつけた!」言われるたび大泣きしてたっけ。
花丸ちゃんは足が遅くて、どこに隠れようかと探してるうちに真っ先に見つかってたような。 懐かしい気持ちで、千歌ちゃんから貰ったらしいミカンを半分こして食べながら眺めていると、気の弱そうな女の子が缶を蹴った。
花丸「おや」
缶を目で追っていると、それは放物線を描いて、丁度ルビーの頭上を掠めるであろうコースだなあと思った。
ルビー?
私?
ミカンの咀嚼もそのまま、反射的に右手で缶をキャッチ。
危機一髪。 さてどうしようかと缶を見て、すぐに女の子の方に目を向ける。
もっと近くにいると思っていたその子は、その場で固まっていた。
きっとすごく動揺してるんだね。
花丸ちゃんに目配せして立ち上がって、女の子のもとに近付いた。
膝が震えていた。 ルビー「はい、どうぞ」
お姉さんぶって「缶を蹴るときは気を付けてね」て言おうかと考えたけど、小さい子ってその体の文強い言葉に感じちゃうんだよね。
緊張してるみたいだから、下手すれば泣かせちゃう。
でも、そんな気遣いもはかなく、その子は怖い様で、缶を受け取りもせずに、泣き出しそうな顔で走って他の友達の後ろに隠れてしまった。 缶の行方に気が付いて隠れるのを中断したあたり、仲の良い子なんだろうな。
その友達もまた私を警戒して、缶を蹴った女の子を庇うように立っている。
自分より大きな人ってだけで、怖いよね。よく理解るよ。
ちょっと冷たく感じる右手の缶を、缶けりに使ってた円の中にそっと置いて、既に立ち上がった花丸ちゃんと公園を後にした。 ルビー「ルビーもあんなことあった」
花丸「あんなこと?」
ルビー「高校生くらいだったのかな。お姉さんの方向に、ボール蹴っちゃって。親切に拾って、中腰で手渡そうとしてくれたんだけどね、なんだかとっても怖くて、逃げ出しちゃった」
花丸「小さい頃って、知らない大人ってだけで、えも言われぬ恐怖を感じるよね」
ルビー「うん」
花丸「誰だってこわく感じるものずら。当たり前だよ」
ルビー「うん」 不思議な温かみと哀愁に包まれた夕焼けに背を押されながら、私達は帰った。
右手にミカンがあった。
食べるの忘れてたよ。 ダイヤ「部活は決めましたの?」
食卓で授業の復讐をしていると、お姉ちゃんがお皿を洗いなら背を向けたままたずねてきた。
ルビー「まだ考え中かな」
ダイヤ「スクールアイドル部と言うものが、今年から出来たんですのよ」
ルビー「ふ、ふーん」 その単語にドキッとする。
ノートに寝ぼけてるときみたいな線ができちゃった。
ダイヤ「なんでもμ'sとかいうスクールアイドルに憧れて学校の部活動としてアイドル活動をするとか」
μ'sという単語に更にドキッ。
ノートは心拍数の増加を示すグラフみたいになった。 ダイヤ「先日から、μ's、μ's、とルビーが口にしてましたから、てっきりスクールアイドル部に決めたのかと」
何度か言った気がする。
「ふ、ふーん」とか誤魔化しちゃったよ。汗ダラダラ。
でもお姉ちゃん、背を向けているとは言えど、怒ってる様子は無さそう。 ルビー「μ'sってすごいなあって思うけど、それだけ。やりたいとか以前にルビーにはちょっと無理があるよ」
ダイヤ「あら、そうですの。案外形になるものですのよ」
ルピー「探せば他に向いた部活動があるよ」
ダイヤ「何が興味を持っている部がお有りで?」
ルビー「…」 ダイヤ「仮に失敗したとして、そこで終わりではありませんし、興味を持ったことにトライするって、大切なことで、逆にこれが無いと何もかも始まりませんの」
まあ、その通りだとは思う。けど…。
ダイヤ「これが無いと人間、成長もできませんわ。これがあってこそ、人間、苦手というものを初めて克服できるのですわ」
……。
ダイヤ「勇気を出してみるというのも、良いんじゃないかしら」 次の日、花丸ちゃんは早速に部活らしく、ルビーは一人で帰宅。
ルビーも部活を見つけるまでの辛抱。
部活動についての悩みでもやもやしていると、なんとなく公園に寄りたくなった。
ベンチに座って、自動販売機で買ったホットココアで人心地。 ああ、どうしようかな、ほんとに。
今日も元気に駆け回る子供たち。
無邪気だな。何も悩みなんてないんだろうな。 幾らか時間が経って、無くなりかけたココアを啜りながら風に揺れる散った桜の木を眺めていると、いつの間にか目の前に二人の女の子が立っていた。
昨日缶を蹴った女の子と、庇った友達。
ルビー「…あ」
咄嗟に状況が掴めない。
ルビーがどうしたのと口を開く前に、缶を蹴った気の弱そうな女の子が言った。
震える体を騙しながら。
自分の相性に無理させながら。
「これ、あげる」
小さな拳が差し出される。
ルピーも手のひらを差し出す。
握られていた三袋の飴が置かれた。
「缶、ありがとう、ございました」
それだけ言うと、また一目散に駆け出してしまった。 ルビーは、夕焼けと共に帰宅した。
握られた右手は、とても温かかった。 翌日。
花丸「興味あったら覗きに来てよ」
花丸ちゃんに言われたら行くしかない。
いやいやとかじゃなくてね、親友の関係ってそういうものだよね?
誘ってくれること自体が嬉しく感じるんだ。 今日は部室が窮屈ということで淡島神社で練習するみたい。
でも、いざとなって神社の階段を登り始めると、躊躇いを感じ出した。
入部について考えてほしいと言われた千歌ちゃんたちもいるし、入部についてあまり積極的に考えている訳ではないルビーはどんな顔をして見学すればいいのかな。
花丸ちゃんだって、少しは期待を抱いて招待してるだろうし、顔を見せるだけ返ってがっかりさせちゃうよ。
だからと言って行かなければ行かないでせっかくの誘いを無視するのも…。 なんて思いながら重たい足を動かしていると、声が聞こえてきた。
花丸「はあ、はあ、ちょっと、たんまずら」
曜「はやっ、まだ数回しか通してないじゃん」
千歌「いやいやこれ一回で結構な運動量だよ?初めてなんてこんなもんだって。曜ちゃんは体力有り余りすぎ、あと果南ちゃんも」
曜「うーん」
果南「いやこれ案外体使うね。明日は筋肉痛かな」 千歌「ほら、汗拭いて。放っておいたら風引いちゃうからね」
花丸「ありがとう。中断させてごめんね」
花丸ちゃん運動苦手なんだった。 花丸「もう大丈夫。練習できるよ」
千歌「ええ、もう⁉」
曜「早っ!体力自信ないなら、別にゆっくりでも」
花丸「大丈夫。追いつかなかった部位だけ少し動きを抑えれば問題ないずら」
千歌「そこまでしなくても全然平気だよ?」
花丸「苦手を克服するには多少自分に無理しないと。さもないと、差が出て、後に足を引っ張っちゃうと思うんだ」 曜「おお…!」
千歌「なんて誠実謹慎ないい子…!」
果南「お姉さん、感動したよ…!」
ルビー「…っ」
偉いな。花丸ちゃんは。
私とは違う。
追いつけないや。
勝手に孤独感を覚えたルピーは、階段を引き返し始めた。 ─
─
実はね、私、覚えてるんだ。
ボールを受け取って貰った女性から逃げ出しちゃた話。
膝が笑ってて、顔なんてお化けでも見たように引き攣ってて、どれだけ怖いのか簡単に伝わってきたな。 その先をルビーちゃんは覚えているのか知らないけど、ルビーちゃんは、私に相談してくれたよね。
はじめは、ただ怖い、知らない人は悪い人だー、みたいなことを言ってたけど、次第に、あのボールは受け取っちゃ駄目だったんだ、みたいな、後悔に変わって。
すごく必死で言い訳してて、そんなルビーちゃんを初めて見た。
そして、次の日になって、夕方になって、お礼を言いに行きたいって言い出したのは、本当に驚いたよ。
どちらがというと内気で恥ずかしがり屋のルビーちゃんが、そんなことを言い出すなんて、思ってもみなかった、って言っちゃうのは、失礼かな。 その日、運良くまたお姉さんが来てて。
怖がる私を自ら引っ張っていって。
勇気を振り絞って、「ありがとうございました」って言う姿は、本当に格好良かった。
だから、私は知ってる。ルビーちゃんが実はとっても強い女の子だってこと。
今の花丸を奮い立たせてるのはルビーちゃんなんだ。
体力がないって分かってて、大好きなスクールアイドルやろうって思えてるのはルビーちゃんのおかげ。
逃げたら、後悔しちゃうよね。あの時のルビーちゃんみたいになりたいから。 今回、スクールアイドルの件で必死に言い訳して、足りない勇気から目を逸らそうとしてた事を知ってる。それだけやりたいことだって、後悔に繋がることだって理解してるのも知ってる。
だから、ルビーちゃんは、絶対にここに来る。
花丸の信じたルビーちゃんなら。
─
─ 千歌ちゃんがμ'sに触発されてスクールアイドルを目指す話
今は部員を集めてるところ 善子「待て」
梨子「え?」
校門を出て数分歩いたところで、突然呼び止められて、つい反射的に声を出した。
善子ちゃんだ。何か用事かな。
善子「その寂しそうな背中に追い打ちをかけてやろう。引導を渡す」
すごく物騒なことを言い出した!
