大阪府の吉村洋文知事は2月8日、新型コロナウイルスの感染拡大による医療体制のひっ迫を受けて、「医療非常事態宣言」を発出すると記者団に発表した。

 大阪府は連日、1日あたりの新規感染者数が1万人を超えるなど、2月7日時点で軽症・中等症病床の使用率が103.5%となっている。

 その上、オミクロン株が猛威をふるう中、新規感染者数が正確に把握できないという大問題も生じているという。松井一郎大阪市長は会見でその理由をこう説明した。

「大阪市保健所の事務作業が追い付かず、新規感染者が登録されていなかった。システムへのマンパワーによる入力が遅れている」

 大阪市保健所によれば、新規感染者が確認された場合、医療機関などが発生届を作成し、厚生労働省の新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム「HER−SYS(ハーシス)」に入力される。それが大阪府へ報告されることになっている。

 府内で最も新規感染者が多い、大阪市では医療機関の約6割が、発生届を大阪市保健所にファックス送信し、職員が手入力するというアナログな対応だという。

「発生届のハーシスへの入力が遅れ、1日当たり2000〜3000件の感染情報が反映されていなかった。感染者が爆発的に増え、手入力の処理能力を超えてしまった。さらにハーシスの機器に不具合も発生した」(松井市長)

 大阪市の発表では、発生届の遅れは1月26日からはじまり、1週間に及んだという。7日までに大阪市は1万2700件分に対しては入力処理を終えたという。

 2020年5月から運用開始された厚労省の「ハーシス」について松井市長はこう不満を述べた。

「システム、入力方法にも問題があるように感じた。念のため申し添えますが、ハーシスは医師、自治体などからさまざまな意見などが出ており、月2回はシステムの見直し、更新をしている。今になってどうしてという気がしますね」

 しかし、厚労省新型コロナウイルス感染症対策推進本部は「不具合は1月20日のみ。他の自治体はない」と反論し、お互いの主張が大きく異なるのだ。

マスコミから大阪市と厚労省の見解の違いを問われた松井市長は8日、こう声を荒げた。

「(大阪市か厚労省か)どちらのシステムに問題があったのか知りませんが、不具合はあった。うちが勝手に不具合を起こしたというのか」

 大阪市保健所感染症対策課に聞いてみると、「入力遅れは、新規感染者の急増とファックの手入力による手間、その際にハーシスに不具合があったので遅れた」と松井市長と同じ認識を繰り返す。

「厚労省は20日のみと言うが、大阪市では1週間ほど不具合が続きました。理由はわかりません。厚労省に相談したら、改善しないなら大阪市のシステムの問題ではないかと指摘された。本当の原因はまだ追究できていない」(同前)

 今後も入力遅れが生じる可能性があるという。もともと保健所は派遣スタッフ含めて40人態勢の入力班となっていたが、大阪市職員40人が応援に入り、現在は80人になっている。

「あと数日はこの態勢ですが、職員の応援は他の業務に支障をきたしているのでいつまで応援がいるか、わかりません」(前出・感染症対策課)

発生届が遅れると、新規感染者の把握に時間がかかり緊急性がある人に対しての治療も後手に回りかねない。

 AERAdot.で1月20日に配信した記事「吉村大阪府知事に保健所職員が恨み節『深夜に着信やまず、過労死する』」で取材した保健所の職員Aさんが、今回の騒動についてこう語る。

「いずれこうなると思っていました。大阪府、大阪市の保健所はどこも人がまったく足りていません。お昼ごはんも食べられないし、トイレに行くにも、駆け足で行っています。休みもなく終電で帰宅する日が続き、数日前は職場で眠りそうになった」

 Aさんが紹介してくれた大阪市保健所で働く、Bさんにも話を聞いた。

「とんでもない分量のファックスが保健所に送信されて、夜遅くまで途切れることがない。手入力する担当者を見ていると、ドンドンとファックスが渡され、『永遠に終わらない』と嘆いていた」

そしてBさんはこう不安を口にした。

「新規感染者数がきちんと把握できていないのではないか。クラスターが高齢者施設で起こっているのですが、入力遅れで公表もまだできていません。私は感染者のフォローが仕事ですが、1日中、電話にかじりついて、時間の感覚もないくらいです。先日は意識が急になくなり、自分で何を言っているのかわからなくなった。過労死するスタッフが出てもおかしくない状態です」

2に続く

(AERAdot.編集部 今西憲之)
2/8(火) 18:00
https://news.yahoo.co.jp/articles/c33a74655c239203e403eac4fc016935ba1bcc19