「現実の世界での起死回生が難しいと思い始めたのは30を目前にした頃ですね」

札幌在住の多原実さん(49歳・仮名)は言う。
年老いた両親の持ち家にパラサイトして暮らす。
趣味はネット荒らしだ。

「30歳を迎えたとき、現実を諦めて想像の世界で逆転を試みることにしました」

多原さんの白髪交じりの表情の中に、どこかすがすがしさを感じた。

「誰でも想像の世界であれば凄腕の投資家になれる、高額納税者にもなれる。
そんな『想像の魅力』に取り付かれたんです」

想像の持つ魅力──
番組スタッフは、多原さんの目の輝きを見逃さなかった。

「わたしはツイッターはやっていませんが、
想像の中ではフォロワーは97万人、あと少しで100万人なんです」

想像の魅力をもっと広く伝えたい──
失業中の多原さんは、あり余る時間を利用して大手掲示板を荒らすのが日課だ。

「現実にはツイッターやフェイスブックはやりません。
いいねもフォロワーもゼロなのが目に見えてるので。
掲示板であればいくらでも想像の力を発揮することができます」

多原さんのブックマークには、およそ50スレがあり、
順次ググって出てきただけの情報をコピペしているという。

「想像では毎日2万人が自分の投稿に賛同し、感謝していますね。
累積ではすでに想像で1000万人を超えています。
想像では本田望結さんも僕の投稿を楽しみにしていますよ」

すねかじり・無資産・高齢未婚であっても、老後を生き生きと過ごす。
絶望から目を背け、凛とした自分を強力に想像し、
「想像の素晴らしさ」を伝えようとする多原さんに、
番組スタッフはかける言葉が見つからなかった。


ドキュメント番組「社会的脳死の過酷な現実」