でもこの時はいつもの善子ちゃんだと思って油断してた。
いつものおふざけと変わらない態度で、善子ちゃんは本気で言った。 善子「あんた…貴様に、二つの選択肢を与える。双方とも結末は死である。前提として、堕天使ヨハネは貴様の過去を把握している」
梨子「──っ」
つい、喉を鳴らしてしまう。
梨子「…何を知ってるの?」
善子「さあ?」
にやりと、口元をいやらしく歪ませる。 梨子「…目的は何」
善子「時代の破壊、創造」
梨子「知られて弱みになるような過去は持ち合わせてない。言いふらされて困るようなこともない」
実際問題が引き起こりそうな隠し事なんてない。
ただ、気恥ずかしくて、口にしなかっただけなのだから。 すると心を見抜いたように、善子ちゃんは言う。
善子「愚かな。未だ逃げ回るか」
梨子「逃げてなんか…」
その先が言えない。
善子「甚大な精神的外傷を負ったと自分に言い聞かせ甘えて都合が悪くなれば何もやましい事はないと目を逸らす。愚蒙の極みだ」
梨子「…知ったような口聞かないでよ」
善子「知っているさ。貴様が怠け者で愚か者であると」 私の気持ちが、わかるはずがない。
期待。圧力。裏切り。感情。
圧力。圧力。圧力。
善子「選択せよ。二択だ」
こんな奴に。 善子「まず一つ。精神的外傷の治癒と自らを欺き、後悔に後悔を重ね、友とも離れ、結果精神的に死すか。
もう一つ。くだらない過去─そう、客観的に見れば下らない─過去を自らの力で打破し、砕け死ぬか」
梨子「……」
そんなの。
善子「答えよ。ピアニスト、桜内梨子」
梨子「…そんなの」
善子「答えよ。廃れし英雄ピアニスト、桜内梨子」
梨子「そんなの、選べたら苦しんでない!」
声を荒げていた。
こんなのいつぶりだろう。
親にさんざん言われて嫌になったあの時以来かな。
善子「なら、付いて来るが良い。救ってやる」 溢れてきそうな涙を堪えながら、階段を降りる。
一段一段の振動がしんどいよう。
こんなところで引き返すルピーは、やっぱりルビーのままだね。
泣き虫で弱虫で一歩が出せないルビーのままだ。 自分を変えるチャンスだって、分かってるつもりなのになあ。
相性に無理?感情に無理させる方が、余程辛いって、分かってるつもりなのになあ。
視界が滲んで、今にも涙が零れそうになって、顔を上げた。
善子「待て」
その時、木陰から不意に声がした。
木の後ろでこちらを背にもたれかかっているのは善子ちゃんだった。 慌てて目を擦って、普通を装う。
ルビー「どうしてこんなところに?」
善子「あんt…貴様が馬鹿で意気地なしだからだ」
ルビー「え…」
悪口を言われて更に泣きそうになる。訳がわからない。
善子「救ってやる」
ルビー「…救うって」
善子「貴様の臆病で足も出せない赤ん坊のような体を背中から押し出してやろうと言っている」
ルビー「…」
善子「あと足りないのは何だ?そうだ。勇気だ。くれてやろう」 善子ちゃんは黒くてゴツゴツしたタブレットを押し付けるように渡してきた。
既に、動画が再生されているみたい。
訳がわからないまま、動画に注目する。
穂乃果ちゃん、ことりちゃん、海未ちゃんの三人のステージ。
μ'sの三人だ。
でも、違和感がある。 衣装は雑誌で見たのより全然地味で、舞台の装飾…いや、体育館に見える。
そして何より、椅子に人がいない。
観客が見当たらない…。 善子「それはμ'sがμ'sになる前の、μ'sメンバー初めてのライブだ」
ルビー「でも、人が」
善子「初めはそうだった」
ルビー「嘘…」
あのμ'sが。
全国に名を広めたあのμ'sが。こんなに地味な場所で。 善子「人前が怖い?甘えだな。無人の怖さを貴様は知らない」
そう、人がいないのに、この三人は。
善子「その中でμ'sの原点たる三人の目は、上を向いている。輝いている」
何かに向かって、精一杯踊り続けている。
無人という絶望的な状況を前にしても立ち向かう。
こんな勇気。 善子「貴様の憧れは、そんなものか。憧れたμ'sとは、そんなものか。貴様はその憧れを、矮小な一歩から逃げて、破壊できるのか」
こんな勇気、私も、知りたい!
