曜「隣は一番遠い距離」 [無断転載禁止]©2ch.net
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私と千歌ちゃんはずっと一緒にいた。
何度お泊まりしたかなんて数えきれないくらいには、一緒にいたんだ。
ちらと横を見ればいつでも千歌ちゃんが隣にいてくれて、たくさんのお話をしてくれる。
毎日話したって尽きないくらいに。
私にとっての一番はいつだって千歌ちゃんだ。
でもそれは私だけなんだってことに、気が付いてしまった。 放課後、教室に忘れ物を取りに行ったときにたまたま聞いたんだ。
「渡辺さんと高海さんってつり合ってないよね」だとか「なんで高海さんなんかが渡辺さんと一緒にいるの?」だとか。
入りづらくてドアの前で固まっていたら後ろから声をかけられる。
千歌「曜ちゃん?」
曜「ち、かちゃん…」 千歌「あぁ…気にしないで大丈夫だよ?実際、そうだし」
曜「そんなこと…!」
千歌「用事終わったら早く部室来てね!先に行ってる!」
口では大丈夫だと言っていたけど、走り去る直前に見せた、あの泣きそうに眉をしかめた顔はどう見たって大丈夫じゃなかった。 このドアを開けて中にいる人たちに怒鳴ることだって、千歌ちゃんを優しく抱きしめることだってできたはずなのに、どうして私はそれをしなかったの?
そんなの、簡単だ。
私に勇気が、行動力がないから。
肝心なところで一歩を踏み出せなくて、傷付けた。
私が弱いせいで。
忘れ物のことなんて忘れて、ふらふらと私は部室へ向かった。 先に行ってるって言っていたけど、部室にはまだ誰も来ていなかったからいつもの席へ座る。
私はずっと隣にいて、そこが千歌ちゃんとの最短距離だと思ってた。
でもそれは勘違いで、実際は地球一周分ほどの距離がある、最長距離だった。
知らない間にたくさん、たくさん傷付けていたんだろう。
そんなことを考えていたら肩を叩かれた。
梨子「曜ちゃん、遅かったね」 曜「梨子ちゃん…千歌ちゃん知らない?」
梨子「ちょっとお腹の調子が良くないみたい」
曜「……そう」
梨子「隣いい?」
曜「うん、どうぞ」
梨子「曜ちゃんってさ…」
梨子ちゃんは眉をハの字にして、なんだか申し訳なさそうにしていた。 梨子「私のこと、あんまり…好きじゃないよね」
曜「…え?」
曜「なんでそんなこと…」
梨子「たまに…曜ちゃんの、私を見る目が鋭いっていうか…私と二人きりのときでも気まずそうにしてるし……」
ちくりと胸が痛んだ。
私の勝手な嫉妬心で、変な独占欲で、傷付けたんだ。 曜「そう思わせたなら…ごめん。でもそんなつもりじゃなくて…」
曜「梨子ちゃんも…千歌ちゃんと同じ、大事な友達だよ」
梨子「それなら、よかった」
ふっと小さく笑う梨子ちゃんの顔はとても綺麗で、眩しかった。 梨子「なんだか元気ないね」
曜「…ん、まぁね」
梨子「珍しい。どうしたの?」
曜「私、小さいときからずっと千歌ちゃんといたけど…千歌ちゃんのこと、なにもわかってなかった。傷付けてばかりで……だから、もう離れた方がいいのかなって」
梨子「…どういうこと?もう千歌ちゃんと一緒にいたくない、って…こと?」
曜「……そう、なるのかな」 梨子「千歌ちゃんのこと…嫌いなの?」
曜「違うよ!千歌ちゃんのことは大好きだよ!だけど、だけど…」
梨子「千歌ちゃんを傷付けたくないから…?」
曜「…うん。それに、こんな気持ちダメだから…」
梨子「こんな気持ち……もしかして、千歌ちゃんのこと恋愛感情として?」
曜「……ごめんね、いきなりこんなこと言われて…困るよね」 梨子「同性だし、傷付けてばかりの自分が好きになるのはいけないことだから忘れて、諦めようとしてるのね」
曜「り、梨子ちゃん?」
梨子「いくじなし」
曜「なっ…」 梨子「千歌ちゃんの気持ちは聞いたの?」
曜「聞いてないよ…そんな答えが見えたこと、聞いたって仕方ないし」
梨子「どうしてわかるの?他人の気持ちなんて誰にもわからないはずよ。私が曜ちゃんの気持ちをわからなかったように、ね」
曜「で、でも…私なんかが……」
梨子「なんか、なんて言わないの!どうして千歌ちゃんのことになるとそう消極的になっちゃうのかな…」 そのときガラリと部室のドアが開いた。
千歌ちゃんかと思い音の方を見ると、善子ちゃんが立っていた。
善子「千歌さんから伝言。具合悪いから帰るって」
曜「え?」
善子「すごい顔真っ青で…大丈夫なのかしら」
曜「…っごめん!私も早退する!」 急いでバッグを持ち、走り出そうとしたとき、梨子ちゃんが背中を軽く押してくれた。
一人じゃ踏み出せなかった一歩を踏み出して、私は走り出した。
視界がぼんやりと滲んでいたけど気にせず走った。
バスを待つくらいなら走った方が早い。
伝えなくちゃ。私の気持ちを。
地球一周分を走りきって、千歌ちゃんとの最短距離まで。 ぱたりと足が止まった。
海の目の前、防波堤に腰を掛ける人物。
特徴的なあほ毛とみかん色の髪の毛。
海には目もくれず、ただ地面をじっと睨み付けていた。
私はその少女に声をかけた。
曜「千歌ちゃん」
返事はない。
ぴくりと肩が動いたのを見ると、聞こえてはいるみたいだから、もう一度。
曜「千歌ちゃん」 消えてしまいそうな、か細い声で彼女は「どうしてここに」と呟いた。
私に声をかけているのではなくて、宙に言葉を浮かべただけのように聞こえた。
続けて、千歌ちゃんは言葉をつなぐ。
千歌「馬鹿みたいだよね。あんなのわかりきってたのに」
千歌「私は普通星人で、特別な曜ちゃんとは違う。隣にいる資格なんて昔からなかったのに」 自虐的に言うと、こちらに目線をうつす。くすりと笑って一言。
千歌「どうして曜ちゃんが泣くの」
言われるまで頬を伝うものに気が付かなかった。
これはなんの涙なんだろう。
悲しみ?怒り?それとも、同情?
多分、そんな簡単な言葉では言い表せない、複雑な感情だ。 千歌「曜ちゃんは…私なんかじゃなくてもっと素敵な人といるべきなんだよ」
違う。
千歌「私が曜ちゃんを縛り付けて…本当にごめんなさい」
やめて。どうしてそんなことを言うの。
さっきまで自分も同じことを考えていたくせに。
でも、今は違う。 私は、渡辺曜は――千歌ちゃんの隣にいたい。つらいときや悲しいときは励まして、楽しいときはもっと楽しませてあげたい。
一歩、千歌ちゃんに近付く。
曜「千歌ちゃんは私の気持ち、なにもわかってない」
千歌「わかんないよ!だって、曜ちゃんはつらくても私になにも言ってくれないじゃん!」 曜「それは…ごめん。私、無意識のうちに千歌ちゃんによく見られたくって、無理してた。千歌ちゃんの前ではかっこよくいたかったから」
千歌「無理、してた…の?」
曜「うん。だって……好きな子の前ではヒーローでいたいでしょ?」
言ってしまった。もう、後には戻れない。
よくも悪くも、今までの私たちには戻れない。 千歌「す、き…って」
曜「千歌ちゃんのことが恋愛感情として好きなんだ」
千歌「嘘だ…そんな、だって曜ちゃん…」
曜「本当だよ。こんな嘘なんてつかない」
千歌ちゃんの目をまっすぐ見つめる。
涙で潤んだ瞳に見つめ返されて、そのまま数秒。
時間が止まったような気がした。
それを打ち破ったのは千歌ちゃんだった。 千歌「私も…曜ちゃんが、好き」
千歌「ずっと、昔から好きだった。でも…私なんかじゃつりあわないって思ってたからこんな気持ち忘れようって何度も何度も思ったんだ」
千歌「でもやっぱり忘れられなくて…隣にいるだけでいつもドキドキして、それがすごく悪いことのような気がして……苦しかった」
また一歩近付く。
しゃがんで、そっと抱きしめる。 曜「さっきさ、教室で…クラスの子が話してるの聞いたでしょ?」
千歌「…うん」
曜「そのとき…こうやって抱きしめたかった。中にいる子に怒鳴りたかった。でも、私に勇気がなくて、できなかった。本当は私、いくじなしなんだ」
千歌「……まだ信じられない」
ぐいと私の肩を離した千歌ちゃんは、むすっとした顔でそう言った。 千歌「部室で梨子ちゃんと話してたこと」
曜「き、聞いてたの…」
千歌「私と…一緒にいたくない、って」
曜「へ?そのあと、聞いてないの…?」
千歌「う、うん…苦しくなって、逃げちゃったから……」
曜「あの後ね、千歌ちゃんが嫌いなわけじゃない。大好きだけど、私は千歌ちゃんを傷付けちゃうから。恋愛感情なんて持ってちゃダメだから…って言ってたんだ」 あらためて本人に説明するなんて、すごく恥ずかしくて顔が熱くなる。
ふふ、って小さく笑ったと思ったら強く抱きしめられる。
千歌「嘘だったら許さないから!」
曜「嘘じゃないよ。千歌ちゃんを嫌いになるなんてありえない」
また近付いて、抱き返す。 今、私は確かに千歌ちゃんとの最短距離にいる。
つりあうとかつりあわないじゃない。
お互いが隣にいたいって気持ちだけで充分だ。
もう勝手に決めつけてすれ違わない。
気持ちは素直に伝えよう。
曜「私、ずっと千歌ちゃんの隣ってすごく距離を感じてたんだ」
千歌「へ?」 曜「隣にいたけどさ、お互い本音とか言わなかったでしょ?だから、遠いなって思ってた。でも今は違う。千歌ちゃんとの最短距離にいるような気がする!」
千歌「む、まだ最短距離じゃないよ?」
曜「え?」
千歌「曜ちゃんと私の、最短距離教えてあげる」 一度体を離され、肩をつかまれる。
千歌ちゃんの顔が、近くなる。
目をつむってそれを受け入れる。
お互いの唇が重なった。
初めては、涙で少しだけしょっぱかった。
千歌「これで最短距離だね」 いつもあまり地の文あるSS読まないんだけど読みやすかった
乙 おっつおっつ
もんじゃのようちかすき
アニメみてて感じた距離感が上手く表現されてたのと雰囲気がよかった >>34
これ
なんでかわからないけどスラスラ読めた
乙乙 子供の頃はお互いシンプルで、何にも言わなくても全部わかってたことも、成長したらそういうわけにもいかないしね ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています