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 昨年秋頃から、世界経済全体で半導体の需給がひっ迫している。コロナ禍によって世界経済のデジタル・トランスフォーメーションが加速し、スマートフォンや高性能コンピューター向けの最先端の半導体需要が高まった。そこに車載半導体の需要回復も加わったのである。TSMCの生産ラインを各国企業が取り合うというべき状況となっている。今後、日・米・台を軸に、世界の半導体サプライチェーンは変化する可能性がある。(法政大学大学院教授 真壁昭夫)

● 台湾のTSMCとの関係強化に 動き始めたバイデン政権

 米国のバイデン政権は、自国の企業が必要とする半導体の確保に現在、注力している。

 そのためバイデン政権は、台湾当局や半導体ファウンドリー(受託製造企業)最大手であるTSMC(台湾積体電路製造)との関係強化に動き始めた。また、同政権はわが国の半導体産業へも秋波を送っているという。

 米国にとって、日本と台湾との連携強化は半導体の調達や安全保障体制の強化に欠かせないとの図式なのだろう。

 世界のファウンドリー業界では、TSMCが54%、韓国のサムスン電子が17%程度のシェアを持つ。本来であれば米国は同盟国である韓国にも連携を求めたいだろう。しかし、現時点でバイデン政権は、日台との関係を優先しているようだ。

 その要因の一つに、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の政策への不安がある。

● 半導体確保に必死のバイデン政権 TSMCの生産ラインを取り合う各国企業

 文氏は安全保障面で米国を重視する一方で、経済面では中国を優先し、外交面では北朝鮮との宥和(ゆうわ)と反日の考えを重視してきた。ここへ来て文大統領は、中国の習近平氏と電話会談を行うなど、中国との関係強化を一段と強めているようだ。

 バイデン政権は、韓国に対して対北朝鮮政策について日米と歩調を合わせるよう求めているが、今までのところ文政権は立場を明確にしていない。むしろ、北朝鮮の金正恩氏の発言に合わせて、政府内の人事を修正するなどしている。文氏の「北朝鮮優先主義」に大きな変化はないようだ。専門家の中には「文大統領がバイデン政権の信頼を確保できるか否か難しい」との見方もある。

 昨年(2020年)の秋頃から、世界経済全体で半導体の需給ひっ迫が鮮明となっている。

 その一因として、世界経済のデジタル・トランスフォーメーションが加速し、スマートフォンや高性能コンピューター向けの最先端の半導体需要が高まった。そこに車載半導体の需要回復も加わったのである。TSMCの生産ラインを各国企業が取り合うというべき状況となっている。

 米中の対立が半導体不足に与えた影響も軽視できない。

 米国のトランプ前政権は、中国のファウンドリーであるSMIC(中芯国際集成電路製造)へ制裁を科した。車載半導体メーカーは委託先をSMICからTSMCへ切り替え、TSMCは供給能力を上回る需要に直面している。車載半導体が不足し、米国ではフォードとGMが減産を決定した。労働組合を主な支持基盤としてきた民主党のバイデン政権にとって、半導体確保は経済運営上の重要課題なのである。

 事態の打開に向けて、バイデン政権は台湾当局との連携を強めている。その背景には、目先の半導体確保だけでなく、中長期的な視点で最先端分野を中心とする半導体関連技術を自国に集積させ、中国との覇権争いを有利に進める狙いがあるはずだ。

 米国の制裁によってSMICは、思うように半導体製造装置を調達することができていない。製造技術に関しても中国の実力は十分ではなく、「中国製造2025」の進捗は遅れるだろう。その状況は、米国がIT先端分野での優位性を維持し、基軸国家としての地位を守るために重要だ。

 そのためにバイデン政権は、TSMCに米国内でのいち早い生産開始や生産能力の増強を求める可能性がある。それに加えて、バイデン政権が垂直統合を重視する、インテルなど自国の半導体企業に補助金を支給し、事業運営をサポートすることも考えられる。


(略)