風 ロンドンから

 「平和時の外交交渉において国家主権を自ら放棄した歴史上初めての首相になる」。外務次官経験者から熱いメールを受け取った。北方領土4島のうち、返還を求める対象を歯舞群島、色丹島の2島に事実上絞る方針に転じた安倍外交への懸念である。2島の面積は全体の7%に過ぎない。霞が関の知人は「外務省内で4島返還を言えない空気が急に広がった」という。

 日本の対ロシア外交は、明治以来、融和と封じ込めが交錯してきた。1902年に日英が結んだ同盟は、列強が清国の分割を競うなか、ロシアの満州への南下に対抗する軍事同盟だった。親ロシア派の元勲伊藤博文らと、小村寿太郎外相や外務官僚ら親英派のせめぎ合いの産物である。今なら首相と河野外相が融和を目指し、省内のロシア派は表立っては異を唱えず忖度(そんたく)するという構図だろうか。

 驚いたのは今月10日、訪英し…

朝日新聞
2019年1月31日14時25分
https://www.asahi.com/articles/ASM1S65TFM1SUHBI037.html