花丸「花丸秋の感謝祭」梨子「うぅ…」 [無断転載禁止]©2ch.net
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「花丸秋の感謝祭」とは?
私、国木田花丸が秋に感謝しつつ読書を嗜む毎年の恒例行事なのである
具体的には、家の裏山にて紅葉を愛でつつ芋を焼き、日がな一日気ままに本を読むなんとも贅沢な休日の過ごし方である
気分が乗れば七厘を持ち出して秋刀魚や松茸なんかも焼いちゃうのである!
それなのに…
梨子「ご、ごめんね…」 花丸「ううん、いいんだよ」
梨子「でも、私…お邪魔じゃないかな…?」
花丸「そんなことないよ」
梨子「そ、そう…?」
この人は桜内梨子
ひとつ上の部活の先輩で、スクールアイドルグループ・Aqoursの仲間である
事もあろうに私の「花丸秋の感謝祭」に突然乱入してきたのである
まさか… 花丸「梨子ちゃんはどうしてここに?」
梨子「…私、この内浦の景色が大好きなの」
梨子「東京にいたときも海や山は見てたけど、正直心を動かされたことはなかった」
梨子「でもここに…内浦に来てから見た景色は違ったの」
梨子「海はキラキラしてるし、山の木々は生き生きと生い茂ってる」
梨子「何て言ったらいいかわからないけど…私、ここに来て初めて「本当の自然」を見つけた気がするんだ」
語り始めちゃったのである 梨子「その景色を、感動を、忘れたくなくて…何かに残したくて…それでたまに絵を描いてるの」
梨子「今日は、この山の紅葉に惹かれてスケッチの場所を探してたんだ。そしたら…」
梨子「その、美味しそうな匂いがしてきて…つい…」モジモジ
やはり、である
焼き芋の香りに誘われない女子などこの世に存在しない
そしてそれはこの内気な先輩とて例外ではなかったのである
花丸「やっぱり…」
梨子「ご、ごめんなさい…」
花丸「あ、違う違う」 梨子「やっぱり、私…」
花丸「ち、違うんだってば…!」
そう、誤解である
先程私が「邪魔ではない」と言ったのは本心だ
だが、まずい
非常にまずい
何故なら今日は
お芋を10個しか用意していないのである!
――百歩譲って、この先輩と分けて食べるのはやぶさかではない
本当である
――余談ではあるが、私はお芋をまとめて焼いたりはしない
お芋は焼きたて熱々が一番美味しく、複数焼くとひとつ食べている間にどんどん他のお芋が冷めていってしまうからである
そう、つまり――
今、良い匂いの立ち上るこの焚き火の中では
お芋が
たったひとつしか焼かれていないのである!
――――千歩譲って、そのお芋をこの先輩と分けて食べるのはやぶさかではない
――本当である
だが問題なのは
私の腹具合からして、焼き芋半分では絶っ対に足りない
故に間違いなく、間髪入れず次のお芋を焼くことになるだろう
その時
お芋をひとつ焼くのかふたつ焼くのか
これが非常〜に悩ましい問題なのである 単純にふたりで食べるのであればふたつ焼けばいい
しかし、この見るからに少食な先輩は半分でも足りてしまうかもしれない
そうなると焼けたふたつは私が食べることになる
前述のとおり、折角の焼き芋を冷ますなどという愚行を自らの手で行うような失態は避けなければならない
そう、避けなければならないのだ
そしてこんなことを考えている間にも、お芋は美味しく、芳ばしく、焼き上がっていく
はやく結論を出さなければ…
梨子「あの、花丸ちゃん…?」 花丸「!な、なに…?」
梨子「私、やっぱり帰るね。花丸ちゃんのひとりの時間をジャマしちゃ悪いし…」
花丸「……」
梨子「それじゃ…」
花丸「――待って」
梨子「え?」
花丸「今、ちょうどお芋さんが焼けたところずら。一緒に食べよう?」
梨子「いいの?」
花丸「もちろんずら! 」 花丸「じゃあ半分に割って、と…はい梨子ちゃん」
梨子「ありがと…あっつ!あちち…っ!ふーっ!ふーっ!」
花丸「ふふふ…あむっ!んんーっ!美味ひいずら〜♪」
梨子「はむっ!…ほんと、美味しい♪」
梨子「…私、こんな熱々の焼き芋食べたの初めてだよ」
花丸「東京では焚き火で焼き芋したりしないの?」
梨子「あんまりしないんじゃないかなぁ…焼き芋といえば石焼き芋屋さんで買うのがほとんどだし…」
花丸「そうなんだ」 梨子「…私は、友達があんまりいなかったから…買う時はお母さんと一緒で、お母さんは「帰るまで待ちなさい」って言う人だから…」
梨子「だからいつも食べるときはちょっとだけ冷めてたんだ」
花丸「…」
梨子「だから熱々を食べるのも…と、友達、と食べるのも初めてなの…」
花丸「梨子ちゃん…」
梨子「…花丸ちゃんはいつもこんなことしてるの?」
花丸「うん、毎年の恒例行事ずら!」
梨子「……そっか…やっぱり違うなぁ…」
花丸「?」 梨子「……ごめんね、花丸ちゃん」
花丸「なにが?」
梨子「私、勝手に花丸ちゃんは自分とおんなじかもって思ってた」
花丸「?」
梨子「私はずっと音楽室や美術室にこもってて、そこで自分の世界に浸ってるのが心地よくて…」
梨子「スクールアイドルが無かったら今でも私はその世界しか知らなくて、それで良いと思ってたんだろうなって」
梨子「そしてそれは花丸ちゃんもそうなんじゃないかなって、勝手にそう思ってた」
花丸「……」 梨子「でも違ったね」
梨子「花丸ちゃんは図書室以外にもこんなに素敵な世界を持ってるんだもの」
梨子「それを、私なんかと共有してくれる優しさも持ってる」
梨子「…私なんかとは大違い…」
違う、オラは…
オラも…梨子ちゃんとおんなじだよ
ルビィちゃんに手を引いて、連れ出してもらったから、だからオラは… 梨子「っ…ごめん、変な話して…私、もう行くね」
花丸「―え?」
梨子「焼き芋、ごちそうさまでした」
花丸「ど、どうして?どうして行っちゃうの?」
梨子「食べ終わっちゃったから… それに、やっぱり花丸ちゃんのジャマはしたくないなって――」
花丸「邪魔じゃない!」
梨子「!?」
花丸「邪魔なんかじゃないよ。梨子ちゃんは、ここに居ていいんだよ!」
梨子「…いいの?」
花丸「」コクン 梨子「――いい、のかな…?私、本当に…」
梨子「本当に…いて、いいのかな…?こんな、私が…」
花丸「当たり前ずら」
花丸「梨子ちゃんは部活の先輩で、Aqoursの仲間で、オラの大切な…お友達だもん」
花丸「いてくれなきゃ、困るよ」
梨子「!」
梨子「…ほんとは、ずっと、思ってた…みんな元気で、明るくて…っ!私、だけ…っ!」ジワッ
花丸「…うん」
梨子「こんな…っ、私、迷惑なんじゃ…って」ポロポロ
花丸「うん、わかるよ…」
やっぱり
おんなじだ
梨子ちゃんは、あの時のオラとおんなじなんだ
花丸「……」
花丸「♪こ〜んな私でさえも…へ〜んしん♪」
梨子「?!」
花丸「♪だからねあげるよ元気♪ ♪そのままの笑顔で♪」
花丸「♪歌おう歌おうあげるよ元気♪ ♪悩まないで夢をみよう♪」
花丸「♪大好きなみんなとならば♪ ♪新しいことできる♪」
花丸「♪生まれ変わろうこれからもっと♪ ♪広がるはず♪」
花丸「♪さあ明日が見えてくる〜♪ ♪Love wing〜love wing〜♪」
梨子「は、花丸ちゃん…」 花丸「――オラもね、おんなじだよ」
梨子「え?」
花丸「この歌、センターで歌ってる星空凛さんも自分はスクールアイドルに向いてないってずっと思ってたんだって」
梨子「!」
花丸「でも、へんしん出来た」
花丸「大好きなみんなとなら新しい事が出来る、変われる、世界を広げられる」
梨子「…」 花丸「……オラね、小さい頃から運動が苦手で、いつも部屋の隅っこでひとりで遊んでるような目立たない子だったんだ」
