またしても、政治家による耳を疑うような「失言」が相次いでいる。自民党が作った対策マニュアルが注目を集めるが、効果には疑問符が付く。それが議員たちの「本音」である場合が多いからだ。

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「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」

「戦争しないとどうしようもなくないですか?」

 国後島への「ビザなし渡航」の最中、元島民の代表に対してこんな発言をして日本維新の会を除名された丸山穂高衆議院議員(35)。その発言は、ロシア国内でも波紋を広げている。

 ロシアの日刊紙「イズベスチア」(5月22日)は、「ロシア連邦クリル諸島の軍事的獲得に関する発言の後、党を去った日本の議員」との見出しで丸山議員の発言を報道。こうして、丸山議員が会見で謝罪する姿はロシア国民の知るところとなった。同紙は、丸山議員が発言当時に飲酒をしていたことにも触れ、事件の経緯を示した上でこう締めくくった。

「モスクワはクリル諸島を東京に引き渡す計画はない」

 丸山議員の発言は、日ロ間の外交交渉にどんな影響を与えるのか。ある自民党議員はこう憤る。

「北方領土は日本にとって最もセンシティブな外交課題であり、戦略を間違えると政権の支持率が急下降する可能性がある国内問題だ。歴代の政府が重ねてきた、話し合いによる領土返還交渉を台無しにしかねない最悪の言動だ」

「今年に入り、安倍政権はロシアに対し、外交青書から『北方四島は日本に帰属する』との文言を消してまでみせて反応をうかがっている。これは(2島返還という)名よりも実を取る賭けで神経戦は現在も続いている。そんな最中、一国会議員の発言が理由で、ロシア国内の世論が日本の望む方向とは反対の方向に炎上し、それを理由に交渉が打ち切られる可能性だってあった。本人が謝って済むものではない」

「戦争」発言は、来月、プーチン大統領も来日し、大阪で開催されるG20にも影響を与えかねないという。

「ロシアは、日本が本気で戦争という選択肢を持ち出して、領土問題を解決しようとしているとは思っていない。ただ、この発言が利用され、ロシア側が有利な立場で交渉を進める材料に使われないとも限らない」(前出の議員)

 こうした懸念を払拭するかのように、発言の後、維新の会の片山虎之助・共同代表がロシア大使館を訪れ、ガルージン駐日大使と会談し、丸山氏の発言について謝罪した。

 しかし、当の本人は北方領土を実効支配しているロシアに対する「おわび」は、完全に意味不明な対応とツイッターに投稿し、不満を表明している。現在、ロシア政府は国営メディアを含め「静観」の構えだ。日本にとっては幸いなことに、日ロ関係、国際関係に強い関心を持っている政府関係者を除けば、丸山発言がロシアで炎上している様子はない。ただ、丸山議員に対する憤りを抱いているのは自民党関係者だけではない。

 ある現役の防衛官僚は「戦争」という言葉を安易に持ち出す「軽さ」を問題視する。

「そもそも領土が占領されているからと言って、戦争でこれを解決する行為が国連憲章で禁じられている。声高に戦争を口にする国会議員に限って、全く外交のリアリティーがなく無責任な発言をする。自衛隊はあくまで専守防衛で、領土を奪還するために戦争する組織ではない」

 丸山議員の選挙地盤である大阪19区の後援会などでは、あれは「失言」ではなく「本音」というのが共通認識のようだ。後援会関係者の一人は言う。

「場所が場所だったこと。そして発言が録音されていたことで発覚しましたが、あの発言は普段から口にしている持論ですよ。いつかこうした事態になると誰もが思っていました」

 大阪19区には特別なお国事情もある。そもそもこの選挙区は、大阪維新の会の幹事長である今井豊氏の地盤。それを引き継ぐ格好で立候補した丸山議員は、2017年の衆議院議員選挙では自民党公認の対立候補をおよそ9千票差で破り、再選を果たした。前出の後援会関係者はこう続ける。

「大阪都構想を実現させるという地元の市議団、府議団の地道な活動があったからこそ丸山議員は当選できた。しかし、今回の発言がメディアで騒がれても、まったく地元への配慮がなかった。仮に衆参ダブル選挙があっても、統一地方選挙で躍進した維新のブランドの地盤があれば、自分は安泰だと思っていたのではないでしょうか」

2につづく

※AERA 2019年6月3日号より抜粋
https://dot.asahi.com/aera/2019052700077.html