何の「おとがめ」もなしなのか──。

 警察庁の中村格長官(59)が25日、安倍元首相の銃撃事件の責任を取り、国家公安委員会に辞職を願い出た。

 中村長官は会見で「来月には安倍元首相の国葬、来年5月にはG7広島サミットも控えている。新たな警備をこれから進める状況の中で、人心を一新した新たな体制で臨むのが当然」と辞職理由を説明した。

 一方、事件発生地の奈良県警と国家公安委員会は、同県警の鬼塚友章本部長(50)を減給100分の10(3カ月)にするなど6人を減給、戒告の懲戒処分にし、3人を内規に基づく処分とした。鬼塚本部長と警備部長、警備部参事官の3人が辞職の意向を示しているが、中村長官は「処分」なしだ。

責任を現場に押し付けトンズラ

 福岡出身の中村長官は東大法卒で1986年警察庁に入庁。09年から15年まで旧民主党政権と第2次安倍政権で5人の官房長官の秘書官を務めた。5年半の官邸勤務は警察官僚としては異例の長さだった。

 その後、配属された警視庁刑事部長時代の15年には、「安倍に最も近い記者」といわれた元TBSワシントン支局長が女性ジャーナリストをレイプした疑惑で、逮捕状を握り潰したことで知られる。中村長官は逮捕をとりやめるよう指示したことについて、「私が決裁した」と認めている。

「中村長官は県警本部長の経験を積まず、長官になった異色の経歴を持っています。警視庁から警察庁に戻り、トントン拍子に出世。第2次安倍政権下の20年1月、警察庁ナンバー2の次長に引き上げられ、菅政権の21年9月、警察庁のトップに上り詰めました。秘書官時代は報道番組をチェックし、政権批判があるとテレビ局の上層部に抗議したと報じられたこともあった。政権に近いトップの誕生で、警察全体が政権に忖度するのではとささやかれたほどです」(警察庁関係者)

 公務員制度に詳しいジャーナリストの若林亜紀氏が言う。

「内閣人事局が公表する退職手当支給額別でも2020年の実績をみると、常勤職員の最高が約8000万円なので、中村長官の退職金は推定8000万円ほどです。内閣人事局資料によると、昨年の省庁トップのモデル給与額は月額141万円で、年収は2318万円になります」

 警察庁は今回の事件の警護・見直し結果で「事件は阻止できた可能性が高い」と指摘した。とはいえ、奈良県警が近鉄大和西大寺駅前のガードレール内で安倍氏が演説することを知ったのは、事件前日の7日午後7時ごろ。警備計画が決定したのは事件発生の約2時間前だった。

 警察トップが何の処分も受けず、定年1年半前に高額な退職金を受け取ってトンズラとは、現場に全ての責任を押し付けているようなものだ。

日刊ゲンダイ
8/26(金) 14:00
https://news.yahoo.co.jp/articles/94e4a3b565caf456b5cbc276851d8217ae202aa2