東京五輪は、期間中に感染者が急増した新型コロナウイルス対策、暑さを考慮した競技日程の急な変更など、最後まで対応に追われた。国際オリンピック委員会(IOC)と大会組織委員会は一様に成功を強調するが、疑問や不満は残った。(小嶋麻友美、藤川大樹)
◆「効果的、うまくいった」
 「新型コロナ対策は効果的で、うまくいった」。閉幕を2日後に控えた6日、一足先に大会を総括する記者会見に臨んだIOCのバッハ会長は胸を張った。
 組織委によると、7月1日〜8月7日に五輪関係者で確認された感染者は計404人。選手やメディアなどを対象に実施しているPCR検査の陽性率は0・02%にとどまる。
 中村英正・大会開催統括は7日の記者会見で「陽性率の低さは、安全な空間が確保された1つのエビデンスだ」と評価。「史上最も困難な大会」と振り返りつつ「スケジュール通りに行うことができたのは、運営が成功した証左だと思う」と述べた。
◆「矛盾したメッセージ」
 一方、大会開催による全国の感染拡大への間接的な影響は不明だが、国内の専門家からは、感染防止の呼び掛けと五輪のお祭りムードが「矛盾したメッセージとなり、人々に危機感が伝わらない要因になっている」との指摘がある。
 IOCや組織委はこうした声に否定的だ。バッハ氏は「五輪が間接的に感染拡大に影響したという主張には、数字的な裏付けがない」と一蹴。IOCにコロナ対策を助言する独立専門家パネルのブライアン・マクロスキー博士も五輪で人々の気持ちが緩んだという「科学的な根拠はない」と強調した。
◆バブルの穴
 感染防止のため、海外からの大会関係者は行動が厳しく制限されたが、抜け穴も目立った。
 組織委は7日時点で、8人の参加資格証を剝奪したほか、一時効力停止が8人、厳重注意が16人に上ると公表した。剝奪のうち2人は、観光目的で選手村を出たジョージアの選手。ただ、6日未明にもオーストラリアの選手がビールを買いに出掛けたが、IOCは「オーストラリアオリンピック委員会が迅速に対応した」とするのみ。実際、都内の繁華街では大会関係者の姿が多く目撃されており、ルール運用に不公平感が残る。
◆久保選手「正直ありえない」
 コロナ禍の前は「最大のリスク課題」だった暑さ対策は、懸念が以前から出ていたにもかかわらず、土壇場での変更が相次いだ。7日早朝のマラソン女子決勝の1時間繰り上げが決まったのは前日夜。6日の女子サッカー決勝は日中から夜に変更され、この影響で日本がメキシコと対戦した男子サッカー3位決定戦も前倒しになった。
 体調を調整する選手への負担は大きく、直前の変更は「正直ありえない」(サッカーの久保建英選手)との苦言も漏れた。これに対し、中村氏は「最後の最後までフレキシブルに対応してきた」と強調する半面、もっと早く決められなかったのかという声には「選手の立場でもう少し早く決められなかったのか、というのはある。真摯に今後の大会運営で考えていかなければ」と反省の弁を口にした。

東京新聞
2021年8月8日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/122723