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【小説】スナック眞緒物語2【日向坂応援】
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0001走り出す名無し(東京都)
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2020/01/10(金) 22:44:54.99ID:U0+3vSxe0
宮田愛萌さんのブログや「ひらがな推し」やでネタにされている架空空間「スナック眞緒」を舞台とした小説のスレです。

なお、「ひらがな推し」や宮田ブログでの「スナック真緒」での井口真緒さんと宮田愛萌さんはひらがなメンバーとは別人格という設定ですが、
ここではひらがなメンバーであるのかないのかというのは曖昧にします。
タイトルと冒頭と末尾の文は、宮田愛萌さんがブログで書いているのをテンプレとして使いました。
原案や参照にしたものがある場合には、その小説が完了したとき必ず明記します。

前スレ 【小説】スナック眞緒物語【けやき坂応援】
https://rio2016.5ch.net/test/read.cgi/keyakizaka46/1548508699/
0037走り出す名無し(東京都)
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2020/01/22(水) 21:55:03.93ID:rwTYm+gV0
スナック眞緒物語♯9(その1)
いつも賑わっているスナック眞緒だが、今日は客がいない。
「ママ、あの編集者さん、来る予定ないかな?教えてほしいことがあるのだけど」
「正月の休み明けで今は忙しいみたいだから、当面は来ないんじゃないかしら。教えてほしいいことって何?」
「本を読んでいて今は幸せなんだけど、本を読み続けることでその先に何が見えてくるのかが分からなくて。それをお伺いしたいの」
「そういうことだったら、源さんがいるじゃないの」
「誰ですか、その人?」
「芥川賞の候補にもなった人よ。愛萌もよく会っているじゃない」
「えっ!そんな人いたんだ!でも、私、会ったことないですよ」
「ほら、酔っぱらって愛萌によく絡んでくる人よ」
「そういう人は何人か心当たりはあるけど、でもやっぱり私は会ったことはないですよ」
「会ったことあるって。イケオヤさんと同じアパートに住んでいて、いまアルコール依存症で入院している人よ」
「えっ?あの人のことですか?あんな人が芥川賞の候補になったなんて嘘でしょう」(続く)
0038走り出す名無し(東京都)
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2020/01/23(木) 23:21:05.90ID:ZgRuJF+I0
スナック眞緒物語♯9(その2)
「本当よ!それに、あの人、自分の知り合いを連れてきてくれて、このお店におおいに貢献してくれているのよ」と眞緒ママは言う。
「へ〜、たとえば誰ですか?」と愛萌は尋ねる。
「あの美大生の人とか」
ああ、分かる、分かる、類友というやつね。
「もちろんイケオヤさんも」
余計なことを!
「それに天文学者の先生だって」
ん?つながりが見えない。
「天文学者の先生とはどういう関係なんですか?」
「ほら、源さんって、東大の仏文科卒でしょう。そこで知り合ったらしいわよ」
え!?あの人が東大卒?本当なら世も末だ。
「でも、ママ、先生は理系でしょ。文系の仏文科の人がどうやって知り合うんですか?」
「東大って前期課程では、文理を越境した科目の履修が必要だし、文理を横断するような講義もあるらしいから」
「けど、先生のほうがだいぶお若いんじゃないですか?」
「源さんも30代の半ば過ぎくらいよ」
「えっ!その年齢であんな老けてうらぶれているんだ。放蕩と不摂生の限りを尽くせばああなるの?」
「こら、こら、愛萌、お客さんが一人もいなくてもお店でそんなこと口にするのはダメでしょ」(続く)
0039走り出す名無し(東京都)
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2020/01/24(金) 23:06:50.84ID:LYwx6+2T0
スナック眞緒物語♯9(その3)
店のドアのベルが鳴り、源が入ってくる。
「噂をすれば何とやらだわ。源さん、ちょうどあなたのことを話していたの」
「よう、ママ、久しぶりだな。愛萌、オメーもいたのか。
ブラジルに男と二人で旅行に行って、揉まれてオッパイがデカくなったんだってな。どれ、俺にも揉ませろ」
愛萌はシカトする。
やっぱりこんな人が東大卒で芥川賞候補なんて信じらんない。それにしても、あの美大生、適当なことばかり言って!
「あれ、でも、源さん、アルコール依存症で入院中じゃなかったの?」とママが尋ねる。
「家族の同意による強制入院だと外出は禁止だが、俺の場合は自分の意思による任意入院だから自由だ。
まあ、家でおとなしくしておこうと思ったんだが、イケオヤの奴が・・・」
「何かあったんですか?」と眞緒ママが訊く。
「ほら、俺らが住んでいるボロアパートの6室の電源供給は共通で、しかも30アンペアしかないんだ」
「6部屋に住人がいて、たったの30アンペア!いまどきそんなアパートなんてあるんですか?」と眞緒ママは驚く。(続く)
0040走り出す名無し(東京都)
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2020/01/25(土) 22:04:08.67ID:R65HeUDG0
スナック眞緒物語♯9(その4)
「で、な、俺らのアパートの前がゴミ捨て場で、イケオヤの奴、そこから電子レンジを拾ってきたんだ」
それって占有離脱物横領じゃないの?と愛萌ま思う。
「まあ、それはどうでもいいんだけどな。
電子レンジのように大量の電力を瞬間的に消費する電荷製品を使う場合は、
必ず窓を開けて、『今から使う』と大声で叫んで他の住人に知らせるのが決まりになっている。
イケオヤの奴、まともな電荷製品を持っていなかったから、有頂天になって、叫ばずに使って、ブレーカーが落ちたというわけだ。
すぐに誰かがブレーカーを戻して、電気は復旧したわけだが、興ざめしたから外出したんだ。
ああ、そんなことより、酒、酒。ウィスキーをダブルでくれ」
「いいんですか?」とママは心配する。
「ああ、医者の許可は下りてる」
愛萌が運んできたものを一気に飲むと、源は七転八倒しながら苦しみ出す。
「どうしたんですか?」と愛萌は蒼ざめる。
「愛萌、救急車を呼んで!」というママの叫びに、「救急車はダメだ。痛みが引いたら説明するから、ちょっと待ってな」と源は止める。
眞緒ママが源のそばに寄ろうとしたとき、「こんにちは」の声ともに店に業者が入ってきた。
「愛萌、お店の看板をリニューアルすることにしたから、業者さんに付き添うため外に出なくちゃいけない。
私の代わりに源さんの様子見しておいてね。何かあったら急いで知らせてちょうだい。
ご無事に回復なさったなら、聞きたかったことを源さんから教えてもらったらいいわ」(続く)
0041走り出す名無し(東京都)
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2020/01/26(日) 22:36:26.30ID:b/KGcIt90
スナック眞緒物語♯9(その5)
しばらくして落ち着きを取り戻した源が言う。
「シアナマイドを服用したせいだ」
「何ですか、それ?まさか危ないクスリでもやっているんですか?」と愛萌は訊く。
「馬鹿言え、アル中用のただの薬だ。
肥料工場の労働者が酒に弱くなることから発見され、石灰窒素に含まれるカルシウムであるシアナミドからつくられる。
アセトアルデヒド脱水酵素の働きをブロックするため、酒を飲んだ後にそれを飲むと死ぬほどの苦しみを受けるらしい」
「らしい・・・って、今、ご自分で体験されたんでしょ。
それにお酒を飲んでもいいというお医者様の許可が下りていたなんて嘘なんでしょ。
苦しむというのが分かっていながら、どうして?」
「ああ、何事も自分で直に経験しなければ、分からないからな。そうじゃないと読み手の感情は揺り動かせない」
へ〜、頭の中は下卑た冗談だけで埋まっていると思っていたけど、作家らしく物事に真摯に向き合うこともするんだ。(続く)
0042走り出す名無し(東京都)
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2020/01/27(月) 22:53:23.44ID:LdqipeCV0
スナック眞緒物語♯9(その6)
源のヤジを契機にして編集者と会話したときのことを思い出し、源を試すかのような質問を愛萌は投げかける。
「出元は同じではないけれど、偶然に似たようなお話になるというものってあるんですかね?」
「なんだ、オメー、唐突に。そんなもんいくらでもあんだろ」
「たとえば?」
「めんどくせー奴だな。なんでそんなこと知りたがる?まあ、いい、教えてやる。
井原西鶴の『好色一代男』の中には聖書のアポクリファの『スザンナの水浴』という話に似たものがある」
この人の口から『聖書』という言葉が飛び出すとは・・・。
「その聖書の外典のお話とはどういうものですか?」
「スザンナという絶世の美女が水浴びしていると、覗き見した老人から『ヤラせないと、男と密会していたことをチクるぞ』と脅されるんだ」
うわ〜、この人にかかれば、聖書の話でもここまで下品な話になるんだ。(続く)
0043走り出す名無し(東京都)
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2020/01/28(火) 22:39:50.17ID:e2I7N2yq0
スナック眞緒物語♯9(その7)
話を聞くのも嫌になっているが、自分から話を振った手前、「それに似た西鶴のお話はどういうものですか?」と愛萌は儀礼的に尋ねる。
「『好色一代男』の中の話だけどな。
女中が水浴びしていると、覗き見していた7歳の世之介から『ヤラせないと秘密をチクるぞ』と脅されるんだ」
「その女中さんに秘密は何かあったんですか?」と愛萌は無造作に質問してしまう。
「育ちのいい俺はあからさまに言いたくなくてぼかしたんだけどな」と源は意味ありげな薄ら笑いを浮かべる。
嫌な予感がした愛萌は質問したことを後悔し、黙り込んでしまう。
「オメーがよくやっていることだ」
「そんなこと言われても何のことか分かりませんが」
「水浴びしているときオナってたんだ」
「私、そんなことしたことは一度もありません!」と愛萌は顔を真っ赤にする。
「うひゃ、うひゃ、うひゃ、うひゃ、嘘つきめ」
相手にしていられないと思って、その場を離れようと思うが、
眞緒ママから源の様子見を頼まれたのを思い出し、愛萌は留まるしかない。(続く)
0044走り出す名無し(東京都)
