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骨董屋シリーズだよ
0001名無し百物語
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2019/08/17(土) 06:16:39.58ID:Pg36qsM1
創作の骨董屋を主人公にした話を書いていきます
0028名無し百物語
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2019/08/17(土) 06:32:21.68ID:Pg36qsM1
で、翌朝、故人が部屋から出てきたんですが、いつもと違って、手で兎の足をつかんでいて、
しかもその兎は、まだ獲ったばかりだったのが、ズルズルに腐っていたそうです。
それと、故人の額に、?の字型の傷があり、血がしたたっていました。
故人は部屋から出てくるなり「不興をかった、何故だあ!!」
大声でそう叫ぶと、そのまま布団に入って3日3晩起きてこなかったそうです。
息子さんが責められるとかはありませんでしたが、そのときの取引は大損で、
一時は家が傾いてずいぶん困窮したそうです。ですから、それ以来、
部屋をのぞくことはしなかったということでした。
でね、故人は70歳を過ぎても、ときどき大きな取引をしてましたが、
亡くなる直前、子どもらの家族が実家に呼び集められまして。
ええ、故人からみたら、ひ孫にあたる幼児も何人かいたんです。
0029名無し百物語
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2019/08/17(土) 06:32:49.69ID:Pg36qsM1
で、それまでは小さい子をかわいがることなどあまりなかった人なのに、
夕食の席で小さい子どもを一人ひとり抱きあげて、頭をなでたり頬をさわたりしたそうです。
それから、その掛け軸を出してきて、奥の部屋に飾った。
でも、その翌日、急に猟にいくと言い出し、鉄砲を持って一人で山に入り、
そこで亡くなったんですね。自分の鉄砲で頭を撃ち抜かれて。
警察は自殺も疑ったそうですが、そこは旧家ですから、猟銃事故ということにしてもらって、
葬式を終えた。でね、故人の奥さんはとうに亡くなってましたから、
最初のほうで話したように、子どもたちはその家を畳むことにして、
すべてをお金にかえて遺産分けすることになったんです。
ですが、調べてみると、現金は思いの外、少なかったんです。借金こそなかったものの、
おそらく投機の失敗が続いていたんでしょうねえ。
0030名無し百物語
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2019/08/17(土) 06:33:10.47ID:Pg36qsM1
で、私ね、よせばいいのにスケベ心を起こしまして。その掛け軸、もっと専門的に
目利きしたいと言って、借りてきたんですよ。だってねえ、気になるじゃないですか。
これもおそらく、何かしら命を持った古物なんでしょう。
引退はしましたが、そういう興味は失っていない。でね、自分の家に持ってきて、
和室の床の間にかけてみたんです。ええ、私は今、一人暮らしで、
迷惑をかける家族はいませんから。掛け軸を前にして、つまみなしで焼酎の
ロックを飲んでました。そうやって朝まで過ごすつもりだったんです。
何が起こるか?起こらなくても、それはそれでよしと思って。
夜中の12時を過ぎても何も起きませんでした。ただのつまらない絵柄の掛け軸。
少々飽きてきまして、焼酎の杯も進みました。
それで、2時を回った頃ですか。少しうとうととして・・・
0031名無し百物語
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2019/08/17(土) 06:33:36.04ID:Pg36qsM1
獣臭かったんです。ものすごく強い獣臭。それで目を覚まして、
反射的に掛け軸のほうを見ました。そしたら、三方はそのままでしたが、
絵の中の神社の扉が少し開いていたんです。ええ、数cmほどでしたけど。
でね、その間に目が見えたんです。人間のものではない片方の目。
黒目がちで、強い青い光を放っていると思いました。「あっ!!」そう叫んで
私が立ち上がると、「ビシャーン」大きな音をたてて絵の中の扉が閉じたんですよ。
それっきり、朝まで何事もありませんでした。でね、その掛け軸の中のもの、
それがまだ生きてることがわかりましたんで、依頼人の方たちには、
売るのはやめて、どこぞの有名な神社へ奉納するよう進言したんですよ。
まあこれで、今回の話は終わりです。え、掛け軸の中のもの?
それはわかりません。私はあくまで骨董屋で、神職とかではありませんからねえ。
0033名無し百物語
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2019/08/17(土) 06:37:32.40ID:Pg36qsM1
高砂人形の話

あ、前に2度ほど おじゃまさせていただいた元骨董屋です。
ここの世話人の方に、まだ話があるだろうって言われまして。
それでまた来てしまいました。ただ、今晩する話は、あまり怖いものじゃないんです。
それでも、よろしければってことで。あれは、わたしが50代に入ったばかりの頃
でしたね。ええ、骨董屋としても脂の乗り切った時期です。
そのくらいの齢になれば、仲間内の信用もできますし、馴染みのお客さんも増え、
鑑定眼も培われて、まず贋物をつかませられるってことはないんです。
だからねえ、何であんな買い取りをしたかいまだによくわからないんです。
ある日ですね、店じまいしようかという時間に、若いお客さんが来たんです。
で、ひと目で買い取りのお客さんだってわかりました。
少し話をしたら、案の定、これはいくらで売れますかって、
0034名無し百物語
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2019/08/17(土) 06:37:54.40ID:Pg36qsM1
バッグから、年代がかって黒くなった木彫りの人形を一体取り出しまして。
高砂人形の片割れでした。ああ、高砂人形はご存知ですよね。
翁媼(おうおう)人形とも言います。熊手を持ったおじいさんと、
箒を持ったおばあさんの人形がセットになってるものです。
これは縁起物で、おじいさんが持つ熊手には、財をかき集めるという意味、
おばあさんが持つ箒には、邪気を払うという意味が込められています。
また、2体そろって夫婦円満、長寿息災の願いが込められているんです。
で、そのお客さんが持ってきたのは、熊手を持ったおじいさんのほうだけ。
ああ、これは買えないと思いました。2体セットでないと価値がないものなんです。
ただ、ちょっと心惹かれるところもありました。
すごく彫りが精緻だったんです。たんなる土産物のレベルではない。
0035名無し百物語
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2019/08/17(土) 06:38:09.68ID:Pg36qsM1
木彫りで、どこにも銘などは入ってなかったので、時代はわかりません。
けど、かなり手ずれで黒ずんでましたので、古いものなのは間違いない。
でね、高いお金は払えませんでしたけど、買い取ることにしたんです。
いちおういわれは聞きましたが、お客さんは「わからない」
片割れの人形はどうしましたかと尋ねても「わからない」と答えるだけで。
まあでも、犯罪がらみのものとも思えませんでしたので、それで。
店の人形などを集めてある棚の奥のほうに置いておきましたよ。
で、その日以来です。店の売り上げがぱたっと止まっちゃったんですよ。
その頃の売り上げは、サラリーマンの方の年収の3倍近くあったんです。
これ、高いと思うかもしれませんが、骨董屋の場合は、
買い取りで払う金額もそこに含まれてますから。
0036名無し百物語
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2019/08/17(土) 06:38:38.26ID:Pg36qsM1
ええ、わたしらの商売は、売って儲け、買って儲けの2段になってるんです。
同業者の中には、「往復ビンタで儲ける」なんて言う人もいるほどで。
それが、店の品がパタリと売れなくなってしまってね。
お客さんはそれなりに来て、ケースの中の品を出して見せたりもするんですが、
最終的に買ってくれないんです。あともちろん、カタログ商売もしてましたが、
そちらのほうの注文も一切なし。それとね、店に品物を持ち込んでくるお客さん、
これが1人も来なかったんです。そんな状態が2ヶ月も続きました。
原因は、考えたんですけどわかりませんでした。
あの高砂人形のせいだなんて、思ってもみませんでしたよ。
それで、わたしらは、仲間内で市をやってるんです。
ここまで現金収入がないと手詰まりで、
0037名無し百物語
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2019/08/17(土) 06:38:55.79ID:Pg36qsM1
ああ、いくつかの品を市に出さなくちゃならないなあ、って思ってたんです。
市に出せば、必ず買い手はつきます。ですが、お客さんに売るより、
ずっと儲けは少なくなっちゃうんです。最終手段なんですよ。
で、市に出す品を選んでいるとき、迷ったんですが、
あの高砂人形も箱に入れたんです。その夜、夢を見ました。
わたしは一人、明るい白い砂の浜辺にいて、一本の松の木を見上げてる。
その松は盆栽のように曲がりくねった枝ぶりで、
樹齢数百年はあるように思えました。松の向こうは海で、
遠くに白い帆をはった舟が一艘浮かんでまして、ちっとも怖いところのない夢で、
むしろお目出たいような心持ちでいるとき、
どこからかわたしの名前を呼ぶ声が聞こえる。何度も何度も聞こえる。
0038名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 06:39:20.04ID:Pg36qsM1
そこで目が覚めまして、居間にある電話が鳴ってるんだってわかりました。
ええ、当時は携帯電話なんてなかったですし、家族は全員寝ている。
それで、わたしが起き出して出ると、実家にいる兄貴からでした。
同居しているわたしの母親が、急に具合が悪くなって入院した。
医者は家族や親戚を呼びなさいと言ってる、お前今から来れるか、そんな内容でした。
もちろん行くしかないんですが、真夜中でしたので、
夜明けを待って家族を起こし、事情を説明して、一番の電車で出かけたんです。
兄貴が言ってた病院に着くと、母親はたくさんの管がついた状態で、
今日、明日が峠だろうって話でした。それで、兄貴の家族とともに見守ってましたら、
午後になって血圧が上がってきたんです。それと心電図の動きもよくなって、
医者は、「これは持ち直したようです」って言いました。
0039名無し百物語
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2019/08/17(土) 06:39:36.50ID:Pg36qsM1
まあ、一安心ですよね。それから1時間ほどたって、母親はぱちりと目を開け、
酸素吸入器を振り払って、「○○いるか?」って聞いたんです。
○○は私の名前です。「ああ、母ちゃん、ここにいる」そう言うと、
「仙台、骨董市場、すぐいけ」こうつぶやいて、また寝入っちゃったんです。
わたしに言ったのは間違いないですが、意味はわかりませんでした。
それから、もう1日母親のそばについてまして、意識は戻りませんでしたが、
「容態は安定している」という医者の言葉を信じて、
いったん帰ることにしたんです。その途中、ちょうど同じ方向でしたので、
仙台に寄りました。何度か来てましたし、知ってる同業者もいたんで電話すると、
その日、人形会館というところで骨董市場が開いてるって話を聞きました。
ええ、行ってみました。その地方の同業者だけの会です。
0040名無し百物語
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2019/08/17(土) 06:39:51.59ID:Pg36qsM1
わたしはよそ者でしたが、訳を話すと仲間に入れてくれました。
そこで・・・ここの方々ならもうおわかりかもしれませんが、
あの高砂人形の片割れらしきものを見つけたんです。箒を持ったおばあさんの人形。
値は安かったし、競り合う人もいませんでした。
で、手に入れたそれを店に持ち帰って、適当な台座を見つけ、
おじいさんの人形と並べて飾りました。するとね、気のせいかもしれませんが、
店の中がぱっと明るくなった感じがしたんです。
その夜、また夢を見ました。前に見た夢と同じ場所、
白砂の敷かれた浜辺の松の木の前に立っている。
ただ、前と違うのは、松の木の根本に小さなおじいさん、おばあさんがいて、
わたしのほうを向いて何度も何度も頭を下げる・・・そんな内容だったんです。
0041名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 06:40:07.91ID:Pg36qsM1
あと、話すことはあまりないですね。1週間ほどして、
わたしの母は意識を取り戻し、容態はどんどんよくなって、
歩いたり食事をとったりできるようになったんです。
兄貴たちもすごく喜んでました。それで、母に
「最初に病院に来たとき、俺の名前を呼んで、
 仙台の骨董市って言ったのを覚えてるか?」って聞いてみたんです。
母はかぶりを振って、「仙台なんて行ったこともないし。ただなあ、
 寝てる間、じいさん、お前の父さんが出てきて、こっちに来るなって言ったのは
 覚えてる」こんな話をしました。まあ、俗に言う臨死体験なんでしょうねえ。
ちなみに、わたしの父は当時から30年前、まだ若い50代で急死してるんです。
「まだあの世にくるなってことだな」そう笑って帰ってきました。
0042名無し百物語
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2019/08/17(土) 06:40:25.46ID:Pg36qsM1
まあこんな話なんです。ああ、もう一つだけ不思議なことがありました。
店に飾ってあった2体の人形、ほこりをはたいてるときに気がついたんですが、
両方の足元から、細い根っこみたいなのが数本出て、つながってたんです。
うーん、何十年、ひょっとしたら100年以上も前に伐採された木ですから、
そんなことはありえないと思うでしょうが、骨董の世界では、
その程度のことは、ない話じゃないんですよ。ええ、高砂人形は、
二度と離れ離れにならないよう、蔵のほうに移動させまして、わたしが店をたたむときに、
ある神社にお預けしたんです。今もそこにあるんだと思います。
それから、店の売上は回復して、前以上に繁盛するようになりました。
母はその後、10年以上生きて92歳で亡くなりました。
父が迎えに来たんでしょうかねえ、そのあたりはなんともわかりません。
0043名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 06:45:17.49ID:Pg36qsM1
夢二の鏡の話

こんばんは。この間、「さむどの屏風」の話をした元骨董屋です。
他に古物にまつわる話はないかって言われまして、今晩も来させていただきました。
でもこれ、そんなに怖い話じゃないんです。
まあ、ちょっとした事件はありましたけど。もう何十年も前のことです。
市でね、三面鏡を仕入れたんです。銅に錫メッキをした枠にガラスをはめ込んだ鏡。
化粧机の上に置いて使う小ぶりのやつでね。大正時代のものです。
品のいい金属彫刻がほどこされてまして、まさに大正ロマンを感じさせる。
それで、わたしが勝手に「夢二の鏡」って名づけまして。
竹久夢二はご存知ですよね。たおやかな美人画で有名な。
いかにも、あの夢二の絵の中の人物が使いそうな鏡だったんです。
ケースには入れず、店の前面の棚に飾っておきました。
0044名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 06:45:50.88ID:Pg36qsM1
ちょっと余談になりますけど、骨董の鏡って、
けっこう誤解してる方がおられるんです。例えば、江戸時代の花魁が、
大きな姿見で着物の着付けをしているとか、三面鏡を開いて化粧してるとか。
でも、江戸時代に板ガラスを使った大きな鏡なんてないんですよ。
ええ、明治以前の鏡は金属を磨いたものです。
板ガラスが輸入されるようになったのは、明治の10年ころですかね。
ですから、それ以前には手鏡ていどのものしかなかったんです。
もちろん西洋のアンティークにはありますが、うちでは扱いません。
ああ、すみません、話を続けます。まあね、簡単には売れないだろうとは思ってたんです。
だって、骨董屋に一人で来られる女の方なんてまずいません。
今はどうかしりませんが、わたしらの頃は骨董趣味の女性なんて、まずいなかった。
0045名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 06:46:11.08ID:Pg36qsM1
その鏡、商品ですから、もちろん毎日磨いてました。やはり古いものなので、
ガラスにゆがみもあったんですが、くもりはなく、物ははっきり映りましたよ。
でね、ある日、わたしの中学2年になる娘が、
店にいて、背伸びしてその鏡をのぞいてたんです。
右を向いたり、左を向いたり、すました顔をしたり、口を開けたり。
そこにわたしが入っていって声をかけました。「どうした、その鏡、気に入ったかい」
「あ、びっくりした。お父さん、おどかさないでよ!
「お前が店の品を見てるなんて珍しいと思ってね」
「この鏡、すごくきれいに映る。自分じゃないみたいに」
「うーん、ゆがんで少し凸面になってる部分があるみたいだから、そのせいかなあ。
 お前が気に入ったなら、部屋においてもいいぞ」
0046名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 06:46:36.06ID:Pg36qsM1
「あ、いらない。きれいな鏡だけど部屋の雰囲気に合わないし、
 私、今、鏡見てるようなヒマはないから」娘は中学でバレー部に入ってまして、
背も私よりかなり高かったんです。それが県の大会でチームが優勝しまして、
あと1ヶ月で全国大会があったんです。オリンピックで日本の女子バレーチームが、
「東洋の魔女」なんて言われた頃からは時間がたってましたが、
テレビのアニメでバレーボール物をやってたりした時期でした。
当時はね、スパルタ訓練はあたり前で、娘はまだ中学なのに、
帰りが9時を過ぎることもよくあったんです。
でね、それからちょくちょく、朝の登校前とか、夜に店の電気をつけて、
娘がその鏡をのぞいてることがあったんです。10分以上も鏡の前にいて、
戻ってくるとボーッとした顔をしてる。
0047名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 06:46:53.86ID:Pg36qsM1
まあでも、きつい練習の疲れや大会前の緊張を、そうやって娘なりにほぐしてるんだと
思って黙ってたんですよ。でね、ある晩です。娘が練習から戻って、
「御飯いらない」って部屋から出てこなかったことがありまして。
ちょっと驚きました。その頃の娘の食べる量はわたしよりずっと多かったですから。
で、その3日後ですか。妻からこんな話を聞かされたんです。
「○○子から相談されたんだけど、あの子、男子バレー部の3年生のキャプテンから、
 つき合ってくれないかって言われたみたい。ずっとバレー一筋にやってきた子だから、
 それでちょっとショックを受けてるみたい」
娘が妻に相談したんでしょうね。これはわたしも対処に困りましたが、
男親が口を出すのも難しい話だし、なるようにしかならんだろうと思いました。
ただ、大事な全国大会に影響が出なければいいなと。
0048名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 06:47:13.19ID:Pg36qsM1
それとですね。小さい頃から男みたいな娘でしたけど、
その頃 急に、親の私から見ても、きれいだなって思えるときがあったんです。
頬が紅をさしたような色になり、唇も化粧したみたいに赤くて。
でもね、それは年頃になったからで、あの鏡のせいだとは露も思わなかったです。
でね、これも妻から聞いたんですが、その男子のキャプテンとのことは、
とにかく全国大会が終わるまで保留、それから返事をするって、
娘がその男の子に言ったってことでした。それから1週間後くらいですね。
夜、12時過ぎ、トイレに起きまして、廊下を通るとき、
店のほうがぼうっと光ってることに気がつきました。見に行くと、
あの三面鏡が開いてて、その中から光が漏れ出てたんです。
もちろん、店を閉めるときに鏡は閉じてました。
0049名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 06:47:32.29ID:Pg36qsM1
おかしいな、と近づいていくと、不意に、鏡から人が抜け出してきました。
「えっ?」和服を着た日本髪の女性で、芸者さんみたいな感じでした。
「えっ えっ?」その女性は、すーっと滑るように店の通路を動き、
表戸の前まで行きました。そして私のほうを振り向き、それ、娘の顔だったんです。
「あ、お前!」娘の顔をした女はにこりと笑い、にじむようにして
戸の外に消えたんです。鍵を開けてみましたが、女の姿は通りにはなく、
それから心配して見に行った娘の部屋では、娘は布団をはねとばして眠っていました。
わけがわからなかったんですが、長年古物を扱ってると、
不思議なことはいくらもあるので、気になりつつも寝たんです。
・・・2時間後くらいですね、夜中の1時を過ぎてたと思います。
表戸をドンドンと叩く音がして、起き出して出てみると、
0050名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 06:47:51.98ID:Pg36qsM1
40年配に見える酔っ払いが2人いました。で、「女が今、この店に入っていったから
 出してくれ」ってことだったんです。着物姿の艶やかな女性が角に立っていて、
酔っ払いたちを誘うように流し目をした。で、後についていったら、
わたしの店の前でふっと姿が見えなくなった・・・こんな内容だったんです。
「そんな人はいませんから。警察を呼びますよ」そう言って帰ってもらいました。
まあ、こんなことがあったんです。それから2週間後、
娘のバレーの全国大会がかなり遠くの県でありまして、
わたしたち夫婦で応援に行ったんですが、2回戦で負けてしまいました。
でも、その試合は接戦で、娘のチームに勝った相手が優勝したんですよ。
大会が終わって、娘は抜け殻のようになり、店の鏡を見ることもなくなりました。
どうやら、男子キャプテンとのことも立ち消えになったみたいです。
0051名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 06:48:15.58ID:Pg36qsM1
これで話は大体終わりなんですが、後日談というか。
あの鏡はずっと売れないでいたので、そろそろ蔵にしまおうかと考えていたときに、
70過ぎの男性と、その孫かと思える20代の女性が来店しまして、
老人のほうが「ああ、ここにあった。あの鏡だ」と棚の上を指差し、
「夢二の鏡」をかなりの額で買っていかれたんです。
それから半年後、その老人が一人で店を訪れまして、
菓子折りのようなものを手渡してよこしまして。意味がわからず、
事情を聞きましたところ、あの鏡、なんでも縁結びの力を持ったものだ、
って話でした。前に店にいっしょに来られたのは、やはりお孫さんで、
どういうわけか縁遠く、婚期が遅れていたのが、あの鏡を前にして
毎日化粧をするようになってから、すぐに良縁がついて、
0052名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 06:48:31.36ID:Pg36qsM1
結婚が決まったので、そのお礼に来たということだったんです。
わかったような わからないような話でしたけど、「それはおめでとうございました」
そう言って、菓子折りは遠慮なくいただいておきましたよ。
・・・娘は、高校に進学しても競技は続けて、高校選抜にも選ばれたんですが、
ヒザを怪我してしまいまして、そこでバレーを断念したんです。
身長の伸びもとまってましたし。今となってはそのほうがよかったかもしれません。
高卒後に就職して、すぐ職場の人と結婚し、子どもが3人できたんです。
その長男が、わたしにとっては初孫でした。
ええ、あの鏡の力を借りなくても、良縁が見つかったってことです。
え? 鏡ですか。さあ、今はどこにあるんでしょうか。
噂は聞きませんね。世に出回ってはいないようです。
0053名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:32:55.24ID:Pg36qsM1
兵隊人形の話

ああどうも、またおじゃましてしまいました。
ここで何度かお話をさせていただいた、元骨董屋です。
もうだいぶ昔になるんですが、私がまだ若い時代にあったことを
思い出しまして。ええ、その話をしにやってきたんです。
あれは、私が30代の後半のときです。自分の店を持って3年目、
まだまだかけだしのひよっこで、目利きもままならず、
よくまがい物をつかまされてた時代のことですよ。
え、店を持つのが遅かったんじゃないかって? ええまあ、
私は高校卒業してからすぐ、大きな骨董屋に丁稚奉公みたいにして
入ってたんです。当時はみんなさそうでしたよ。親の跡をついで
骨董屋になるのならともかく、この商売をやろうと思ったら、
0054名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:33:21.06ID:Pg36qsM1
まずはどこぞの店に奉公して、そこでね、目利き、今の言葉でいう
鑑定眼を身につけさせてもらったんです。
ええ、住み込みで雑巾がけから何からやりました。
お給金など、ないも同然ですよ。戦後の混乱期でしたから、
飯を食わせてもらえるだけでもありがたい。
そこでね、市でのセリの仕方やら、古物の手入れの方法なんかを、
一から学んだんですよ。ああ、すみません。昔話が長くなってしまって。
それでね、小さいながらも自分の店を持ちまして、
せまい中に自分の気に入った古物をずらりと並べてね、
今考えると、あのころが一番幸せだったかもしれません。
売り上げも、親子3人食っていけるくらいには上がってたんです。
0055名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:33:42.03ID:Pg36qsM1
あ、はい、結婚しておりまして、娘はまだ小学校前だったと思います。
本題に入ります。店じまいしてから、その日の売り上げを数えて、
帳簿につけるんですが、それがどうも合わなかったんです。
もちろん多いなんてことはない、毎日、100円、200円足りない。
100円ぐらいケチ臭い話だと思うかもしれませんが、
今とは貨幣価値が違ってまして、まだ百円札があったころなんです。
おかしいなあ、と考えて、でも、どうして足りないのかわからない。
そのころはもちろんレジなんかなくて、小箪笥に売り上げを入れてたんですが、
それを背にしてずっと私が店番をしてるんです。
ですから、誰かが持ち出すわけはない。ええ、私がね市に出たり、
出張買い取りにでかけてるときは、店は閉めてました。
0056名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:34:04.13ID:Pg36qsM1
女房? いや・・・女房を疑うことはなかったです。
毎日ではありませんでしたが、女房は近くの食堂に働きに出てましたし。
それでね、面倒でしたが、現金が入ったときには、
いちいち奥の間にある金庫に入れるようにしたんです。
それで、お金が足りなくなるのは収まりました。まあ、いったんはね。
その金庫の鍵は、私が首からヒモでぶらさげて、
腹巻きに入れてましたんで、誰も開けることはできないはずだったんですが。
そうするようになって3日目くらいですか、夜中に、
いっしょの部屋に寝ていた娘が、急に大きな声で泣き出して、
私も女房も起きてしまったんです。電気をつけて、
「どうした、怖い夢でも見たか」と聞きましたら、
0057名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:34:23.33ID:Pg36qsM1
娘が言うには、顔が水をかけられたようにひんやりして、
目を覚ますと、自分の顔の上を大きなカエルが通っていくところだった。
こんな話をしまして。まあね、それだけなら夢だと思いますでしょう。
表戸も裏戸もしっかり閉めてあるし、カエルなど入ってこれるはずがない。
そもそも、店の近くに水場などないんです。
ですから、「よしよし、夢だよ」と言って寝かしつけたんですが、
翌朝、金庫を開けると、前の日の売り上げの中から、
百円札だけがすべてなくなっていたんです。
これには驚きました。だってね、頑丈な耐火金庫で、大人の男2人でも
持てないほどの重さなんです。しっかり鍵もかけてある。
ただほら、前夜の娘のことがあったでしょう。
0058名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:34:38.88ID:Pg36qsM1
金庫のある奥の間には、私たち家族が寝てる部屋を通らなくちゃ行けない。
何か、娘が見たというカエルと関係があるんだろうと思いました。
ですが、店にはカエルの置物などなかったんです。
ただ、お金がなくなるのが始まったのは、私が市で古物を仕入れてきた
翌日から始まったのはたしかなので、そのときに買った品のどれかが
悪さをしている。そうとしか考えられませんでした。
でね、どうしたかっていうと、私が奉公していた老舗の骨董屋の主人、
かつての私のお師匠さんでもあるんですが、その人のところへ
相談に行ったんです。お師匠さんはそのころ、もう店は息子さんにまかせて
隠居していて、悠々自適の生活をされていましたが、
私が訪ねると、隠居部屋に案内されてお茶を出していただきまして。
0059名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:34:58.42ID:Pg36qsM1
事情を話しますと、面白そうな顔をして聞いておられたんですが、
「それはやはり古物だなあ、何かの古物の仕業だろう。
 といっても、ここで正体はわからん。お前の店に行って目利きして
 やってもよいが、それよりもいい物を貸してやろう」
そう言って立たれ、奥の蔵から紙の箱を持ち出してこられました。
で、中に入ってたのが、じつに意外なものだったんです。
何だと思いますか? それがね、兵隊の人形でした。
ええ、西洋アンティークってやつです。高さ15cmくらい、
赤い布の服を着て毛皮の軍帽をかぶり、立派なヒゲをたくわえた軍人が、
腰に4cmほどのサーベルをさした、いかめしい人形。
ブリキなどの金属ではなく、木彫りに見えました。
0060名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:35:17.74ID:Pg36qsM1
意外だと思ったのは、お師匠の店は西洋のものは一切あつかってなかった
からです。お師匠は「これな、ちょっと場違いかもしれんが、
 お前の店のどこか棚の上に一晩置いといてみろ。
 翌朝にはきっと面白いことになってるから」こうおっしゃっり、
私は重々お礼を言って、その箱をいただいて戻りまして、
店の一番高い棚の上にあげといたんです。
その夜は、娘が起きることもなく、何事もなくて、
朝起きたときに金庫の中を見ましたが、お金はなくなっていませんでした。
それで、店に出ましたら、兵隊人形が棚の上になかったんです。
まあ、せまい店ですので、探したらすぐに見つかりました。
奥に大きめのガラス戸棚があって、それなりに値打ちの品を入れてるんですが、
0061名無し百物語
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2019/08/17(土) 07:35:35.48ID:Pg36qsM1
その中に倒れていたんです。拾い上げると、腰のサーベルが抜かれて
なくなってる。よくよく見ますと、戸棚の中に掛けてある掛け軸の一枚、
それの下のほうに、針のようにサーベルが突き立っていたんです。
でね、その掛け軸なんですが、中国の禅画を模倣したような絵柄で、
ススキの野に老人が立ち、こちらに背中を向けて月を見ており、
その足もと、草の間からわずかに顔をのぞかせているカエルの頭を、
縫い留めるようにしてサーベルが刺さってる。ははあ、と思いました。
夜中に娘が見たというのはこのカエルか。いちおう納得はしたんですが、
まだ、問題は解決してませんよね。なくなったお金がどこにいったのか。
掛け軸を外して調べてみても、裏側にもどこにもない。
それで、兵隊人形を返しがてら、手土産を持ってその掛け軸、
0062名無し百物語
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2019/08/17(土) 07:35:58.21ID:Pg36qsM1
またお師匠のところに持っていったんです。話を聞くと、お師匠は笑って
掛け軸を見て、「この欲深じいさんが、手下のカエルをつかってお前の金を
 くすねておったのか。まあ、百円札しか盗らないのはかわいいものだが。
 それにしても、この掛け軸、本物の中国製だぞ、値打ちの物だ」
そう言って、その場で表具職人を呼んで、絵柄の部分、これは本紙と言いますが、
注意深くはがさせたんです。そしたらどうです。なくなった百円札、
それがびっしりしわを伸ばして、表具の側に貼りつけられていたんですよ。
ねえ、不思議な話でしょう。絵の中のカエルが抜け出したのも、
鍵がかかった金庫からお札がなくなったのもね。それが、私が古物の
持つ力を知った最初なんです。その掛け軸はお師匠に引き受けてもらいました。
あと、兵隊人形は、革命前のロシアのものだということでしたね。
0063名無し百物語
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2019/08/17(土) 07:36:44.20ID:Pg36qsM1
吊る掛け軸の話

どうも今晩は。また来てしまいました。こちらに何度かおじゃまさせて
いただいたことのある、引退した骨董屋です。はい、また、たちのよくない
古物とかかわってしまいました。それが、今回のはかなりの難物なんです。
何十人も人が死んでいますし、そのうち一人はわたしの責任です。それで、
ここにいるみなさんのお知恵を拝借したいと思いまして。1ヶ月ほど前の話です。
ほら、わたしはもう引退したので、店も売り物もすべて手放してしまったんですが、
鑑定だけはまだ細々とやってるんです。老後の小遣い稼ぎということもありますし、
何よりもね、やはり古物からは離れられないんですよ。
それに、ときとして思わぬ眼福にあずかることもありますから。
あ、すみません、いらない話ですね。夕刻、わたしの家に来られたのは、
40代ほどに見える男性でした。地元の大手建築会社で部長をされておられる
0064名無し百物語
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2019/08/17(土) 07:37:01.89ID:Pg36qsM1
ということで、たいそうお金のかかったスーツを着ておられました。
それで、一幅の掛け軸を持参しておられたんです。わたしのことは、
取引先の方からお聞きになられたそうです。上がっていただいて、
まずはその掛け軸を拝見したんですが、何とも言いようのないものでした。
桐箱から出してみると、表装はお金がかかっていましたが、ごく新しいものです。
まあこれは本紙、つまり書画の部分だけが年代物ということは普通にあります。
ところがです、巻いてあったのを開いてみると、その絵は・・・木炭で描かれた
細密画だったんです。木炭画はご存知でしょう。写真のように描くことができます。
つまり現代の洋画ってことです。普通は洋画を掛け軸になんかしないでしょう。
どんなに古く見積もっても明治後半以降で、美術品とは言えても、
骨董とは言い難いものです。それと絵柄がまた奇妙で。
0065名無し百物語
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2019/08/17(土) 07:37:24.38ID:Pg36qsM1
和室の内部を描いたものでしたが、畳一枚ほどの空間を隔てて床の間がある。
かなりお金のかかった造作です。で、その床の間には品のいい翡翠の香炉が
置いてあって、その後ろに一幅の掛け軸がかかっている。
でね、その絵の中の掛け軸にも、やはり同じ床の間の絵が・・・
これは、と思って天眼鏡を出してみました。すると、その中にもまた掛け軸が。
あの、合せ鏡ってご存知ですよね。鏡を2枚、角度をつけて向かい合わせると、
どこまでもずっと鏡が続いてるように映る。あんな感じです。
ただまあ、鏡の場合は光のとどく力の限界がありますから、どこかで
見えなくなってしまうんです。ましてね、人間が描いたものなら、
いくら細密でもすぐに見えなくなるはずです。それが、どこまでも続いてるように
見えるんですよ。ありえないことでしょう。
0066名無し百物語
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2019/08/17(土) 07:37:44.23ID:Pg36qsM1
その絵には、サインも落款も一切なし。「これは、どういうものですか」
わたしが尋ねると、その方は「いや、先月亡くなった親父の和室にあったんです。
 親父は70代ですが、現役で建設会社の社長をやっておりました。
 それが・・・まあ、知ってる人は知ってるので言ってしまいますが、
 自殺だったんです。鴨居で首をくくって。もちろん警察の捜査が入りましたが、
 自殺で間違いないということでした。遺書はなかったです。けど、
 そもそもね、自殺する動機が思いあたりません。会社の経営は順調ですし、
 私生活でも悩んでる様子はなかったんです。翌日、早朝からゴルフの予定が
 あって、母に支度をさせてたんです。それが、その夜に一人で
 和室にこもって、翌朝母が見にいくとぶらさがってた・・・」
「その和室にあったのが、この掛け軸ということですね」 
0067名無し百物語
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2019/08/17(土) 07:38:04.14ID:Pg36qsM1
「そうです。でも、このせいで親父が死んだなんて、そのときは誰も考えて
 ませんでした。それでね、この1ヶ月、お恥ずかしい話ですが遺産相続で
 揉めてたんです。結局、兄が会社を継ぐことになりまして、
 形見分けのときに、この掛け軸をもらっていったんです」
「ははあ、お父様は他にも骨董を集めてたりとか」 「いえ、そんな趣味はなく、
 家にある掛け軸もこれだけです」 「どうやって手に入ったかおわかりですか」
「母の話だと、自殺の3日ほど前に宅配で送られてきたということです」
「それ、送り主は」 「いや、親父は見たでしょうが、包み紙なんかも
 捨ててしまってわかりません」 「うーん、じゃあ、お父様の死と、
 この掛け軸の関係を疑ったのはどうして」 「それが、気に入ったと言って、
 掛け軸を持っていった兄が、3日前に自殺したんです。
0068名無し百物語
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2019/08/17(土) 07:38:23.76ID:Pg36qsM1
やはり首吊りで。その現場、兄の家には私も行きましたが、その部屋の
 床の間にあったのがこの掛け軸・・・。兄もね、親父と同じで死ぬほどの
 動機なんてないんですよ」 「やはり遺書もなしで」 「はい」
「わかりました。この掛け軸、数日預からせてもらっていいですかね」
「差し上げてもかまいません。この掛け軸のせいではないのかもしれませんが、
 持っていたくないんです」 というわけで、手元に置くことになったんです。
いえ、わたしのところは、妻はもう亡くなって、子どもたちは別の県で
仕事についてますから、誰にも迷惑はかかりません・・・
そのときはそう思ったんです。でね、家の二階の和室に飾りまして、
夜、ずっと起きて掛け軸を見ていたんです。え、怖くなかったかって?
いえ、もうわたしも年ですし、不可思議なものを見ることができるなら
0069名無し百物語
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2019/08/17(土) 07:38:41.05ID:Pg36qsM1
それはむしろ楽しみに近いつもりでした。でね、1日目の夜は何もなし。
あとね、日中は少しその掛け軸のことも調べてみたんです。まずは昔の
仕事仲間に電話をかけました。洋画の木炭画の掛け軸の噂を知ってるかって。
でも、何の手がかりもなし。ネットでも調べました。こう見えても
パソコンはできます。けどそれも無駄骨でしたね。絵に、これといった
特徴がないんです。まるで写真をトレースしたような正確な絵で、
作者の姿が見えない。2日目の夜です。やはり朝方まで何も起こらず、
もう寝ようかとしたとき、絵の中で何かがサッと動いた気がしたんです。
いや、画面を右から左に揺れるように大きなものが横切って、一瞬でしたので
はっきりしませんでしたが、人間の体のようにも思えました。
それ1回きり。あとね、そのときだけ、強いお香の匂いがしたんです。
0070名無し百物語
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2019/08/17(土) 07:39:00.23ID:Pg36qsM1
白檀ですね。おそらくは絵の中にある香炉からのものなんでしょう。
で、3日目の夜です。ほら、相談者のお父様は、掛け軸が来てから
3日目に亡くなったって話だったでしょう。ですからきっと何かがあるだろうと。
その晩は、眠ってしまわないようコーヒーなどもずいぶん飲んでたんですが、
掛け軸の前に座って、午前2時ころですね、やはり同じ強いお香の匂いがして、
ふっと気が遠くなってしまった。気がつくと和室に倒れてたんです。
絵の中の和室ですよ。床の間があって香炉と掛け軸があって・・・
わたしの頭のすぐ上に人がぶら下がってました。浴衣を着た壮年の男性で、
頭を垂れ口から赤い泡を吹いてて、ひと目で死んでいるとわかりました。
・・・面識がないんですが、家に来られた相談者の兄さんなのではないかと
思ったんです。立ち上がると、畳の感触がしっかり足の裏にあり、
0071名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:39:19.06ID:Pg36qsM1
とうてい夢とは思えませんでした。なるべく首吊りを見ないようにして、
床の間に近づいていきました。お香の匂いがいっそう強まり、
掛け軸を見たとき、目の前がぐにゃんとゆがみ、私は肩から畳に倒れました。
はい、同じ和室・・・なんですが、違っていたのは鴨居からぶら下がっている人物。
老人で、最初に首を吊った社長なんでしょう。やはり下を向いて、
足は畳に届かずぶらぶら、片方の目玉が飛び出しかけていました。
・・・これが何度くり返されたでしょうかね。10回ではきかないでしょう。
わたしは掛け軸の中の掛け軸の中、奥の奥へとどんどん入り込んでいったんです。
そのすべての部屋で、首を吊った人がいました。年齢は様々でしたが、
みな男性でしたね。え、どうやって戻ってこれたかって?
いや、十何回目かのときにね、床の間の香炉を蹴り倒したんですよ。
0072名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:39:38.15ID:Pg36qsM1
気がついたら自分の部屋に戻っていました。ただね・・・危ないところだったんで
しょうねえ。わたし、手にネクタイを持ってたんですよ。仕事を引退してから、
もう何年もネクタイなんてしめる機会はなかったんですが。
それでね、詳細はまったくわからないながらも、これは到底わたしの手に負えるもの
ではないと考えまして。知り合いのお寺さんに持っていったんです。
ええ、これまでも何度か、いわくつきの古物を供養していただいてたんです。
だから今回も大丈夫かと思ったんですが、安易でした。ご住職はこころよく引き受けて
くださったんですが、その夜にお寺が小火を出したんです。ご家族は無事で、
亡くなったのはご住職だけでした。体に火傷はなく、煙による窒息死ということです。
でも、燃えたのは外の護摩壇だったんですよ。掛け軸はお寺のどこにも
見つからなかったんです。燃えてしまったならいいんですが、そうでないとしたら。
0073名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:41:23.78ID:Pg36qsM1
海を探す話

あ、どうも今晩は。また来てしまいました。はい、いつもの引退した
骨董屋です。今回も、古物にかかわる話をさせていただきます。
あれは、私が結婚して4年目ですか。一人娘が3歳になった頃でした。
やっと自分の店舗が持てて、それははりきってましたね。
自分の未来には広く豊かな世界が開けている、そんな感じに思ってましたよ。
いや、それは不安もありました。骨董というものに対する不安です。
みなさん、骨董と聞くと、まず頭に思い浮かべられるのが、
真贋ということじゃないかと思います。たしかにね、偽物をつかませられるのは
大恥です。でも、そんなことはめったにあるもんじゃない。
骨董の世界は深いんです、気が遠くなるほどにね。
その古物がつくられた時代、作者、それと様式。わずかな様式の違いで
0074名無し百物語
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2019/08/17(土) 07:41:38.86ID:Pg36qsM1
値段が何十倍にも跳ねあがる、それが骨董です。あ、すみません、
本題とは関係のない話で。あれは6月の夕方でした。そろそろ店を閉めようか
というときに、若い男性が一人来られたんです。20代後半くらいの。
ああ、買い取りだなって思いました。案の定、その方が車から運び出して
きたのは、高さ1mほどのガラスケースに入った西洋の人形、
いわゆるアンティーク・ドールってやつです。ひと目見て、
断ろうと思ったんです。西洋物はいっさいあつかってなかったですから。
「ああ、すみませんが・・・」そう言いかけたとき、
娘がひょこっと土間に降りてきまして。で、ガラスケースのほうに
歩み寄ってきて、「このお人形、ここにいたいって」こう言いました。
娘はね、普段は店に入ることはないんですよ。
0075名無し百物語
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2019/08/17(土) 07:41:51.42ID:Pg36qsM1
ほら、黒ずんだ大黒様とか、そういうのが置いてありますでしょ。
それらが怖いって言ってね。でも、そのときだけは違ってた。
でね、私も変に思って、その男性から話だけは聞いてみたんです。
そしたら、母親がまだ若くして亡くなって、遺品といってもその人形くらい。
独身者が持っててもしかたないので、値段はいくらでもかまわないから、
売れるかどうか聞きにきたということでした。どうも母子家庭だったようです。
まあね、私の店には置けませんが、市に出すことはできます。
ケースから出してみたんですが、なかなか不思議なものでした。
作者は不明ながら、フランス製で間違いなし、おそらく50年はたっている。
ただ、顔がねえ、真っ直ぐな黒髪で、目も黒かったんです。
その手の人形って金髪か栗毛で、黒髪なんて初めて見ました。
0076名無し百物語
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2019/08/17(土) 07:42:05.52ID:Pg36qsM1
さらに事情を聞いたら、その人形、母親がその母親、つまり男性の祖母から
受け継いだものってことで。それなら古いのは納得。保存状態もいい。
ですが、買い取るのは気乗りしなかったんです。いえね、
儲けが出ないとかじゃなく、人形の顔があまりにも寂しげに見えて。
そしたら、娘が私のズボンを引っぱりまして、「ねえ、ねえ、ここに
 置いてあげて」何度も言うもんですから、当時のお金で、
1万円で買い取ることにしたんです。男性は喜んで帰っていきましたよ。
もちろん、西洋物は雰囲気がおかしくなりますから、店には置けません。
奥の居間のテレビ台の横に立てておきました。娘は、しばらくその前で
人形を見つめてましたが、「このお人形、海に行きたいって言ってる」
そんな話を始めまして。「どうしてそう思うの」って聞いても、
0077名無し百物語
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2019/08/17(土) 07:42:22.27ID:Pg36qsM1
首をかしげながら「わからない」と言うんです。その日はそれで終わりました。
いやいや、夜中にその人形がケースを抜け出して寝ている胸の上に
乗ってきたとか、そんなことはありませんでしたよ。
ただね、奇妙な夢を見たんです。カンカンに晴れた日の海岸でした。
テトラポットが積み重なった岸辺に何度もくり返し波が打ち寄せてる、
ただそれだけの夢。でね、布団から起き上がると磯の香りがしたんです。
鼻をくんくんさせていると、女房も起きて「ああ、海のにおいがする、
 まだ夢の続きなのかしら」って。「え、どういうこと?」
「ずっと波が打ち寄せる夢を見てたのよ」 「ええ、俺もだ」
どうも同じ夢だったようなんです。立ち上がって部屋をうろうろすると、
海のにおいは人形のあるあたりから漂ってきてました。
0078名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:42:39.64ID:Pg36qsM1
ケースを開けると、ますますにおいが強くなって、人形の空色のドレスが
しっとりと濡れてたんです。首をかしげていると、私と女房の間に寝ていた
娘が目を覚まして一言、「海」って言ったんです。
これはね、さすがにただ事じゃない。それで、その日の午前中、
人形を売りにきた男性に連絡をとってみました。もちろん住所などは
控えてあります。昼に喫茶店で待ち合わせて、その人形のいわれを
詳しく聞いてみたんです。こんな話でした。男性は、自分もはっきりとは
わからないが、母親が生前話してたところだと、母親のやや齢の離れた妹、
その子が7歳のときに行方不明になったんだそうです。
突然、豪雨になった日、学校帰りの通学路で消息がとだえ、
警察に連絡して広範囲に捜索したものの、不明のままだったということでした。
0079名無し百物語
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2019/08/17(土) 07:42:56.85ID:Pg36qsM1
おそらく川に落ちたのだろうということで、かなりの人数で舟も出して
探したそうです。でも見つからず、変質者の線もありえると。
その後、その子の葬式なども出さなかったということでした。
あきらめきれなかったんでしょう。それからまたしばらくたって、
買ってきたのがその人形だということです。「いえね、祖母とは同居した
 ことはないんで、それくらいしかわかりません」
一つ気になったことがあったので、聞いてみました。
「この人形、前からこんな顔でしたか、黒髪の日本人みたいな」
「うーん、僕が最初に見たときからそうだったと思います。それが何か」
「いえ、その子がいなくなったときに住んでたのは」 「○○県の△△です」
ここまで話を聞いて、おおむね事情はわかったつもりでした。
0080名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:43:12.82ID:Pg36qsM1
その後、人形が家にある間、朝になると海のにおいがしてドレスが濡れている。
そのくり返しで、重い腰を上げて、日曜日に私の一家でドライブに出たんです。
軽自動車の後部座席に、女房と娘とケースから出した人形。
ええ、走ったのは○○県の海岸沿いの道です。娘には、「お人形が何か話したら
 知らせて」と言ってありました。2時間ほども走ったでしょうか。
夢で見たのと同じような、晴れていて気持ちのいい日でした。
漁村の堤防沿いの道にさしかかると、娘が「ここだって!」と叫び、
でも、人形がなにか言ったとは、私たちには聞こえませんでした。
適当なところに車を停め、堤防を越えると、ずらっとテトラポットが並んでいて、
女房が「あ、夢で見た場所かも」と言いました。私が娘を抱き、
娘が人形をかかえて、さすがにテトラポットの上は歩けませんから、
0081名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:43:28.51ID:Pg36qsM1
堤防の下の平らなコンクリの上を進んでいくと、数分歩いたところで、
娘の手からふっと人形が浮き、とととっと、テトラポットの上を数m転がり、
隙間に落ちていきました。まあね、まだ私も若かったですから、
テトラの上を渡っていき、人形の落ちた隙間に頭を入れてみました。
むっとする磯臭さで、手を伸ばして人形の足をつかむと、
そのすぐ下の海中に、コンクリとは違った白さのものがありました。
もうおわかりですよね。子どもの頭蓋骨です。
そこの浜は、大きな川が流れ込んでくる近くで、豪雨の日に流された
女の子が川を運ばれ、そこにたどり着いたんでしょう。
それから先は、私ではどうにもならず、警察に連絡しました。
親子で海に来て遊んでたら、人間の骨らしいものを見つけたって。
0082名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:43:42.21ID:Pg36qsM1
それ以上の話はしなかったです。信じてもらえないでしょうからね。
骨は警察が苦労して引き上げましたが、頭蓋骨だけで、
他の骨は見つかりませんでした。結局その骨は、身元不明、
事件性があるのかどうかもわからなかったんです。ほんとうは、
人形を売りにきた男性のところで供養できればよかったんでしょうが、
頭蓋骨には歯も残ってなくて、証明する手立てがありませんでした。
まあでも、見つかっただけよかったと思います。これで話はほとんど終わり
なんですが、後日談として、その人形の髪がね、だんだんカールして金色に
変わっていったんです。目も黒から青に。それがもともとだったんでしょう。
え、その人形ですか、結局売りませんでした。ずっと蔵にしまったままで、
まだあるはずです。今日、ここに持ってくればよかったですねえ。
0083名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 07:44:02.91ID:Pg36qsM1
ここからは骨董に関するお話です
0084名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 08:00:57.22ID:Pg36qsM1
白い石の話

うちの親父が先年亡くなりましてね。齢(よわい)93ですよ。
とすれば、わたしの歳も推して知るべしで、今年63になります。
無職です。60で退職して、その後は親父の介護を女房と2人でずっと。
だからこう言っちゃあ何だが、親父が死んでね、何か解放されたような気分になりまして。
女房も同じでしょう。ま、それでね、わたしもこの後どれだけ生きられるかわかりませんが、
親父ほど長生きしなくてもいいような気がしますよ。
子供らに迷惑をかけたくないし、女房より後に逝くのも嫌だしね。
親父は、長い間趣味として骨董集めをやっていたんです。
いえ、高いものはありません。どれも近くの神社の境内の骨董市で買ってきたもので。
だから売っても二束三文だとは思ってました。
本職の古物商を呼んでためしに値をつけてもらったら、やはり予想どおりで。
0085名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 08:01:20.88ID:Pg36qsM1
でね、その古物商に「お気に召さないでしょう。これら、骨董市から買ってきたのなら、
 市に戻せばいいのじゃないですかね。こういうものは買う人次第のところがありますから、
 私がつけた値よりは高く売れるかもしれませんよ」
こんなアドバイスを受けたんです。それでね、時間だけはたっぷりあるもんですから、
主催者にお願いして、毎月市の日に、ゴザを敷いて売りに出てたんです。
値段は適当というか、どうせ価値がわかりませんので、
相場よりだいぶ安いんだと思います。けっこう売れましたから。
そうして、だんだんに親父の骨董は少なくなっていきまして。
それで、3ヶ月前のことです。その日曜も骨董市に出ていまして、
日が暮れてきたんで帰ろうと、品物を片付けていました。
そしたら、わたしより10ほど歳上に見える品のいいジイさんが来まして、
0086名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 08:01:38.48ID:Pg36qsM1
「この石ちょっと見せてくれるかね」って言ったんです。「ああ、どうぞ」
それは骨董とはまた違うもので、天然石ですから、美術品てことでしょう。
ちょっと見栄えのいい木製の台座もついてました。なんていう種類かはわかりませんが、
20cm四方ほどで、白く透きとおるロウソクみたいな質感のものでした。
老人は手にとってしばらく眺めてから、「ふうん、これねえ上下逆さまだよ」
「どういうことです?」 「この台座を向いてるほうが本当は上だよ」
「ああ、でも、そうすると安定しないんじゃないかな」
老人の言うとおりに、石を逆さに置いてみましたが、やはりグラグラしたし、
しかも趣もあんまりよくなかったんです。「やっぱり前のほうがいいでしょう」
「観賞用としてはそうかもしれんが、顔があるのはこっちだな」
「え? 顔?」このときはもちろん、本物の顔のことだとは思わなかったんです。
0087名無し百物語
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2019/08/17(土) 08:02:00.58ID:Pg36qsM1
本来鑑賞すべき向きとか、そういう意味だと理解したんですが、老人は、
「これね、こっち側を、そうだなあ、和服の端布がいいかな、絹の。
 それで磨いてごらんよ」こう続けました。
「磨く? はあ、石を磨いてる趣味の方もおりますね」
「うんまあ、光らせるというわけではないが、磨いてれば何か出てきそうだ。
 端布は近くの和裁屋で売ってるだろうから、ぜひやってみてごらん」
「何が出てくるんですか?」 「まあ磨いてのお楽しみだろう」
こう言って、老人から石を磨く方法を習いました。
世間一般に行われている石磨きとは違って、グラインダーなどの機械はおろか、
磨き粉のようなのも一切っ使っちゃならないそうで、ただひたすら絹の端布でこする。
その間、無念無想になるのが醍醐味だと言ってましたよ。
0088名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 08:02:14.59ID:Pg36qsM1
「高く売れるようになりますかねえ」わたしがそう言うと、老人は懐から名刺を出し、
手渡してよこしました。それには「古美術商」の肩書がありまして。
「まあね、何か出たら、もし手に負えないことがあったら、連絡して」
「え、手に負えないことって?」 「まあまあ」
こんなやりとりをして老人は帰って行きましたよ。「ふーん、石を磨く・・・ね」
老後の、時間はあるが金はないわたしにはうってつけの趣味だと思いまして、
老人から教えてもらった和裁屋で、絹の端布を買って帰ったんです。
翌日の午後からですね。その石を磨き始めました。
下になっていた面を上に向け、ひたすら端布でこする。
力を入れてもどうにかなるわけでもないので、ゆっくりと優しく。
女房が「何をやってるのか」と聞いてきたので、
0089名無し百物語
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2019/08/17(土) 08:02:28.41ID:Pg36qsM1
老人から言われたとおり答えたら、「高く売れるといいねえ」と笑いまして。
で、その午後中磨き続けましたが、目に見える変化はありませんでした。
ただ、やってる間はすごく落ち着いた気分でしたね。
それが、1日1時間半ほど毎日磨いてましたら、少しずつ変化が現れはじめました。
まず光沢が出てきて、白さの透明感が増したような気がしたんです。
それと老人が言っていたように、中に何かがあるように思えてきました。
でね、10日ほど磨いてますと、形が浮き出てきたんです。
これは立体感があるものじゃありません。わたしは平らにこすってるだけですから。
何と言えばいいですかね。横向きから45度ほど前に向いた女の顔・・・
それを水の中を通して見ているような。日本髪で昔の人のような感じがしました。
もちろん本当の人の顔の大きさはありません。実際の半分よりやや大きいくらいでしたか。
0090名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 08:02:44.85ID:Pg36qsM1
でね、それが見えてきてから、面白くなって午後のずっとを磨きにかけてたんです。
女房に見せましたら、「顔かねえ? そう言われればそんなような気もするけど、
 これは動物の顔じゃないかしら」 「そんなはずはない。これが額でここが鼻で・・・」
とうとう、朝起きたらすぐに石を手にとって磨き始めるという、
何かの中毒者みたいなことになってしまったんです。
ええ、女の顔はだんだんはっきりしてきまして。
歳は20代後半くらいですかねえ、なんとなく憂い顔に見えるところがよかったんです。
和裁屋にはその後2度行って、端布を買い足してきました。
飯もあまり食わなくなって、少し痩せましたから女房も心配し始めてね。
「あんたが夢中になってることをとやかく言うのもあれだけど、
 私には虎とかああいう動物に見えるよ。もう売っちまったほうがいいんじゃないかい」
0091名無し百物語
垢版 |
2019/08/17(土) 08:02:59.89ID:Pg36qsM1
でもね、その頃には売るという考えはすっかりなくなっていたんですが・・・
ある日です。縁側でそのときも石を磨いてたんですが、
陽気がいいので少し手をとめて うとうとしていました。そしたら外にシロがきまして。
ええ、このシロというのは猫です。家で飼ってるわけではなく野良猫なんですが、
人に慣れてまして、ときおり姿を現したときに餌をやったりしてたんです。
縁側にひょいと跳び上がり、わたしの手の中にある石に近づいて、
顔の出ている部分をぺろりと舐めたんですよ。
その途端、「ヒンギャー」という声を上げて垂直にジャンプし、
下に転げ落ちて一目散に逃げていったんです。わたしはそれで一瞬でうたた寝から覚めまして、
見ると床板が血だらけになっていたんです。シロの血ですよ。
その中にまだピクピクと動く肉塊・・・
0092名無し百物語
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2019/08/17(土) 08:03:16.74ID:Pg36qsM1
シロの舌でした。唖然としながら石のほうを見ますと、
白い中に赤い、血の色の筋が2ヶ所入ったようになり、それは内部にあるもののようで、
いくらこすってもとれなかったんですよ。いいえ、すぐ前まではありませんでした。
でね、その筋が入ったのが、石の中にある女の顔の口唇の部分です。
ちょうど紅をさしたようで、女の表情が妖艶とも酷薄とも見えるように変わったんです。
ぞくぞくっとしました。それで夢中になっていたのが一気に冷めてしまって、
同時にね、あの老人が言っていた「手に負えなくなったら連絡して」
という言葉を思い出したんです。名刺はとってありましたし、
電話したらすぐに老人が出ましたので、事情を話しますと、
「ははあ、やはりそういうものでしたか。今から引取りに伺いましょう」
でね、夕方になって老人はひじょうに古い車を自分で運転してやってきまして。
0093名無し百物語
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2019/08/17(土) 08:03:31.11ID:Pg36qsM1
そこ頃にはシロの血はぬぐってありまして、縁先で石を見せると老人は唸り、
「これはまた、怖いねえ。怖いものを出した。
 この素性のものとまでは思わなかった。でもねえ、あなたのような人が磨いたから、
 これで済んだんだろう。若い人だったらとり込まれていたろうに」
こう言って値をつけたんですが、それが100万の桁にのぼるもので。
ええ、恐ろしいので買っていただきましたよ。その後はとくに変わったことはなしです。
憑き物が落ちたというか、あの夢中で磨いていた時間は何だったのだろうかって。
老人にはあれから会っていませんし、連絡もありませんよ。
あとですね、この2日後に、散歩に出ようと家の前の道を歩いていたら、
シロが側溝の中で死んでいました。保健所には連絡せずわたしが庭に埋めましたが、
いや、気の毒なことをしましたよ。
0094名無し百物語
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2019/08/17(土) 08:04:40.90ID:Pg36qsM1
骨董屋の始末の話

昨年のことです。親父が亡くなったんです。で、その後に起きたことを話していきます。
ただ、こういうところで話をするのには慣れてないので、
前後関係なんかがおかしいところがあったら勘弁してください。
親父は、一人暮らしをしてたんです。母は、親父の大学の同窓生で、
学生結婚したんですが、もう14年前に乳がんで亡くなっています。
48歳の若さでした。で、親父は62歳でした。
ええ、まだ若いですよね。今は、定年延長してる会社も多いんで、
まだまだこれからって歳だと思ってたんですが・・・突然の心筋梗塞だったんです。
居間で夕食中に倒れたみたいです。発見してくださったのは、
親父と古くからつき合いのあるお客さんで、夜に会う約束があったんですね。
それが、店先で呼びかけても返事がない。けど、住居のほうでテレビがついてる音がする。
0095名無し百物語
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2019/08/17(土) 08:04:57.39ID:Pg36qsM1
それで店から土間に入ってみたら、ガラス障子越しに親父が倒れてるのが見えて、
救急車を呼んでくださったんです。でも、そのときにはすでに事切れてたみたいで。
で、その搬送先の病院から、私ら兄弟に連絡が来まして。
はい、私と弟の2人兄弟です。2人とも結婚して家庭を持ってます。
その方のところには、葬式の前に弟とお礼にいきました。
そこで、親父の死の状況を教えていただきまして。
居間の奥にある仏壇におおいかぶさるようにして倒れてたそうです。
仏壇には、亡くなった母の位牌と遺影があったんです・・・
もちろん、その方はお葬式にも来てくださいましたよ。ああ、それで、
さっき店とか客って言いましたけど、親父は一人で骨董屋をやってたんです。
地方都市ですし、店構えもけっして大きくはないんですが、
0096名無し百物語
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2019/08/17(土) 08:05:15.00ID:Pg36qsM1
親父一人が食っていくだけの収入は十分にあったみたいで、
私ら兄弟が親父に仕送りしたなんてことはありません。むしろ、私らの子ども、
親父から見れば孫ですが、その入学祝いとかで、ことあるたびにまとまった
お金をもらってたんです。それで・・・ここからは、
身内の恥になる話になってしまうんですが、親父には弟が一人いまして、
30代のときに、投資詐欺をやって長く刑務所に入ってたんです。
その後、出てきましたけど、何をして暮らしを立ててるのかはわかりません。
私らは一切つき合いを絶ってました。ただ・・・
親父のところにはちょくちょくやってきて、そのたびに小遣いをせびってたみたいでした。
はい、もちろん葬式にもやってきました。その通夜の席で、酒を飲んで暴れましてね。
肌脱ぎをして彫り物を見せたりもしました。
0097名無し百物語
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2019/08/17(土) 08:05:31.74ID:Pg36qsM1
ええ、そんな程度の人間だったんです。私も弟も腹を立てましたし、
その他の親族も同様で、よほど殴ってやろうかとも思ったんですが、
どんな後ろ盾があるかもわかりませんしね、ぐでぐでに酔って立てなくなったところを、
タクシーに押し込んで帰してやったんですよ。
葬式が済んでから、弟と2人で親父の店に行って遺品整理をしました。
親父が倒れかかっていたってういう仏壇。その引き出しに、
貯金通帳と実印、それから鍵がいくつか入ってたんです。
貯金は全部で数百万ほどで、葬式代にしかならない額でした。
あと、店は借地だったんで値はつきません。すぐに賃貸契約を切る手続きをしました。
こう言いますと、まるで何の財産もないみたいですが、
そんなことはなかったんです。ええ、店にある骨董商品ですよ。
0098名無し百物語
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2019/08/17(土) 08:05:47.62ID:Pg36qsM1
葬式のときに、親父が加入してた古物商組合のお仲間の方がたくさん来てくださいまして、
その代表の方から、「もしよろしければ、みなで手分けしてお店の品を引き取りましょう」
って申し出があったんです。私も弟も普通のサラリーマンで、
古物骨董を見る目なんてありませんし、店を継ごうとは考えていませんでした。
ですから、この申し出をありがたくお受けすることにしたんです。
その方の話では、「○○さんは金に糸目をつけず良い物を集めてなさったから、
 少なくとも3千万にはなるかと思います」ということだったんです。
それで、日を選んで組合の方々に来ていただき、店の品々を見てもらったんです。
店頭に並べてあるのは、ごく一部をのぞいて安いものばかりで、
高価な品は奥にある部屋の鍵つきケースに入ってました。
仏壇にあったのはその鍵です。それと、そのさらに奥に、蔵と呼べる一室があったんです。
0099名無し百物語
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2019/08/17(土) 08:06:03.61ID:Pg36qsM1
はい、私も弟も親父のとこにはちょくちょく顔を出してましたから、
そういう部屋があることは知ってましたが、中に入ったことはありませんでした。
そこは鍵ではなくダイヤルロックになってまして、ええ、番号を書いた紙が、
やはり仏壇にあったんです。そこで私が先頭になって重い扉を開いてみると・・・
中は暗く、ブーンという音がしてました。空調設備が動いてたんですね。
スイッチを見つけて電灯をつけると、息を飲みました。畳の部屋でいうと6畳間くらいの
せまい空間でしたが、壁にたくさん古い絵がはりつけてあったんです。
「・・・曼荼羅だなあ」と、後から入ってきた組合の方の一人がおっしゃいました。
で、真ん中に屏風が立て回してあって、ガラスケースに入った骨董品が3つあったんです。
一つは、私には時代はわかりませんが、きれいな細工の鞘に入った脇差。
もう一つは、やはり古く、木肌が飴色になった大黒様の木彫。
0100名無し百物語
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2019/08/17(土) 08:06:20.67ID:Pg36qsM1
3つ目は、縦長のケースに入った掛け軸で、描かれているのは、
赤子を抱いた観音様のような絵。後で教えてもらいましたが、隠れキリシタンの
マリア観音というものだそうです。これらを見たとき、また別の組合の方が、
「ああ、三すくみになってる・・・」ってつぶやかれたんです。
3つのものは、屏風の中で正三角形に配置され、その真ん中に小さい丸テーブルがあり、
上に手紙がのっていたんです。私が開封して読んでみました。
親父の字で、「これら三つの品は、形見分けとして弟に贈呈する。ただしそれには、
 次の2つの条件を守ること」こんなふうに書かれてて、条件というのは、
「この3つは同時にこの場所から搬出すること」
「売却してもかまわないが、その場合は3つすべて別の売り先に引き取ってもらうこと」
私には意味がわかりませんでした。組合代表の方に書いていた内容を告げると、
0101名無し百物語
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2019/08/17(土) 08:06:37.26ID:Pg36qsM1
代表の方はゆっくり首を振って、「親父さん、その弟さんと仲がよくなかったんだろ。
 あの葬式で暴れた人が弟さんなんだよねえ」そう言われたんです。
それから、「これらの品は、私らの仲間では引き取れない。
 早速その弟さんを呼んで持ってってもらったらいい」こうつけ加えられました。
ためしに「これらって、どれほど価値のあるもんなんですか」って聞いて見ましたら、
「ざっと見ただけだけど、一つ数百万、掛け軸は一千万いくかもしれない・・・」
ということでした。でね、そんな高価なものをあの叔父に渡すのは癪ではあったんですが、
親父の遺言みたいなものですから、それから一週間後くらいに
連絡して来てもらったんです。話を聞いて叔父は大喜びでした。
「おお、兄貴のやつ、こんなものを俺に残してくれたのか。何、3つで2千万の値打ち?!
 そらありがたい。やっぱ持つべきものは兄弟だなあ」
0102名無し百物語
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2019/08/17(土) 08:06:50.49ID:Pg36qsM1
嬉々としてガラスケースを緩衝材でくるんで、自分の古いベンツに積んでました。
そこで、親父が書き残した条件のことを言うと、「ああ、1つ目の条件はもう果たした。
 あとはあれだろ、この3つ、バラバラに売ればいいってことなんだろ」
これで、叔父との縁はすっぱり切れたと思ってたんですが、そうはなりませんでした。
叔父が入院したので、その保証人になってほしいって連絡が来たんです。
はい、叔父は服役したときに離婚して、身内がいなかったんです。
それで、見舞いに行った病院で、叔父はうつ伏せに寝かされて、
強い麻酔をかけられてる状態でした。もう30年も前に入れた背中の彫り物、
それが急に膿を吹いて腐りだし、激痛で暴れるので鎮静しているという医師の話でしたね。
それからほどなくして、一度も意識を取り戻すことなく、叔父は亡くなりました。
叔父の家には、あの3つの品は残ってなく、もう売りさばいてしまってたようでした。
0103名無し百物語
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2019/08/17(土) 08:07:08.13ID:Pg36qsM1
それから・・・1ヶ月ほどして、骨董組合の方にお会いして、
こんな話を聞かせていただいたんです。「あの3つですね。・・・どれも大きな障りを
 まとったものばかりでした。まともな古物商なら絶対に手を出さない品ですよ。
 だから、買ったのは素人に毛の生えたような業者でしょ。あるいは質屋関係か何か。
 あれね、三すくみって誰かがあの場で言ってましたけど、毒をもって毒を制するというか、
 3つをあの形に配置することで、なんとか祟りが押さえられていたんですよ。
 親父さんはその手のことを研究してて、誰より詳しかったから。
 ・・・これは話していいかどうかわかりませんけど、あの弟さんね、
 親父さんは、自分が死んだ後にきっとあなたらに迷惑をかけるってわかってたんでしょう。
 それで、あの品々をわざと形見分けに残した。わたしらみんなひと目でそれが
 ピンときました。誰もあの場では口に出さなかったですけどね・・・」
0105名無し百物語
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2019/09/28(土) 23:24:42.71ID:cojYKBCT
凄く面白かったけど、これは以前に出てたシリーズ?
それとも新しい奴?
0106名無し百物語
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2019/10/21(月) 13:00:31.08ID:1gSBNror
面白かった。一気に読んでしまった。
0107名無し百物語
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2019/11/01(金) 05:06:41.21ID:lqHBiA+4
九相の鏡の話

ああ、どうも、またまた来てしまいました。引退した骨董屋です。
今回は、私が経験した古物に関するエピソードの中から、
ある西洋アンティークの鏡の話をしようと思いまして。
ええ、ちょっとした話ならいくらでもあるんですよ。
でね、今になって考えると、古物の種類によって似たような不思議が
起きることが多いんです。人形、皿や壺、武具、掛け軸などの飾り物、
ガラス器、タバコの根付、仏像・・・不思議といえば不思議だし、
あたり前のこととも思えます。属性と言えばいいんでしょうか。
あまり難しいことはわかりませんが、その古物の用途によって、
凝る気に片寄りが出てくるんでしょうね。鏡なんかは特に、
女性の方は毎日見るでしょうから、何らかの念がこもりやすい。
0108名無し百物語
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2019/11/01(金) 05:06:56.71ID:lqHBiA+4
江戸時代までは、金属製の鏡がほとんどだったのはご存知でしょう。
大量生産されてましたから、出回るのは質の良くないものが多いんです。
ガラスの鏡もあることはありましたが、小さいものばかりですし、
ゆがみもひどい。これは、日本では大きな板ガラスが作れなかったためです。
大型の姿見が出回るようになるのは、明治以降のことですね。
ああ、うんちくはこれくらいにして、本題に入ります。
私には一人弟がいて、私のようなヤクザな商売にはつかず、
当時の国鉄に採用されて駅長までやったんです。それで、娘が2人いまして、
私からみれば姪っ子です。その妹のほうが、まだ独身で
会社勤めをしていた頃の話です。はい、そのときには私はもう
引退しておりましたが、相談事があると言って家に来たんです。
0109名無し百物語
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2019/11/01(金) 05:07:33.86ID:lqHBiA+4
なんでも、アンティークの鏡を家具屋で買ったが、それから精神状態が
おかしくなったということでした。ここからは姪との会話です。
「どういうことなのか詳しく話してみて」
「はい、伯父さん。西洋アンティークの家具屋で、イタリア製という
 姿見を買ったんです」 「大きさはどのくらい?」
「そうですね、台座もふくめて私の背よりも高いです。
 180cmあるかもしれません」 「それは大きいね、で、店の人は
 どう説明してたの?」 「イタリア製、1910年代の製品。
 台座はオーク材で手彫りの装飾。鏡面に曇りやゆがみはほとんどなし」
「へえ、そりゃいい出物だ、値段はいくら?」
「7万円でした」 「え、安い、値段については何か言ってた?」
0110名無し百物語
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2019/11/01(金) 05:07:52.19ID:lqHBiA+4
「はい、すごく良いものなのにこの値段なのは、使い勝手がよくないからだって」
「どういうこと?」 「ほら、ふつう姿見って見る角度を変えられるよう
 動くじゃないですか。それが固定されたままで動かなかったんです」
「ほう」 「でも、すごく気に入っちゃって、どうしても欲しくて
 しかたなくなったんです。動かないけど、正面に立って見るぶんには
 問題ないし、値段も、私のお給料でなんとか買える額だし」
「ああ、物と人の出会いってのはあるもんだよ。ひと目見て魅入られたように
 なってしまって、どうしても手に入れたくなる」
「ああ、そうです。そんな気持ちでした。それで、貯金をおろして
 現金で支払い、家具屋さんに部屋まで運んでもらったんです」
「よほど気に入ったようだね」 「はい、すごく・・・自分がよく見えるんです」
0111名無し百物語
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2019/11/01(金) 05:08:08.51ID:lqHBiA+4
「ははあ」 「すらりとスタイルがよく、顔も細面で、何を着ても似合いそうな
 まるでモデルみたいに」 「それはおそらく、わざと曲率をゆがめてつくって
 あるんだろうね。ほら、お化け屋敷に入れば、伸び縮みして見える
 鏡があるじゃない。あそこまで極端でなくても、縦長に映って見える」
「ああ、やっぱりそうですよね」 「まあ、お前はもとからスタイルはいいと
 思うけど。専門的なことを言うと、ガラスがかまぼこ型に盛り上がってるんだ。
 だから手足の先端にいくにしたがって細長く見える。でも、ちょっとさわった
 くらいじゃわからんよ」「それで、鏡に何か変なことが起こったわけじゃなく、
 その鏡が来たことによって、私が変わっちゃったんです」
「どういうことだい?」 「まず、すごく服装にお金を使うようになりました。
 店先やカタログで、いいなっていう服を見つけると、
0112名無し百物語
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2019/11/01(金) 05:08:37.62ID:lqHBiA+4
これを着て鏡に映してみたらどう見えるんだろう、って考えちゃって」
「で」 「とにかく買いまくっちゃったんです。後先考えず高価なブランド品を」
「ははあ」 「私はまだ入社2年目で、お給料も少ないんだけど、
 そのほとんどを服やバッグにつぎこんで」 「それで痩せてるんだな」
「はい、部屋代と光熱費は決まってて、削れるのは食費だけだったので」
「それで」 「でも、お腹がすいたとも思いませんでした。買った服を着て
 鏡に映してみると、雑誌から抜け出したみたいに見えたんです」
「まさか借金とかした?」 「いえ、そこまでは。でも、あのままだったら
 きっとそうなってたと思います」 「うーん」
「それから、つき合ってた人がいたんですけど、その鏡が来てから
 別れてしまいました」 「それはどうして?」
0113名無し百物語
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2019/11/01(金) 05:08:58.05ID:lqHBiA+4
「うまく言えないんですけど、この人は私にふさわしい人じゃないって
 思えてきて。今考えれば、とんでもないことでした」
「今も別れたまま?」 「・・・すごく後悔しています。でも当時は、
 とにかく彼の欠点ばかりが目について、一つ一つのしぐさや癖、
 それが何もかも鼻について嫌でした。それと、不思議なことがあったんです」
「ほう、どんな?」 「私と彼とがその鏡に並んで映ったことがあるんです。
 もちろん縦長ですから、2人の全身は入らないんですが。
 彼が小さく見えたんです。背が低く太った感じに。それを見て、
 ますます、ああこの人と私は似合わないって思って、
 私のほうから別れを切り出したんです」 「うーん、それで」
「あと、会社での私の立場も悪くなりました」 「どうして?」
0114名無し百物語
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2019/11/01(金) 05:09:21.64ID:lqHBiA+4
「すごく態度が高慢になってしまったんです。私がこんなコピー取りや
 お茶くみなんかしてるのはありえない、もっともっと活躍できる、
 私にふさわしい場が他にあるだろうって思って、それが態度に出て」
「それだと、イジメられるだろう」 「はい、イジメられるというか、
 ある昼休みに、女子社員の何人かから呼び出されて、いろいろキツイことを
 言われました。それと、上司からも一人別室に呼ばれて叱責されたり」
「で」 「こんな会社、辞めてやろうって考えてた矢先のことです。
 その夜も、姿見の前で、買ったばかりの新しい服を身に着けてあれこれ
 ポーズをとっていました。何時間でも見てられるし、陶然とした
 気持ちになってくるんです」 「で」 「そのとき、ドアのチャイムが鳴って、
 無視しようかとも思いましたが、出てみたんです。
0115名無し百物語
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2019/11/01(金) 05:09:38.46ID:lqHBiA+4
別れた彼でした。私は、ドアチェーンをかけたまま、あなたにもう用事は
 ないから帰ってって言いました。すぐ鏡の前に戻りたくて。
 そしたら、彼は何も言わず、細く開いたドアのすき間の上のほうから、
 中に金属の工具を投げ込んだんです。バールって言うんでしょうか、
 細長いやつ。それは横を向いていた鏡の縁にあたり、せまい部屋ですから
 壁にはね返って、鏡面を割りました。そのときに、拍手の音がしたんです」
「拍手?」 「はい、劇場かどこかで、大勢の人がするような拍手の音」
「うーん、それで」 「その瞬間、憑きものが落ちた感じがしました。
 あれ、私、何をやってるんだろうって」 「なるほど、だいたいわかった。
 伯父さんは西洋物は詳しくないが、これから行ってその鏡を見てみよう」
でね、まだ鏡はそのままにしてあるからということで、
0116名無し百物語
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2019/11/01(金) 05:09:54.96ID:lqHBiA+4
いっしょに姪の部屋に行ったんです。いや、ひと間の部屋の中は服や靴、
バッグ類とその箱であふれてました。あと、カップ麺の容器がキッチンに
積み重なって。鏡は八方にヒビが入ってましたね。ひと目でいいものだということは
わかりました。ただ、装飾が不気味で、鏡の周囲をとりまいた蔦の深彫りが、
まるでネズミか何かの頭蓋骨を並べたように見えたんです。
持っていった軍手をはめて、鏡の破片を一つずつ慎重に剥がし、
段ボール箱に入れていきました。裏板があらわになったので、さらに調べると、
二重になってるように思えました。それで車から道具を持ってきて、
上板をはずしてみたんです。端が糊づけされているようで、作業は困難でした。
下の板に何かが貼られているのはすぐにわかりましたよ。
それを傷つけないように慎重に外して、何が出てきたと思います?
0117名無し百物語
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2019/11/01(金) 05:10:12.06ID:lqHBiA+4
古いモノクロの写真が9枚、縦にならべて貼られてたんです。どれも
一人の外国人女性、おそらくイタリア人でしょう、を写したものでした。
1枚目はその女性が4歳ほどで、大きなお屋敷の庭で遊んでいる姿。
2枚目は10歳くらいで、広間でピアノを弾いてました。3枚目は15歳くらい
ですか、私立学校の寄宿舎らしき場所で撮ったもの。
4枚目はその女性が舞台に立っているところで、女優になったんでしょうか。
あとで調べてみましたがよくわかりませんでした。次も舞台で踊っているもの。
6枚目はその女性の結婚式で、結婚が遅かったんでしょう。
30歳を過ぎているように見えました。それと、場所は教会でしたが、
神父さんの姿だけが切り抜かれてました。7枚目は3人の子どもに囲まれている姿。
8枚目、女性はまだ40代に見える姿で棺に入れられていたんです。
0118名無し百物語
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2019/11/01(金) 05:10:28.32ID:lqHBiA+4
どの写真も黄ばんで、縁はぶさぶさになってましたね。
ですから、撮られてかなりの年月がたってから、鏡の中に収められたんだと思います。
・・・最後の一枚についてはあまり話したくないです・・・ 時刻は夕方でしょうか、
その女性の遺体が暗い森の中の土の上に放置され、数匹の野犬が顔や手を
齧っている・・・そんな写真がなぜ撮られたのか、特に最後の一枚を撮ったのは
誰なのか、何もわかりません。その鏡はどうしたかって? 私の手に負えるものでは
ないことは理解できたので、ローマ法王庁に事情をしたためた手紙を出しました。
そしたら、すぐに送ってほしいという返信が来て、ガラスの破片ともども
船便で送ったんです。はい、向こうで処理されたんでしょう。感謝されましたよ。
話はだいたいこれで終わりです。姪には、その青年と仲直りするように言いまして、
姪もそのつもりでした。結局、2人は結婚して今にいたるんです。
0122名無し百物語
垢版 |
2020/01/19(日) 10:25:05.07ID:N3xLD0SP
5万円売ったぜ!
3万円売ったぜ!
と喜ぶ。
それが露店でボロ裂売ってる母息子の実情です。
0124名無し百物語
垢版 |
2020/03/16(月) 12:38:38.22ID:hUWSiOiL
初期伊万里と現代中国もの区別がつかない。
それがぼろきれ露天商母息子の息子です。
0125名無し百物語
垢版 |
2020/03/17(火) 08:04:08.55ID:SJJKd3ui
大阪で1番の恥さらしな男、究極のクズ男、最低中の最低のゴキブリ男が書いた
ノンフィクション自叙伝
【ゴミと呼ばれて刑務所の中の落ちこぼれ】
中学2年時に覚醒剤を覚え、17歳から45歳まで【少年院1回、刑務所8回、合計20年】獄中生活を体験し、こいつだけは絶対にシャブは止めれないと世間から言われていた男だったが、ある女性との出合いで生き方を180度変えて鉄の信念で、見事に更生した奇跡の一冊!!
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