陸上自衛隊と米海兵隊が、辺野古新基地に陸自の離島防衛部隊「水陸機動団」を常駐させることで2015年、極秘に合意していたことが24日、分かった。沖縄タイムスと共同通信の合同取材に日米両政府関係者が証言した。日本政府は新基地を米軍用と説明してきたが、実際には日米が共同使用し、一体化を進める中核拠点となる。大幅な機能強化と恒久基地化につながり、沖縄の反発がさらに高まることは避けられない。(編集委員・阿部岳)

 陸自中枢の陸上幕僚監部(陸幕)は12年、幹部をキャンプ・シュワブの現地調査に派遣し、海兵隊と交渉を開始。15年、当時の岩田清文陸幕長が在日米海兵隊のニコルソン司令官(在沖米四軍調整官)と水陸機動団の常駐で合意した。合意後、両者が調整し陸自施設の計画図案や給排水計画を作成、関係先に提示した。

 政府内には陸自常駐が表面化すれば沖縄の一層の批判を招くとの判断があり、計画は一時凍結されている。防衛省全体の決定を経ておらず、背広組の内部部局からは文民統制(シビリアンコントロール)を逸脱した「陸の独走」との批判がある。

 「日本版海兵隊」とされる水陸機動団について、陸幕は12年から編成の検討を始め、尖閣諸島有事に備えて連隊一つを沖縄に置くと決めた。新基地に配備される人数は不明だが、一つの連隊は650人規模。これとは別に水陸両用車や後方支援の部隊配備が想定される。

 18年に発足した水陸機動団は現在九州に連隊が二つあり、23年度末には三つ目も九州で発足する予定。陸幕はいずれも暫定配備と位置付けている。辺野古新基地が完成し、配備する政治環境が整うまでは、九州から一時的にキャンプ・ハンセンに移す案も検討している。

 水陸機動団は自前のオスプレイや水陸両用車を使い、海兵隊とも共同訓練をすることになる。地元の負担が増えるのは確実だ。

 陸自は海兵隊と同居して一体化を進めたい考え。海兵隊側には、陸自を迎え入れることで米軍再編のグアム移転などで手薄になる沖縄の基地を維持しやすくする狙いがある。

 [ことば]水陸機動団 陸上自衛隊で、尖閣諸島をはじめとする南西諸島の離島防衛を担う中核部隊。離島作戦の能力向上に取り組んでいた西部方面普通科連隊を母体として2018年3月に発足した。陸自の部隊運用を一元的に担う陸上総隊の直轄。拠点は長崎県の相浦(あいのうら)駐屯地にあり、団全体で約2400人態勢。輸送機オスプレイや水陸両用車「AAV7」、ボートによる上陸、戦闘機や護衛艦の支援を受ける陸海空の統合作戦の訓練を続けている。上陸作戦を主な任務とする米海兵隊になぞらえ「日本版海兵隊」とも称される。

■沖縄タイムスと共同通信が初の合同取材
 陸上自衛隊が辺野古新基地に常駐することで在日米海兵隊と極秘合意していた事実は、沖縄タイムスと共同通信の合同取材で判明した。組織の枠を超えて情報を共有し、取材成果を発表する試みになった。

 きっかけはタイムス編集委員の阿部岳記者が入手した情報だった。新基地に自衛隊を配備する計画があるという。事実なら、長く続く辺野古問題の性格を一変させる重大なニュースになる。裏付けには自衛隊中枢の証言が欠かせないが、取材の蓄積がなかった。そこで、面識がある共同通信編集委員の石井暁記者に相談を持ち掛けた。

 防衛省・自衛隊を25年以上取材する石井記者は、前に計画の輪郭をつかんでいた。阿部記者の情報提供を受けて改めて取り組むことにし、異例の合同取材とする了解を社内で得た。

 共同通信は日々記事を配信し、タイムスなどの加盟社が報道に利用する。しかし、記事にする前の1次情報は基本的に共有しない。

 両記者はこの取材に限っては成果を共有し、一緒に情報源の話を聞いた。それぞれ記事を執筆する段階でも、意見交換を重ねた。世界でも近年、合同取材の手法が注目を集めている。国際調査報道ジャーナリスト連合には共同通信を含むメディアが集い、大量の機密文書を分析している。

 タイムスの与那嶺一枝編集局長は「規模は異なるものの、今回は沖縄に根を張るタイムスと政府中枢に取材網を広げる共同通信のそれぞれの強みを生かして連携することができた」と話す。共同通信の配信で、新基地への陸自常駐計画が全国の新聞、放送局にも一斉に伝わった。

 与那嶺局長は「課題が複雑化し、1社だけでは調査報道が難しくなっている。今後も柔軟に積極的に、他のメディアと協力していきたい」と語った。

沖縄タイムス
2021年1月25日 06:36
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/697461