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2020/01/29(水) 21:37:33.54ID:WkqqamzT0NIKU
スナック眞緒物語♯9(その8)
愛萌は話題を変えようとする。
「以前に仰っていたことで、『約束のネバーランド』は『私を話さないで』のパクリだいう見解でしたよね。
偶然に似たのではなく意図して真似たと思われるものは他にもあるんですか?」
「そんなもんもいくらでもあんだろ。たとえば、モーホー折口が書いた『死者の書』なんかは意図的にパクっているな」
「私の大学の偉大な先達に対し、そういう言い方をしないでください」
「だったら、『死者の書』はもちろん読破くらいしているんだな」
愛萌は黙り込んでしまう。
「なんだ、読んでないのか」
「どういうお話なんですか?」
「謀反の罪を疑われた男が、刑死場で自分に同情した女を見て、その女への思いに囚われる。
この世に何の後も残していないという執着から、死人になっても、その女の血筋の女に呼びかけるというストーリーだ」
「なんか切ない物語ですね。でも登場人物には名前がないんですか?」
「バッキャーロー、読んでいないオメーに負担にならないようにわざと言わなかったんだ。
男の名前は滋賀津彦で、同情した女の名前は耳面刀自で、耳面刀自の血筋の女は藤原南家の郎女だ」(続く)
0045走り出す名無し(東京都)
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2020/01/30(木) 22:03:47.09ID:M2ZimasY0
スナック眞緒物語♯9(その9)
源の勘に触る物言いに愛萌はムっとするが、興味惹かれる話だとも思う。
「折口先生が『死者の書』を書くにあたって、参照にされたのは何なんですか?」
「エジプトの古代書の同名の『死者の書』だな。
エジプト古代書でバラバラに切断された神オシリスが妻であり妹である女神イシスによって冥界の神として復活するというのを、
滋賀津彦が郎女によって再生されるという具合にパクっている」
「そう聞いただけでは、意図的に真似たとは思えませんね」
「『死者の書』の副題に『エジプトもどき』と付けたことからも分かるように、折口自身も表明しているんだ。
それに随所にエジプト古代書の影響が見られる。
たとえば、折口の『死者の書』の第2章の中にエジプトの古代書の89章に影響を受けた箇所がある。
前者の『こう。こう。お出でなされ。藤原南家郎女の御魂。こんな奥山に、迷うて居るものではない。早く、もとの身に戻れ。こう。こう』は、
後者の『おお連れてこられる者よ、飛び回る者よ。神の社にまします者よ。どこにいようとわが魂が私の元に連れてこられますように』に影響を受けている」(続く)
0046走り出す名無し(東京都)
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2020/01/31(金) 22:37:13.93ID:ml9jLEV10
スナック眞緒物語♯9(その10)
「折口先生が意図的に真似されたというのは分かりました。
そのように判断されれば、やはり評価は下がるものなのですか?」
「そんなことはねえ。個人の才能というのは文学の伝統の中で花開くべきだと主張した大家もいた。
先学を尊敬するあまり真似た箇所も必然的に出てくるというわけだ。ただし、上っ面だけの猿真似はいかんけどな」
「その折口先生の『死者の書』はどういう評価をされているんですか?」
「明治期以降の日本に近現代文学で最高峰と評価する者も多い。
さらに、近年になってもその研究論文は増える一方だ。
そして、古代エジプトの話を古代日本の話に換骨奪胎したことでその死生観の普遍性を見事に表現し、
模倣の域を超えた独創的な芸術作品という評価がなされている」
「そんなすごい本なら、いずれ読んでみたいと思います。それにしても、ディテールまでよく空で言えますね」
「まあな、俺も滋賀津彦と同様にこの世にまだ跡を残していないという思いがあるからからな」(続く)
0047走り出す名無し(東京都)
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2020/02/02(日) 22:55:43.72ID:nPORwb2p0
スナック眞緒物語♯9(その11)
「それは候補にはなったけれど、芥川賞を取れなかったということですか?」
「バッキャーロー、芥川賞なんて相手にもしてねえ。あんな盆暗な選考委員どもじゃ俺の小説の真価が分かりゃあしねえんだ」
「じゃあ、なぜ跡を残していないって言ったんですか?」
「滋賀津彦は自分の子も殺され、この世に子種を残していないことにも悔いを残していた。
『子を産んでくれ。俺の子を』と郎女に懇願する。子供がいない俺もそういう思いだ」
子供がいないという前に、相手にしてくれる女性もいないのでは?と愛萌は思うが、さすがにそのまんま口にはしない。
「そういう女性はいるんですか?」
「おうよ。俺が思っているのは愛萌、オメーだ。
俺が死んだ後、オメーの枕元に現れて、『俺の子を産んでくれ』と化けて出てやるからな」
うわ〜勘弁して。生きていても気持ち悪いのに、この人が死んだ後に私に執着するなんて耐えられない。
「お願いですから、そんな冗談、やめてください」と愛萌は顔をしかめる。(続く)
0048走り出す名無し(東京都)
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2020/02/02(日) 22:59:02.82ID:nPORwb2p0
スナック眞緒物語♯9(その12)
「何言ってんだ、子供をつくって、人類を繁栄させるというのは女の大切な仕事だろ。
トルストイの『クロイツェル・ソナタ』の後書きにこんなんがある。
『純潔が尻軽に優るということは、誰ひとり非難することはない。だが、その純潔が完全に実行されれば、人類は滅亡しなければならない』
オメーも人類存続に貢献すべきだ。俺と子づくりをしろ」
冗談で言っているんだろうけど、万が一本気だったら怖い。ここははっきりと意思表示しなければ!
「そりゃあ私だっていずれは好きな人の子供を産みたいとは思っていますよ。でも、それはあなたではありません!
だいいち私とあなたじゃ一回り以上も離れているから、そんな対象にはならないでしょ」と愛萌は毅然とはねつける。
「俺は気にしてないぞ、そんなの」
「ちょっと待ってくださいよ。年齢差を気にするかどうかというのは若い方の私にあるということを言ってるんですよ」
「俺のほうが年下かもそれんぞ」
「また訳の分からないことを」
「実は、なあ、俺はプロジェリアなんだ」
「なんですか、そのプロジェリアって?」
「早老症というやつだ。ソウロウといっても、オメーの嫌いな早く漏らすという早漏ではなく、早く老けるという早老だぞ」(続く)
0049走り出す名無し(東京都)
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2020/02/03(月) 22:44:32.62ID:VVu7g2mD0
スナック眞緒物語♯9(その13)
愛萌は絶句する。
「うひゃ、うひゃ、うひゃ、うひゃ、早漏の意味が分かるのか。
まあ、正しいことだ。純潔だけじゃ大人にはなれねえつぅもんだ」
「あなたのように傍若無人に下品なことを放言するのが大人ならば、私は大人にはなりたくもありませんよ」
「話を聞いてねえ奴だな、早老症だとさっき言っただろ。俺は、実は、まだ5歳なんだ」
そんな無理な設定なんかしなくても、そのままでも実年齢より見た目はずっと老けているんですけど。
そう口を滑らせようとするが、寸でのところで言葉を呑み込み、愛萌は黙っている。
「だから、『愛萌お姉ちゃん、僕にオッパイ飲まちて』と俺が言っても、5歳児を相手にしているんだから、怒るんじゃねえぞ」
「卑猥なことをそんなにもよく知っている5歳児なんていませんよ。
それにそういう病気で苦しんでいる人もいらっしゃるというのに、ギャグにすべきことじゃないですよ。
ともかく死んだ後に私にストーカーすると言うのは、冗談にしても止めてください」(続く)
0050走り出す名無し(東京都)
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2020/02/04(火) 23:37:06.10ID:3szFVKIE0
スナック眞緒物語♯9(その14)
「でも、オメーはすでに死者にストーカーされているかもしんねえぞ」
「唐突になんですか?また訳の分からないことを」
「唐突ついでに訊くが『イケオヤ』というのは何の省略語が知っているか?」
「知りませんし、知りたいとも思いません」
「そう言わずにクイズだと思って、考えてみろ」
愛萌は沈思黙考する振りをするが、どうでもいいと思っている。
「出てこねえか?かなりの難問だったみたいだな。
実は、『イケオヤ』というのは『イケメンオヤジ』を省略してんだ」
「はあ?イケメン?推測できる訳がないですよ。『食パン』の語源が『主食用パン』であると推し量るより難しいですよ」
「うひゃ、うひゃ、うひゃ、うひゃ、うひゃ、面白いな、オメー」
「そんなことで褒められても嬉しくありません。で、それは何の前振りなのですか?」
「『死者の書』の第18章には『滋賀津彦は極みなく美しいお人でおざりましたがよ』とある。
だが、死後、塚の中で朽ち果てその肉体は醜くなった」
また、何を言い出すのかしら?まさか・・・と愛萌は嫌な予感がする。(続く)
0051走り出す名無し(東京都)
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2020/02/05(水) 23:14:58.64ID:b80B09C30
スナック眞緒物語♯9(その15)
「また、『死者の書』の第4章には、『その耳面刀自と申すは、郎女の祖父君南家太政大臣には、叔母君にお当りになってでおざりまする』とある。
つまり郎女から三代遡った直系の祖先の女兄弟が耳面刀自で、その耳面刀自が滋賀津彦に同情したつぅうわけだ」
「もう後はだいたい予想がつくので、その話の続きは聞かなくてもいいですよ」
「そう言うなって。最後まで話しさせろ。
イケオヤは無実の罪で死刑となり、その処刑を見て同情したのがオメーの三代遡った直系の祖先の女兄弟だったつぅうわけだ。
イケオヤがオメーに執着する理由もこれで分かっただろ。
そして生きているときにはイケメンだったが、この世への未練から、朽ち果てた肉体のままで甦ったから今はブサメンなんだ」
「私の家系図で勝手に遊ばないでくださいよ。
だいいち三代遡ってもせいぜい百年前くらいでしょ。明治の終わりか、大正の始まりくらいですよ。
公開処刑なんてその頃にまだあったんですか?
その上、その設定だと、私はイケオヤ氏の姪ということにはならないじゃないですか。なにもかも無理すぎます」(続く)
0052走り出す名無し(東京都)
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2020/02/06(木) 22:05:47.17ID:gkKuseuz0
スナック眞緒物語♯9(その16)
「なぬ!オメー、本当にイケオヤの姪っ子だったかのか!」
「違います。違います。違いますよ。あの人が私に対してしている間違った思い込みが姪であるということです」
「なんだ、そういうことか。あんまりびっくりさせんな」
「驚いたのはこっちですよ。どうやったらそんな曲解するんですか」
「でも、オメー、イケオヤが姪っ子だと思い込んでいることに安堵してねえか?」
「冗談じゃないですよ!姪っ子と思われるだけで屈辱ものですよ!」
「でもよ、彗星がやってきたら、イケオヤの気持ちも変わるかもしれんぞ」
また、何言いだすんだろう?心臓に悪い。
「はあ?スイセイですか?水の星のほうですか?ほうき星のほうのですか?」
「ほうき星のほうだ。その彗星は英語で何というか知ってるか?」
「cometですよね」
「正解だが、オメーのおっぱいがCカップからDカップへと大きくなったのを記念して、頭文字CではなくDから始まる英語で彗星を答えてみろ」
はあ・・・、あの美大生とこの人は陰で私のことを面白おかしくあることないことネタにしているんだろうな。
そう思うと愛萌は憂鬱な気分となり、強張った表情をほぐすためにため息を深くついた後で、「分かりません」とだけ言う。(続く)
0053走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/02/07(金) 22:15:55.67ID:Ls2V3JYg0
スナック眞緒物語♯9(その17)
「disasterだ。disとasterに分ければ、disは否定の接頭語で、asterは星を意味している。asteriskなら星型を意味するのは知ってるよな。
だから、disasterは『悪い星』を意味している。
その昔、突然現れる彗星は予測不可能だったので、天の秩序を乱す忌まわしいものだと信じられてたんだ。
そこから、彗星のことをdisasterと呼んだんだな」
「disasterって大惨事という意味があるのは知っていたのですが、彗星という意味もあったんですね」
「おそらく彗星のほうが先で大惨事というのは後から付け加わったと思うが、今ではそちらがメインとなってるな」
「日本でも、たしか『太平記』でしたかね、彗星を妖霊星と呼んで、不吉な予兆であるというのがありましたね」
「『天下まさに乱れんとするとき、妖霊星という悪星下って災ひを成す』のとこだな。
アリストテレスの時代から20世紀初頭くらいまでのヨーロッパのほうが、彗星=悪い星という固定観念はずっと強固だったんだがな。
そういう迷信に背いて、彗星を希望の象徴のようかにあつかったトルストイの小説があるが、その作品名は分かるか?」
「読んだことないですけど、トルストイの小説で最も有名な『戦争と平和』ですか?」
「当たりだ」
「今の私たちの感受性から見れば、そちらのほうが腑に落ちますね」
「ああ、美しく輝く彗星が不吉なものであるわけがないと一流の文学者の直観は見抜いたんだな」
え!?この人にも美しいと感じる心はあったの?(続く)
0054走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/02/08(土) 21:43:29.22ID:PN9+Ezoj0
スナック眞緒物語♯9(その18)
「『戦争と平和』の中では、突然現れた彗星によって登場人物の男の心が変わる。
それまでナターシャを妹のように思っていたピエールは、窮地に陥って涙を流しているのを見て、いじらしく感じ愛するようになる。
突然、現れた彗星によって変化した夜空とナターシャに対する自分の心の変化をオーバーラップさせるんだ」
「ロマンティックなお話ですね」
「それまで自分の本当の気持ちに気づかなかった男が、彗星を見たことで急にオメーを愛するようになったとしたらどうだ?」
「とても素敵です」
「うひゃ、うひゃ、うひゃ、うひゃ、うひゃ」
悪い予感・・・・。あっ!しまった!
「それまでオメーを姪っ子のように思っていたイケオヤが、彗星を見てオメーを女として愛するようになってもか?」
「お願いですから、やめてください。そんな話、聞いただけで、私は悪夢にうなされそうです」
「うひゃ、うひゃ、うひゃ、うひゃ、正直な奴め。
まあ、彗星というのは一種の表象だな。他のささいな出来事でも人の心は変わるかもしんねえ。
たとえばブレーカーが落ちたその瞬間に、オメーがブラジルまで行ったことを思い出し、
そこまでして姪っ子であることを拒否するのは女として意識してほしいからだと勘違いして、その“愛”に応えようとしているかもしんねえぞ」
「お願いですから、そんな話、本当にやめてください」と愛萌は叫ぶ。
暖房が効いている店内なのに、愛萌は体全身が鳥肌になる。(続く)
0055走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/02/10(月) 22:22:41.08ID:4qWne3V+0
スナック眞緒物語♯9(その19)
いくつかの視線が自分に注がれているのを愛萌は感じ恥ずかしくなる。いつの間にか客が入っていて、先ほどの叫び声に注目が集まったようだ。
眞緒ママも少しびっくりして奥で愛萌を見ている。
「油を売っていちゃダメですね」と言って、次から次に変な話を聞かされて疲弊している愛萌はこれ幸いに場を離れようとする。
「ちょっと待て、オメーが俺に聞きたかったというのは偶然に似た作品とか意図して真似た作品とかいうことじゃなく、別のことだろ」
「ええ。でも、他にお客様がいらっしゃっているようですから」
二人のやり取りを聞いていた眞緒ママが近くにきて言う。
「愛萌、今いらっしゃるお客様がご注文なさった品はすべて配膳したから大丈夫よ」
「でも・・・」
「これからは愛萌に頼りっきりになるかもしれないから、今日くらいは自分の疑問を解消させることを優先させなさい」
眞緒ママにそこまで言われては、愛萌も従わざるを得なく、愛萌はしぶしぶ源に尋ねる。
「本を読み続けることでその先に何が見えてくるのかが分からないんです」(続く)
0056走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/02/10(月) 22:24:45.51ID:4qWne3V+0
スナック眞緒物語♯9(その20)
「なんだそういうことか。でも
、オメー自身もある程度は思うところがあんだろ。それを先に述べてみろ」
「まず、一点目は、本を読むことで語彙力とか知識とかは身に着きますが、それが目標じゃないような気がするということです。
次に、二点目は、趣味や娯楽の延長線上で本を読むことが最も効率よく感化されやすいと思っているんですが、それが正しいのかどうか。
最後に、三点目は、もしそうだとすれば、その先にあるものは、本というのは人の趣味にだけ影響するということになります。
それが正しいかどうかということです」
「一点目は正しい。博学多識となることだけを目標として本を読む奴はクソだ。
二点目も正しい。ただし、自分の好みの本だけを読むというのはいずれ成長の限界がやってくる。
もっとも、オメーの場合は現代日本文学だけでなく、古典も読んでいるようだから問題はないだろう。
三点目は間違っている。本というのは趣味趣向だけでなく、人の全人格に影響する。以上だ!」
「えっ!それだけですか?もっと具体的に教えてもらえないんですか?」
先ほどまでこの場から離れたかったのに、自分でも意外な言葉が飛び出したことに愛萌は驚く。
「ほう、オメーが心底聞きたいという目で俺に質問するのは初めてだな。だが、長くてつまらん話になるから聞くのはやめとけ」
「ぜひお願いします」(続く)
0057走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/02/12(水) 23:22:25.50ID:sfC6WHEQ0
スナック眞緒物語♯9(その21)
「そこまで言うのなら、参考になるかどうかは保証できないが、俺なりに応えてやる。
ただし、本と言っても範囲が広すぎるから、文学に限定して言うことにする。オメーが想定しているのもそんなところだろ。
で、だ。文学的感受性をいくばくか備えた奴の思春期の読書を考えてみたらいい。特定の作家に魂を奪われたひとときを思い出すだろ」
愛萌はうなずく。
「誰でもいいんだけど、死後70年も経っても読まれている作家として太宰治がいるな。その太宰にいかれた奴がいるとする。
寝ても覚めても、太宰、太宰、太宰と言って、じめじめした下手な太宰の文章まで真似てしまう」
「太宰治って、東大仏文科卒で、先輩じゃないんですか?」
「バッキャーロー、太宰の頃の東大仏文は無試験だ。そのときには金があれば誰でも入れた。東北のボンボンだったから太宰は入れた」
「はい、はい、分かりました。続きをどうぞ」
「酒をあおりアル中になったり、女にちょっかいをかけたりするようなことまで真似してしまう」
「その『奴』という人がアルコール依存症になったというのは分かる気もしますが、
女性にちょっかいをかけるというのはどんなことしたんですか?」(続く)
0058走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/02/12(水) 23:24:41.10ID:sfC6WHEQ0
スナック眞緒物語♯9(その22)
「たとえば、桜桃忌に三鷹くんだりまで行って、太宰ファンの女に『一緒に死んでくれません』と言ってナンパするとかだな」
「うわ〜、そんな突飛なことしていたんですか?で、その『奴』という人の成果はどうだったんですか?」
