■続々と出てくる書評

百田尚樹『日本国紀』(幻冬舎, 2018)の賛否両面からの書評が発表されています。本書をどの様に評価すべきか論点が整いつつあり、この流れは今後加速するでしょう。

今回書評を発表したのは、オピニオンサイト「アゴラ」の創設者である池田信夫氏によるものです。

書評:池田信夫「『日本国紀』の示した「日本人の物語」の不在」
http://agora-web.jp/archives/2036695-2.html

これまで発表された書評の中では、適菜収氏による書評に比する強さで『日本国紀』を面罵しています。

■歴史書としては「かなりお粗末」、歴史小説としては「つまらなかった」

この池田氏の書評において、『日本国紀』がプラスに評価されている箇所は一つもありません。まず歴史書としては次のように評価。

『多くの人が指摘するように、本書は歴史書としてはかなりお粗末である。事実誤認が多く、他人の本の孫引きが目立つ。』

この後、歴史家として百田氏はアマチュアだからと弁護が入りますが、極めてストレートな表現。また、「コピペ」とは表現していませんが、第三者の著作物からの孫引きが多いことを指摘していることも見逃せません。

続いて、百田氏を「プロの作家」として見た場合の評価は次のように。

『それより彼は作家としてはプロなのだから、歴史小説としておもしろいかどうかが問題だ。司馬遼太郎の小説が事実に反していると批判する人はいないだろう。

だが結論からいうと、おもしろくなかった。小説としては無味乾燥で、オリジナリティがない。』

ここまで端的に言うとは驚きですね。『日本国紀』は通史の体裁であり、なにしろ「誰書いても一緒の話や」と言ってしまうような内容なので、無味乾燥としてオリジナリティが無いというのは当然の評価でしょう。

■近代史の部分は「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書の劣化版

また著者の百田尚樹氏は、『日本国紀』の中核は近現代史部分であると豪語しています。しかし、その箇所についても酷評。

『本書の力点は明らかに近代史にあり、そのねらいは「自虐史観」を否定しようという「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書と同じだが、その劣化版である。』

「劣化版」とは、これまた意味の強い言葉をどんどん使いますね…。

このように池田氏の評に基づけば、『日本国紀』は殆ど価値のない本ということになります。

■WGIPを陰謀論と一蹴

『日本国紀』の戦後史を紐解くうえで重要となるWGIP洗脳説については、陰謀論と一蹴。

『戦後の政治をWGIP (War Guilt Information Program)で説明する陰謀論は、江藤淳が1980年代に主張したものだが、歴史的な証拠がない(本書も根拠を示していない)。』

この様な立場は秦郁彦氏と同じですし(関連記事)、私も同じ感想を持ちます(関連記事)。

『日本国紀』においてこのWGIP洗脳説は、「南京大虐殺の嘘」「朝鮮人従軍慰安婦の嘘」「首相の靖国参拝への非難」という三つの保守歴史戦の論点が結び付けられ、さらにその根源を朝日新聞に帰していることに特徴があります。

よってこのWGIP洗脳説を一蹴しているということは、『日本国紀』の戦後史が微塵も正しくないと主張している事と同義です。

2につづく

論壇net
2019.01.15
https://rondan.net/12243