花丸「いつしか本が大好きになって、「本さえあれば何も要らない。オラはひとりで大丈夫」って、そう思うようになった」
花丸「そんなとき、ルビィちゃんに出会った」
花丸「ルビィちゃんは図書室にひとりでいるオラの手を取って、外に連れ出してくれたんだ」
花丸「ルビィちゃんはオラに無いものをいっぱい持ってて、色んな世界を見せてくれた」
花丸「…そんなルビィちゃんも、色んなしがらみがあって、飛び出せない世界の中にいて…」
花丸「だから、今度はオラの番!って思ってルビィちゃんをスクールアイドル部に連れていったんだ」 梨子「…!そっか、あの時の…」
花丸「うん、体験入部。…思ったとおり、ルビィちゃんはああいう世界で目一杯輝ける子だった」
花丸「それを見届けたからオラは図書室に帰ろうと思った。オラには本があるから…ひとりでも大丈夫って…」
梨子「…」
花丸「ルビィちゃんの見せてくれた「友達のいる世界」にちょっぴり未練はあったけど…けど、何にも持ってないオラにはこっちの方がお似合いだって、そう思った」
花丸「でも、ルビィちゃんは、またオラの手を取ってくれた」
花丸「一緒にスクールアイドルやりたいって言ってくれた」
花丸「そうしてオラの世界はまた広がったんだ」
梨子「……」 花丸「――世界っていうのはひとりだけじゃなくて、ひとつだけじゃなくて…誰かに広げてもらうことも、誰かを広げてあげることも…」
花丸「誰かと一緒に広げることも出来るんじゃないかな?」
花丸「梨子ちゃんだって、そうやってスクールアイドルになったんじゃない?」
梨子「!」
―――やってみない?スクールアイドル
梨子「…そうだった…」
―――待って!だめ!!
梨子「私の世界もあの時確かに広がったんだ…!」 梨子「ありがとう、花丸ちゃん。もうスクールアイドルの世界も、Aqoursの世界も、私の中にちゃんとあったんだね」
梨子「だから、居ていいんだ。私、そこに居ていいんだ」
梨子「そこはもうちゃんとした自分の世界になったんだから」
梨子「気付かせてくれてありがとう。おかげでまた少し、私の世界が広がったみたい」ニコッ
花丸「ううん、お礼を言うのはマルの方もずら」
梨子「え?」
花丸「マルの世界も、今日梨子ちゃんのおかげで広がったから」 花丸「――オラ気付いたんだ。お芋はいつもどんな時も…みんなの為にあるんだって」
梨子「…は?」
花丸「梨子ちゃんと食べたお芋、すっごく美味しかった。ひとりで食べてた時よりもずっとずっと美味しかった」
花丸「大切な誰かと食べると、ひとりの時よりも何倍も美味しくなるんだってことに、梨子ちゃんのおかげで今日気付けたんだよ!」
梨子「そ、そう…」
花丸「それなのにオラときたら…やれ自分の食べる分が減るだの冷めたら美味しくなくなるだの…っ!」
花丸「小さい!まったく…自分が小さ過ぎて嫌になるずら!」
梨子(自分の食べる分って…まだ10個くらいあるよね…?)チラッ
梨子(まさかあれ全部ひとりで…?嘘でしょ?!) 花丸「梨子ちゃん!」
梨子「は、はいっ!」
花丸「オラは悔い改めるずら!」
梨子「は、はぁ…」
花丸「だから…」
花丸「焼き芋パーティー、始めよっ♪」
梨子「ええ?いや、私はもう大分お腹にたまったといいますか…」
花丸「違うずら!ふたりじゃなくて…Aqoursみんなで焼き芋食べたいんだよ!」
梨子「ああ、なるほど」 花丸「でもどうやって呼んだらいいかな?やっぱりひとりひとり電話する?」
梨子「そんなことしなくても…花丸ちゃん、ちょっとこっちに来て」
花丸「?」
梨子「それじゃあ笑って…はい、チーズ」
カシャッ
梨子「これをLINEで…うん、これでいいんじゃないかな?」
花丸「なにしたずら?」
梨子「すぐにわかるよ」 ヴーッ!ヴーッ!
花丸「わわわ、電話ずら」ピッ
花丸「もしもし?ルビィちゃん?――え?今いる場所?オラの家の裏山だけど…うん、うんそう、…わかったずら」
梨子「あ、場所書いてなかった」スッ スッ
花丸「――なんか後ろでダイヤちゃんがすごく慌ててたけど…どうしたんだろう?」
梨子「ふふふ、これよ」
LINEグループ:Aqours
リコ:今から花丸ちゃんと焼き芋パーティーやります
リコ:画像
リコ:いちおう誰が来ても良いように人数分のお芋さんがあるけど…
リコ:来なかった人の分は居る人で食べちゃいましょう♪ 花丸「…これでみんな集まるずら?」
梨子「たぶんね」クスクス
ババババババババババ
梨子「な、なに?!」
花丸「まさか、あれ鞠莉ちゃん家の?!」
梨子「見て!花丸ちゃん!淡島からこっちに向かってるジェットスキー、あれ果南ちゃんじゃ…」
花丸「三年組の本気が怖いずら…」
――― ―――結局、昨日はAqours全員集まってお芋を食べた
「花丸秋の感謝祭」としてはうやむやになってしまったが…それもまた良し、である
昨日食べたお芋の味に比べればひとりの時間を失ったことなど些事に等しい
鞠莉ちゃんに焼きマシュマロという新しい世界を見せてもらえたことも収穫だったし
とはいえ、活字中毒である私は昨日補給出来なかった活字成分を補給するべく、今日も感謝祭の準備中なのである
お芋は昨日食べ尽くしてしまったので、今日は焚き火ではなく七厘の出番だ
炭をおこし、食材を準備する
さて、そろそろ――
ガサガサッ 梨子「花丸ちゃん、おまたせー」
花丸「いらっしゃい、梨子ちゃん。…例のものは?」
梨子「持ってきたよ。昨日言ってたお店のモンブラン」
花丸「わー♪ありがとずらー♪ こっちも用意出来てるよ♪」
梨子「すごい…立派な松茸…」ゴクリ
梨子「――でもいいのかな?こんなに立派なのを私たちだけで…」
花丸「いーのいーの、今日はオラ達だけだからの大奮発ずら!」 花丸「……昨日みたいのも確かに楽しいけど、やっぱりマル達にはこういう時間も必要ずら」
梨子「そうだね、花丸ちゃんとなら静かにゆっくり過ごせそうだもん」
梨子「それに…」
りこまる「美味しいものも食べられるし!」
――さあ、準備は整った
始めよう
第一回、りこまる秋の感謝祭、スタートである!
おしまい >>1 乙!
ほのぼのとしたやつもいいな
初めは鬼畜マルか?と思って少しドキドキしたよ すごく面白かった
文化系りこまるはきっと良いお友達なれるね
美味しいものはみんなで食べると喜びも美味しさも数倍、と感じさせてくれる良いssだわ
芋食いてぇ…… いままで散々喧嘩売ってきたくせに今さらすり寄るなデブ推し いままでよしまる最高!よしりこ(笑)とか散々煽ってきたくせによくこんなSS書けるよな
デブ推しは頭おかしいんじゃねーの? どっちかがおならすると思ったらしなかった。
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