「すべて空振りだったな、不思議なことに」
そりゃそうでしょ、はなから失敗するようにしか思えないけど、と愛萌は心の中で冷笑する。
「ともかく、その『奴』という人は狐に取り憑かれたように太宰治に傾倒したということですね」
「誰かに傾倒したことがない人間というのは、一生、学問や芸術とは無縁の人間だな」
「でも、『文学もいいけどね、それを読むと自分が壊れそうで怖い』とか言う人にも出会ったことがありますよ」
「そりゃー馬鹿の言い草だ。何がおかしいかが分かるか?
ないものが壊れたり、失われたりすることはない。そんな人間には確固とした自分なんてものはない。
せいぜいその場その場で移り変わる感覚的な反応をしているか、
もしくは批評家の意見を借りてきて、それを自分の意見のような顔をして言っているだけだ。
己というのは誰かに傾倒するところから始まる。徹底的に模倣することから始めるしかねえんだ。
あらゆる独創は模倣から始まる。それは如何ともしがたいっつうことだ」
あれ?いつもと違って真面目に話している。(続く)
0059走り出す名無し(東京都)
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2020/02/13(木) 23:23:39.80ID:93FGMEVq0
スナック眞緒物語♯9(その23)
「少し整理させてください。独創的になるためには誰かを模倣しなければならない。
誰かを模倣するためには誰かに傾倒しなければならない。
そして誰かに傾倒するためには、半ば嫌々の修養のための読書ではなく、趣味や娯楽で本を読むことが最も効率がいいということですね」
「まあ、そんなところだ」
「そういう一時的な傾倒というのは思春期に特徴的なものですよね。
やはり思春期には感受性が鋭敏だからですか?」
「それも確かにあるが、もっと大きな原因がある。
今では若者はポケモンgoに見向きはしないのに、やっている老人は多い。なぜかを考えたことがあるか?」
「お年を召された方というのは時間があり余っているからじゃないんですか?」
「もっと大きな要因がある。それは一種の侵略だ」
「侵略?」
「年寄りたちは今までにああいうeゲームを体験していなかった。
だから、未知の感情に驚いて、心が侵略されているんだ。
思春期における読書というのも同じようなもんだ。若造の未発達な個性により強力な作家の個性が侵略しているつぅわけだ。
だから、あまり本を読んだことのない奴はもっと歳を取ってから、そういうことが起こることもある。
何も知らない無垢な処女が抵抗できず犯されているのと同じようなもんだな」
そんな下卑た譬えはいらないのに、やっぱりそこに行くか。言わずに済ませるということはできないものなのかなあ。(続く)
0060走り出す名無し(東京都)
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2020/02/15(土) 22:27:01.34ID:3CZ2GEBc0
スナック眞緒物語♯9(その24)
「話を元に戻しましょ。その『奴』という人が太宰治に傾倒したというお話でしたよね」
「太宰に傾倒したその奴は全然自分というものを持っていなかったが、太宰を通してものを見るようにできるようになる。
太宰のように見、太宰のように感じ、太宰のように判断する一つの視点を自分の中に導入することで、
太宰の人生観を己の内部に移植することで、今まで何に対しても自分の判断を持っていなかったが、
何についてもある程度の判断やある程度の見方ができるようになったつぅわけだ。そうなると太宰一人じゃ済まなくなる」
「そういうものなんですか?」
「だって、オメーよ、太宰に傾倒し真似をし始めたら、太宰に影響を与えた人間が気になるだろ」
「そうですかね?」
「オメー、好きな男ができたら、その男の親や兄弟や友人が気にならんか?」
「そう言われればそうですかね」 (続く)
0061走り出す名無し(東京都)
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2020/02/15(土) 22:29:15.56ID:3CZ2GEBc0
スナック眞緒物語♯9(その25)
「そうすると井伏鱒二が気になってくる。井伏は大切な太宰の先生だった。特に、初期においては、井伏の影響が大きい。
そして、太宰が対称的な人間として、憎み、そして尊敬し、非常に複雑な感情を持っていた志賀直哉が気になってくる。
また、太宰と聞いただけでむかむかとして髪の毛が逆立つ変な男がいる。
そして、太宰のような人間にはなるまいとして、その文体だけでなく、肉体まで変えてしまい、最後は腹を掻っ捌いて死んだ変な男がいる」
「あ、それ、三島由紀夫ですね。でも太宰アンチの人も気になるんですか?」
「そのくらい太宰に関心があるんだから、興味を持つのは当然だろ。
また、太宰の青春期に決定的だった日本浪漫派時代に巡り合った太宰の親友に亀井勝一郎というのがいて、そいつも気になってくる。
そういう日本浪漫派運動を生み出した国文学者の折口信夫が気になってくる。
さらに、その師匠である柳田国男も気になってくる。
そして、そういう古典に対する強い傾斜を強要してくる同じ大学者の下で、違った道を歩み出した小林秀雄が気になってくる」
うわ〜、大学入試のため現代文の文学史で覚えた名前が次々に出てくる。(続く)
0062走り出す名無し(東京都)
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2020/02/16(日) 17:49:12.37ID:uN4sNkNc0
スナック眞緒物語♯9(その26)
「そういうことをしている間に太宰治がころっと落ち、代わりに小林秀雄が憑りつく。
小林のように見、小林のように感じ、小林のように判断することで、第二の視点を奴は自分の中に持とうとするんだ。
第二の人生観が、太宰とは違う第二の人生観が、奴の内部に共存しようとするつぅわけだ。
まあ、こいつに引っかかったら大変だな。
アルチュール・ランボーが気になってくる。アル中で乱暴者じゃねえぞ」
うわっ!イタいダジャレ。
「そのくらい知ってますよ」
「オメー、読んだことあんのか?原語でだぞ」
「はい、はい、続きをどうぞ」
「『酔いどれ船』や『地獄の季節』や『飾画』を原文から読もうとして、大学では仏文を奴は専攻する。
ポール・ヴァレリーが気になってくる。逆説を多用したレトリックや精緻な論理展開を徹底して模倣するようになる。
そして、ついにドストエフスキーに手を出してしまう。
そしてヴァレリーが憑りつき、さらに、ドストエフスキーも憑りつく。
こうして、一人、二人、三人、四人と奴の内部に一流の個性が、一流の人生観が共存し始める。
まあ、初心だった処女が慣れてくると次から次に男を取り換えていくのと同じだな」
ああ、またか・・・・。そんな下劣な譬えはホントいらないんですけど。(続く)
0063走り出す名無し(東京都)
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2020/02/17(月) 21:53:59.17ID:RTo0AtnK0
スナック眞緒物語♯9(その27)
「そうなることで、奴は初めて比較することを悟ってくる。
たとえば、太宰のこの繊細な感性は小林にはないんだな。小林のこの潔癖な一貫性は太宰にはないんだな。違うんだなということが分かってくる。
比較する力がようやく生み出されるようになったつぅわけだ。
そうして比較対照する力が身につくと、次に等級づける力も身についてくる。
たとえば、太宰のこの感性と小林のこの知性とをゆうゆうと合わせ持っているドストエフスキーは大きいんだな。
もっと広くて豊かで大きいんだな、一格上だなと、太宰と小林の上にドストエフスキーを置く。
そこから批評が始まり、それぞれの作家がいろんな能力や才能があることが分かってくる。
男を取っ換え引っ換えするようになって女の喜びを知ったかつての処女は、男を比べたりランク付けしたりするようになる。
今の男は前の男よりもテクニックはあるがサイズは小さいと思ったり、
テクニックとサイズの両方合わせ持った男が欲しいと思ったりするようになるのと同じだつぅわけだ」
うぅぅぅ・・・。その譬えがなんとなくは理解できる私自身が情けなくなるなあ。(続く)
0064走り出す名無し(東京都)
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2020/02/18(火) 23:33:35.56ID:nLaLVi5K0
スナック眞緒物語♯9(その28)
「こうして、一人、二人、三人、四人と相異なる一流の人生観が影響し合うことで、価値体系ができてくる。
これは太宰の系譜でもちょっと変態ぽいものだとして、太宰の下に位置づける。
これはしょせん小林の亜流だとして、小林の下に位置づける。
これはヴァレリーのレトリックを真似ているが、虚仮威しにすぎない。
これはドストエフスキーの形而上学を真似ているが、迫真性がなく図式的なものでしかない。
そういうふうに自分の中にできあがった価値体系にいろんな作家を配置していく。
この比較する力、等級づける力、位置づける力が独創性つぅことだ。
独創性をようやく奴は、持ち始めたつぅわけだ。
そのとき、何を読んでも前のように、カーっとのぼせ上らない自分にいつの間にか気づく。
広い読書というものが価値があるのは、知識をため込むことじゃねぇし、博覧強記であると他人から讃称されることでもねえ。
次から次にいろんな作家の影響を受けることで、どんなに優れている作家であっても、
その一人の作家に過度に支配されることがなくなり、自ずと独創性が現れてくるから価値があるんだ。
それが、本というのが趣味趣向だけでなく、全人格に影響するつぅことだ。
男を多数経験した女は、俺のように床上手で馬並みの男でさえも極度にはのめり込まなくなるのと同じようなもんだ」
うわっ!その最後の一言で今まで聞いていたことがすべて吹っ飛んでしまった。(続く)
0066走り出す名無し(東京都)
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2020/02/21(金) 22:23:47.05ID:MrZzqT320
スナック眞緒物語♯9(その29)
「まあ、オメーの場合はこれから数をこなしていくんだろうけどな」
「私、こう見えてもそこそこにはこなしていますよ」
「なぬ!オメー、いままで何人の男とヤッてきたんだ?」
「違います!!本の数のほうです!」
「なんだ。あんまりびっくりさせんな」
ん?デジャブのような?そうか、絶対にわざと間違えているな。
「こなしているとは言ってもまだまだ本を読む楽しみは残されてんだろ。俺にはもう期待することはあまりない。
なに読んでも予想がつき、途中でだいたいわかってしまう。もう人生が半ば終わったような感じだ」
「これからの希望とかはないんですか?」
「希望・・・か。今年、初詣に行ったとき、三つほど願ってきた」
「へ〜、どんなお願いしたんですか?」
「聞きたいか?」と源はほくそ笑む。
しまった!ろくでもないことを言いだす前触れだ。地雷を踏んでしまった。聞くんじゃなかった!
「あっ、でも、人の願掛けとかを聞くのはよくないことですね。聞かなくても大丈夫ですよ」(続く)
0067走り出す名無し(東京都)
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2020/02/21(金) 22:25:42.56ID:MrZzqT320
スナック眞緒物語♯9(その30)
愛萌の制止を無視して、源はしゃべり始める。
「一つ目は、この世界から憎しみが消えて戦争がなくなりますように」
あれ?予想と違う。
「二つ目は、この世界から貧困が消えて飢えや病気で亡くなる子供たちがいなくなりますように」
えええええ?そこまで慈愛にあふれたお願いをしたの?
「三つ目は、愛萌のオッパイを揉むことができますように」
ちょっとでも感心した私が馬鹿だった。
「愛萌のオッパイに触りたい。愛萌のオッパイに触りたい。愛萌のオッパイに触りたい。愛萌のオッパイに触りたい。愛萌のオッパイに触りたい。
愛萌のオッパイを下から上に持ち上げて重さを知りたい。愛萌のオッパイを下から上に持ち上げて重さを知りたい。愛萌のオッパイを下から上に持ち上げて重さを知りたい。
そして愛萌から虫けらでも見るような目で『最低!』と蔑まれたい。そして愛萌から虫けらでも見るような目で『最低!』と蔑まれたい」
誰に対しても直接に怒りの感情をぶつけたことが、育ちの良さから、なかった愛萌だが、さすがに堪忍袋の緒が切れる。
両手で思いっきりテーブルを叩きながら立ち上がり、何も言わずその場から離れる。(続く)
0068走り出す名無し(東京都)
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2020/02/21(金) 22:29:40.21ID:MrZzqT320
スナック眞緒物語♯9(その31)
気づけば店の中は多くの客であふれかえっている。
カウンターの中でグラスを拭いている眞緒ママと愛萌は目が合い、歩み寄る。
どうせ却下されるだろうけど、言うだけ言ってみようと愛萌が意を決して口を開こうとすると、眞緒ママのほうが先に話しかける。
「源さんを出禁にしたいの?愛萌の方針でいいと思うよ」
予期さぬ言葉に愛萌が戸惑っていると、「リニューアルした看板を見てきて」という眞緒ママの言葉に従い、愛萌は外に出る。
血相を変えて戻って来た愛萌は「どういうことですか!」と眞緒ママに詰め寄る。
「私ね、スナックの現場からは引退しようと思っているの。そこでここのママを愛萌に引き継いでほしいの」
「でもいくら何でも急すぎます。それに私に断りもなしに看板を『スナック愛萌』とするなんて!」
「お願い、愛萌、引き受けて」
「眞緒ママの代わりなんて私には無理ですよ」
「いいえ、あなたは賢いし、聞き上手だし、話し上手でもある。あなたに足りないのは経験くらい。
それに皆にはあなたのヘルプを日替わりでするようにお願いしているの」
「私が拒否したらこのお店はどうなりますか?」
「売り払って、入ったお金で海外移住しようと思っているわ。
でも、愛萌が引き受けてくれるなら、いずれはお店も丸ごと移譲しようと思うけど、当面はオーナーとして愛萌と連絡を取るよ」
「私がママだなんて不安しかないけど、でも、眞緒ママと縁が切れるのはもっと嫌です。だから引き受けます」
「ありがとう」と言いながら、眞緒ママは愛萌に抱き着く。
最後のスナック眞緒も大繁盛♪(了)
0069走り出す名無し(東京都)
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2020/02/24(月) 21:39:28.41ID:Jt9GA6Cr0
書く動機となったのは、次の宮田愛萌のブログ。

2019年7月17日「すかすかのかばん」
>読書はするべき!って色々言われているけれど
>私はメリットのための読書は、あんまりおすすめしないなって思ってます。
>だって興味ない本読んだって何にも身にならないし〜って思っちゃうんです。
>面白そうだな、読んでみたいなって思った時に本を読むようになって、
>そして気がついたら身につくのが語彙力や教養だったりするわけで、
>娯楽の副産物だと思うんです!!!
0070走り出す名無し(東京都)
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2020/02/24(月) 21:42:11.78ID:Jt9GA6Cr0
(その21)以後で、参照にしたのが、岩波文庫のT.S.エリオット「文芸批評論」(第15刷改版)の中に収められている「宗教と文学」。
主にP113とP114の箇所だが、それ以外の箇所も参照している。
0071走り出す名無し(東京都)
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2020/02/24(月) 21:44:35.47ID:Jt9GA6Cr0
ただし、日本の作家のことをエリオットはむろん論じてはいない。
また、(その21)以後で挙げた作家の全てに傾倒したわけではないので、熟知していない。
特に、志賀直哉と三島由紀夫に関しては一冊も読んでいない。
0072走り出す名無し(東京都)
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2020/02/24(月) 21:46:43.66ID:Jt9GA6Cr0
実は、エリオット「宗教と文学」のその箇所に対応する英語のテキストのコピーとその解説を録音したMDが高校生のときに出回っていた。
そこにはどんな作家から始まりどんな作家に一人の読者が行き着くのかという一例が具体的に語られており、それをパクった。
0073走り出す名無し(東京都)
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2020/02/24(月) 21:49:10.56ID:Jt9GA6Cr0
アル中に関する箇所は吾妻ひでお「失踪日記」を参照とした。
具体的には、強制入院と任意入院とに対する外出許可の違いやシアナマイドに関するところである。
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