「政権奪取なら閣外でも構わない」。そう明言し、野党共闘を進める共産党の志位和夫委員長。ジャーナリストの田原総一朗氏が政権奪取後の具体的なビジョンを聞いた。

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田原:安倍内閣の負の遺産としては、次から次へとスキャンダルがあった。森友・加計問題、桜を見る会、それから黒川弘務元東京高検検事長の定年延長問題、さらに河井克行元法相夫妻の問題。これはどう見る?

志位:政権中枢にいた安倍さん自身の責任が問われているにもかかわらず、何一つ解明されていない。政権が代わったことであいまいにしては日本の民主政治は根腐れしてしまう。

田原:しかし、そういう問題があって、史上最悪と言いながらも安倍自民は選挙で6連勝している。

志位:自民党の得票率は比例代表でいえば、有権者比で15〜18%。決して国民の圧倒的な信任を得ているわけではないんです。選挙制度と低投票率を背景に、何とか勝ちを拾ってきたということだと思います。

田原:僕は6連勝の一番の責任は野党にあると思っている。たとえば、国民はアベノミクスが成功したなんて誰も思っていない。でも立憲民主党の枝野幸男代表や志位さんはアベノミクスの批判しかしない。国民はそんなことは聞きたくない。あなた方が政権を取ったらどうするのか。具体的なビジョンを示してほしい。

志位:政策問題はこれまでだいぶ詰めてきて、5年前には一致できなかった原発ゼロや、消費税増税反対など一致点は広がっています。消費税について言うと、我々は5%に下げるとしていますが、枝野さんは時限的ではあるがゼロと言いだしました。これは話し合いを続ければ接点が出てくると思います。

 太い方向性で言うと、新自由主義から抜け出すことです。世界が新型コロナを体験したことで、新自由主義の破綻がはっきりした。新自由主義の名で、自己責任と自助を押し付けてきたが、どんなに頑張っても一人ではどうにもならないことがコロナでわかった。これを切り替えて、国民の暮らしをよくするべく公の責任を政治が果たす。こうしたビジョンは野党で共有できていると思います。

田原:まさに菅首相は「自助・共助・公助」と言っている。

志位:政治が自助、共助なんて言ってはだめです。コロナ禍ととてつもない不景気の中で、みんなが必死になって生きている。こういう人たちにまずは自分でやってみなさいなんて、政治が言う言葉ではありません。政治がやるのは公助です。

田原:では自助はいらない? 自分で頑張る必要はないと。

志位:そうは言っていません。政治が押し付けることではないということです。たとえば、これまで自助の押し付けで医療費を削ってきました。病院経営が逼迫(ひっぱく)しています。さらに医者の数を抑えてきた。OECD(経済協力開発機構)加盟国の平均に比べて14万人も少ない。

田原:合理化のために保健所もどんどん減らした。

志位:新自由主義の弊害ですよ。公にやる仕事を減らした結果、医療も公衆衛生もすべて脆弱(ぜいじゃく)にしてしまったわけです。

田原:雇用問題もある。今や非正規社員は4割だ。

志位:労働法制の規制を何もかも緩和したからです。もう一度、ルールをきちんと作り、非正規労働は一時的な労働に限定して、正社員を当たり前にしていかないといけません。

田原:政府の立場からすれば、あまりにも財政事情がよくない。先進国の中で最悪だ。

志位:今の国の財政システムに無駄はないのか、という問題はあると思いますよ。

田原:どこに無駄がある?

志位:軍事費一つとっても、トランプ政権に言われるままに高額の武器を買ったり、思いやり予算をポンと出したり。米軍の駐留経費の負担割合は、世界で日本が最も高い。

田原:75%だ。

志位:こんな国はないんです。こんなに出していること自体がおかしい。

田原:前大統領補佐官のボルトンによれば、トランプは今の4倍の額を要求してくるだろうと。

志位:突っぱねなきゃだめですよ。

田原:日米関係で言えば沖縄問題。日米地位協定を改定しないといけない。去年の春、安倍さんに改定しろと言ったら「する」と言った。

志位:言ったの?

田原:言った。改定は自民党も反対ではないんだから、野党はもっと訴えなきゃ。



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※週刊朝日  2020年10月9日号より抜粋
2020.9.30 08:00
https://dot.asahi.com/wa/2020092900045.html