放送法の「政治的公平」の解釈変更をめぐる総務省の行政文書、いわゆる“小西文書”を巡り国会が紛糾している。文書には2014年から16年にかけ、安倍政権が放送メディアに圧力をかけるようになるまでのプロセスが生々しく記されているが、元経産官僚の古賀茂明氏は「それ以前から『報道ステーション』の幹部は、官邸からの圧力にさらされていた」とその内情を語る。

官邸からの抗議メールに「古賀は万死に値する」
――小西文書には2014年から16年にかけ、安倍政権が放送法の実質的な解釈変更を総務省に迫り、放送メディアに圧力をかけるようになるプロセスが生々しく記されています、古賀さんが「アイアムノット安倍」発言をして、「報道ステーション」(テレビ朝日)のコメンテーターを降板することになったのもこの時期ですね。

古賀茂明(以下同)そうです。当時、ジャーナリストの後藤健二さんがイスラム過激派組織のイスラム国に拘束され、水面下で解放交渉が進んでいました。ところが、中東歴訪中の安倍首相が15年1月17日にエジプトで「イスラム国と戦う国に2億ドルを支援する」とぶち上げてしまい、怒ったイスラム国が後藤さんを処刑してしまうということがありました。

おそらく、安倍首相は自国民の人命よりも、イスラム国と対峙する有志国連合の有力メンバーになることを優先し、イスラム国への宣戦布告に等しい2億ドル拠出を表明したのでしょう。そこで、そのことへの抗議の意も込めて、「私たち日本国民は安倍首相とは違う。どこの国とも戦争はしない。平和を望んでいる国民なんだ」というメッセージ、つまり「“アイアムノット安倍”と今こそ世界に向けて叫ぶべき」と、「報道ステーション」でコメントしたんです。

――たしか、その直後に古賀さんに対して官邸から圧力がかかったんですよね。

直後というより、「報道ステーション」のオンエア中ですよ(苦笑)。オンエア中で対応できないのに番組幹部の携帯電話に官邸から抗議のショートメールが入っていた。発信元は菅義偉官房長官(当時)の秘書官を務めていた中村格さんでした。メールには「古賀は万死に値する」とあったと聞きました。

自民党が『報ステ』幹部に送った圧力文書の中身
――中村格氏といえば、菅官房長官に重用された警察官僚で、安倍首相と親しいジャーナリストが起こしたレイプ事件の逮捕状執行を直前に止めた人ですよね。その後、21年9月には警察庁長官に就任しています。

結局、僕と番組のキャスティングなどを一手に仕切っていたMプロデューサー、さらにはレギュラーコメンテーターとして歯に衣着せぬ政権批判をする朝日新聞の恵村順一郎さんの3人が15年3月いっぱいで降板することになりました。

――時系列を整理してみます。まず、衆院解散を表明した直後の14年11月18日に安倍首相がTBS「ニュース23」に生出演し、街頭インタビューでアベノミクスを否定するコメントが多いことに立腹し、番組中に「おかしいじゃないですか!」と逆ギレしました。また、その2日後の11月20日に自民党が萩生田光一筆頭副幹事長名で報道の公平を求める文書を各テレビ局に送りつけています。そして、その6日後の11月26日に礒崎陽輔首相補佐官が総務省に電話をし、放送法4条の「政治的公平性」をめぐる解釈や運用の事例について政治レクを求めていたことが小西文書には記されています。

その頃から、テレビ朝日内で「古賀をコメンテーターとして使って大丈夫か?」という声は出ていました。私は安倍政権に批判的でしたから。また、私だけでなく、『報道ステーション』そのものが官邸から狙い撃ちにされる形で圧力を受けていました。

あまり知られていませんが、磯崎氏が総務省に最初に電話した日と同日の11月26日に萩生田名義の要望文とは別に、自民党から「報道ステーション」のプロデューサー宛てに警告のような文書が届いているんです。萩生田要望書の方は政治的公平性の確保や意見が対立する問題について、できるだけ多くの論点を明らかにすることを求める放送法4条への言及はありませんが、こちらははっきりと「放送法4条に照らして、報道ステーションの報道は十分意を尽くしているとは言えない」と明記してありました。


2に続く

集英社オンライン
3/24(金) 7:02
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