現在、首相官邸には、民間人出身の「内閣官房参与」が14人(1人は官僚OB、2人は元議員)任命され、総理執務室がある官邸5階や内閣府の本庁舎に部屋を与えられている。

 参与は国会議員要覧や各省庁の幹部名簿にも記載されず、一般にはほとんど知られていないが、実は、彼らがこの国を動かし、移民政策をはじめ大きな政策転換を主導するケースが目立つ。たとえば、移民を増やす政策については、作家・評論家の堺屋太一氏が提唱してきた。

 首相が個人的に任命する参与は選挙で選ばれた国会議員ではないし、国家公務員試験をパスして採用された官僚でもない。それだけに、人選を誤れば国策に影響する事態になりかねない。

 昨年12月、安倍晋三首相が任命した内閣府参与の齋藤ウィリアム浩幸氏が辞任した。「内閣府参与」は内閣官房参与と同様に首相が任命するアドバイザーで、ウィリアム氏は内閣府と経産省の参与を兼務し、世耕弘成・経産相は「サイバーセキュリティ分野で国際的に活躍し、知名度も高い」と激賞していた。

 ところが、本人が公表していたカリフォルニア大学医学部卒や福島第一原発事故の国会事故調査委員会の「最高技術責任者」という経歴にネットで疑問が提示され、本人が「経歴に誤りがあった」と認めて自己都合退職したのだ。

 実際、IT業界では無名な人物でサイバーセキュリティ分野での手腕も未知数。内閣府や経産省でどんなアドバイスを行なっていたかは明らかにされていないが、そんな人物を起用した任命権者の安倍首相や世耕経産相の「見る目」が問われた。

 内閣官房参与にも、行動が問題視された人物がいる。文化庁文化財部長やユネスコ大使を経験した木曽功氏だ。

 木曽氏はそのキャリアを買われて2014年に安倍首相から世界遺産登録活動をサポートする「文化関係施策担当」の内閣官房参与に任命されたが、その後、参与のまま加計学園理事と同学園が経営する千葉科学大学学長に就任した(2016年4月、同年9月に参与を退任)。

 モリカケ問題が国会で取り上げられた昨年6月、前川喜平・元文科省事務次官は次官時代に内閣官房参与だった木曽氏が訪ねてきて、加計学園の獣医学部新設計画について「早く進めてほしいのでよろしく」と働きかけを受けたことを明らかにした。

 内閣官房参与は就任にあたって首相から特命担当事項を指示される。木曽氏の担当は前述のように世界遺産登録の助言であり、安倍首相の指示がないのに担当外の獣医学部認可で動いたとすれば明らかに越権行為だ。

 政治主導といいながら、安倍首相のブレーンである民間の内閣官房参与たちが「総理の威光」をかさに官僚に指示を出し、自分の理想とする政策をどんどん進めていく。このまま参与の力が肥大化していけば、国民の利益より、私益が優先される危険が拭えない。『立法過程』などの著作がある政治学者の岩井奉信・日本大学法学部教授が指摘する。

「昔と違って官邸の力が強くなり、役所の力が弱くなった。参与などブレーンが独走した場合、本来は総理を含む政権中枢の政治家や与党が妥当な判断かをチェックし、最後は国会でチェックしなければならない。

 だが、官邸に諮問機関が乱立し、誰がどこで政策を決定しているかの過程が見えない。これだけ審議会が多いと総理さえ何がどう決まっているかわからないのではないか。法案ができると与党は官邸の決定に従い、国会も与党の絶対多数で自動的に成立してしまうからチェック機能が働かない」

 ブレーンの政策はすべて「総理の決断」という言葉で正当化され、本当の政策決定のプロセスは国民に見えない。それは国が進む道を誤ったときに、責任の所在もはっきりしないということに他ならない。

 それは菅直人政権時代の原発事故対応という痛い教訓が物語っている。東日本大震災で福島第一原発事故が発生すると、当時の菅首相は知人の原子力や放射線の専門家を次々に参与に任命し、官邸には15人の参与がひしめいた。その結果、指揮命令系統の大混乱を招いた。

 政治主導に見せかけたブレーン主導政治は国民の大きなリスクになっている。

※週刊ポスト2018年11月23日号
2018.11.16 07:00
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