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週刊文春による、朝日・産経両新聞社社員と黒川弘務検事長の「賭け麻雀」報道は日本を揺るがした。「権力の監視者を称しながら、癒着に邁進」する、新聞社のジレンマをあぶりだしたが、なぜ新聞社はそんな行動を取るのか。とくに、朝日新聞の誤報問題は記憶に新しいが、なぜ朝日新聞は読者、国民を裏切り続けるのか。新聞業界に詳しいジャーナリストの鳶田真一郎氏が新聞記者の苦悩を解説する――。

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■賭け麻雀問題で記者は複雑な思い

 東京高検の黒川弘務検事長の辞任劇は、報道業界で働く記者たちにも波紋を広げている。週刊文春の報道で明らかになった、黒川氏と新聞記者らとの賭け麻雀問題。新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言下での出来事だけに、世論を意識した与党内も一気に「黒川辞任」に傾いた。

 一方、忘れてはならないのは、黒川氏は当時、多くの著名人をはじめとした世論の批判を買った検察官の定年延長問題の渦中の人物。その動向や言動を注視し、国民に広く知らせるべき新聞記者が、飲食どころか、複数回の賭け麻雀に興じていたことに、「その場で聞いた話をなぜ記事にしていないのか」と記者が所属する新聞社への風当たりも強まっている。だが、業界内でも最もハードと言われる司法や警視庁担当の記者クラブに身を置き、対象に「食い込む」ことを至上命題とする記者たちの受け止めは複雑なものだ。

■こんなネタ、俺が取れるわけない。上ですよ

 「こんなネタ、俺が取れるわけないじゃないですか。上ですよ」。数年前、某全国紙が政治家の絡む疑惑ネタを一面トップで展開した。検察が既に捜査に乗り出していたことから、しばらく立って同紙の司法担当記者に舞台裏を尋ねてみると、投げやりな態度でそうつぶやいた。全国紙やテレビなど大手メディアは、霞が関の主だった省庁の記者クラブに記者を配置している。とりわけ、東京の社会部が受け持っている検察庁や警視庁のクラブは、扱う事件も大きく、スクープ合戦が激しい持ち場だ。「地方時代に特ダネを書くなど、各社腕に覚えがある20代後半から30代の中堅記者をつけている」(大手紙記者)。東京地検特捜部や東京高検、最高検を取材する検察担当は2〜3人、警視庁には捜査1課や扱う事件課ごとに2〜3人を割り当てる社が多い。社にもよるが、一旦担当に就くと、2〜3年程度クラブに在籍することになる。

 こうした事件担当の記者たちは、定例会見や庁内回りなど「公式な場」での取材以外にも、当局の幹部が出勤する間に取材する「朝回り」や帰宅時の「夜回り」を繰り返し、文字通り身心を削りながら懐に入ろうと努力を続ける。だが、捜査当局の口は一様に固く、そうした努力を実らせることができるのは、ごく限られた記者たちだけなのが実状だ。

■賭け麻雀をしたのは朝日の元記者

 多くは無視されるか、法律解釈にまつわる禅問答のようなやり取りに終止する。「地方でぶいぶい言わせて東京に上がってきた記者が当局担(検察や警視庁担当)をやってメンタルになるのは珍しくない」(前出同)。当然、法務・検察ナンバー2で、東京地検が手がけるあらゆる事件情報が入る黒川氏も重要な取材対象だったはずだ。降って湧いた一部新聞記者との賭け麻雀問題に、「あの苦しい朝・夜回りの努力はなんだったのか」と苦々しい思いをしている現役の担当記者がいることは想像に難くない。

 ここで一度、今回の賭け麻雀問題の経緯を振り返っておこう。発端となった記事は5月20日に週刊文春がウェブサイトで報じた。記事は、黒川氏が同1日と13日、東京都内の知人の産経新聞記者宅で、朝日新聞の50代の元検察担当記者を交えた計4人で賭け麻雀をした疑いがあるというものだった。記者のハイヤーで帰宅する様子も写真付きで報じられた。翌21日に朝日新聞社は社内調査の結果を公表し、事実関係を認める。

 賭け麻雀に参加した朝日の社員は東京社会部の司法担当記者だった2000年ごろ、黒川氏と取材を通じて知り合ったという。17年から編集部門を離れ、翌年から管理職になっていた。産経新聞社も22日、社会部記者2人が賭け麻雀に参加していたことを認め、一面におわびを掲載した。

(略)