ルビー「私…!」
善子「START DASHを切れるのは自分しかいない」
ルビー「私、スクールアイドル、やりたい!」
善子「去れ」
一秒でも早く、みんなのもとに行きたくて、駆け出す。
自分を変える為に。 善子「START DASHを切れるのは自分しかいない。ただ、それは他人を変える」
梨子「…」
善子「もう一度問う。選択せよ」
梨子「…行ってくる!」
善子「ふん、くれてやる、地獄への入口だ」
梨子「…あ」
梨子「…ありがとう」
善子「去れ」 息を切らしながら辿り着く。突然のことにみんな驚いてる。
花丸「る、ルビーちゃん、そんなに急いでどうしたずら?」
ルビー「に、入部させてください!」
花丸ちゃんにこたえもせずに、言いながら頭を下げた。
とにかく今は、この気持ちが、勇気が冷めないうちに。 ルビー「私、スクールアイドルになって、μ'sのこともっと知って、弱い自分を変えて、お手本になりたいんです。何かの憧れになりたいんです!」
一瞬、静まり返る。
心臓が今にも張り裂けそう。
お辞儀の大勢で目を瞑っていると、目の前まで近付いてきた千歌ちゃんが、夕日に照らされた温かくて優しい表情で、こう言ってくれた。
千歌「大歓迎だよ。誰も笑ったり嫌がったりしないから。ようこそ、スクールアイドル部へ。はい、握手」 曜「か〜あっくいー!」
花丸「ずら〜。目から汗出てきちゃうずら〜」
果南「青春だねえ」
ルビー「あ、ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
いまいち現実味が湧かない。
緊張の解けないルビーを見てか、花丸ちゃんは目の前に来て言った。 花丸「待ってたずら」
それはつまり、ここに来ることを信じていたということ。
花丸「立派なスクールアイドルになれるか不安だけど、ルビーちゃんがいれば、マルは怖くないんだ」
一旦言葉を区切ると、微笑んで。
花丸「これからよろしくね、ルビーちゃん。はい、マルからも握手」
ルビーは最高の笑顔で頷いた。 賑やかな声が聞こえてきた。
声のトーンからして、もう入部は確定したんだろうな。
私も先輩として、負けてられない。
過去がどうとかより、引っ張っていかなきゃ、先輩として。
あの頃みたいに。
あの頃を超えた先が見たい。 梨子「私も!」
みんなのところに飛び入る。
勢い余って転びそうになりながら、入部届を千歌ちゃんに差し出す。
梨子「私も、入部、させて下さい!」
千歌「り、梨子ちゃん?大丈夫なの?人前がすごく苦手って」 梨子「後輩がこんなに頑張ってるとこ見て、逃げてちゃ駄目だって」
千歌「うん」
梨子「人前が苦手だとか言って逃げてる自分が恥ずかしくなって、居ても立っても居られなくて」
千歌「…うん」
曜「いよっ、梨子ちゃん男前!男子力アップ」
ルビー「…み、見てたの?」
梨子「…」
ルビーちゃんの言う見てたのはどこからなんだろう。
まさか善子ちゃんからとは思わないよね、普通。
千歌「うん。そっかそっか」
しきりに頷くと、
千歌「気持ち、しかと受け止めたよ。では」
千歌ちゃんは、そっと私の手からシワのよった入部届けを引き抜いた。 千歌「高海千歌。会長としての責任を持って、桜内梨子の入部届をお預かりし、部員と認めます」
手元に向けていた視線を顔に向けると、自然と涙が溢れてきた。
重荷がとれたかのように軽くなって、涙を閉じていた線が開かれたようだった。
梨子「……ありがとう」
それだけ言うのが精一杯で、わんわんと泣くのをどうしても抑えられなくて、千歌ちゃんがさすってくれて、曜ちゃんは嬉しそうにはしゃいでいた。 ルビー「なんか扱いに差があるー!」
花丸「こんなこともあろうかとルビーちゃん、ルビーちゃんの分の入部届もしっかり持ってきたよ」
ルビー「さっすが花丸ちゃん!回る頭が違うね」
果南「おおー。やるじゃん」
曜「こんなこともって言うけど梨子ちゃんが来てなかったら多分この流れにはならなかったと思うんだけど」
果南「わお、エスパー」
花丸「え、えっへん(汗)」
ルビー「…」ジトー
梨子「…くくっ」
夕日が落ちるまで、私達はその時を楽しんだ。 サングラスを外した彼女の瞳には蒼く染まりつつある夕焼けが映っていた。
善子「全ては、彼女の遺産の賜物。全てが運命の導き。これなら、私達も、きっと──」
陰の努力者は、切に願った。
なんてね。ククク。 色々ずれてるのが続きが気になる
千歌ママ高校生の頃が40年前って高齢出産すぎない? ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています