WHY@DOLL Part8 [無断転載禁止]©2ch.net
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
北海道札幌出身で現在は関東を中心に活動するオーガニックガールズユニットWHY@DOLLを応援するスレです
■公式サイト
http://www.versionmusic.net/whydoll/
■メンバー
青木千春
ニックネーム:ちはるん
生年月日:1993年1月21日
公式ブログ:http://ameblo.jp/chihapon-0121/
twitterアカウント:@aokichiharu
浦谷はるな
ニックネーム:はーちゃん
生年月日:1995年4月1日
公式ブログ:http://ameblo.jp/hum-hum-mofy/
twitterアカウント:@humhum0401
■スタッフtwitterアカウント
@WHYDOLL2014
■showroom
https://www.showroom-live.com/WHYDOLL
■WHY@DOLL(ホワイドール) 日々これ日常(CDでーた連載)
https://www.cddata-mag.com/whydoll/
前スレ
WHY@DOLL Part7
http://karma.2ch.net/test/read.cgi/idol/1481639071/ この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。
帝都最大の殷賑いんしん地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。
G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、
ほとんど人通りがとだえてしまうのだが、それと引き違いに、背中合わせの暗黒街がにぎわい始め、午前二時三時頃までも、
男女のあくなき享楽児どもが、窓をとざした建物の薄くらがりの中に、ウヨウヨとうごめきつづける。
今もいうあるクリスマス・イヴの午前一時頃、その暗黒街のとある巨大な建物、外部から見たのではまるで空家のようなまっ暗な建物の中に、
けたはずれな、狂気めいた大夜会が、今、最高潮に達していた。
ナイトクラブの広々としたフロアに、数十人の男女が、或る者は盃をあげてブラボーを叫び、或る者はだんだら染めのの尖とんがり帽子を横っちょにして踊りくるい、
或る者はにげまどう小女をゴリラの恰好かっこうで追いまわし、或る者は泣きわめき、或る者は怒りくるっている上を、
五色の粉紙が雪と舞い、五色のテープが滝と落ち、数知れぬ青赤の風船玉が、むせかえる煙草たばこのけむりの雲の中を、とまどいをしてみだれ飛んでいた。
「やあ、ダーク・エンジェルだ。ダーク・エンジェルだ」
「黒天使の御入来だぞ」
「ブラボー、女王様ばんざい!」
口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。
自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。
まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。
「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」
美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。
「飲みましょう。そして、踊りましょう。ダーク・エンジェルばんざい!」
「オーイ、ボーイさん、シャンパンだ、シャンパンだ」
やがて、ポン、ポンと花やかな小銃が鳴りひびいて、コルクの弾丸が五色の風船玉をぬって昇天した。そこにも、ここにも、カチカチとグラスのふれる音、そして、またしても、
「ブラボー、ダーク・エンジェル!」
の合唱だ。
暗黒街の女王のこの人気は、一体どこからわいて出たのか。たとえ彼女の素性は少しもわからなくても、その美貌、
そのズバぬけたふるまい、底知れぬ贅沢ぜいたく、おびただしい宝石の装身具、それらのどの一つを取っても、女王の資格は十分すぎるほどであったが、
彼女はさらにもっともっとすばらしい魅力をそなえていた。
彼女は大胆不敵なエキジビショニストであったのだ。
「黒天使、いつもの宝石踊りを所望します!」
だれかが口を切ると、ワーッというドヨメキ、そして一せいの拍手。
片隅のバンドが音楽を始めた。わいせつなサキソフォンが、異様に人々の耳をくすぐった。
人々の円陣の中央には、もう宝石踊りが始まっていた。黒天使は今や白天使と変じた。彼女の美しく上気した全肉体をおおうものは、
二筋の大粒な首飾りと、見事な翡翠ひすいの耳飾りと、無数のダイヤモンドをちりばめた左右の腕環と、三箇の指環のほかには、一本の糸、一枚の布切れさえもなかった。
彼女は今、チカチカと光りかがやく、桃色の一肉塊にすぎなかった。それが肩をゆすり、足をあげて、エジプト宮廷の、なまめかしき舞踊を、たくみにも踊りつづけているのだ。
「オイ、見ろ、黒トカゲが這はい始めたぜ。なんてすばらしいんだろ」
「ウン、ほんとうに、あの小さな虫が、生きて動きだすんだからね」
意気なタキシードの青年がささやき交わした。
美しい女の左の腕に、一匹の真黒に見えるトカゲが這っていた。
それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタと動かして、這い出したように見えるのだ。今にもそれが、肩から頸くび、頸から顎あご、
そして彼女の真赤なヌメヌメとした、唇までも、這いあがって行きそうに見えながら、いつまでも同じ腕にうごめいている。
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
さすがにこの恥知らずの舞踊は四、五分しかつづかなかったが、それが終ると、
感激した酔いどれ紳士たちが、ドッと押し寄せて、何か口々に激情の叫びをあげながら、いきなり裸美人らびじんを胴上げにして、お御輿みこしのかけ声勇ましく、室内をグルグルと廻り歩 / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
( 2ゲットだね・・・
。o ○\____________/
.∧∧ヘヘ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
( ノ ) 。o○( うん・・・
./ | \ \_________/
(___ノ(___ノ
/ \ >>13
結局お前もこのスレ荒らしているじゃんか? IPさらすと荒らせねーってか
ハゲw
2ちゃん荒らすのだけが生きがいのギョウ虫死ね この長文だれや!
頭悪い奴が面白がるだけだな
内容のないつまらんコピペするやつは死ね 荒らしは無視して先に立ったこちらを使いましょう
ルール無視すると立てられなくなる
http://karma.2ch.net/test/read.cgi/idol/1483958323/
削除依頼お願いします いよいよ新曲が聴ける
菫路線からGemini方向へ戻ってくること希望する エソラ池袋って狭いですか?
ギリギリに行っても見られますかね? 今日は人多かったねえ
特典会残らず帰った人も多かったけど WHY@DOLL新曲MV完成、テーマは「恋人に会うまで」 - 音楽ナタリー
http://natalie.mu/music/news/220168 Victor時代の路線には戻らないって解釈していいのかな 君はsteadyはこれまでにない曲調だが
何をもってビクター路線って言ってるのか意味不明
前作のアイオライトはdiscoテイストで継続性あったし
カップリングのあなただけ〜も曖昧に続くスティービーワンダーオマージュだっただろ 4 19,686 フェアリーズ
5 19,345 SILENT SIREN
9 10,480 HR
11 7,464 エラバレシ
12 7,056 エルフロート
16 3,752 J☆Dee'Z
22 2,891 東京女子流
29 2,577 G☆Girls
43 1,902 WHY☆DOLL
68 967 A応P このタイミングで繋がりキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!! 5月20日(土) 開催決定!! 『 IDOL CONTENT EXPO @ イオンモール幕張新都心
お知らせ
『 IDOL CONTENT EXPO @ イオンモール幕張新都心 supported by ダイキサウンド
〜初夏の大無銭祭〜』
【日程】 2017年5月20日(土)
【題名】 『 IDOL CONTENT EXPO @ イオンモール幕張新都心 supported by ダイキサウンド 〜初夏の大無銭祭〜』
【時間】 開演11:00 終演20:30(予定)
【価格】 無銭 (入場無料)
【会場】 千葉・イオンモール幕張新都心 グランドモール 1階グランドスクエア
【出演】 PASSPO☆ / predia /
放課後プリンセス / アフィリア・サーガ / 仮面女子:アリス十番 / 仮面女子:アーマーガールズ / 愛乙女☆DOLL / エラバレシ /
マジカル・パンチライン /
アイドルカレッジTeamD /
アイドルカレッジTeamC / FES☆TIVE /
Chu-Z / 桜エビ〜ず / palet / つりビット / drop / ワンダーウィード / 閃光ロードショー / ぷちぱすぽ☆ / La PomPon / SiAM&POPTUNe / パンダみっく /
東京CuteCute / イケてるハーツ / じぇるの! / カプ式会社ハイパーモチベーション
/ CoverGirls / 上野優華 / ベボガ!
(虹のコンキスタドール黄組)/
きゃわふるTORNAD / Dolly Kiss /
夏芽優李 / SHiNY SHiNY ...etc
■公式サイト:http://www.daiki-sound.jp/news/md-detail/id-145
■公式Twitter:http://twitter.com/ic_expo
■主催:IDOL CONTENT EXPO / ダイキサウンド株式会社
■協力:イオンモール幕張新都心 / ヴィレッジヴァンガードイオンモール幕張新都心店 天晴れ!原宿、READY TO KISS、エルフロート、KATA☆CHU、notall、SAY-LA、
さきどり発信局、仮面ライダーGIRLS、dela(名古屋)、P.IDL、ダイヤモンドルフィー、CoverGirls、mi-na、
上月せれな、ユメオイ少女、花言葉はイノセンス、KAMOがネギをしょってくるッ!!!、うりゃおい!JAPAN、
Jewel*Mariee、Purpure☆(京都)、エモクルスコップ、永遠少女症候群 ゆゆ、病んでる私とヤまない雨、
ぷれ☆すく、サムライ×オトメ、FOR-Z/爆団マーメイド、AMAZONIGHT、CLUSTAR.、BANQUET アフィリア・サーガ/愛乙女☆DOLL/Chu-Z/READY TO KISS/ベボガ!(虹のコンキスタ ドール)/SAY-LA/ぷちぱすぽ☆/イケてるハーツ/KNU/アイドル諜報機関 LEVEL7/Chu☆Oh!Dolly/原宿物語/東京 CuteCute/仮面ライダー GIRLS...and more チャオ ベッラ チンクエッティ/Chu-Z/FES☆TIVE/マジカル・パンチライン/ぷちぱすぽ☆/イケてるハーツ/Pimm’s/天晴れ!原宿/東京CuteCute/WenDee 愛乙女☆DOLL/アフィリア・サーカ?/Chu-Z/READY TO KISS/ヘ?ホ?カ?!(虹のコンキスタ ト?ール)/SAY-LA/ふ?ちは?すほ?☆/イケてるハーツ/KNU/アイト?ル諜報機関 LEVEL7/Chu☆Oh!Dolly/原宿物語/東京CuteCute/仮面ライタ?ー GIRLS/WenDee 新星堂サンシャインシティアルタ店。’17 @ssd_alta
【Road to 噴水広場】
当店でイベント開催のアイドル様を、噴水広場へご招待!
インストアイベントにて月間売上No.1となったアイドル様へ、翌月のiPopMonthlyFes出演権をプレゼント!
エントリーは随時受付中!
#roadto噴水広場
ほわどるに恥かかせたらお前らヲタ失格な [GIRLS]
チャオベッラチンクエッティ / Chu-Z / FES☆TIVE / マジカル・パンチライン / ぷちぱすぽ☆ / イケてるハーツ / Pimm's / 全力少女R / 天晴れ!原宿 / 東京CuteCute / 閃光ロードショー / Checkmate / WenDee / さきどり配信局 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています