絵里「グレーチカ」 [無断転載禁止]©2ch.net
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
「…」
ポケットから振動が伝わってくる。
私はスマホを取り出しもせず、何もないかのように歩き続ける。
相手は判りきっているから、確認する必要もない。
面倒だ。 三十秒ほどすると振動は修まった。
更に十分ほど歩くと、目的地が見えてきた。
むしゃくしゃした日にはこうして訪れることが多い。
この街の夜は大分人混みも静まるが、柄の悪いのやら乞食やらで気分が悪くなる。 ここなら一人で静かになれる。
時折警察に遭遇する場合もあるが適当に言って逃げれば補導されることはない。
夜ならば基本的に落ち着いて居られる場所だ。 階段を登り終え、そのまま右折する。
境内の奥の目立たない所に向かおうとして、ふと、御明神の前に人影があることに気が付いた。
つい、私は立ち止まった。 それは驚いたからだけではなく、もう一つの要因として、彼女(腰まで届く一つに束ねられた髪から女だと判断した)には言い表せないような摩訶不思議な雰囲気が漂っていたからだ。
オーラとか、そういう類の。
妖麗、とでも言えばいいのか。 衣擦れの音すら立てず、背を向けていた体をこちらに向ける。
月明かりを怪しげに反射する髪が揺れ、白く消えそうな首元の肌を見せる。 不気味なそれから逃げることも忘れて硬直した私に、不気味な微笑を浮かべた。
?「初めまして。こんばんは」
透き通るようで宵闇に溶け込んでしまいそうなその声は肌に似ていると思った。
透明?
巫女服だ。袴ではない。だから幽霊とかそういった存在ではないはずだ。そもそもそんなもの子供騙しだ。
膝が震えるのを必死に抑える。 ?「…?ごめんね、驚かせちゃったかな」
絵里「…は」
強がってみせるが、正直この得体の知れない存在が恐怖でしかない。
とっとと消えてほしい。 絵里「じゃ、邪魔だ。帰って」
そいつは、クスリと、無邪気に目を細くして笑った。
?「でも、ウチのうちここなの」 絵里「…は」
?「ここに取り憑いてるんよ」
絵里「…は、は」
冷汗が吹き出す。
柄にも無く顔が引きつるのが自分で分かった。 ?「くすっ、冗談冗談。怖がらないで。人間だから」
…。
絵里「…ち」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています